「もう最悪!」
とあるマンションの一室で、少女の声が響き渡った。
声の主、城和泉は寝室の立ち鏡の前で下着姿で立っていた。
細身だが健康的な身体には首筋、二の腕、太もも、そして腹部に赤い跡がいくつも付いていた。
「めっちゃ跡ついてるやん!自重してって言うたのに!」
それをベッドの上で眺めていた、
同じく下着姿の同田貫は呆れたように言う。
「別にいいだろうが。
今週はもうテレビの仕事ねぇんだし。」
「テレビの仕事はなくても普通に鬼滅隊の仕事があるやろ!
どないしてくれんねん、首元とか隠すのめんどくさいねんで!」
「それはその・・・はっはっは。」
「笑って誤魔化すな。」
「城和泉がエロいのが悪い。」
「開き直んな!もー!」
城和泉は鏡で体をチェックしながら、
背後の同田貫に話しかける。
「田貫、そういえば聞いた?
例の子、今日本部で儀式やって。」
「あぁ、あの鬼殺した一般人。」
田貫はベッドの上であぐらをかいて話す。
「支部長も上手くやったな。」
「そりゃ、『スカウトなら私に任せろーバリバリ』って自信満々に言うてたからな。」
「それに鬼を引きつけるってことは余程素質があるってことだし、確実に名物だろうな。
うちに来てくれりゃあいいんだけど。」
「せやなー。
でもそうなると、今頃アレやってる頃かな。」
「あー、アレかー。
初めてやらされた時は頭おかしいんじゃないかって思ったなぁ。」
2人は何故か遠い目をしていた。
「ま、結構根性あるみてぇだし、
そこで心折れるってこたぁねぇだろ。」
「ま、そうやったらええけどな。」
そういって城和泉はブラのポケットをめくって覆われていた乳房を確認する。
「うわぁ、胸にもめっちゃついてる・・・。」
「・・・」
田貫は城和泉に近づくと、後ろからそっと抱きしめる。
「なに?どしたん?」
「今の、ムラっとした。
もっかいシてかね?」
「もう飯食って出勤せなあかん時間やで。」
「いいじゃん、ちょっとくらい遅れても。」
「あとで加州にめっちゃ怒られるで。」
「・・・」
「どうする?」
「着替えます。」
「よろしい。」
そう言って城和泉は同田貫の口に軽くキスをする。
「それじゃあウチ朝飯作ってくるから。」
「おう。」
城和泉は服を着て台所に向かった。
「さて、どんな奴なのかね、期待の新人は。」
そう言って同田貫は制服に着替え始めた。
#####
丙子椒林剣は雅・・・いや、鬼丸に2階の談話室に向かうように伝えると、東京支部に帰っていった。
鬼丸は言われた通りに目的地に向かいながら、
腰に下げている刀に目をやった。
刀は儀式の後渡された、ホルダー付きのベルトに納まっていた。
当然、鬼丸は生まれてこの方刀を腰に下げたことなどない・・・のだが。
「なんでしっくりくるんだろう。」
刀はまるで長年の相棒のように鬼丸の中で馴染んでいた。
鬼丸が不思議に思っていると。
「ねぇ!そこの君!」
元気な声に呼び止められ振り返ると、一人の少女がこちらに向けて走ってきていた。
身長は鬼丸より少し高い程度だろうか。
黒髪のショートツインテールの童顔で、
口元から可愛らしい八重歯が見えていた。
背中には少女の身の丈の倍はありそうな槍を背負っている。
その槍の刀身はとても長く、槍というより西洋の剣を思わせた。
少女は、鬼丸の前で止まる。
「ねぇ!もしかして君も今日鬼巫女になった新人さん!?」
「え?そうっすけど・・・もしかしてあんたm」
「わーい!」
「わぷっ!」
鬼丸の言葉を遮って、少女が抱きついてきた。
「仲間だ仲間だー!
私一人だけだと思って寂しかったんだよー!
超嬉しい!」
「わかった・・・わかったっすから離して欲しいっすよ!苦しいっす!!」
「おっと、ごめんごめん!」
少女は鬼丸を離すと満面の笑みをうかべる。
「ちゃんと自己紹介しないとね!
私は
趣味はゲーム!スリーサイズは上かr」
「ストーーップ!そこまで言わなくていいっすから。」
「え?だって自己紹介の時はスリーサイズは言わなきゃダメって童子切さん言ってたよ。」
「ンなわけねーでしょうが!
童子切って人になんて言われたか知らないっすけど何でもかんでも素直に人の言うこと聞いちゃだめっすよ!」
「うん!わかった!」
ツッコミ疲れたのか、鬼丸はため息を吐くと目の前の少女に自己紹介をする。
「あーしは鬼丸国綱、同じく新人で年齢も同じっす。」
「鬼丸国綱!なんか強そうな名前!」
「ど・・・どうも。」
蜻蛉切のテンションに鬼丸は少し押され気味になる。
「鬼丸も今から談話室行くの?」
「そうっすよ。」
「だったら一緒に行こうよ!
レッツゴー!」
「あ!ちょっ、待っ!」
蜻蛉切は鬼丸の腕を掴んで歩き出した。
(元気な子だなぁ。)
鬼丸の口元には、いつの間にか笑みが浮かんでいた。
#####
2人は談話室と書かれた部屋の前までやってきた。
「ここっすね。」
「だねー。」
蜻蛉切が扉に手をかけ、横に引いて開ける。
「おじゃましま・・・。」
蜻蛉切は扉をそっと閉めた。
「どうしたんすか?」
「どうしよう鬼丸!めちゃくちゃ可愛い子居た!」
「はぁ?
そんなんここに来て飽きるほど見たでしょうに。
何びっくりしてるんすか。」
狼狽える蜻蛉切に代わり、鬼丸が扉を開くと、
中央のテーブルの傍にあるソファーに一人の少女が佇んでいた。
白く短い髪に雪のように白い肌。
瞳は綺麗な赤色で、大きな目も相まって精巧な人形のように見えた。
少女がこちらを向き、首を傾げると鬼丸は反射的に扉を閉めてしまった。
扉の前で固まる鬼丸に、蜻蛉切が声をかける。
「ヤバいでしょ?」
「ヤバい、デラ美少女。
入る部屋間違えた?」
「いや、あってると思うよ?
表札にも談話室って書いてあるし、それにさっきの子腰に刀差してたし。」
そんな会話をしていると、目の前の扉がゆっくりと開いた。
そこには先程の少女が立っていて、2人を不思議そうな表情で見ていた。
「入らないの?」
「あ、すいません、入るっす。」
2人は部屋に入ると、少女に自己紹介を始める。
「あーしは鬼丸国綱っす、以後よろしくっす。」
「私は蜻蛉切!よろしくね!」
2人が名乗り終えると、少女も口を開く。
「私は肥前忠広、呼ぶときは肥前でいい。」
「じゃああーしは鬼丸で。」
「私は蜻蛉でいいよ!」
「二人ともなんでなかなか入ってこなかったの?」
「あー・・・えっと。」
鬼丸が言いにくそうにしていると、
「扉開けたらめちゃくちゃ可愛い子がいたからびっくりしちゃった!」
蜻蛉切が正直に答えた。
(羞恥心とかないのかこいつ。)
鬼丸が心の中でそうツッコムなか、肥前はニッコリと微笑んだ。
「私が可愛い?そんなことないと思うけど。」
「そんなことあるって!
どっかのお姫様かと思ったもん!
ねぇ!鬼丸。」
「まぁ、正直一瞬見惚れたっすね。」
「え・・・えっと・・・その・・・。」
2人に褒められ、肥前は顔を赤くして。
「あり・・・がと・・・////。」
そう言った。
「可愛い!」
「わぁ!」
蜻蛉が肥前に飛びついた。
「ちょ・・・蜻蛉・・・やめ・・・。
た・・・たすけて鬼丸!」
「蜻蛉、肥前ごとこっち向いて欲しいっす。」
パシャ!
「鬼丸!?なんでスマホ構えてるの!?
てか今撮ったよね。」
「いやぁ、照れ顔が可愛くてつい。」
パシャシャシャシャシャ!
「連写やめて!」
そんなふうにはしゃいでいると、ドアが開いた。
「お、もう仲良くなっとるのか、いい事じゃ。」
入ってきたのは茶髪のロングヘアーの女性だった。
身長は180ほどある長身で、目が細く空いているかも分からないほどだった。
「ったく、大声で騒ぐんじゃないわよみっともない。
廊下まで声が響いてたわよ。」
その女性の後からもう1人は呆れた様子で入ってきた。
身長は150センチほど。
短いサイドポニーテールに気の強そうなつり目をしている女で、
鈴の着いたヘアゴムで髪を結んでいる。
「そう怒るな、
元気があるのはいい事じゃ。」
「元気だけの役たたずじゃなきゃいいけどね。」
「手厳しいのう。」
長身の女性は豪快に笑う。
「まずは歓迎しよう、姉妹たちよ。
わしが教官の
「同じく七星剣よ。
ま、よろしくね。」
愛想よく挨拶をする武蔵のそばで、七星剣はヒラヒラと手を振って無愛想にする。
そんな二人に鬼丸たちも挨拶をする。
「鬼丸国綱っす。」
「私!蜻蛉切です!よろしくお願いします! 」
「肥前忠広です。
あの・・・姉妹って?」
肥前の疑問に、武蔵は大きな胸を張って答える。
「わしらは同じ魂をわけたもの同士、
つまりは姉妹というわけじゃ!」
「いや、そんなこと急に言われてm」
「お姉ちゃん!」
「いや順応するの早!? 」
「妹よ!」
「そして受け入れた・・・。」
抱き合う蜻蛉切と武蔵を見ていると、
七星剣がぶっきらぼうに話す。
「ま、武蔵の言ったことは概ね正しいわ。
つまりはアンタらがなんかやらかしたら私達や他の鬼巫女までバッシング食らうことになるの・・・だから」
七星剣は人差し指を3人の方へ向ける。
「あんた達がみっともない様を世間に晒さないように、2ヶ月の研修期間の間にしごいてやるから覚悟なさい。」
3人は七星剣の言葉に息を飲んだ。
「では、これより訓練を開始する、
皆わしについてこい。
屋外訓練場に案内する。」
鬼丸達は武蔵と七星剣の後に続き、歩き出した。
#####
屋外訓練場の前まで来ると、3人は隣の更衣室で着替えるように言われた。
更衣室に入り用意されたスポーツウェア(黒のTシャツと短パン)に着替えながら、鬼丸は肥前に聞いた。
「訓練って何するんすかね。」
「最初だから基礎訓練じゃないかな。
私達まだ体の変化を実感できてないし、
なれるための訓練かも。」
「あー、それはあるかもっすね。
蜻蛉はどう思うっすか?」
「2人ともおっぱいおっきいね 。」
「「話聞いてた?」」
「あはは冗談冗談。
でも、童子切さんが新人研修の訓練は超エキサイティングって言ってたよ。」
「誰なんすか、その童子切さんって。」
「えっとねー、綺麗なおねいさんでー、
めちゃくちゃ力持ちでー、
あとなんか私の事見てハァハァしてた。」
「「変態だそれ!」」
肥前と共にツッコンだあと、鬼丸はため息を吐いた。
「でもやっぱり、訓練は厳しいっすよね。
なんせ命賭ける仕事っすから。」
「そうだね、武蔵さんはともかく七星剣さんすごく厳しそうだったもんね。」
「・・・そう言えば、疑問なんすけど。
肥前って、よく親が鬼巫女になるの許可してくれましたよね。」
「え?なんで?」
「だってそんだけ美人さんなら大切に扱われてたんじゃないかなぁって・・・勝手な想像っすけど。」
「あー。」
肥前は苦笑いを浮かべながら言う。
「確かに、私の親は過保護だったね。
・・・そりゃあもう、実の娘を飼い殺しにしようとするくらいに。」
「oh・・・」
そう呟いた肥前の目は、どこか遠くを見ていた。
「それなら、なんで許してくれたの?」
「許してくれなかったよ。」
「え?」
蜻蛉が首を傾げると、肥前はいい笑顔で答えた。
「丁度いいから親子の縁切ってきた。」
「ワオ!」
「案外やること大胆っすね。」
「あのままだと、マジで籠の鳥のまま飼い殺しだったろうしね。
2人はどうなの?」
「あーしは・・・まぁスカウトっすね。
蜻蛉は?」
「私も私も!童子切さんにスカウトされた。
でも前から鬼巫女には興味あったんだ!」
「どうしてっすか?」
蜻蛉切は楽しそうに笑う。
「だってかっこいいんじゃん!正義の味方!
輝く九字は正義の証!」
そう言って蜻蛉切はポーズを決める。
「あ、テレビで見たことある。
九字兼定さんだよね。」
「つーかめっちゃキレッキレっすね。」
「あははははは!」
そんな会話をしながら3人はスポーツウェアに着替えた。
「さて、そんじゃあいくっすか。
刀は置いてくんすよね。」
「うん、必要ないらしいからね。」
「それじゃあレッツゴー!」
3人は訓練場へ向けて歩き出した。
#####
「なんすか・・・これ。」
「うわー・・・。」
「すっごーい!」
目の前の光景に、鬼丸は唖然とし、肥前は引き、蜻蛉切ははしゃいでいた。
3人の目の前には大小様々な建物が立ち並び、都会の街並みが再現されていた。
鬼丸達のいる場所はそんな建物を見下ろせる高所だった。
「お、来たな。」
「遅いわよ!アンタ達!
これから訓練だってのに無駄話してたんじゃないでしょうね!」
「「「す・・・すいません!」」」
3人は教官二人の前で整列した。
「さて、それでは訓練を始めるが今日は初日じゃ。
まずは基礎の基礎、高所からの降下及び着地訓練から始めようかの。」
「降下?」
鬼丸の脳内で、自衛隊の空挺降下の映像が流れる。
(パラシュートでもつけて飛ぶんすかね。)
鬼丸がそう思っていると、ある一点を笑顔で指さす。
その先には地面がなく崖のようになっていた。
「というわけで、跳べ。」
「「「は?」」」
3人は同時に間抜けな声を出した。
「ぱ・・・パラシュートとか使わないんですか?」
「使わん、というかいらん。」
「いやいや、こんなところからゴム無しバンジーなんて死んじまうっすよ!」
「普通の人間ならな。
だが今のお前らは半分は人間だが、半分は鬼じゃ。」
「そりゃ・・・そうっすけど。」
元気が取り柄の蜻蛉切も青ざめる状況に、
鬼丸が怯えていると、七星剣が強い口調で言う。
「アンタ達は鬼巫女になったばかりでまだ身体の変化が自覚できてないでしょ。
これはそのための訓練でもあるのよ。」
「だ・・・だからって・・・。」
なおも渋る3人に、七星剣がため息を吐く。
「しょうがないわね、私が手本を見せてあげるわよ。
しっかり見てなさい。」
七星剣はすたすたと歩いていくと、断崖からノーモーションで垂直に落ちていった。
「うわ!」
「本当に落ちてった!」
3人が崖の下を見るとものすごい速さで七星剣が落下していた。
少しすると、ダンッ!と大きい音を立てて地面にヒビを作りながら七星剣が両足と片手を地面に付いて着地する。
「ね!簡単でしょ!」
「「いやできるかぁ!」」
鬼丸と肥前は大声でツッコむが蜻蛉切はなぜかはしゃいでいた。
「すごい!スーパーヒーロー着地!スーパーヒーロー着地だ!」
「そうじゃ!かっこいいじゃろ!
跳んでみるか?蜻蛉!」
「それは無理!」
「無理かぁ・・・(´・ω・`)」
壁をつたって登ってきた七星剣が戻ってきた。
「新人研修の時、誰でもここで渋るのよね。
もはや恒例行事よ。」
「そりゃそうっすよ。
だってこんな・・・。」
鬼丸は、崖の上から下をのぞき込む。
鬼丸達のいる場所は、ビルの10階ほどの高さがあった。
「急にこんなところから跳べって言われてm」
ゲシッ。
「え?」
鬼丸の体が後ろからの衝撃によって前に押し出される。
振り返ると、そこには笑顔で右足を突き出している武蔵の姿があった。
それを見た鬼丸は。
「ふざけんなババァァァァ!」
そう言ってがけの下に落ちていった。
(やばいやばいやばいやばい!
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死・・・あれ?)
鬼丸は体に懸かる空気抵抗が少ないことに気付いた。
(これなら!)
鬼丸は空中で体勢を建て直し、
ダンッ!
先程の七星剣と同じく、綺麗に着地する。
「鬼丸!大丈夫!?」
上から蜻蛉と肥前が下を覗き込んで声をかけるが、
「生きてた・・・よかった・・・よかったよぉ・・・。」
鬼丸は地面に両手両膝をついて震えながら号泣していた。
「さぁて。」
後ろから聞こえた声に肥前と蜻蛉の方がビクッとふるえる。
「お主らも勇気が出ないならわしが背中を押してやるぞ。
文字通り・・・な。」
「腹括りなさい。」
2人の悪魔がニッコリと笑った。
#####
しばらくして。
「「鬼丸ぅぅぅぅぅぅ!」」
「肥前!蜻蛉ぉぉぉぉぉぉ!」
3人は泣きながら抱き合っていた。
「あの人たち頭おかしいよ!」
「特に武蔵さん!人の良さそうな顔して追い詰めてくるんだもん。」
「あーしも死んだと思ったっすよ!」
そんな三人の傍に、武蔵と七星剣も上から飛び降りてやってきた。
「いやぁ、同じ苦行を乗り越えたものが友情を育み合う。
いいの光景じゃのう。」
「「「どの口が言うかぁ!」」」
温厚な蜻蛉でさえ、声を荒らげて怒鳴る。
そんな3人に、七星剣が落ち着いたトーンで言う。
「でもよく分かったでしょ?
自分たちの体がどうなってるか。」
「それはまぁ・・・たしかに。」
「あれだけ高いところから落ちたのに怪我ひとつないどころか痛みもかったよね。」
「軽い衝撃はあったけど、体に支障をきたす程じゃなかったしね。」
「そう、鬼の魂と同化したお主らの体は身体能力が人間を遥かに凌駕している。
あの程度の高さから飛び下りたところでどうということは無い。」
「・・・」
鬼丸は、自分の掌を見つめる。
自分の体が、半分あの化物と同じになったかと思うと妙な気分だった。
「その力は確実に人々の希望になる。
だが、同時に使い方を間違えれば恐怖の対象にもなり得る。
よいか?今お主らは半分鬼だ。
だが、人の心は忘れてくれるなよ。」
武蔵の言葉に3人は深く頷いた。
それを見ると、満足そうに微笑んだ。
パンパンッ!
七星剣が手を打ち鳴らし、全員の意識を自分に向ける。
「はいはい、武蔵先輩のありがたーいお話が終わったところで、次の訓練行くわよ。」
「な・・・なんすか・・・またなんかえぐいこと。」
「安心しなさい、さっきみたいな頭のおかしいことしろなんて言わないから。」
「頭おかしいって自覚あるんじゃん!」
蜻蛉切の抗議の声を無視して、七星剣は続ける。
「アンタ達の体の現状は分かったろうから、
次はそれをコントロールする為に、フリーランニングの訓練をするわよ。」
「フリーランニング?」
肥前が首を傾げる。
「まぁ、見ときなさい。」
そう言って七星剣はおもむろに走り出した。
走った先には建物があり、
「よっと。」
七星剣は跳躍してその建物の上に飛び乗った。
そして建物の上を走り、隣の建物に飛び移り、地面に降りては走り、また建物の上に飛び乗り、縦横無尽に走り回る。
「すっげぇ・・・。」
「うわぁ・・・。」
「かっこいい。」
目の前の光景に3人が目を奪われる
しばらくして七星剣は3人の元に戻ってきた。
「私たちの戦場は主に街中。
だから、こんなふうに身体能力をフル活用して上手く動かないとダメなのよ。」
3人が感心したように何度も頷く。
「では、まずは慣れるまで軽く1時間ほど走り回ってみよ。
わしらはここで見ておく。」
3人は言われたとおりに訓練を開始する。
「助走をつけてジャンプすればいいのかな。」
蜻蛉切は建物に向かって勢いよく走ると脚を踏み込む。
蜻蛉切の体は前方に向かって大きく飛び上がる。
「おぉ!でき・・・あれ?」
蜻蛉切は飛び乗ろうとしていた建物を大きく飛び越えてしまい。
「ちょっ!まっ!」
その前にある建物のガラスに思い切りぶつかった。
バリン!
ガラスを割って、建物の中に飛び込んだ蜻蛉切はゴロゴロと転がる。
「あぅー。」
蜻蛉切が悔しそうに唸る。
「なるほど、力を入れ過ぎないのがコツなんっすね。」
「みたいだね。」
そう言いながら、鬼丸と肥前は建物の上に飛び乗る。
「2人ともすごい!」
前の建物から蜻蛉がキラキラとした2人を見つめていた。
「怪我ないっすか?蜻蛉。」
「うん!この体すごく丈夫!」
鬼丸と蜻蛉がそんな会話をしている中、肥前は顎に手をあて考える。
「でも私たちも実践に使うとしたらまだまだだね。」
「そうっすね着地の時にどうしてもよろけちまうっす。」
「とりあえずこの訓練でそのへんも掴んでいこう。」
「すね。」
「私も頑張る!」
3人はしばらくフリーランニングの訓練を続けた。
#####
「よっ、ほっ。」
鬼丸は建物の上を飛び移りながら走り回っていた。
その後ろを、少し遅れて蜻蛉切が着いてくる。
「鬼丸!本当に上手だね!」
「蜻蛉も様になって来たんじゃないっすか?」
「えへへ、まだまだたまによろけるけどね。」
「でも・・・あーしらより凄いのは・・・。」
鬼丸が横に視線を向けると。
肥前が風のような速さで建物の上を伝って走り回っていた。
「すごい・・・忍者みたい!」
「アイエエエエ! ニンジャ!? 」
「ニンジャナンデ!?」
「2人とも仲いいね。」
そんな会話をしていると、七星剣の声が聞こえてきた。
「そこまで!全員戻ってきなさい!」
七星剣の前に、3人は集合する。
「3人とも、体の動かし方はだいたい分かったかしら?」
「はい。」
「まぁ、問題ないっすね。」
「すっごく楽しかった!」
そう答えた3人に、七星剣は無表情で頷く。
「そう。
なら次行くわよ。」
そう言って七星剣はあるものを3人に配る。
「これって・・・インカムと・・・地図?」
「そう、通信機とこの訓練場の全体図よ。
通信機は全員分あるけど、地図は1枚だけだからリーダーを決めてそいつが持ってなさい。」
「これで何するんですか?」
肥前の質問に、武蔵が答える。
「これからお主らには、鬼ごっこをしてもらう」
「鬼ごっこ!?楽しそう!」
蜻蛉切が目を輝かせる。
「鬼ごっこといっても鬼はお主ら3人じゃ。
逃げるのは七星剣一人。
お主ら3人のうち、誰かが七星剣にタッチすればお主らの勝ちじゃ。
渡した地図を使って作戦を立てるもよし、
インカムで連絡を取り合うもよし、
どんな手を使ってもいい。」
「へぇ・・・楽しそうっすね。」
ニヤニヤとしながらいう鬼丸に武蔵がさらに言う
「だが、こう見えて星は鬼巫女の最強戦力と言われる通称四天王の1人での、
特にスピードでは右に出るものはいない。」
「はい!
そういう人が出てくるのって物語の中盤じゃないんですか!?」
「蜻蛉よ、序盤からやばいのが出てくる漫画も面白かろう?」
「確かに!」
「納得しちゃうんだ。」
七星剣が3人の前に出る。
「てなワケでハンデを付けるわ。
私は50キロの腕輪を両手両足につけて逃げる。
じゃないと訓練にならないからね。」
「それでも星は強いぞ。
心してかかれよ。」
七星剣は3人の前に出て、軽くストレッチをする。
そして両手両足に、錘である腕輪を付ける。
「武蔵、これ本当に重いわね。
かなり動き鈍るわよ。」
「おいおい、簡単に捕まってくれるなよ?」
「分かってるわよ。」
それを聞いていた3人は、ほかの3人にコソコソと話す。
「さすがにあれだけ錘つけてるときついみたいだね。」
「うん!もしかしたら案外行けるかも。」
「・・・だといいっすけどね。」
やがて準備を終えた七星剣が、3人の前に立つ。
「それでは始めるぞ。
よーい・・・スタートじゃ。」
「先手必勝!」
武蔵の号令と共に、蜻蛉切は七星剣に突進して手を突き出す。
しかし、七星剣は体を横に逸らしてギリギリのところで回避する。
「まだまだ!」
蜻蛉切は急ブレーキをかけると、再び七星剣に手を突き出す。
が。
ぐるん。
「へ?」
気がつくと七星剣に手首を捕まれ、
一回転して地面に投げ倒されていた。
「隙あり!」
続いて背後から、鬼丸が襲いかかる。
「隙なんて無いわよ。」
そう言って七星剣は蜻蛉切を鬼丸に投げ飛ばした。
「ふがっ!?」
「のわ!?」
続いて横から肥前が飛びかかり、指先だけでも触れようと手を伸ばすが、
七星剣は掌に触れないように、手首を腕で弾いてさばく。
そして一瞬の隙をついて肥前の手首を掴むと、
「うわ!」
「のわ!?」
「ふにゃ!」
立ち上がろうとした2人に向けて巴投げをする。
七星剣は巴投の勢いそのままに後転して立ち上がる。
「ほらほらどうしたの?
指先が触れるだけでもいいのに掠りもしてないわよ?」
余裕綽々といった様子で七星剣は3人を挑発する。
「ほらほら、鬼さんこちら手の鳴る方へ♪」
そう言って建物の上に飛び乗り、
建物の上を飛びまわりながら逃げていった。
「くそ!重りつけてこれっすか!」
「さすがに強いね。」
「うん・・・でも!」
3人はアイコンタクトを取るとうなづき合う。
「絶対に捕まえてやる!」
3人の闘志に火がついた。
#####
七星剣は、訓練場内を走り回っていた。
「さぁて、どんな手で来るかしらね・・・っ!?」
突如として斜め下方向から飛び出してきた肥前の手を、体を横回転させて避ける。
「くっ!」
肥前は悔しそうな顔をして落下して行った。
七星剣は、建物の上に着地する。
「危ない危ない。
ハンデがあるとはいえもう追いついてくるなんてやるじゃない。」
「うおおおおお!」
「あ?」
何やら叫び声のようなものが聞こえてそちらを向くと、蜻蛉切が鬼丸をジャイアントスイングしている所だった。
「蜻蛉!これ本当に上手くいくんすか!?」
「多分大丈夫!
よし、そろそろ行くよ!」
「ちょっ!待って!多分てなんすか!?
ていうかまだ心の準備g」
「秘技!人間砲弾!」
「あああああああああああ!」
蜻蛉切は鬼丸を七星剣目がけて投げ飛ばした。
投げられた鬼丸はまさに砲弾のように七星剣の方へと飛んでいき・・・七星剣の真上を通過した。
「あ、角度間違えたかな?」
「蜻蛉てめええええええ!」
鬼丸はキレて叫び声をあげるが、そのまま遠くのビルのガラスに突っ込んだ。
「・・・バカ丸出しね。」
そう言いながらも、七星剣は2人を冷静に観察する
(
そう心の中で呟いて、七星剣は嬉しそうに小さく微笑む。
「さて、もう1回逃げるとしますか。」
3人が集合しこちらに走ってきたのを見て、
七星剣はまた走り出した。
#####
「蜻蛉おおおおお!」
鬼丸は蜻蛉切を捕まえてヘッドロックしたまま拳骨でこめ髪をグリグリとする。
「いたたたたたたたた!
ごめん!ごめんて鬼丸!
次はちゃんと角度も考えて投げるから許して!」
「次なんてあるかあああああああ!」
「ぎゃああああああ!」
鬼丸が拳骨攻撃からコブラツイストにシフトした中、肥前は冷静に言う。
「流石に素早いね、全然捕まえられないよ。」
そう言った肥前に、コブラツイストから開放された蜻蛉が言う。
「でも七星剣さんもギリギリ避けてる感じだしもう少しだよ。」
「それが七星剣さんの作戦なんだよ、蜻蛉。」
「え?」
「
それで煽ってこっちが無鉄砲に突っ込むようにしてるんっす。」
「そんな!酷い!」
「きっとこれも訓練の一貫だよ。
鬼の中には知性を持ったやつもいるらしいから、挑発に乗らないようにするための。」
「むー、そうなるとどうやって捕まえればいいんだろう。」
しばらく3人で悩んでいると、鬼丸がため息をつく。
「しょうがない、いっちょやってやるっすか。」
「なにか思いついたの?鬼丸。」
「要は、七星剣さんの意表を突くのが重要だと思うんっす。
だから・・・」
鬼丸は地図を取り出すと地面に広げて思いついた作戦を2人に話す。
説明が終わると、蜻蛉切と肥前は不安そうな表情をする。
「すごい作戦・・・だけど。」
「できるのかな・・・。」
そんな2人に、鬼丸はニヤリと笑みを浮かべる。
「出来るっすよ、
あーしと肥前のスピード。
そして、蜻蛉の馬鹿力があれば・・・だから。」
鬼丸は頭を下げる。
「あーしは2人を信じるっす。
だから2人も、あーしを信じてほしいっす。」
肥前と蜻蛉切は顔を見合わせてうなづく。
「そこまで言われたらやるしかないね。」
「うん!絶対に捕まえてやろう!」
「2人とも・・・ありがとう。」
3人は拳を合わせる。
「それじゃあ、作戦を始めるっす!」
『おう!』
3人の声が響き渡った。
#####
七星剣は建物の上で座り込んでいた。
「首尾はどうじゃ?星。」
インカムから武蔵の声が聞こえてきた。
「特に変わりなし、さっきから待ってるんだけど全然来ないのよねぇ。
なにか悪巧みでもしてるのかしら。」
「随分と嬉しそうじゃのう。」
「あたりまえよ、教え子が自分を倒そうと策をねってくるなら教官冥利に尽きるわ。」
「それは何よりじゃ。」
「それに今回の奴らは期待できるし、
育てがいがあるわよ。」
「それ、本人達に言ってやらんのか?
きっと喜ぶぞ。」
「いいのよ、私は憎まれ役で。
私達の役目はアイツらを鍛え上げて、死亡率を1%でも減らすことなんだから。」
「ははは、ツンデレじゃのう。」
「引っぱたくわよ。」
「はははは、許せ、冗談じゃ。」
「ったく。
あ、あいつらが来たから切るわね。」
「あぁ、気をつけろよ。」
七星剣は通信を切ると、立ち上がって前を見る。
そこには新人3人がいて散開して七星剣に迫る。
七星剣も捕まるまいと逃げ出した。
3人は七星剣の周りを囲むと、七星剣の通り道を1つにするように道を塞いで追いかける。
(もしかして・・・どこかに誘導してる?)
七星剣はニヤッと笑みを浮かべる。
「いいわよ、乗ってやろうじゃない。」
そのまま逃げ続けると、目の前にコンクリート製の建物が見えた。
建物には窓があり、一旦止まって飛び上がれば屋上に行くことが可能だが、止まることの出来ない今の状況だと、その窓を破って建物の内部に入るしかなさそうだ。
(なるほど、狭いところでケリをつけようって腹ね。)
3人の狙い通り、七星剣は窓を破って建物の中に入る。
その後、同じ窓から鬼丸が飛び込んできた。
「狭い場所で私の動きを制限して仕留めようってこと?
素人にしてはなかなか考えたじゃない。」
「そりゃどうも、手心とはいえ乗ってくれて助かったっすよ。」
「でも、そう簡単に捕まらないわよ!」
七星剣は走り出し、廊下を走り抜けて階段を駆け下り、下に降りていく。
鬼丸もつかず離れずの距離で追いかける。
(肥前もだけど、鬼丸のスピードも中々ね。
体のバネもあるし、戦場で光りそうね。)
そんなことを考えながら4回まで降りると、
「おっと。」
目の前に回り込んでいた肥前が立っていた。
「挟み撃ちってことね・・・。」
七星剣はとても冷静だった、
もしふたりが突っ込んできても体術で投げ飛ばせる自信があったからだ。
七星剣は身構えて2人の攻撃を待つ。
ふと、鬼丸がインカムに話しかけた、
その瞬間!
ドゴオオオオオン!
七星剣の横、建物の外に面した壁が轟音とともに破壊された。
「は!?」
土煙の中を注視すると、そこには右手の拳を突き出した蜻蛉切がいた。
(まさか、隣の建物から飛び込んで壁を殴り壊したの!?
なんてめちゃくちゃな・・・っ!)
蜻蛉切は壁を壊した勢いそのままに、接近しながら左手を突き出す。
「よし!今っす!」
鬼丸が合図を出して、肥前とともに両サイドから突っ込んでいく。
(この一瞬で二人の特性を理解して作戦に組み込むなんて・・・なかなか頭が切れるじゃない。)
さすがの七星剣も意表をつかれて対応することが出来ない。
(まったく・・・本当に。)
「「「タァァァァッチ!」」」
3人の手が七星剣に触れる。
(面白い奴ら。)
七星剣は楽しそうに笑った
#####
「「「イェイ!」」」
3人は笑顔でハイタッチをする。
「いやぁ、やってやったっすね!」
「うん!一時はどうなるかと思ったけど。」
「ねぇねぇ!今日打ち上げやろうよ打ち上げ!」
「お、いいっすね!」
「誰の部屋でやる?」
「それなら心配せんでいいぞ。」
はしゃいでいる3人に、武蔵と七星剣が歩み寄る。
「お主ら3人は、研修の間は同じ部屋じゃからの。」
「あ!武蔵さん!」
蜻蛉切は武蔵に近寄ると、ぴょんぴょんと飛び跳ねて楽しそうに言う。
「ねぇねぇ!見ててくれた!?見ててくれた!?」
そんな蜻蛉切の頭を撫でながら武蔵は笑う。
「あっはっはっ、見てたぞ蜻蛉。
大活躍じゃったのう。」
「えへへ。」
嬉しそうにする蜻蛉の頭から手を離すと、
武蔵は他のふたりも褒める。
「お主らも見事じゃったぞ、 鬼丸に肥前。
特に鬼丸、お主の立てた作戦は見事じゃった。」
武蔵の言葉に、鬼丸は照れながら言う。
「いや、褒めてくれるのは嬉しいっすけど、
実際の戦場だと建物の下に人とかいる時もあるだろうし、実戦じゃ使いにくいっすよ。」
(ほう。)
武蔵は感心していた。
当然、研修の間に一般人に見立てたダミー人形を配置した実践訓練は行うつもりだ。
だが、1日目の時点でここまで考えるものはまずいない。
(こいつは、大した器じゃのう。)
武蔵はそう思ったと同時に、浮かんだ疑問を鬼丸に聞いた。
「ならば鬼丸よ、なぜお主はあの作戦を実行したのじゃ?」
「それは・・・その・・・。」
鬼丸は恥ずかしそうにはにかんで頬をかく。
「負けたく・・・なかったから。」
「・・・ははっ、そうかそうか!」
武蔵は鬼丸の頭を乱暴にワシワシと撫でる。
「よいぞよいぞ、負けん気も鬼巫女には大事な要素じゃ。」
「ちょっ、やめてくださいっす。」
武蔵が鬼丸とじゃれていると、背後から七星剣が歩いてきた。
「言っとくけどあんた達、さっきの作戦にはまだ欠点があるわ。」
「欠点?」
肥前が首を傾げると七星剣はいう。
「まずひとつは、確かに成功すれば強いけど、確実性がないこと。
そしてもう1つ。」
七星剣は意地悪な笑みを浮かべる。
「同じ相手に、2度は通じないことよ。」
「・・・は?」
鬼丸がぽかんとしていると、武蔵も悪い笑みを浮かべる。
「誰が1度のみと言った誰が。
今日は日が暮れるまでこの訓練を繰り返すぞ!」
「初日だから早く上がれると思った?
残念、人生そんなに甘くないのよ。」
「ちょ・・・ちょっと待って下さい。
私達、今ので結構疲れちゃって。」
「そう・・・なら。」
七星剣は邪悪に微笑む。
「ぶっ倒れるまでやるだけよ。」
改めて3人は、この研修の厳しさを知った。
#####
結局、七星剣を捕まえられたのは最初の1回だけだった。
3人は宿舎に設けられた研修生用の部屋でそれぞれベッドに倒れ込んだ。
「つかれた・・・本当に疲れた。」
「まさか本当に体力の限界まで動かされるとは。
この体になって体力もめっちゃ着いたから逆に辛いっす。」
「あはは、2人とも容赦ないよね。」
蜻蛉切はベッドの上で体を起こすと、瞳を輝かせてほかの2人に言う。
「とりあえず打ち上げしよ、打ち上げ!」
「そうだね、ピザでも頼む?」
「何言ってんすか、せっかくこの部屋キッチンあるんだし手作りに決まってるっすよ。」
「いやいや、今から食材買いに行くの?」
「あーしの荷物の中に食材入ってるっすよ。」
「・・・なんで?」
「料理はあーしの趣味っすから。」
そういうと鬼丸は
まだ荷解きしていない荷物をいくつか持ってくる。
中を確認すると、肉から魚まで様々な食材があった。
「おー!」
蜻蛉切の目がさらに輝く。
「今日はこれでご馳走作るっすよ。」
「それなら私も手伝っていい?
料理なら私もできるし。」
「助かるっすよ肥前、蜻蛉はどうするっすか?」
「私、家ではキッチンは出禁くらってた。」
「よく分かったっす。
その荷物の中にゲームがあるんでテレビに繋いで適当に遊んどくっすよ。」
「はーい。
あ、龍が○く。」
蜻蛉切がテレビにゲームを繋ぎ遊び始め、
鬼丸と肥前もキッチンに向かおうとした時。
ピンポーン。
部屋のインターホンが鳴る。
「はーい。」
鬼丸が扉を開けると、
「よう鬼丸!やっとるか?」
「武蔵・・・さん?」
武蔵が笑顔で立っていた。
私服なのか、白地のTシャツには黒字で大きく『私が来た!』とか書かれおり、武蔵の大きく膨らんだ胸のせいで歪んでいた。
「な・・・なんか用事っすか?」
「そう警戒するな。
お主らと親睦を深めようと思ってきただけじゃ。
その証拠にほれ、酒も持ってきたぞ。」
武蔵は一升瓶を鬼丸に見せ付けるように持ち上げる。
「いや・・・ほれって言われても・・・。」
「邪魔するわよ。」
「七星剣さん!?」
七星剣が武蔵の横を通って部屋に入ってくる。
そしてワインのビンが沢山入った袋を中央のテーブルの上に置く。
それに続いて武蔵も入ってくると、同じく酒類を大量にテーブルの上に置く。
「お二人共おっぱじめる気満々っすね。」
「アンタ達少しは頑張ってたし、
少しは労ってやろうと思っただけよ。」
「うむ、星の言う通りじゃ。
というわけで鬼丸。」
武蔵は満面の笑みを鬼丸に向ける。
「酒はあるんじゃ、あて作ってくれ。」
「労う相手に酒のツマミ作らすんすか!?」
武蔵にツッコンだ鬼丸の横で肥前はクスクスと笑う。
「いいじゃない鬼丸。
人数は多い方が楽しいし。」
「・・・ま、確かにそうっすね。
お二人共、今から肥前と飯作るんで適当に寛いでてください。」
鬼丸にそう言われて、七星剣はゲームをしている蜻蛉切に近寄る。
「あら、龍が○くじゃない。
しかも4。」
「七星剣さんの龍○如くやったことあるの?」
「ええ、こう見えて結構ゲームするのよ。
ちなみに一番好きなのはD○Cシリーズね。」
「あ!わかる!私も好き!
ねぇねぇ!一緒にやろうよ○が如く!」
「私は後ろで見てるから、アンタが遊びなさい。」
そして一方武蔵は。
「のう、鬼丸。
なんか漫画はないかの?」
「そのダンボールにバ○入ってるっすよ。」
「○キとな!」
武蔵は目を輝かせてダンボールを開ける。
「おー!刃○道まで全てあるではないか!」
「好きに読んでていいっすよ、ちょっと時間かかりそうっすから。」
武蔵は楽しそうに漫画を読み始めた。
その様子を見て、肥前が言う。
「今日は賑やかになりそうだね、鬼丸。」
鬼丸はくつろいでいるみんなを見て。
「そうっすね。」
楽しそうに笑って言った。
#####
3時間後。
「おし、こんなもんすかね。」
鬼丸が満足そうに言う。
目の前には武蔵の要望通り、酒に合いそうな食事が目の前に並んでいた。
「なかなか上手くできたね。」
「肥前がいてくれて助かったっす。
飼い殺しにされかけてた割には料理できるんっすね。」
「両親がいない間にこっそり家政婦さんに教わってた。」
「ははは、なかなかやんちゃだったんっすね。」
鬼丸は料理の乗った皿を持ち上げる。
「とりあえず、これみんなのいる場所に運ぶっす。」
「了解。」
鬼丸は肥前と一緒に料理を居間に運ぶ。
「みんなー、料理できたっすよー。」
「分かってないわねあんた!」
「・・・え?」
鬼丸が顔を向けると、七星剣が蜻蛉切に怒鳴っていた。
「確かにOTEは名作よ?
でも私は龍が○くのあの世界観が好きなの!
急にゾンビとか出てきてもわけわかんないっての!」
「その斬新なのがいいんじゃん
それに私も4は好きだよ。
でもナンバリングのストーリー、
4以降劣化した気がするんだよね。」
「・・・0は面白かったでしょ?」
「5散々だったじゃん。
6も結局遥にファンからのヘイト稼いで終わったし。」
「その話をすんじゃないわよ!」
言い合っている2人に鬼丸が引き気味に尋ねる。
「2人とも、何喧嘩してんすか?」
「あ!聞いてよ鬼丸!
蜻蛉切ったらOTEが龍○如くで1番面白かったって言うのよ?
まだ続編あるのに!」
「でも実際OTEの後で評判だったの維新と0だけだったじゃん。」
「だからそれを言うんじゃないわよ!」
「鬼丸はどう思う!?
私間違ったこと言ってないよね!」
「この馬鹿に教えてあげなさい!鬼丸!」
「2人とも、喧嘩するならゲーム取り上げるっすよ。」
「「ごめんなさい!」」
2人は同時に鬼丸に謝った。
「ほら、料理できてるからさっさと座るっすよ。」
鬼丸に促され、2人は席に移動する。
「ほら、武蔵さんもいつまでも漫画読んでないで席ついてください。」
「むー・・・。」
鬼丸が促すが武蔵は漫画を読んで唸っていた。
「解せぬ。」
「何が解せないんすか?」
「・・・鬼丸よ。」
武蔵は真剣な顔で鬼丸に言う。
「なぜガー○ンはシ○ルスなんぞに負けたんじゃ?」
それに対して鬼丸は。
「・・・それな。」
ツッコまずに食いついてしまった。
「絶対おかしいっすよね!
なんであんなかませがガー○ンに勝てたのかわからないっすよ!」
「やつがガーレンより強いということは最大トーナメントで出てきたあの化け物蛇、
アイツを倒せるということじゃろ?
無理じゃろ絶対!」
「ていうかジャックハ○マーにボコられるのにガーレンに勝てるわけがないんすよ。
絶対不意打ちっすよ、間違いない。」
「じゃろうな、でなければ説明が付かん。」
「あの・・・2人とも。」
肥前が苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、ご飯食べよ?」
「おう、そうじゃったそうじゃった。」
「武蔵さん、とりあえず続きは飯のあとっすね。」
「うむ。」
こうして、ようやく全員が席に着く。
それを確認すると、武蔵は持ってきた日本酒を隣にいる鬼丸のグラスに注ぐ。
「あの、あーし酒はあんまり・・・。」
「まぁ1杯だけでも飲め、こういうのも付き合いじゃ。」
「・・・はぁ。」
武蔵と同じく、七星剣も蜻蛉切と肥前に酒を勧める。
「2人はどっちがいい?」
「私ワイン!なんか大人な感じがする!」
「そう言ってる時点で子供っぽいわよ、蜻蛉。」
「あ、私はハイボールお願いします。」
「あら、肥前は結構いける口?」
「あはは、はい。」
全員に酒が行き渡ったのをみて、武蔵が乾杯の音頭をとる。
「それでは、今日は皆お疲れ様じゃ。
それと新人たちよ、これから短い間じゃがよろしく頼むぞ、乾杯!」
『かんぱーい!』
全員が元気に乾杯をする。
鬼丸は手に持ったグラスを見つめる。
(はぁ・・・酒飲めないわけじゃないんだけどあんまり好きじゃな・・・い。)
鬼丸は、何故かグラスの中の日本酒から目が離せなくなり、その匂いがとても魅力的に感じた。
(な・・・んで。)
そして気がつくと、自然に口に運んでいた。
「・・・美味い。」
鬼丸のつぶやきを聞いて、武蔵が笑い出す。
「ははは、そうじゃろうそうじゃろう!」
「え!?うそ・・・なんで!?」
鬼丸が驚愕していると、
「美味しい!」
蜻蛉切が大声を上げた。
「なにこれ!お酒ってこんなに美味しいの!?」
その隣で肥前も驚いた顔をしていた。
「なんでだろう・・・いつもより美味しく感じるような・・・。」
首を傾げる3人に、七星剣は言う。
「そりゃそうよ。
貴方達の体は、今半分鬼なんだから。」
「・・・どういうことっすか?
七星剣さん。」
よくわかっていない鬼丸に、七星剣は酒を飲む手を止めずに答える。
「鬼はね、酒が大好物なの。
ほら、よく聞くでしょ?
酒を生産してる工場や蔵が鬼の襲撃を受けたって話。」
「ワシらの体は今、元々たあった人間の魂と鬼の魂が混ざりあった状態じゃ。
その影響で鬼巫女になったものは酒が好物になる。
酒に弱いものでも、鬼巫女になれば飲めるようになるのじゃ。
まぁ、それでも鬼巫女基準で強い弱いはあるがの。」
「なんか・・・色々変わったんっすね、あーしらの体。」
自分の手のひらを見つめながら呟く鬼丸に、武蔵は言う。
「それだけではないぞ、鬼巫女になると身体的成長が止まり不老となる。
つまり、寿命がなくなるのじゃ。」
「それに病気に対する耐性もあるし、
戦場で殺されない限りは死ぬことは無いわ。」
「へー・・・あれ?
じゃあお二人の年齢って。」
鬼丸の言葉に、武蔵はグラスを机に置く。
「鬼丸、今日わしが突き落とした時。
お主わしにババァと言うたの?」
「いや・・・その・・・あれはびっくりしてつい言っちゃったっていうか。」
「あぁ、大丈夫じゃ、別に怒っとらん。
怒っとらんが・・・。」
武蔵はニッコリと笑う。
「今夜は寝れると思うな。」
「・・・怒ってんじゃないすか。」
鬼丸は武蔵に、引きつった笑顔を向けた。
#####
数時間後。
「ごろにゃーん♪」
すっかり出来上がった蜻蛉切は、七星剣の膝を枕にして横になる。
「あははは、何よ蜻蛉、猫みたいになっちゃって。」
「だって気持ちよさそうだったんだもーん(すりすり)」
「すりすりしないの。」
そう言いながらも、七星剣は蜻蛉切の頭を優しく撫でる。
(可愛い酔い方するわね・・・それに比べて。)
「いやああああああああ!」
悲鳴の出処では、鬼丸がベッドの上で酔っ払った武蔵に押し倒されて襲われていた。
「ちょっ、武蔵さん!?何するんすか!?」
「今どきの若者の発育を調べるだけじゃ。
だから安心してわしに身を委ねろ。」
「安心できるか!
あ!やめて!足と足の間に足を入れようとしないで!」
その光景を見て肥前は、
「あはははははははは!」
腹を抱えて大爆笑していた。
「あっちはガラ悪いわねぇ。」
酔っ払っている武蔵の所行を、七星剣は白い目で見ていた。
「ん?なんじゃ、星、その目は。」
(うわ、こっち来た。)
武蔵は赤ら顔で七星剣にずんずんと寄っていく。
「話があるなら聞くz」
「それ以上近づいたら斬るわよ酔っ払い。」
七星剣は武蔵の喉元に一瞬で刀を突きつける。
「じょ・・・冗談じゃ、そう怒るな星・・・。」
「目の前で新人剥いといて冗談もクソもないでしょ。」
と、そこで武蔵の電話がなる。
「はいもしもし・・・おう、お主か。
なに?ふむ・・・そうか。
あぁ、じゃあ待っておるぞ。」
電話を切った武蔵に、七星剣が聞く。
「誰から?」
「皆朱槍からじゃ、明明後日新人の顔を見に来るらしい。」
「・・・ふーん。」
不機嫌そうに目を細める七星剣を見て鬼丸はむさしに尋ねる。
「誰なんすか?その皆朱槍さんって。」
「うーん、そうじゃなぁ。
一言で言うなら・・・。」
「キチ○イじゃな。」
「キ○ガイね。」
そう言った。
#####
人気のない夜道で鬼の死体が山のように積まれていた。
その上に座り、楽しそうに鼻歌を歌いながらスマホを見ている人物がいる。
身長は150センチ前半とやや低めの少女で、
背中に背負っている槍は彼女の2倍の大きさがあった。
長い赤髪を1本結びにしており、一見中学生と見間違えるほどの童顔である。
しかし服には、倒した鬼のものであろう返り血が大量についていた。
その女、皆朱槍はスマホの中の文章を読んで、楽しそうに笑う。
「楽しみだなぁ・・・。」
そう呟くと、皆朱槍は目的地に向けて歩みを進めた。