墳墓大戦   作:天塚夜那

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宣告(終)

 午前に始まった同盟軍とナザリック守備隊総出の決戦は、昼を迎えるより前に決着がついた。

 勝利したナザリック守備隊は、追撃は行わずに戦利品の収集始めた。敗北した同盟軍は、カッツェ平野に築かれた帝国軍の砦まで後退して行った。

 逃げ延びた同盟軍の内、帝国軍は砦内で、王国軍は砦の外で休息を取る事となった。

 拠点が別れた理由は至極単純で、二十万を超える大軍である王国軍を受け入れられるスペースが拠点内に無かったからであり、同時に、同盟国相手でも、拠点内の機密に触れてほしくないという帝国側の要請のためだ。

 もっとも、理解する事は出来ても、納得出来るかは別だが。

 ちなみに、王国軍が要塞都市エ・ランテルに向かわなかったのは、民間人が巻き込まれるのを危惧した為と、食料庫であるエ・ランテルを戦場にすべきではないという理由からだ。

 

 

―――――

決戦から七時間後、ナザリック地表部中央霊廟前

 

 

 太陽が丘陵の影に沈み始めた頃、アインズは鎧を着用したアルベドとローブを纏ったマーレと共にナザリックの地表部に来ていた。

 辺りを見回すと、周囲ではアンデッド達によって戦利品である同盟軍の武器、防具、物資などが種類ごとに仕分けられている。

 もう一つの戦利品である死体はすでに第五階層に運び終わっていた。

 こちらに気付き、手を止めて跪くアンデッド達に作業を続けるよう言い、束ねられた剣の山からブロードソードを手に取る。

 以前、カルネ村で見たのと同じ、帝国軍の正規品であるただの鉄の直剣だ。

 アインズが手に取った物はまだ綺麗な状態だが、集められた剣のほとんどが折れたり、欠けたりしている。

 その他の防具や馬鎧なども破損している物が多いが、これらの後の使い方を考えれば何ら問題はない。

 

(どのみち、ただの鎧や剣は同じ重さの鉄と同じ価値でしか判断されないからな。まぁ、これだけあっても大した額にはならないだろうけど、アンデッド達の召喚分ぐらいは賄えるか)

 

 剣を元の束に戻すとそれを待っていたようにアルベドが口を開いた。

 

「アインズ様。本当に供は私達だけでよろしいのですか? 予想される脅威を考えますと、御身をお守りするのであれば万全を期すべきでは?」

「何も心配する事は無い、アルベド」

 

 アルベドの言葉に、アインズは毅然とした態度で答える。

 

「この身を守るのはお前達二人だけでも充分だ。それに、これを使ってみるには良い機会だしな」

 

 そう言って、アインズは一本の杖を取り出す。

 その杖は、先端に火が灯り、白木に金の装飾が施された豪奢な物で、名を『太陽王の錫杖』。

 能力は、テキスト通りなら王の軍勢の召喚。

 もっとも、これを手に入れたのは、仲間達が次々と去って行った頃に行われていたコラボイベントの際だったので、詳しい効果はうろ覚えだ。

 杖から視線を戻したアインズは目の前の二人を交互に見る。

 

「それにお前達ほど私の身を守るのに相応しい者は居ない。頼りにしているぞ」

 

「はっはい! 頑張ります!!」

「お任せ下さい、アインズ様! この身に代えましても、何人(なんぴと)たりとも御身には指一本触れさせませんわ!!」

 

 快活な返事を受け、前を向いたアインズは転移門を発動する。

 

 

―――――

同時刻、帝国軍カッツェ平野駐屯地城壁内

 

 

 多くの騎士が天幕の中に籠もってしまっている為、普段は訓練の音などで騒がしい駐屯地内は異様に静かだった。

 そんな中、天幕の間に出来た太い道を騎士の一団が城壁へ向け進んで行く。

 交代する見張りの騎士達だ。

 そして、その一団から離れる騎士が一人。

 騎士はそのまま天幕の間を縫うように進むと一つの天幕の前で立ち止まる。すると、僅かに開いた戸布の隙間から声がかかる。

 

「どなたかね?」

「水を一杯貰えるか? 六人分を白い器に入れてくれ」

 

 答えると戸布がより大きく開かれた。

 中に入ると四人が向かい合うようにして座っている。

 四人はそれぞれ、帝国軍大隊長、給仕、神官、娼婦などの格好をしていた。

 どうやら、この地に潜入している法国の密偵は全員集合しているようだ。

 騎士が空いていた椅子に座ると真っ先に娼婦が口を開いた。

 

「全員集まったね。それでは報告を頼む。まずは会議の結果から」

 

 大隊長の格好をした者が座ったまま答える。

 

「将軍達は一旦皇帝からの命令が下りるまで待機する事にしたらしい。兵を休ませるべき、との結論が出た」

「王国の意見は?」

「あいつらは徹底抗戦派と反対派で延々と内輪揉めを続けてたよ」

 

 そう言うと大隊長はお手上げというように肩をすくめる。

 

「そうか……次、騎士達の様子は?」

 

 それには給仕が答えた。

 

「騎士達は疲弊しきっていたわ。再戦はもちろん、今のままでは、兵力の回復も困難でしょう」

 

 給仕の言葉に続くように椅子に座った騎士が口を開く。

 

「自分も同じ印象を受けました。騎士達は疲弊し、士気はどん底まで落ちています。自分が話を聞けたのは一部隊だけでしたが、七割以上が帰国を望んでいました。ちなみに約三割は騎士団を辞めたい、と」

「やはり、か……では、王国の様子は?」

 

 フードの人物以外が互いに顔を見合わせると神官が代表して答えた。

 

「先程出た通り、貴族の一部は徹底抗戦を唱えている者達も居ます。民兵達は長い行軍で疲れてはいますがそれ以外は別段変化は無いですね」

 

 そして、それぞれが神官の言葉に続ける。

 

「あいつらの事だ、死の騎士を見ても何も感じなかったんじゃないか?」

「その可能性も有りそうね。食事の時も談笑する余裕があるぐらいだったわ」

「緊張感というものがまるで感じられませんでしたからね。――そういえば、そちらはどうでした、何か聞き出せましたか?」

 

 騎士の言葉で全員の視線が娼婦に向く。

 

「情報は無い。と言うより誰一人慰安所を訪れる者は居なかった。流石に戦いの興奮より恐怖が勝ったらしい」

 

 やはり、という空気が天幕内を包む。

 

「まぁ仕方ない。とにかく本国に現状を報告して新しい指示を――やけに騒がしいな」

 

 その時、天幕の外から複数の足音や人の声が聞こえて来た。

 

「何事でしょう? 確認して来ます」

 

 騎士が戸布を持ち上げた時、中に居た全員が異様なものを見た。

 それは光。

 既に日が沈んで随分時間が経つのに《永続光》が置かれている天幕内を照らす程の光が外から入り込んでいる。

 予想だにしなかった事態に中に居た者達は、全員が外に転がり出る。

 どうやら光は駐屯地を囲む防壁のさらに外側から来ているようだ。

 

「こっちへ」

 

 娼婦はそう言うと、置いてあった木箱や荷馬車を足掛かりに、素早く防壁の上によじ登った。そして、他の密偵達もそれに続く。

 

 

―――――

 

 防壁の上に出た密偵達が最初に見たのは、王国の野営地の外に現れた巨大な光の半球だった。

 無数の魔法陣によって構成される半球は、眩い光を放っているが、眩しさを感じる事は無い。現に、この光景を目にした同盟軍からは素晴らしい物を見た感嘆の声が上がっている。

 だが、密偵達には見えていた。

 巨大で美しい、魔法の半球。その中に凝固した、闇を。

 闇の左右には漆黒の鎧を纏った騎士と小柄な人物が付き従っている。そしてその後ろには、銀の騎士達が無数に連なり、跪いていた。

 

「あれが……魔導王」

 

 誰かが呟いた言葉に、皆思わず頷いた。

 そうだ、あれこそ、魔を導く王。

 今まで密偵達が聞かされていた、いくつもの荒唐無稽な情報が、魔導王という一つの言葉の下に繋がった。

 天使を従え、悪魔が服従し、ドラゴンを使役するアンデッドの王。それは正しく王を超越せし王(オーバーロード)だ。

 

「これほどの相手だなんて……本国に知らせて、漆黒聖典の派遣を!」

 

 給仕が突如そう叫んだ。

 恐るべき真実が、彼女の心から理性というものを奪ってしまったのだろう。

 漆黒聖典は存在自体が機密情報だ。それをこんな場所で、しかも密偵が叫ぶなど正気の沙汰ではない。

 周りの密偵達は慌てて給仕を宥めようとした。

 だがその時、半球とは反対の方向から、けたたましい音が響いた。

 バリバリバリバリ!

 それは空を裂く雷の音。

 音の方向に目を向ければ、先程魔導王の後ろに跪いていた銀の騎士達が、剣を手に立っていた。

 銀騎士達の足元の地面は黒く染まり、周囲には焼き焦げた無数の死体が転がっている。

 そして、先頭に立つ銀騎士が手にした槍を掲げて、吠えた。

 

「魔導王陛下の命である! 殺し過ぎず、適度に報いを受けさせよ。この王命に則り、我らは目に着いた者だけを殺す。死を恐れる者は地に伏せ、そして伝えよ! 愚劣な行いがもたらした結末を!!」

 

 すると、銀騎士達は一斉に片手を天に向けて突き上げた。

 だがそれは、勝鬨でもなければ咆哮でもなかった。

 銀騎士達の手に雷が宿る。その雷は形を変え、鋭く長い巨大な槍となった。

 そして、銀騎士達は眩い光を放つ雷の槍を王国の民兵へ向け、無造作に放った。

 無数の雷の槍が空を駆け、再び辺りにけたたましい音が響く。そして再び、民兵達の無数の死体が不毛な大地に転がる。

 すると、今度は王国の方からけたたましい音ーー否、声が響く。

 それは叫び。

 突如現れ、殺戮を繰り返す異常な銀騎士達への恐怖から来る絶叫だった。

 この異様な状況に、民兵達は騎士に助けを求めた。

 王国の民兵達は、背後で斬り捨てられる者達の悲鳴に押されながら、目の前の味方を押し倒し、踏みしだいて、帝国の砦へと殺到する。

 その様を見ていた帝国の騎士達の側から、怒鳴り声が届く。

 

「門を閉めろ!」

「王国の奴らを入れるな!」

「押し出せ! 巻き添えはごめんだ!!」

 

 先程の槍持ちの銀騎士の話しから、巻き添えで虐殺にあうことを恐れた帝国の騎士達は、民兵達を盾で押し返そうとしていた。

 無論、騎士の身体能力は民兵達よりはるかに上だが、押し寄せる民兵達をなかなか押しのける事が出来ない。

 民兵達も生き残ろうと、まるでアンデッドのように門へ押し寄せて来た。

 民兵達と騎士達の間でいくつも血飛沫が上がる。

 その時、民兵達の背後に迫った銀騎士達から眩い閃光が放たれ、その手に巨大な雷が宿る。

 一連の光景を見てきた騎士達はその意味を瞬時に理解した。あの雷は門の内にまで届く、と。

 そして、誰かが叫ぶ。

 

「武器を使え! 殺しても良い!!」

 

 盾を構えていた騎士達は槍を振るい、見張り台に居た者達は後方の民兵達に向け弓を放つ。

 先程までと比較にならないほどの血飛沫が上がった。

 同じ人間に攻撃された。その事実に民兵達の動きが止まる。

 その間に騎士達は武器を構えたまま後退し、同時に門も閉ざされた。

 瞬間、雷の槍が放たれ、立ち尽くしていた民兵達がバタバタと倒れていく。

 人間がゴミのように死んでいくその光景に思わず目を背けた。

 その時、密偵の一人が銀騎士と視線が重なった。

 

「あっ」

 

 間の抜けた声に他の密偵達もその視線を追い、後悔の念に苛まれる。

 全てがゆっくりと流れる時間の中、銀騎士の手に雷が宿った。どこからか仔山羊の声が聞こえる。

 

 

―――――

 

 

 この虐殺の後、エ・ランテルに落ち延びたランポッサ三世は、その場で同盟からの離脱、並びにナザリックに対して全面降伏を宣言した。

 同盟の発起人であった王国が降伏した事で帝国、法国も相次いで降伏。

 一ヶ月戦争は魔導国の勝利で幕を閉じた。

 戦後賠償において、王国は当初の魔導国の要求通り、エ・ランテルを返還。一方で、ガゼフ・ストロノーフをはじめ多くの兵、貴族、民を失った王国の状況を鑑み、賠償金は請求されなかった。

 帝国はカッツェ平野に駐留させていた全軍を撤退させた。その後、新たな同盟を作ろうと奔走するも、カッツェ平野での帝国軍の行動が諸外国に広がり、周辺国家は会談にすら応じなかった。終戦の半年後、帝国は近隣国家で初めて、魔導国の属国となることを宣言した。

 法国はついに戦争への関与を認めず、賠償金の支払いを受け入れなかった。

 その一方で、軍の一部を更迭。事実上の謝罪の意を表明し、魔導国との相互不可侵条約を締結した。

 この後も、魔導国は周辺の国々との間で幾度かの戦争や動乱が発生するが、これらの戦争の中で、この一ヶ月戦争こそ、全ての先駆けと言うべき、極めて興味深い一戦であった。

 

 

――――――――――

最古図書館所属、アエリウス著。

 




今回で「墳墓大戦」は完結となります。ここまでのご愛読ありがとうございました!!

もっと短くするつもりがいつの間にやら自分でもびっくりするぐらい話が延びてしまった
やはり見切り発車の弊害ですかね
それでもどうにか平成のうちに書き上げられてほっとしております

今後も気が向けば見に来ていただければ幸いです

すたたさん誤字報告ありがとうございます
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