彼女に振られた結果、陰キャなカワイイ女の子になつかれました。@リメイク   作:墨川 六月

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第六話 陰キャと元カノ

 十文字グループ…!!最悪だ、なんでよりによって同じファミレスの隣の席に案内されるんだよ…。

 

「やっほー栄太郎君に市山君。」

 

 綾小路が俺達に向かって手を振ってくる。俺と拓は軽く手を挙げる程度にそれを返した。

 ギュッという音が聞こえ、俺は視線を後ろに向ける。春咲さんが俺の後ろに隠れて袖を握っていた。俺の背中にポンと頭を置き、軽く震えている。

 多分ビビってんのは…十文字か…。

 

 この前の十文字の言葉を思い出す。

 

『クソッタレで、自己中で、彼女から伸ばされた手を拒絶した…ただの知り合いさ。』

 

 俺は辺りの席を見渡すが、夕飯時なのでどこも埋まっており、とてもじゃないがこちらの都合で席を変えてもらうという訳にもいかない。どうしたもんか…。

 

「どうしたの?栄太郎君達。」

 

 綾小路が俺達に向かって言った。首をかしげ、どこか目の焦点を失っているかのような黒い瞳は俺達四人を見据えた。

 

「早く座りなよ。」

「ちっ…」

 

 菜月は舌打ちをすると同時に、ソファ席の一番奥に腰掛けた。そんなにあいつらとの近くが嫌かよ…。

 そしてその隣に春咲さんが座り、俺と拓は通路側の席に腰掛ける。

 

 向こうの井出と真宮も微妙な顔つきになっており、微妙な雰囲気がこの場に流れた。

 畜生…帰りてぇ。

 

「おい、エータロー。ドリンクバー取りに行こうぜ。」

 

 俺は話しかけてきた拓を見る。

 俺は黙って頷き、ドリンクバーの機械の方へ歩きだし、ドリンクバーの機械の横を通りすぎ、俺達男二人は店のトイレの個室に二人で入った。

 

「「…」」

 

 俺と拓は互いの額をガンッ!!とぶつけ合った。

 拓が口を開いた。

 

「おい!!どうすんだよこれ!!春咲さんはなんか知らねーがアイツらにビビってるし、菜月はアイツらのこと嫌いだし、お前に関しては元カノがいるじゃねぇか!!雰囲気最悪だよ馬鹿野郎!!」

「俺のせいかよ!!あいつらが来ることなんて知らねぇし!!てめぇがファミレス提案したんだろクソ童貞!!」

「てめぇ!!自分のこと棚に上げて良く言えんな腐れ童貞!!それに今童貞は関係ねぇ!!どうこの場を切り抜けるかが問題なんだよ!!」

「どう切り抜けるつったって、そんな方法思い当たらねぇだろ!!もう注文しちまってるし…」

 

 拓は一度顎に手を置き悩む姿勢を取る。

 そしてとっておきの玩具を見せる子供のような顔で、今思いついたであろう作戦を発表した。

 

「もう俺たち二人で帰るか!?うん、そうしよう!!帰っちまおう!!」

「バカ言ってんじゃねぇ、春咲さんもいるんだぞ!仮に菜月だけだとしても、置いて帰ったらそれこそ明日絶対学校で殺される!…はぁ、いいんだよ別に。席自体は近いけど一緒に来てる訳じゃないし、喋らなきゃ大丈夫だろ?十文字グループは不良とは違って、常識のあるヤツらだ。」

「そうじゃねぇよ…」

 

 拓は頭に手を置き、『はぁ』と大きく溜息をついた。なんだなんだ?

 

「俺はお前らが心配なんだ…。何考えてるか知らねぇけど、由奈ちゃんはお前に必要以上に関わってくるだろ?お前いっつも由奈ちゃんに話しかけられてる時辛そうな顔してんの気づいてねぇの?春咲さんだって無駄にアイツらに怯んでるし、菜月もアイツらと一緒の空間にいるのは嫌なんだってよ…。」

「お前…そんなこと考えてたのか…。」

 

 流石は我が親友。見直したぞ。

 こいつは人を見る才能がある。その場の人間全員を見通し、その場に見あった行動を自主的に取ることのできる才能だ。

 俺はこいつがそこまでして俺達の事を心から心配してくれているとは…。

 

「あっ、ちなみに雰囲気がヤバくなったら俺帰るから!テヘペロ!」

 

 前言撤回。俺の過大評価のし過ぎだった。

 

「てめぇ!!俺のお前に対する尊敬の念を返しやがれぇ!!」

「おい!!暴力はやめろ!!あ、顔はやめて顔は!!なんかバキって音がした!!」

 

 

 

 ****

 

 

 ったく…こいつは本当にどうしようもねぇ奴だな。いやマジで。

 

 俺と拓が席に戻るとそこには異様な光景が広がっていた。俺と拓は目を見開き、それを見た菜月が『早く来い!!』と言いたげな顔でこちらに手招きをした。

 

 そこには春咲さんと向き合うように座っていた俺の席に、綾小路が座って春咲さんと話している姿が見て取れた。

 …何話してんだ?

 

 綾小路は俺に気付くと、いつも通り小悪魔の様な笑顔を俺と拓に向ける。

 

「あっ、おかえりー!二人とも遅かったね。」

「あ、あぁ。うん。何話してたの?」

 

 綾小路はニコッと笑って話そうとしない。

 見ると、十文字や井出、真宮の視線もこちらに向いており、変な雰囲気がこの場に流れていた。

 春咲さんは殆ど動かず、軽く震えていた。

 

 戻って来た俺に気付いたのか、俺の袖を掴もうと手を伸ばす…が。

 

「あ、ダメだよ。」

 

 綾小路が春咲さんの手首を掴んだ。春咲さんを見ながら、口を開く。

 

「あんまり付き合ってない男の子に触るのは良くないよー?変な勘違いとかされちゃうし。それって不本意でしょ?…ね、栄太郎君。」

「…?」

「最近栄太郎君、いっつも春咲さんと一緒にいるからさ、どんな子なのかなーって思って話しかけてみたんだ。」

 

 綾小路は薄く微笑みながら俺に近寄ってくる。

 俺は無意識的に彼女から遠ざかろうと、一歩、また一歩と後ろに下がる。

 拓と菜月はそれを目で追ってくる。

 

「面白い子だね!春咲さんって、お人形さんみたい!」

「人形…?」

 

 分からない。いつもそうだった。

 綾小路の考えている事が、俺には分からない。最初は天然なのかとも思った、どこか抜けててそこが可愛らしいところだとも思った。そういう面も好きでいようと思った。

 でも…時折見せる狂気じみた目は…目の前のことしか見ていなくて、それ以外のものなんて最初から存在し無かったかのように扱うその目は…

 

「だって質問してもなんにも喋ってくれないんだもーん!こんなのお人形さん以外に出来る事じゃないよー!!」

 

 とても、恐ろしいものだった。

 

 ガンッ!!!

 

 大きな音が鳴ると同時に、綾小路の胸ぐらが勢いよく掴まれ俺の目の前から引き離された。

 菜月が綾小路に掴みかかったのだ。

 

 周りの客や店員も菜月の行動に驚いたのか、軽く悲鳴を上げる客もいた。菜月はそんな事も気にせず、綾小路の胸ぐらを掴みながら綾小路を睨み続ける。

 綾小路は少し驚いた顔をした後に言った。

 

「なに?菜月さん。怖いよ?」

「綾小路…!!ひなったんの事何も知らない癖に、なに難癖つけてんだよ!!」

「おい、やめろ陣子!!」

 

 拓が菜月の腕を掴んで綾小路から引き離そうとするが、菜月は綾小路の胸ぐらから手を離さなかった。綾小路は続ける。

 

「菜月さんだって最近知り合った仲でしょ?それなのに春咲さんのこと知った様な口開いたって私とあんまり変わんないよ?知ったか乙って言うんだっけ?」

「あぁ!?」

「陣子!!」

 

 拓の怒号に気付いた菜月は一度目を大きく見開き、舌打ちをしながら綾小路から手を離した。

 綾小路の夏用のセーラー服はぐしゃぐしゃになっており、それを眺めた綾小路は『あーあ、クリーニングださなきゃ』と呟く。

 綾小路は春咲さんに視線を向け、口を開く。

 

「春咲さんも、お友達は選んだ方がいいよ。」

「…え?」

「菜月さんって今みたいにちょっとした事で怒るし、市山くんもこの前の美術の時に言ってたみたいに、ちょっとエッチなだけじゃない。」

 

 やめろ……。

 

「栄太郎君だってそうだよ?自分が関わってない事は全部見て見ぬ振り。強い人の陰に隠れて、他人事をヘラヘラと眺めてるだけ。まぁ、そういう所も可愛くて好きだったんだけどね。母性本能って奴?」

 

 やめてくれ……。

 

「でもさ、やっぱり春咲さんに似合うお友達って他にいると思うんだ。その三人より…ずっといい人達が居るはずだよ?」

 

 熱いものが体の奥底から湧き上がってくるのを感じた。

 ヤバい…、泣くな、泣くな俺。

 周りの客や店員も綾小路の圧倒的な雰囲気に押し負けて、誰求めようとする人物はいない。

 だがただ一人。綾小路を冷静に眺めている人間の姿が俺の目に写った。十文字…お前からなにか…

 

 いやダメだ。これは俺達の問題だ。十文字が介入してくるのは違う。それはあいつも分かってて何も言ってこないんだ。

 

 動け、俺の口。小村の時みたいになんか言い返せ。ビビってんじゃねぇよ。

 動け、動け、動け、動け動け動け動け動け!!

 

 動…!

 

 

「それは…流石にひどいかも…です。」

 

 

 冷たい空気を壊したのは、一つの女の子の声。

 か細くて、小さくて、それでも勇気を振り絞って発せられた声の主に、俺達全員は視線を送った。

 …春咲さん。

 

「うわー!やっと喋ってくれた!うんうん、可愛い声!」

 

 春咲さんは立ち上がり綾小路の前に立つ。肩は震えていて、発せられる声も震えていた。

 

「人の悪口をこんな場で言うのは…非常識です。…辞めてください。」

 

 優しいな春咲さんは…

 

「…別に私、悪口で言ったつもりは無いけど?」

 

 でもさ…

 

「冗談でも言っていいことと悪いことがあります。」

 

 情けねーよ…俺。

 

「うん。そうだね、怒ったらごめん。」

 

 別れた彼女に悪口言われて…泣きそうになって…挙句の果てに助けたいと思った女の子に助けられて…。

 

 綾小路の声が聞こえた。

 

「じゃあ最後に…一つだけいい?春咲さん。」

「……なんですか?」

 

 綾小路はニコッと笑い、春咲さんの肩に左手を置いた。

 右手はゆっくりと春咲さんの額に向かっていく。

 春咲さんも綾小路の圧力に負け、突然綾小路が取った行動に驚くだけだった。

 

 綾小路の手が春咲さんの前髪に触れた。春咲さんの前髪を掻き揚げ、肩に置いていた左手で春咲さんの大きな丸眼鏡を取り外す。

 

 春咲さんの素顔があらわになり、綾小路の虚ろな声が、そっと呟く。

 

「うわぁ…やっぱり可愛いね。春咲さんの顔。本当にお人形さんみたい。」

「あっ…やめ…!」

 

 春咲さんは顔を俯かせようとするが、綾小路が額に手を当てている為俯かせようとさせない。

 無理やり顔を上げさせ、あらわになった春咲さんの丸眼鏡も前髪もない素顔を眺める。ニコッと笑った。

 

「なんでこんなに可愛いのに、眼鏡と前髪で顔を隠してるのかな?」

「そ、それは…。」

「それとも…なにか顔を見られたくない理由でもあるのかな?」

「…っ!!」

 

 その言葉を聞いた途端に、春咲さんは声にならない声を漏らした。そして…

 

 

 

「そこまでだよ。由奈。」

 

 十文字が立ちあがり、春咲さんの前髪を持ち上げている綾小路の腕を掴んで下ろさせた。

 春咲さんは綾小路から眼鏡を取り返し、サッと掛け直す。

 

 綾小路は十文字の方を見つめ、口を開いた。

 

「やだなぁ十文字君。これは女の子同士のスキンシップだよ?」

「そうは見えなかったけど?」

「…ま、いーや。ごめんね、なんか雰囲気悪くしちゃって。」

 

 

 十文字はニコッと笑って、綾小路と共に席に戻る。そこに残ったのは立ち尽くす俺と春咲さん。

 春咲さんも黙って歩き出し、席に座った。

 

「おい、エータロー。取り敢えずお前も座れよ…。」

「……悪い。俺帰るわ。」

「お、おい!エータロー!」

 

 俺は自分の座席に下に置いてあったリュックサックを掴むと、そのまま駆け足でファミレスの出口へと向かう。出口がでかかった所で、腕を掴まれる。

 

「さ、櫻葉くん!待ってください!」

「…!」

 

 俺は春咲さんに顔を見せない。腕を掴まれたまま、出口へと顔を向ける。

 

「……櫻葉くん…泣いてるんですか?」

「泣いてねぇ…。」

「で、でも…!声が震えて…」

 

「泣いてねぇつってんだろ!!!!!」

 

「ひっ!」

 

 春咲さんの怯える声が聞こえた。自分の失態に気付くが、それでも俺は春咲さんに顔を向けない。

 ごめん…春咲さん。俺はこれ以上、自分の尊厳傷つけられたくないんだ。

 笑って流してくれよ。俺を庇わないでくれよ。

 

 春咲さんの手を振り払い、俺はファミレスをあとにする。

 

 残ったのは沈黙だけだった。

 

 冷えきったファミレス内の空気は、喧嘩が収まったことにより、徐々に暖かくなっていった。

 

 

 

 ****

 

 

 

 飛び出したファミレス近くの公園のベンチに座り込んだ俺は、自嘲気味に夜空を見上げた。

 星こそ見えないが、暗くなった夜空を眺めているとムシャクシャした気持ちが和らいでいく気がする。

 月が薄く見える。

 

 最低だ…俺。

 春咲さんが勇気を振り絞って庇ってくれたってのに、俺一人の感情でソレを台無しにしちまった。

 しかも春咲さんが大声が苦手な事を知ってたにも関わらず、怒鳴っちまった。

 

 春咲さんの怯えた顔が脳内にフラッシュバックする。あの顔は…俺に向けられたものだった。俺に怯えてた。

 

「クソっ!!」

 

 ベンチに手を叩きつける。何度も殴ろうと思い拳をもう一度振り上げるが、ジンジンと熱さのような痛みが俺の拳を襲い、振り上げた拳をゆっくりと降ろした。

 はは……なにビビってんだよ、だっせぇなぁ。

 

 …。

 

 春咲さんに…会いてぇなぁ。

 会って謝りたい。許してくれなくたっていい、失望してくれたって構わない。ただ、彼女の顔が見たい。

 

 結局、なにも変わっちゃあいなかった。

 拓や菜月は俺が春咲さんと出会ったことで変わったと言うが、俺にそんな自覚はない。

 綾小路への未練を捨てきれなかったこそ、俺は春咲さんが綾小路に詰め寄られているのを止めることが出来なかった。

 ただ綾小路に、嫌われたくなかった。

 

 綾小路への叶わねぇ未練と、春咲さんを助けたいという気持ちを無意識に天秤にかけて、綾小路への想いが勝っていた。

 

「櫻葉…くん?」

 

 ベンチに腰掛け、俯いていた俺に不意に声がかけられる。俺はその方向へと顔を向けた。なんで…

 

 黒いセミロングの髪型、目にかかるか程長い前髪に、小さな顔に見合わない大きな丸眼鏡。黄色いリュックサックを背負った春咲さんが、夜空にある強まった月光に照らされて、俺の前に立っていた。

 俺は目を見開き、呟く。

 

「春咲さん…。」

「ここにいたんですね。よかったです。見つかって。」

「どうして…?」

 

 春咲さんは首を傾げ、口元に手を当てた。

 照れくさそうにふふっと笑い、続ける。

 

「えと、櫻葉くんが飛び出したあとですね、私達三人も一緒に櫻葉くんを追いかけたんです。手分けして探そうって事になって、私が最初に見つけました。一番です、うへへ。」

「…うへへ?」

「……隣、座ってもいいですか?」

 

 俺は黙って頷いた。肯定の証明だ。

 春咲さんはそれを察してくれたようで、俺の隣に腰掛けた。

 数秒の沈黙が訪れる。

 

「怒ってないのか?」

「どうして怒るんですか?」

「だって、春咲さんが庇ってくれたってのに…俺は春咲さんに怒鳴って…最低だよな、俺って。」

 

 春咲さんは何も言わない。ただ俺の溢れる言葉に耳を貸している。

 俺は頭を抱えて、酷く俯く。

 

 無人の夜の公園に、俺の嗚咽混じりの泣き言が響き渡る。

 

「怖いんだ。綾小路に嫌われるのが。もう振られて恋人同士でもないっつーのに、アイツが俺の前から居なくなるのが怖い。けどさ……そんな叶わねぇ未練いつまでも心に残して生きてる自分も…俺は嫌いなんだ。ほんと…なんなんだろうな、俺…!」

 

 春咲さんはベンチに座りながら、体の向きをこちらに向けた。躊躇いながらも、春咲さんの細腕が俺の頭を伸びる。

 

 春咲さんは、優しく俺の頭を撫でた。

 

「自分をそんなに責めないでください。櫻葉くんは…頑張りました。綾小路さんに振られちゃってからずっと辛かったんですよね?ずっと苦しかったんですよね?それなのに私を気遣ってくれて…本当に嬉しかったです。胸を張ってください、櫻葉くん…あなたは私の、ヒーローなんです。私はあなたに救われたんです。だから今回は私が助けようと思ったんですけど…なんか失敗しちゃって…えへへ。」

「ごめん…」 

「謝らないでください。」

「ごめん…むにゅ!」

 

 春咲さんは俺の頬を両手で挟んだ。いつもの逆だ。

 

「そんな簡単に謝っちゃ駄目なのです。言葉に想いを乗せれば伝わると教えてくれたのは…櫻葉くんじゃないですか。私達には伝わりましたよ?櫻葉くんの気持ちが。だから…」

「……ぐず…」

 

 あぁ…ちくしょう…。

 

 春咲さんはニコッと笑った。

 

 

「だから、もう泣かなくていいんです。」

 

 

 なんで…涙が止まらねぇんだよ…!!

 

「うぅ…ぐず…あぁ…ぐっ……!!」

 

 公園の入口から声が聞こえた。

 

「エータロー!!」

 

 見ると、拓と菜月が手を振りながらこちらに向かってくる。

 

「拓…菜月…。」

「ったく、心配したぜ?大丈夫か?」

「悪い…心配かけた。」

 

 菜月が俺の額を指でどつきながら言う。

 

「いいんだよ!あんなの綾小路が悪いんだから…それより、ひなったんにお礼言ったか?あんたを探すのに誰よりも早く店を出たんだぞ?」

「え…?」

 

 春咲さんは、さっき三人で一緒に出たって…。

 

「ちょっ…、菜月さん…!」

「ん?どしたの、ひなったん。」

 

 春咲さんは頬を染めながら抗議しようとするが、俺の顔をチラチラと確認する。

 

「い、いえ。なんでもないです…。」

 

 突如として両肩に腕が回された。拓が俺に肩を組んで来たのだ。

 

「おいおいエータロー!男なのに情けねぇ!!泣いてんじゃねぇよ。」

「うるせぇよクソ童貞死ね…ぐす」

「あれ!?泣いてるのにすごい辛辣!!!」

「櫻葉ぁ。お前も泣き虫だなぁ、おねーさんの胸で泣くか?」

「脂肪の塊だろ糞が…ぐす」

「てめぇ!!泣いてるからってあたしらが手ぇ出せないとでも思ったか!!?」

 

 俺は拓と菜月にその場に倒され、何度も踏みつけられた。

 ゲシゲシゲシゲシ!!!

 

「痛い!!痛い!!顔はやめて顔は…!!あ!今なんか変な音した、ちょっ、タンマタンマ!!」

 

 俺を蹴るのに満足した拓と菜月に起こされ、俺達は街の方向へ向かう。

 拓が声を張った。

 

「いよっしゃぁ!!飲み直しだぁ!!」

「飲むのか!?」

「ドリンクバーだコノヤロウ!!」

 

 深見が言う。

 

「なんだそれ!?」

 

 春咲さんと目が合い、俺達は互いに笑い合った。

 俺は視線を前にやり、そっと呟いた。

 

 

「ほんとお前ら…お人好しの馬鹿野郎だよ。……ありがとよ。」

 

 

 俺の音にならない言葉が、三人に聞こえたかは知らない。

 

 

 

 ****

 

 

 

 ……栄太郎君。

 

 ねぇ栄太郎君、他の三人と一緒に居て楽しい?

 

 私はね…栄太郎君があの人達と一緒にいる所を見ると、腸が煮えくり返りそうで堪らないの。

 あなたが楽しそうに笑っている姿を見ると、嫌気が指すの。

 

 なんであなただけが…あんなに幸せそうな顔をしてるの?

 

 春咲日向。

 

 邪魔。

 

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