ネコ拾ったら、自称未来人から電話が来た   作:菓子子

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急ピッチで書いたのでちょっと雑いです。ごめんなさい。
また次回からは投稿ペースが遅くなります(多分)。よろしくお願いします(_ _)


十一話『三人目の』

「どあぁあ!?」

 

 肉球の柔らかさを感じて、異世界に来た時と同じ眩暈がして、気づいたらルブランの古い内壁が見えて、そしてそれが迫ってきて、思わず目を瞑って、モルガナもろとも終わった。

 いや、終わってなかった。途切れてない意識の中で私は思う。なにより、壁にぶち当たった時の衝撃があんまりない。

 ホッとして目を開けると、

 

「ぐ……ぐぇ……」

 

 私と壁に挟まれて、ペラッペラの紙切れのような姿になり果てたモルガナがいた。

 

 

 

 

 アキバ。

 そうじろうが与えてくれた部屋で髪を染めた後、そうじろうから貰った多めの小遣いを握りしめて、私はアキバに立ち尽くしていた。

 フ……来てやったぜ、秋葉原。

 地獄の電車の中を耐えて、ようやく来れた秋葉原。胸が踊らないはずがない!

 と、大通りでここAKBに浸っていると、誰かにぶつかった。

 

「あの、邪魔なんですけど」

「ひ、ひ……あ、あぅ」

 

 ごめんなさい。と私が言う前に、その人は雑踏の中に姿を消した。

 途端に、周りの音と目線が気になって来る。情報量の多さに耐えられなくなって、その場でうずくまりたくなる。

 そんな衝動と共に、帰りたい欲がぐんぐんと湧いてきた。さっきまで持っていたはずの勇ましさが、途端にしゅんとなる。

 ……ホントに帰ろうかな。

 私が踵を返そうとすると、おい、とほぼ真下の方から声がした。

 

「おい、双葉。お前、今帰ろうとしただろ」

「べ、べべ、別に? してないし?」

「動揺しすぎだ……。とにかく、わざわざここに来た理由を思い出せ。それから帰るかどうか決めた方が、ワガハイはいいと思うぜ」

「う、うん」

 

 そうだ。ここに来た理由。おさてんの円盤を買うために……いやいや、あれはまた別の話か。

 シャドウと、ちゃんと戦えるようなスキルやパラメータを上げること。やっぱり異世界だから、全パラMAXとかでもいいと思ったんだけど……現実はそう甘くはないらしい。

 圧倒的な力不足。たるみにたるんだ二の腕をプルプルさせて、私はため息をつく。しかし、筋トレで地道にATKを増強するのは、あまり得策だとはいえない。

 

「ねー、モルガナ」

「なんだ?」

「持ってるだけでムキムキになれる伝説の剣とか、ない?」

「ないな」

「そうか……」

 

 それじゃあ剣とか槍とか、筋肉が必要そうな武器を手にするのもダメか。その上で、異世界でシャドウとやり合っていくためには、『あの武器』に特化するしかない、と私は思う。

 と、その前に。

 私は目的地をやり過ごして、サブクエストのために歩き続ける。

 

「お、おい。どこに行くんだ?」

「ヘッドンホホ」と私は言った。「ヘッドンホホを買いに行く」

「ヘッドン……ヘッドホン? 何でだ?」

「首回りが、なんとなく寂しい」

「なんだそりゃ」

「あとお口も寂しいから、ガムも欲しいところだな」

「はぁ?」

「む」

 

 うまいこと言ったって思ったのに。

 モルガナはかなりその辺キビしいらしい。

 

「まあ、ちょっと、付き合って。……モルガナに聞きたいこと、いっぱいあるし」

「あぁ……そうだな」

「一つ」私は前を向きながら、言った。「忍がこないの、なんで」

「さっき雨宮のパレスで言った通りだ。アイツはこちらに協力するつもりはない。ペルソナも使えねえし、ワガハイをお前の所に居候させるだけで、一色に協力したって言い張ってる」

「……なにそれ」

 

 ずるくない?

 まあ、私の他に、ペルソナが使える人(ネコだ)を仲間に出来たのは嬉しいけど……。でも、今までの流れ的に、忍も私たちの仲間になる感じだと、思ってたんだけどな。

 やっぱりちょっと、裏切られた気持ちが残ってる。

 プンプン頬を膨らませていると、モルガナ自身の動機が気になってくる。モルガナは忍の分身じゃないから、忍がしたいこととモルガナのしたいことは違うはず。でも、忍の言うとおりに、モルガナが私に付いてきてくれているのはなんでなんだろ。

 

「モルガナは……忍に言われたことを破ろうって思わないの?」

「いや……そのつもりはねえよ」

「なんで?」

「前にお前にも言った通り、ワガハイは一度忍に助けられてる口だからな。これが忍に対する恩返しだとしたら、喜んで……かどうかはワガハイにも分からないが、ちゃんとしようって、思ってる」

「義理堅い猫なんだな、モルガナ」

「ネコじゃねぇ」

 

 ちゃんと突っ込んでくれるモルガナに、私の口からフッと笑みが零れた。

 でも……恩返しか。猫の恩返し。恩を返すためだけに、世界を救う慈善事業に協力するモルガナ。パッと聞いたところ、ご主人の命令に従う従順なネコのようだけど、私からしてみれば、()()気がする。

 動機が薄いと、すぐどこかにいなくなってしまいそうで。私は不安になる。世界を救うなら、誰かと一緒がいい。一人は、寂しい。あんな思いはもう二度としたくない。

 忍の優しさを知ってしまったから。そうじろうに頼ることを覚えてしまったから。私はここ一日で何かを手に入れて、何かを捨てた。そんな曖昧モコモコな実感があった。

 

「……でも、確かに、双葉に協力する理由としては薄いかもな」

「う」

 

 モルガナは私の心を見透かしたようなことを言った。

 なぜ分かったし。

 

「でも、なんて言うか。上手く伝えられないんだが」

「う、うん?」

「双葉に協力こと……引いては世界を救う手助けをすることが、ワガハイが存在する理由のような、気がするんだ」

「おおう」

 

 モルガナがすごいこと言ってる。

 世界を救うことが、自分のレゾンデートルって。

ラノベの主人公のような、恥ずかしい台詞をのうのうと言ってのけたモルガナは、自分が恥ずかしい台詞を言ったことに気づいたのか、尻尾を器用にクネクネ動かしている。

 

「そ、そっちこそ、どうなんだよ。まさか未来の自分に言われただけで、世界を救う気になっただとか言い出さないだろうな?」

「え。そうだけど」

「えぇ?」

「アリテイに言ったら、だけど。だって今、することないし。高校に行ってお勤めご苦労したくないし。世界を救うために有給取るのは、許される気がする」

「誰にだよ」

「世界に……かな!」

 

 なんつって。

 でも……そっか。

 世界を救うために雨宮パレスを攻略したい。

 と、思っているのは未来の私であって、今の私じゃない。

 から私は別に『未来の私』の言うことを全部聞く必要はない……と割り切るのはちょっと違うと思う。曲がりなりにも、世界を救いたいと思ったのが私自身であるなら、その願望に寄り添ってあげたい。

 それに、無視してテキトーに『うろつく』を選択してゲームオーバーになったりするのも嫌だしな。やっぱり序盤で出会ったゲームマスターの言うことには従うべし。行動の幅を広げるのは、もっとこのゲームに慣れてからでもいいと思う。セーブデータとかないから、リスキーな選択が命取りになったりするから。

 よし。

 私は手ごろなお値段のヘッドホンをしげしげとレジに出して、そうじろうの金で代金を支払った後、立ち寄った電気屋を後にする。採取目的地に着くまで、あともう一話題モルガナと話せるかな。うーん……。

 

「あ」

「なんだ?」

「モルガナって、もう忍のところには行かないの?」

「なんで……そんなこと、聞くんだよ」

「だって、なんか忍と喧嘩してたっぽいから……」

 

 オブラートに包んだ言葉が見当たらず、私は思ったことをそのまま口に出してしまう。

 モルガナは虚を突かれたように一瞬、立ち止まった。何かを考えている。

 でも、モルガナが低い声を出すまで、そんなに時間は掛からなかった。

 

「行かねぇよ。行くもんか、あんなひどいこと言われてのこのこ帰るヤツがどこにいるって話だ」

「ひどいこと……言われたの?」

「ああ。そりゃもう……めちゃくちゃに傷ついた。だから、一生忍のところには行かねぇ」

「……そっか」

「だが」

「え?」

「惣治郎に言われちまったからな。アイツが困ってたら、手を差し伸べてやってくれって。いやー、もう、ホントにしょうがねぇよな。ワガハイは全然行きたくないんだが、でも、ワガハイがいなくて忍が寂しがるだろうし」

「んふふ」

「なんだよ?」

「い、いや、別に」と私は言った。「しょうがねぇ、かな」

 

 言っていると、目的地に着いた。

 店に入って、ギュウギュウに詰められている色んな形の機械を縫うように歩いて、そして、お目当ての『ゲーム機』にたどり着く。

 『ガンナバウト』

 でかでかと立てかけられた看板にはそう書かれてあった。

 私に剣や槍のような前衛武器は扱えない。

 じゃあ、後衛武器を極めることしか、私に残された道はない。

 

「私は、ガンナバウト界の、神になる」

 

 誰も聞いていないのに、私は高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 鴨志田が飛び降り、モルガナが私の元から離れて一日が経った。

 例によって体育の授業で、教室から生徒が掃けてしまっている。鴨志田が飛び降りたから、体育の授業は座学になるのではと予想されていたらしいが、そんなことはなかった。どうやら学校側が、非常勤の講師を雇ったらしい。

 そして私は例によって、机の上に頭を乗せている。起こしてくれる人はいなかった。ついに高巻杏も、私に愛想を尽かしたようだ。

 いや。

 高巻は今日、高校に来ていなかったんだっけ。どころか、救急車で運ばれていく鴨志田がいなくなった後、とりあえず通常通り行われた授業にさえ、高巻は参加していなかった。

 ……というか、どうして授業が普通にあったのだろう。この高校に勤めていた教師が屋上から飛び降りて死んだというのに。

 ドライだ。いや、それが普通なのだろうか?

 分からない。

 突っ伏した体勢のまま周りを見渡してみると、教卓の近くに、ピンク色の紙が落ちていることに気づく。

 なに、あれ。

 気になった私は、身を起こしてその紙を拾う。

『メイド派遣 ビクトリア』

無駄に光沢のある字で、その紙に書かれている。

なに、これ。

わざわざ椅子から立って見に来たのに、以前疑問は解消されない。むしろ、気になることが増えてしまった。

……というか、この紙に写っている人、よく見たら――、

 ――ヴー、ヴー。

 もう少しで名前が出てきそうな気がしたのに、ポケットから伝わるバイブレーションで強制的に集中が削がれてしまう。

 不機嫌になりながらスマホを手に取ると、非通知の電話。

 一色か。

 もう私は手を引いたはずだ。出る必要はない。

 私は無視を決め込んでしばらくすると、スマホは鳴りやんだ。

 ――ヴー、ヴー。

 ……またきた。

 しつこいな。

 そうだ、この際、全てを言ってしまおう。双葉は惣治郎のところに預けられたこと。モルガナを双葉に預けたこと。そしてもう、私に電話をする必要がないこと。

 

「もしもし」

「私だ」

「お前だったのか……」

 

 てか、まだその流れやるのかよ。

 あまりにも自然すぎて、ついつい乗ってしまった。

 

「今何時だ」

 

 機先を制されて、更には私の台詞にも無視して、一色は現在時刻を聞いてきた。

 ……しぶしぶ、私はスマホを確認して、言った。

 

「そうか。じゃあ、そろそろか」

「……? 何の話だ?」

「五分後。初めの犠牲者が出る。屋上から飛び降りて、即死だ」

「え」

 

 ……は?

 

「いや、一色。日にち、間違えてないか? 屋上から飛び降りたのは……昨日の話だぞ?」

「今は一色じゃないけど……まあ、いい。で……えっと……うん、私が記憶し間違えるはずがない」

「……」

 

 待って。

 頭が混乱してきた。

 ……ああ。

 

「あれか。私が一色の話を聞いて行動を変えたから、アイツが飛び降りた日にちも変わった……的な。あの……なんだ、バタフライエフェクト的な、あれだろ」

「違う。前に説明したはずだが、『今の私』は、惣治郎に預けられて、一色姓から佐倉姓になった、お前の冷蔵庫から美味いメロンパンを食べた佐倉双葉のなれ果てだ。だから、バタフライエフェクトを気にする必要は、現時点ではない」

「……いや……だって……」

「……お前、勘違いしてないか?」

 

 勘違い。

 私は、何を、勘違いしているんだ?

 

「鴨志田は死んでいない。鴨志田が飛び降りた原因を作ったのは間違いなく雨宮だが、残念ながら、今も、私が住んでいるこの世界でも、鴨志田はご存命だ。だから、」

 

 初めの犠牲者は、鴨志田じゃない。

 と。

 未来の双葉は言った。

 

「ああ、一応言っておくが、私の電話が遅れたのは、お前に電話した日より前の時間軸に電話する可能性を避けたかったからだ。そうすると、もう一つ平行世界が出来てしまうし、今のお前に電話することが極端に難しくなる。あとは……一人目の犠牲者を救うことは、私や忍の存在が雨宮に知られてしまう可能性がある。だから……彼女が死ぬのを見過ごすことは、目を瞑ってほしい。私達の目的は世界を救うことであって、一介の女子高生を救うことじゃ、」

「あの」

 

 私は一色の言葉を遮って、言った。

 一色の言い訳が聞きたい訳じゃなかった。

 私は。

 

「誰なんだ?」

「行けば、分かるさ」

 

 また、追って連絡する。

 と言って、電話が切れた。

 彼女? 女子高生?

 漏れ出る暗い妄想を抑えて、鞄を持つこともしないで、スマホを握りしめたまま、教室を出る。

 廊下を横切る。夕陽が斜めに差し込んでいる。

 私は隣の棟の屋上を見上げた。

 逆光で前がよく見えない。でも、人影があることは認められた。

 

「う……ぁ」

 

 嘘だ。

 

 何かの間違いに決まっている。

 

 私がそう思ったところで、夕焼けの景色に切り取られたシルエットはその姿を変えようとはしなかった。

 

 では、どこで間違えたのだろう。

 

 そんなことを考えるのも、もう遅い。

 

 高巻杏は。

 

 鈴井志帆が立ち、

 

 鴨志田が立っていたところで、

 

 呆然と立ち尽くしていた。

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