六花ちゃんは壁に背中を預けて再び口を開いた
「九頭竜さんにはほとんどお見通しだと思うし、あたしから話すよ」
六花ちゃんから隣の部屋に住んでいること、穴を空けられたこと、1日1回の命令があったことを聞いた時、正直驚いた
「六道さんが西城さんを気にかけているのは知ってた、ていうか分かりやす過ぎ」
「まぁあいつバカだからな……」
「あたしも最初は六道さんの背中を押してた
お互いがお互いを好きになる瞬間を見てみたかったから
だからあたしなりにもアドバイスはしたし、西城さんからも話は沢山聞いた」
「そこまでは六花ちゃんの手のひらの上って感じだな」
「お祭りに行った日より少し前くらいからかな、胸が痛くなったの
六道さんが近くにいてくれると少し和らいだけど、二人が一緒にいる時は倒れそうなくらい痛くて痛くて、思わずその場から逃げた
その日の夜に六道さんが訪ねて来て、六道さんの嬉しそうな顔を見て『良かったね』って言うべきだったのに、あたしは思ってもいないことをどんどん口にした
頭では一生懸命止めてたのに口は動き続けて、止まった時にはもう全部が遅かったの」
「なるほどな」
「多分あたしは今六道さんを前にしてもいつも通り振る舞えない、仮面が被れない」
異性の恋愛の手伝いをしているうちにその異性のことが好きになるパターンか
聞いたのは初めてじゃねぇけど通じるかどうか……
六花ちゃんの胸の中心を軽く押した
「まだ痛いか?」
「話したことで少しだけスッキリしたのか、今は何とも…」
最後まで言い切る前に六花ちゃんをギュッと抱き締めた
「あとは全力で泣いて全部流し出しちゃえよ」
六花ちゃんの手がオレの前に来た
オレへの好意が少しも無い子相手だと絶対に失敗するからな、今回も無理か?
「ダメだね、あたしって」
六花ちゃんの手はオレのワイシャツをしっかりと握って肩を小さく震わせていた
声に出すことはないけど、涙をワイシャツ越しに感じた
「独り言だから聞き流してくれな
恋愛っていうのは争奪戦、戦いなんだよ
オレからしてみりゃまだ付き合ってもいない二人を割いたところで、早々に決着をつけない方が悪いと思うな」
多分10分くらい静かに泣いていたと思う、六花ちゃんの手の力は抜けていて、オレに寄りかかるように眠っている
そんな六花ちゃんを起こさないようにそっと抱き抱えて言った
「昴、いるんだろ」
屋上へと繋がる扉から昴は素直に出てきた
「六花ちゃんの気持ち、分かったか?」
「あぁ」
「で?お前にとって聞きたくもなかった事だと思うけどよ、お前はどうしたいんだ?」
「こいつとは、いつも通り話したりしたい」
「それはお前のワガママだ
簡単に考えろ、時間をかけて小恋ちゃんと付き合うか、すぐに六花ちゃんと付き合うか」
「オレは……」
昴はオレと六花ちゃんから目をそらした
「そっか、なら六花ちゃんはオレが貰うからな
お前の選んだ道だからオレからはなにも言うつもりは無かったけどよ、これだけは言わせてくれ
色恋絡みって簡単に日常が崩れるからな」
昴の横を通り過ぎて保健室へそのまま向かった
「九頭竜くんまたサボり?」
「まぁ良いじゃん、今日は事情もあるからさ」
「変なことはしないようにね」
六花ちゃんをベッドへ移動させてその隣に座る
やべぇ、オレまで感情論であんなこと言うなんて
恋愛に慣れてねぇ連中の三角関係とか厳しすぎるだろ
昴も昴だし小恋ちゃんも小恋ちゃんだ、好きなら付き合えば良いだろ
そのグダグダを近くで見せられてる六花ちゃんからしたら地獄だぞ、付き合えばその分諦めもつきやすいだろうし、オレもそのケアもしやすいのに
あれ?ていうかオレ昴に『六花ちゃんはオレが貰う』って言ったよな……更に関係を拗らせちまったじゃん!
「九頭竜さん」
いつ目を覚ましていたのか分からないが、冷静を装った
「ん?」
「あたし六道さんを困らせたくないな」
「あらら、結構前から起きてたってことね」
返事もなくただ頷かれた
「六花ちゃんは自己犠牲なんてしなくて良いからさ
昴の意見より自分の意思を尊重すべきだよ」
「不器用なんだよ、あたしも六道さんも
似ているからこそ少しずつ惹かれていったんだと思う」
「なら諦める?」
「うん、あたしの作った理想にあたしの入るスペースは元々設けていなかったから
だから今の気持ちは六道さんには言わない」
それに対して返す言葉はいくつか浮かんだけど、六花ちゃんの性格を考えると全て返される
それ以上に無理矢理にでも弱々しく笑って見せている六花ちゃんがあまりにもいとおしく見え
気付いたら六花ちゃんの唇に自分の唇を重ねていた