ラブライブ!サンシャイン!!~BUILD the Rainbow~ 作:白銀るる
戦兎は一人Aqoursを離れ、俺達はダイヤさんからスクールアイドルの現状と彼女達が秘めていた過去の出来事を聞いた。
そこへ、戦兎達のもう一人の幼なじみの猿渡海斗が現れる。
戦兎達は裏切り者、そう罵った奴から話を聞く為戦いを挑み、オウルの増援によりピンチに陥るも、戦兎を信じる気持ちを爆発させ、グリスを撃破した。
そして千歌さん達も、東京での悔しさをバネに再び立ち上がったのだった。さあ、どうなる第14話!?
東京から帰ってから一週間が経った。
千歌さん達は「0から1へ」という目標を掲げ、悔しさをバネに立ち直った。
だがそうでない者も一人いる。
「今日も来ないね……戦兎君」
そう呟いた千歌さんをはじめ、みんなとても寂しそうな、心配そうな顔をしている。
それもそのはず。沼津に帰ってきたあの日、俺達は戦兎と別れてから一度もアイツと会えていない。
それどころか、こちらから連絡も出来ないうえ、アイツからの連絡もないのだ。
あの出来事があった後に音信不通になってしまえば、心配になるのは当然だ。
「やっぱり二年前のことと重ねちゃってるのかな……。前は果南ちゃん達に辛い思いをさせて、今度はわたし達に同じ思いをさせちゃったって……」
俺も曜さん達のように、戦兎のことは心配ではある。
だが、過去のトラウマが原因なら俺達が何を言ったところで最後は戦兎自身の力で立ち上がるしかない。
「戦兎ならきっと大丈夫よ」
静まりかえり沈んでいく空気の中、いつもと変わらぬ声で善子さんは立ち上がった。
「善子ちゃん……?」
「アイツは自分から関係を絶ったりしない。もしそんな奴だったら、わたしにあんな風に説教したりしないもの。戦兎にどんな過去があったとしても、わたしはそれを受け止めて、アイツと同じ場所で、同じ道を歩む」
その顔には一片の曇りはない。
彼女にあるのは戦兎を信じ、その全てを受け入れると言う覚悟。
善子さんの口からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかったが、考えてみれば何も不思議なことはない。
彼女は一度戦兎に救われている。
その時にアイツから受けた叱咤が彼女の中に強く残っている証拠だと言えるだろう。
「善子さんの言う通りだな。戦兎は絶対戻って来る。それまでちゃんと練習して、新しく生まれ変わったAqoursを見せてやろうぜ!」
俺の言葉に善子さんが頷き、花丸さんとルビィさん。そして梨子さんに曜さん、最後に千歌さんも笑顔で答えてくれた。
「よーしっ! 練習頑張るぞー!」
「「おー!!」」
みんなの声が重なり、部室に響き渡る。
新しいAqoursのスタートだ! そんな気持ちで部室を飛び出そうとすると、予期せぬ来客が訪れた。
「貴方は!?」
「猿渡……海斗!?」
いざ練習を始めようとしていた俺達のもとへ現れたのは、この間俺達に「忠告」をしに来た猿渡海斗だ。
普段なら誰が来ても歓迎ムードで迎える千歌さん達だったが、猿渡への態度は敵意にも似たものを感じた。
当然と言えば当然だ。千歌さんたちの目の前で、戦兎やダイヤさん、果南さんを「裏切り者」と罵ったのだから。
どんな事情があるにせよ、大切な人をそんな風に言われるのは気持ちのいいことじゃない。
「この学校の生徒だったんですね……」
「まあな。今日復学した」
「スクールアイドル部に何の用ですか?」
「万丈龍輝との約束を果たしに来た。俺達に何があったのか、お前達に教えてやる」
そう言って猿渡は、二年前に起きた出来事を語り始めた。
***
ダイヤが言っていた通り、浦の星には二年前から既に統合の話が上がっていた。
けど俺達は、思い出の詰まったこの学校に無くなって欲しくなかった。
「スクール……アイドル……?」
「何だか知らないが、俺はやらないからな」
「何言ってますの! わたくし達でラブライブに優勝して学校を救うのですわ! あの伝説のスクールアイドル、『μ’s』のように!」
「ミューズって石鹸の名前じゃねーの?」
「ソーリー。そういうことには興味無いの」
「俺もパス」
ダイヤは熱の篭った言葉で鞠莉と戦兎を誘ったが、二人はこれを一蹴した。
それでも俺達は諦めなかった。
「いくよ、海斗!」
「合点承知!」
俺達は、二人が加わってくれるまで何度もアタックした。自分達でも数え切れないほどにな。
とうとう二人は観念して、五人の条件を満たした俺達はスクールアイドル部を発足した。
それから、内浦や沼津で開かれた小さなイベントに呼ばれたり、自分達でライブイベントを開いたりと、全て順調とまではいかなかったが、五人で楽しい日々を過ごしていた。
そしてその日はやって来た。
俺達のもとに東京スクールアイドルワールドの招待状が届いたんだ。
「アメイジング! わたし達宛にイベントの招待状が!?」
「う、うん。ほらこれ」
「東京スクールアイドル……へえ、東京か。イイじゃん、行こうぜ!」
舞い上がる俺と鞠莉に対して、三人はどこか重たげな表情をしていた。
何が三人をそうさせているのか、理由はすぐに分かった。
この時、既に鞠莉に留学の話が持ち掛けられていて、俺達もそれを知っていたのだ。
俺は、三人が「鞠莉がいなくなってしまうことを懸念している」と思っていた。
「何だよ、しょぼくれた顔して。ほら、練習行くぞ。でかいイベントには他のグループも参加してる。負けねーように頑張んなきゃな!」
三人の本当の心の内を知らなかった俺は、三人を練習に誘い、鞠莉達はパフォーマンスを完璧に仕上げてみせた。
だが完成したパフォーマンスが披露されることは遂に来なかった。
アイツらは歌わなかったんだ。
ダイヤが言った通り、他のグループのパフォーマンスや会場の空気に圧倒されたというのも確かにあるだろう。
でもそれだけじゃない。鞠莉は足に怪我を負っていた。
もしあの場で歌っていたら、事故に繋がっていたかもしれなかった。
俺達は何も出来ないまま、沼津に戻ることになった。
悔しくてたまらなかった。けど、一度や二度の失敗はまた取り戻せばいい。
そんな気持ちで俺は部室に足を運んだ。
そこで俺は見たんだ。「スクールアイドルは終わりにする」、そう鞠莉に告げ、突き放すような態度をとっていた果南達を。
初めは何が起こっているのか分からなかった。
「何してんだよ……それ、ライブで使う衣装だろ……?」
「……もう、スクールアイドルは終わり。だからそれももう……」
「はあ? 意味わかんねー……。何で……何でだよ!? この間のイベントのことか!? あんな失敗一回くらいでそんな……!!」
「海斗! ……終わりにするんだ。これは……俺達で決めたことだ」
「どうしてなの……? 果南、ダイヤ、戦兎……! ねえ、何か言ってよ!」
鞠莉の悲痛な叫びだけが部室に響き、アイツらは何も答えずにここを去って行った。
その後、俺はどうしてあんなことをしたのか三人を問い詰めた。
帰ってきた答えは衝撃的なものだった。
「鞠莉を留学させる……? どういうことだよ!? 鞠莉は行かないって言ってただろ!?」
「鞠莉は留学するべきなんだ。こんなところでスクールアイドルなんかしてる場合じゃ……」
戦兎の口から出てきた言葉。
それを聞いた俺は心底怒りが湧いてきて、気が付けば手が出てしまっていた。
俺の拳は戦兎の腹に突き刺さり、戦兎は倒れた。
すぐに果南が倒れた戦兎の側に寄り、二人を庇うようにダイヤが俺の前に立ちはだかった。
「……海斗さん、いくら何でも暴力はいただけませんわ!」
「……ふざけんな! 何が『こんなところ』なんだ! 何がスクールアイドル『なんか』だ! お前らそれでも幼なじみなのかよ!? 親友なのかよ!? 鞠莉が大好きなもの全部をお前達は否定する気なのか!?」
答えは帰ってこない。ダイヤはだんまりで、果南と戦兎も口を閉じたままだった。
それから間もなく、鞠莉は日本を発った。
そして鞠莉の直属のボディガードとして雇われていたカズ兄とともに、俺も海を渡った。
***
「これがお前が知りたがっていた全てだ」
さっきまで明るい雰囲気だった部室は、猿渡の話が終わると同時に暗い空気に支配されてしまった。
言葉にも出来ないほどの衝撃がみんなを襲ったのだ。
特に三年生とも深いかかわりを持っていた千歌さんと曜さん、そしてルビィさんは動揺している様子がハッキリと分かった。
「……じゃあ、海斗さんが戦兎君達を『裏切り者』って言ったのは……」
「紛れもない真実だ。だから俺は忠告したんだ。『戦兎とは手を切れ』と」
猿渡は、つい先日俺達に告げた言葉をもう一度繰り返した。
鋭い視線と険しい表情にルビィさんと花丸さんは圧倒されているが、俺にはどこか哀し気な顔にも見えた。
「──わたしは……わたしは戦兎君達が裏切るだなんて思えません。戦兎君はいつもわたし達を守ってくれていた、わたし達を支えてくれていました。東京に行った時だって、わたしのわがままを聞いてくれて……。そんな戦兎君が裏切るなんて、やっぱり思えない。わたしは……わたし達は戦兎君を信じます!!」
千歌さんは、面と向かって猿渡にそう言い切った。
二人の睨み合いは数秒間続き、互いに一歩も譲る様子は無い。
猿渡の中に戦兎達への憎しみが強く存在しているように、千歌さんにも戦兎への絶対的な信頼があるのだ。
それは他のメンバーも変わらない。
もちろんこの俺もだ。
それを感じとったのか、猿渡は「……そうか」と踵を返す。
「それがお前達の答えならこれ以上の口出しはしない。だが覚えておけ。俺は戦兎を叩き潰す。それがお前達を傷付けることになったとしてもだ」
「やらせねえさ。戦兎は俺が守る。絶対にな」
「ならお前も同じだ。今度は負けない」
猿渡とグリスの姿が重なる。
多分、アイツから見た俺も同じように映っていただろう。
去っていく猿渡の背中は、やはりどこか寂しそうで哀しそうに思えた。
「海斗お兄ちゃん……本当に戦兎お兄ちゃんやお姉ちゃんのこと、嫌いになっちゃったのかな……」
猿渡とのやり取りがあった後、練習を始めた俺達。
準備運動をしている最中にルビィさんがそう呟いた。
「やっぱり、ルビィちゃんは海斗さんとも面識があるのね」
「はい……戦兎お兄ちゃんと同じで、海斗お兄ちゃんもルビィが小さい頃からよく遊んでくれたお兄ちゃんなんだ。戦兎お兄ちゃんと海斗お兄ちゃんは本当に仲が良くて、『俺達はずっと親友だ』って言ってたの……」
ルビィさんの様子やその言葉から察するに、戦兎と猿渡は相当仲が良かったことが伺える。
「ルビィちゃん、海斗さんってどんな人だったの?」
「凄く優しい人だった。戦兎お兄ちゃんと同じで、本当のお兄ちゃんみたいにルビィのことを可愛がってくれたんだ。……なのにどうして……」
ルビィさんの目尻に涙が浮かび上がってくる。
だが俺にはどうすることも出来ない。
この問題を解決できるのは、戦兎達だけなのだから。
「ねえ、龍輝。さっき猿渡海斗が言ってた『今度は負けない』ってどういうことなの? まさかアイツもスマッシュなの?」
そう話を切り出してきた善子さん。
かつて自分もスマッシュの力を手にしてしまったことがあるからか、「猿渡もそうなのか?」と、とても険しき顔で尋ねてきた。
「いや、アイツはスマッシュじゃない。仮面ライダーグリスだ」
***
子供の頃、よく五人で足を運んだ思い出の場所で一人黄昏れる俺。
ここに来ると、あの頃の記憶が昨日のことのように思い出される。
どれだけアイツらのことを憎もうとも、思い出だけはどうしやっても忘れられなかった。
鞠莉、果南、ダイヤ、戦兎。
幼い四人の幻が俺に笑いかけ、つられて俺も笑ってしまう。
「まだ星なんて見れる時間じゃないだろ、海斗」
突然、背後から名前を呼ばれる。
やって来たのはカズ兄だ。
「カズ兄……別にいいだろ。俺がどこにいたって」
俺は笑っていたのを悟られぬよう、カズ兄から顔を背けた。
「後悔してんのか?」
「そんなもんするわけねーだろ。アイツらは俺達を裏切ったんだ。そんなヤツらと敵対して、何を後悔するっつーんだよ」
「そうかい」
「その様子だと信じてねーな……」
後悔なんてするばすない。そう、するはずがないんだ……。
「ま、お前はお前の好きにすりゃあ良いさ。先に戻ってるからな」
「……ああ」
どこまでも広がっているはずの青い空。
だが今の空のずっと向こう側には、黒い雲が浮かんでいた。
きっと明日は雨が降る。
龍輝)こっちのコーナーには……相変わらず戦兎はいないか……。
千歌)仕方ないよ。もう少しだけそっとしておいてあげよう。
龍輝)そうだな……。猿渡のことも気になるけど、ひとまず今は予告からだな。
千歌)東京から帰って来てから一度も姿を見せない戦兎君。わたし達が知らないところで、彼は人知れず特訓をしていた。不甲斐ない自分を変える為に。そして親友と決着をつける為に。
龍輝)次回「第15話 桐生戦兎のリブート」桐生戦兎の反撃が、今始まる──!!