蒼い月   作:雨にんじん

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ギルド『蒼い月』

この世界の4大国家のひとつ、ランスニュイア国の国家公認ギルド。
その戦力は1国と渡り合えるほどの戦力を持っていた。
ギルドマスター"アルテミス"の死後、ギルドは衰退し解散する。

拠点だった酒場宿には、最後のギルドメンバーの1人「オルファリス」が、
アルテミスの子「アテナ」と、戦災孤児で引き取った「パラス」の
二人の少女と一緒に慎ましく暮らしていた。

ある日、助けを求める不思議な声のもとへ、夜中部屋を抜け出し向かう少女たち。
その人物は光る羽根を生やした天使なる存在「ミカエル」であった。

ミカエルは捕らわれた場所から解放してくれた礼として、
パラスには「亡くなった両親へいつか逢わせる事」約束し、
アテナには「パラスの夢を叶える為の運命とチカラ」を授けた。

"血の契約"

そしてミカエルは二人へ忠告する。「この村を離れるように」と。
2人は忠告通り、急いで村を飛び出して山を登る。
振り返ると、彼女たちの育ったエンドラの村は業火に覆われて焼かれていた。

何もかもを失った二人。

そして2人はランスニュイアの女軍兵アストライア大佐に出会い、
使用人として働きながら学び、国に仕える兵を目指すことになった。

ミカエルとの血の契約後から、アテナは食欲を失う。
そんな身体の異変を抱えたまま、生きてゆくために新しい使用人生活が始まる。

**********************************************************************

■アテナ=パルティナ■
短いくせっ毛の栗色の髪。栗色の瞳。男の子みたいな容姿をした少女。
事故死したギルド「蒼い月」のギルドマスター、アルテミスの一人娘。
活発で行動的だが、お馬鹿でお調子者。パラスが大好き。

■パラス=ルイアーナ■
長くまっすぐ伸びた金色の髪。真っ白い肌。人形の様な可愛らしい容姿の少女。
戦災孤児となった後、ギルド「蒼い月」の幹部ゼファに拾われる。
時折我儘な面もあるが、人の話をよく聞く優等生。アテナが大好き。

■オルファリス=ルアイル■
薄氷のような美しい容姿。青色の長髪。青色の瞳。難病を患った女性。
アテナとパラスと3人で、解散したギルド拠点の酒場宿に住んで暮らしていた。
元ギルド「蒼い月」の副マスター。

■ゼファ=ユイオン■
汚らしい身なりの無精ひげを生やした中年男。
難病のオルファリスを気にかけ、酒場によく顔を出していた。
元ギルド「蒼い月」の幹部。

■ミカエル■
超長身の謎の男。自分を大天使と名乗り、アテナと血の契約を交わす。

■アルテミス=パルティナ■
二つ束ねの栗色の髪。栗色の瞳。「群青の月姫」という異名を持つアテナの母。
かつて精鋭ぞろいのギルド「蒼い月」のギルドマスターだったが、
魔法詠唱実験で事故死する。(その後ギルドは衰退し解散。)

■アストライア=クェス■
赤い短髪。赤い瞳。凛とした佇まいに華がある男勝りな女性。
ランスニュイア国の軍兵(大佐)。諜報活動が主な仕事。
アテナとの出会いに運命を感じ、生きる道を示す。

■アヤ=マキナーシブル■
黒色の長髪。褐色肌。アストライアに使える使用人。
常に無表情で正面を見たまま目を合わせずに淡々と喋る長身の少女。
口調も表情も硬いが、利口で気づかいが出来る使用人として優秀な子。

■リゼット=リスタニア■
2つ結びのオレンジ色の髪。八重歯がチャームポイントの可愛らしい少女。
使用人4人の中では最年少。年の割にはしっかり者で仲間想い。
使用人の先輩として、パラスに色々と教えることになる。



死神

激しく降る夜の雨。

 

謎の青年はアテナの手放した短剣を拾い、

仰向けに倒れたまま瀕死であろうアテナへと近づく。

 

その奥でパラスの泣き叫ぶ声を、雨音が無情にもかき消していた。

 

青年は短剣を握りコートから真っ白い腕を振り上げ、

アテナの心臓を目掛けて振り下ろした。

 

 

 

辺りには血が飛び散る。

 

パラスは少し離れた場所からその光景を青年の背中越しに見ると、

何度もアテナを叫びながら両手を地面について泣き崩れた。

 

カランと短剣の落ちる音が微かに聞こえる。

パラスは涙と雨に濡れたグシャグシャな顔を、青年の方へと恐る恐る向けた。

 

次に殺されるのは自分だと恐怖したパラスだったが、何か様子がおかしい。

手で瞳を拭いながらよく目を凝らす。

 

ガクンとその場に片膝をつく青年。

パラスは何が起きたのかよくわからなかったが、次の瞬間理解する。

奥に真っ赤な軍服姿がヒラリと目に飛び込むと、おもわず大声で叫んだ。

 

「大佐!!!!!;;;」

 

アストライアは青年にふるった剣を身構えたまま、ぐったりしたアテナを抱きかかえる。

青年に痛そうな表情はなく、膝をついたままキョトンとした顔つきで首をかしげた。

アストライアが青年に言う。

 

「致命傷ではないが、足の深手だ。動くことはままならんぞ。」

 

アストライアは剣先を青年に向けたままアテナを抱え、パラスの方へと回り込む。

 

「無事か?パラス」

 

「はい;;でもアテナが・・・;;;」

 

そのままアテナをパラスへと預け、青年に鋭い眼光を向けた。

一方青年は後ろ向きのまま、首をコキっと鳴らしてしゃべりだす。

 

「今日ハ、本当ニ厄日でス。消さネバなラヌ、命ガ増エ忙し・・・」

 

アストライアは語り途中の動けないであろう青年の背中に、

肉眼では追うのも難しい程の剣速で切り付けた。しかしその剣は空を切る。

 

姿を忽然と消した青年。

雨は次第におさまり小雨に戻っていくと、シンとした緊迫する空気に包まれた。

 

パラスはアテナを抱きしめ、怯えながらキョロキョロと青年の姿を探す。

アストライアは身構えたまま、その場の工場の屋根上に目を向けた。

 

そこにはユラリと影を揺らし、屋根をきしませて立ち上がる青年が姿があった。

青年は静かにポツリと一言発した。

 

「ナルほド、」

 

アストライアは剣先を青年に指すように向け、言い放つ。

 

「貴様はここで捕まえねばならぬと、私の直感が言っている。殺しはしない。降りてこい。」

 

青年は言葉を返す。

 

「捕まエル?人間の分際デ、思いアガった事を言いマスネ。何時カ報いヲ受けナサイ。」

 

青年は血滴る自分の足を親指で拭い、そしてそれをアストライアを見ながら舐めると、

雨の降る夜の闇へとゆっくり消えていった。

 

青年の気配が消えた事を確認したアストライアはアテナを抱きかかえると、

警戒しながらパラスの手を握って、城へ全力で走り去るのだった。

 

 

 

ランスニュイア城、アストライアの使用する一角。

 

客室で医務員の手当てを受け、眠るアテナの手をパラスはずっと握っていた。

 

部屋のノックが聞こえると、アヤとリゼット、アストライアが入室する。

するとアストライアがパラスへ状況を聞き出した。

 

「具合は大丈夫そうか?何かあれば言ってくれ。すぐに医務を呼びにいく。」

 

「とりあえずは・・・ぐっすり寝てるみたいです。」

 

「そうか。ではあの場で何があったのか話してくれ。」

 

アストライアは客室の椅子に腰を掛けてそう言った。

 

パラスはアーテルから聞いた事件の事。

そしてその後、自分の記憶のある部分だけアストライアに説明した。

アストライアは小さく頷きながら言葉を返した。

 

「その失踪事件については私も知っていて気になっていた。

 出かけた2人が少し心配になってな。少しだけ調査も含めて迎えに行こうと思ったのだ。」

 

「ありがとうございます。大佐が居なかったら私たちは・・・。」

 

「礼はいい。私にとって皆はもう家族みたいなものだ。」

 

アストライアはそう言いながら隣の居るリゼットの頭を撫でると、

リゼットはニコりと嬉しそうに笑顔を返した。

 

アストライアは手を組んで話を続ける。

 

「あの青年を斬り付けた私の剣は、間違いなく彼の足に深手を負わせた手ごたえがあった。

 なのにあの跳躍力。並外れている。おそらく人間ではない。」

 

アストライアはスウスウと寝息を立てて眠るアテナを見つめた。

 

「アテナが無事目覚めたら、更に聞く事がありそうだ。」

 

パラスは虚ろな目で俯いたまま、アテナの手を強く握った。

 

「私、今夜はこのままアテナについてます。」

 

「そうか・・・。無理はするなよ。パラス。」

 

「はい・・・。大佐。」

 

 

 

そこは、青白く輝くきらめく場所。

あたりを見渡すと、美しい水晶に囲まれた世界だった。

 

アテナはどこかへと裸足で向かう。

 

神秘的な気分に包まれる懐かしい感じ。

あぁそうだ。あの時と同じ、わたしはママに逢いに行く。

 

少しだけ心弾ませて、たどり着いた白い神殿の中へ入っていった。

暫く進むと、誰かがそこへしゃがみこんで泣いている。

アテナは心配そうにその人へ声をかけた。

 

「どうしたの?パラス」

 

何故今、自分がその人をパラスと呼んだのかは気にならなかった。

パラスが答える。

 

「私の大好きなアテナが死んじゃったの・・・。」

 

「・・・?w何言ってるのパラス。私ここにいるよ?w」

 

困惑しながら苦笑いでパラスに返答するアテナ。

しかしパラスは依然シクシクと泣いている。

耐えかねたアテナはパラスの肩を掴んで自分に振り向かせた。

 

「ほら!ね?w」

 

パラスは冷ややかな目をアテナへ向けて、口を開いた。

 

 

「あなたはだれ・・・?」

 

 

その言葉に動揺したアテナは、肩を掴んだ手に力を入れる。

すると掴まれたパラスの肩がグシャリと潰れて血を流しだした。

 

慌てて手を放すアテナ。支えを失ったパラスはその場に倒れ込むと、

地面にグシャリと頭をぶつけて血まみれになっていった。

そしてなぜかどんどんと、血だまりをつくる死骸へと変わり果てていく。

 

アテナは激しい動揺と悲しみに、喉を傷めながら叫び声をあげた。

 

「うああぁぁぁぁぁ!;;;パラス!!!!」

 

泣きながら血溜まりをかき集めて、その原型の無い熔けていくものを抱きしめる。

するとどこからか、クスクスと笑い声が聞こえた。

 

「あーあ。パラスちゃん死んじゃったねー。」

 

アテナは涙にぬれたグシャグシャの顔を、その声の方へ向けた。

二つ結びの茶色い髪、八重歯を見せて無邪気に笑う少女がソファへ腰かけている。

さっきの激しい悲しみも忘れ、アテナはキョトンとその少女へ尋ねた。

 

「だれ・・・?パラスの事知ってるの?」

 

少女は答える。

 

「ううん。でもアテナ、あなたのことはずっと見てた。」

 

「私を?どこで?」

 

「此処に来るたびに見ていたよ。あの日から。」

 

「?」

 

話がまったくよくわからないアテナ。

少女はソファから立ち上がると、アテナの方へと近づいてきた。

 

「ねえアテナ、私とずっとここに居ようよ。」

 

アテナは申し訳なさそうに少女に言葉を返す。

 

「ごめん・・・わたしパラスを探しに行かなくちゃ。」

 

少女から笑顔が消える。アテナの顔を覗き込み耳元で言った。

 

「なにそれ・・・うざ。」

 

足元に広がる血だまりを、何度も強く踏みつけながら少女は話続けた。

 

「だってほらパラスちゃん、こん!なに!グチャグチャに!なっちゃってるじゃん!」

 

アテナは再びさっきの悲しみを思い出すと、頬に涙がポロポロと零れた。

すると、アテナの後方から声が聞こえてくる。

 

それは聞き覚えのある安らぐ声。アテナは思わず名前を呼ぶ。

 

「パラス?」

 

後方からやってきたもう1人のパラスは、柔らかくアテナに微笑んで頷いた。

 

「無事だった・・・よかった。パラス;;」

 

パラスは手を差し伸べると、アテナはその手を握りしめた。

その光景に、少女の顔はとても不機嫌になっていった。

そして去っていく2人に言い放った。

 

「私の方がアテナを必要としてるのに!どうせお前ら2人は・・・・・・・・・」

 

・・・

 

・・

 

 

瞼ごしに光を感じると、アテナはゆっくりと瞳をあけていく。

見慣れた装飾の天井。開いている窓からは先ほどの深い悲しみを落ち着かせるかの様に、

爽やかな風がおだやかで安らぐ清々しい気分へと変えていった。

 

隣をみるとパラスが居て、アテナの手を握ったまま眠っている。

 

「パラ・・・ス・・・」

 

扉を叩く音が聞こえると、アヤが水桶をもってやってきた。

目を覚ましたアテナに気が付くと、桶を置いて話しかけた。

 

「アテナ、気が付かれたのですね。本当に良かった;;」

 

アテナは消えそうなかすれ声でアヤへ答えた。

 

「アヤ。わたしなんで・・・ここに・・・?」

 

「アテナが殺されそうになった所を、大佐が救って下さったみたいです。」

 

「わたし・・・また・・・アスさんに迷惑かけちゃった・・・。」

 

アヤは安堵の表情を浮かべ、水桶から濡れたタオルを絞るとアテナの額へのせた。

そして椅子にかけてあった毛布を1枚広げると、それを眠るパラスにふわりとかけた。

 

「パラスはほとんど眠らず、ずっとこのままで食事もほとんど召し上がってないのです。

 アテナ、今は何も考えずにゆっくり休みましょう。パラスの事、後のことも全部、

 私に任せて下さい。」

 

「ごめんね・・・アヤ。」

 

「早くまた元気な姿を見せて下さい。アテナ。」

 

「うん・・・。」

 

そう言うと安心をしたのか、アテナはそのまま安らかに眠りについた。

 

 

その日以降、ランスニュイア城下町内の失踪事件は無くなった。

しかし、それ以前に失踪した被害者たちは今も見つかっていない。

 

アストライアはこの事件について、報告書をまとめ参謀アルベルアに提出すると、

アルベルアは夜の城下町へ、警備兵を巡回させる提案を王に進言する。

王はさっそくその進言通り、町の警備を強化したのだった。

 

 

 

何処かの薄暗い室内。

紅茶を飲みながら窓の外を見つめる男は、椅子に座る人影へ話し出す。

 

「あなたが簡単に死ぬとは思ってませんが、あんまり他国で無茶されても困りますね。」

 

話しかけられた人影は答えた。

 

「コノ国で集めテモ良かッタノデスガ、ソッチの方が私モ都合がイイのデネ。」

 

「ふ。成程、一応私に気遣ったつもりだったのですね。」

 

男はカチャリとテーブルにティーカップを置き、人影の向かい側の椅子に腰かけた。

すらりと伸びる真っ白い手足。右手親指の爪を噛みながら人影は思いついたように語りだした。

 

 

「あア、ソウイエバ。少し気にナル人間ガ居まシテネ。」

 

「ほう。それは?」

 

「今はマダ、小さナ存在デスヨ。いずレマタ逢うデショウ。軍服の彼女モネ。」

 

 

ため息を交えながら男は言葉を返す。

 

「まったく困ったものですね。暫くは大人しくしてて下さいよ?」

 

 

「"フォルテシモ"」 

 

 

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