墳墓大戦   作:天塚夜那

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確認ついでに色々書き足してたらいつのまにか文字数が六千超えてた。
ひょっとしたら予定してる最終回より多いかも……
いや、それはダメだね(個人的に)、何とかします。はい。



それじゃ、どうぞ…………


第二戦

同盟軍本陣、初戦から二週間後

 

 

「何を悠長な事を言っているのですか!」

 

 両国代表が集まった会議の場にボウロロープ候の怒鳴り声が炸裂する。

 憤怒に彩られたその顔には、隠しきれない疲労が滲んでいた。

 もっとも、それはボウロロープ候に限ったことではない。この陣幕の中にいる者は皆、一様に同じ状態にある。

 理由は増援の到着と同時期に始まった敵の嫌がらせ(ハラスメント)だ。夜になると死霊などの非実態アンデッド達が恐怖のオーラを撒き散らしにやって来るのだ。その度にたたき起こされていれば疲労も溜まる。

 

「仕方あるまい。兵の士気を回復させんうちは不用意な攻撃は控えるべきだ」

 

 ここに居る者達よりも実際に恐怖にさらされている兵士達の方がら疲労や士気の低下は顕著であり、ウロヴァーナ辺境伯の発言に同意する声が上がる。

 しかし、ボウロロープ候は反論したウルヴァーナ辺境伯に苛烈な視線を向けた。

 

「ふん! 敵の攻撃が止む気配が無い以上、士気の回復など出来るわけが無い。むしろ先手を打って敵に一撃喰らわせるべきだ!」

 

 ボウロロープ候の言葉に先程以上の同意の声が上がった。

 

「では、法国の軍が来るのを待ってみては如何でしょう?」

 

 帝国軍の副官にも同様の視線を向けそうになるがなんとか自制心が勝ったようだ。

 

「ならばお聞きしたい。法国はいつになったら軍を送ってくると言っているのですか」

 

 ボウロロープ候のその言葉で帝国軍の副官は答えに詰まった。それもそのはず、法国は未だ派兵に関する発表を一切出していないのだから。

 

「来るかどうかも分からん増援を待つ余裕なんて無い。違いますかな」

「ボウロロープ候、そのへんに」

 

 レエブン候に諭され、ボウロロープ候は若干不服そうにしつつも矛を収めた。ボウロロープ候が大人しく席に着くのを見届けたレエブン候は奥に座る二人に目を向け、口を開いた。

 

「陛下、カーベイン殿、私も侯爵と同意見です。このまま攻撃を受け続けていては、たとえ法国の軍が来ても満足に戦えません。後手に回るのは避けるべきです」

 

 レエブン候の言葉を受けても二人は口を開かない。

 しかし、表情が雄弁に心中の迷いを物語っていた。

 元々、先の戦闘を経験した者達は法国からの援軍を待つつもりだった。だが、敵の度重なるハラスメント攻撃によって、もはやその余裕は無くなりつつある。

 それはまるで、敵に誘われているような不気味さがある。しかし、増援部隊の言う事も事実だ。このまま手をこまねいていては、ゆっくりと真綿で首を絞められていくのみだろう。

 

 

 

 この後、二時間を超える議論の末、先発隊が増援部隊の意見を飲む形で攻撃が決定した。

 だが、戦列を整えた同盟軍の前に、多様なアンデッドを加えたナザリック守備隊が立ちはだかる。

 

 

―――――

 

 

 負傷者を離脱させ、増援を迎えた同盟軍は総数約三十万五千。

 対するナザリック守備隊は総数三万八千。

 戦力差は十倍近く、一見すると理不尽な戦闘は、先の戦い同様、同盟軍側から進攻する形で始まった。

 だが、以前とは大きく違う点がある。

 先の戦いのような横並びの陣形ではなく、王国兵の大半、二十四万が後衛として待機して槍衾を形成し防御を固め、帝国騎士と王国軍の選抜された部隊、六万五千は前衛として縦隊で整列し、前進を始めた。

 ナザリック守備隊側は同盟軍と同じ縦隊で前進する。

 同盟軍側の雄叫びが空気を震わせ、スケルトン達の骨の体が発生させるカタカタという音が鳴り響く。

 あの時と同じように死霊(レイス)達が飛び立ち、同盟軍の中をすり抜けて行くが、今回は動きを鈍らせる事は出来ても、完全には止められなかった。

 恐怖に対する耐性を持ち、更には信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)による耐性強化も受けていれば、死霊達の恐怖のオーラによる影響をかなり抑え込める。

 そして、両軍の先鋒がぶつかり合い、骨の砕ける無数の音が鳴り響く。

 同盟軍の前衛に配置された重装歩兵達は全身をすっぽり覆う大盾とフレイルを装備していた。彼らはスケルトンを退けつつ、その骨の体を砕き、凄まじい勢いでナザリック守備隊の前衛をすり潰していった。

 更に同盟軍の中段から騎馬隊が飛び出し、ナザリック守備隊の側面から陣形の中を横断するように突撃する。

 しかも、騎馬隊は従来の騎士槍(ランス)ではなく、両手持ちのフレイルやハンマーを装備しており、瞬く間に陣形の中を走り抜け、反転して再突撃を開始した。

 これらの装備は、先の戦いで正規の兵装では効果が薄いと悟ったカーベインが、ジルクニフに掛け合った結果、増援部隊によって持ち込まれた物だ。

 更に、同盟軍の後方から複数の魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が飛び立ち、ナザリック守備隊の頭上から〈火球(ファイヤーボール)〉などの炎系攻撃魔法を連射した。

 魔力によって作られた炎により偽りの生命を焼き尽くされたアンデッド達が次々と崩れ去る。

 

 

 

 戦闘は同盟軍の圧倒的有利に進んだ。

 確かに未だ敵の後衛も中衛も残っている。しかし、現状、同盟軍側はほとんど被害を出していない。このままいけば、どのみち数の差で押し潰すのは容易い。

 容易い、はずだった……。

 前衛の重装歩兵の一人が突然、周りの兵にも聞こえるような大声を上げた。

 

「敵が強くなってる!」

 

 突如、立ちはだかるスケルトン達の動きが変わったのだ。

 ただ闇雲に攻撃しようとせず、こちらが攻撃しようとすると素早く距離を取るようになった。

 いや、動きだけではない。

 先程までのスケルトンは錆びた剣しか持っていなかったが、今目の前に現れたスケルトン達は鎧を着用し、その手には鈎刀(シックルソード)円盾(ラウンドシールド)を装備していた。

 それに、体格も若干良いように見える。

 

骸骨の戦士(スケルトン・ウォリアー)!」

 

 スケルトンの上位種だが能力値はまるで異なり、帝国騎士を上回る程の能力がある。

 だが、重装歩兵達は構わず攻撃する。

 いくら強いとはいえ、今彼らはスケルトンに有効な武装を装備しているうえに、何より圧倒的な数の差があるのだ、力技で押し通れば良い。

 

「ぎゃあああああああ!」

 

 突然、凄まじい悲鳴が聞こえた。

 無論戦闘中なのだ、悲鳴など珍しくない。

 もっともそれが、声を発さないアンデッドの中から聞こえたのでなければ。敵の新手を警戒し声のした方を見れば、アンデッドに見え隠れする一人の重装歩兵が見えた。

 盾もフレイルも持たない手を溺れているかのように振り回しながら、今まさに滅多刺しにされている兵士が。

 たとえ、死を覚悟した兵士であっても、仲間が滅多刺しにされ無残に殺されていく光景を見れば怖気が震う。

 そして、それ以上に何故、あの兵士が敵陣内に居たのかが分からない。

 敵味方が入り乱れる乱戦ならともかく。現状、重装歩兵の後ろに回って来たアンデットは居ない。にも関わらず、あの兵士は何故あんなところにいる。

 困惑している兵士達は、次の瞬間にその答えを知る。

 唐突に盾に凄まじい衝撃が走り、盾を持つ手が弾かれた。

 そして、盾が弾かれた隙間から鈎刀を持つ骨の手が入り込み、その刀身を鎧に引っ掛け、力任せに引っ張った。

 あまりに突然の出来事に耐え切れず兵士は引き倒され、敵陣内に引きずられていく。

 あとは先程見た光景の繰り返しだ。

 絶叫が空気を震わせ、血飛沫が上がる。

 引き倒された兵士の後ろに居た者達は突然の衝撃の正体を――贅肉の塊のようなアンデッドを見た。

 血肉の大男(ブラッドミート・ハルク)だ。

 筋力にあかせて殴る以外のこれといった攻撃手段を持たないが、膨大な体力と再生能力によって同レベル帯ではかなりのタフネスを誇るモンスターだ。

 

 

 

 血肉の大男も骸骨の戦士も本来この様な組織だった事を行う知性は持ち合わせていない。

 では、何故彼らはそれが可能なのかというと指揮官の能力によるところが大きい。

 クリプトが全体を見つつ指示を出し、それぞれの担当を割り振られたエルダーリッチ達が適切に部隊に伝える。まさしく、一つの群体の如き動きは敵に付け入る隙を与えない。

 

 

 

 今まで容易く敵を倒していた重装歩兵達が次々と惨たらしく殺されていき、驚愕の表情を浮かべる同盟軍兵士達に更なる追い討ちがかけられる。

 ヒューーという空を切る音と共に、兵士達に影が射した。

 兵士達は上を見上げるが、その正体を理解するより先に《それ》は落ちて来た。

 そして、吐き気を催す音と共に、爆ぜた。

 爆発によって発生した荒れ狂う負のエネルギーによって周囲の兵士はバタバタと倒れ、負傷したアンデッドは回復していく。

 

 

 

 平原でナザリック守備隊と向かい合う兵士達には、何が起こったのか分からなかった。たが、周囲の丘の上から戦場を見下ろしていた者達はすぐに理解した。

 ナザリック守備隊最後方、弓兵隊より更に後ろに配置された三体の巨人――集合する死体の巨人(ネクロスウォーム・ジャイアント)の内一体が足元に整列する、はち切れんばかりに膨れ上がった身体を持つアンデッド――疫病爆撃手(プレイグ・ボンバー)を投擲したのだ。

 そして、他の二体もその巨体を屈めた事で、今のが始まりに過ぎないという事を物語った。

 

 

 

 そこからは文字通り流れが変わった。

 今まで圧倒的有利な状況にあった筈の同盟軍はどんどんナザリック守備隊に押し込まれていく。

 重装歩兵の盾はすぐさま血肉の大男によって引き剥がされ、殴打武器の配備が間に合わなかった兵士達は骸骨の戦士によって切り裂かれ、そこに投擲(カタパルト)部隊とナザリックオールドガーダー達で構成された選抜弓隊の支援攻撃も加えられる。

 もっとも集合死体の巨人による攻撃は狙いが甘く、敵陣の中央に落ちる事もあれば、味方のスケルトン達の上に落ちる事も、全く見当外れの場所に落ちる事もある。

 しかし、そのリスクを差し引いても、敵の殲滅と味方の回復を同時に行えるこの攻撃は有効だ。

 

 

 

 勿論、同盟軍側もやられっぱなしでは終われない。

 魔力系魔法詠唱者達が敵の後衛を射程に収めようと〈飛行〉の魔法で同盟軍の頭上を飛ぶ。

 だが、あと少しで投擲部隊を射程に収められるというところで。突如、空に一筋の稲妻が走り、先頭を飛んでいた者が貫かれた。

 魔法詠唱者達はその稲妻の正体を瞬時に理解した。と言うより、多少の雲が有るとはいえ、太陽が燦然と輝く中、空へ向けて走る稲妻が自然現象で有るわけがない。

 

「〈雷撃(ライトニング)〉!」

「直線で並ぶな!散れ!!」

「無理に反撃しようとするな。回避に専念しろ!」

 

 すると、魔法詠唱者達の声に答えるように、複数の稲妻が放たれ、幾人かが貫かれた。

 魔法詠唱者達はジグザグに飛びながら発射地点を見極めようとした時、敵の後衛から複数の影が舞い上がる。それは豪華だが古びたローブで、異常なまでに細い身体を包んだアンデッドの魔法詠唱者。

 

死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)?!」

 

 一つの叫び声として表れた驚きの感情は、瞬く間に周囲の者達にも伝播した。

 

「そんな……」

「なんで、エルダー・リッチほどのアンデッドがこんなにいるんだよ?!」

「まずいぞ! このままじゃ下にいる騎士達が」

 

 編隊を組んだエルダー・リッチ達は魔法詠唱者達の更に上方を陣取って、様々な攻撃魔法を連射し始めた。

 対する魔法詠唱者達は部隊を半分に分け、一方がエルダー・リッチに応戦し、そしてーー。

 

「お前らは行け!!」

「なんとしても、敵の後衛を!」

 

 もう一方はそのまま後衛に強襲を仕掛けようとした。

 互いの能力に大きな開きが有る中でこの手段にでるのは半数を犠牲にしてでも敵に一撃を加えようという覚悟の現れだ。

 だが、戦場では覚悟でどうにかなる事など、皆無に等しい。

 接近した魔法詠唱者達に向けてスケルトン・メイジ達から無数の〈魔法の矢〉が雨の如く放たれる。

 破壊力は低いが回避不能の魔法によって、魔法詠唱者達は蠅のように叩き落とされていった。

 

 

 

 一方、二度目の突撃を終えた騎馬隊は何が起こっているのか把握出来ずにいた。

 それでも、先程まで優勢だった筈の自軍が押されているという事は分かる。

 そこで反転して、再び突撃を仕掛けようとした時、騎馬隊の数人が、戦場となっている草原を囲むようにそびえる丘の上に、小さな光を見つけた。

 その光は加速度的に広がっていく。ただ、奇妙なのはその光はまるで、丘の稜線に沿うような形で広がっていくのだ。

 数人が見当違いの場所をじっと見ていたら、周りの者も釣られて同じ方向を見る。こうして、騎兵達全員が戦場とは反対側の丘を見上げながら動きを止めた。

 今この瞬間も、多くの命が失われている状況にあって、彼らはその光から目を離せない。

 何故なら、奇妙な確信に近いものが有ったのだ。自分達はあの光を見たことがある、と。

 そして、光が丘の稜線より高い位置に上った時、光から下に伸びる無数の棒と整列した騎兵を目にした事で予想が現実に変わった。

 光の正体は鋼鉄の刃。林立するハルバードが陽の光を反射して輝いていたのだ。

 そして、突如現れた騎兵達は互いに糸で縫いつけられているのかと思えるような動きでハルバードを構え、突撃してくる。

 

「ウォオオオオオオ!」

 

 突撃の雄叫びと言うよりも、地の底から這い上がる亡者の如き声を上げ、突進してくる騎兵達。

 だが、身に纏う鎧の上には本来あるべき頭部が存在しない。よく見れば、雄叫びを上げている正体は騎士達の腰に結び付けられている腐り始めた生首だ。

 霊馬を駆る首無し騎士(デュラハン)達は、丘を下った際の加速を得て凄まじい速度で帝国騎兵達の側面にぶち当たった。

 

 

―――――

ナザリック守備隊、指揮所

 

 

 至る所に夥しい量の血痕が残り、所々負の爆発によって草が枯れている戦場を見下ろすクリプトは深い満足感を得ていた。

 勝利だ。完全なる勝利である。

 敵は数万を超える死者を出し、その倍近い負傷者を抱えて自陣へと逃げ帰っていった。

 もし追撃していれば蹂躙も殲滅も容易かっただろう。

 無論、こちらも残存戦力の半数を失う事になるだろうが、その程度何の問題もない。

 兵力は明日になればまた最大まで回復できるのだから。

 しかし、軍として無視出来ない深手を負った敵は、もはやまともに戦えるのかすら怪しい。

 正面から戦うなら、少なくとも自国から援軍を連れてくるか、他国の支援を得るしかないだろう。

 

(まぁどのみち戦えない。いや、戦わせんがね)

 

 クリプトはつい先程、主人から実験の締め括りを命じられた際に直接賜った言葉を思い出すと、勝利の喜びを上回るほどの歓喜のあまり顔が自然と笑みを象る。

 

(我らに刃を向けし愚か者どもに力を見せつける。ああ、何と素晴らしい任務なのだろう)




書いててデュラハンはともかく、死体の巨人はナザリックに居ないかもって思ったけど、まぁ第一から第三階層もなんだかんだで広いし居ると信じてる。
デュラハンはユリが居るから存在するのは確実だし、個人的に好きなアンデッドだから登場。(というかユリ姉さん推しです)

さて、ストーリーも大詰めに近づきつつあります。
夜那はこのまましっかり書き切ることが出来るのか(出来なきゃダメだけど)
乞うご期待!


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