ラブライブ!サンシャイン!!~BUILD the Rainbow~ 作:白銀るる
三年生が再入部して早々、今度は一年生の入部希望者がアイドル部の部室を訪れた。入部希望者──氷室幻さんの想いを受け取った千歌さん達は彼女を歓迎し、海斗さんに続く四人目のマネージャーとなった。
戦兎)練習が始まってしばらく経った頃、スマッシュに変身する男が浦の星に攻めて来た。俺と万丈は二人でスマッシュ──富田林勝を撃退し、ヤツらの組織がファウストという名前であることを掴んだ。
新章はまだまだ始まったばかり、どうなる第20話!?
「どうしてお前が子の部室に……アイドル部にいるんだ?」
俺こと猿渡海斗は、戦兎達から「スクールアイドル部の新入部員」として紹介された氷室幻と部室で二人きりで対峙していた。
傍から見ればカップルにも見えるだろうが、告白だとか痴話喧嘩だとか、そんな甘っちょろいもんじゃない。
俺の目の前に立つ女は、戦兎達と対立している組織に身を置いている人間だ。
そんな人物がアイドル部に潜り込んでいるのだ。
初めてここで出会った時は気が気でなかったが、鞠莉達に余計な心配を掛けさせるわけにもいかないので黙っていたのだ。
しかし、誰もいないこの状況で
何故なのか、何が目的なのか、冷静に考えれば話すはずもないだろうが、やっとつかんだ平穏を守りたいと思っていた俺はは、この場で問い詰めていたのだ。
「大方察しは付いてるのでしょ?」
「戦兎と鞠莉、それから裏切り者の俺の抹殺か」
「そうだよ。けど、君とは小原先輩に関与するつもりはない。きっとヤツもそこまでは期待していないだろうしね。ともかく、わたしは彼以外と必要以上に関わるつもりはないわ。信じてくれ、とは言わないけどね」
そんなの嘘だ、否定の言葉が口から出る直前、戦兎と戦った時のことを思い出した。
氷室が──ナイトローグが俺よりも先に鞠莉を救出していたことを。
そしてヤツが戦兎と共闘していた時も、善子の命を奪うことも無かった。
その真意を測ることは出来ないが、ヤツが戦兎や万丈以外の浦の星の生徒を襲ったことはただの一度も無いのだ。
ということは、鞠莉達に危害を加えないという言葉は本当なのか……?
考え始めれば疑問が生まれるばかりだ。
だが……一つだけ確かなことがある。
鞠莉は彼女に救われた。
それは紛れもない事実だ。
「……お前には借りがある。俺からは何も言わない。だが、戦兎に手を出す以上、俺はお前と戦う」
「それでいい」
全く表情を崩すことの無い氷室。
彼女を睨めっこをしていると、外が騒がしくなってきた。
それから一分も経たずにアイツらがやって来た。
「一番乗り~! ってアレ? 海斗君に幻ちゃん!? なーんだ……もう先に来てたのか……」
「二人とも早いねー。……もしかして二人はそういう……?」
「よ、曜ちゃん! あまりそういうことは……」
「そうだぞ、曜さん。それだと猿渡は浮気してることになっちまう」
「万丈の言う通りだな。俺が鞠莉以外の女のなびくことは無い。コイツとは部活の話をしてただけだ」
千歌達に悟られぬよう、自然な風を装って意識して嘘を吐いた。
彼女達の笑顔が今は胸に刺さる。
……戦兎はこんな想いをずっとしてきたのだ。
アイツに比べればこれくらい……。
そうこうしているうちに一年生達と戦兎達も合流した。
「んじゃ、俺達先行ってるから」
「お待ちなさい、三人とも」
練習の準備をする為に
「どうしたんだ、ダイヤさん?」
「皆さん、来週からとうとう待ちに待った夏休みです!」
「そしてサマーバケーションと言えば何でしょう!?」
突然ダイヤと鞠莉主催の謎のクイズ大会が始まった。
あまりに唐突過ぎる展開に戦兎と果南を除く一同は揃って疑問符を浮かべている。
それでも何人かはダイヤ達の問いに答えを返した。
回答は「えーっと……海?」「夏休みはパパが帰ってくるんだー!」……などエトセトラ。
しかし、そのどれもが的外れなようで、ダイヤはわなわなと肩を震わせている。
「ぶっぶーですわ! あなた達、それでもスクールアイドルですの!? 片腹痛い、片腹痛いですわ!!」
スクールアイドルのこととなると、いつものお堅いイメージからは想像がつかないくらいハイテンションになるダイヤ。
「ダイヤさん……どうしちゃったの……?」
「今までずっと我慢してきたものがシャイニーしちゃったのよ、きっと」
確かに鞠莉の言う通り、少し前に再入部したばかりなわけなのだが……それにしたってこれは酷い。
もう十年以上の付き合いになるが、ここまでテンションが上がっているダイヤを、少なくとも俺は見たことがない。
「夏と言えば!? ルビィ!?」
「え!? えっと……ラブライブ?」
「正解ですわ! 可愛いでちゅわー。いい子いい子でちゅねー」
見事正解を言い当てたルビィの頭を撫で、赤ちゃん言葉で褒めまくる。
……ダイヤってこんなキャラだっけ?
日本を離れていた二年の間で忘れてしまったのかと考えたが、戦兎や果南もドン引きしている。
良かった……アイツらもこんなダイヤは知らなかったみたいだ。
……昔は普通に仲の良い姉妹だったはずなのに。
今も仲の良い姉妹であることには変わりないはずなのに、何故だか引き気味になってしまう。
「……きっとルビィへのラブもシャイニーしちゃったのね」
流石の鞠莉もこれには苦笑せざるを得なかったらしい。
「何という姉妹コント……」
「コント言うな!」
善子のコント発言に異議を唱えるダイヤ、もとい姉バカ。
皆が苦笑し、ある者はドン引きする中、ダイヤは「こほん」と息を整えた。
「夏と言えばラブライブが開催される季節。それに参加する為、わたくし達は特訓を行います!」
バン! と叩かれたホワイトボードには練習のメニューらしきものが張り付けられていた。
「なるほどな。だから今日はテンションが高かったわけだ。で、このメニューは?」
「それはわたくしが独自のルートで入手した“μ's”の特訓メニューですわ! これを全てこなすことが出来れば、ラブライブの優勝は間違いないですわ!」
遠泳十キロとかランニング十五キロとか……もの凄くえげつないことが書いてあるんだが……?
こんなの普通に考えたら出来るわけないだろ……。
μ'sだってこんなのこなせてたはずないだろ。
「ふーん……まあ出来るんじゃないの……」
「ま、これくらいなら何とかなるだろ」
「俺も二人に同じ。この程度なら問題ないぜ」
果南に戦兎と万丈。
とんでもない化け物がここに三人もいやがった。
「でも問題はどこで合宿するかだな」
「いや、もっと別な問題があるだろ」
戦兎は悩み、顔を歪ませる。
俺のツッコミにも「何を言ってるんだ?」と言いたげな表情を向けられた。
「あ、そう言えば千歌ちゃん。海の家の手伝い頼まれてなかった?」
「ああー! 自治会で出してる海の家のお手伝いをするよう言われてるのです!」
「言われてみればわたし達も言われてたっけ」
「今の今まで完全に忘れてたな」
と、曜と千歌に続いて怪物二人が先約の予定があったことを思い出したようだ。
前者の二人はともかく、あの鬼畜メニューをこなせるとか言っていた二人まで予定が合わないと聞き、俺はこっそりと胸を撫で下ろした。
「四人が参加出来ないんじゃ、仕方ないよな。それにこんだけの量の練習となると、時間も足りなくなってくるし、海があると言えど炎天下での無理は禁物だぜ?」
「た、確かに……海斗さんの言うことも一理ありますわね……」
残念そうに溜め息を吐きながらメニューをしまうダイヤ。
ひとまずあの練習をこなすという危機は……。
「それなら夏場でも涼しいモーニングアンドイブニングにすればいいじゃない!」
去っていなかった。
鞠莉のその言葉を聞くと、まるで水を与えられた花のようにダイヤは笑顔を取り戻した。
「そうですね。合宿という形にすれば、時間の問題は解決できますね」
さらに氷室による支援追撃。
「じゃあ
「それじゃあ決まりだな! んじゃ、練習の前に夏休みの予定立てちまおうぜ!」
「マルも賛成ずら! みんなでこういう風に予定を考えるのって初めてだから、なんだかドキドキワクワクするよ!」
こうして俺達の夏休み(に向けての準備)が始まった。
同時に悪夢の始まりでもあった訳だが、この時の俺達はそれを知る由もないのであった。
***
雲一つない快晴の空。
紺碧の海に銀色の波。
そして天高く昇った太陽が照らすのは、その身に水着を纏ったうら若き乙女達。
「最っ高だな!」
「それはお前のセリフじゃない気がするぞ。どちらかと言うと戦兎が言いそうな……」
「おい、万丈。喧嘩を売ってるなら買ってやるぞ?」
野郎二人が口論を始めるが、それを放置して海の方へ目をやる。
そこは水着姿の少女達が戯れる楽園。
すぐ後ろのむさ苦しい地獄があることがまるで嘘のようだ。
「皆さん、完全に遊んでいますわね……」
「夏休みですし、浮かれてしまうのは無理ないと思いますよ」
「とか言いつつも、生徒会長様も遊ぶ気満々……いや、誰かさんを落とす気満々の水着なのでは?」
「な、何を言ってますの!? そんなのことよりも海の家のお手伝いですわ! た、確か午後からでしたわよね? わたくし達の手伝う海の家はどちらでしょうか?」
辺りを見渡して目標を探そうとするダイヤだが、答えは探すまでも無い。
俺達の集合場所がその海の家……つまり、ダイヤの背後に立つボロボロの建物がその海の家だ。
「現実を見るずら」
「ははは……ボロボロだね」
「それに比べて……」
隣はとても華やかでTHE・都会と形容するに相応しい店だ。
お客も皆そちらへと足を向け、こっちの海の家には見向きもしない。
「ま、こればかりは仕方ない。俺達は俺達であの店に負けないようにやるだけさ」
「戦兎の言う通りよ! ラブライブに出場するのでしょう? なら、あんなチャラチャラした店に負ける訳にはいかないわ!」
敗北感のようなものに飲まれそうになる面々だったが、戦兎と鞠莉の二人によってその空気は打破された。
「「これ、何(だ)……?」」
目の前に用意されたソレを見て唖然とする千歌と梨子と万丈。
名前を付けるならば、装着型看板と言ったところか。
「これを着てお客を集めるのですわ! 聞けば去年の売り上げも隣の店に負けたとか。ですから今年はわたくし達がこの店の救世主となるのです!」
どうやって上ったのか、ダイヤは屋根の上で腕を組んで語る。
そして次の瞬間、さながら仮面ライダーのようにダイナミックに飛び降り、俺と戦兎、果南の三人の前に着地した。
「あなた達三人はこれをもって客引きですわ!」
チラシの束を持って鬼気迫る表情で迫り来るダイヤ。
しかも生徒会長らしからぬ顔をしている。
「果南さんのそのグラマラスなボディとお二人の鍛え抜かれた肉体でドシドシお客を連れてくるのです!」
「お、俺もなのか? じゃあ残りのヤツは……」
「鞠莉さん達には海の家で出す料理を作ってもらいますわ! 都会の方々に負けない料理で、お客のハートをわしづかみにするのですわ! 幻さんも皆さんのサポートをお願いしますね」
「分かりました」
幻がそう返事をすると、鞠莉達は彼女を連れて店の中に消えて行った。
俺は四人の背中を見届け、戦兎と果南と共に客引きを始めた。
***
日中の手伝い、そして夕方からの地獄のような練習が終わり、ようやく夕飯の時間がやって来た。
腹を空かせ、夕食はまだかと待ちわびていた俺達の前に出されたのは高級食材のごった煮と真っ黒いたこ焼き……。
「な、なあ、戦兎? これ何だ……?」
「何って、シャイ煮と堕天使の泪だよ。全然売れてないのにめちゃめちゃ残ったから俺達で処分しろ、って美渡姉から言われたんだ」
「申し訳」「ないでーす……」
これの作った張本人達は卓の上でプチ土下座をしていた。
この様子だと反省はしているようだ。
が、これを食うのか……。
「いっただっきまーす!」
「ちょっ!? 万丈さん!?」
待ったをかけると「何だよ」と言わんばかりにこちらを睨んでくる。
そりゃあ当たり前だ。
鞠莉の手料理……とは言うものの、こんなダークマターに近いものを進んで食そうだなんて……正気を疑ってしまう。
「お前……躊躇とかないのか?」
「何言ってんだよ。んなもんあるわけないだろ」
そう言ってヤツはシャイ煮を一口、口に放り込んだ。
「うめー!」
「嘘……」
「とりあえず、万丈が毒見してくれたから大丈夫だろ」
「戦兎ってば酷ーい!」
万丈に続き、俺達も恐る恐るシャイ煮を口に入れる。
すると、その見た目からは想像もつかない味が口の中に広がっていった。
「おお……! 結構いける!」
「確かに美味しい……けど、これ一杯いくらくらいなの……?」
「うーん……十万円くらい?」
「「高っ!?」」
そりゃあ誰も買いませんわ。ていうか買えませんわ。
「そう? 普通だと思ったんだけど」
確かに使っている
「これだから金持ちは」
「鞠莉、今度はちゃんとコストも考えような……」
「はーい」
とまあ、シャイ煮に関してはこれでひと段落となった。
次はこの黒いタコ焼き──堕天使の泪だが……。
俺がそれに目を向けると、既にルビィが箸を伸ばしていた。
そしてその黒い物体を口の中に投げ込むと……。
「ぴぎぃぃぃぃぃぃ!?」
顔を真っ赤にして外に飛び出していった……。
「一体この中に何を入れましたの!?」
「クックックッ……タバスコを一本、使い切ったわ!」
高らかにそう言い放った善子。
一同ドン引き、ダイヤは憤怒。そして万丈は黙々とシャイ煮を食べ続けていた。
「おい、万丈」
すると戦兎は、先程は何の躊躇いもなくシャイ煮を食べた万丈に声をかけた。
だが返事は無く、ヤツはそっぽを向いた。
間違いない。コイツ、こうなることを分かっていやがった。
その後、堕天使の泪は全て善子が処分することとなった。
かくして、合宿一日目が終わったのである。
だがAqoursの夏休みは、まだ始まったばかりだ。
海斗)お、きたきた。初めての予告ってのは緊張するな……。
鞠莉)そんなに緊張しなーい。もっと肩の力を抜いて、ね?
海斗)そ、そうだよな……。よし、本題いくか。無事、合宿を終えることが出来たAqours。それから少し経った後、俺達は梨子のもとへコンクールの誘いが来ていたこと、千歌がその梨子の背中を押していたことを知る。
鞠莉)地区予選には梨子を除いた八人でステージに立つことになって、フォーメーションを組み直すことになったのだけれど、曜の様子が少しおかしいの……。次回「曜のジェラシー」