ラブライブ!サンシャイン!!~BUILD the Rainbow~ 作:白銀るる
神子)そんな戦兎の前に現れたのは、赤いコブラの怪人──ブラッドスターク。奴は戦兎に禁断のアイテム、ハザードトリガーを渡した。わらわはそれを使わせまいと戦兎から取り上げるが、戦兎はアイテムを取り返し、変身してしまう。
戦兎)俺はトリガーの所為で暴走しかけるも、神子さんによって救われ、己の愚かさと弱さを悟った。そして、俺が抱えていたものを果南に打ち明け、もう一人では戦わないことを誓ったのだった。さあ、どうなる第16話!?
「ああ……また雨かー……」
教室の窓から外を眺めながら、千歌さんは落胆した声で嘆息した。
「昨日から全然止む気配ないし、これじゃあ屋上で練習出来ない〜……」
「梅雨入りしちゃったんだし、しょうがないよ」
「予報だと、明後日にはまた良くなるみたいだし、それまで我慢よ」
曜さんと梨子さんが千歌さんをそう言い聞かせているが、千歌さんの気持ちはなんとなくだが分かる。
オマケに、あんな話を聞いた後では更にだ。
まるで、戦兎達の心が泣いているかのように降り続ける雨。
雨が嫌いという訳では無いが、この雨は俺の心を曇らせているような気がした。
「龍輝君も元気ないね」
「まあ、ちょっとな」
「もしかして、戦兎君達のこと?」
俺は言葉は返さず、首を縦に振った。
そして梨子さん達も、それ以上に話を続けようとはしなかった。
猿渡が過去の話を打ち明けたあの日、俺も奴がグリスであることを暴露した。
みんな、そのことに驚きを隠せないでいた。
「海斗さんが……グリス……?」
「本当なの……龍輝」
「ああ。一度、東京から帰ってきたあの日、俺はアイツと戦った。その時に「俺が勝ったら戦兎達と何があったのか教えろ」って言ったんだ。結果、俺が戦いに勝ってアイツは約束を守った」
「だからあの時、龍輝君、凄いボロボロだったんだ……」
猿渡の哀しい眼差しと過去は、千歌さん達を引き込むには十分すぎるものだった。
親友だった奴とたった一度すれ違っただけで、再会した時には全く違う場所に立ってしまった。
たとえ当事者でなくとも、それを自分に置き換えればその哀しみは痛いほど分かる。
そのことを哀しめない人間なんてこの世にはいないんだ。
「どうして……そんなことに……」
そして、あの場でその辛さを一番分かっていたのはルビィさんだ。
戦兎と猿渡のことを、この中で一番知っていたはずだから。
「俺達が出来るのは、アイツが戻って来るのを待つことだけだ。全部をスッキリさせて、最高の笑顔がもどったアイツをな」
俺がそう言うと、千歌さん達は少しだけ笑顔を取り戻し、「そうだね」と言葉を返した。
その時だった。
上の階から物凄い音が聞こえた。
その衝撃で校舎は強い揺れに襲われた。
「きゃあ!?」
「っと、大丈夫か? 梨子さん」
揺れの所為で体勢を崩し、倒れそうになる梨子さん。
周りののクラスメイト達も壁や机を支えにして、何と踏みとどまっていた。
「今の地震……じゃないよね」
「多分。それにさっきの音、上から聞こえてきたよな」
この教室の上には三年生の教室がある。
あれだけの揺れを起こせる人物は、この学校には奴を置いて他にはいない。
一体、誰に向けてその力を振るっているのかは分からないが、誰かが傷つく前に止めなきゃ。
そう思った俺は即行動を起こした。
「龍輝君、待って。わたしも行く」
千歌さん、そして曜さんと梨子さんが続き、俺達四人は三年生の教室に足を運んだ。
「止めて海斗!」
「落ち着いてください! ここは教室なんですよ!?」
辿り着いた教室で驚くべき光景を目の当たりにした。
猿渡と……昨日まで学校を休んでいた戦兎の取っ組み合いをしていたのだ。
だがそれだけじゃない。
戦兎の後ろに、なんと休学しているはずの果南さんもいた。
「り、龍輝君! 二人を止めて!」
「え!? お、俺が!?」
「部長命令だよ! 早く!」
「お、おう!」
千歌さんに名前を呼ばれ、俺は我に返る。
そして、組み合う戦兎達の腕を押さえた。
「万丈龍輝か。退いてろ、これは俺達の問題だ」
「そうはいかねえ。こっちはアイドル部の部長命令なんだ。それに、お前らが揉めてんのもアイドル部絡みなんだろ」
猿渡は俺を睨むが、俺も奴を睨み返した。
俺が絶対に引かないことを悟ったらしく、猿渡は戦兎の腕を離し、俺も奴の腕を離した。
「放課後、部室まで来い。戦兎達も」
「……分かった」
意外にも拒否することは無く、あっさりと俺の提案を飲んだ。
戦兎達も頷き、ひとまず騒動は収まった。
***
そしてやってきた放課後。
猿渡を含む騒動の中心人物が部室に勢揃いし、アイドル部及び葛城先生が仲介となって今朝の出来事についての話し合いが始まった。
「ただの地震じゃないとは思っていたけれど、まさか君達が原因だったとは……」
「すいません、先生……」
今回の騒動に関しては、
怪物ならまだしも、生身の人間が起こしたのだから当たり前かもしれないが。
「一体、何があってあんなことになったんだい? ……と言っても、何となく察しは付くけどね」
葛城先生は、何かを知ってそうな口ぶりで話す。
というか、きっと彼も二年前の事件の当事者であるか、仲介人の役についたことがあったのだろう。
「俺は鞠莉を止めただけですよ。こんな奴らを誘ってもまた裏切られるだけだ」
「ちょっと海斗! 裏切っただなんて言い方……!」
「本当のことだろ。鞠莉、アイツらはお前の気持ちを踏みにじったんだよ。そんな薄情なヤツらと関わったってロクな目に遭わない。お前達もだ」
鞠莉さん、そしてアイドル部のみんなにそう言い放つ猿渡。
しかし、鞠莉さんや千歌さん達は、猿渡に鋭い視線を向けていた。
「お前達が哀しむ姿を見て、コイツは何かをしてくれたか? 違うだろ。お前達に何も言わずに姿をくらまして、何事も無かったようにのこのこと現れた。結局、自分のことしか考えられない自己中心的な奴なんだよ」
猿渡の言葉、罵倒に戦兎は何も反論をしない。
戦兎は、奴の言っていることは本当のことだと認めているのか。
今にも反論しようとしていた千歌さんと鞠莉さんだったが、それよりも先に動いた人がいた。
「──いい加減にして! 戦兎は自己中心的なんかじゃない! 海斗は、戦兎とのことを何も分かってない!」
机を叩き、声を荒らげて立ち上がったのは、果南さんだった。
肩を震わせて怒りの感情を顕にしていたその様に、千歌さん達や葛城先生だけでなく、猿渡も含めた三年生も面を喰らっていた。
「東京から帰ってきてから、戦兎はずっと一人で苦しんでた! 『千歌達を哀しませた』『千歌達を守れる力が欲しい』って……。戦兎は、ずっと千歌達のことを想ってたんだ……。誰かの為に苦しめる戦兎が自己中心的なはずない! 戦兎のことをそんな言葉で貶めるなら、海斗でも許さない!」
「許さないだ……? それはこっちのセリフだ!
ダイヤさん達は、激昴して睨み合う二人を止めようとするが、猿渡も果南さんもそれを振り払った。
二人は、まさに一触即発の状態となり、部室の空気はどんどん悪化していく。
「よさないか、二人とも」
拳が飛び交う一歩手前の二人の間に、とうとう葛城先生が割って入った。
「騒動の原因は分かった。お互い思うところはあるだろうが、一線を越えてはいけない。君達が傷付け合えば、周りの人間も傷付くだ。果南君なら分かるよね?」
先生の言葉を聞くと、果南さんは一瞬だけ戦兎の顔を見て頷いた。
そして猿渡も、鞠莉さんを見ると舌打ちして下がった。
「分かってくれたみたいだね。僕としては、話し合いで全てを解決したいんだけれど……」
先生は、一縷の望みを持って猿渡たちに視線を送る。
だが猿渡はそれに答えようとせず、先生に背を向けた。
「申し訳ないですけど、それは無理ですね。決着は戦いでつける。あの時の選択が間違いだったことを必ず思い知らせてやる」
そう捨て台詞を吐き、猿渡は部室を出て行った。
奴の姿が見えなくなるまで、部室から一切の音が消えてしまったような気がした。
少しの間が俯いて黙り込んでいたが、ダイヤさんがこの沈黙を破った。
「戦兎さん、一つお尋ねします。先程海斗さんが言っていた『戦い』とはどういう意味ですか?」
ダイヤさんはいつもより険しい表情と声で戦兎に迫る。
問い詰められた戦兎は、「腹を括った」とでも言っているかのような顔でダイヤさん、そして俺達を見た。
「今まで……俺はみんなに隠していたことがある」
「隠していたこと?」
戦兎が何を話そうとしているのか、すぐに理解出来た。
いや、ほぼ全部知ってる俺達がこの流れで分からないってはずが無いんだが……。
「仮面ライダーグリスの正体のことだ」
「グリス」の名前が出ると同時に、ダイヤさん達はより厳しい顔になる。
「今の状況とその方の正体にどんな関係が……っ!?」
ダイヤさんはそこまで言って言葉を詰まらせた。
戦兎が言わんとしていることを理解したのだろう。
「まさか、グリスの正体が海斗さんだと仰るのですか!?」
「そのまさかだ。アイツがグリスなんだ。今の海斗は……俺達の敵なんだ」
奴のことをハッキリと「敵」と言い切った戦兎。
その顔はとても哀しげで、とても苦しそうだ。
驚き、困惑するダイヤさんだったが、鞠莉さんはそれ以上に狼狽している様子だった。
「嘘でしょ……ねえ、戦兎。わたし達を驚かせる為のジョークなんでしょ!?」
鞠莉さんは戦兎の肩を掴んで迫る。
だが戦兎は首を横に振り、「ジョーク」という彼女の言葉を否定した。
「どうして……なんで海斗がライダーシステムを使っているの……!?」
「鞠莉……?」
「落ち着け、鞠莉」
「これが落ち着いていられるわけないでしょう!」
動揺している鞠莉さんは、まるでライダーシステムの危険性を理解しているような言葉を漏らす。
それは、俺の中で止めていた「あること」が真実だったということを裏付ける決定的な証拠だった。
それを知らない戦兎達や先生も、狼狽える鞠莉さんに違和感を覚え始めているように見える。
……鞠莉さんにとっては酷であるだろうが、これは問い糾せねばならないだろう。
「ライダーシステムは危険な代物……鞠莉さん、アンタはそれを知ってたんだな」
「ライダーシステムが危険な代物……? それはどういうことだ?」
「今から話す。その前に鞠莉さん、答えてくれ。アンタは……いや、小原はライダーシステムの開発に関わっているんだよな」
「小原が……!?」
「ライダーシステムを開発しているだって!?」
戦兎、そして葛城先生が驚愕の声を上げる。
その一方で、鞠莉さんは声は出していないものの、焦燥を感じているのが見て取れた。
「この間のUFO騒ぎの時に仁から聞いたんだ。鞠莉さんは何らかの形でライダーシステムと関与してる、ってよ」
「本当なのかい、鞠莉君?」
「……その通りよ。小原はライダーシステムを開発してる」
「鞠莉、一体どういうことなんだ?」
「詳しいことは分からないわ。パパが誰かとそれについての話をしているのを聴いたのよ。『ライダーシステムが完成すれば、この世に存在する兵器を超越する最強の兵器を生み出せる』って……」
「最強の兵器……」
みんなは言葉を失った。
みんなにとっての仮面ライダーは正義のヒーローだ。
それが根底から覆すようなことを言われてしまえば、仕方ないだろう。
「確かに小原程の大企業なら、技術的にも資金的にも、ドライバーを創ることは可能だと思うよ」
「それでは海斗さんにライダーシステムを渡したのは……」
「違うわ! パパはそんなこと絶対にしない! ……ライダーシステムの話をしている時のパパの声……凄く辛そうだった……」
「なるほどな。鞠莉さんの父さんは、何者かに弱みを握られていいように使われてるってところだな。で、戦兎、その何者かの見当は──」
「大体ついてる。多分、海斗にドライバーを渡したのと同一人物だろうな」
俺と、そして恐らく戦兎も思い浮かべているであろう赤いコブラ──ブラッドスターク。
騒動の中で見え隠れする奴の姿に、俺達は邪悪な気配を感じ取っていた。
取り返しのつかなくなる前に、猿渡との決着をつけなければ。
龍輝)やっと戦兎の復活だ!……っていうのも束の間だな……。
千歌)そうだね……。戦兎君と海斗さん……どうなっちゃうんだろう……。
龍輝)きっと衝突は避けらんねーんだろうな。けどよ、拳で語り合えば見えてくるものもあるんじゃねーかな。
曜)わたしも……あまりいい気はしないけど、やっぱり二人が本当の気持ちをぶつけ合うにはそれしかない気がするよ。
千歌)次回「第17話 離ればなれのベストフレンド」。えっ……!?海斗さん、どうして……!?