作者は死にそうです☆
目を開ける。
どうやら、気を失ってしまっていたらしい。
身体が気怠く、まるで自分の身体ではないかのような感覚だ。
私はこのまったく柔らかくないただただ硬い、石か金属か何かで造られた椅子の上でため息をつく。いつもいつも最低限のマナーや教育を受けてはこうしてお兄様と共にお兄様の研究に参加する。
私に宿っているこの神器を有効に扱う為の研究────
あの子をこの国から逃がした果てに待っているのがコレだというのならば私は何も言わずただ受け入れるしかないのだが、それでもそれでも私は怖い。
この神器を使う度に何処か頭の中にモヤがかる様な時間が増えた。先程だってそうだ。
私は気を失っていた、と思っているがそれが本当に気を失っていたのかどうかなど分からない。自分が意識出来ない空隙の時間、私は何をしているのかまったく分からない。それが私には何よりも恐ろしい。
そんな時間が日に日に増えている。
また夜になればお兄様の研究が始まる。次の研究の後にも私はいるのだろうか。
嗚呼、私は消えたくない。
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何事も余裕を持って優雅たれ。と、まあ、どうでもいい事を思い浮かべながら、俺はツェペシュ派攻略の拠点である陣幕にて武装の確認を行っていた。
ここ最近そんなに使ってないような気もしなくない銀製のFive-seveNを組み立て直して、他の武装の確認をしていく。俺にしては珍しく並んでいるのが銃火器でないものが大半だ。
無論、あくまで銃火器以外が大半なだけでししっかりと銃火器は用意されている。例えば、ショットガンだったり、アサルトライフルだったりするが……まあ、そこは特にこれと言って問題ではない。
戦力的に俺個人が戦うところはそんなにないからな。
「失礼します」
「ン、どうした」
陣幕の外から聴こえてきた猟兵の声に反応すれば、猟兵が陣幕へと入ってきて敬礼する。
話を促せば体勢を変えて、本題を話し始めた。
「ハッ。既にジェド・マロースの準備が整いました」
「そうか。時差およそ七時間、といったところだが…………おい、会見は見たか?」
「いえ。作業を行っていたので」
「ま、そうだろうな」
職務に忠実な猟兵が職務中に必要無い記者会見など見るわけもない。
そう言えば、ツェペシュ派の領域に行くには専用のゴンドラを使って多重結界を通り抜けなきゃいけないんだが、勿論カーミラ派がわざわざこっちに手を貸すつもりもなく俺たちにはその専用のゴンドラは無い。
なら、どうやって既にツェペシュ派の領域に侵入して霧に包まれる奴らの王都周辺に陣取っているのか、というとだ。
まあ、内容は至極簡単なものでどんな多重結界だろうが綻びは存在している。そこを事前に調べて手に入れた肉人形をちょちょいと利用してビーコンを作り、俺やハイエンドを転移させてから陣幕を作成したという訳だ。そして、あちらは未だにこっちが内側に侵入した事には気づいてない。
そもそもあちらは自分らのことを至高の存在と勘違いしている奴らで?更にいえば自分らのこの多重結界を超えるにはゴンドラを使うしかないと思っているし?少なくともそのゴンドラが動いていないのはわかってるわけだからな。
「会見を見ているかも怪しいところだ。だがまあ、もう既に使者を殺した時点であっちが先に宣戦布告したようなもんだろう」
「ハッ、殺していいのは殺される覚悟がある者だけ、という言葉の通りかと」
「まっ、流石に無抵抗の民間人……民間吸血鬼?は殺さないでおくが……抵抗してくれば容赦なく殺せ。言葉を無視すれば殺せ」
「御意」
そう返事をして猟兵は陣幕から去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、片手間で装備リストへと視線を走らせる。
「───さぁさぁ、どう潰すかね」
そんな風に笑う様な言葉を吐きながら、俺は眼を細めていつも通りの死銃のアーマースーツを身に纏う。
時刻を確認すれば、もうすぐ十一時といったところだろう。
《さて、そろそろ用意しよう》
Five-seveNを腰のホルダーへとしまい、ANー94を装備して他に使う武装等々をしまい込む。
そうして片付け終え陣幕から出ていく。
《───ふぅ》
陣幕から出た先に広がるのは陣幕前に置かれた軍用車両を前にして隊列を組み待機している猟兵らの姿。
そんな彼らの前へと俺は歩いていけば、猟兵らの視線は全て俺へと集中するがそこに不快感は無い。と言ったところで別に視線を集めた事による優越感とかがあるわけでもなく、ただひたすら俺は彼らを軽く見合わたす。
《諸君────私は戦争が好きだ》
手を広げ、マスクの下で笑みを浮かべながら俺は語り出す。
《諸君 私は戦争が好きだ。
諸君 私は戦争が大好きだ》
そこまで言って、俺は広げていた手もマスクの下の笑みも全て、やめてため息をつく。
《とまあ、何処ぞの少佐地味た宣言をグダグダ言うつもりはない。戦争なんぞするつもりもない。やるのは報復であり実験だ。無論、無抵抗は殺さない、オレらが殺すのは抵抗してくる奴らだ。一応、一応通告は行なえよ?その後は知らん》
通告を聴いた上で向かってくるならば、問題は無い。何も憂うことは無い。
わざわざ机や棚やら何やらをひっくり返して見つける理由もない。
《オレたちに必要なのは二つ。
一つはテロリストに加担しているツェペシュ派政府への報復行為であり、政府官僚及び王族の捕縛または殺害。
二つ、あちらに流出してある神器関連のあらゆる情報を根こそぎ奪う事。無論、これには現品を含む》
前まではそんなに欲しいわけでもなかったが、今は別だ。
実験や最低限の戦力強化には充分必要だし、何よりもこれからの事で北欧やギリシャ、須弥山との交渉やらなんやらの手札にもなりえる。
彼らも知らないからな、何も問題無くこちらの手元に置くことが出来る。いやはや、楽というかなんというか……まあ、本命の為の試行実験という側面があるからあまり楽観視はしたくないがね。
《以上を踏まえ、我々は王城に乗り込む。都市部等は処刑人、狩人、夢想家に一任する。何か異論があるものは?…………よろしい》
猟兵らを見回し、特に何も無いのを確認してから俺は頷き
《では、少し早いが。
時刻が十一時になったと同時に俺は手元にあったスイッチで特殊無線を起動した。
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『特殊無線接続。ジェド・マロースの
そんな機械音声が鳴り、それらは一斉に稼働し始めた。
場所はツェペシュ派の領域の入口付近。メタマテリアル光歪曲迷彩により、姿を消していたそれらがゆったりとその姿を顕にする。
サイズは大の大人の膝ほどぐらいの体高に大人一人が取れる程度のサイズの幅、側面にはキャタピラが装備された小型戦車を思わせる外見。
知識があるものはそのおおよその外見からそれが第二次世界大戦時にドイツが開発し使っていた兵器であるゴリアテだ、と分かる事だろう。
見た目だけならば子供一人容易く乗せられる何とも無骨ながらも可愛らしさが垣間見える兵器であるがしかし、それはあくまで本来のオリジナルのゴリアテの話。
今回、ツェペシュ派の前に姿を現したのは既存のゴリアテの上部に下半分が隠れた赤い半球が埋め込まれていた。大人が抱えるには大きな赤球に白い半円。そこに可愛らしいつぶらな瞳がツェペシュ派の都市を見ている。
名をGolyat。合体している小型戦車と同じ名前であり、同じ自走式自爆兵器である。
ゴリアテは本来、75キロから100キロ程の爆薬を積めるがGolyatとの合体により八割ほどの爆薬を積んでいるのだが、そこにGolyatが加わった事でその爆薬量は倍以上。そんな自走兵器がここに数十台も姿を現していく。
見張りにいた吸血鬼はそんな唐突なゴリアテの出現に思わず目を丸くし、唖然として突っ立っている。そんな吸血鬼など知らないと言わんばかりにゴリアテはそのキャタピラを回して─────
『シャスリーヴァ・ワラジデスティヴォァ』
そんな音声を鳴らしながら、都市の門へと突撃していき次々と盛大に爆発していく。
対龍種用に調整したGolyatの爆発は門や外壁に炸裂しては凄惨な被害を出していく。見張りの吸血鬼などは最初の爆発に巻き込まれて無惨にその生命を散らした。
あまりにも唐突な襲撃に門周辺に住んでいる吸血鬼たちは混乱し、そして同時にまた別方向の外壁でも次々と爆発が起こり始める。
EXEによる報復が始まった。
感想ください(乞食)
誤字脱字報告ありがとうございます。