墳墓大戦   作:天塚夜那

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開戦

皇帝のナザリック訪問から一ヶ月後

 

 スレイン法国、バハルス帝国、リ・エスティーゼ王国の三国は、度重なる秘密会談の末、ついに対アインズ・ウール・ゴウン大同盟の前進となる三国防魔同盟を締結。

 周辺国家に加盟を求める信書を送り、ナザリック地下大墳墓に対しては、三ヶ国代表の署名が入った文書が使節団によって届けられた。

 主な文書の内容は、ナザリック側に三国同盟への納税義務や技術開示の要求であり、それは実質的な降伏勧告であった。

 この文書に魔導王アインズ・ウール・ゴウンは激怒。

 使節団を惨殺後、三国同盟に対し徹底抗戦を宣言。ナザリック第一層守備隊を地表部に展開した。

 対する三国同盟側は近隣国家最強である法国は、一時出兵を見送ったものの、帝国、王国が即応、帝国軍四万、王国軍十二万がナザリック地下大墳墓周辺に展開。

 後に一ヶ月戦争と呼ばれる戦いの幕開けである。

 

 

―――――

ナザリック地表部城壁上、ナザリック守備隊指揮所

 

 

 陣幕の中に入ると、待機していたアンデッド達が一斉に跪いた。

 皆今回の戦いで彼の部下として与えられたアンデッド達で、その中でも特に知性の高い個体が集まっている。

 

「皆立て、して状況に変化は?」

「有りませんクリプト殿。しかし、敵側に僅かな動きが」

 

 彼――地下聖堂の王(クリプトロード)に応えたのは、エルダーリッチの一体だ。

 「そうか」と言いながら中央にどっしりと構える巨大な机の前に移動するとアンデッド達も机の周囲に集まった。

 机の上にはナザリックを中心とした地図が置かれ、その上には敵味方の部隊の示す駒が置かれている。

 駒の配置はクリプトが退出した時とほとんど変わっていないが、敵側の駒の数が若干増えていた。

 

「敵の増員か」

「はい。先程までで二度、一度目はエ・ランテルから来た増員でした。二度目は補給部隊でしょう。直ぐに引き返したようです」

 

 クリプトが無言で片手を差し出すと、スケルトンメイジが紙束を乗せた。

 そこには敵の動きが五分おきに細かに記されている。

 

「ふむ……。ようやく敵が集結したという事か。では、そろそろ始まるかもしれんな」

 

 クリプトは視線を前に移す。

 正面の天幕は開かれており、眼下の両軍を一望に収める事が出来る。

 奥に視線を向ければ様々な旗が掲げられた人間共の陣地が見え、手前には無数のアンデッド(同胞)達が布陣しているのが見える。

 アンデッド達はレベルの低い個体ばかりだがこれほど集まると壮観だ。

 

(素晴らしいな)

 

 クリプトがこの景色に、ある種の感動に近い物を感じていた。すると、エルダーリッチが声を掛けた。

 

「そういえばクリプト殿、アインズ様はなんと仰っておられたのですか?」

「うん? ああ、アインズ様からの厳命を賜った。皆、心して聞け」

 

 アンデッド達が再び跪く。

 

「このナザリック地下大墳墓を侵さんとする者に慈悲など無用。圧勝せよ、この一言の他に、言う言葉は無い」

 

『御意!』

 

 

―――――

同盟軍本陣

 

 

「なぜ攻めないのですか?!」

 

 見れば怒声を上げているのは貴族派閥の代表として来ている男だ。爵位はそれほど高くないが武人としてそれなりに実力のある人物である。

 

「王よ、よもやアンデッド風情に臆したのではありませんな?」

「貴様!無礼だぞ!」

 

 今度は王派閥の貴族が対抗するように大声を張り上げる。

 いつもならここから不毛な言い争いが始まるところだが、今日は両者それ以上の発言はせず、睨み合いに終わった。

 理由は自分達の向かい側の席にある。

 そこにはカーベイン将軍をはじめ、帝国の優秀な指揮官達が並んでいた。

 もっともガゼフとしては今更取り繕ったところでなんの意味があると言いたいところだ。

 既にこちらの内部不和は相手に知られているのだから。

 

「確かに、たかがアンデッドにいつまでも手をこまねいている場合ではありませんな。国王陛下、我々はいつでも戦えます。如何されますか?」

 

 カーベイン将軍が武人というより上流貴族のような笑顔で述べる。

 

「お待ち下さい。アインズ・ウール・ゴウンは危険です。安易な行動は慎むべきかと」

 

 ガゼフはこのどこか弛緩した空気に堪らず口を開いた。

 ここに居る者は皆、アインズ・ウール・ゴウンという強大な魔法詠唱者の存在を知っている。

 しかし、いざ戦地に来てみると、待っていたのは下級アンデッドばかりで拍子抜けし、今に至る。

 だが、ガゼフはアインズという人物がただならぬ力の持ち主だと知っている。

 そもそも相手は、ガゼフでさえ勝てるか分からないようなアンデッドを生み出していた男だ。

 そんな相手の軍勢が、下級アンデッドばかりとは思えない。

 

「ガゼフ・ストロノーフ殿。確かに軽率な行動は慎むべきだ。しかし、このままここでじっとしていても何も変わらない。ここは一当たりして、敵の実力を見るべきでしょう」

 

 カーベインの言葉は正論であり、それ故に感覚で反対しているガゼフには返す言葉が無い。

 ガゼフは無言で了承の意を示すと、今まで黙って話し合いを聞いていた王ーーランポッサ三世に目を向けた。

 この軍の実質的な指揮官として、今は踏み止まって欲しいという想いを込めての行動だったが、想いは伝わらなかった。

 

「確かにこのまま何もしない訳にはいかん。全軍の集結が完了次第攻勢を仕掛けよ」




本当は初戦も一話目で書くつもりだったんですが合戦描写をまとめられなかったのでかなり短くなってしまいました。
申し訳ありませんm(_ _)m


そういえばアインズ様以外のアンデッドには感情抑制機能って有るんですかね?シャルティアさんを見てる限り無さそうだけど

ボルテルさん誤字報告ありがとうございます

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