君が帰る場所   作:pwpa

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夏の思い出くらい楽しくって良いじゃないか ②

「あれ?御昴さん私服ですか?」

 

「面倒だしねー、それじゃ後は若い二人で楽しんで」

 

まだどこも回ってないというのに帰ろうとするあいつの肩をおさえたのだが、それと同時に小恋もあいつの手をとっていた

 

「まぁ少しくらい良いだろ?折角来たんだしさ」

 

「そ、そうですよ、御昴さんも一緒に楽しみましょうよ」

 

凄く嫌そうな顔はよく見ているからかすぐに分かったが、この顔をするときは大体折れてくれる

その予想は簡単に当たり少しだけ時間を割いてくれた

 

ここまでは良かった

そう本当にここまでは……

 

今のオレの状態は、右にあいつと左に小恋

しかも人混みではぐれないようにと、二人ともオレの甚平の袖を掴んでいる

他の人から見たら女の子二人連れて歩いているようにしか見えていないだろう

 

たこ焼きを買うにもりんご飴を買うにも屋台のオヤジにはこう言われる

『可愛い子二人も連れて~憎いな兄ちゃん

二人分買ってくれりゃ1つサービスしてやるぞ?』

はっきり言って財布がピンチのオレにはキツすぎる

 

ズボンに入れておいたスマホのバイブに気付いて確認すると、あいつからLINEが来ていた

 

『右の甚平の袖にいくらか入れておいたから、恥ずかしい姿は見せないように

あくまで貸しだから、必ず返して』

 

いくら入れてくれたのか確認しようと手で探ろうとしたとき、あいつは離れた

 

「あたしは先に帰るから、西城さんと六道さんは花火も見なよ

それと六道さんはしっかり西城さんを家まで送ること」

 

今度は引き止める間もなく人混みの中へと消えていった

 

「本当に行っちまったな」

 

「ですね」

 

「オレらはどうする?」

 

帰るって言うならしょうがねぇよな

 

「もう少しだけ、昴くんと一緒にいたいです」

 

心臓が飛び出たと思ったほどビックリした

 

「なら花火見るための場所とっとくか」

 

少し暗くても小恋の頬が赤くなっているのは分かった

あぁ、やっぱりオレは小恋のこと好きだ

こういう表情1つだけで見入ってしまう

 

「えっと、どこかオススメの場所とかないかな」

 

「それでしたら、妹と来たときに見つけた場所があります」

 

小恋に先導され、その横をゆっくりと歩いた先は、祭の会場とは少し離れているのだが、人もいない静かな場所

到着して少しすると花火が辺りを照らし出した

 

「本当に穴場だな、良かったのか?オレなんかに教えて」

 

「昴くんだからです」

 

小恋の方から手を繋がれて緊張が全身を縛り付けた

 

「昴くん、あの時の告白は凄く嬉しかったです」

 

「うん……」

 

「でもまだお互い話したり遊んだり全然していないので、もう少しだけあたしに時間をくれませんか?」

 

「時間を……?」

 

「はい、頭の中をちゃんと整理して、心の中も整理出来たら、あたしから告白をさせてください」

 

思わず自分をぶん殴りたくなった

夢かと思えた

夢だとしたら目覚めたくない、その気持ちで自分を抑えつけた

 

「えっと、それまで昴くんに待っていてほしいとかそういうのじゃないです

御昴さんとか凄く可愛いですし、もしも昴くんの気持ちが変わって御昴さんにいっちゃっても文句なんて言いませんから」

 

「待つ!!

いくらでも待つからさ、ちゃんと心の整理が出来たら教えてほしい」

 

「ありがとうございます」

 

その場での花火はほとんど印象に残っていなかった

ただ二人きりで手を繋いでいるこの時間がずっと続いてくれたら良いなと思った

 

 

あいつはオレの袖に封筒を入れていて中には高校生の持つ金額ではないほどの額が入っていた

帰りは小恋の家までタクシーで行って、その後は歩いて帰った

 

あいつの部屋の前に立ってチャイムを鳴らす

時間は23時過ぎなのに、あいつは普通に出てきた

 

「おかえり」

 

「タクシー代で5000円くらい使ったけど他は使ってねぇから、魔が差す前に返すよ」

 

「そのままラブホにでも行くのかと思ったけど、なんとか理性を抑えたようだね」

 

封筒の中を見ながらそう言われたが今は特別気にしなかった

 

「今のオレは機嫌が良いからな♪

その程度で怒るとかはしねぇぞ」

 

「西城さんからある程度話は聞いたから分かってるよ、だけど西城さんも意地悪だよね、待っててもらうことにしたって、六道さんはキープされてるだけじゃん」

 

「は?」

 

「だってそうでしょ?まだそんな気はないのに待たせておくなんてね

それに待たされていたのに新しく好きな人が出来たら六道さんは捨てられるってことだよね」

 

「っざけんな!!」

 

オレのことは何て言われても構わないが、小恋のことをどうこう言われたことに怒りを隠せず

襟首を掴んで玄関から引っ張り出した

 

「お前に小恋の何が分かるってんだ」

 

「何にも分かんないよ、だって他人だし」

 

「なら適当なこと言ってんじゃねーよ!いくらお前でも許さねぇぞ」

 

「放してよ」

 

「まずは謝れよ」

 

舌打ちをされるだけでそれから一向に口を開こうとはしないでいる

 

「くそっ!」

 

結局オレから手を離すと、こいつは地面に座り込んだところで、やっと口が開いた

 

「あたしがいたら邪魔者になるでしょ

この壁を遮る棚や鏡はもう直すまで動かさない、あたし達の関係もこれで終わりにして、ただの隣人に戻ろうか」

 

「その方がオレにとってメリットしかねぇよ」

 

ポンポンと服を叩いて立ち上がると微かな声で『バイバイ』とだけ伝えられてあいつは部屋に戻っていった

 

 

それから残りの夏休みは隣からは何もなく、当然LINEも来ないで過ぎていった


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