漫画家と主夫高校生のD×D   作:カチカチチーズ

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 どうも最近、主夫高校生以外をちらちら投稿更新してるチーズです
 特異点はどうでしょうか。チーズは残念ながらエージェントで足踏みしております。
 12が来ないです……はよ来て……


五十四頁

 

 

 

 

 

 カメラのフラッシュがたかれる中、リゼヴィムは一度目を瞑り一秒か二秒してから目と口を開いた。

 

 

「この度、このように大勢のメディアの方々にお越しいただき感謝致します。と、まあ、長々とした前置きは望まれていないのはこちらも理解しております。その為、早々に本題に入らせてもらいます」

 

 

 そう、前置きを切り上げてリゼヴィムは報道陣を見回す。

 

 

「今回この記者会見を開いた理由。それは二つあります。

一つ、我々テロ組織特殊対策部隊『EXE』は件のテロリスト組織に繋がる大きな手がかりを手に入れました。

そして、その手がかりが我々悪魔にとって決して、決して見逃す事が出来ない手がかりであった、というのが二つ目の理由です」

 

 

 二本立たせた指を見せながら、何処か悲痛そうに俯きながらもすぐに顔を上げたリゼヴィムは続きを話し始める。

 

 

「先日、我々は匿名の通報を受け、潜伏していたテロリストの摘発を行いました。その際に得た情報からテロリストの取引現場が判明し、そちらへと赴いたところ……」

 

 

 リゼヴィムは一度言葉を切り、やや前のめりにマイクを掴んで続きを始めた。

 

 

「何人かの子供たちを運ぶ怪しげな集団を発見いたしました。少なくとも魔術師の類でも反政府の者らでもなかった為、我々は慎重に事に当たり、結果として子供たちは無事保護し、そして集団の捕縛を行いました」

 

 

 子供たちを運ぶ。

 その言葉にメディア陣はにわかにざわつき始め、それを眺めながらリゼヴィムは憤慨する様に、そして悲しい様に続ける。

 

 

「激しい抵抗、そして子供たちの安全の確保の為、無事捕縛出来たものは残念なことに数人ほどでした……しかし、それ以上に我々が問題視したのは保護した子供たちです。子供たちの半数が悪魔の子供でした!!これは由々しき事態です」

 

 

 リゼヴィムが声を荒らげながら語るそれはメディア陣だけでなく、メディアを通してこの記者会見を見ている冥界の悪魔たちに強く入り込んでいた。

 これがただの人間の子供だけならば彼ら悪魔はそこまでざわつくことは無かっただろう。どれだけ取り繕っていても、悪魔という種族は人間を下に見ているのだから。

 

 

「これにより我々はすぐさま、捕縛した者らの所属を調べ上げ、押収したテロリストらの資料の解読を行ったところテロリストと癒着している種族及び組織が判明致しました」

 

 

 カメラのフラッシュがたかれていく。

 

 

「吸血鬼・ツェペシュ派です」

 

 

 リゼヴィムの答えに悪魔がどよめきだしながらも、一部の貴族悪魔らはそれに対して納得の意を抱いていた。

 吸血鬼というものは人間を食い物にし、眷属として使役する悪魔に限りなく近い在り方を持つ種族であるがその勢力としては現在、男性の真祖を尊ぶ『ツェペシュ派』と女性の真祖を尊ぶ『カーミラ派』に分かれ悪魔以上に日光に弱いという種族的弱さと勢力的弱さが存在している。

 そんな彼らがテロリストと手を組み、食料の血液の為に悪魔の子供に手を出したというのもやや疑問視する所はあるもののそれも有り得るだろうと納得が出来た。

 

 

「テロリストに流出した神器技術やテロリストらが拉致した悪魔や人間の子供らを食料として手に入れている彼らツェペシュ派は正しく我々悪魔にとって決して見逃す事が出来ない、と我々は考えております。また、間違いではないか、という声もあるでしょうが残念なことに我々はツェペシュ派がテロリストに加担し契約を結んでいたという証拠を獲得しているのです」

 

 

 次々とリゼヴィムの口からたれ流されていく事実がメディアを通して悪魔たちに反ツェペシュ派の種を撒き散らしていく。

 だが、そんな事に誰も気がつくことはないだろう。

 例え、リゼヴィムを危険視していようともテロリストに加担しているツェペシュ派という事実がリゼヴィムの正当性を補完してしまっているのだから。

 

 

「既にこの件について我々はツェペシュ派に対し、使者を送らせてもらいました。ですが返ってきたのは使者の遺体だけ!!これが一勢力の返答であるべきなのでしょうか!?否、否!テロリストとの関係が無いのであれば堂々と否定すればよろしい!!我々対テロ組織特殊部隊『EXE』は吸血鬼・ツェペシュ派をテロリスト加担勢力と認定し、対テロ作戦を行う事をここに宣言致します!!!」

 

 

 まるで捲し立てるように語るリゼヴィムの言葉は先程の種を撒き散らすのとはうって変わり、それはさも当たり前のように悪魔たちの中に流れ込んでいく。

 こことは違う本来の世界線において、とある男が評した『扇動の天才』。正しくいまのリゼヴィムを評すればそれが真実であるのが理解出来る。だが、扇動というものはされている側からすれば扇動されているなどとは気づかない。何故なら、あくまでその意思は自分の中から湧いてきたものなのだから。

 無論、外から影響を受けた自覚はあれども、だ。

 

 

「急過ぎる。まだ他に道が。より調査をするべきでは。など、くどくど言う時間はどこにもない!今回、悪魔の、悪魔の子供たちがテロリストによって取り引きされかけた!自分の子ではない、平民の子供だから、などという考えを抱いているならすぐにそれは辞めるべきだ!この時勢、テロリストが何処に潜んでいるのか分からなくなれば次に攫われるのは自分の子供だ!!ならば、ならば未来の、我々悪魔社会の未来を担う子供たちを護るためにも私はこの決断をした!!!」

 

 

 自分の中の、心中をこうして暴き吐き出す事で彼らはリゼヴィムの凄みに飲まれていく。

 見ていた貴族悪魔らは先程話していた使者の件もあり、ツェペシュ派に自分たち悪魔が侮られている下に見られていると感じ、怒りをいつの間にかに抱き始め。

 平民の悪魔たちは次は自分たちの子供が攫われるかもしれないというリゼヴィムの言葉にそれを無視するという事が出来なくなっていた。

 そして、もとよりリゼヴィムを警戒していた者たちはリゼヴィムの言葉に、リゼヴィムによって引き起こされ始めている反ツェペシュ派の動きに、これから始まるであろう戦争に不安感と焦りを覚え始める。

 そんな彼らの心中を予想しているのか、否か。

 

 

「───また、今回のこの決断について、既にカーミラ派への通達は行っており、あちら側の見届けの元戦端を開かれる事となっております」

 

「せ、宣戦布告などは……」

 

 

 誰もが緊張する中、一人の記者が絞るように言葉を零せばリゼヴィムは視線をその記者へと向ける。蛇に睨まれたように記者は固まるが、そんなものはお構い無しにリゼヴィムは返答する。

 

 

「宣戦布告?それは国同士の戦争に用いるもの、我々が行うのは戦争ではなくテロリストに加担する勢力に対しての武力行使です。戦争では無い、つまり宣戦布告は行いません。何より、既に使者を向かわせた時点で警告は行っています」

 

 

 戦争ではない。その言葉が緊張していた記者たちの空気を弛緩させた。

 戦争じゃあないなら、と心の片隅に転がっていた戦争への忌避感が大人しくなり、より一層悪魔たちはこの作戦に対し肯定の意を示し始めた。そんな空気を察知したリゼヴィムはもはや話すことはない、と退場しようとしたがふと一つ言い残したことがあった事に気がつき、マイクを握り直した。

 

 

「今回の作戦において、相手取るのはテロリストに加担したツェペシュ派の政権であり、無抵抗な民衆に対しては基本的に手を出すことはないのは皆さんも御理解していらっしゃるでしょうが、念の為に告げさせてもらいます…………それでは」

 

 

 そう最後に言って、リゼヴィムは今度こそ話すことはない、とそのまま降壇して猟兵らと共にこの場を後にする。

 そんなリゼヴィムらを引き止めることも無くてただただシャッターが切られる音が虚しく会場に響き、退場したのを見届けたユーグリットがマイクを手にし記者会見の幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を歩きながら、リゼヴィムは懐中時計を確認する。

 記者会見とは名ばかりな一方的な宣言ではあったものの、リゼヴィムが当初思っていたよりかは時間がかかってらしい。長針が4を超えた辺りである。

 だが、それもリゼヴィムからすればまあ、許容範囲ではある。

 後方から追いかけてくる何某の足音と声が聴こえてくるが今のリゼヴィムにとっては至極どうでもいい事で、付き添いの猟兵たちにそちらの対応を任せ、ユーグリットと共にその場から転移する。

 その表情は喜悦に染まっていた。

 

 

 





 次回、ツェペシュ派対『EXE』

 一体なんのために戦うんだこいつら……あ、テロリストか……

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