ラブライブ!サンシャイン!!~BUILD the Rainbow~ 作:白銀るる
ご了承ください。
戦兎)花丸、ルビィが加入し、Aqoursメンバー五人とマネージャー二人の計七人で活動することになったスクールアイドル部。しかし、当然その名を上げるのは難しく、ランキングは常に下位に立たされていた。
龍輝)そんな中、花丸さんの幼馴染である善子さんと遭遇、千歌さんは彼女をスクールアイドル部に勧誘する。
梨子)それから堕天使という要素を取り込み、……とても恥ずかしいPVを撮影するも、生徒会長の目に止まり、叱られてしまう。
戦兎)そして善子さんは、自分が築き上げてきた堕天使というものを砕かれてしまうのだった。さあ、どうなる第8話!?
ダンボールにしまった自作の堕天使衣装を見つめ、今日までのことを思い返す。
──わたし、本当は天使なの!
始まりは、幼い日の自分のその言葉だった。
それからいつの日からか、堕天使を名乗るようになって、配信動画での占いを始めた。
自分には、他の人には無い特別なチカラがある。
そう信じてた。
でも──それももう終わり。
堕天使なんて本当はいなくて。
精霊結界も、天界議決なんてものも存在しない、全部わたしの妄想。
明日からわたしは、普通の女子高生“津島善子”に戻るのよ。
わたしはダンボールを閉じ、衣装をしまって全てを終わりにした。
「本当にそれで良いのか?」
はずだった。
突然、男の声がした。
「誰!?」
わたしの目に映ったのは、赤い体にメカメカしい装甲のようなものに加え、頭や胸に蛇──コブラのデザインが施された怪人だった。
「そう怖い顔するなよ。俺は別にお前に害をなそうとしてきたわけじゃない」
怪人はやれやれといった風にわたしに語り掛ける。
害はなさないと言ったが、信用できるはずがない。
第一、どうやったここに……?
「俺は、ずっとお前のことを見ていた。お前が堕天使として名前をあげたあの日からな」
「そんなの……もう過去の思い出よ。堕天使はもう終わりにするって決めたの。わたしは、特別な力なんて持ってない、ただの人間なんだから……」
「ただの人間か。それは、お前を見る目が無い奴らがそう言っているだけだ。だが、俺は違う!お前には確かに特別な力がある!他の誰もが、手にすることのできない力を手にするだけの
「特別な力……?」
怪しい、胡散臭い。
そして何より、危険の二文字が頭をよぎった。
けれど、「特別な力」「わたし以外に手にすることが出来ない」。
そんな言葉が私を魅了した。
本当にそんなものがあるのであれば、わたしは……。
「やっぱり欲しいよなあ。良いぞ、くれてやる。お前だけの特別な力を」
「デビルスチーム」
「え」
***
「はあ……」
俺こと桐生戦兎は、自室でビルドのデータを閲覧しながら深い溜め息を吐いた。
理由は善子のことだ。
生徒会室を後にした俺達の中でも、特に落ち込んでいたのは彼女だ。
津島善子という人間の中の“堕天使ヨハネ”としての在り方を、全否定するような言葉をダイヤから食らった。
そして彼女は、「やっと踏ん切りがついた」と堕天使キャラの卒業と部活動への入部は止めると言い残して去ってしまった。
本人が本当にそれで良いと言うのであれば、俺は引きとめはしない。
だが、あの時の善子からは、本気で“堕天使ヨハネ”としての自分と別離したいと言っているようとは到底思えなかったのだ。
「どうしたもんか……」
あの時、無理して笑っていた善子を思い出す。
どうにも放っておくことが出来ない。
『やれやれ。ぬしも相当お節介な人間のようじゃな』
不意に脳内に“彼女”の声が響く。
こんな人間離れしたことが出来るのは、俺の知る限りでは一人しかいない。
「神子さんか。ていうか悪かったな、お節介で」
『誤解させたならすまんな。わらわの知り合いに、ぬしと似たような奴が一人おるから、そやつのことを思い出したんじゃよ』
モニターを眺めながら顔をしかめる俺に対し、神子さんは、クスクスと笑いながら謝罪する。
少々納得がいかないが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「俺のことをそんな風に言うってことは、事情は分かってるんだろ?」
『何じゃ?助言でも欲しいのか?』
上から目線な物言いに少々腹が立つが、俺だけでは答えに辿り着けないのもまた事実だ。
しかし、俺のプライドと善子の悲しげな表情。そのどちらを取るかと問われれば、返事は一つしかあり得ない。
「ああ。悔しいけど、こういう時にどうすれば良いのか……俺には分からないんだ……」
『正直でよろしい。では一つ問おう。ぬしは、自分自身を否定できるか?』
「自分自身を否定って……どういう意味だよ?」
『そのままの意味じゃよ。今まで築き上げてきた“桐生戦兎”を否定出来るか?』
「あのな、普通に考えてそんなこと出来るわけないだろ。そもそも、それとこれとどういう関係が……」
『……気付いたか?』
反論しようとした口が動きを止めた。
神子さんからの問いが、どんな真意をもってのものなのかを理解してしまったからだ。
「……ああ。こんなにも簡単なことだったんだな。サンキュー、神子さん」
『うむ。後は、ぬしがしたいようにすればいい』
やるべきことを理解し、明日に備えようとすると、神子さんに『待て』と静止をかけられた。
『実は別件でぬしに用があるのじゃ』
「別件?」
『ぬしらは以前、ナイトローグと名乗った戦士と戦っていたな』
「……ああ。実際に戦ったのは、二度目に会った時だけど、正直かなり危なかった」
葛城先生と果南の言葉を思い出さなければ、俺は奴に倒されていただろう。
『恐らく、これからはナイトローグやそれ以上の強敵と戦うことが増えるじゃろう。だから、新装備のデータを解禁する。データのロック解除のパスワードは、「スパークリング」じゃ』
俺は、神子さんに言われた通り、ビルドのデータ一覧のロック項目の一つにそのパスを入力した。
すると、ビルドの新たな形態の姿とその能力が閲覧可能となった。
「ビルド ラビットタンクスパークリングフォーム……」
基本形態であるラビットタンクの赤青に加え、恐らくその名の通り、泡を彷彿とさせる白が追加され、ギザギザとしたフォルムが特徴的な形態だ。
詳細を見れば見るほど、強力なフォームであることが伺える。
これならナイトローグにも対抗出来る!そう思った矢先、ある一文が目に入った。
「ラビットとタンクの成分に加え、パンドラボックスの残留成分を使用するラビットタンクスパークリングで変身可能!?パンドラボックスの残留成分って……」
高まっていた期待は、一気にどん底に叩き落とされた。
パンドラボックスは、現代の科学では計り知れないアーティファクトである為、政府が厳重に保管している。
一般人はもちろん立ち入りは許可されておらず、パンドラボックスを調査出来るのも、国に認められた研究者だけ。
つまり、成分を採取するなど不可能以外の何でもないのだ。
「これは無理だろ……。成分を採取しようもんなら、犯罪者になっちまうぞ……」
『確かにそうじゃな。
「……は?」
神子さんの口から出た言葉に、俺の脳は一瞬思考を停止した。
まるで、パンドラボックスはもうそこにはないと言っているかのような、彼女の言葉に。
『ニュースを見ておらんのか?先程速報で入ってきたぞ。何者かが政府官邸と研究施設を襲撃し、パンドラボックスを強奪した、とな』
俺は、充電されているスマホを拾い上げ、ニュースアプリを立ちあげる。
そこには、速報と銘打たれ、半壊状態の官邸や破壊された施設内部の画像と記事があげられていた。
「……なんだよこれ。まさか、ナイトローグの奴が!?」
『それはわらわにも分からん。じゃが、そやつ本人か、その仲間が関与しているのは間違いないじゃろうな』
幸い死者は出ていない。
が、以前万丈から聞かされた「パンドラボックスには世界を滅ぼす力がある」ということを知っている俺達からすれば、これは大変というだけでは済まされない大事件だ。
『確かに大事件じゃな。じゃが、これはチャンスでもある』
「チャンス?」
『そうじゃ。パンドラボックスを取り戻せれば、スパークリングを創ることが出来る上に、こちらで安全に保管することが出来る。まさに一石二鳥じゃ』
「よくもまあそんな簡単に言ってくれるよ……」
フルボトル集めだけじゃなく、パンドラボックスの奪還および保管まで俺達の任務になってしまった……。
本当に最悪だ……。
***
翌日。
全ての授業が終わると、俺は一年生の教室に足を向けた。
目的は一つ。
もう一度善子をスクールアイドル部に勧誘する為だ。
教室に辿り着いたところで、千歌達の姿が目に入った。
花丸達と何か話しているようだが……。
ともかく、まずはアイツらと合流か。
「よ、お前らも善子さんを誘いに来たのか?」
「うん、そうなんだけど……」
「善子ちゃん、また学校に来なくなっちゃったずら……」
「ダイヤさんに言われたこと、相当ショックだったんだろうな……」
一同は、浮かない表情で沈黙する。
けど、諦める訳にはいかない。
彼女に伝えなければいけないことがあるんだから。
「花丸」
「はい?」
「善子の家、分かるよな?」
「多分、昔と変わってなければ……」
「花丸、善子の家まで案内してくれ」
「えっと……分かった。着いてきて」
俺達は、花丸の案内の元、善子の家に向かった。
やって来たのは沼津にあるマンション。
どうやらここに彼女は住んでいるらしい。
「あまり大人数で押し掛けても迷惑だろうし、俺が行ってくる」
「待って!わたしも行く!善子ちゃんに伝えたいことがあるから……」
「マルも!善子ちゃんが心配ずら……」
真っ直ぐ前だけを見つめる千歌の瞳、そして善子さんをほっとけないという花丸の想い。
それだけで俺は悟った。
俺が、神子さんに諭された答えに、千歌が自力で辿り着いたということを。
「分かった」
万丈達四人を残し、俺と千歌の二人は上の階へと上がって行った。
部屋の前まで来た俺達は、家にいるかどうかを確認する為にインターホンを鳴らす。
『はい?どちら様でしょうか?』
そう尋ねてきた声は、善子さんとは違う女性の声。
恐らく善子さんのお母さんだろう。
「国木田花丸です」
『花丸ちゃん?幼稚園の時、善子といつも一緒だった?久しぶりねー!ちょっと待っててね』
女性の声が聞こえなくなってから数分後、玄関の扉が開かれ、善子そっくり(正確には善子の方がそっくり)の女性が現れた。
「本当に久しぶりね、花丸ちゃん。それからあなた達も善子のお友達?」
「はい。桐生戦兎です」
「高海千歌です」
「桐生君に高海さんね。ごめんなさい、三人とも。善子ったら、動画配信?っていうのを始めちゃって部屋から出てこないのよ……。ああなると、しばらく出てこないんだけど、あの子に用があるならわたしの方から伝えておこうか?」
「いえ、本人と直接お話しなきゃいけないことなので。終わるまで待たせてもらいます。もちろん、都合が合わなければ、また出直してきますけど」
「それなら上に上がって。わたしも丁度学校でのことを聞きたかったのよ。あの子ったら、何度聞いてもうんともすんとも答えやしないんだから」
「分かりました」
そこからは、話はトントン拍子で進んで行った。
善子さんのお母さん(以降善子ママ)曰く、「全然学校に行かなくて、昨日は登校してくれたと思ったら、また今日になって行かなくなってしまったの。原因を聞いても答えてくれなくて、困ってたのよ」だそうだ。
「確かそれは高校デビューの失敗だって話してました」
「はい。善子ちゃん、最初の挨拶で変な事言っちゃって、みんなにバカにされてるって思ってたみたいで……」
「でも本当は違ったんでしょう?でも、また行かなくなっちゃったのは……」
「ごめんなさい。それはわたしの所為だと思います……」
「高海さんの所為?それはどういうことなの?」
「実はわたし達、スクールアイドルやってるんです。それで人気を得る為に善子ちゃんの堕天使を取り入れようとしたんですけど、それで生徒会長に怒られてしまって……」
やはりというか当然というか、千歌は責任を感じていたようだ。
確かに、全く非が無い訳では無いが、止めなかった俺にも責任はある。
俺が千歌をフォローしようとすると、
「高海さんだけが気に病むことじゃないわ。何年もあの子の母親をしてるから何となく分かるの。きっと貴女にスカウトされたのが嬉しかったのね。それできっとハメを外し過ぎたんだと思うわ」
善子ママが、千歌にそう言葉をかけた。
……親というものは本当に凄いと思う。
子供の良き理解者で、心強い味方。
そんな両親がいる彼女達が、正直羨ましい。
もちろん、果南の父さんと母さんが嫌だという訳では無い。むしろ、本当の両親のように思っている。
「……戦兎君?」
「どうして泣いてるずら……?」
二人にそう言われ、自分が泣いていることにやっと気付いた。
「な、何でもねぇよ!これは……目にゴミが入っただけだ!そんなことより、今は善子……さんのことだろ!」
俺はすぐに涙を拭い、話題を元に戻そうとした。
その瞬間、ビルドフォンから着信音が流れ始めた。
「すいません。ちょっと出てきます」
三人を居間に残して、ビルドフォンを開く。
誰からの電話かは、大体想像がつく。
というか、
「もしもし?どうしたんだよ万丈」
『おい戦兎!って泣いてんのかよ!?いや、今はそれどころじゃねー!スマッシュが出た!』
「はあ?でも警報は……」
俺の言葉を遮るようにスマッシュアラートが鳴り響く。
こんな大事な時に……!
「どこにいるか分かるか、万丈?」
『分かるも何もこのマンション……しかも善子さんの部屋だ!』
「は!?それを早く言え!!」
『待て、戦兎!最後まで話を……!』
俺は万丈との通話を切り、急いで三人の待つ居間まで戻った。
龍輝)戦兎の奴……!人の話は最後まで聞けっての!このままじゃアイツ……!
???)よお、お前が仮面ライダークローズの万丈龍輝だな?
龍輝)あ?
???)おーっと、今この場でお前とやり合う気はない。ま、いずれその時が来たら、お手柔らかに願いたいもんだねえ。
龍輝)待て!……逃げやがった。まあいい。今は戦兎達の方が先決だ。次回「第9話 堕天使のティアー」