群体最強の超級譚   作:自動書記機械4号

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2章を書かせてもらう前に過去話を挟むことにしました。なぜ、蝿のエンブリオになったのか、主人公のパーソナリティなど深めるためです。


外伝
過去話 第1話


 □ 【■■】ディアボロ・モスカ

 

<Infinite Dendrogram>の中で、今日も一日が終わる。

 俺は宿屋で眠る前に、左手を天井に掲げた。

 そこには髑髏から虫の羽が クロス型に4枚生えているマークが付いている。

 俺の<エンブリオ>【魔蝿群 ベルゼブブ】のマークだ。

 俺は時々、この<エンブリオ>について思いを馳せる。

 

 なぜ、蝿のエンブリオなのか。

 

 なぜ、ベルゼブブという名前なのか。

 

 思いを馳せながら眼を閉じる。手を下ろし、ベッドに体を預ける。

 ああ、結局。

 この<エンブリオ>を形作ったのは俺自身の過去なのだ。

 

 2つの過去。

 

 俺と蝿と。俺と両親の話なのだ。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 ああ、俺は夢を見ているのだろう。

 そうでなければありえない。

 

 俺の目の前に小さい子供がいることとか。

 

 その子供の目の前に俺の両親がいることとか。

 

「ジョンはちゃんと天国に行けたかな?」

 

 なるほど。この夢はあの場面か。

 これは俺が小学校に入ってすぐの話。

 両親が俳優で忙しかったため、幼い俺は、家で飼い犬のジョンと過ごすことが多かった。

 そのジョンがこの時、死んでいたのだ。その葬式として、俺の家の庭に埋めていたのだ。

 

「皐月がちゃんと送ってあげたんだから。ちゃんと天国に行けたわよ」

「そうだぞ。ジョンの為にちゃんと祈ってあげたんだろう?」

「うん。ママ、パパ。ちゃんと祈ってあげたよ」

 

 母と父から慰めてもらっている。その時だった。

 ジョンを埋めたあたりから、恐らくは虫の幼虫だと思われる、白くて長細い生き物が地面から出てきていた。

 

「あれナニー。あそこから何か出てきたよ?」

「あれはね。蛆虫と言うんだ。蝿の幼虫さんだよ」

 

 蝿の幼虫など、当時の俺は分からなかった。蝿は蝿として生まれると思っていたのだ。

 

「蝿はね。大昔はね。生まれ変わりの象徴だとされていたんだ」

 

 子供の俺は父親の話をなんとか理解しようと一所懸命に聞いている。

 

「蝿はね。死んだ動物の体に、卵を産んでその体を食べさてもらうんだ。蛆虫はそうやって成長するんだよ」

「じゃあジョンは食べらちゃうの!?」

 

 子供の俺は悲痛な叫びをあげていた。今にも泣き出しそうだ。

 

「さっき生まれ変わりといっただろう。蝿はね死んだ動物の魂をあの世へ運んでくれるんだ。魂を運ぶ為に、死んだ動物を食べて、蛆虫を産むんだ。つまりね、蛆虫は死んだ動物の新しい魂の形と考えられていたんだ」

「けど蝿って汚いよ。虫だよ。そんなものにジョンが生まれ変わってもいいの?」

「その虫を食べて、他の動物は育つんだ。そしてその動物も他の動物に食べられる。そうやって命は回っているんだ」

「???」

 

 どうやら子供の俺にはもう理解しきれないものだったようだ。首を傾げて唸っている。

 

「ははは。今は、難しく考えなくていいよ。命について、一生懸命考えてごらん。自分なりの答えを出せばいいんだ。なあ、母さん」

「ええ。皐月の自由なように答えを出せばいいの。そして焦らなくていいの。私はじっくり考えて欲しいわ」

 

 ここからは記憶があやふやだ。俺は返事をした後、蝿とか蛆とかのことを調べていた気がするが。

 むしろ、この後の小学生の頃は両親の俳優としての仕事に興味を覚えて、仕事場に着いて行くことにしていたからな。

 その後は、子役俳優として活動した。その中であいつにも出会ったのだった。

 

 そこまで考えると視界がぼやけて、風景が切り替わら始まる。ここまで都合よく夢が見られるとは。これは明晰夢というやつかな。

 まあ都合が良いことに悪いことはない。

 風景が切り替わり終わる。

 子供の俺は、さっきまでよりもかなり身長が伸びている。

 その前には、もう1人の子供がいる。

 その子供は、当時天才子役として有名だった。当時の戦隊ヒーローものの追加キャラクターに選ばれたほどだ。

 俺の方も子役のなかでは優秀だったが、いかんせん親が親だ。親の七光り。コネ子役。影で色々言われていたのを思い出す。

 当時の俺は天才子役と呼ばれていたこの子供に、何か言われると思って、少し怯えていたのだ。

 

「何の用?俺はお、お前に、用はないぞ」

「お前の方になくても俺の方にはあるんだ」

 

 相手の発言に、俺の体が強張る。影で言われるのは慣れていた、しかし正面から言われるとなると怖かった。しかし…

 

「俺に、ここら辺の演技の仕方を教えてくれないか?」

「えっ!?君に!?」

「ダメか?」

 

 俺は非常に驚いていた。正直、相手の方が演技は上手かったと思う。そうでなければ俺が戦隊ヒーローものに出演することになっていただろう。

 

「なんで僕なの?僕はコネ俳優とか言われているのに」

 

 今だと、卑屈になりすぎだ、と思う。しかし、相手の言葉でそんな意識は吹っ飛んだ。

 

「お前が、同い年で1番演技が上手いと思った」

「…わかった!一緒に練習してみよう!」

「ありがとう、助かるよ!」

 

 子供の俺の顔がみるみる笑顔になって行く。コネなどではなく、自分の実力を見てくれたと思って嬉しかったのだ。

 後から聞いたことだが、同年代の子供が見ることが多い番組だったので、同年代の子供の意見が聞きたかったらしい。そいつ自身も、嫉妬などを受けていたそうだからな。俺が話しやすかったことと、俺を放って置けなかったこと。その2つの理由から俺に喋りかけた筈だ。

 

「それじゃあよろしくっ!椋鳥修一君!」

「よろしく阿藤皐月君。それと、呼び捨てかシュウでいいぞ」

「じゃあ僕も呼び捨てでいいよ!」

 

 そうやって俺は子役俳優として初めての友を得た。

 

 

 また視界がぼやけて、風景が切り…変わる…

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 色々と場面が切り替わったが、その場面は特別だった。

 特別、俺の心に多くのものを残した記憶だった。

 

 それは両親の葬式のシーン。

 中学生になったばかりの時。仕事場まで2人で車に乗って移動していて、居眠り運転の大型トラックと正面衝突して、俺の両親2人は死んだ。

 

 両親の親族は俺が子供の頃に亡くなっていた。だから、葬式自体は俳優業の関係者に手伝ってもらいながら進行した。

 俺は両親が死んだことの実感が持てずに葬式に出ていた。

 葬式が最後まで済んでも、実感などまるで湧かなかった。

 

「皐月。これから辛いだろうけど頑張ってくれよ」

「ありがとうシュウ…頑張るよ」

 

 シュウに励ましてもらったけど、何がなんだか分からなかった。

 その後、俳優業のマネージャーに家まで送ってもらった。

 

「いいかい?辛くなったらいつでも言うんだよ?いいね?」

「ありがとうございます。俳優業を今後どうするかはキチンと連絡させてもらいます」

 

 俺は答えになっていない答えを告げて家に入った。

 家は何も変わらない。

 ただ、両親がいないことで広く感じるだけだ。

 だが、しかし。それが大きな実感となって

 

 俺は家の広間で泣き崩れていた。

 

 

 しばらく泣いた後、両親に縋り付きたいのかったからか、両親の出演しているドラマをいくつか見ていた。

 見ている。というより眺めている。呆然とただひたすら父親と母親の顔を見ていた。

 その時だった…

 

「いつまでうじうじしているんだっ!」

 

 俺は父親に怒られてしまった。いや、俺が本当に怒られた訳ではない。テレビの中の父が、演じている役が喋っているだけだ。

 しかし、その言葉は呆然としていた俺の意識を覚醒させた。

 

「過去を振り返るのはいい!だが、過去に縛られるのはやめろっ!」

 

 そのドラマは刑事ものだった。両親がはじめて一緒に仕事をしたドラマ。父と母は刑事の同僚で、もう1人の同僚が犯人に殺されてしまった後の場面だった。

 母ともう1人の同僚は、婚約者という設定で、死んだ婚約者のことを思い出して泣いている母を、父が叱るという場面だった。

 

「でもどうしたらいいの!あの人のいない未来なんて!」

「死んだあいつはどう思う!あいつのことを思い。君にずっと辛い思いをさせるのがあいつの望みだというのかっ!」

 

 父のその言葉がその時の俺の心境に強く突き刺さる。

 

「あいつの影を追い、無気力になることが、自暴自棄になることが本当にあいつのためだと思うのか。あいつのことを思うなら。過去は振り返るだけにいておけ。今を見ろ、未来を見据えろ!あいつが望むのは君が幸せになることだろう!いつまでもうじうじするのはやめろ!」

 

 ああ、この時だったか、このセリフだったか。『うじうじする』とは俺のことだと、当時、そのドラマを見ながら感じていた。

 父の母に対するセリフは、俺に対するセリフそのものだと、当時の俺は思っていた。

 

 そして、俺はそのセリフを聞いて少しだけ勘違いをした。

『うじうじする』とは決断できない様子などを表す言葉だが、俺はそれを蛆のことだと思ったのだ。まあ、語源は小さな虫が蠢く様子という話もあるから、あながち間違いでもないのだが。それはともかく、俺は…

 

「そうだ、僕は今『蛆』だ。両親の死体に群がる意地汚い虫だ」

 

 そう、そのままだったらそうだだだろう。両親の遺産(したい)に群がる害虫となってしまっただろう。

 

「僕は両親の魂を運ぶ、蝿にならなければいけない。大人にならなくてはいけない。そう僕は、いいや俺は。天国に行った時に、父と母に正面から顔を見せられるような立派な大人にならなければいかない。そして、幸せにならなければいけない。それが、俺に出来る両親への最大の恩返しだ」

 

 

 その後俺は、俳優業を引退した。学業と家事を両立するために俳優業を一緒にすることは無理だった。他人に家事などをしてもらう気は無かった。そこを他人任せにする人は、俺の目指す立派な大人だと思えなかったのだ。

 そして、俺は頑張って勉強した。良い高校、良い大学に行くために。その途中、シュウが格闘大会で、無茶苦茶な優勝の仕方をしているのを見て、俺も負けてはいられないと頑張って勉強した。

 おかげで、T大の経済学系統の学科に入ることが出来た。

 在学中に、昔俳優業をしていた時の貯金を使い、株取引などで金を稼いだ。

 それこそ、大学卒業後、贅沢しなければ一生過ごせる程度には稼いでしまった。

 まあシュウも「宝くじ当たったからニートになる!」とか言っていた。

 大学卒業後はシュウの買ったマンションに居を移して、株取引で貯金を増やしながら生活を送っていた。

 

 そんな時だったのだ、<Infinite Dendrogram(この世界)>に出会ったのは。

 

 この世界で過ごす日々は輝かしくて、

 

 シュウもいて楽しくて、

 

 時には悲しいこともあるが、

 

 俺は心から笑えていて、

 

 俺は今幸せだ。

 

 だから、母さん、父さん。

 

 俺は貴方達を魂を未来へと繋げれる立派な(オトナ)になれていますか?

 

『『ああ、なれているよ。流石は俺(私)たちの息子だ』』

 

 ああ、両親の声が聞こえた気がした。

 

 それを聞き届けて、俺は夢は夢の世界から現実へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
感想欄にアネデバミ様から、主人公のパーソナリティのことを尋ねられていたので、書かせていただきました。
それに、ここまでの話を読み返して、主人公のキャラ薄くね?と自分で思いまして、そのバックボーンとなる部分を自分で形にするためにもこの話を作りました。
それまでは漠然としたキャラで話を書いていましたので、この外伝を機にキャラをもっと際立たせるよう努力して行く所存です。応援よろしくお願いします。

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