★六花side
後は麺を茹でるだけ……っと
そう思っていると隣の部屋からシャワーの音が聞こえてきた
六道さんってシャワー使わない人だったよなぁ、普段ならザッパンザッパン音聞こえてくるし
六道さんの部屋に繋がる穴に上半身から突っ込むと正座したまま固まってる六道さんがビクッと反応した
「な、何だよ御昴!!」
「ねぇ、六道さんは小恋と離れてても愛し合える自信ある?」
「急に変なこと聞くんじゃねぇよ!」
「いいから教えて」
少し間が空いて六道さんは目を反らしながら頷いた
「そっかそっか、うん、そうだよね普通は」
「お、お前だってそうじゃねぇのかよ」
「どうなんだろうね、自分の心が1番分からないや
あたしにとって普通って……いや
普通なら……」
なにを六道さんに言おうとしちゃったんだろ
ちょっと話の路線がずれるところだった
「御昴?」
「なんでもないよ、小恋が出てきちゃう前に戻るよ、また誤解されたくないし叩かれたくもないからさ」
「そーかよ、でも大雅なら何でも聞いてくれるだろうよ
それでも何だか落ち着かないならオレだって話くらいは聞いてやっから」
「アハハハ何それ♪」
「煮え切らない顔してっからだろ」
へぇ、意外と見てくれてたんだ
なんだろう、嬉しいのかな?胸の辺りが暖かい気がする
「もしもの場合は頼るかも、それじゃあね」
顔が見えなくとも六道さんから「おう」とだけ返事が聞こえてきた
★六花sideout
★大雅side
よし!そろそろ出て飯食わせてもらうか
少し長風呂してたけど六花が「お背中流しまーす」なんて言って入ってくるはず無いしな
湯船から立ち上がった瞬間、風呂のドアを急に開けられた
「六花!?」
履いてない……というか生えてない!!
「あんまり見られると流石に恥ずかしいんだけど」
「悪い……っつーか何でまた急に入ってくるんだよ」
「別に良いでしょ」
急いで湯船に戻ると六花は軽く身体を流してオレの前に入ってきた
「二人だとやっぱり狭いね」
「そりゃそうだろ」
やべぇ……なんか背中見てるだけで抱き締めたくなる
でも抱き締めちゃダメだ抱き締めちゃダメだ抱き締めちゃダメだ抱き締めちゃダメだ
そういうつもりで入ってきた訳じゃないかもしれねぇし
第一今ここで抱き締めちまったらオレが止まらない
「良いじゃねぇか、六花だってそのつもりで入ってきたんだぜ?やっちまえよ」
何を言ってるんだデビルタイガー!
「そうですよ、ゴムも無いのにこんなところで暴走するわけにはいきません
抱き抱えてベッドインしましょう」
そういうことでもねぇんだよエンジェルタイガー!!
頭の中で天使と悪魔がオレに語りかけてくる最中に六花はこっちを向かないまま口を開いた
「あのさ」
「ん?」
「あたし達別れよっか」
完全に聞き間違いなんかじゃなかったのに、聞き間違いだと思いたかった
混乱してるはずなのに冷静に反応することができた
「オレのこと嫌いになったか?」
「その逆だよ
大雅のことは凄く好き」
「だったら…」
「でも六道さんが消えないの、大雅を見てても一緒にいても何をしてても…
こんなに中途半端な気持ちのまま筮さんって人が転校してきたら多分あたしは押し敗ける
ごめんね、あたしのためにこんなに時間を作ってくれたのに」
分かっていた、六花の瞳の奥にはオレじゃなくて昴がいるってことは……分かっていたけど六花の中から昴はいつか消えて、オレだけを見てくれると思い続けてた
「分かったよ」
「うん」
「そんじゃ風呂から出ようかね」
「大雅……」
「六花はもう少し浸かってろよ」
オレと一緒に立ち上がろうとした六花の肩を抑えて先に風呂から出た
こんなに昴が憎たらしいって思ったのは正直初めてかもしんねぇな
六花と小恋ちゃんが喧嘩してた時だって確かにイラッとしてたけど、今はその比じゃない
オレの力不足が招いた結果か……
ドアの向こうで啜り泣く声が微かに聞こえた
オレだって泣きたい、つい数分前にキスして抱き締めてたのに
「なぁ六花」
「………なに?」
「オレさ、まだ六花のこと好きでいて良いんだよな」
「ダメって言っても割りきれないでしょ?
あたしがそうだったんだから」
「確かにな」
六花のことだ、泣き止むまで絶対に風呂から出てこねぇだろうな
昴達は上手くやってんのかな?
なんだかモヤモヤした気持ちをぶつけたくて昴の部屋に繋がる穴を通り抜けた
「大雅!?」
「大雅くん!?」
二人仲良く冷やし中華なんて食いやがって……
「なんだ?邪魔だったか?」
「六花ちゃんはどうしたんですか?」
「六花なら多分まだ風呂場で泣いてるよ」
その言葉を聞くと同時に小恋ちゃんの手は上に振り上げられオレ目掛けて落ちてきたが
小恋ちゃんの手が止まった
「どういうことですか!?何で六花ちゃんが…」
「何で小恋ちゃんまでそんな顔するんだよ……それに昴まで」
オレは完全に昴の部屋に入り込んで一部始終を話した
当然昴のことは伏せて話した
「御昴から?」
「あぁ」
「大雅はそれでいいのかよ」
「そうですよ、大雅くんはそんなに簡単に六花ちゃんを諦められるんですか?」
「うるせぇ!!!
六花が決めた事なんだよ……
オレには六花の胸に空いた穴を埋める実力が無かったんだ
だからオレだって素直に諦めたんだよ」
昴はオレにポケットティッシュを投げつけてきた
「なにが素直にだよ、かっこつけてんじゃねぇよ!!
ボロボロ泣きながら話してるくせに素直にだぁ?
全然諦めついてねぇじゃねぇか!!」
そう言われて泣いていることに気付かされた
オレは本当に六花の事が好きだったんだ
多分六花にまで聞こえるんじゃないかと思えるほどの声でオレは泣いた
多分ここまで泣いたのは初めてじゃないかと思うほど
その日の夜は無理を言って昴の部屋に無理矢理寝かせてもらった
次の日は瞼が真っ赤に腫れていて恥ずかしくて六花に会える顔じゃなかった
「そんじゃオレと小恋は出掛けるからな」
「おー……」
「こんな時何て言えば良いのか分かりませんが、気を落とさないでください」
「おー………」
少し静かになりその日は昴の部屋で一日中寝ていた
そして次の日の朝昴に起こされ学校行く準備をして、六花の部屋を覗いてみると見たことのある男がくつろいでいる
「神出鬼没だな、六花の親父さんよ」
「親父さんとは失礼だな、お兄さんでもまだまだイケるだろ?」
辺りを見回しても六花は見えない
「六花ならいねーぞ?」
「どこか出掛けたのか?」
「いや、もうここには帰ってこねぇよ」
「は?」
六花の親父はベランダに出てタバコに火をつけた
「どういうことだよ」
「そのまんまの意味だよ
オレの親父……六花にとってのじいちゃんだけどな
頭におっきな障害を負ったんだよ、もう先が長くないらしい
オレが帰ってきた理由はオレの女のこともあるが、最優先は親父だ、六花にその事は一昨日の朝方話してある」
「そんなこと六花は何も……」
「あいつは言わねぇよ、それくらい分かんだろ」
「まぁオレがガキの時は散々やんちゃしてたしな、気苦労も絶えなかったせいでもあるんだけどよ
六花はオレの実家に行ってる、残りの高校生活は向こうで親父達と過ごす」
急いで六花に電話をかけるとテーブルの上で六花のスマホがバイブしている
「教えろよ、六花の居場所」
「言えねぇよ、それが六花の望みだ」
タバコの火を消して携帯灰皿にしまうとオレに何か渡してきた
「これは?」
「お前宛の手紙だよ
あとは?昴ってやつと、小さい恋…?なんて読むんだ?これは……」
昴と小恋ちゃんにも?
急いで昴を呼んで昴から小恋ちゃんにも連絡を取り次いでもらった
六花の手紙
九頭竜大雅
『大好きです、私、御昴六花は九頭竜大雅のことが大好きです
なんだか文字にして書くのは少し恥ずかしいな
でも大雅の優しさが好き、大雅の声が好き、大雅の温かさが好き、大雅の匂いが好き
嫌いなところなんて何も無い
黙って居なくなったことはごめんなさい、大雅と一緒にいると多分決心が鈍ると思って、黙ってた
それと、急に別れてごめんなさい
私のせいで泣いていたのは聞こえてたよ
最後に私を好きになってくれてありがとう』
六道昴
『私と隣の部屋で最悪って思ったことは何度もあったと思います
初めての出会いは最低でしたね、思い出す度に笑いが込み上げてきます
実は壁の修理代はもう必要無いです
大屋さんにはこっそり無駄に高く設定するように相談して中々が追い付かないようにしていましたから
それほどまで私の心をかき乱した六道さん流石ですよ
今の私がいるのもここまで楽しかったのも六道さんのお陰かと思います
そのせいでずっと六道さんが私の中から消えないのかもしれません
責任とって下さいね』
西城小恋
『私が六道さんを落とすより早く六道さんの心を掴んだ小恋
よくよく考えてみると私が小恋より勝ってる所なんて殆ど無かったのかな
初めは嫉妬混じりだったけど小恋を知るうちに
六道さんが小恋を選んだこと何となくだけど分かった気がする
やっぱりおっぱいかな
というのは冗談
小恋といるときの六道さんは私が見た中で1番良い顔してる
前に私と話してるときや、私の話をしてるときが楽しそうって言ってた事があったね
こっそり聞いてた★
でもね、私だってそう思うよ、小恋と付き合う前の六道さんは小恋の話に夢中だったから
ちょっとズルいかもしれないけど書かせて
私はまだ六道さんが好き
だけど私が一歩引き下がったんだからバッドエンドは許さない、ハッピーエンドになれないなら私が六道さんをハッピーエンドに導かせてもらうから』
「御昴のやつ……そんなこと裏でしてたのかよ」
「最後まで六花ちゃんらしいですね」
「六花の友達でいてくれてありがとな」
「…ざけんなよ」
肩に乗せられた手を振り払った
「ふざけんなよ!!」
なにも悟れなかったオレ自身に1番腹が立った
勝手に浮かれて勝手にいじけて最後は話すことなく居なくなる
「内緒だけどな、六花は××大学狙ってんぞ
約1年半会えねぇだけだ
お前らが頑張れるならまた六花の友達になってやってほしい」
××大学……
名前を知らない人の方が少ないくらいの名門じゃねぇか
「大雅さん……」
「やってやろうじゃんか……
努力が嫌いなオレが死ぬ気で努力してやんよ」
「それでこそ大雅だな」
「ならあたし達も頑張りましょう昴くん」
「オレもか!?」
「あったりまえだろ?死んだこと何てねぇんだから
死ぬ気でやればオレらだって何とかなるって」
「良い顔すんじゃねぇか
全く、良いものだな青春は」
親父のこと、筮のことと勉強一筋だけじゃねぇし難しいかもしんねぇけど
目標ってもんが見付かったんだ
待ってろよ六花、オレが意外と諦めが悪いってこと思い知らせてやるからな