彼女に振られた結果、陰キャなカワイイ女の子になつかれました。@リメイク   作:墨川 六月

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第十六話 旅行の準備はデートのように

「草津温泉……ですか?」

『あぁ。一緒にどうかなって。丁度お盆前だし、帰省とかと被らない?菜月はもう行けるってさ』

 

 八月八日の夜。エータローくんからそんな電話が来ました。《王蘭》というラーメン屋さんから貰った福引で、二等の草津温泉旅行をエータローくんが引いたと聞きました。凄いです。

 

「いえ、帰省はウチはしなくて……あの、でも私でいいんですか?楓ちゃんを誘った方が……」

『あぁ、楓は俺が旅行行ってる間ウチに友達泊まらせるんだってよ。元々その予定だったし、アイツの事は心配ないよ。むしろアイツの友達全員女子だから、その間家開けれてラッキーみたいな』

「楓ちゃんと離れてエータローくんは大丈夫なんですか?」

『いや、そこまでシスコンじゃねぇよ!!』

「えへへ、すみません。それでえっと、詳しい日にちは……?」

『八月の十二、十三、十四だな。来週だ』

 

 十四……。

 

『まぁ無理にとは言わないよ。日向が行けないならそれで……』

「あ、い、行きます!行きたいです!是非行かせてください!エータローくん」

『マジで!?行ける!?うっし!!じゃあ明日拓と菜月と旅行用の買い物行くからさ、日向も来いよ。十時に大ノ宮のショッピングモール前集合な』

『お兄ちゃん日向先輩と話してるの!!?変わって変わって!!』

『あぁ、楓、お前ちょっとやめろ!!今俺が話してる!!』

『える!おー!ぶい!いー!ひ、な、た!!』

『ファンクラブ!?お前は日向のファンクラブにでも入ってるのか!

?あぁ、もう!じゃあまた明日な!』

『あぁ待って、日向先輩……いや、日向お姉ちゃぁぁあん!!』

『うるさァァァァい!!』

 

 ツーツーツー

 

 あっ……。切れてしまいました。

 

 ふふ。あの兄妹、いつもとっても仲良しです。兄弟のいない私には、なんだか羨ましく思ってしまいます。

 

 ……日向、お姉ちゃん……。

 

 ふひひ……お姉ちゃん……♪楓ちゃんと会うとお姉ちゃんって言われちゃいます♪

 困りました、とっても困りました♪

 

 私はベットに寝転んで、自分の左手を見ます。

 

 エータローくんと手を繋いだ時、とても心が高鳴りました。エータローくんの手は暖かくて、大きくて、少しゴツゴツしてて、男の子らしい手でした……。

 手を離す時は、とっても名残惜しくて……ずっと繋いでいたいと思いました。もっとエータローくんに近づきたいです。もっとエータローくんと一緒にいたいです。

 

 私は自分の左手を握りしめて、その手を胸に抱きます。

 

 もう一度だけでも、エータローくんと手を繋ぎたいです。

 

 ……けど、別に私達は恋人同士という訳ではありません。

 

 エータローくんの事は好きです。でもそれは、異性としてでは無くて、友達として。

 

 ────私がエータローくんに抱いてる感情は、一体なんですか?

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 『下面如菩薩内心如夜叉(げめんにょぼさつないしんにょやしゃ)』という言葉がある。

 女の人の外面は仏のように優しそうに見えるが、内心は鬼、夜叉のように恐ろしいという意味らしい。

 まぁ菜月や楓、真宮のような気の強い女達と会話をする事が多い俺達には馴染み深い意味なのかもしれないが、かと言って、初対面の人間を客観的視点でその様に見ることは無いだろう。それは少しばかり常識から外れている。

 しかし、女というのは怖い生き物だ。あまりにも優しい女の子がいると、なにか裏があるのではないか?と思ってしまうのは普遍的な事だろう。これは常識に属する。俺は疑いを全方面から向けるつもりは無いが、盲目になる訳でも無い。

 最も、裏表のない人間というのもこの世にはいるわけで、やはり人間というのは、非合理的概念で形成されているに違いない。

 

 俺と拓が立っているのは大ノ宮市最大級のショッピングモールの前だった。こんなにデカい場所で現地集合というのも気が引けたが、運がいい事に目印となるアイスクリーム屋があったので、俺達はその付近に立っている。

 今日は草津旅行の買い出しをする事になっている。

 八月九日、真夏の朝十時。俺達はこれから訪れるであろう日向と菜月を、まだかまだかと待っていた。

 そして拓に、『なにか話せ』と言われたので、俺はそんな事を話したのだ。

 

「そういう考えは嫌いじゃないな。てか普通だろ。優しい人がいると、なんか裏があるんじゃないかって思っちまうのは。自然の摂理だよ」

 

 拓は短パンのポケットに手を突っ込みながら言った。

 

「けど例外もいるって言ったろ」

「そうだなエータローよ。例えば俺とか」

「そうだな。俺はお前が表裏のない人間だと知っている。だから俺が言おう。拓、お前は表裏のない人間だ」

 

 言ってやると、拓は薄く笑ってみせた。そして人差し指をピンと上げながら、言ったものだ。

 

「再認識させてくれてどうも。じゃあ俺も言わせてもらおう、お前は裏表がある人間だ」

 

 ほう……。せっかく人が褒めてやったというのに、なんという言い草だ。俺は抗議した。

 

「違う。それが普通なんだ」

「別に悪いとは言ってねーだろ。常識が悪じゃないってんなら、裏表があるという常識は正義に属する」

「ならお前は悪か?」

「俺はダークヒーローだ。カッコイイ……俺」

 

 何を言っているのだこの男は。

 

「なぁに男二人で馬鹿な話してんだよ」

「二人とも、お待たせしました」

 

 見ると、柄無しの白いTシャツに、ショートジーンズ、腰周りにもシャツを巻いているポニーテール姿の菜月の姿が合った。誰かが言っていた。ああいうシンプルな格好は、自分の容姿に自信が無いと出来ない代物だと……。

 次いで、こちらも白いTシャツだが、菜月と違う点と言えば上にデニムのベストを着ているところだろう。涼し気な青いハートクの刺繍が胸に施されており、下には黒いミニスカートを履いている。

 そして、彼女のトレードマークと言っても過言ではない、小さな顔に見合わない大きな黒縁丸眼鏡、日向だ。

 

「エータロー来たぞ。常に夜叉と仏が……」

 

 恐らく仏が日向で夜叉が菜月なのだろう。お前それ絶対菜月本人の前で言うなよ……。

 

「あ?なんだ拓、なんか言った?」

「いえ」

「あはは……。そう言えば、なんか日向の眼鏡姿久々に見た気がする」

 

 俺が言うと、拓も頷いた。

 

「確かに。夏祭りの時は外してたもんな。いやぁでもなんか、そっちの方が春咲さんって感じがするぜ。この前はコンタクトでも入れてたのか?」

 

 拓が聞くと、日向はぎこちなく頷いた。

 

「ま、まぁそうですね。コンタクト……です。でも市山くん、私の眼鏡姿に慣れてくれるのは、いい事です」

「ん?どゆこと?」

「いい事なんです」

 

 拓は首をかしげながら俺を見た。いや、俺を見られても分からん。

 日向はズレた丸眼鏡をカチャッと元の位置に直す。この仕草も、日向らしく、俺はクスリと笑ってしまった。

 

「櫻葉、何ニヤけてんだよ気持ち悪い」

「誰が気持ち悪いだ!!」

「それで、エータロー。今日は何買うんだっけ?」

「……ええ?あぁ、適当に遊ぶものとか必需品とか買い揃えようって話だったじゃねぇか」

「そうそう!わたしは今日ひなったんとブティックで新しい夏服買うんだ!ねー、ひなったん!」

「は、はい。楽しみです」

「という訳で櫻葉、拓、お前ら荷物持てよ!」

「「断る!!」」

 

 などというやり取りを交わしながら、俺達四人はショッピングモールの中に足を進ませたのだった。

 

 

 

「あれ!?櫻葉今、ひなったんの事日向って言った!!?」

 

 あ、もうそのくだり拓でやったから省くわ。

 

 

 

 ****

 

 

 

「うわぁ!ひなったん、やっぱ白似合うねー!シンプルなワンピースもいいし……白のインナーの上から紺のキャミソールもなかなか……」

「な、菜月さんのワイドパンツも凄く似合ってます……!菜月さんスタイルよくて、モデルさんみたいです」

 

 そんなやり取りを交わす女子二人の七変化を離れたところで見ていた俺達男二人。いや似合ってるよ?菜月も日向も着るもの着るもの全部にあってるけどさ……もう試着し始めて一時間経ってるんだけど!

 

「ふっ、エータローよ。こんなのでイライラしてちゃあ男の嗜みがなってないぜ……」

 

 片手を自分の額に当てる拓。俺は言った。

 

「何故お前は嗜みを心得ている言い方をする。俺と大して変わらんだろう」

「甘いな。俺は陣子の買い物に何度も付き合わされてるからな。これくらい慣れっこなのさ……へへっ、これだから童貞は困るぜ。チェリーボーイエータローよ」

「お前もだろ……。人の名前を芸名みたいな言い方するな」

 

「おーい!櫻葉ー!拓ー!わたしら美少女二人が、お前らの服も選んでやるからこっち来いよー!」

 

 菜月が大きく手を振ってくるので、俺達は顔を見合わせた。どちらともなく、『やれやれ』と言わんばかりに笑い。日向達の方へ歩き出す。

 

「変なの選ばないでくれよー、菜月ー!」

 

 

 

 その後も俺達はショッピングモールでの買い物を楽しんだ。

 

 

 雑貨屋。

 

「十八禁チップス?」

「エロい奴じゃねえのかエータロー」

「わ、私食べてみます……ムグ……けほっ!けほっ!!か、辛い!!」

「櫻葉!拓!テメェら何ひなったんに食わせてんだ、殺すぞ!」

「「勝手に食ったんですけど!!?」」

 

 

 アイスクリーム屋

 

「エータローよ……俺は五個乗せだぜ……」

「五個乗せとか出来るんだ……。……おい倒れる!!」

「しまった!」

「「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」」

「ひなったん、ちょっとちょーだい!」

「は、はいどうぞ。菜月さんのも美味しそうですね……」

「じゃあ食べさせあいっこしようよ♪はい、あーん!」

「な、菜月さん!?恥ずかしいですよ……!それに、エータローくんと市山くんがアイスまみれなんですけど!?」

 

 

 ペットショップ

 

「すげー!!ヘラクレスオオカブト!!夏だから売ってんだな!」 

「やっぱクワガタとかカブトムシって男のロマンだよなー。いつ見てもカッケーわ」

「けっ、クワガタのどこがいいんだよ。ガキだな櫻葉に拓」

「(にゃ、にゃんこが可愛いです。……あぁ、もふもふしたいです……頬ずりしたいです)」

 

 

 本屋

 

「草津の観光ガイド買っといた方がいいかな、日向」 

「割引券とか、ネットより詳しい情報とかも乗ってるので、買った方がいいと思います。私がお金だしますよ」

「あぁいや俺が」

「い、いえ私が」

「陣子!ツーピースの最新刊出てるぞ!!」

「ぬわぁにぃ!?それは誠か拓ぅ!!?」

 

 

 ゲームセンター

 

「おい、櫻葉!!お前チート使ってんだろ!!」

「はーはっはっはっはっ!!己の無力さを知るがいい菜月よ、人が深淵を覗く時、深淵もまた人を覗いてるのだ!!」

「なんか聞いたことがあるセリフだなそれ!ちょっ、春咲さん!?ストップ、ストップ!!」

「あはは!市山くん食らってください!」

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 楽しい時間が過ぎるのは早い。時刻は十六時を回り、俺達はモール内の四人掛けのベンチに座った。

 

「いやぁ!遊んだ遊んだ!!」

「買い出しって話だったのに、ほとんど買わなかったな……強いて言えば、なんでお前らの荷物を俺とエータローが持ってるんだよ」

「いいじゃん!女の荷物を持つのが男の役目だぞ!」

「あ、あのエータローくん。わ、私、自分で持ちますよ?」

「い、いや。なんのこれしき……数学で使うのは方程式つってね……はっはっはっはっ!」

「大して上手くもないし、面白くもねぇなエータロー」

「やかましい」

 

 そんな会話していると、菜月がおもむろに並んで座っていたベンチから立ち上がった。

 

「んじゃあ拓、ちょっと付き合ってくれ。行きたいところがある」

「はぁ?またかよ……」

「いいから来いよ。わたしら出てくるわ」

「おう」

 

 菜月は振り向きざまに、日向に向かってウィンクをしたような気がした。なんか企んでんな……?

 俺は日向に視線をずらした、日向は丸眼鏡を両手で直し、俺の服を掴む。

 

「あの、エータローくん。ちょっと私とも、付き合ってくれませんか?」

「……?まだなんか買うのか?」

「あの……えっと、ヘアピンを」

「ヘアピン?夏祭りの時に可愛いやつ着けてたじゃん」

「菜月さんが言うには、女の子は何個も持ってた方がいいって。……いや、ですか?」

 

 正直疲れてしまってはいたが……そんなに可愛い顔で見られたら、首を縦に振るほかないじゃないか、全く。やはり女とは怖いものだ。

 俺は立ち上がった。

 

「よし、行こうぜ」

「はい!」

 

 俺達は再び近くの雑貨屋に二人で入り、ヘアピンのコーナーに足を運ぶ。へぇ……色々あるんだな。

 様々な『花』をモチーフにしたヘアピンや、アニメのキャラクターがデザインされたものまで様々だ。

 

「結構種類あるんだな」

「で、ですね……私もこういうの買う事がないので……ちょっと驚いています」

「まぁでも、日向にはヘアピンいるだろうな。前髪長いし。顔を……隠してるんだっけ?」

「……そ、そうですね、まだ色んな人と顔を合わせるのが、なんだか怖くて……」

 

 なんだか湿っぽい雰囲気になってしまったので、俺は目の前にあったヘアピンを一つ取る。

 

「こういうのなんてどうだ?ヒマワリがモチーフになってる奴。夏だし!」

「確かにお花のシリーズ可愛くて素敵です」

「だよなぁ……日向は何の花が好きなんだ?」

「えっと……そうですね……」

 

 日向は俺の方をチラチラ見つめてくる。な、なんだ?

 そして、俺が取ったヒマワリのヘアピンの隣に置いてある、薄ピンク色のヘアピンを一つ取り、自分の顔の近くにやった。

 なんだか楽しそうに、そして嬉しそうに、言ったのだ。

 

「さ、桜かな……なんて……えへへ……」

「……あぁ……へ、へぇ……そうなんだぁ」

 

 いや落ち着け俺。日向が桜を好きな理由は、名字が春咲だからだろ!変な勘違いすんなよ俺……!!

 

「あ、あの!エータローくん!」

「へい!なんでしょう!!?」

 

 日向は両手の人差し指と親指で桜のヘアピンを持ち、それを俺に差し出した。顔が赤くなっていることが分かり、少しだけ上目遣いになる。

 

「つ、つけてくれませんか?試着してみたいんですけど、自分じゃちょっと上手く出来なくて……」

「あぁ……いいけど……」

 

 俺は日向から桜のヘアピンを受け取り、日向の前髪に触れる。

 

 俺が前髪に触れると、日向の体が少しだけピクっと震えた。

 女の子のヘアピンの付け方なんて知らない。童貞なりにぶきっちょな感じで付けるハメになるんだろうけど、日向に触れる時は、割れ物を扱うかように、慎重に触れる。それと、多分自分じゃ付けられないって言うのは嘘だ。

 前髪を左右非対称に分けて、目にかからないようにヘアピンをサッと付けた。

 

「付けたぞ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 日向は近くにある鏡にててて、と移動し、自分の姿を見た。

 そして俺に向き直る。

 

「ど、どうですか?エータローくん」

「あ、あぁ……その、スゲー可愛いよ。うん、そのめっちゃ可愛い」

「か、かわ……!ふふっ、ありがうございます、エータローくん♪……買ってきますね!」

「うん」

 

 俺はレジに向かう日向の後ろ姿を眺めた。

 そして茶色い紙袋を両手で大事そうに抱え、嬉しそうにこちらに近寄ってくる。

 

「お待たせしました」

「おう。んじゃあ戻るか、拓と菜月もそろそろ戻ってんじゃないか?」

「は、はい。そうですね」

 

 俺達は雑貨屋から出ると、先程まで座っていたベンチに向かって歩き出す。なぜだか知らないが緊張しているせいか、会話が長く続かない。俺は首をすくめながら、冗談めいた事を言う。

 

「いやぁ、それにしても、こうやって二人で歩いてるとなんかデートみたいだな。はは……なーんつって」

「……」

 

 やべぇ、地雷踏んだ。

 なんてこった。日向が黙りこくってしまったじゃないか。……こうなったら仕方がない、早く拓と菜月の元へ向かって……

 

「……ますか?」

「ん?」

 

 日向の呟き声に、俺は思わず耳を疑った。

 日向は顔を見られたくないのか、俯いたまま、俺の方に近寄る。

 そして、荷物を持っていない垂れ下がった俺の右手を、日向は左手で掴んだ。

 

「も、もっとデートのみたいなこと……しますか?」

 

 日向の俺の手を握る力が強まる。

 

 ……。そ、それじゃぁ……、お言葉に甘えて……。

 

 俺は一度右手を大きく開き、日向の左手を掴んだ。

 俺の指と指の間に日向の指が滑り込み、俺達はしっかりとその手を握る。少しだけ汗ばんでいるのが分かる。しかしそんな事を気にしている余裕など、俺には無い。

 

 俺達は見つめ合うことも、言葉を交わすこともしなかった。

 

 いやてか……多分今目を合わせたら……。……なんでもない。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「お前らマジで付き合ってねーの!?」

「だから付き合ってねーって」

 

 ベンチに戻った俺達二人は、先に戻っていた菜月と拓に手を繋いでるところを目撃されてしまった。

 

「聞きました陣子さん……この子達お付き合いもしてないのにお手手繋いじゃってるわよ」

「聞きましたわ拓さん。もうホンットに最近の子は不純ねぇ」

「あぁ……もう、勝手に言ってくれ……」

 

 『イシシ』と菜月がいつも以上に汚い笑みを浮かべている事から、元々こいつは俺と日向を二人きりにする予定だったらしい。

 全く……。

 

 俺は横目で、何やらブツブツ言いながら頭を抱える日向を見た。拓と菜月に手を繋いでるところを見られたのと、自分から俺に手を繋ぎに来たという二つの羞恥心が彼女の中で渦巻いているのだろう。

 これも一種の賢者モードと言う奴か……。

 

「さて、そろそろ帰ろうぜ。エータローと春咲さんはこれからホテル街か?」

「「行かねーよ(行きません)!!」」

「さぁて!次会うときは草津温泉だぁ!!楽しみだね、ひなったん!」

「俺が当てたんだから、おまえら俺に感謝するよーに」

「俺が味噌ラーメン誘ったんだから、結果的に俺の手柄なんだよ!」

 

 俺は軽く笑う。そして、他三人の顔を一瞥した。

 

 みんなが本気で笑っており、今この瞬間を楽しんでいる。

 

 こんな変な奴ら三人と過ごす青春というのも、悪くないのかもしれない。

 

 草津温泉……楽しみだ。




次回から草津温泉編スタートです。

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