群体最強の超級譚   作:北山 真

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第1章 <下級>編
第1話


□ 【ー】 ディアボロ・モスカ

 

「ふぅ、驚かせるなよな」

 

俺は、座り込んで小さく息を吐いて胸を撫で下ろした。いきなり空中に放り出されて、パラシュートなしスカイダイビングは心臓に悪すぎる。心臓は未だに破裂しそうなほど脈打っているが、少ししたらいつも通りになるだろう。

そして、落ち着いてきたからこそ分かる。この感覚は本物だ。空中から見下ろしていた景色。どこからか聞こえてくる活気のある声。空中から風を切りながら落ちる感覚、心臓の鼓動。地面の土の匂い。味覚だけはまだ分からないが、五感の全てがここにある。

従来のダイブ型VRMMOでは味わえないリアルな感覚がある。その感覚を確かめるように手を開閉したり、立ち上がり深呼吸をしたりしていると

 

「大丈夫か?」

 

後ろから声をかけられた。振り返るとそこには胸当てや脛当てをつけ、右手に槍を左手に丸型の盾を持った茶髪の男性が立っていた。

 

「ああ、大丈夫だ」

「それなら良いが。そこにいられると通行人の邪魔になるかも知れないから脇にずれてくれるか?」

 

俺は周りを見渡し、自分がどこにいるのか確認する。声をかけてきた男性の背後に門と壁が見える。どうやら俺は都市への出入り口となる門の真正面にいるようだ。幸いにも俺の背後には誰もいないようで、通行の邪魔にはなっていなかったが、男性の言う通り、少し早足になりながら門の脇にまで移動する。

 

「それで、どうして門の前に立っていたんだ?」

「いや、ゲームの中でも五感が感じられるから感動していてな。体の感覚を確かめていたんだ」

「ゲーム?なんのことだ。どこか調子でも悪いのか?」

「??」

 

話が噛み合っていない気がする。この世界がゲームだと思っていない?もしかしてこの人はNPCなのか?いや、NPCじゃないな、確かそう…

 

「あんたはティアンなのか?」

「当たり前だろう?君もそうなんじゃないのか?」

 

やはりこの人はティアンだったのか。それにしても会話が普通に成立するとは、NPC高性能過ぎないか?まるでNPCを相手にしてる気がしない。

 

「いや、俺は<マスター>だ。ところであんたはここで何をしていたんだ?」

「そうか、<マスター>なんて珍しいな。俺はここで門番をしているスコットだ。あんたの名前は?」

「俺はディアボロ・モスカっていう。よろしくな」

「こっちこそよろしく。悪そうなやつじゃなくて良かった。不審者に見えたからな」

 

<マスター>は珍しいらしいが、今日発売のゲームなんだからそれも当然か。俺がそう考えて、名乗りながら出した右手を、スコットが槍を左手に持ち直しながら握ってきた。不審者に見えてたそうだが、客観的に見たらそう見えたのか。

 

「すまない。少し質問させてもらってもいいか?」

「ああ、構わないよ」

「ここは商業都市コルタナであっているか?」

「あってるよ」

「じゃあ、ジョブにつくための場所を教えてくれないか?」

「それなら、この門から入って、大通りを500メテル程行けば、職業ギルドが並んでいるから通りがある。その中から自分のなりたいジョブを選んで、転職用のクリスタルを使えばジョブにつける。」

 

ギルドというのは恐らくゲームでよくあるやつだろう。それよりも、

 

「500メテル?メテルってのはどういう単位なんだ?」

「メテルは長さの単位だよ?」

 

そう言いながらメテルの説明をしてくれた。その説明をまとめるとメテル=メートルというみたいだ。

 

「そうなのか。親切にありがとうな」

「なに、これも門番の仕事さ」

 

俺はスコットに右手を挙げてお礼を言いながら門の中へと入っていった。

 

◇◆◇

 

「ふぅ、とりあえずこれでジョブにはつけたな」

 

俺はスコット別れた後、色々な店が並んでいる市場を抜けて、【戦士】の職業ギルドへ行き、クリスタルに触れて【戦士(ファイター)】のジョブについていた。転職できるジョブの数が膨大だったので、選ぶのがめんどくさくなったので、とりあえず汎用性のありそうな【戦士】のジョブについた。【剣士】(ソードマン)【槍士】(ランサー)などがあったところを見ると、戦士というのは色々な武器を使えるジョブなのだろう。

ひとまずはそれを取っておいて、それからの事は<エンブリオ>が孵化してからでいいだろう。

 

「さて、まずはステータスを確認しておくか」

 

俺はそう呟きながら、解説書にあった通り心の中で『メインメニュー』と唱えた。すると俺の前にゲーム画面のようなウィンドウが出現する。

ウィンドウは二分されており、RPGのパーティウィンドウのように右側には俺自身の簡易ステータス、左側には『装備』や『道具』、『詳細ステータス』など様々なメニュー項目が並んでいる。

俺の目当ての詳細ステータスを出すとそこには、

 

 

ディアボロ・モスカ

レベル1(合計レベル1)

職業【戦士】

HP(体力): 103

MP(魔力): 17

SP(技力): 25

STR(筋力): 13

END(耐久力): 14

DEX(器用): 15

AGI(速度): 14

LUC(幸運): 17

 

と写し出されていた。

ステータスの確認を終えて、さてどうするかと考える。チェシャはこの世界は自由だと言った。何をしてもいいのだと。

なので、とりあえず俺の<エンブリオ>を孵化させることから始めるか。

せっかく貰える俺だけの能力があるのなら、早めに孵化させるに越した事はない。チェシャは<エンブリオ>は<マスター>の行動などによって能力の方向性が決まるとも言っていた。俺は出来れば戦闘に役立つような<エンブリオ>が欲しいと思う。なので、とりあえずは

 

「スコットにこの辺で初心者が戦える場所を聞きに行くか」

 

方針が決まったところで、俺は元来た道を歩いてスコットの所へと戻った。

 

◇◆◇

 

スコットの所へと行き、初心者の狩場を教えてもらったが、その答えは…

 

「ここから見える砂漠が<カルディナ大砂漠>と言って、モンスターがかなりの数、生息している。コルタナの近くは弱いモンスターが多いが、あまり遠くまで行きすぎると凶暴なモンスターもいる。気をつけるんだな。後は、耐熱用の外套とか持っているか?砂漠での戦闘は体力を削られるからな、買ってから行くことをお勧めする」

 

との事だった。

俺は初戦闘間近という事で緊張して、戦闘に必要なものを買うのを忘れていたようだ。

スコットに言われた通り、市場の方へと行き、そこで外套と予備のナイフを買っておいた。外套が2000リル、ナイフが2本で2000リルだったので、合計で4000リルとなった。残りは1000リルになってしまった。

リルを稼ぐために、俺は<カルディナ大砂漠>へと足を踏み入れていた。

 

「さてと、どんなモンスターがいるのかな?」

 

初モンスターがどんなモンスターになるか、期待しながら進む。一面が茶色の砂なので、モンスターが発見できるかが少しだけ不安だと思っていたが、コルタナから少し離れたところで、俺は土煙を立てながら動く何かを見た。

その何かの方へと走って行くとそれは

 

「トカゲか?」

 

俺が見つけたのは30cm程の茶色のトカゲだった。すると、向こうもこっちを発見したのか、進路を変えこちらに直進してくる。俺は距離を見計らいながら腰につけたナイフを右手に持つ。トカゲは俺との距離が2メテル程になってから大ジャンプして噛み付いてくる。

 

「ハァッ」

 

短く叫びながら、トカゲを躱して、ナイフをトカゲの胴体に突き刺す。そのまま前に倒れこみながらトカゲを地面に抑えつける。

 

「キシャァァ」

 

と、声を上げながらのたうちまわるトカゲをナイフを離さないように押さえつけると数秒でトカゲが動かなくなり、体を光にしながらドロップアイテムを落として消えていた。

 

「なるほど、こうなってドロップするのか。こういう所はゲームなんだな」

 

このリアルすぎるゲームのことだ。モンスターを自力で解体しなければいけないかとも思っていたが、そんな事はなかったようだ。

俺は納得しながら、ナイフを腰の鞘へと戻してドロップアイテムを確認する。

【オオトカゲの皮】というアイテムを収納カバンにしまい。周りを見渡す。今のところ周りにはモンスターはいないようだ。

 

「よし、どんどん狩りにいくか」

 

<エンブリオ>を孵化させる。その目標を胸に新たなモンスターを探しにいくのだった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

しばらく狩りにして【戦士】のレベルが5になり、そのまま少し狩りをしている時に、俺の左手に異変は起きた。

 

「おっ、遂に来たか!」

 

俺の左手の甲に埋め込まれていた<エンブリオ>の卵型の宝石が消えたのだ。消えた後、卵型の宝石が埋め込まれていた場所には髑髏(どくろ)に蝿の羽が4枚、クロスするように生えているマークが残っていた。これが俺の<エンブリオ>か。

 

「メインメニュー!」

 

本来なら心の中で呟けばいいはずの言葉を、好奇心が抑えきれずに叫んでしまう。そうやって出てきたメニュー画面の詳細ステータス画面を開く。その中にはさっきまでは無かった<エンブリオ>の文字がある。それを開くと俺の<エンブリオ>の詳細画面が表示された。

 

「えっ?」

 

それを見て思わず声を失ってしまう。そこには…

 

【魔蝿群 ベルゼブブ】

TYPE:ガードナー

到達形態:Ⅰ

 

HP:10

MP:1

SP:1

STR:1

END:1

DEX:1

AGI:1

LUC:1

 

ステータス補正なし

『保有スキル』

 

明らかに低すぎるステータスに唖然とした。間違いなく最弱のステータスだろう。これはもしやハズレなのではないか?

 

「ん?『保有スキル』?」

 

ステータスに目を取られていた俺はしっかりと確認していなかったが、ステータスの下の方に『保有スキル』の欄を見つけて、その下に書かれている事をしっかりと読む。

 

『保有スキル』

蝿の群隊(フライ・アーミー)》LV1

マスターのSPを消費することで【魔蝿群 ベルゼブブ】を召喚する。

1SPにつき1体召喚可能。最大展開可能数100体。同時召喚可能数10。

クールタイム:10秒

(アクティブスキル)

 

《ポイズンアタック》LV1

攻撃時、確率で毒状態を付与。確率1%。

(パッシブスキル)

 

《パラライズアタック》LV1

攻撃時、確率で麻痺状態を付与。確率0.5%。

(パッシブスキル)

 

そこまで読みきった後に考える。つまり、俺の<エンブリオ>は大群のエンブリオってことか。それならステータスが低いことも説明がつく。例えHPが10しかなくても100体もいればHPは1000に届く。他の<エンブリオ>などまだ見たこともないので強いかどうかは何とも言えないが…

 

「とりあえずは召喚してみるか。《蝿の群隊(フライ・アーミー)》」

 

考えることも大事だと思うが、とりあえず見て見ないことには何も始まらない。そう思い、スキルを発動させる。すると、左手の<エンブリオ>のマークから体長1センチメテル程の蝿が10体「ぶーん」と、羽音を立てながら飛び出てくる。左手に集中していたからこそ分かるが、普通に見ていたらただの虫にしか見えない。これで本当に戦えるのだろうか?

 

「とりあえず、こいつらを使って狩りの続きと行くか」

 

実際の戦闘に勝る調査はない。そう考えて、とりあえず中断していた狩りを続行することに決めた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

「こいつらは使えるな」

 

戦闘の結果、俺はそう結論付けた。ソロで戦闘していた時よりも早いペースでレベルが上がり、【戦士】はすでにレベル10へとなっていた。明らかなに戦闘の効率が上がったのだ。

その立役者となったのは、やはり【魔蝿群 ベルゼブブ】だった。

こいつらは確かに1匹1匹は弱いが、小さすぎることにより敵モンスターから発見されずに近づける。近づいてからは何度も攻撃する、しかし攻撃力も貧弱なこの蝿のダメージなど、ほとんど入らない。痒いだけだ。鈍いモンスターは魔蝿に気付かないことすらあった。しかし、その気付かれない程の弱い攻撃をくらい続けると、毒か麻痺の状態になってしまう。確率が低いとはいえ試行回数を増やせば、いずれは状態異常にかかる。

毒なら放置して倒す、倒せなくてもHPが減ったモンスターにナイフを振るえば、すぐにHPがなくなる。

もっと酷いのは麻痺になった時だ、麻痺になると敵モンスターはまともに動くこともできなくなる。そうなれば、後は近づいて心臓近くにナイフを突き立てる。生物の弱点はこっちの世界でもかわらないようで、心臓に当たると即死する。当たらなくても、近くを刺していることに変わりはないので、大量出血する。そうすると【出血】という状態異常になりすぐにHPが尽きる。

この戦法で狩りの効率は大きく上がった。この調子でガンガン戦闘に行こうかと思ったが、アナウンスで【空腹】と出ている。どうやら、現実世界の体の方も空腹になっているようだ。

 

「一旦ここまでにしてログアウトするか」

 

俺はメニュー画面からログアウトを使う。再ログイン時のスタート地点を現在地と商業都市コルタナを選べた。少し悩んだが、ドロップアイテムもそこそこ溜まっているので、換金するためにもコルタナを選択して、俺の初ログインは幕を閉じた。

 

◇◆◇

 

現実に戻ってきて、時計を確認する。詳しくは分からないが、向こうの世界に6時間はいた気がするが、針は2時間分しか進んでいない。

 

「体感時間3倍速も本当かよ」

 

つい独り言を漏らしてしまう。それほど衝撃的なのだ。このゲームの謳い文句は間違いなく本当だった。急いで近くのコンビニへ行き、弁当で腹を膨らませようと考える。すぐに家を出ようとしてスマホを取ると、そのスマホに、LI○Eが来ているようだった。

 

「あいつも買ったのか」

 

その内容は俺の友達もInfinite Dendrogramを、買ってプレイしているという内容だった。しかし…

 

「あいつもいい歳のくせして語尾に『クマー』はねぇだろ」

 

ぼやきながら、自分も既に買っていることと、その他の情報を整理して送っておく。

これから面白くなりそうだと、笑みを浮かべて部屋を出た。

 

 

 

 

 




今回の話は、初ジョブ、初戦闘、エンブリオ孵化と盛りだくさんの話になっています。ちなみに【魔蝿群 ベルゼブブ】ですが、モンスターの体が大きいほど気づきません。逆に手のひらサイズのモンスターとかは余裕で気付いて返り討ちにあいます。『クマー』の人は発売日組で、知り合いを誘っているという設定です。イヤーダレダロウナー(棒)
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