あけましておめでとうございます。
新年最初の投稿です。
ソーナ・シトリーを誑かしはじめて数日。
と言ったところで未だシトリー眷属の教導を始めて一週間ほどしか経っていないが、そんなことはどうでもいい。なぜなら別にそんなものは重要でもなんでもないからだ。
ネゲヴに匙の教導を任せ、手が空いている雀蜂と一部の人形に他のシトリー眷属の強化を任せ───何度も言うが流石に信頼関係がそんなに築けていない女子たちの訓練を厳しくは出来ないため、それなりに抑えるようには連絡している───そして、俺は現在ソーナ・シトリーと共に様々な軍略やらなんやらの知識を様々な方法で教導している。
〈悪いが、今日は昼にオレはいなくなる〉
「……昼、ですか?」
教導中の俺の言葉にソーナ・シトリーは手元の参考書から顔を上げ、一度此方を見てからすぐに視線を壁にかけてある時計へと移した。
日本で学生として生活している彼女やその眷属らの朝は意外と早く、少し早めの朝食を食べてから教導をしているため、しっかりと午前中から時間が取れる。
教導をしている側としてもこうして、時間がたっぷりと取れるのは都合が良い。
いや、そういう諸々は今は関係の無いことで、理由を聴いてくる彼女に対して仕事だという旨を伝えればすぐに彼女は退く。
本来、シトリーに頼まれている仕事の最中に別の仕事で席を外すのは褒められた話ではないが今回は事が事であるためリゼヴィムの名前を出して切り抜けさせてもらった。
こういう時にしか、役立たんからな。しっかりと使わねばならない。
だから、オレは事前に用意していた他の戦略及び戦術データを使用して午後に教導出来ない分、普段よりも濃い教導を始めた。
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『笑う棺桶』。傭兵部隊として裏の世界に知られている彼らの主な仕事は人外相手の戦闘行為や人外などが関わっている場所に潜入暗殺、部隊の派遣である。
時折、一部の紛争地帯で数部隊雇われる事があるものの概ね、少数の部隊しか出っ張ってこない。無論、それは『笑う棺桶』側からの制限が設けられている為であり、雇う側も『笑う棺桶』の人員がそこまで多くないと考えているが故にそれでいいと考えていた。中には所属している人員を予測し『笑う棺桶』程度何時でも潰せるだろうと考えているものもいたのは間違いない。
「と、まあ、久々の大仕事ってわけか」
だが、そのような目論見も何もかもコレを見てしまえば破綻する。
ヨーロッパのとある国の奥地、霧に包まれた場所を囲うように黒い軍勢がいた。
山々の間、僅かに拓いた土地にいくつもの大型装甲トラックが並び、何台もの大型軍用バイクが唸る中で彼女らは存在していた。
「腕がなるぜ!」
「処刑人……腕がなるのはいいが、あまり期待はするな」
おおよそ百は超えるであろう数の雀蜂やピンク色のバイザーを付けたサブマシンガン装備の人形Ripper、シールドを装備した人形Guard、二足歩行をするのであろう機体に立つ長髪の人形Dragoon。
そして、比較的少ないがそれでもなお、異彩を放つ猟兵。更には待機状態ながらも物々しい雰囲気を放っているManticoreの群れ。
そんな彼ら彼女らの前にて軍用バイクに寄りかかるのは二体の名付き戦術人形。長い黒髪に無骨なやや大きめの機械腕を持った人形『処刑人』と白髪の人形『狩人』。
どちらも『鉄血』に属するタイプのハイエンドモデル。
「おいおい、狩人。んな事言うなよ、探しゃあいるかもしれねぇだろ?それに代理人によりゃあそれなりに神器について知ってるんだろ?」
「だとしても、だ」
「んだよ、つまんねぇな」
もうすぐ始まるであろう祭りにワクワクする処刑人を諌める狩人。二人のそれは一朝一夕の関係ではないのが他者からも伺うことが出来、同時にこの一団が決して物見遊山の為に集められた訳では無いということの証明でもあった。
なお、諌めている狩人もその表情とは裏腹に声音からして楽しみを隠しきれていないのは胸に納めておくべきなのだが、しかしそんな二人を見つめるまた別の少女はつまらなそうな表情で欠伸をする。
露出がやや多く少女らしい瑞々しい横腹や胸元から肩までを晒す黒髪のスカートを履いた、そんな風体の少女。
「もうすぐ仕事だってのに、これだから電脳が戦闘面に振り切ってる連中は……」
やれやれというふうに手を挙げて首を横に振る彼女に処刑人と狩人はなんとも言えない微妙な表情をするが、彼女はそれに意に返さず手元のパッドに視線を落として操作し始める。
「…………ふぅん、へぇ、コレも使っていいの?」
パッドに視線を落としている為その表情は見えにくい中、口を薄く微笑むその姿は見ていた処刑人と狩人は表情を引き攣らせながら、一歩後ずさった。
それもそうだろう。
彼の人形たちは基本的にどれもこれも見目麗しい、彼女もまたその見た目は紛うことなき美少女であるのは間違いない。そんな美少女が微笑むのはとても絵になることだろう、その微笑みが黒い何か恐ろしい寒気すらする何かを宿していなければ。
もはや、うすら寒いものしか言いようがない。
「……何よ」
「……いや、なんでもない」「こっち見んな……怖ぇよ」
そんな二人の態度に苛立ったのか、彼女は顔を上げて睨む。それに対しての二人の返事に彼女は舌打ちながら、再びパッドに視線を戻す────と、思えばすぐさまパッドを横向きにして、画面を横にする。
その表情は先程の恐ろしい微笑みとは違い、真剣なものである。
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冥界の都市ルシファードにある施設、その一画にて多くの悪魔たちがひしめきあっていた。
性別年齢は様々で身体付きは勿論、バラバラであったがしかしそんな彼ら彼女らにはとある共通点が存在していた。各々、大型のビデオカメラやマイク、録音機にメモ帳などといった記録道具を大なり小なり持っていた。
それはすなわち彼ら彼女らがいわゆる『メディア』というものに属する悪魔たちであるのは誰が見ても理解出来ることだろう。
そんな彼ら彼女らが集まり視線を向ける先にあるのはマイクなどが伸びた壇。しきりに時計を確認する様子などを加味すれば今から始まるものがなんなのか、余程の世間知らずでもなければ簡単に理解出来る。
そして、時計があと数本ほどで五時を示す頃、ビデオカメラなどの機器を操作している悪魔たちは撮影を始め、一部のビデオカメラの傍らで画面に映らないようにマイクを手にした悪魔が話し始める。
そんな会場の動きを知ってか知らずか扉は開き、会場に一人の銀髪の青年が入り、壇を横切り司会の位置に陣取りマイクを手に取った。
「長らくお待たせ致しました。これより、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー様が入場いたします」
銀髪の青年、ユーグリット・ルキフグスがそう言えば再び扉が開いて中年男性が入場する。
前後を猟兵に挟まれながら入場したリゼヴィムは普段の貴族らしい服装ではなく決して華美ではないがかと言って安物などでは無い、しっかりとした意匠のスーツ姿。そんな姿がカメラのフラッシュに晒されながらもリゼヴィムは登壇し、傍らに猟兵を待機させた状態で何時になく真剣で凄みを感じさせる表情をしてメディアたちに向き直る。
ユーグリットはそれを見てから手首の時計を確認する。
短針は5を指し、長身は12を示した。
五時ちょうどなったのを確認して、ユーグリットは再び口を開く。
「それでは、これよりリゼヴィム・リヴァン・ルシファー様による記者会見を始めさせていただきます────」
何処かでレールが切り替わるような音がした。