ラブライブ!サンシャイン!!~BUILD the Rainbow~   作:白銀るる

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戦兎)前回のラブライブ!サンシャイン!!〜BUILD the Rainbow〜
連日の雨と俺の不在が原因で気落ちしていた千歌達。そんな彼女達の気も知らず、俺は学校で海斗と衝突し、騒ぎを起こしてしまった。
果南)戦兎と海斗を止め、放課後に部室で話し合いが始まるも、今度はわたしと海斗の言い争いが始まってしまい、葛城先生の仲介でやっとその場は収まることに。
巧)しかし、戦兎君達の問題は話し合いでは決着が付かず、更には小原に何か良からぬものが忍び込んでいることまで判明したのだった。まだ見ぬ邪悪と見えぬ未来、さあ、どうなる第17話!?


第17話 離ればなれのベストフレンド

 放課後、グリスの正体を暴いたこともあり、いつもより早い時間に終わってしまった部活の後で、俺と葛城先生は戦兎に呼ばれていた。

 なんでも、俺達三人だけで話がしたい、とのことだ。

「大事な話ってなんだよ、戦兎。……つってもあの後のこれだもんな」

「海斗君とのこと、だよね?」

「はい。海斗も言った通り、俺とアイツはもう一度戦わなきゃいけない。それを避けることは出来ない」

「もしかして、猿渡との戦いに手を出すなって言いたいのか? それなら、そんな気は端からねーから安心して……」

「そうじゃない。いや、それもあるけど、本題はこっちだ」

 首を横に振った戦兎は、一枚の封筒を取り出して見せた。

 それを見た俺と葛城先生は、驚きの声を上げた。

「退部……届!?」

「それはどういうことなんだい!?」

「これは俺なりのケジメです。俺は一度……いや、もう一度スクールアイドル部を辞めます」

 戦兎は、俺達の目を真っ直ぐ見据えてそう言い切った。

 アイツの表情から冗談だということはまずない。

 本気も本気、大マジだ。

「俺、考えたんだ。アイツと別れてから俺は……俺達の時間は止まったままだったんだって。そして、時計の針が動かないまま、俺は中途半端な覚悟で今日まで過ごしてきてしまったんだ」

 俯いた戦兎がどんな表情をしているのか、正確には分からない。

 だが、震えるほど強く握られた拳は、アイツの中の悔しさや苦しさを俺達に伝えてくる。

「その結果、俺はみんなに迷惑をかけた。果南、ダイヤ、万丈や葛城先生、千歌達にも……。だから……だから、俺はゼロから始めるんだ。スタートから──みんなとやり直す。果南やダイヤや鞠莉、そして海斗と……!」

 そう言い放った戦兎の顔は、やはり本気だった。

 本気で猿渡や果南さん達と向き合い、やり直す。

 そんな覚悟がビリビリと伝わってきた。

 俺と葛城先生は、何も言わずにアイツの言葉を受け止めた。

 そして先生は、静かに、しかし、しっかりと戦兎を見据えて口を開いた。

「……分かった。それが君が決めたことなんだね」

「はい」

「僕だって教師の端くれ。生徒が本気で決めたことに、余計な口出しをするつもりは無い。これは僕が責任を持って預かろう。高海君達にも、僕から伝えておく」

「ありがとうございます、先生」

「君の……君達の全てをぶつけ合うと良い。そうすれば、きっと彼とも分かり合える、そんな気がする」

「そうだな……。ガツンとぶちかましてこい! それまで、アイドル部のことは俺に任せときな!」

「ああ、頼んだぞ。相棒」

「おう!」

 俺と戦兎は固く手を結ぶ。

 今までで、一番頼られているような気がした。

「あ、そうだ。こいつを渡しとく」

 俺はしまっていたフルボトル二本と、自分のフルボトル二本、計四本を取り出して戦兎に握らせた。

「万丈、お前これ……」

「猿渡と決着つけんなら戦力が必要だろ?」

「でも……良いのか? これが無くちゃお前は……」

「心配すんな。スクラッシュドライバーさえあれば戦える。それに、現状では俺が最強だしな」

「……違いねえや」

 ちょっとした冗談だったが、戦兎は笑ってそう言った。

 先生も、最早さっきのようなシリアスな面持ちではない。

「そうだ、戦兎。千歌さん達が立ち直った時、みんなで決めた掛け声を教えてやるよ。先生も一緒に」

「掛け声?」

「指をこんな風にして合わせて、こう言うんだ。『ゼロからイチへ! Aqours──サーンシャイーン!!』ってさ」

「ゼロからイチか……今の俺にもピッタリだな!」

 その後、俺達は笑いながら別れた。

 そこにあるのは、お互いを信じる気持ちだ。

 俺達の絆と覚悟は、強固なものになった。

 

 

 ***

 

 

 学校で騒ぎを起こしてから一夜が明けた。

 

 相変わらず雨が降り続いていて、どうも気分が上がらない。

 ……もっとも、気分が上がらないのは雨の所為だけではないが。

 

 桐生戦兎、今や敵として対立している俺の親友。

 そして果南、ダイヤ、鞠莉。四人の幼なじみ達とのいさかいが、全ての発端だった。

 

 アイツらとの関係は小学生の頃からだ。

 昔の鞠莉は箱入り娘というやつで、両親が他の子どもと関わりを持つことをよく思っていなかった。

 小原でSPとして雇われていたカズ兄と弟の俺だけが、鞠莉の遊び相手だった。

 その日も俺達は三人で鬼ごっこやおままごとをして遊んでいた。

 そこに見覚えのある顔が見えた。

 見覚えのあると言っても、同じクラスにいたな、程度の認識で名前も覚えていなかった。

「友達か?」

「ううん……」

 三人のことをカズ兄に聞かれたが、その時は俺も鞠莉も首を横に振った。

「……だれ?」

 鞠莉は知らない子ども達の方に歩いていった。

 三人のうち二人は戸惑っていたが、先頭に立っていた女の子は億さずに鞠莉に近づいた。

 

「は、ハグ……しよ?」

 

 それから全てが始まった。

 

 俺達は六人で遊ぶようになった。

 しばらくするとカズ兄は仕事が忙しくなり、五人だけで会うことの方が多かったけれど、それでも毎日が楽しかった。

 俺達の世界は、一気にたくさんの色で溢れかえった。

 一緒に走って、一緒に笑って、一緒に泣いて。

 喧嘩することもあったけど、仲直りした後はもっと仲良くなってた。

 

 五人で家を抜け出して、星を見る為に走った。

 天気予報では夜から雨が降ると言っていたが、俺達は諦めなかった。

 俺達は……俺達だけの星を見つけた。

 俺達だけの願い星。

 俺達は願った、「ずっと一緒にいれますように」って。

 

 結局、願いは叶わなかった。

 鞠莉の留学に伴い、俺達は離ればなれになった。

 物理的にも、心の距離も。

 

 この雨は、もしかしたらあの頃の俺達が嘆いているのかもしれないな。

 どうして素直になれないんだ、どうして言葉にして伝えないんだ、と。

 

 突然、スマホの着信音が鳴った。カズ兄だ。

 俺は通話ボタンを押して電話に出た。

「もしもし、カズ兄?」

『海斗。お前に頼みたいことがある』

「頼みたいこと?」

『ああ。実はな──』

 

 

 ***

 

 

 暗い灰色の景色が窓から覗く。

 まるで、あの時止まってしまった俺達の世界のように、色が無くなってしまったみたいだ。

 部屋は閑散としていて、聞こえるのはクーラーと一向に止む気配が無い雨音だけ。

 静寂が支配しているこの場所で、俺は思い耽っていた。

「戦兎」

 曇り空を眺める俺を果南とダイヤが呼ぶ。

「どうした、果南? って、ダイヤも来てたのか」

「今、二人で話してたんだ。海斗のこと、鞠莉のこと、それから……わたし達のこと」

「ごめんなさい、戦兎さん……。貴方一人に全てを背負わせてしまって……」

 果南の言葉に続き、謝罪するダイヤ。

 その様子から察するに、ダイヤも果南と同じように、俺への罪悪感や後悔を秘めていたのだろう。

「いいや、俺の方こそ悪かった。アイツのことを黙ってて」

 俺もダイヤ達に大事なことを隠していた。

 ダイヤの謝罪と同時に、俺も彼女に謝罪の言葉を述べた。

「……もう、海斗さんと戦うことは避けられないのですね」

「ああ、俺はアイツと戦う。みんなの想いを……スクールアイドルへの想いを持ってな」

「戦兎……」

「俺は絶対に勝つ。勝って、あの日から進むんだ。俺達みんなで」

 俺がそう言うと、果南は少しだけ口元を緩めた。

 そして、ダイヤも微笑んで声を漏らした。

「そしたらさ、また一緒にスクールアイドル部に入ろう」

「「え?」」

 果南とダイヤは目を点にして首を傾げ、不思議そうな声を漏らす。

 こんな反応をされるのは目に見えていた。

 だが、俺は構わず話を続けた。

「実はさ、万丈と葛城先生に頼んで退部届を出してきたんだ」

「え!? どういうこと、戦兎!? 退部届って……」

 退部という言葉を強調し、聞き返してくる果南。

「俺なりのケジメだ。俺達、全員の気持ちをぶつけ合って……また、みんなでスクールアイドルをやるっていうな」

「戦兎……。分かった。わたしの気持ち、戦兎に預けるよ。わたしもちゃんと鞠莉に伝えるから」

 果南は俺の名前を呟き、それから俺の胸に拳をトンと当てた。

「……わたくしも……果南さんと同じです。わたくしのこの想いも貴方に託しますわよ?」

 そしてダイヤも、覚悟を決めた、と強い想いが込められた声で俺にそう言葉を返した。

「ああ、約束だ」

 俺は二人の前に手をかざした。

 二年前、五人で手を重ねた時と同じように。

 そして、果南とダイヤは俺の手の上にそれぞれ手を重ねてくれた。

 必ず、また五人で同じ場所に立つ為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、この辺り一帯に爆音が響き渡った。

「「きゃあっ!?」」

 音と同時に地が揺れ、窓ガラスにヒビが入る。

 咄嗟に俺は二人の盾になるように覆いかぶさった。

 そして次の瞬間、ここ数週間は聞いていなかったスマッシュアラートが鳴り始める。

『ホテルオハラにて、複数体のスマッシュが確認されました。ホテルオハラ付近にいる方は、直ちに避難してください。また、周辺地域にお住まいの方は、外には出ないでください。繰り返しお伝えします──』

 その警報は最悪の知らせを俺達に運んできた。

 果南とダイヤの顔はみるみるうちに青く染っていく。

 そして、それは俺も同じだった。

 あのホテルには鞠莉がいる! 

 考えるよりも先に、俺の体は動き出していた。

 俺は二人を部屋に残し、父さんと母さんの静止を振り切って家を飛び出し、ビルドに変身してホテルへ走った。

 

 

 ***

 

 

 ホテルからは黒い煙が立ち上り、赤い炎が煌々と燃え上がっていた。

 窓ガラスもほとんどが割れていて、中から放り出されたと思われるガーディアンの残骸が散らばっていた。

「戦兎!」

 俺の名前を呼びながら走って来た万丈、彼も既にクローズチャージへの変身を完了していた。

「悪ぃ、遅れちまった……」

「いや、俺も今来たばかりだ……。クソッ! まさか白昼堂々こんなことをするなんて……」

「起きちまったもんは仕方ねー。戦兎、ファイヤーヘッジホッグで火を消しながら逃げ遅れた人を助けるぞ!」

「ああ!」

 俺はすぐさまボトルを入れ替え、レバーを回してアーマーを生成した。

「ビルドアップ!」

「レスキュー剣山! ファイヤーヘッジホッグ! イエーイ!!」

 ファイヤーヘッジホッグフォームと成った俺は、クローズとともにホテルに突入した。

 

 スマッシュの撃破と消火、救出をしながらホテル内を駆けること十数分。

 ようやく鞠莉がいる部屋が見えてきた。

 この部屋の周辺が特に酷い状態になっている。

 そこから導き出される答えは、敵の狙いが鞠莉であるということだ。

 俺達は互いにコンタクトをとり、そのまま鞠莉の部屋に突入した。

 

「よう、遅かったな、二人とも」

 

 俺達が部屋で出会ったのは部屋の主ではなかった。だが、それは俺もよく知る人物。

「カズ兄……!」

 海斗の兄──猿渡一樹(カズキ)だった。

「久しぶりだな、戦兎。元気にしてたか? そんな怖い顔すんなよ。ここに来るまでに人は一人も殺してない。……つっても、とんでもねーことをしちまったってのには変わりねーけどな」

 軽く挨拶するカズ兄に対し、俺は怒りが湧き上がってきた。

 彼はオハラを守る仕事をしていたはずだ。それなのに、今は守るべきもの対象に仇なす行為をしている。

 それも無関係な人達を巻き込みながら。

「どうしてこんなことを……。ここは……オハラはアンタが守るべきものじゃなかったのか!?」

 カズ兄の非道な行いに俺は怒りの言葉をぶつけた。

「ああ、そうさ。俺はオハラを守りたい。だからやったんだ」

 俺の問いかけに対する彼の返事は、明らかに矛盾していた。

「守る為に壊した……? 訳が分からない……!」

「分からなくていい。これは俺の問題だからな。それよりも……」

 カズ兄はフルボトルを取り出し、俺に見せた。

 以前、善子がスマッシュに変身した時に使っていたあのボトルだった。

「お嬢はもういない。俺はお嬢を消すよう命令されたんだが……()()()()が逃がしたらしくてな」

「裏切り者……?」

 不敵な笑みを浮かべたカズ兄。

 その顔を見てすぐに「裏切り者」が誰を示しているのか理解した。

「それじゃ、俺はこれからお嬢達を探しに行く。二人を助けたければ、俺より早く見つけるんだな」

 そう言うとカズ兄はスマッシュに変身し、部屋から飛び去って行った。

 その後、俺達はホテルに残された人達を救出し、一旦帰宅した。

 

 

 ***

 

 

 万丈と一緒に家に帰ると、果南とダイヤが俺を出迎えてくれた。

 父さんと母さんには、「なんて危険な真似をするんだ」と叱られたが、最後は無事で良かったと抱きしめてくれた。

 

 部屋に戻った俺達は、ビルドフォンでのビデオ通話の葛城先生と千歌達も交えてことのあらましを話した。

 カズ兄がスマッシュであること。

 カズ兄が鞠莉達の命を狙っていること。

 そして、一連の事件の裏に黒幕がいること。

 俺達が知っている限りの全てを彼らと共有した。

『……なるほど。随分大変なことに巻き込まれてしまったみたいだね』

「はい。何者かが裏で糸を引いているのは何となく感じてましたけど……まさかこんなことを起こすなんて……」

 先生は険しい顔になり、みんなも沈んだ面持ちになる。特に果南とダイヤは酷く落ち込んでいた。

 幼なじみが命を狙われているのだから無理はないだろう。

 かく言う俺も、みんなをいたずらに不安にさせないように平静を装っているが、内心は穏やかではない。

「どうして鞠莉が命を狙われているの……?」

「分からない。ただ今は海斗と一緒にどこかに隠れているはずだ。アイツが一緒ならしばらくは大丈夫なはず」

「けど、鞠莉さん一人を見つけるのに動員した数を考えると、猿渡一人じゃ最後まで守りきるのは無理だ。あの人の言った通り、早く見つけねーと」

『でも、二人がどこに逃げたか分からないんじゃ、どうしようも……』

 刹那、スマホの着信音が梨子の言葉を遮った。

 画面を出すと一通のメールの通知が届いていた。

「猿渡海斗……!」

「『っ!!』」

「メールか。なんて書いてある?」

 アプリを起動してメールを開くと、『お前を待つ』の一文と写真が添付されていた。

 写真で示されていたのは、かつて俺達が星に祈ったあの場所──そして俺達が再び交わい、戦ったあの場所。

 甦る幼き日の思い出、そして脳裏を過る苦い敗北の味。

「……行こう。二人の元に」

 だがいつまでも止まっている訳には行かない。

 これ以上、何も失わない為に。

 そしてあの日のキズナを取り戻す為に。

 

 

 ***

 

 

 海斗からメールを受け取った俺は、彼が指定してきた場所までマシンビルダーを走らせていた。

 後ろには万丈も乗っている。

 鞠莉と海斗を追っている連中の危険度はかなり高い。

 よって、一人で向かうには無謀だと諭され、万丈に頼み込んで付いて来てもらったのだ。

 

 元々は俺達、幼なじみのだけの問題。

 それがここまで大きくなり、万丈や千歌達まで巻き込んでしまった。

 もう一人では背負い込まないと決めたとはいえ、無関係だった人達まで巻き込んでしまったことに俺は負い目を感じていた。

「済まない、万丈。俺達の問題にお前や千歌達まで巻き込んじまって……」

「気にすんなよ……って言いてーけど、そうはいかねーよな。それによ、お前に頼ってもらえんの嬉しかったんだぜ?」

「……ありがとな、万丈」

 俺が万丈へ感謝の言葉を呟くと、彼は「……おう」と一言だけ返事をした。

 

 そんなやりとりをしてから数分、俺達は目的の場所に到着しつつあった。

 だが、俺達の行く先に人影が一つ立ちはだかっていた。

「カズ兄……」

 マシンを止め、彼の名を呼ぶ。

「よう、さっきぶりだな」

 やはり、彼は友人と会ったかのような軽い感じの言葉を掛けてきた。

海斗(アイツ)がお前と会うならあそこだと思ってたけど、まさか本当にあの場所だとは……。我が弟ながら単純だな」

「カズ兄、そこを退いてくれ。俺はアイツと決着をつけるんだ。果南とダイヤとの誓いを果たす為に」

「それは出来ないな。俺にもあの二人を仕留める任務がある。どうしてもって言うんなら、俺を倒してから行きな」

 カズ兄はフルボトルをを腕に刺し、ホテルで会った時とは違う青い体色のクワガタのようなスマッシュに変身した。

 カズ兄は本気のようだ。彼の放つオーラから本当に俺を、そして海斗と鞠莉を手に掛けることに躊躇いを持っていないことを理解してしまった。

 もう……戦うしかない……! 

 俺は歯を食いしばり、彼を討つ覚悟を決めてビルドドライバーを装着した。

 しかし、そんな俺をバイクから降りた万丈が止めた。

「待て、戦兎。お前は猿渡のとこに行け」

 万丈はヘルメットを外し、スクラッシュドライバーを装着している。

「万丈……」

「この間の借りを返してやるよ。猿渡とのサシにちょっかいかけてくれた借りをな」

「ええ……その件はあん時あげたボトルでチャラにしてくれよー」

「は? あの時のボトルってどういうことだ!?」

「あー……詳しいことは後で説明する。それよりもお前は早く行け!」

「……分かった。負けんなよ、相棒」

「お前もな、相棒」

 俺と万丈は互いに激励の言葉を送り、別れた。

 

 

 ***

 

 

 小さくなっていくアイツの背中とバイクから目の前のスマッシュに視線を変える。

「良かったのか? 戦兎をあっさり行かしちまってよ」

「問題ないさ。戦兎は海斗には勝てない。そんで君もな」

 挑発的な物言いで煽る彼。

 だが、その言葉に俺は笑いを禁じえなかった。

「何がそんなに面白いんだ?」

「いや、戦兎が負けるって冗談が面白くってよ」

「冗談? 何言ってるんだ、君は」

「アイツは負けねーよ。俺の相棒は正義のヒーローなんだぜ? 絶対に帰ってくる、囚われのお姫様と親友と一緒にな」

「ドラゴンゼリー!」

 俺はスクラッシュゼリーをベルトに装填し、レンチを思い切り叩き下ろした。

「変身!」

「潰れる! 流れる! 溢れ出る! ドラゴン イン クローズチャージ!! ブラァァァ!!」

「良いねぇ。好きだよ、君みたいに真っ直ぐな子は。そんじゃ、そんな君に身の程を教えてあげよう」

「上等だ! 今の俺は、負ける気がしねぇ──!!」

 クローズチャージの装備を身に纏った俺は、剣を構えたスタッグと対峙し、咆哮した。

 

 

 ***

 

 

 万丈と別れてから十数分、俺はやっと指定の場所に到着した。

 しかし、どこを見回しても二人の姿は見えない。

 別の追っ手に見つかって逃げてしまったのではないか、そんな考えが頭を過ったが、その心配は杞憂だった。

「来たな、戦兎」

 海斗の声が聞こえた。

 声が聞こえた方に向きを変えると、何も無かった所から海斗が姿を現した。

 恐らく海斗が持っているフルボトルの力だろう。

「鞠莉はどうした?」

「安心しろ。今は安全な場所で寝てる」

「そうか……」

 俺は胸を撫で下ろし、ほんの一瞬だけ安堵した。

 そしてすぐに目の前の海斗に目を向け、フルボトルを構えた。海斗もまたスクラッシュゼリーを取り出す。

「行くぜ……!」

「ラビット! タンク! ベストマッチ!!」

「ロボットゼリー!」

 それぞれのドライバーから待機音が鳴り始めると、俺達は互いに最後のシークエンスへと移る。

「Are you ready?」

「「変身!!」」

「鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イエーイ!!」

「潰れる! 流れる! 溢れ出る! ロボット イン グリス!! ブラァァァ!!」

 俺はレバーを回し、海斗はレンチを下ろして各々の装備に身を包む。

 

 ビルド、そしてグリスとなった俺達は、再びこの場所で対峙した。

「「うおおおおおお!!!!」」

 

 俺達の信念が、決意が、背負う想いが、今ぶつかり合う──。

 

 




ダイヤ)遂に始まってしまいましたわね、戦兎さんと海斗さんの戦いが……。
果南)うん……。でも、これは避けることが出来ないことだと思う。戦うことで想いをぶつけ合う、戦兎はそう言ってたでしょ?それを止めることは誰にも出来ないんだ。
ダイヤ)……そうですわね。わたくし達に出来るのは三人を待つことだけ……。せめて、今は願いましょう。また、みんなで笑い合える未来が来ることを。次回「第18話 リバイブするキズナ」
果南)新しい始まりだ……!

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