ネコ拾ったら、自称未来人から電話が来た   作:菓子子

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十話『exit(0);』

「で、えと……部屋、は?」

「あぁ、もう用意してある……が、埃がな。部屋一面に、埃という埃がかぶさってる始末だよ」

「そかー」

「言っておくが、あんまり部屋は期待すんじゃねぇぞ?」

「お、おう」

 

 別に、パソコン使えればなんでもいいし。……あ、あと、お菓子とか本が置けるスペースがあればなおよし。うん。

 そうじろうが作ってくれたオムライスを完食して、一息つく。うまかった。でも、正直にうまかったって言うのはなんか恥ずかしくて、やめておいた。

 えっと……。

 

「ねー、そうじろう」

「なんだ?」

「部屋って、その……屋根裏?」

 

 私は人差し指を天井に突き上げる。

 ああ、いや。と言って、そうじろうは首を横に振った。

 

「屋根裏はな……実はもう、先客がいる」

「……へ? 先客? ってことはそこに、誰か人が住んでる? ってことか?」

「ああ。今は、出かけてるけどな」

 

 出掛けてる。この時間帯に。

 ってことは、無職じゃない。働いてるか、忍みたいに学校に行ってるか。

 お勤めご苦労。

 ……じゃなくて。

 

「何で?」

「何でって……そりゃぁ、色々さ」

 

 そうじろうはニヒルな笑みを浮かべた。

 どうやら私をはぐらかすつもりらしい。私もナメられたものだな。

 フ。と一つため息をついて、私は言った。

 

「教えたくないなら、別にいい。でも、それは、私の手間が増えるだけ。パソコンで調べたら、それらしい人なんていっぱい出てくる。んでそのうち、特定できる」

「……分かったよ」そうじろうは目を瞑った。「まあ、観察兼、保護者っていう立ち位置だよ、俺。……血のつながりは、ねぇ」

「ふうん……」

 

 観察かー。ってことは、前科持ち?

 でも、そんなことはどうだっていい。

 私は、そうじろうが言いづらそうにしていた言葉が気になった。

 『血のつながりはない』。他は私の目を見て話していたのに、その時だけ、そうじろうはそうじろうの目を逸らした。

 逸らしたってことは、多分、その事実を私に打ち明けることが、そうじろうにとって後ろめたいってことだ。

 その理由を考える。

 分かった。

 分かった瞬間、怒りが込み上げてきた。

 どうして。

 どうして私は助けてくれなかったの?

 どうして名前も知らなかった人をルブランに住まわせたのに、私を引き取ってくれなかったの?

 私はカッとなって、そうじろうに言いたくなる。

 でも、申し訳なさそうに俯くそうじろうを見て、八つ当たりで怒りをぶちまける気力がしゅんとなった。

 私はそうじろうを見る。すると、あの頃と全く変わっていないなと思っていたそうじろうの顔が、途端に老けて見えた。あの時には無かったはずの皺が沢山増えていることに気付く。

 それはただの老化か。でも、その中の一つが、私について悩んだ結果生まれた皺なのだとしたら。

 私は許せる気がした。

 

「にしても、ふけたなー、そうじろう。皺くちゃだ。肌にもツヤがないし。まだ、がんもどきの方がハリ、あると思います」

「な、なんだよ……藪から棒に」

「考えすぎってこと」私は言った。「……伯父さんの家に住んだのは、私が望んだことだから。そうじろうが変に思う必要はない、と私は考える。……あ、あと、そいつを屋根裏に住まわせた理由が、私に対する罪滅ぼしなんだったら、それはそれで的外れだけどな!」

「ふ、双葉、お前、」

「や、まあ、ちょっとはムカつくけど? ……でも、こうやって、私の居場所、見つけてくれてる。だから、問題なし」

「……そうか」

「うん」

「ちょっと、部屋、掃除してくるわ」

「うん……うん!? え、あ、そう?」

 

 そっちこそ藪から棒すぎる。なぜか目元を手で隠したそうじろうは、そのままルブランを出てしまった。

 まあ、そっちの方が都合、いいんだけど。部屋には私と、そして今まで空気と化していたモルガナが取り残される。

 

「さて」

 

 本題に入るとしよう。もちろん、ルブランに来たのはタダ飯にありつくことが目的じゃない。ちゃんとした理由がある。

 

『雨宮蓮のパレスの場所。お前なら、ルブランに行って、適当に佐倉惣治郎から話を聞けば分かるだろう』

 

 私のシャドウが住むパレスの中で、未来の私はそんなことを言ってた。答えを直接言わないで、もったいぶったことを言った未来の私の動機は手に取るように分かる。

 答えが提示されている問題ほど、ナンセンスなものはない。ぶっちゃけ、面白くない。

 あ、でも、ゲームの攻略サイトはめっちゃ見るな……隠しアイテムの場所とか。秘密のルートとか。うーん……まあ、いいや。

 ふん、と私は鼻から息を吐いて、そうじろうから聞いた話を整理する。惣治郎が屋根裏部屋に住まわせている人がいる。そして今はどこかに出かけてしまっている。前科持ちの可能性。未来の私から聞いた、雨宮蓮の経歴と照らし合わせても合点がいく。

 雨宮蓮は、この屋根裏部屋に住んでいる。

 流石にご都合主義的展開に過ぎるか……?

 でも、そんな直感はある。

 まあいいや。ブラフである可能性も高い。だから、答え合わせをしよう。

 テレビは……まあ、別に点けたままでいいや。ニュース番組のテロップには、『蒼山一丁目の高校体育教師、屋上から飛び降り重症』と書かれていた。

 私は席を立って、のそのそと二階に上がる。私のものに比べて、二倍の数の足音が聞こえてくるから、モルガナが私に付いてきていることを知る。

 二階に出た。周りを見渡してみる。

 

「……殺風景だなー」

 

 素直な感想が口に出た。ベッドのシーツに少し皺が出来ていることくらいにしか、生活感を見出すことができない殺風景な部屋。

 小物もない。勉強机には教科書も、小説すらも置かれてない。オラこんな部屋いやだ。

でもこれじゃあ、この部屋に住んでいる人がどんな頭をしているのか、知りたくても知ることができない。

 

「潔癖症? 不要な物を置かない完璧主義者? それとも、こうやって人に侵入されることを予測して、あえて物を置かないようにしている、用心深い人? ……分からん」

 

 ヒントがない。

 じゃあ、チート武器を出せばいいじゃん?

 私は部屋から唯一持ってきたノーパソを一階から持って来て、起動し、画面を開いて、当然のようにそこに鎮座していた『異世界ナビ』のアイコンをパッドでクリックする。すると、キーワードを打つ欄が表示された。

『雨宮蓮』『佐倉そうじろうが経営している喫茶店』『ルブラン』

 

 あ。

 反応があった。

 ……ヌルゲーだな!

 それにしても物事がトントン拍子に進むな。あまりにも上手く行き過ぎている……とかなんとか思ってると、後々フラグになったりするからやめとく。

 後は、雨宮蓮が、このルブランを何だと思っているか、だな……。

 もう一度、周りを見渡してみる。相変わらず何もない。

 では、見ないといけないのは、彼の行動かな。

 未来の私によると、この一週間で、雨宮蓮は『誰か』を屋上から突き落とすらしい。それも、鈴井志帆が飛び降りた場所で。また、他の犠牲者も目立った死に方をしているようだった。雨宮蓮は、こそこそ誰にも見つからないように、誰にも分からない場所で人を殺めることはあまり趣味ではないらしい。

 人を殺すのなら、やっぱり、異世界に人を持ち込んで撲殺するなりするのが、一番足が付きにくいからな。多分。

 では、雨宮蓮が派手なことをする行動原理は何か。目立ちたがり屋? 人に自分である『怪盗』を認知してもらうため? 人々に、悪い人を殺害するショーを見てほしい?

 ショー、か……。さながら雨宮は、サーカスに出てくるピエロみたいだな。道化を演じて、人を操って、殺して、見世物にして、人を喜ばせる。

 いや……ピエロは違うか。ピエロはその人そのものが演じるものだ。雨宮蓮はあくまで裏方。姿を現したことは一度だってない。むしろ演者は吊るされる悪人の方で、雨宮は、そう、

 

「脚本家……か」

 

 世界の『終焉』まで導く、最高のシナリオを描くシナリオライター。そのシナリオを、見せる場所。原点。皆が集まって、見にくる場所。テレビ。ショータイム。スクリーン。画面で踊る演者達。それを他人事のように観ている人。人。観客。皆、最高の結末を期待している。ハッピーエンド。ドラマが終わった時、普通の心を持っている人はいない。寂しいスタッフロールには、雨宮蓮の名前しか出てこない。

 イメージが、光景が、頼んでもいないのに浮かび上がってくる。それはもう、言葉じゃなかった。研ぎ澄まされた集中力の中で生み出された『モノ』を、なんとか後付けの言葉で表しただけだ。頭の中で巡っている言葉も、日本語じゃない。私の中でしか通用しない、私だけ使うことのできる高速言語。

 ……調子に乗ってたら脱線してた。もう答えは出ている。あとはそれを、言葉に直すだけだ。

 

『映画館』

『候補が見つかりません』

 

 あ。

 違った。

 ちょっと恥ずかしくなる。

 では、気を取り直して。

 代替案を考える。

 分かった。

 

『劇場』

 

 候補が見つかりました。だってさ。

 私はドヤ顔で、聞こえているはずのモルガナに言った。

 一瞬の眩暈。ちょっとした吐き気で反射的に、口元を抑える。

閉じた目を瞼越しにグリグリ押してから、私は目を開ける。

 

「……お、おぉ」

 

 劇場……か?

 私が想像していた、コンクリで固めたみたいな劇場とはちょっと違う。

 レンガ……うす茶色9、オレンジ1くらいの割合で配分されたレンガが積み上げられた、横に平べったい円柱状の建物。それを支えている数本の細い柱は、なんだかちょっと頼りない。

 中世……異世界? を彷彿させるようなご立派な劇場は、ここから徒歩数十秒のところで鎮座していた。

 でも、問題はそこじゃない。おかしいのは、あたりの薄暗さだ。不気味。柱と柱の間の空間を確認することができなくて、私の目が悪いのもあるかもしれないけど、暗闇。でも、そんな空洞のどこかに入り口があるのかな。

 

「ほ、ほ……ぅ」

 

 結構ビックリした。この驚きは、向こう一週間経験することのないビックリ度合いだろう。私はそんなどうでもいいことを確認して、立ち上がろうとすると……、

 

「ここが、雨宮パレスか……」

「うひゃぁ!?」

 

 私は尻もちをついた。

 んで、早速驚き度が更新された。

 ビビったわー……ってか、誰?

 私は声がした方を振り向く。

 そこには変な化け猫がいた。

 

「だ……誰!?」

「え? ……ああ、この姿じゃ初めてか。ワガハイはモルガナだ」

「モルガナ……って、え、さっきまで一緒にいた、忍の飼い猫?」

「ネコじゃねぇ……けど、話がややこしくなるから、取りあえずそれでいい……か」

 

 モルガナは悔しそうに顔をしかめた。よっぽど、ネコって呼ばれるのが嫌っぽいな。

 でも、モルガナ。本当に喋ってる。ワンチャン、忍の妄想かもしれないことを覚悟してたけど、話せるんだ。

 

「当たり前だ。話せるし、双葉と話しておきたいことは山ほどある。でも今は後だ。今はパレスを攻略することに集中しろ」

「う……うぃ!」

 

 先導して走ってく(なんか足がグルグルしている)モルガナになすがまま、走らされる私。

 劇場とモルガナとの距離が目と鼻の先になったところで、一つ、気になることができた。

 

「え、えと……モルガナ」

「なんだ?」

「忍は?」

「……忍は、来ない」

「え? ……な、なんで」

「ペルソナが使えないからな。あとは……まあ、色々あるが、実際忍は今、全く戦力にならない。足手まといもいいところだ。だから、ここ当分は……ワガハイと双葉で攻略しなくちゃならないな」

 

 淡々と告げられた衝撃の事実に、私は言葉を失った。

 え……そんな、だって。

 忍は、私を助けてくれるって、言ったのに。

 

「ああ、もう。だから、説明は後だって言ってるだろ? まずは……そうだな、セーフルームに到着してから、ゆっくり話そうぜ」

「で、でも……」

 

 と。

 その時、モルガナは私と話すために後ろを向きながら走っていた。

 だから、目の前に奇怪な姿をした物体が、モルガナの前で待ち構えていることは。

 前を向いている私にしか、分からなかった。

 

「あ、あぶな……モルガナ!」

 

 私が言い終わる前に、モルガナの体は真横に吹っ飛んだ。

 一回地面に打ち付けられながらバウンドした小さな体は柱に突き刺さる。

 柱は崩れていない。でも、柱の上下に走った亀裂は、モルガナへのダメージが大きいことを如実に表していた。

 

「あ……ぐ……」

 

 動けないでいるモルガナ。でも意識は飛んでいないようだ。

 あの時。

 あの時私には、ただ人型の物体が、モルガナの体を軽く払っただけのようにしか見えなかった。

 強い。勝てない。明らかなレベチ。

 それを理解した瞬間、私の足は震えて止まらなくなった。

 柱で項垂れているモルガナを無感情に見やった人型の目は、すぐに私に向けられる。

 次はお前だ。

 そう言っているような気がした。

 

「あ……ぅ……」

 

 あれほど。

 あれほど画面の中だと興奮できた修羅場が。

 私のすぐ目の前で横たわっているのに。

 私は情けない声をあげて、本能的にちょっとずつ、後ずさることしかできなかった。

 

「に、逃げろ……双葉」

 

 私は揺れ動く瞳でモルガナを捉える。

 

「コイツは……ダメだ。今まで会ったどんなシャドウよりも強い。今のワガハイ達じゃ……太刀打ちできねぇ」

「そ、そんなこと……分かってる。けど、」

「だから、逃げろ双葉。今すぐ後ろ向きに走りながら、持ってるノートパソコンを開いて、このパレスから帰還しろ」

「で、でも……それじゃあ、モルガナが……!」

「早く! 追いつかれて……間に合わなく、なるぞ……!」

 

 シャドウが私に近づいてくる。

 その存在感に圧倒されて、私はまた、ひぃ、と口から声が漏れた。

 でも私の足は一向に動く気配はない。

 あまりにも怖くて、動けなかったから?

 多分、違う。

 私の頭はまだ、モルガナと一緒に助かる方法を探していた。だから足はそのままで。

 他の感覚器官を全無視して、私は考えまくる。

 一秒で十分だ。

 モルガナまで走って行くと途中で捕まるから無理。『戦う』を選択すると秒で倒されるから無理。相手の弱点が分からないから無理。一旦ここから出てもモルガナを助けられる保証がないから無理。攻撃を躱そうとしても私の頭よりまず体がついてこないから無理。

 相手の動きはワンパターン。モルガナは軽く手で払われただけで吹っ飛んでいった。現実世界への帰還は恐らく周りの人を巻き込んで帰ることができる。

 考える。考える。考えて、分かる。

 ……よし。

 私は覚悟を決めて、『シャドウのふところめがけて』、走った!

 

「ちょ、双葉!?」

 

 モルガナの声なんて気にしない。

 シャドウは突っ込んでくる私に対処するために、何か構える仕草を取った。

 その行動を見て、私は確信する。

 

「……この勝負、多分もらったぁ!」

 

 私はノートパソコンを展開。適当な文字を打つと、ほどなくして『帰還する』というメッセージが表示される。その表示を確認してから、そのノーパソを閉じて胸に抱えた。

 その時がくる。

 シャドウはモルガナの時と同じように、私を横に払った。当然重さも胸もない私は、いとも簡単に真横へ吹っ飛ばされる。

 

 モルガナと同じ方向に。

 

 衝撃と痛覚に飛びそうになった意識を取り戻す。取り戻して、名いっぱい手を伸ばして、

 

「私の手を、掴めえええええ!!!!」

 

 私は思いっきり叫んだ。

 ノーバウンドで体がX軸方向に平行移動する中。

 私の中指が、モルガナのぷにぷにとした肉球に触れた。

 




明日も投稿したいです。
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