「私達、ずっと友達でいようね」と言ったから   作:フィンガー

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プロローグの視点

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

 

 友達が出来るのなんて、簡単なことだ。子供の頃なら、尚更簡単だ。

 もっと言うなら、同性同士で近ければ近い程、どこまでも友達は増えていく。

 

 気が付いたらあの子とは友達だし、あの子ともいつの間にか友達だった。

 キッカケはあっただろうけど、大したことはない。多分、思い出せないくらいの些細な事で、誰もが同じような気持ちで……同じように友達同士になる。

 その後は、ずっと友達同士で仲良く遊んで、つるんで、何気ない日常の中の一コマが埋まっていく。

 

 それだけだ。友達っていうのに求められているのはそれだけ。

 だから、多少は特別なキッカケで、特別な出会い方をして、思い出深い印象的なことを共有したり、その子とだけしか知らないことが沢山あるって友達は……いつしかきっと、“新友”とかって呼ぶようになるのかなって。

 

 最も親しい友、真の友達。言い方や当て方は色々で、総じて『友達の中でも特別な友達』なんだと思う。

 誰よりも仲が良くて、誰よりも一緒にいて、誰よりも知っている。そんな、特別な友達に……私はあの時、出会ったんだ。

 

 

「……」

 

「あの……大丈、夫?」

 

「……アンタ誰?放っといて」

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

 

 出会い方は最悪だ。今でも覚えている……あの時の私に会って、あれからよくこうなれたなぁと、笑い話を何度もした。もちろん、それにも理由はあって、特別虫の居所が悪かったというのも肯けるほど、私は追い詰められていたのだ。

 

 幼い頃、あれはまだこっちに引っ越して来てからすぐのことで、まだまともに道すら覚えてない時のこと。新しい場所への不安や恐怖より、未知なる世界への冒険心に溢れていた時のことだ。

 早く色々と見て回りたくて、これから通う場所にいち早く辿りつきたくて、これからのことを考えると胸が弾んで、一秒でも早く飛び出したいって……着いてから、本当に飛び出してしまった愚かな私の忘れたい過去。

 

 いいや、嘘だ。忘れたいなんて嘘。

 いつまでも覚えていたい。一生忘れることはない。

 

 飛びだした先にあるのが、まるで迷路みたいな道則を辿る場所だと知っていたら……などと、思うことは何度もあったけど。

 ……もしも私があそこで道に迷った末に、近くにあった小さな公園で心細げに座っていなかったら……彼女と出会うことはなかったのだから。

 

 そう、私はあの時、引っ越して来たテンションの衝動的な探検からあっという間に道に迷って沈み込んでいたのだ。

 まさかあんなに迷いそうな場所だとは思わなくて、同じような団地と入り組んだ細道、景色が変わらず続いているのと、入り口や出口なんてなくて“どこにでも繋がっている”天然の迷路だなんて……想像出来なかった。

 

 ちょっとだけ、ちょっとだけ見て回ろうと思っただけなのに……一瞬にして私は迷子と化し、泣きたくなるような後悔と共に、まるで知らない場所に唯一人取り残された。

 

 ああ、一人だなんて言うけど、公園にはそこそこ人が集まっていた。多分、直感的に私は助けを求めていて、人の集まる場所を選んだのだ。

 ……とはいえ、知らない人ばかり。まだ知りあってもない子だらけ。声を掛けるのなんて抵抗は無かったけど、それは私が迷子じゃなかったらの話で……意地とプライドが気持ちを邪魔していた。

 結局、公園に入っても日陰になっている端の方のベンチに座るぐらいしか出来なかった。

 

 そんな時間がどれだけ過ぎたかわからなくなってきた時……突然、声を掛けられた。

 

 

『ねぇ、大丈夫?』

 

 

 ――今でも耳に残っている、微妙に震えた優しい声。

 

 本人曰く、もの凄い勇気を出して聞いたんだって、何度となく補足された。

 彼女の性格からしてよく聞けたなって思うけど、それぐらい貴女は沈んだ顔をしていたんだと少し怒った風に問い詰められるのが、この思い出の“いつもの”出だしだった。

 

 放って置いてと突き放したのに、何故か引かずに少し離れた位置へ座る、優しいあなた。

 助けを求めていたのに、素直になれないあの頃の私。

 

 まぁ、たまによく見るありふれた出会いの仕方だ。特別印象に残るのだけれど、さりとてどこかで聞いたような、ドラマか映画か……語れるくらいには特別なのに、語ってみればどこかで聞いたことのある青春の1ページみたいなものだ。

 

 この後、もちろん私達は友達になる。

 粘り強く居座るあなたと、少しずつ解けていく私の感情。

 助けに来た彼女に、助けを求めている私。

 

 ただ、私は素直にはなれなかった。いや、むしろ意地っ張りを貫こうとしていた。

 だって、言えるわけがない。私のキャラじゃないとか、まぁ、色々とあるけれど、なんとなくこの子に「助けて!」と言うのは気が引ける。

 それほどか細い感じの子だと思っていたのだ。ああ、“いた”ではなくて今も思って“いる”か。

 

 そう言うとわかっているから、この話をしようとすると最初に彼女は怒りだす。

 酷いとか、頑張ったのにとか、それはもう叩きだす勢いで怒りだす。

 その仕草が可愛くて、毎回同じように繰り返してしまうのだ。許して欲しいと心の中で謝って置くのが一連の導入だ。

 

 ヒーローには程遠い、まるでヒロインみたいなこの子に『助けて』なんて言えなかった。

 

 私が思い着いたのは、そんな彼女を仲間に冒険をすることだった。

 

 

「……ねぇ、アンタさ、今暇?」

 

「え?」

 

「私さ、今日こっちに引っ越してきたんだよね。そんで、色々回ってたら疲れちゃってここで休んでたんだけど……良かったらさ、道……案内してよ。この辺」

 

「え、え、わたし?案内って……」

 

「あっちもこっちもおんなじ建物ばっかでつまんないんだもん。なんか、面白い所知らない?私のこと連れてってよ!」

 

「そんなこと、言われても……面白い所って……」

 

「知らないの?ここら辺に住んでるんでしょ?なんかないの、面白いとこ?」

 

「……えっと……わたし……」

 

「何、なんだって?」

 

「……ごめんなさい……」

 

 

 多分、沈み込んでいた私よりも沈んだ顔で謝りだしていた。

 この時は「役に立たないなぁ」などと見下しながら、なんとか今の状況を打破するのに彼女を誘って道案内させようと必死に頭を回し、迷子なんだと悟られずに家へ帰る。

 ……私の姑息な思惑に、謝るべきは私の方なのだと彼女がツッコむのは、ここよりもっと後の話だ。

 

 そうして、流れるように私は彼女を連れだした。

 なんて言って連れ出したのか、「とにかく行こう」だったか、「なんでもいいから道教えて」だったか、困惑する彼女の手を握って走り出した。

 

 ……そうだ、駆け出して、名前も知らないままに連れまわした。迷子だったことを忘れて、何故だか不安は掻き消えて、わけもわからずあっちへこっちへ、いつの間にか困惑していた彼女の顔も綻んで、笑いながら冒険をした。

 

 見るもの全てが、怖い物から眩しい世界に移り変わった。

 二人きりの特別な時間、私達はあの時から友達になったのだ。

 

 そのうちに段々と見たことがあるものばかりに変わっていって、知ってるものがどんどん増えて、時間も忘れて駆け回りながら、気が付く頃には家の前にいた。

 迷子だったなんて嘘みたいで、ああ、何が不安だったのかも忘れて。

 

 どこをどう来たとか、どこをどう回ったとか、迷い込んだ道なんて覚えてないのに。

 迷子だった時間は、掛け替えのない思い出に変わった。

 

 楽しくて、もっと一緒に、ずっとこのまま、まだもう少し……思うままに時間は過ぎ去り、元の目指した場所へと辿りつく。

 あんなに不安で怖かったのに、今はこれで冒険は終わりかと悲しく寂しい気持ちになる。

 

 ああ、そうだ。助けたり、助かったりしたんじゃない。私達は、友達になったんだ。

 友達になって、一緒に遊んだ。少しだけ、特別な出会いの中で一生の友達に出会っただけなんだ。それがどんな意味を持つのか、知らないままに……私は彼女の手を握っていた。

 

 

「あーあ、もうこんな時間になっちゃった……今日はもうバイバイだね」

 

「うん……あのね、わたし……また遊びに……」

 

「明日はどこ行く?次はもっと面白い所まで、自転車持ってくるから!もっと遠くに」

 

「っ!!……わたし、自転車乗れない……」

 

「えー、じゃあ練習して行こう。乗れるようになるまでつきあうから」

 

「え、あ……ありが、とう……でもまだこわ」

 

「大丈夫大丈夫、すぐ乗れるコツがあるの教えるから!」

 

「う、うーん……」

 

 

 渋りながらも、どこか嫌そうではない彼女を見て、また明日ね!と約束を交わす。

 沢山の思い出が出来た一日だった。名残惜しいままに、別れの時間が迫ってくる。

 お互い、自己紹介も忘れたままで……なのに連絡先だけはしっかりと伝えて、明日が来るのを浮き足立ちながら待とうとしていた。

 

 だけど、特別な一日はここで終わらない。

 帰った後にも少しだけ続く、本当に特別になったあの瞬間。

 あれだけは絶対誰にも想像出来ない……私だけの気持ち。

 

 

「じゃあ、私ん家ここだから。また明日、同じ公園で」

 

「うん、バイバイまた明日……」

 

 

 ――明日……と言った彼女の顔には影が落ちていた。

 最初は、私と同じで名残惜しい……もっと私と遊びたかったんだと思っていた。

 勝手に連れまわして、どこまで来たのか、どこを通ってここまで来たのか、“わからない”まま家まで来たのに……彼女がどこに住んでいて、どこに帰るのかわからないのに。

 わからないまま、私は別れた。

 

 そのまま何も気にせず、今日あったことを家族に話しながらご飯を食べて、新しい自分の部屋で色んな思いを馳せながら、ふと窓の外を見る。

 

 すると、さっき別れたはずの彼女が、窓から見渡せる場所に座っているのだ。

 

 え?と思った。見間違いかと二度見した。人違いではと、そんな馬鹿な、と。

 でも、さっき別れたはずの彼女はそこにいた。

 少し遠くから見てもわかった。同じ服だし、なんとなく雰囲気でもつかめた。

 

 では、何故まだ彼女はそこにいる?別れて、帰ったはずだ。

 もう外は真っ暗で、電柱の光があるから明るい場所はあっても夜中である。

 動こうともしていないし、俯いてるようにも見える。

 

 行かなきゃ、と思った。思った頃には外に出ていた。

 後ろから家族の声が聞こえたけど、説明もせずに走って彼女の下へ行く。

 

 どうして、どうして?なんで、なんで……と反芻しながら、最初の不安を思い出した。

 私が道に迷って沈み込んでいた時の不安……もしかしたら、まさかと思い疾走する。

 

 そんなに遠くない距離を走り、すぐにも彼女がいる場所へ、再び出会いを繰り返す。

 

 

「あ」

 

 

 と、彼女の方が先に……私が来たことに気づく。

 

 

「ねっ、ハァ……ハァー……ん、ねぇ……大丈夫?」

 

「……」

 

「なんで……どうしたの?なんでここに」

 

「……道がね……わかんなく、なっちゃった……」

 

 

 そう言って、涙を浮かべながらこちらに笑いかける。

 その姿に、「なんで」とか、「どうして」とか、怒りの感情も沸いてきた。

 

 わかんないなら、わかんないなら言えばいいのに!と思い至った所で、私は私を棚に上げているのだと、感覚的にこの時でも気が付いていた。

 

 

「馬鹿!もっと早く言ってよ!!……どうして、別れる時に言わなかったの?」

 

「だって……」

 

「帰れなくてもいいの!?私が気づかなかったら――」

 

「だって!恥ずかしかったんだもん……わたし、言えないよ……」

 

「そんなのっ、私だって――」

 

 

 口走った瞬間、一気に彼女と出会う前の不安や恐怖が、私を襲った。

 涙が滲んで、そんな私を見たあの子も泣きだして、二人してわんわん泣いていた。

 

 すぐに私の親が駆けつけ、何事かと驚きながらも私達は保護された。

 ――我ながら、二人とも馬鹿だったよねって、今は言い合える。

 

 しかし、あの時だ。多分、私にとって特別に変わった瞬間、唯の友達では無くなったあなたとの思い出。

 

 本当は、わかっていたはずだ。あなたは私が迷子だったのを知っていたはずだ。

 

 何故なら、あなたは毎日公園に通っていて、いつもだったら“あなたが座ってる場所に私がいて”、見たこともない子がぼんやり眼で俯いている……わかっていたはずだ。

 

 たとえ、迷子じゃなかったとしても――助けを求めていたのに、気が付いていたはずだ。

 

 優しいあなたが、本当に勇気を振りしぼって声を掛けたのだと、今ならわかるから。

 ああ、そうだ。頑張って、助けようとしてくれたあなたに出会えて、私はとても嬉しかった。

 

 私は馬鹿だったかもしれないけど、あなただけは馬鹿なんかじゃない。

 最後まで、私を不安にさせないように努力していた。

 優しいあなたは、可愛いあなたは、私の一生の友達……特別で、大切な、誰よりも――

 

 ――誰よりも、好きになった。

 

 これはそういう最初のキッカケで、“誰もが簡単にはなれない”友達同士のお話。

 子供の頃から、この先も、もっと先も、ずっと友達でいようねと思えた……幼い頃から記憶に焼きついた気持ち。

 そして、先は続いても、どこまでが友達でいられるのかは知らなかった頃の――

 

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