東京支部指令室。
モニターを厳しい顔で見ているフランに椒林剣が声をかける。
「どうしたの?フラン。」
「・・・嫌な予感がする。」
フランの言葉に、椒林剣は眉を顰める。
「さっき、周辺の機械を調べみたんだが・・・どこも不調はなかった。」
「・・・予兆を感知できなかったのは機械のせいじゃないってこと?」
「ああ、つまり
椒林剣、君なら心当たりがあるだろう?」
その言葉に椒林剣は冷や汗を掻く。
「鬼神級が出たってこと?」
「だとしたら20年ぶりだね。
沖縄以来かな。」
椒林剣は踵を返して部屋を出ようとする。
「どこに行く気だい?」
「決まってるでしょ。
みんなを助けに行く。」
「君の仕事はここで指示を出すことだ。」
「本当に鬼神級がいるなら皆が危ない!
新人だっているんだよ!?」
「鬼巫女に新人も何も関係ない。
一度戦場に出れば先輩達と同等に戦うことが出来る。
君もよく知っているだろう?」
「だけど!」
「それに君は今冷静さを欠いている。
そんな状況で君の能力を使えば、それこそ仲間達が巻き添えを食うことになる。」
「・・・」
フランは低い位置から手を伸ばし、椒林剣の肩に手を置く。
「今は彼女たちを信じよう。
もしもの時は私が出るさ。」
「そう・・・だね・・・。」
椒林剣はフランに諭され、片目を隠すように片手を顔に添える。
「フランの言う通りだ・・・ちょっとあたま冷やしてくる。」
そう言って椒林剣は指令室をでると支部長室に足を運んだ。
自分のテーブルにつくと、引き出しから2枚の写真を撮り出した。
1枚目は箱庭出身者の鬼巫女達との写真。
そしてもう1枚。
そこには若い男性と、その隣で幸せそうに赤ん坊を抱く椒林剣の姿が写っていた。
「おねがい、死なないで・・・みんな、雅。」
椒林剣は2枚の写真を大事そうに胸の中で抱きしめた。
#####
瓦礫の山とかしている鬼の発生源となった場所に3人の無銘の鬼巫女がいた。
二人の鬼巫女は崩れずに残っている建物の上から周りを観察していた。
1人は金髪ツインテールのタレ目の少女。
もう1人は黒髪のショートヘアーでツリ目の真面目そうな少女だ。
「
華澄と呼ばれたツインテールの少女はため息を履いて答える。
「全然、
「こっちも全然、
もしかしたらあんまデカくないのかもねぇ。」
悠里と呼ばれたもう1人の少女の言葉に、華澄は愚痴をこぼす。
「うへー。
だとしたらやだなー。
首魁になる上級の鬼って人型に近いほど強いんでしょう?
名物のいない状況で見つかりたくないなぁ。」
「見つかる前に見つけて、
司令部に報告して、さっさとトンズラしよう。」
「だから斥候なんていやだったんだよー。」
「文句言わない、ほら行くよ。」
文句を言う華澄と共に、
悠里は建物の外に飛び下りる。
そこには、もう1人の少女がいた。
「凛ー。」
凛と呼ばれた少女は振り返る。
凛の髪はポニーテールに結ばれていて、無表情な顔からは感情が読み取れなかった。
「どう?なにか見つかった?」
悠里に聞かれ、凛は首を横に振る。
「なにも。
あるのは瓦礫と死体だけ。」
「生存者は?」
その問に、凛は再び首を横に振る。
「・・・そっか。」
落ち込んでいる悠里の隣で、
華澄も俯いて話す。
「なんて言うかさ・・・嫌になるよね・・・こういうの。」
「華澄・・・。」
「分かってるんだよ、
私達も半分鬼になったとはいえ人間、手の届く範囲でしか守れない。
そんなことはわかってる・・・分かってるんだよ。」
華澄の瞳には涙が滲んでいた。
「なら救えばいい。」
その言葉に、華澄と悠里は凛に顔を向ける。
「ここで救えなかった人より、多くの人をこれから救えばいい。」
「でも・・・また救った人より沢山人が死んだら?」
「またその倍を救えばいい。」
凛はなおも淡々と続ける。
「救えなかったことを悔やむなとは言わない。
でも私達がすべきなのは、救い続けること。
助けを求める人に、手を伸ばし続けること、じゃないと・・・。」
凛は瓦礫の隙間からはみ出ている、人の腕を見つめる。
「それこそ、
この人達を裏切ることになる。」
「・・・凛。」
三人はしばらく黙って立ち尽くしていたが、
ふと悠里がなにかに気づいたように顔を動かす。
「ねぇ、気づいた?」
「うん、何かがこっちに近づいてきてる。」
「ひょっとして生存むぐっ!?」
悠里は大きな声を出しかけた華澄の口を塞いで小声で話す。
「敵かもしれない・・・離れて様子を見よう。」
凛の提案に、あとの2人はうなづく。
3人は離れた建物の影に隠れて様子を見ることにした。
足音が近づくにつれ、三人の心拍数が上がる。
そして現れたのは・・・白い影だった。
青白い肌に赤い髪、
瞳は赤く染っており、瞳孔が猫のように閉じている。
生えている歯はサメのように鋭く頭からは2本の角が生えていた。
片手には大剣を持っており、
地面にずりずりと引き摺りながら歩いていた。
三人は顔を建物の影に引っこめる。
(あれは・・・鬼だ。
でも、この距離まで近づかないと気づかないなんて・・・。)
冷静に思考を巡らす悠里だが、
その足は震えていた。
(やばい・・・あれはヤバい。
妖気だけで心臓が潰されそう。
・・・それに。)
強い鬼ほど人型に近いというのは
知っていた・・・だが、その鬼は。
(人型どころか、人そのものじゃない!)
その鬼は人、それも年若い少女の姿をしていた。
悠里は横目で他の2人の様子を確認する。
凛は普段通り無表情を装ってはいるが冷や汗を大量にかいていた。
華澄は膝を畳んで座り込み、
頭を抱えて歯をガチガチとさせながら肩を震わせて脅えていた。
悠里はインカムで、連絡を試みる。
「司令部、こちら斥候部隊。
首魁と思われる鬼を発見。
至急応援を求めます。」
しかし司令部から応答はなく、
代わりに耳障りなノイズが聞こえるだけであった。
「そんな・・・通信機の故障!?
こんな時に!?」
悠里は唾を飲むと、もう一度鬼の様子を覗き見る。
しかし先程までいた鬼の姿はなかった。
「総員抜刀!」
悠里のその言葉と共に、3人は刀を抜いて構える。
(どこに行った・・・この住宅街で隠れる場所なんて幾らでもある。
考えろ・・・考えろ悠里!)
悠里はなにかに気づき、叫ぶ。
「壁から離れて!」
だが・・・遅かった。
どごぉ!
壁を破壊して刀が飛び出し、
凛の腹部を貫通した。
「ゴホッ!」
凛は口から血を吐き、腹から剣が抜かれるとその場に倒れた。
「凛!」
倒れた凜の背後、破壊された壁が崩れ土埃の中からそれは現れた。
「チッ、とっさに気づいて急所外したか。
まぁいいか、あとでトドメさせば。」
その鬼は笑顔でこちらに手を振る。
「やっほー、鬼巫女共。
殺しに来たよ。」
悠里の行動は早かった。
「うああああああああ!」
恐怖を叫びでごまかし、
地面を思い切り蹴って敵に飛び掛り空中で一回転して刀を鬼の頭に刀を振り下ろす。
鬼は片手で刀を持ち上げ、軽々とそれを受ける。
「かっる。」
悠里は鬼の剣の腹を蹴り、
後転しながら飛んで距離をとり刀を構える。
「華澄!
私がアイツを惹き付けるから凛を連れてここを離脱して応援を呼んできて!」
「い・・・いやだ!
私も戦う!」
「この中じゃあんたが1番足速いんだから!
それに今は凛の命が最優先でしょ!
いい?言われた通りにするんだよ?」
「・・・分かった。」
華澄が応えると、
悠里は駆け出した。
「はあああああ!」
近くの壁や電柱を蹴って跳ねるようにジグザグ飛んでいき、
刀を振り上げる。
「邪魔。」
鬼は腕を横に振るって悠里を殴り飛ばし壁に叩きつけられた。
「悠里!」
悠里は壊れた壁に、力なくもたれかかり頭から血を流して気絶していた。
「ゆう・・・り・・・。」
華澄は絶望した顔で座り込み、
静かに涙を流し始めた。
「あーあ、泣いちゃった。
可哀想に。」
鬼は華澄に歩いていて近づき刀を振り上げる。
たが、その刀が振り下ろされることは無かった。
「あ?」
鬼が不機嫌そうに剣を見ると、
赤く光る糸が剣に巻き付いていた。
その線を辿ると、気絶していた悠里が立ち上がり、糸を引っ張っていた。
糸は拘束用の妖術であり鬼の手足に繋がっており動きを封じていた。
「悠里!」
「華澄!凛を連れて逃げて!」
「そんな・・・嫌だよ!」
「いいから行け!」
そんなやり取りをしていると、
糸が引っ張られ悠里の身体が宙に浮き、
バンッ!
「かはっ!」
壁に叩きつけられた。
「雑魚が・・・。」
「このおおおお!」
悠里に止めを刺そうと動き出す鬼の背後から、華澄が襲いかかる。
だが、
「ぐっ!?」
鬼は振り返り華澄の首をつかんで持ち上げる。
「死ねよ。」
鬼は華澄の心臓を突き刺そうと剣を手前に引く。
「うあああああ!」
悠里は背後から鬼に組み付いた。
華澄は鬼から解放され、鬼に組み付いている悠里を見上げる。
「悠里!」
「華澄!逃げて!早く!」
「でも!」
「早く行け!
絶対死ぬな!死なせるな!」
その言葉で、華澄は決心したのか駆け出して気絶している凛を背負うと走り出した。
「絶対戻ってくるから!」
そう言って華澄は凛を連れて逃げ出した。
#####
華澄は凛を背負い、建物の上を伝って走っていた。
(逃げなきゃ・・・とにかく逃げて助けを呼ばなきゃ・・・悠里が・・・。)
華澄は一瞬、悠里を助けに戻ろうか考えたがその思考を振り払うように頭を振る。
(ダメだ、今はとにかく逃げなきゃ・・・っ!?)
華澄はバランスを崩して、
建物の上から地面に落下した。
普通の人間なら命はないが、
鬼巫女にとっては大したことは無い。
しかしこんなミスは珍しく、
華澄は違和感を感じて足元を見た。
「・・・え?」
見ると、両足の足首から先が切断され血が流れ出していた。
「あぁ・・・ああああああああああああああああ!!」
認識した途端足に激痛が走り、
華澄は大声で泣き叫んだ。
「痛い・・・痛いよぉ。
足・・・私の・・・足・・・。」
子供のように泣きじゃくっていたが、ハッとして周りを見渡す。
「・・・凛。」
華澄の目線の先には気絶した凜が倒れていた。
華澄は痛みに悶えながら、
それでも凛を助けるために両腕の力だけで体を引きづるように移動して傍に近寄ろうとする。
「まったく、ニイチのやつにも困ったものだ。」
その冷たい声に、
華澄の心拍数が急上昇した。
気絶している凛の傍に現れたそれは、髪型は腰まで長いロングヘアーで先の鬼とは別だが、
瞳や肌、髪の色は同じであった。
そして何よりその圧倒的な妖気は先程の鬼と同等のものだった。
手には巨大なブーメランを持っており、
それで華澄の足を切断したのだろう、一部に血がべっとりとついていた。
「すぐ仕留めずに遊んだりするからこうやって私が後始末する羽目になる。
まったく面倒だ。」
鬼は気絶している凛の腕を片手でつかんで持ち上げる。
「これは貴様の仲間か?
随分と面白い格好をしているな。」
「・・・るな。」
華澄は痛みに苦しみながらも声を出す。
「仲間に・・・友達に・・・触るな・・・。」
鬼は華澄を嘲るように笑う。
「まったく、人間の仲間意識には感心する限りだ。」
鬼は凛を華澄の方へ放り投げた。
華澄は這いながら凛の前に移動すると守るように手を広げて鬼を睨む。
「そんな顔はよせ、
いくら虚勢を張ろうが貴様の恐怖はどうにもならん。
当然、これから訪れる死すらも、貴様にはどうする事も・・・。」
「まぁまぁ、ちょっと待ちなよ、ニジュ。」
ニジュと呼ばれた鬼の隣に、
先程襲ってきた鬼、ニイチが空から降りてきた。
「すぐに殺しちゃつまらないでしょ?
こういうのは楽しまないと。」
「私はお前のように悪趣味じゃない。」
「別にいいでしょ?
どうせ殺すなら少しぐらい遊んでも。」
「・・・好きにしろ。」
ニイチはニヤリと邪悪な笑みを浮かべると、華澄の傍に何かを放り投げる。
「悠里!」
それは、傷だらけでズタボロになった悠里だった。
華澄は悠里を手繰り寄せると首筋に指を添える。
(脈が弱いけど・・・生きてる・・・わざと生かした?
だとしたら・・・。)
「ねぇ、お前。」
ニイチが声をかけると、
華澄は睨みつけるようにそちらを向く。
「チャンスをやるよ。」
「・・・チャンス?」
「簡単な話さ。
その2人を見捨てて君だけ助かるか、
君が死んでその2人を助けるか。
どちらか好きな方を選びなよ。」
その言葉に華澄の心が揺らぐ。
(助かる・・・2人を見捨てれば・・・私は助かる・・・。)
華澄は拳を強く握る。
(死にたくない・・・まだ生きてやりたいことが沢山あるんだ・・・
こんなところで死にたくない!
だから・・・しかたないよね。)
決断した華澄は、
「・・・はぁ?なにそれ。」
2人の前に立ち塞がるように膝立ちをして両手を広げた。
「死にたいのかなぁ?」
「・・・死にたくない。」
華澄は目の前のニイチを泣きながら睨みつける。
「死にたくないよ!
当たり前でしょ!
今だって本当は逃げ出したくてたまらないよ!
逃がしてくれるなら命乞いもするし足の裏だって舐める!
でも・・・でも・・・!」
華澄の脳裏に、悠里の言葉が蘇る。
『絶対に死ぬな!死なせるな!』
華澄はニイチを睨みつけて叫ぶ。
「仲間は・・・絶対裏切らない!!」
華澄の心の底からの叫びに、
ニイチはつまらなそうにため息を吐く。
「あっそ。
なら、死ねよ。」
ニイチが大剣を振り上げる。
(嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
死にたくない・・・誰か・・・。)
華澄は、縋るように震える声で呟いた。
「誰か・・・助けて・・・。」
ニイチの剣が、華澄に振り下ろされようとした刹那。
ドゴォ!
突然現れた二つの影がニイチの体を蹴り飛ばし、5m先の瓦礫の山まで吹っ飛ばした。
「・・・え?」
華澄が唖然としていると、
その肩を後ろから優しく叩かれた。
「大丈夫ですか?」
振り返ると、そこには駆けつけた肥前がいた。
「あ・・・あなた達は?」
「東京支部の者です・・・と言っても研修中の新人ですけどね。
とりあえず、皆さんを東京支部までお連れします。」
「ま・・・待って!
あの2匹の鬼はヤバいんです!
もっと人を連れてこないと!」
その言葉に、肥前はにっこりと優しく微笑む。
「大丈夫ですよ、あの二人なら。」
「・・・え?」
華澄が首を傾げていると、
声が聞こえてきた。
「ちっ、結構思いっきり蹴り飛ばしたんすけどあんま手応えないっすねぇ。」
「硬そうだったねぇ。
今まで戦ってきた鬼より強そう!
超楽しみ!」
「蜻蛉、遊びに来てんじゃないっすよ。」
「分かってるよ、鬼丸。」
そんな2人の会話に、
ニジュが不機嫌そうに問いかける。
「何者だ、貴様ら。」
声の主2人、鬼丸国綱と蜻蛉切は目の前の敵を睨みつける。
「やっほー、鬼共。」
「鬼退治に来たっすよ。」