第4話 決めた自分の行く末
円満師匠との会話から数日、私は殻を砕きちゃんと外へ出た。
今までの趣味を捨てるわけではないけど、母上の面影に浸っている生活はすっぱりやめることにした。
誰かが私に望んだ道なんかじゃなく、私自身が選んだ道。
それがどれ程違うのかは理解している。
人生で選べる物は少ない、ならそれを後悔が無いように進むのが最良の選択なのだろう。
「万葉集はこっちのつづらに入れるけど・・・古今和歌集いれるつづら無いしなぁ・・・・」
母上の部屋にある遺品と私の持ち物を整理し自分の部屋へ持って行こうとしているとき、部屋の外から声がかけられる。
「吉や、忙しそうじゃが少し良いかな?」
「はい、何でしょう父上?」
聞きなれた声に振り向けばそこに立っているのは父上だった。
少し緊張したような面持ちで、こちらを見ている。
「吉よ、そなたもいわの死から立ち直ったようじゃからな・・・その、なんじゃ将来と言うものを聞いておこうかとおもいてな・・・」
言いにくいことを言いきった達成感に包まれている父上を見ながら最後の分かれ道と己の中に問いかける。
『私の進む最良の道はなに?』
歌人や武士、止められるとは思うが農民何て道もある。
けれど私はやっぱり一つ輝く道に見惚れ、足を向けていた。
そう【天下人の軍師】という輝き煌めいていて、しかし流れる星屑のように消えたりしない彗星のような光を持つ道が私の選ぶ道だった。
「父上、その事ならご心配なく・・・私はもののふ・・・それもただのもののふではありません策を用い、敵を欺き、如何に味方を勝利に導くかを左右する軍師になりたいと思います」
「・・・っ! そうかそれならこの小寺家も安泰じゃなぁ・・・」
「そうですね父上・・・」
見ないうちに蓄えていた髭を撫でる父上の見通す先に何となく小寺家は映っていないように思えた。
それから数年私は研鑽の日々を送った。
再び円満師匠の元で算術を学び、その他にも思想や孫子等を学んだ。
城に帰れば我が身を鍛え、それが終われば兵法書を開いて学ぶかまたは、百軒長屋にて物を聞きて兵の使い方を見つけるべく学ぶ。
そして疲労の末に布団へと倒れこむ。
そんなのは日常になりつつある。
「今日も頑張りすぎましたかね・・・?時々は羽休めしないといけませんね」
そう呟いては夢の中へと落ちていく・・・いつか体を壊しかねない無鉄砲さだった。
だからこそ周りもそれを心配し気遣う。
円満師匠はそれとなく気付かぬように休ませ。
「本日はこれにて終わりじゃ、法事があるから教えられぬ。 ささ皆の衆帰られよ」
一緒に訓練をする兵士たちも自分達の上司として心配し。
「吉姫様、本日は日が強うございますゆえ少しばかりでも日陰にてお水をお飲みくださいませ」
そして父親はもっとも顕著であった。
母親を亡くしたならそのぶん強い愛情をと愛を注ぐ為、気遣うことも職高といわの二人を合わせたようであった。
「これ吉や、日々未来を見据えるのもよいことじゃが休むことも大事なことじゃ・・・どれ釣りでもどうじゃ?」
「この戦国の世では他国との接触は絶対にしなければならぬこと・・・ならば風流であろうと外交の手段となりおろう・・・どれ一つ父が茶の湯とはどういうものか見せてやろう」
周りから手厚い後ろ楯を貰いながら私はどんどん知識を蓄えていく。
そこから少しばかり時が進み、吉が十六になった頃。
「やはり戦いの勝ち負けはそれより前の情報で勝ったほうが勝つのかしら?」
行灯の揺らめく光に照らされ少し読みにくい武軽七書を読んでいたとき、不意にゾワッと背を不自然な悪寒が走った。
「なっ何!?」
ついあわてふためき周りを見渡せど感じる恐怖は拭えない。
こう言うときこそ落ち着きをと己に言い聞かせ、耳を澄ませる。
すると障子の向こうの縁側をずるずると着物を床に擦らせる音が耳に入る。
「着物を擦らせる?・・・でも付き人さんたちは擦らせる部分がないしなぁ・・・」
恐怖の中に好奇心とつい、障子に手を伸ばそうとする・・・がしかし、寸前のところでより強く死を思わせるような恐怖が再び背を走る。
まるでその戸を開ければ死ぬのだと忠告するように・・・
だからこそ私は開けることなく声をかけた。
「もし、そこにおわすあなた様は誰でしょうか?」
するとその衣擦れの音は途切れ、代わりにどんな年とでも言えるようなよくわからない声が聞こえた。
「この城に鎮座する刑部姫と言うものなり」
「そうでございましたか。 これはとんだご無礼を、私はこの城に住まわしてもらっている小寺家の吉と言います」
冷や汗を溢しながら私は口を回す。
この会話が途切れてはいけないような気がしたから・・・
「して、その方。 なぜ我を呼び止めた?」
「えぇ、この時間に誰であろうかとそう思いまして声をかけました」
「そうけ・・・ここで呼び止められるのも何かの縁やも知れぬ、どれ聞きたいことを何でも教えてやろう」
前座や興味のような感情で刑部姫様がこうしているのは何となく察せられた。
「では二つほど聞きたきことがございます」
「申してみよ」
以前父上から聞いた刑部姫様の話は、年に一度刑部姫様が城主のもとに現れて話を聞くと言うものだった。
ならば自分で分からない二つの質問を教えて貰おうと口を開いた。
「それでは言わせてもらいます・・・まず私の将来仕える人物は天下人になりますでしょうか?」
「・・・将来お主は幾人かの主君に仕える。 その主君はお主が支えねばなれるかどうかは怪しいものじゃ」
つまりは自分次第と言うことなのだろうか?
二つ目としてこれを聞きたい欲求が溢れかけるが、それでは意味がないと切り捨てる。
「では二つ目の質問です。 私の姿が変わらぬのには理由があるのでしょうか?」
「・・・・・・そうじゃな。 お主が自らを縛り付けておるのじゃ、はよう未来に進みたい!と未来に向けて早く進むように、止まらぬように進むよう自分を縛っておるのう。 カッカッカッ♪」
時が動かないように自分を縛っているのでは無いのかと唖然となる。
移り変わることのないように一つの点に縛っているのでは無かったのだろうか?
「その身体に不満があるか?」
考えを巡らせようとしたときその声によって巡る前に止められる。
「いえ、特には・・・ただもう少し背の丈が無くてはいけないと思ってる次第であります」
「そうけ・・・ならその年にあった背の丈にしてやろう。 じゃからはよう寝れよ?」
「はっ!ありがとうございます」
そう頭を伏せる。
「そうじゃ良いことを教えてやろう。 時間はその一点に留まるものの方がより速く進み、速く進みたいものよりも先にいってしまうんじゃ・・・良かったのう? もう少しあのような生き方をしておればその魂は喰われておったな♪」
刑部姫様はクックックッと含み笑いを残して歩いていかれてしまった。
そして私もじっとりとした脂汗を拭き、火を消し寝所へと入った。