鬼巫女日常綺譚   作:鉄夜

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第6話

東京上空。

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

ヘリコプターの中の窓から蜻蛉切が興奮しながら外を見ていた。

 

「あれってスカイツリー!?

高い!すごい高い!めっちゃ高い!」

 

肥前と鬼丸は、そんな蜻蛉切を微笑ましそうにみていた。

 

「高いって2回言ったね。」

 

「はしゃぎかた小学生っすか。

つうか蜻蛉、ヘリコプターの中で飛び跳ねんのはダメっすよ。

あんた馬鹿力なんすからぶっ壊れたらどうすんすか。」

 

「大丈夫だよ鬼丸!私達ならこの高さ楽勝でしょ。」

 

「・・・それもそうっすね。」

 

「いやいやダメだから。

パイロットのお兄さん一般人だからね?

私達みたいに高所からの落下に慣らされてないから。

ていうか私達も別に慣れてないでしょ?」

 

「いや。」

 

「割ともう慣れた。」

 

「前から思ってたけど君たちの鬼巫女としてのポテンシャル高すぎるよね!?」

 

助手席から丙子椒林剣が顔を出す。

 

「ほら皆、もうすぐ着くよー。」

 

「はーい。」

 

蜻蛉切が元気に返事をすると、七星剣は正面に顔を向ける。

 

「さぁ、見えてきたよ。」

 

その声に3人は外を見る。

 

ヘリの正面に高層ビルが見えてきた。

 

「ようこそ、みんな。

ここが鬼滅隊の最大にして最前線。

東京支部だよ。」

 

#####

 

「到着!」

 

東京支部に到着し、ヘリがヘリポートに着陸すると、蜻蛉切が我先にと外に飛び出した。

 

鬼丸と肥前も、蜻蛉切に続いてヘリから降りる。

 

「ここが東京支部・・・か。」

 

「建物の作りといい、最前線って感じがするっすね。」

 

「鬼丸!肥前!ここすっごい高いよ!」

 

蜻蛉切はヘリポートの端から下を覗き込んではしゃいでいた。

 

「高いのは充分わかってるっすよ、蜻蛉切。」

 

「なにがそんなに楽しいの?」

 

「いや、なんて言うか!

こういう高いところ来ると飛び降りたくなるなぁって!」

 

「わかるっす。」

 

(どうしよう、私もちょっとわかるかも・・・。)

 

3人が離していると、離れた場所で椒林剣が手を鳴らした。

 

「はいはい、はしゃぐのはいいけどちょっとこっち来てくれる?

紹介したい子達がいるから。」

 

言われた通り3人が椒林剣のそばに駆け寄ると、そこには3人の鬼巫女がいた。

 

「じゃあ紹介するね。

右から加州清光、城和泉正宗、同田貫正国。

東京支部の主力、第一部隊の隊員だよ!」

 

椒林剣がそういうと、同田貫が前に出る。

 

「第一部隊、隊長代行の同田貫だ。

とりあいず2週間、よろしく頼む。」

 

「・・・あの、聞きたいことあるんすけど。」

 

「なんだ、鬼丸。」

 

「鬼滅隊は普通5人1組で組まされるはずっすよね?

ならなんで3人しかいないんすか?

それと隊長代行ってなんすか?」

 

「あぁ、やっぱきになるよなぁ。」

 

「ウチらの部隊、2月に隊長と副隊長が揃って異動してもうてなぁ。

そっから今まで3人でやってきたんや。」

 

「それで代わりに、そちらの同田貫が代行という形で隊長をしているんです。」

 

「そうだったんすか。」

 

「ああ、だからウチとしては研修でもなんでも戦力が増えるのはありがてぇ。

とくに・・・お前ら見てぇな奴らはな。」

 

「え?どゆこと?」

 

蜻蛉切が首を傾げると、城和泉がニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「京都での戦い、中継で見たでぇ。

大活躍やったやないか。」

 

「あなた達の戦い我々から見ても素晴らしいものでした。

とてもついこの間鬼巫女になった人とは思えません。」

 

「っつうわけで、お前らには期待してるぜ。

ウチとしては、有望な新人は大歓迎だからな。」

 

同田貫がそういうと、鬼丸たち3人は顔を見合わせ照れたように笑いあう。

 

「さぁみんな、色々話したいことはあるだろうけど、後は支部の中案内しながらね。

着いてきて。」

 

歩いていく少林拳に、他のみんなは言われた通りについていく。

 

#####

 

蜻蛉切や肥前と共に支部の中を案内されながら周りを見渡す。

 

「中も本部より広いっすね。」

 

「まぁね〜。

東京は1番鬼の出現率多いからね。

だからこそ鬼巫女がいちばん多いし強い戦力が集中してる。

それは何故か・・・。

さて、肥前ちゃんこの東京の真下にはなにがあるでしょう。」

 

「えっと・・・『鬼の種』ですよね。」

 

「そう種、『種』なんだよ。

政府はそこを懸念してる。」

 

「つまり、その種から花が咲くのを恐れてる?」

 

「そのとおり!

さすが鬼丸ちゃん、察しがいいねぇ。」

 

同田貫が引き継いで話し出す。

 

「そういう兆候はねぇし、

花が咲いたとして何が起こるかもわかってねぇ。

それでも、ことが起きた時誰よりも早く動けるやつが傍に居ないといけない。

それが俺達、東京支部だ。」

 

「だから東京支部の鬼巫女は実力者で固まってるんよ。」

 

「そう、だからお前らも今のうちに覚悟しとけ。

東京支部に所属するってことは、いつ起きるか分からない災厄と戦う覚悟がいるってことだ。」

 

「起きるか分からない・・・災厄。」

 

そんな会話をしながら、一行はある部屋の前で止まる。

 

「はい到着。

ここが第一部隊のオフィスだよ。」

 

そう言って椒林剣が腕輪を扉についているタッチパネルに当てると、ピッという音と共にタッチパネルについている小さなランプが赤から緑へと色を変え、ドアが開いた。

 

部屋の中は広々としており、作業用のディスクの他に、大きなソファーが3つあり、それに囲まれるように大きなテーブルが置いてあった。

 

そのテーブルの前にはテレビ台があり、ほの上には大きな液晶テレビが置いてあった。

 

そのテレビには多種多様なテレビゲームが繋がれていた。

 

「ここがオフィスっすか。

なんかテレビの前めっちゃゲーム置いてるっすけど。」

 

「俺達は仕事柄待機が多いからな。

自然とこうなるんだよ。」

 

「だからって私物化していいんですか。」

 

「真面目やなぁ肥前は、

オフィスは私物化してなんぼやで。」

 

「まぁ、何も無いと退屈っすよね。」

 

「おー!バイ○7だ!しかもVRもある!」

 

肥前とは対照的に他の2人はオフィスの私物化に疑問を持っていないようだ。

 

「あれ、おかしいな。

私が間違ってるのかな?」

 

「安心してください肥前、むしろ当然の反応です。」

 

困惑する肥前に、加州がフォローするように言った。

 

椒林剣が新人組の方を向いてパンパンと手を打つ。

 

「はいはい、

てなわけで今日から2週間、ここで実地研修をして貰うからね。

城和泉は蜻蛉ちゃんに、田貫は鬼丸ちゃんに、加州は肥前ちゃんにそれぞれ教育係としてついてあげてね。」

 

『了解。』

 

第一部隊の三人が返事をすると、

椒林剣は満足そうに笑みを浮かべた。

 

「うんうん、いい返事!

それじゃあ、あとは任せたよー。」

 

椒林剣はヒラヒラと手を振って部屋を出ていった。

 

「さて、まずはお茶にしましょうか。

ケーキも買ってきてますしね。」

 

「だな、色々話したいこともあるし。」

 

全員がテレビ前のテーブルに着くと、

加州は全員分の紅茶とケーキを用意する。

 

それに舌鼓をうちながら雑談を始める。

 

「鬼丸、本部はどうだ?

武蔵さんとか元気してっか?」

 

「元気っすよ。

いつも星さんと一緒になってしごかれてるっす。」

 

「あはは、相変わらずやなぁ2人とも。」

 

「でも、蜻蛉は逆に武蔵さん吹っ飛ばしてるよね。」

 

「まじか。」

 

肥前の言葉に同田貫が驚いて蜻蛉切の方を向く。

 

「うん!

武蔵さん強いからいい感じに手合わせできるんだ!」

 

「いや、そう思ってるの蜻蛉だけっすから。」

 

「武蔵さん訓練終わるといつもボロボロになりながら『アイツの相手変わってくれぇ。』って星さんに泣きついてるし。」

 

「いやぁ、ついテンション上がってやりすぎちゃうんだよねぇ・・・てへぺろ♡」

 

「あの武蔵さんが・・・強いんですねぇ蜻蛉は。」

 

「強いって言ったら鬼丸も強いじゃん。」

 

「あーしっすか?」

 

蜻蛉切に名指しされ、鬼丸は首を傾げる。

 

「だって能力2つも持ってるじゃん!ずっこい!」

 

「いやいや。

あーしよりアンタの馬鹿力の方が規格外じゃないすか。」

 

「あー、ウチらもテレビで見たわ。

炎とあの変な腕やろ。」

 

「確かに強力だし汎用性高そうだよなぁ。」

 

「まぁたしかに便利っすけど・・・あんま小出しに出来ないんすよねぇ。

でかいもん持ち上げたりぶん投げたりぶん殴ったり、大技にしか使えないんすよね。

あーしからしたら肥前みたいに小回り効いた方がいい気がするっすけどね。」

 

「え・・・私?」

 

急に話を振られた肥前は、首を傾げる。

 

「でも私、蜻蛉や鬼丸みたいに能力持ってた方が便利だと思うけどなぁ・・・。」

 

「能力を持っていないからと言って、悲観するものではありませんよ。」

 

加州が肥前を諭すように言う。

 

「能力を持っていないなら、

技術で補えばいいんです。貴方は十分それが出来ていると思いますよ。」

 

「だなぁ、映像みたけど鬼共相手に忍者みたいに飛び回ってたじゃねぇか。」

 

「やっぱ肥前ってニンジャだったんすね。」

 

「ドーモ。ヒゼン=サン。トンボキリデス。」

 

「いやニンジャ違うから、アイサツしないで。」

 

「まぁニンジャかどうかはさておいて。

肥前、貴方はまだまだ強くなれます、精進なさい。」

 

「・・・はい。」

 

加州の言葉に、肥前は尊敬の目を向ける・・・が、

 

「と、真面目ぶっこいてる加州先輩ですが。」

 

「脱いだら一番ふしだらな体しとんのこいつやで。

これ、証拠のグラビア写真集。」

 

「わああああああああああ!!」

 

加州は城和泉が出した雑誌を奪い取り、彼女に掴みかかった。

 

「馬鹿じゃないんですか!?

馬鹿じゃないんですか!?」

 

「アホかボケぇ!

1人だけ頼れる先輩的な立ち位置になろうったってそうはいかんで!」

 

「アナタそれでもアイドルですか!?」

 

一方同田貫。

 

「どうよ、すげえだろウチの加州。」

 

「わぁ!おっきい!」

 

「おぉ、これはなかなか立派なものをお持ちっすね。」

 

「・・・っ//////」

 

「貴方もなに見せてんですかー!」

 

写真集を鬼丸と蜻蛉に見せている同田貫の頭を加州は後ろからはたいた。

 

「加州さん・・・大人しそうに見えて意外と大胆っすね。」

 

「違うんです!違うんですよ!

編集者に土下座されてしかたなくですねぇ!」

 

「いうて途中からノリノリやったやないか。」

 

「カメラマンに(おだ)てられてポーズキメてたしな。」

 

「それはその・・・確かに撮影中は楽しかったんですけど・・・終わった後に恥ずかしさが込み上げてきて・・・。」

 

「一時のテンションに身を任せてもうたんやなぁ。」

 

「うぅ・・・////。」

 

当時のことを思い出したのか、

肥前は顔を赤くする。

 

「でも胸ならウチの肥前も負けてないっすよ!」

 

「その通り!どうよ!細っこい体のくせにこのボリューム!

なかなかでしょ!」

 

「2人とも、さも当然のように両側から人の胸を持ち上げないでくれるかなぁ。

さすがの私も手が出るよー。」

 

笑顔で額に青筋を浮かべる肥前から、蜻蛉と鬼丸は急いで離れる。

 

「でもあれっすね、

城和泉さんといい、加州さんといい、色々副業してる人が多いんすね。」

 

「せやなぁ。

血なまぐさい鬼巫女業ばっかやっとってもつまらんからな。」

 

「えー、私は戦ってる時が一番楽しいけどなぁ。」

 

「同じく。」

 

蜻蛉切の言葉に、同田貫が同意して手を上げる。

 

「そこの2人みたいに血の気の多い奴もおるけど、

鬼巫女も所詮は人間やからなぁ。

何かほかにやりたいことある奴もおるやろうから鬼巫女は基本副業は自由なんよ。」

 

「それと学生もいるんですよ。

高校生は鬼滅隊が管理している建物の敷地内でのみ飲酒が許可されています。」

 

「やっぱ鬼巫女と酒は突き放せないんすね。」

 

城和泉は鬼丸と肥前を観察するように見る。

 

「2人やったらそうやな・・・肥前もやけど鬼丸も結構スタイルええしグラビアアイドルとかどうや。」

 

「あーしそういうのは柄じゃないんすよねぇ。」

 

「私もその・・・肌の露出が多いのはちょっと・・・。」

 

「そりゃあこれから大変だなぁ。」

 

「・・・どういうことですか?」

 

同田貫の言葉に肥前は不安を感じて聞く。

 

「人気が出たらお前らのブロマイド出すからなぁ。

いやでも脱ぐことになるぞ。」

 

「ブロマイドって・・・昭和のアイドルっすか。」

 

「ちなみに、N、R、SR、SSRの4種類があってなぁ。

10枚組のセットを5000円で買えばSRは確定で入っとるで。」

 

「ソシャゲのガチャみたいなクソシステムっすね。」

 

「そういうな。

確かにクソだけどそれをバカみたいに買っていく大きなお友達のおかげで俺達の活動資金は潤ってんだぞ。」

 

「そんなに売れてんすか?」

 

「集めればカードゲームみたいに対戦できたりしてめっちゃ人気なんよ。」

 

「物好きな人もいるんすねぇ。

ねぇ蜻蛉。」

 

「私も持ってるよ。」

 

「居たっすよ、大きいお友達。」

 

「巷で流行りのカードゲームと聞いてやり始めたらハマっちゃってさぁ。

鬼丸も今度ルール教えるから一緒にやろうよ!

鬼巫女2人合体させて強い鬼巫女にしたりできるんだよ!」

 

「それなんて遊○王?」

 

「ちなみに俺と城和泉が合体したら椒林剣さんになる。」

 

「草」

 

「草生やすな。」

 

と、同田貫が思い出したように言葉を発する。

 

「そういやあ鬼丸は椒林剣さんに誘われたんだよな。」

 

「あー・・・まぁその成り行きで。」

 

「あぁ、大丈夫やで。

うちら全部知っとるから。」

 

「え?なになに?鬼丸なにしたの?」

 

「いやなんであーしがやらかした前提なんすか?」

 

「あー、こいつ。

鬼巫女でもねぇ一般人のときに鬼一体をぶち殺しやがったんだよ。」

 

「え?なにそれ、どうやったの?」

 

「うちに昔から送られてくるんすよ。

対鬼用の護身用武器。」

 

「送られてくる?」

 

「親父いわく、鬼を引き寄せる体質の人間に対する政府の措置とかなんとか。」

 

「あぁ?んなもん聞いた事ねぇぞ。」

 

「いや、ありえへん話やないで。

堅気の連中の中には鬼を引き付ける体質を持っとるやつもおる。

そういう奴のために措置が取られてもおかしないで。」

 

「いや・・・でも・・・。」

 

「それより!」

 

加州がなにか言おうとしたところで蜻蛉切が遮る。

 

「鬼滅隊って本当に待機してばっかなの?」

 

「安心しろ、俺達1番隊は昼から街の警らだ。」

 

「ここでじっとしてるよりは退屈せんと思うで。」

 

「おお!楽しみ!」

 

「もう蜻蛉ったら、遊びに行くんじゃないんだよ。」

 

そんな会話をして笑い合う中、

加州は鬼丸に小声で尋ねた。

 

「時に鬼丸さん。

不躾なことを聞きますが、ご両親はどんな方々ですか?」

 

「両親?

普通っすよ?

つってもあーしは養子で親とは血ぃ繋がってないっすけどね。」

 

「・・・そう・・・ですか。」

 

鬼丸の言葉に、加州は密かに思考をめぐらせる。

 

「鬼丸ー!田貫先輩が昼ごはんおごってくれるってー!」

 

「まじっすか!?」

 

蜻蛉の言葉に嬉しそうに駆け寄って行く鬼丸の背中を、加州は静かに見つめていた。

 

#####

 

都内にて。

 

「お前ら動くなぁ!」

 

「いやああああ!」

 

複数の男が覆面をして拳銃片手に銀行を襲撃していた。

 

男達が用意した大きなカバンに銀行員が札束を詰め込むと、

男達はそれを持って用意していた車で逃走を図る。

 

「へへっ!やったなぁ兄貴!」

 

「ちょろいもんよ!

よし、車出せ!」

 

「おうよ!」

 

男の1人がキーをさしてエンジンをかけてアクセルをふむ。

 

「・・・おい、早くしろよ。」

 

「いや、アクセル全開なんだけど。」

 

「はぁ?全然進んでねぇぞ。」

 

「いや、マジでぜんか・・・い。」

 

「あぁ?どうしたんだ固まっちまっ・・・て。」

 

2人が振り返ると、そこでは花の咲いたような笑顔を浮かべた城和泉が車のトランクの持ち手を片手で掴んで車を引き留めていた。

 

「あ・・・あの制服!鬼み」

 

バリィーン!

 

男が言い終わる前にガラスを突き破って城和泉の腕が後部座席に座っている男の顔面を掴んで外に引っ張り出した。

 

「兄貴ぃぃぃ!」

 

「弟ぉぉぉぉ!」

 

兄の叫びも虚しく車の外で弟はアイアンクローの容量で持ち上げられる。

 

「残念やったなぁ、おまわりよりおっかないのに見つかってもうたでぇ。」

 

城和泉は男を地面にうつ伏せに倒すと、

横腹を蹴って気絶させてから背中を足で踏んで動きを封じる。

 

「さぁて、次───」

 

ぱぁん!

 

「がっ!?」

 

男が銃を発砲し、それが額に命中した城和泉は後ろに倒れる。

 

「へへぇ、ざまぁねぇぜ!」

 

男はアクセルを踏むと、全力でその場を走り去って行った。

 

撃たれた城和泉は、少しすると起き上がり赤くなった額を抑えた。

 

「痛ったぁ!

このご時世にハジキとかマジかあいつ。」

 

城和泉は立ち上がってズボンについた汚れをはたいて落としてから走り去る車を見ていた。

 

「大人しくうちに捕まっとけばええのに、墓穴ほったなぁ。」

 

城和泉の視線の先で車は全速力で走っていた。

 

「ははは!すまねぇな弟!

これで手柄は俺の独り占めだぜ。」

 

だが、車の正面に影が降ってきた。

 

その人物、蜻蛉切は車の前に立ち塞がると拳をふりかぶる。

 

「え?」

 

気づいた時にはもう遅い。

 

ドゴォ!

 

蜻蛉切は車のボンネットに拳を叩き込んだ。

 

車はボンネットがぺちゃんこになって動きをとめた。

 

蜻蛉切は気絶した男を車から下ろすと、襟首を掴んで引きずりながら城和泉のいる所へ向かう。

 

「おお怖、あれはトラウマもんやなぁ。」

 

こっちに向かって笑顔で手を振る蜻蛉切をみながら、城和泉はそう言った。

 

#####

 

数分後。

 

犯人たちが連行されている側で。

 

「このアホォ!」

 

ビシっ!

 

「痛っ!?」

 

城和泉にチョップをくらわされた蜻蛉切は痛そうに額を抑える。

 

「なんでぇ!?

私いい事したのに!」

 

「運良く気絶ですんだけど、

下手したら犯人死んどったやろあれ!」

 

「ちゃんと手加減したもん!

私が本気で殴ったらあんなもんじゃ済まないよ!」

 

「ほぉ?どうなるんや?」

 

「ミンチよりひでぇや!」

 

「無い胸張って自慢げにいうな!」

 

ビシっ!

 

「あう!

手は出すなぁ!暴力反対!」

 

再びチョップされて額を摩っている蜻蛉切に城和泉は叱るようにいう。

 

「ええ機会やから教えといたるは。

鬼滅隊(ウチ)はあんまり規則で縛ったりせぇへんけど。

一つだけ守らなあかん鉄の掟がある。」

 

「掟?」

 

「『人を殺めし者、理由の如何に限らずこれを処断するべし。』

事故でもなんでも、人を殺した鬼巫女はその場にいた鬼巫女に斬られる。

切腹なんて誇らしく死ぬことなんて許されへん。

せやから蜻蛉切・・・ウチにあんたを斬らせんといてくれよ。」

 

「・・・」

 

城和泉の言葉に蜻蛉切は黙ってしまった。

 

(あかん、ちょっど驚かしすぎたかな。)

 

そう思った城和泉は、支部を出る時に鬼丸が言っていたことを思い出す。

 

『蜻蛉は褒める時に頭を撫でてやると喜ぶっすよ。』

 

城和泉は1度喉を鳴らして蜻蛉切に言う。

 

「とはいえ強盗捕まえたんはお手柄や。」

 

城和泉はそう言って蜻蛉切の頭を優しく撫でる。

 

「ようやったな、蜻蛉。」

 

その言葉に蜻蛉切は花の咲いたような笑顔を浮かべた。

 

(ホンマに子犬みたいな奴やなぁ。)

 

その様子がおかしくて、ついつい城和泉は頬が緩んでしまうのであった。

 

#####

 

一方、加州と肥前は二人で街を歩いて見廻りをしていた。

 

「今日は人が多いですね。」

 

「確かショッピングモールでイベントがあるとかないとか。

でもこういう時程市民の方々の安全を守るために、気を引き締めなければ行けませんよ。

こういう人混みでこそ、喧嘩などの騒動が起きやすいですから。」

 

「喧嘩って・・・それも私たちの仕事ですか?

さすがに警察の領分では・・・。」

 

「鬼巫女のと仕事は、なにも鬼退治だけではありません。

治安維持、警察のお手伝いをすることも立派な仕事なんです。

人と妖怪が共存する現代、

普通の警察でさ手に負えなこともありますから。

これも立派な仕事ですよ。」

 

「なるほど・・・。」

 

肥前が周りを見渡すと、大きなショッピングモールが目に入る。

 

屋上から巨大なポスターが垂らされており、そこにはポーズを決めている水着姿の加州と、新作グラビア写真集の発売日が書かれていた。

 

「加州さん・・・あれって。」

 

「人々を鬼からだけでなく、あらゆる危険から守るのも私達の役目なんです。」

 

「いや・・・あの・・・。」

 

「そういう事を通して、私達が人を傷付けない、人々の味方だということを強調しなければならないんですよ。」

 

「・・・写真集、新しいの出すんですか。」

 

「・・・」

 

肥前の問いかけに、歩いていた加州は立ち止まってふるふると肩を震わせる。

 

「・・・がうんです。」

 

「え?」

 

「違うんですよおおお!」

 

加州は肥前に泣きついた。

 

「最初に出した写真集が思いの外好評で!

それで編集者に頼まれたんですよ!」

 

「断ればよかったんじゃ・・・。」

 

「目の前で頭地面に擦り付けて土下座されたら断れませんよ!」

 

「加州さん、お人好しってよく言われません?」

 

「おかげで写真集も4冊目ですよ!

どうしましょう!どうしたらいいですか!?」

 

「もうこうなったら行けるところまで行くしかないんじゃないですか?」

 

「新しい写真集が出る度に過激になっていってるんですよ!

このままだどいつか完全に脱がされますよ私!」

 

「それはその・・・ご愁傷さまです。」

 

「うわああああああん!」

 

肥前はしばらく加州をなだめていた。

 

#####

 

一方、同田貫と鬼丸。

 

「ねぇ、田貫さん。」

 

「なんだぁ、鬼丸。」

 

「あーしら見回りに来たんすよね。」

 

「そーだぞー。」

 

「じゃあなんで田貫さんクレープ食ってんすか?」

 

「美味そうだったから。」

 

「ダメっすよー。

あーしらも一応税金もらってんすから。

それ相応の働きはしねぇと。」

 

「そういうお前はなんでタピオカジュース飲んでんの?」

 

「美味そうだったから。」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「今頃加州あたりはバカ真面目に見回りしてんだろうなぁ。」

 

「あーしら的にはこれくらいがちょうどいいっすけどねぇ。」

 

「それなぁ。」

 

同田貫が隣を見ると、

鬼丸はタピオカジュースの入った容器を、器用に胸の上に乗せてストローで飲んでおり、両手はポケットに突っ込んで壁にもたれていた。

 

「ん?どうしたんすか?」

 

「・・・いや、別に。」

 

「そっすか。」

 

鬼丸はタピオカジュースを飲み干すと近くのゴミ箱に入れる。

 

「別にデカくても邪魔なだけっすよ。」

 

「わかってんじゃねぇかコノヤロウ。」

 

「戦闘中とか揺れて微妙に痛いし。

あーしとしては田貫さんみたいなスレ・・・貧乳の方がいい気がするっすけど。」

 

「おい、なんで今スレンダーって言おうとして悪い方に言い直した!?

わざとだなてめぇ!」

 

「あ、わかるっすか?」

 

「いい性格してんなこの野郎。」

 

フンッと鼻を鳴らしてから、

鬼丸に語りかけるように話し出す。

 

「なぁ、鬼丸よぉ。

お前なんで鬼巫女なんかになった。」

 

「なんすか、急に。」

 

「この仕事、楽しいけどたまに虚しくなるんだよ。

鬼が出てきてそれを狩っての繰り返し。

それを10年続けてきた。

その間沢山の人間を助けたが、

同じくらいたくさん死なせた。

そういう職場だ、ここは。」

 

同田貫は鬼丸に真剣な目を向けると、再び問いかける。

 

「鬼丸、お前は利口そうだ。

そんなお前がなんで鬼になる道を選んだ。」

 

「あーしは・・・。」

 

ドゴオオオオオン!

 

鬼丸が言葉を発しようとした時、

爆発音が響いた。

 

「なんの音っすか、今の!」

 

「多分こりゃあ・・・。」

 

同田貫が覚醒してしばらく目を瞑ると強ばった表情を浮かべる。

 

「鬼丸、構えろ。

仕事の時間だ。。」

 

「了解っす。」

 

鬼丸と同田貫は刀を抜いて走り出した。

 

#####

 

鬼滅隊東京支部、管制塔。

 

沢山のモニターの前でオペレーターたちが忙しく機会を操作していた。

 

「何があったの!?」

 

室内に入ってきた椒林剣が問うと、オペレーターの1人が慌てて答える。

 

「分かりません!

なんの予兆もなしに鬼が大量発生し始めて!」

 

モニターに移る映像を見た椒林剣の表情が緊張で強ばる。

 

「急いで第1〜第4部隊を出撃させて。

それと無銘部隊も招集して各地に散らせて。」

 

「支部長!第1部隊は現在現場近くで見回りしています。」

 

「わかった、第2部隊には第1部隊の応援に向かわせて。

無銘部隊も各部隊のフォローを。」

 

「了解。」

 

椒林剣の額から冷や汗が垂れる。

 

「研修初日から大仕事だねぇ、こりゃ。」


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