鬼巫女日常綺譚   作:鉄夜

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第1話

東京都、深夜。

とあるコンビニ。

 

「あじゃじゃしたー。」

 

だるそうに目を半開きにした背の低いポニーテールの女性店員が、商品の入ったビニール袋を客に渡す。

 

「またお越しくださいませー。」

 

客が自動ドアから出ていったのを確認してから少女は壁にかけてある時計を確認する。

 

(定時だしあがるか。)

 

少女は大きく背伸びをする。

 

「んーっ!今日も我ながら真面目に働いたなー。」

 

「うん、あんな気の抜けたあいさつしといて一体何をもって真面目って言えるのかな?」

 

「あ、店長。

お疲れ様っす。」

 

中年の店長は、苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、立花さんはやる気のなさを隠す気がない以外は真面目に働いてくれるからいいんだけどね。」

 

「いやー、そこまで褒められると照れるっすよー。」

 

「うん、確かに褒めてはいるけど苦言も呈してるからね?

自分に都合のいいところだけ拾うのやめよ?」

 

「それじゃああーし着替えてくるっす。」

 

そう言って立花と呼ばれた少女は事務所に入っていった。

 

「自由な子だなー。」

 

そんな立花を見て、店長は呟いた。

 

#####

 

「お疲れ様っしたー。」

 

「あ、ちょっと待って立花さん。」

 

帰ろうとする立花を店長が呼び止める。

 

「なんすかー、店長。」

 

「立花さんって、高校時代から5年くらい働いてるけどまだ就職とか考えてないの?」

 

「就職・・・すか?」

 

「うん。

もし就きたい仕事とかないなら、ウチの正社員になってみない?

立花さんくらい優秀な子なら上手くやって行けると思うけど。」

 

「あー・・・えっと・・・っ!」

 

立花は、何かに気付いたように自動ドアの外を睨みつける。

 

「・・・ちっ。」

 

店長には聞こえないように小さく舌打ちをする。

 

「立花さん?」

 

「店長、誘ってくれて嬉しいんすけど、

あーしはまだまだ遊びたいんで・・・すいません。」

 

「・・・そっか、なら仕方ないね。」

 

「それじゃ、あーしはこれで。」

 

「うん、明日もよろしくね。」

 

立花は、コンビニを足早に立ち去った。

 

#####

 

コンビニから出たあと、立花は全力で走っていた。

 

まるで何かから逃げるように。

 

「ったく!こっちはさっさと帰りたいのに!

いい加減にしろっての! 」

 

悪態をつきながらも、立花は全力で走っていた。

 

「っ!」

 

急に立ち止まるとバク転で後ろに飛ぶ。

 

すると、さっきまでいた場所に巨大な影が大きな音を立てて着地し、コンクリートの地面にヒビを入れた。

 

その体は筋肉の塊であった。

 

全身が灰色で、身長は2メートルを超えているだろう。

そして何より特徴的なのは、頭に生えていた二本の角であった。

 

「ほう、ただの人間にしては随分と身軽だナ! 」

 

化け物は下卑た笑いを浮かべながらそう言った。

 

「これでも運動神経はいい方なんでね。

それに、アンタらに追われるのはこれが初めてじゃねぇんで。」

 

「まぁそうだろうな。

こんな美味そうな匂いのする人間、ほっとくわけねぇよナぁ!」

 

化け物はそう言うと、姿勢を低くして立花に突撃する。

 

それに対抗して、立花も正面から向かっていく。

 

「ははは!どうした女ァ!

気でも狂ったのかぁ!」

 

立花と化物の距離が詰まると、立花は地面を思いっきりける。

 

そして、化け物の体を使って跳び箱の容量で飛び背後に回ると再び全力で走り出した。

 

「なに!?」

 

「ばーか!てめーらの扱いなんてもう慣れてんすよ!」

 

立花は化け物に中指を立てて走る。

 

「このアマアアアアアア!」

 

化け物は咆哮を上げながら立花を追いかける。

 

#####

 

立花はただただ全力で走っていた。

 

「よし!ここを曲がれば!」

 

立花は曲がり角を勢いよく曲がる。

 

「なっ!?」

 

曲がった先は工事中と書かれた壁で塞がれ、行き止まりになっていた。

 

「マジかよ・・・。」

 

立花は来た道を振り返り、どこからあの怪物か来るかと睨みをきかせる。

 

しかし、少したっても何も襲っては来なかった。

 

(まいたか?)

 

立花が大きく息を吐く。

 

すると、

 

ドゴォ!

 

「がっ!?」

 

横の壁を破壊して現れた腕が、立花の首を掴んだ。

 

立花は足をバタバタと暴れさせるが、天高く持ち上げられる。

 

「ひゃははははは!どうした嬢ちゃん、鬼ごっこはもう終わりカ!?」

 

「くっ!」

 

立花は自分の首を掴んでいる手を引き剥がそうともがくが、ビクともしない。

 

化け物は下卑た笑いをうかべると、立花を自分の顔に近づける。

 

「喜べ、俺は慈悲深いからナ。

泣き叫んで命乞いをすりゃあ・・・楽に殺してやるぜ?」

 

「すいませんけど、バケモンに下げる頭は持ち合わせてねぇんでね。」

 

「あぁ、そうかよ。」

 

グググっと首を掴んでいる手に力が入っていく。

 

「かっ・・・かはっ・・・けほっ・・・うぇ。」

 

立花は足を激しくばたつかせ抵抗するが、

それも虚しく首はさらに絞められていく。

 

「うぁ・・・けひゅ・・・ヒューヒュー。」

 

いつしか口の端から、行き場を失った唾液が垂れていく。

 

「ひゃははははははは!

やっぱりたまんねぇなぁ、若い人間の雌が苦しんで死んでいく様はよォ!」

 

「あ・・・あぁ・・・。」

 

いつしか両手は力なくダランと垂れてしまった。

 

しかし最後の力をふりしぼり、立花はポケットからポケットナイフを取り出し、化け物の顔にに向けた。

 

「おいおい!なんだそりゃ。

そんなおもちゃで俺をどうにか出来ると思ってんのか?」

 

今にも意識を失いそうな目で、化け物を睨むと、立花はナイフの持ち手についていたスイッチを押した。

 

すると、ナイフから刀身が発射され化け物の右目に突き刺さった。

 

「ぐぎゃああああああ!」

 

あまりの激痛に化け物は立花を離してしまう。

 

「なんだこれ!まさか・・・このナイフ!」

 

立花は喉を抑え、しばらく咳き込んだあとゆらりと立ち上がる。

 

「高い金払って買ったかいがあったっすね。

対鬼グッズ。」

 

「この・・・アマァ!」

 

「言ったっしょ?

アンタらの扱いにゃあ慣れてるって。

対抗策くらいちゃんと用意してるんすよ。

・・・さてと。」

 

立花は状況を確認する。

 

今いる場所は袋小路で、逃げ場所がないのがわかる。

 

「・・・殺るしかない・・・か。」

 

立花は着ているパーカーの内ポケットからさやに入ったサバイバルナイフを取り出すと、鞘を外して化け物に向かって構える。

 

「っ!!」

 

化け物は・・・鬼は恐怖していた。

 

普通人間は自分たちを見ただけで恐れおののくはずなのだ。

 

それなのに目の前の小さな女は確かな殺意をこちらに向けている。

 

こちらを睨む鋭い瞳はこちらを確かに狩ろうとしていた。

 

自分が生き残るとという自信しかその瞳からは感じられなかった。

 

何故、何故、何故、何故、鬼の疑問が恐怖に変わった時、立花は一気に駆け出した。

 

「くそが!調子に乗るんじゃねぇ!」

 

鬼の繰り出した拳を体を捻って避ける。

 

そしてするりと懐に潜り込んだ。

 

「ひっ!」

 

自分を睨む、こちらより遥かに弱者のはずである少女の瞳に鬼がたじろいだその瞬間。

 

「死んじまいなァ。」

 

下から上へと突き出すように突き出されたサバイバルナイフは吸いこまれるように鬼の心臓へと突き刺さる。

 

「がっ!?」

 

体に走る痛みと衝撃で、鬼の体は後ろに押し倒される。

 

立花は鬼の体に馬乗りになると、ググッとさらにサバイバルナイフを深く刺していく。

 

鬼は少しの間暴れていたが、やがて体をぴくぴくと痙攣させ、その後動かなくなった。

 

それでも立花はしばらくナイフに体重をかけ続けた。

 

そうしてしばらくたった後、ようやく力を抜いた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・。」

 

鬼の死体に馬乗りになった状態でナイフの柄を両手で掴んだまま前のめりになり、息を吐いた。

 

しばらくして落ち着いたのか、頬にかかった返り血を袖で拭い、ナイフを引き抜こうとして、止めた。

 

(これ抜いたら血が吹き出して血まみれになるやつだよな。)

 

深夜2時・・・街を歩く血まみれパーカー少女。

 

街に新たな都市伝説が生まれるのは間違いないだろう。

 

妖怪と共存するこの世界で都市伝説などもはや珍しくないのだが。

 

とはいえこの服は立花の私服の中でもお気に入りの1着であるため汚すのは抵抗があった。

 

「置いてくか、まだまだ代えはあるし。」

 

そう言って立ち上がると、立花は服装をチェックして返り血が付いてないか確認する。

 

「よし、問題なし。」

 

そう言って何事も無かったかのように帰路についた。

 

#####

 

住んでいるアパートに着くと、立花は洗面台の鏡の前に立った。

 

「うっわぁ、首に跡ついてるよ・・・。

湿布して誤魔化すか。」

 

ため息を吐いたあと、キッチンに向かい夕飯を用意する。

 

食事のあと、湯船に湯をためて浸かる。

 

「ふーっ。」

 

全身の力を抜いてくつろいでいると、店長の言葉が頭をよぎる。

 

『まだ就職とか考えてないの?』

 

立花は口元をゆの中に沈め、ぶくぶくと音を立てる。

 

(こんなんで、普通に就職なんて出来るわけないじゃん。)

 

そう呟くと、再び大きくため息を吐いた。

 

#####

 

鬼の種。

 

それが地球の外核、それも日本の真下に生まれたのは遥か昔、平安時代のことだった。

 

鬼の種の影響で世界に妖力が溢れ、

本来、姿を隠しているはずの妖怪達も表に出るようになった。

 

それによって、この世界は妖怪達との共存をしてきた。

 

しかし、鬼の種は災ももたらした。

 

鬼と呼ばれる人々に害を与える妖怪達。

それもまた、鬼の種の影響で生まれるようになった。

 

鬼には近代兵器は効かず、人類は全くの無力であった。

 

だが、人々は対抗策を作り上げた。

 

鬼の魂を身に宿し、

神具と言われる無銘のものからかつての英雄達が使った刀や槍などの武器と契約して戦う者。

 

彼女たちを、人は鬼巫女と呼んだ。

 

以来、平安から現代まで、

歴史を紡ぐ人々と共に、鬼巫女は戦い続けた。

 

その鬼巫女属する組織、それが鬼滅隊(ほうめつたい)である。

 

#####

 

夜の街を3つの人影が駆け抜けている。

 

3人とも黒い軍服を着ていて腰には刀を1本下げていた。

 

『第1部隊、状況を報告してください。』

 

その言葉に1番前を走る黒髪セミロングの気の強そうな赤いつり目の少女が返事をする。

 

「こちら第1部隊隊長代行、同田貫正国。

警ら中に鬼の存在を感知。

同、城和泉正宗(じょういずみまさむね)加州清光(かしゅうきよみつ)らと共に現場に向かっている・・・んたが・・・。」

 

『同田貫さん、どうしましたか?』

 

「いや、それが鬼の気配が消えたんだよ急に。」

 

『消えた?どういうことですか?』

 

「言葉の通り突然気配が消えたんだ。

とりあえず状況を確認するために現場に向かう、経過は追って伝える。」

 

『了解しました、お気をつけて。』

 

同田貫は通信通信を切った。

 

「加州、城和泉、どう思う。」

 

加州と呼ばれた黒髪ショートヘアーの穏やかそうな少女が答える。

 

「なんとも言えませんねぇ。

田貫(たぬき)の感知が外れたとは考えられませんし。

ほかの鬼巫女が倒したと言うのが妥当でしょうが・・・城和泉はどう思いますか?」

 

「うちもその線が濃いと思っとるけど今夜の警らはウチらだけやろ?

第二部隊は新しく出来た鬼ヶ島に調査に行っとるし、第四部隊は休暇、第三部隊はもうとっくに仕事終わってあがっとるで。」

 

城和泉と言われた茶髪アシメショートの少女はさらに続ける。

 

「ていうか、他の奴が殺ったなら報告してくるはずやろ。」

 

「だよなぁ。」

 

頭を悩ませる同田貫に、加州が言う。

 

「とにかく今は現場に行ってみましょう。」

 

「せやな。

うだうだ考えるよりそっちの方が手っ取り早い。」

 

「・・・だな。」

 

3人は民家の屋根などを使って、飛び跳ねながら目的地に移動していた。

 

しばらくするとして目的地に着いた3人は周りを探す。

 

「田貫!こっちです。」

 

何かを見つけた加州が声を上げる。

 

同田貫達が駆け寄ると、そこには彼女達の的である鬼の死体が転がっていた。

 

「死んでるよな、これ。」

 

「はい、確実に。」

 

「それやったらなんで死骸残っとんのや?

普通は液状になって消えるはずやのに。」

 

「・・・これじゃねぇか。」

 

同田貫は鬼の死体に近寄ると、心臓の部分に刺さっているものを指差す。

 

「これって確か、フラン博士が作った対鬼用のサバイバルナイフですよね。」

 

「まさか一般人がこれでやりよったんか?気合い入ってんなぁ。」

 

「だとしたらただの人間が鬼の懐に潜り込んだってか、すげぇ話だな・・・ん?」

 

同田貫は死骸の足元に財布が落ちていることに気づく。

 

そして躊躇なく中身を見る。

 

中にはバイクの運転免許が入っていた。

 

立花雅(たちばなみやび)。」

 

「もしかして、こいつが、殺りおったんか?」

 

「可能性はありますね。」

 

そんな会話をしていると鬼の死骸が溶け、刺さっていたナイフが落ちる。

 

同田貫はそれを拾う。

 

「とりあえずこれとその財布持って支部に戻るぞ。

指紋を鑑定すりゃ、全部わかる。」

 

「せやな。」

 

「そうですね。」

 

3人は自分たちが所属する東京支部へと帰るために歩き出す。

 

「しっかし、早く来てくんねぇかなぁ、新しい隊長。」

 

「別にこのまま田貫が隊長になってもうたらええやん。」

 

「やだよ、そんな柄じゃないし。

つうかそれなら加州の方が適任だろ。」

 

「わ・・・私には荷が重いですよ。」

 

「ウチもどっちかって言うと戦い専門やしなぁ。

・・・あれ、この部隊詰んでへん?」

 

「詰んでたまるか。」

 

「縁起でもない事言わないでください!」

 

そんな会話をしながら、3人は帰路を急いだ。

 

#####

 

数日後。

 

立花雅は自宅で短パンにワイシャツ1枚というラフな格好で仰向けになっていた。

 

低い身長には少し不釣り合いな大きめの胸が存在を主張していた。

 

クーラーの効いている部屋で、アイスをくわえている。

 

(暑い、てか暇。)

 

雅は心の中で呟く。

 

(今日はバイト休みだし、積みゲーは全部消化したし、バイクでどっか出かけようにも財布ごと免許落としたし・・・やることない。)

 

「しゃあない、FPSでもやるか。」

 

そう言って起き上がり、パソコンに向かおうとした時。

 

ピンポーン。

 

ふいにチャイムの音が部屋の中に響いた。

 

「はいはーい。」

 

気の抜けた声で玄関に向かい扉を開ける。

 

するとそこには黒髪ロングヘアーの綺麗な女性がいた。

 

自分より30センチは身長が高いため、雅は必然的に見上げてしまう。

 

「やっはろー。」

 

「・・・えーっと。」

 

やけに馴れ馴れしく挨拶をしてくる女性に不信感を抱き観察すると、彼女が腰に下げている日本刀が目に入る。

 

「もしかして・・・鬼巫女さんっすか?」

 

「Exactly!そういう君は立花雅ちゃんだよね。」

 

「え?なんであたしの事・・・。」

 

女性はポケットから血塗れの財布を取り出した。

 

「これ、なーんだ。」

 

「あ。」

 

女性はニコニコと続ける。

 

「いやぁ、すごいねぇ君。

一般人なのに鬼を倒しちゃうなんて。

鬼に刺さってたナイフから君の指紋がバッチリ取れたよ。」

 

「・・・」

 

黙ってしまった雅に、女性はニッコリと笑う。

 

「とりあえず、座って話そうか。」

 

#####

 

女性は部屋に入ると、真ん中のテーブルの座布団に正座する。

 

雅も、反対側に胡座を書いて座った。

 

「まず自己紹介ね。

私は丙子椒林剣(へいししょうりんけん)

鬼滅隊(ほうめつたい)東京支部の支部長やってます。」

 

「丙子椒林剣って・・・本名じゃないですよね?」

 

「まぁ、正確には私じゃなくてこいつの名前だけど。」

 

丙子椒林剣は腰に差してある刀を軽くぽんと叩く。

 

「刀と鬼巫女は一心同体、

だから鬼巫女も刀の名前を名乗るのが規則なんだよ。」

 

「・・・そうなんっすか。」

 

「うん。」

 

丙子椒林剣はニッコリと笑う。

 

「で、立花雅ちゃん。

君のことはちょっと調べさせてもらったよ。」

 

「・・・は?」

 

丙子椒林剣はカバンから資料を取り出した。

 

「えーっと。

立花雅20歳。

身長145センチ。

スリーサイズは・・・へー身長の割に胸あるんだね。

ロリ巨乳ってやつね、需要あるわよ。」

 

「え・・・ちょっ、待って。」

 

「身体能力抜群で、高校の頃は様々な運動系の部活からスカウトを受けるけど、

アニメとゲームの時間が減るからという理由で全部断る。

成績も上の上で、まさに文武両道。

修学旅行中に絡んできたチンピラを返り討ちにしたことがある。

低い身長を気にしており、中学の頃から高校卒業まで牛乳を飲み続けていたが、第二次性徴期を終えても身長が中学の頃から変わっていない。」

 

「なんでそんなことまで知ってんすかあああああ!」

 

「全部君のツレが教えてくれたよ。」

 

「あいつらああああああ! 」

 

雅は怒りを露わにして叫ぶ。

 

「おーおー、そんなに叫んじゃって。

親がつけてくれた名前が泣くよ、雅ちゃん。」

 

「どこのどいつっすか!

人の個人情報垂れ流しやがった野郎は!」

 

「だめだめ。

誰が言ったのか君には秘密って約束なんだから。」

 

「ぐぬぬ。」

 

「まぁそう目くじら立てないの。

可愛い顔が台無しだよ。」

 

「誰のせいだと思ってんすか!」

 

「ごめんごめん。

でもこっからは、ちゃんとこっちで調べた情報だからさ。」

 

丙子椒林剣はニッコリと笑う。

 

「なんで指紋から君の情報が出てきたか、

心当たりはあるんじゃない?」

 

「・・・」

 

丙子椒林剣の言葉に、雅は言葉を返さない。

 

「小学六年生の修学旅行。」

 

その言葉に、雅は肩をビクッとふるわせる。

 

「目的地に向かっていたバスが複数の鬼に襲われた。

鬼巫女が現場に到着し、その場の鬼を全部倒したけど、生き残ったのは君だけ。」

 

「やめ・・・。」

 

「当時バスには鬼避けの術式が施されていたのに何故か鬼達はバスを襲撃した。

まるで何かに引き寄せられるように。

生き残った君の身体を検査した結果、

君は鬼を引き寄せる体質と言うことg」

 

「やめろ!」

 

雅は叫んで立ち上がり、涙目で息を切らせながら丙子椒林剣を睨んだ。

 

「君が定職につかないのも、その体質が原因でしょ?

理由は簡単。

昔より弱まったとはいえその力のせいで他人が傷付くのが嫌だから、ちがう?」

 

丙子椒林剣がそこまで言うと、雅は再び座り込んだ。

 

「もう嫌なんすよ、自分のせいで人が死ぬのは。」

 

「そう・・・ならね、雅ちゃん。」

 

丙子椒林剣は雅の目をまっすぐ、意思の篭った瞳で見つめて言った。

 

「鬼巫女になって、死なせてしまった人の倍の数の人を救ってみない?」

 

「・・・鬼巫女?あーしが?」

 

「うん。」

 

丙子椒林剣はなおも真剣な目を向ける。

 

「君にとって鬼を引き寄せる体質は呪いのようなものかもしれない。

でもそれはね、鬼巫女の素質があるってことなんだよ。」

 

「・・・」

 

雅は丙子椒林剣の言葉を黙って聞いている。

 

「それに君は、一般人ながらに鬼を倒した知恵と度胸がある。

そしてなにより・・・救えなかった辛さと、苦しみと、痛みを知ってる。」

 

「・・・鬼巫女になれば。」

 

雅は顔を上げて丙子椒林剣に問う。

 

「みんな救えるんですか?

苦しんでる人を・・・みんな・・・。」

 

丙子椒林剣は黙って首を横に振る。

 

「私は嘘は嫌いだから正直に言うけど、

救いたいって思っても全員を救えるわけじゃない。

現場についても、既に手遅れってこともある。

実際私も何度も経験してきた。

・・・でもね。」

 

雅は丙子椒林剣の膝の上に置かれた手が強く握られるのを見た。

 

彼女の顔を見てみると、とても辛そうな・・・悲しそうな表情をして顔を伏せていた。

 

「黙って奪われるより・・・大分とマシだ。」

 

「・・・」

 

丙子椒林剣はハッとして再び笑顔を作ると、ポケットから名刺を取り出した。

 

「その気になったらここに電話して、

いつでもいいから。」

 

「・・・はい。」

 

「じゃ、私は帰るわ。

長居してごめんね。」

 

そう言って立ち上がり玄関を開けて外に出た丙子椒林剣の背中を、雅は追いかける。

 

「丙子さん!」

 

呼び止められた丙子椒林剣は振り返る。

 

「丙子さんも・・・なにか大切なものを失ったんですか?」

 

少しの沈黙流れ、丙子椒林剣は口を開く。

 

「旦那と娘。」

 

「・・・え?」

 

「私は旦那と娘を鬼に殺された。

それから復讐と憂さ晴らしのために鬼巫女になった。

・・・でも。」

 

丙子椒林剣はニッコリと微笑む。

 

「今は、この仕事を誇りに思う。」

 

#####

 

数日後。

 

コンビニの休憩室。

 

雅は机に突っ伏して項垂れていた。

 

「はぁ。」

 

「どしたの、立花さん。

随分とまぁわかりやすい悩み方して。」

 

「あー、店長・・・実はですね・・・。」

 

雅は、昨日のことを店長に話した。

とうぜん、引かれるのはいやなので鬼を倒したことは伏せて。

 

それを聞いた店長は驚いたように言う。

 

「鬼巫女に勧誘されるなんて凄いじゃない。

何を悩む必要があるの。」

 

そう言って店長は休憩室のテレビに目を向けた。

 

『輝く九字は正義の証!九字兼定!参!上!』

 

赤い鎧で口元まで全身を覆われた人物が、カメラの前でポーズを取っていた。

 

『いやぁ今日も決めポーズ決まりましたね九字さん!』

 

『鬼巫女はヒーロー!

決めポーズはヒーローの基本だからな!

出来て当然だ。』

 

そういった人間の鎧が光だし、光の粒子となって散り散りになる。

 

すふと、軍服を着たショートヘアーで赤い瞳の女が現れた。

 

前髪で左目が隠れている女の右手に先ほどの光の粒子が集まり、日本刀に姿を変えた。

 

裏銘に、九つの字が掘られている。。

 

『鬼巫女の中でも九字さんは子供に大人気ですが、そんな九字さんにとって鬼巫女の使命とはなんだと思われますか。』

 

「それはもちろん、正義を成すことだ!」

 

女はそう言うと、刀の裏銘に掘られている九字をカメラに向ける。

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!

『兵ノ闘ニ臨ム者ハ皆陣烈ノ前ニ在レ』と読む。

鬼巫女、いや、鬼滅隊は国民のヒーロー、太陽だ!

私にとって鬼巫女の使命とは、この九字に恥じぬ正義を成すことだ!」

 

「おー、流石ですねー。」

 

店長がチャンネルを変える。

 

司会者が可愛らしいフリフリの服を着て、マイクを持った少女に話しかける。

 

『えー、では今回のゲスト、鬼巫女アイドルの城和泉ちゃんです。』

 

『どうもー、城和泉です!よろしくお願いします。』

 

『早速新曲の方歌って頂くんですけどその前に、

その腕どうしたの?』

 

司会者は城和泉の腕に巻かれた包帯を指さした。

 

『えーっと、実は昨日と任務中、

鬼に思いっきり爪でやられてもうて。』

 

『それは大変だったね?』

 

『でもこれが本業なんで!

鬼巫女もアイドルも頑張ります!』

 

そう言って可愛らしい笑顔をカメラに向ける。

 

『今更猫かぶってんなよー。』

 

『もう全部バレてるぞー、ゲス和泉。』

 

『だあっとれボケェ!』

 

城和泉が観客に切れて客席から笑いが起きたところで店長はテレビを切った。

 

「こんなに大人気でみんなに誇れる仕事じゃない。」

 

「・・・だからっすよ。」

 

雅は、机に突っ伏して愚痴るように言う。

 

「こんな・・・命を預かる仕事・・・あーしにできんのか・・・わかんねぇっすよ。」

 

場に、沈黙が流れる。

 

「・・・すこし、私の話をしようか、立花さん。」

 

「・・・え?」

 

店長はニッコリと笑っていう。

 

「私は小中高と成績は平均的だった。

普通の大学に入って普通に教員免許を取って、

50歳まで高校で教鞭をとった。

 

生徒達は皆そろって品行方正というわけではなかったが、それでも卒業式の時は泣いて別れを惜しんでくれた。

 

妻とは高校からの付き合いで、娘と息子を1人ずつさずかった。

二人とも、大切な人を見つけて、もうすぐ4人目の孫が生まれる。

そして、退職後もなにか仕事がしたくてこうやってバイトして、今じゃ店長だ。」

 

「なんすかそれ、至って何不自由無い幸せな人生じゃないっすか。

なんすか、自慢っすか?」

 

「そう、確かに君の言う通りだ。

でも、悪い言い方をすれば、ごく普通のつまらないありふれた人生だ。

何も人様に自慢出来ることなんてしちゃあいない。

・・・でもね。」

 

店長は再びニッコリと笑う。

 

「生きてるって、自分に胸を張って言える。」

 

「・・・っ!」

 

店長の言葉に、雅の表情が固まる。

 

「君の過去に何があったかは知らない。

でも、今の君は生きてると自分に胸を張れるのかい?」

 

「・・・」

 

雅が何も言えずにいると、店長は立ちあがって雅の頭をわしわしと撫でる。

 

「今日は上がって結構です。

しっかりと悩みなさい。

それは、君から君への宿題なのだから。」

 

そう言って店長はレジに向かう。

 

雅は、しばらく呆然としていた。

 

#####

 

雅が携帯で呼び出すと、丙子椒林剣は近くの居酒屋を待ち合わせ場所に指名した。

 

店員に案内され、席に着いたところで丙子椒林剣は雅に聞く。

 

「で?答えは決まった。」

 

雅は店員が持ってきた水をぐいっと一気に飲み干すと、正面に座っている丙子椒林剣を目を見る。

 

丙子椒林剣はニコニコと、雅を見守るように微笑んでいた。

 

「・・・あーしは、あの日から怖くて仕方なかったっす。

もし・・・またあーしが無意識にアイツらを呼んで、人が死んだら今度こそあーしは自分を保てない。

そう思いながら生きてきたっす。

・・・でも。」

 

雅の目が強い意志を宿した。

 

「あーしはこのままじゃ嫌だから。

生きてるって胸張って自分に言えるようになりたいから。

・・・だから。」

 

雅は座ったまま丙子椒林剣に頭を下げる。

 

「よろしくお願いします。」

 

「・・・うん!」

 

丙子椒林剣は手を差し出す。

 

「これからよろしくね、雅ちゃん。」

 

「・・・はい。」

 

雅は丙子椒林剣と握手を交わした。

 

「さぁ、お堅い話はここまで。

今日は飲もう!雅ちゃん!

お姉さんが奢っちゃうよ!」

 

「いや、うち酒はちょっと。」

 

「すいませーん!日本酒2杯お願いしまーす!」

 

「話聞くっすよ!

てか今日あーしバイク! 」

 

このあと、酔いつぶれた丙子椒林剣を雅は一晩家に泊めた。

 

#####

 

2週間後。

 

「お世話になりました。」

 

コンビニの前で、雅は店長に頭を下げる。

 

「寂しくなるなぁ、明日から京都だっけ。」

 

「はい、引越しの手続きは終わって荷物はもう先に送ってるっすから。」

 

「そう・・・立花さん。」

 

店長は雅の頭にポンと手を置く。

 

「人生は有限だ、それは長いようで短い。

大事なのは、それをどう生きるかだ。

・・・後悔のないようにね。」

 

「店長・・・。」

 

雅は店長を見上げる。

 

「頭撫でる癖やめた方がいいっすよ?

下手したらセクハラなんで。」

 

「ええ!?そんなつもりないよ!?」

 

「あはははは!」

 

店長をからかった後、雅は楽しそうに笑ったのであった。

 

#####

 

翌日。

 

迎えに来た丙子椒林剣の車で数時間かけて京都に来た雅は、鬼滅隊の京都本部にいた。

 

本部内の一室に入ると、そこには地面に魔法陣のようなものが描いてあった。

 

これから、雅が鬼巫女になる儀式が始まるのである。

 

雅が深呼吸をして陣の真ん中に立つと、目の前にいる陰陽師がブツブツと何かを唱えはじてる。

 

少しすると陣が光りだし、雅の目の前に赤い炎のようなもので包まれた白い光が現れた。

 

鬼の魂である。

 

鬼の魂はしばらく浮いていたが、その後雅の体に吸い込まれた。

 

「うっ・・・ああああああああああああ!」

 

それと同時に、雅の体に炎でやかれるような痛みが走る。

 

「あ・・・熱い・・・くっ・・・。」

 

雅は地面に蹲って激痛に耐える。

 

「ハァ・・・ハァ・・・。」

 

1分ほどすると痛みは引き、雅はゆっくりと立ち上がる。

 

まだ終わりではない。

 

ここに来るまでに教わった通り、雅は右手を前に翳し、言葉を紡ぐ。

 

「我、鬼の力を得しものなり。

我、正義の名において鬼となり、鬼を討つものなり。

汝、我が刀となり、我とともに鬼を討たん。

誓いをここに、我が命はこれより汝と共にあり。

・・・顕現せよ。」

 

そこまで唱えると、不意に頭の中に呼ぶべき名前が浮かぶ。

 

「鬼丸国綱!」

 

瞬間、雅が翳している手の中に、光が溢れ出した、光はやがて形を成し、鞘に入った日本刀の形となる。

 

雅が刀を掴むと、光は納まった。

 

雅は後ろで全てを見ていた丙子椒林剣に体を向ける。

 

「お疲れ様、これで君は私たちの仲間だよ・・・雅ちゃん・・・いや。」

 

丙子椒林剣は首を振ると、雅の目を真っ直ぐ見て言う。

 

「今日から君は、鬼丸国綱だ。」

 

「・・・うす。」

 

丙子椒林剣の言葉に、雅・・・鬼丸は力強くうなづいた。

 

#####

 

その様子を、別紙でモニターしていた2人がいた。

 

1人はポニーテールに気の強そうなつり目をしている女で、

髪を結んでいる髪紐には鈴がついていた。

 

もう1人はとても小さな少女であった。

 

その見た目はとても幼く、他の鬼巫女とは違い、軍服ではなく着物で身を包んでいた。

 

少女は楽しそうにもう1人に言う。

 

「鬼丸国綱・・・これで天下五剣が揃ったわけだ。

楽しくなってきたねぇ、七星剣。」

 

「総司令、わざわざ司令部から出てこなくてもよろしいでしょうに。」

 

「何を仰るうさぎさん!

こんな楽しいイベント見逃すわけないじゃない!

ちょうど暇だったからきたんだよ!」

 

「神聖な儀式を暇つぶしに使ってんじゃないわよ!」

 

「あはははは!」

 

少女は楽しそうに笑うと、七星剣に問う。

 

「で、他の2人はどうなの、(せい)ちゃん。」

 

「星ちゃんいうな。

もうとっくに終わってるわよ。

このあとは予定通り、3人とも基礎訓練よ。」

 

「うむ、ごくろう。」

 

少女・・・鬼滅隊総司令、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)はモニターに映る鬼丸を楽しそうに見ていた。

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