ネコ拾ったら、自称未来人から電話が来た   作:菓子子

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ご感想&高評価ありがとうございます。励みになっています。
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
そしてまた、次話の投稿が一か月後になると思われます。気長にお待ちいただければ幸いです。
また、今までの話の大まかな筋道を、下記にまとめました。ちょっとした展開や伏線などは省いていますので、その辺りはご了承ください。



『忍視点』


小さい頃に惣治郎と出会う


偶然メメントスに入る

モルガナを拾う
高巻との会話を拒否
未来の双葉と電話→現在の双葉を一色家から連れ出す

銭湯で双葉から
『忍が双葉を助けたことで世界が分岐したこと』
『このままだと世界が終焉を迎えてしまうこと』
『雨宮蓮がその張本人であること』
以上3つの説明を受ける
ペルソナを持っていないので、モルガナを双葉に受け渡すことを約束する
双葉を佐倉家に預ける
屋上から鴨志田が飛び降りる所を見る

教室から高巻が飛び出す所を見る
翌日、未来の双葉から電話が掛かってくる
屋上から高巻が飛び降りる。
翌日、川上から鈴井のいる病室を聞き出す
鈴井と話す。鈴井に高巻の死が伝えられていないことを知る
トイレに向かう←イマココ

『双葉視点』


親戚の家で杜撰な扱いを受ける
惣治郎が助けに来ない

忍に助けられる。自身のパレスで、未来の双葉から説明を受ける。ペルソナに覚醒する。

ルブランに向かう。
鴨志田が大怪我で済んでいることを知る
ルブランが雨宮パレスの場所であることに気づく
パレスに入るも、命からがら抜け出す
ガンナバウトの神になることを決意する←イマココ



十三話『ケツイをちからにかえる』

 もし。

 もし高巻に話しかけていたらなんて。

 そんなifの話は、もうこの世には存在しない。

 舞台はもう壊れてしまっている。

 この世界線は。

 失敗なのかもしれない。

 私は変われないまま。

 高巻を救うことができないまま。

 時間だけが忖度もしないで、非情に流れていく。

 

「私の……せいじゃ、」

 

 ない。

 高巻が死んでしまったのは。

 自分の心に言い聞かせる。

 未来の双葉は、第一被害者が鴨志田ではなく、高巻だと語っていた。それは変えられない歴史なのだと。私が手を出そうが出さまいが、決められていたことなのだと。

 頭では分かっていた。

 でも心は、目にいつまでも悲しみを訴えてきて。

 何年振りかの涙が頬を伝った。

 

「………うぅ」

 

 ただトイレの個室で、感情の波が過ぎ去るのを待つだけ。

 声が出せない状況なのが、ただただ辛い。

 それでもなんとか気持ちが収まってきて、スマホを開いて、カメラ機能で自分の顔を確認する。

 

「……こりゃ、ひでぇな」

 

 一々手で目元を拭ったせいで目が腫れ、ギンギンに目が充血している。

 到底出られるような顔じゃない。

 しばらくここで待とうか……。

 

「よぉ」

 

 座っているのにも関わらず、やけに下の方から声が届いた。

 加えて、やけに聞き覚えのある声。生意気さが滲んでいる声。

 

「相当参ってるようだったから、来てやったぞ」

「……ぉ」

 

 オスが女子トイレに入ってくんな。と言おうとした声が掠れる。

 もし言えたとしても、一発でバレていただろう。

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ」

「……よく分かったな」

 

 ため息が漏れる。

 サイレントツッコミが通じてしまった。

 嫌な以心伝心だ。

 

「これからどうするつもりだ?」

「……これから」

 

 何を?

 そもそも私はどうしてこの病院に来たんだっけ。

 思い出す。

 ……そうだ、高巻の思惑を探るために、鈴井に話を聞きに来たんだった。

 しかし、まだ鈴井は高巻の死すら知らされていなかった。

 これから何をすればいいんだろう。

 今更引き返して、『高巻は死んだ』と鈴井に告げて、その上で生前高巻が思っていたことに心当たりがあるかどうかを聞くか?

 ありえない。

 

「なにを、したら、いいんだろうな」

 

 途切れ途切れの言葉で、モルガナに聞こえるかどうかギリギリのボリュームで呟く。

 独り言。

 

「分からねぇよ、そんなこと」

 

 昨日の今日で、何か具体的な案が思い浮かぶ訳がない。

 ある種の本音だった。

 

「そうか」モルガナは一つ区切って、「今までの忍だったら、何をしていたと思う?」と言ってきた。

「今まで?」

「ああ」

「……何もしなかっただろうな。時間が忘れさせてくれるのをじっと待っていたと思うぜ」

「それで?」

「なんだよ」

「今の忍は、どうしたいんだ?」

 

 モルガナは言った。

 まるでカウンセリングを受けているようだった。

 不思議と癪には触らなかった。でも、聞いてばっかのモルガナに、何か言い返したくなってくる。

 

「逆にお前はどう思うんだよ。今の話を聞いて、腹は立たなかったのか?」

「今、ワガハイのことは気にするな」

「気にするなって……都合のいい奴だな」

「だって関係ないだろ。忍の話じゃねぇか」

「……ぐぅ」

 

 ぐぅの音が出てしまった。

 

「それじゃ、飼い猫に手を噛まれる、ならぬ飼い猫に顎で使われる、だ」

「なにそれ」

「と、とにかく、だ」

 

 モルガナは言った。

 

「忍のことは、やはり忍が決めればいいと思うぜ。今まで通り過ごしてもいいし、ワガハイはそれでいいと思う。最終的に双葉に協力しなくたって、一度助けられた身だからワガハイは何も言えねぇ。だから、」

「分かったよ」私は言った。「自分で考えればいいんだろ」

 

 自分のことは自分でする。

 他者に責任を仮託しない。

 今までやってきたことじゃないか。

 だから、それを今まで通りやればいい。

 

「……私は、」

 

 何がしたい。

 何をしなければならない。

 考える。

 信条を盾にして、問題事を避け続けて大人になった自分を。

想像する。

 苦しいこと、辛いこと、面倒くさいことから逃げ続けて。

 でも、その都度生まれた罪悪感は、ずっと胸の中から消えてはくれなくて。

 その現状を打破する勇気もなくて。

 いつしか私は、ダメになってしまうだろう。

 

「そんなの、嫌だ」

 

 時期は遅い。

 でも、遅いなりに何かするべきことがあるはずなんだ。

 今はそう思い込むことしかできないけれど。

 そうでもしないと、自分が許せない。

 

「高巻の真意を知りたい」

 

 どうして高巻は私に話しかけてきたのか。

 どうして高巻は、鴨志田が飛び降りた直後、飛び出すように教室を出て行ったのか。

 知りたい。

 高巻自身と、向き合いたい。

 そして。

 

「私は、変わりたいんだ」

 

 今までの保守的で幼い自分から、新しい自分へ。

 その時。

確かに、自分の奥深くに眠っていた人格が産声を上げた瞬間だった。

 その人格はまだ曖昧で、正体を突き止めることは、今はできないけど。

 おいおい、それと向き合う予感があった。

 個室の扉を開ける。挑発的なモルガナの笑みが見える。

 どうしようもないほどに涙目だっただろう。でも今は、自分のプライドを気にする余裕はない。震える声で私は言った。

 

「だから手伝ってくれ、モルガナ」

「いいぜ」

 

 モルガナは言った。

 

「困った時は、お互い様だ」

 

 

 

 

「ビッグバン・バーガー理論」

 

 机の引き出しに隠れて、モルガナは言った。

 

「なんだそれ」

「どんなに高級で珍しい物を食べても、結局は久しぶりに食べるファストフードの味には勝てないという理論だ」

「嘘つけ」

「バレたか」モルガナは言った。「今日の夕飯、ビッグバン・バーガーを食べたいとワガハイが言えばどうする?」

「嫌だな。他に自炊とかファミレスとかあるだろって思う」

「そういうことだ」モルガナは頷いた。「議論が滞った時、まず一番あり得そうにない案を出す。するとより優れた案が次々に出てくるだろ。それがビッグバン・バーガー理論だ」

「ふむ」

 

 オクムラフーズとしては風評被害以外の何者でもないが、確かに言い得て妙ではある。

 病院から帰ってきた翌日。

 話がまとまらなかった私たちは、学校を休むことはできず、昼休憩の時間を使って話し合うことになった。流石に机に向かってゴニョゴニョ喋ることはできないから、なるたけ小声で話している。幸い教室はまだ鴨志田や高巻や雨宮のことで盛り上がっているようで、私を不審に見てくるクラスメイトはいない。

 

「一番あり得そうにない案、か」私は呟く。

「何かあるか?」

「高巻は鴨志田の後を追った」私は言った。「高巻は鴨志田と付き合いがあった……と、風の噂で聞いたことがある。実際、鴨志田の車に乗って通学している高巻の姿は結構目撃されているらしいからな」

「ほう」

「だから鴨志田が飛び降りた時、気が動転した……これは、私たちが最後に見た高巻の姿と一致してる。そして、そのショックの勢いのまま……高巻は飛び降りた」

「でも、待てよ忍」モルガナは話を止めた。「未来の双葉は杏殿が雨宮の第一被害者って言っていたんだろ? それじゃ、杏殿と雨宮が全然関わってないことになるぜ」

「それは……まぁ、そうなんだけど」頭を掻いた。「双葉が誤認していた可能性がある。それに……あ、」

「なんだ?」

「本当は鴨志田が狙われていて……でも、先に命を落としてしまった高巻が、次第に未来で第一被害者として扱われるようになった……とか。何故なら、鴨志田は死んで……って、鴨志田が死んでないなら後追いしなくていいじゃねぇか」

 

 はい論破。Q.E.D.

 自分で自分の案の粗を見抜いてしまった。

 

「だな」モルガナは言った。「それに……杏殿が鴨志田のことを好いていたとは思えねぇ」

「なんで」

「釣り合ってねーよ。何か鴨志田に、弱みみてぇなものでも握られていたんじゃないのか」

「はぁ」

 

 それは。

 邪推に過ぎると思うけど。

 でも、気持ちは分かる。朝から校門で嫌味を垂れるような奴が、どうして杏を振り向かせることができたのか。

 そっちを考える方が難しい気がする。

 

「だが、これで考える点は整理できたんじゃないか?」

「まぁ……確かに」

 

 私は頷く。

 一つは雨宮とこの事件を関連付けること。

 もう一つは、鴨志田と高巻との関係を考え直すこと。

 

「なら、鴨志田の飛び降りは雨宮が手を下したっていう線は、結構いいんじゃないか?」

「ふむ」

 

 頷く。

 

「モルガナの考えを採用すれば、の話だが」私は前置いた。「高巻は何か鴨志田に弱みを握られていて、付き合いを強要されていた、と」

「ああ」

「その事を、内心高巻は嫌がっていた。だから……ああ、私に相談をしたかったのかも……しれないな」

 

 少し前から。

 高巻はほとんど喋ったことのない私によく話しかけていた。

 それは高巻なりのS.O.Sのサインだった。

 

「なるほど。……だが……、」

 

 モルガナが言いづらそうにしている。

 だから私が引き継ぐことにした。

 

「ああ。私は応じなかった。怪我で苦しんでいる鈴井にも相談することはできなかった。だから……なんだろう」

 

 思考が止まる。

 次の展開が出てこない。

 

「雨宮蓮に頼った」

 

 と。

 私の話を引き継ぐように、モルガナは言った。

 

「そうだ……! そうに違いねぇ。偶然渋谷駅かどこかで高巻と出会った雨宮は、困っている高巻から事情を聞いた。それで……雨宮が手を下したんだ」

 

 そうに違いないかどうかは分からないけど、確かに筋は通っている……気がする。

 でも。

 

「それならハッピーエンドじゃねぇか。高巻が死ぬ理由はないはずだろ」

「ギクッ!」

「……」

 

 ギクッなんて台詞、本当に言う奴なんているんだ。

 

「そ、そそ、それは……ほら、鴨志田は生きてただろ。だから……鴨志田との関係を断ち切れないと思った杏殿はショックだったん、だろ」

「うーん」

 

 まあ。

 悪くはないと、思うけど。

 何かが足りない気がする。

 具体的には、それが自ら命を絶つ動機にはなり得ない、思った。

 もちろん私は高巻じゃないし、気持ちも分からないのかもしれない。

 でも、不愛想を決め込む私に、何度も話しかけてくるほどに神経が図太い高巻の姿を、私は知っている。

 だから、足りない気がしたのだ。

 それに、あくまで高巻が本当に自殺したのかどうかは分かっていないし。

 

「次は?」モルガナは言った。

「うーん……」

 

 煮詰まってしまった。

 結局挙がった案は二つだけ。

 やっぱり今ある知識だけでは限界があるのかもしれない。

 

「聞き込んで情報を増やすか」

「そうだな」モルガナは頷いた。「誰に聞く?」

「うちのクラスの、コンゴ民主共和国出身の留学生の知り合いにでも聞くか」

「忍にクラスメイトの知り合いなんていたのか?」

「まずわざわざ秀尽にはるばるコンゴ民主共和国から来た留学生が本当にいるのかどうかを先に聞け」

「でも実際、広く生徒を受け入れる校風だって誰かが言ってたぜ」

「……まぁ、そうなんだけどさ」

「ワガハイも生徒として認められてぇなぁ~」

「マスコットとしては認められるかもしれないが……」

 

 それはモルガナの本望ではないだろう。

 とにかく。

 全然関係ない生徒に聞き込んでもしょうがない。もちろんコンゴ民主共和国の留学生なんて論外だ。そもそもいない。

 となれば高巻の知り合いか……もしくは、鴨志田が顧問を務めていたバレー部の生徒か。

 周りを見渡す。確かバレー部の……なんだっけ? 二島? みたいな名前の生徒がいた気がしないでもない。

 いた。総菜パンをかじりながら、スマホを見て何やらニヤニヤしている。

 とても話しかけづらい。というか、話しかけたくない。

 しかし背に腹は代えられない。仕方なく席からソロリと立ち上がって、二島のいる席へと向かう。

 

「なぁ」

「え……ええっ、里中さんっ!?」

 

 ボリュームが大きい。

 クラスの注目を集めてしまう。

 

「うるさい。静かにしろ、二島」

「は、はぃ……」

 

 

 「……俺、三島なんだけど……」という消え入るような声は、残念ながら私の耳には届いてはこなかった(メタ視点)。

 周りの注目が散らばったタイミングを見計らって、私は言った。

 

「聞きたいことがある」

「な、なに?」

「単刀直入に言う」

「……どう、ぞ」

「鴨志田の、『あの事件』について何か知ってることはあるか?」

「……え……」

 

 二島の表情が、一瞬色を失った。

 いきなりビンゴか。

 幸先がいい。

 

「べ……べつに……何にも……」

 

 取り繕ってももう遅い。

 あとは、責め立てるような目で二島を見ればいい。

 心当たりのある奴らなら、好きなように解釈してくれる。

 

「……鴨志田が飛び降りた前日」

 

 そして。

 諦めたように肩を落として、滔々と二島は喋り始める。

 

「俺は、彼女を体育準備室に呼びつけるように、鴨志田から頼まれたんだ」

「二島が?」

「いや……はい、二島です」

「なんで」

「なんで……って、俺なんかおかしなこと言った?」

「いや……高巻と二島って、喋ってるとこ見たことなかったから」

「た……高巻さん?」二島は目を開いた?「どうして今、高巻さんの話がでてきたの?」

「え?」

 

 違うの?

 

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