蒼い月   作:雨にんじん

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ギルド『蒼い月』

この世界の4大国家のひとつ、ランスニュイア国の国家公認ギルド。
その戦力は1国と渡り合えるほどの戦力を持っていた。
ギルドマスター"アルテミス"の死後、ギルドは衰退し解散する。

拠点だった酒場宿には、最後のギルドメンバーの1人「オルファリス」が、
アルテミスの子「アテナ」と、戦災孤児で引き取った「パラス」の
二人の少女と一緒に慎ましく暮らしていた。

ある日、助けを求める不思議な声のもとへ、夜中部屋を抜け出し向かう少女たち。
その人物は光る羽根を生やした天使なる存在「ミカエル」であった。

ミカエルは捕らわれた場所から解放してくれた礼として、
パラスには「亡くなった両親へいつか逢わせる事」約束し、
アテナには「パラスの夢を叶える為の運命とチカラ」を授けた。

"血の契約"

そしてミカエルは二人へ忠告する。「この村を離れるように」と。
2人は忠告通り、急いで村を飛び出して山を登る。
振り返ると、彼女たちの育ったエンドラの村は業火に覆われて焼かれていた。

何もかもを失った二人。

そして2人はランスニュイアの女軍兵アストライア大佐に出会い、
使用人として働きながら学び、国に仕える兵を目指すことになった。

ミカエルとの血の契約後から、アテナは食欲を失う。
そんな身体の異変を抱えたまま、生きてゆくために新しい使用人生活が始まる。

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■アテナ=パルティナ■
短いくせっ毛の栗色の髪。栗色の瞳。男の子みたいな容姿をした少女。
事故死したギルド「蒼い月」のギルドマスター、アルテミスの一人娘。
活発で行動的だが、お馬鹿でお調子者。パラスが大好き。

■パラス=ルイアーナ■
長くまっすぐ伸びた金色の髪。真っ白い肌。人形の様な可愛らしい容姿の少女。
戦災孤児となった後、ギルド「蒼い月」の幹部ゼファに拾われる。
時折我儘な面もあるが、人の話をよく聞く優等生。アテナが大好き。

■オルファリス=ルアイル■
薄氷のような美しい容姿。青色の長髪。青色の瞳。難病を患った女性。
アテナとパラスと3人で、解散したギルド拠点の酒場宿に住んで暮らしていた。
元ギルド「蒼い月」の副マスター。

■ゼファ=ユイオン■
汚らしい身なりの無精ひげを生やした中年男。
難病のオルファリスを気にかけ、酒場によく顔を出していた。
元ギルド「蒼い月」の幹部。

■ミカエル■
超長身の謎の男。自分を大天使と名乗り、アテナと血の契約を交わす。

■アルテミス=パルティナ■
二つ束ねの栗色の髪。栗色の瞳。「群青の月姫」という異名を持つアテナの母。
かつて精鋭ぞろいのギルド「蒼い月」のギルドマスターだったが、
魔法詠唱実験で事故死する。(その後ギルドは衰退し解散。)

■アストライア=クェス■
赤い短髪。赤い瞳。凛とした佇まいに華がある男勝りな女性。
ランスニュイア国の軍兵(大佐)。諜報活動が主な仕事。
アテナとの出会いに運命を感じ、生きる道を示す。

■アヤ=マキナーシブル■
黒色の長髪。褐色肌。アストライアに使える使用人。
常に無表情で正面を見たまま目を合わせずに淡々と喋る長身の少女。
口調も表情も硬いが、利口で気づかいが出来る使用人として優秀な子。

■リゼット=リスタニア■
2つ結びのオレンジ色の髪。八重歯がチャームポイントの可愛らしい少女。
使用人4人の中では最年少。年の割にはしっかり者で仲間想い。
使用人の先輩として、パラスに色々と教えることになる。

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この世界には4つの大国が存在する。


北の国ロードレー。

世界の屈強な戦士達が1度はこの国の兵士を夢見て目指す、大陸一の軍事国家である。
絶対的身分階級制度があり、城の中の階級はもちろんの事、
町民にも収める税の多さによっていくつかの身分が存在する。

制度に逆らう者は容赦なく処罰を受け、見せしめに処刑されることもあった。
また奴隷制度もあり、主に身寄りのない子供達が
最下級身分として売買され強制労働を強いられている。

そんな13代目ロードレー国王が統治する厳しい階級制度だが、
それ以外の法律は穴だらけで、その緩い法を好んで住む人々も多かった。
また"大国最強"という傘の元に集まる人も少なくは無い。

人口も軍事力も大陸1である。


南の国セルクシエ。

魔法を扱う特殊な才を持つ者が仕える魔法大国。
魔法使いとして知識や才能をもつ由緒ある沢山の一族が、
古くより代々国兵として仕え、魔法で国を豊かにしてきた。

幻想的で美しい、魔法の魅力に魅入られたそこに住まう人々もまた、
日々勉強をしながらスキルを磨き、生活を豊かにしている。

そんな夢の様な便利な国に憧れて移住する者もいたが、
才能に恵まれない者は挫折して国を後にする者も少なくは無かった。

過去にロードレーと戦争を起こし大きな損害を受けたが、
ランスニュイア仲介の元、なんとか協定を結び停戦。しかし今も一触即発の状態は続いている。


東の国ランスニュイア。

現在アテナ達が住まう国。
大陸一の技術大国として、工業機器や電子科学等の開発に長けた国である。
元々はセルクシエの才無き流れ者と、ロードレーの厳しい階級制度に反対する人々で
集まった山の上の小さな村であったが、自分達の技術をどんどんと発展させ、
急速に大国にまでと成り上がった歴史が浅い国である。

小規模な国だった当初、そんな素晴らしい技術を狙うのはロードレーだった。
しかしギルド"蒼い月"の存在で手出し出来ず、結局大国に発展するまで時は流れてしまう。

そんなランスニュア国王は代々、
更なる平和と住まう民を第一に考え、技術開発への投資で国を発展させ豊かにしてきた。


西の国イースルー。

国交をすべて断っている孤立した宗教国家。
通貨すらなく、生活する信者は自然と調和した原始的生活を送っている。

人口は少数だが大陸最古の国であり、灼熱の砂漠の中に存在する。
よってそこに住まう信者の暮らしは決して豊かとはいえない。

古より伝わる神伝書や禁断魔法書など、
沢山の書を教えとして神を崇め暮らす謎多き国である。



奇怪

焼け落ちたエンドラの村。

ランスニュイア地域に属するアテナとパラスのふるさとである小さな田舎村。

アストライアは1人でその地を訪れていた。

 

痛々しく焼け崩れた家が並ぶ道を見渡しながら進んで行く。

暫くすると村の奥、アテナの言っていた白い建物の前へと辿り着いた。

 

「ここか・・・村もひどいがこの建物の損傷が一番ひどいな。」

 

地下施設ごと爆破されたような酷い損傷。

瓦礫に混じり飛び散ったガラス片はあるものの、何者かが掃除したような跡も残っていた。

アストライアは書面を広げ、口に手をあて確認する。

 

「ここは化学研究工場の届け出だな・・・一体なんの研究をしていたんだ?」

 

更なる情報を探りにアストライアはその瓦礫の中へ入ろうとしたその時、

地面に散らばったガラス片に動く影がユラリと映った。

アストライアは足を止め、剣に手をかける。

 

「誰かいるのか?」

 

その問いに返事はなく、わずかの時が流れた。

 

「気のせい・・・か?」

 

しかしアストライアは何とも言えぬ気味の悪さを感じていた。

動かず身構えたままで剣に伸ばした手の平がじわりと汗ばむ程、

過去何度も殺気渦巻く修羅場を潜り抜けた直感が危険だと言っていた。

 

張り詰めた空気の中、風の音に混じり虫の羽音が聞こえる。

アストライアは身構えたまま、ジリジリと瓦礫の中へ歩を進めた。

 

暫く進んだその時、

 

当初は気にも留めなかったその虫の羽音が、

突然ありえないほどの大きい音を出して背後から近づいてくる。

アストライアは振り向きざまに高速の抜剣で背後に太刀をふるった。

 

ガキンと固いものを斬った手ごたえと共に、羽音の正体はバウンドして後ろへと転げ落ちた。

人間の頭部くらいの大きさのそれに恐る恐る近づくと、突然甲高い叫び声を発した。

 

アストライアはその正体を目にして驚く。

ワシャワシャと素早く気色悪く足を動かす不気味な巨大昆虫。

羽根と足の一部を痛めたのか、白い体液を傷口から垂らしもがき苦しんでいた。

 

「こいつは一体!!?;;」

 

戸惑いながらも思考を巡らせている隙に、

巨大昆虫はひっくり返った自分をばたつき起こし、

目にも止まらぬ速さでアストライアへ飛びかかる。

 

抜剣も間に合わず、アストライアはとっさに右の利き腕で払いのけようとするが、

その奇怪な昆虫は腕にしがみつき、服ごと腕の肉を噛み千切りだした。

 

一瞬の出来事だった為、状況を把握すると同時に右腕に激痛が走りだす。

アストライアは噛みついたままの昆虫の背を逆の手で掴み、

自分の肉ごとブチブチと引きはがすと宙へと放り投げた。

そして昆虫が地面に着地する前に、俊足の剣をブスリと突き刺した。

 

突き刺された昆虫は再び奇怪な声を発すると、

もがき苦しみ次第にその動きが鈍くなっていく。やがて絶命した。

 

剣を握る腕から大量の血がボタボタと流れている。

アストライアは負傷した腕を押さえ、その場に膝をついた。

 

「っく・・・私とした事が・・・。とりあえずこの生物を持って城へ・・・。」

 

しかし突き刺したはずの剣先を見ると、謎の生物は黒い灰となり風に散り消えた。

その生物が一体何なんだったのか。アストライアは手がかりを得ぬまま城へ帰還する事にした。

 

「このエンドラの村が焼け落ちた原因・・・いまの生物と何か関係があるのか・・・?」

 

 

 

ランスニュイア城。

 

謹慎のとけたアテナは当番の合間、気晴らしに見晴らしのいい胸壁へとこっそりやってきた。

窓とはまた違うこの絶景に、ゆっくりと風に吹かれて歩きながら魅入られていると、

城への用事で門に並ぶ荷物を抱えた町民達が点々と見えくる。

 

「へーお城にはいっぱい人が来るんだなー・・・。」

 

短身のアテナは、つま先立ちで首を伸ばし城壁の外眺めると、

何やら城門の方で慌ただしいような雰囲気に包まれていた。

何かあったのか、はっきりと確認出来なかったが様子を伺っていると、

誰かがアテナへと突然背後から声をかける。

 

「そんなに身を乗り出したら危ないよ?」

 

その声を見張りの兵だと勘違いして怒られると焦ったアテナは、手を滑らせバランスを崩した。

 

「あわ!わわわわわ;;;」

 

「危ない!」

 

落ちそうになったアテナの腕を、その人物はとっさに掴んで事無き事を得た。

 

「ご・・・ごめんなさい!」

 

「どういたしまして。君は街の子?こんな所に居たら門兵に怒られちゃうよ。」

 

アテナが想像していた大人の兵とは明らかに違う身丈と声。

まだあどけない青年が、そう笑顔で答えた。

どうやら怒られる感じじゃなさそうだと、アテナはほっと胸をなでおろしながら答えた。

 

「私はアス・・・偉い人の使用人!あなたは?」

 

「僕はここの・・・」

 

少年は言葉に詰まった様子でしばらく沈黙し、言葉を続けた。

 

「・・・開発者だよ。」

 

アテナはその少年の話を首をかしげて返答する。

 

「開発者?なにか作ってるの?」

 

少年は空を見上げ指さしながら答えた。

 

「飛行船だよ。空を飛ぶ船。それを作るのが僕の夢・・・仕事かな。」

 

「空・・・?」

 

「うん。」

 

この広い大空を鳥のように自由に飛び回れたら・・・。

そんな夢の様な話を青年は目を輝かせて話している。

アテナは少年の指差した大空をしばらく呆けて眺めながら答えた。

 

「魔法は?魔法を使えば空も飛べるんじゃないの?」

 

「確かに。でもそれは魔法の才ある一部の人たちだけ。才能が無ければダメだし、

 なにより南の国セルクシエ国内以外での魔法詠唱は禁止されているんだ。

 限られた資格のある人以外、許可なく魔法は使うことはできないんだよ。」

 

アテナは栗色のボサボサ頭をボリボリとかいて口をへの字にまげ答えた。

 

「へえ。そうなんだー難しいねー。。。」

 

青年はアテナの仕草にクスリと笑うと、また空を愛おしそうに眺めた。

アテナはもう少しこの清々しい空や風に包まれて居たかったが、

使用人としての自分の仕事を思い出す。

 

「ごめんそろそろ戻らないと怒られるかも。あーえーと・・・。」

 

「?」

 

「名前・・・。」

 

「ああw僕は・・・ビスケット。」

 

「わたしはアテナ。またね!ビスケット!お仕事頑張ってね!」

 

「ありがとう。君もね。アテナ。」

 

「うん!」

 

アテナは笑顔で返事をすると、駆け足で城内に戻っていった。

 

 

アテナが城内へ戻ると、

パラスとリゼットは何やら忙しそうに慌ただしく走り回っている。

戻って来たアテナを見つけアヤは小走りで駆け寄ってきた。

 

「どこへ行ってたんですかアテナ、大変です;;」

 

アヤの普段の鉄壁ポーカーフェイスもオロオロと歪んでいる。

アテナはその事態にただ事ではない空気を察知した。

 

「何かあったの・・・?」

 

「大佐が・・・腕に大怪我を負って帰城されたのです;;」

 

そのアヤの言葉に目を見開いてアテナの表情が凍り付いた。

 

「出血がひどいので、リゼとパラスが大佐の応急手当をしています。私が行こうと思いましたが、

 アテナが医務担当の方を呼んできてください。場所はわかりますね?」

 

オロオロと混乱して頭が回らないながら返事をする。

 

「う・・・うん!わかった!」

 

 

 

しばらくの時が流れた夕暮れ時。

 

アストライアが手当てを受けている客室扉の外で、アヤは不安そうに待機をしていた。

パラスとリゼットは夕食の支度に、アテナは浴室の支度へとそれぞれ仕事に向かっていた。

 

客室の扉がひらき、白衣姿の医務員フィートが部屋から静かに出ると、

不安な顔いっぱいで駆け寄るアヤの頬をなで、しゃがんで優しく微笑んだ。

 

「しばらくはお休みが必要ですね。大丈夫♪いっぱい栄養付けて、

 安静にしていればちゃんと良くなりますよ。今は寝てるから、後は宜しくお願いね。」

 

「はい。。。」

 

不安は消えた訳ではないが、ひとまず安堵の表情を浮かべるアヤ。

心配そうに扉に手をかけ、部屋の中のアストライアを気にかけていた。

 

夜も更けて、フクロウが無く頃。

未だ部屋の外で立ったまま、入室出来ずにいる辛そうな表情のアヤに、

食事の支度を終えたパラスがやってきて声を掛けた。

 

「アヤ?大佐の具合は?」

 

アヤはフィートに言われた言葉をパラスへと伝えた。

 

「そう・・・とりあえずよかった。食事できたよ?たべよう?」

 

アストライアの事で頭いっぱいの様子のアヤは、空返事で答えた。

 

「そう・・・ですね・・・。」

 

パラスはそんな様子のアヤに気を回す。

 

「あ、その前に大佐の食事も台車に用意してあるから、様子見がてら届けてくれる?」

 

そのパラスのお願いに、アヤは大きく頷いて返事をした。

 

 

 

良い香りが漂わせるスープと香ばしいパンを台車に乗せ、

アヤはアストライアの休む客室の扉を叩いた。

 

しかしやはり休んでいるのか、室内からの返答はなかった。

 

「失礼します・・・。」

 

アヤはゆっくりと扉を開け、台車の上のランプにゆらりと火を灯し入室する。

薄暗い部屋の中、台車の音にアストライアが目を覚ました。

 

「アヤ・・・か?」

 

「はい。お休みの所、申し訳ありません。もしよろしければとお食事をお持ちしました。」

 

「そうだな。今日は何も食べていない。頂こうか。明かりをつけてくれ。」

 

アヤは嬉しそうに室内の明かりをつけ、アストライアの為に食事を口へ運んで食べさせた。

 

 

 

 

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