Summer Pockets #2   作:トミー@サマポケ

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第十一話 8月4日

 

 

 

 

「タカハラさーん! 朝ですよー!」

 

 今日も夏海ちゃんに起こされて、一日が始まる。

 

「ああ、おはよう夏海ちゃん……」

 

 布団から出ながら、開け放たれたふすまの方を見ると……金髪の知らない女の子がいた。

 

「……えっと、どちらさま?」

 

「むぎゅ! 紬です! 紬・ヴェンダースです!」

 

「あ、そういえば昨日泊まってたんだっけ」

 

「はい!」

 

「ごめん。紬のイメージはツインテールでさ」

 

「センニューカンに捕らわれてはいけません!」

 

 だってパジャマ姿だし。髪を解いたままだと、やっぱり見慣れない。

 

「まだ服乾いてないの?」

 

 夜のうちに軒下に干しておいたはずだけど。

 

「今、ナツミさんが確認に行ってくれてます」

 

「そうなんだ」

 

「紬も風邪とか引いてない? 大丈夫?」

 

「はい! 大丈夫です!」

 

 昨日とか結構くしゃみしてたみたいけど。大事にならなくてよかった。

 

「それで、ナツミさんにタカハラさんを起こしてくるように頼まれましたんです。というわけで、起きてラジオ体操に行きましょう!」

 

 仁王立ちして、俺の方をびしっ、と指差す。紬がやる気だ。

 

 見たことあるパジャマだと思ったら、夏海ちゃんのだった。かなりきつそうだ。おへそとか見えちゃってるし。

 

「それじゃ、着替えたいんだけど」

 

「むぎゅ! そ、それでは部屋の方に戻っていますので!」

 

 紬は顔を赤くしながら去っていった。

 

 うーむ、やっぱり家に紬が居るのは新鮮だ。

 

 

「あ、鷹原さん。おはようございます」

 

 身支度を済ませて廊下に出たところで、夏海ちゃんと会う。手に紬の服を持っていた。

 

「おはよう。なんとか乾いた感じ?」

 

「はい! 今、アイロンもかけ終わったところです!」

 

 夏海ちゃんもパジャマ姿だったので、二人の準備が終わるまで外で待っていることにした。

 

 空を見ると、朝から大きな入道雲が出ている。今日も暑くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 準備が終わった二人と合流して、神社へ向かった。

 

 境内に到着すると、もうみんな集まっていて、あちらこちらで話をしていた。

 

「皆さん、おはよーございます!」

 

 三人そろって挨拶すると、紬が俺達と一緒にやってくるのは珍しいからか、皆の注目を集める。

 

「あれ、紬が水織先輩以外と一緒に来るなんて、珍しいわね」

 

「しかもキグルミじゃないですよ。これは何かあったんじゃないですか?」

 

「え。藍、何かって何?」

 

「……お泊りでもしたんじゃないですか?」

 

「まさか、羽依里と一つ屋根の下で過ごしたってこと? じゃあこれって、朝帰りってやつじゃ……!」

 

 蒼と藍が顔を寄せ合ってヒソヒソと話している。蒼の声が大きいので、ほとんど丸聞こえだけど。

 

「おい藍、蒼がマッハでピンク思考になったぞ。なんとかしてくれ」

 

「え? 可愛いからいいじゃないですか」

 

「良くない」

 

「なら、本人に聞いてみましょう……紬は羽依里さんの家に泊まったんじゃないですか?」

 

「はい。泊めてもらいました!」

 

「ほら。間違ってないじゃないですか」

 

「やっぱり朝帰りじゃない!」

 

「その朝帰りって、意味が違うから! 誤解を招くようなことを朝から大声で言わないでくれ!」

 

「ほう」

 

「やるなぁ」

 

 騒ぎを聞きつけてか、良一と天善まで寄ってきた。のみきの耳に入る前に事態を収束させたい。

 

「いや、泊めたのは認めるけど夏海ちゃんの部屋だから!」

 

 

 

「お前ら―! 今日もラジオ体操を始めるぞー!」

 

 その時、ラジオ体操大好きさんがやってきた。

 

「た、助かった……」

 

 今日ほどラジオ体操大好きさんの登場がありがたかったことはない。

 

「第二の体操! 横隔膜の振動だ! うるああああぁぁぁー!」

 

「うるああああぁぁぁーーーー!」

 

 体操をしている間に、お泊りの件はうやむやになった。

 

 

「さあ、スタンプはこっちだぞー」

 

 ラジオ体操終了後、スタンプを押してもらい、バケツから今日のログボを受け取る。

 

「いててててて!」

 

 無造作にログボの入ったバケツに手を突っ込んだ瞬間、指先に激痛が走り、思わず手を上げる。

 

 見ると俺の右手の人差し指をカニが思いっきり挟んでいた。

 

「え、カニ!?」

 

 反射的に手を振り回して、カニを振り払う。

 

「羽依里、カニはこう持つんだぞ!」

 

「こ、こうか?」

 

 良一に指導してもらって、なんとかカニを掴む。

 

 以前のザリガニより掴みにくい。気を抜いたら逃げられてしまいそうだ。

 

「わわわわ……」

 

「夏海ちゃん、カニは甲羅を持つんだ」

 

「は、はい」

 

 夏海ちゃんがのみきの指導を受けて、なんとかカニを掴んでいる。なかなかにきつそうだ。

 

 島の皆は普通に持ってるけど、やっぱり実際にやるとなると難しい。

 

「タカハラさん、ナツミさん、お世話になりました! それでは!」

 

「はい! またです!」

 

「じゃあな紬、気を付けて帰れよ!」

 

 紬とは神社で別れ、夏海ちゃんと二人で加藤家に戻る。

 

 

 

 

 

「それで、どうしましょう。これ」

 

 帰宅後、俺と夏海ちゃんは再び居間で立ち尽くしていた。

 

「カニだね」

 

「……中身を取り出したいのですが」

 

 ログボでもらったカニはハサミをチョキチョキ動かしながら、元気いっぱいだ。

 

「よし。ここはあの手を使おう」

 

「あの手ですか?」

 

「うん。夏海ちゃんは先に台所からハサミを持ってきてほしいんだ」

 

「ああ……わかりました。それじゃ、持っててください」

 

 俺の意図を察した夏海ちゃんは、手に持っていたカニを俺に渡し、台所にハサミを取りに向かった。

 

「鏡子さーん!」

 

「はーい!」

 

 そして、俺は例によって鏡子さんを呼ぶ。

 

「あら、美味しそうなカニね。食べるの?」

 

「はい」

 

「貸して」

 

 予想通りの展開だ。これならいけそうだ。

 

「よろしくお願いします。今、夏海ちゃんがハサミを……」

 

「あ、カニの場合はハサミはいらないんだよ」

 

「え?」

 

 鏡子さんは俺の手から二匹のカニを持って台所に向かう。入れ違いでハサミを持った夏海ちゃんが戻ってきた。

 

「あれ、ハサミ使わないんですか?」

 

「うん、いらないって言われたけど……」

 

 その時、バキバキと何かをへし折るような音が台所から聞こえてきた。

 

「ひっ」

 

 俺と夏海ちゃんは堪らず耳を押さえる。

 

「ねえ、これってチャーハンにするんでしょ?」

 

 台所から顔を出した鏡子さんが聞いてくる。

 

「え? はい。たぶん、そうです」

 

「なら、カニミソも出しておくね」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 再び何かをたたき割るような音が聞こえてくる。

 

「ひえぇぇ……」

 

 この音、何度聞いても慣れない。

 

「下ごしらえは終わらせておいたから。後はお任せしていいかな?」

 

「ありがとうございます」

 

 数分後、タオルで手を拭きながら、鏡子さんが戻ってきた。

 

「……それじゃ夏海ちゃん、後は任せていいかな?」

 

「ええー……そうだ。たまには鷹原さんが作ってみませんか? チャーハン、得意なんですよね?」

 

「……今日は夏海ちゃんの作ったカニチャーハンが食べたいな」

 

「そ、そんな言い方してもダメですから!」

 

「……お願い」

 

 正直、今の台所には入れる気がしない。

 

「うう……わかりました。わかりましたよ」

 

 夏海ちゃんがエプロンをつけて、涙目で台所へ向かう。ごめん、夏海ちゃん。

 

 

 

 その後は鏡子さんも入ってもらって、三人で朝ごはんを食べた。カニの旨味をそのまま閉じ込めたような、絶品のカニチャーハンだった。

 

 

 

 朝ごはんを済ませると、鏡子さんは役所の方に用事があると言って出かけてしまった。

 

 俺達はいつものように、向かい合って宿題をする。

 

 それが終わってしまうと、やっぱり暇になってしまう。

 

 適当にテレビをつけるけど、チャンネルが4つしかない上に、ローカルな旅番組しかやってなかった。

 

「こういうのって、同じ時間帯に別のチャンネルで似たような番組やってることがあるよね」

 

「そうですね。旅番組でも、海外旅行か国内旅行かの違いだけだったりします」

 

「放送時間をずらせば、どっちも視聴率取れると思わない?」

 

「思います」

 

 そんなどうでもいいことを話しながら、ぼーっとテレビを見ていると、レポーターが港で漁師にインタビューする映像に変わった。

 

 ……そうだ。港と言えば、今日はなんの屋台が出てるんだろう。

 

「夏海ちゃん、ちょっと港に行ってみない?」

 

「港ですか?」

 

「うん。今日も何か屋台が出てるかもしれないし」

 

「この間のヨーヨーみたいにですか?」

 

「そ、そう」

 

 ……一瞬、数日前のヨーヨー事件がフラッシュバックした。

 

 そういえばあのヨーヨーはどこに行ったんだろう。確かその辺に転がってたはずだけど。

 

 まさか、あの旅芸人の力が残っていて、勝手にどこかに行ったってことは無いだろうし。鏡子さんがどこかに片づけてくれたんだろうか。

 

「あの、鷹原さん? 港、行ってみたいんですけど」

 

「……ああ、ごめん。それじゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

 見当たらないヨーヨーのことをいくら考えてもしょうがないので、夏海ちゃんと二人で港に行ってみることにした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「ほら、今日も出てる」

 

 港に到着すると、いつも屋台が出てる場所に大き目の屋台が出ていた。

 

「ポン!」

 

 そして、今日もイナリが居た。

 

「よう。またお前が店番してるのか?」

 

「ポーン!」

 

「イナリさん、何を売ってるんですか?」

 

「ポンポーン!」

 

 見ると、日よけの下に色々な種類のお菓子が規則的に並べてある。

 

「これって、輪投げか?」

 

「ポン!」

 

 イナリが尻尾で指し示す先には、例によって看板が立っていた。

 

 

『輪5つで100円。一番下まで入った商品だけお持ち帰りください』

 

 

「せっかくだし、やってみようか」

 

「はい!」

 

「ポーン!」

 

 まいどありー、と言った感じで、イナリが尻尾を出してくる。

 

 俺が200円を渡すと、器用に受け取ってカゴに入れる。そして輪投げ用の輪っかを渡してくれる。

 

「イナリさん、器用ですね……」

 

 イナリから輪っかを受け取った後、二人で並んで立つ。

 

「鷹原さん、せっかくですから勝負しませんか?」

 

「え、勝負?」

 

「はい! どっちがたくさん取れるか勝負です!」

 

「いいよ。受けて立とう」

 

 標的のお菓子の並びを見ると、手前の方はマーベルチョコやアファロチョコといった、狙いやすそうな小物が並んでいる。

 

 少し奥にはパリングルスやコップスターズといった、ちょっとお高めのお菓子が並び、一番奥にはマンハッタンの高層ビルよろしく、お菓子の塔が築かれている。

 

 この手のゲームの景品は、遠い程良い物が置いてあるんだよな。一番奥のお菓子は実際は見せ物のようなもので、子供が投げても届かない場合が多い。

 

「えーっと、どれを狙おうかな」

 

 すごく取りやすそうな位置に、瓶に入ったジャムのようなものがあったが、あれは取ってはいけないと本能が告げていた。

 

「えい!」

 

 品定めをしていると、夏海ちゃんが第一投。見事にアファロチョコをゲットしていた。

 

「ポーン!」

 

 上手だ。俺もうかうかしてられない。

 

「よし、いくぞ」

 

 まずは一投目。中ほどにあるパリングルスを狙うけど、力加減がわからず、大暴投だった。

 

「あれ?」

 

「ポンー」

 

 残念―。と言われた気がした。

 

 気を取り直して二投目。今度は力が弱かったのか、品物まで届かなかった。前のヨーヨーの時もそうだったけど、子供の時の感覚で投げると全然違う。

 

「えーい!」

 

 続いて夏海ちゃんの二投目。今度はキャラメルをゲットしていた。

 

「夏海ちゃん、上手だね」

 

「えへへ、実は得意なんですよー」

 

 その後の三投目、四投目はさすがに夏海ちゃんも外してしまったが、最後の五投目でパリングルス(濃厚ピーチ味)をゲット。十分元は取った気がする。

 

 俺も頑張らないと、このままじゃ負けてしまう。

 

「えい!」

 

 俺は続く三投目で、ようやくキャラメルをゲットしたけど、残りの輪っかは2つ。一つずつゲットしたとしても、良くて夏海ちゃんとは引き分けだ。

 

 俺の手元に残された輪っかは2つ。一発逆転を狙うには、一番奥にそびえ立つ塔を狙うしかない。

 

 ……今の俺の腕力なら、あのお菓子の塔も狙えるはずだ。

 

「いくぞ!」

 

 子供の頃は決して届かなかった高みへ向け、俺は輪を投じる!

 

「あ」

 

 勢いはあったものの、高さが全然足りなかった。俺の投げた輪っかは勢いよくお菓子の塔にぶち当たる。

 

 そして、その塔は大きな音を立てながら崩れてしまった。

 

「あちゃー……失敗しちゃった」

 

「ポン! ポン!」

 

「え? 倒したら、元通り立ててくれって?」

 

「ポン!」

 

 言われてみれば当然だ。崩れてしまったお菓子の塔は、イナリでは立てられないのだから。

 

「よし、ちょっと待ってろよ」

 

 俺は屋台の中に慎重に歩みを進め、崩れてしまった塔の再建に取り掛かる。

 

「誰が立てたのか知らないけど、うまく立てたもんだよな」

 

 パリングルス、ベスコ……記憶を頼りにお菓子を積み上げていく。

 

「あ、危ないです!」

 

「え?」

 

 夏海ちゃんの声がしたけど、遅かった。肘が当たってしまい、隣にあった塔が倒れてしまった。

 

「し、しまった。お菓子が混ざって、どっちの塔のかわからなくなっちゃった」

 

「あ、鷹原さん! お菓子踏んじゃってますよ!」

 

「げ、やばい!」

 

 思いっきりマーベルチョコを踏んでいた。この暑さで溶けたチョコが染み出して、足元が大変なことになってる。

 

「うわ、うわわわわ!」

 

「ポン! ポーン!」

 

 慌てて足をどけたらまた別の塔に当たって崩し、反対の足ではキャラメルを踏んでしまっていた。もはや地獄絵図だ。

 

「た、助けてーー!」

 

 

「……何をやってるんですか?」

 

 聞きなれた声がして振り返ると、そこには藍が腕組みをして立っていた。

 

「いや、えっと、これはその」

 

「とりあえず、屋台から出てもらえますか?」

 

「はい……」

 

 

 

「まったく。屋台の様子を見に来て正解でした」

 

「ごめんなさい」

 

 俺はせめてもの誠意を見せるため、コンクリートの上に正座していた。

 

 夏海ちゃんはそんな俺の様子を、少し離れた場所から心配そうに見ている。

 

 最近俺、藍に怒られてばっかりな気がする。

 

 ちなみに、お菓子の塔は藍によってあっという間に再建され、悲惨なことになっていた床も綺麗になった。

 

 そして、俺が唯一取っていたはずのキャラメルは藍に没収されてしまった。

 

「ふんづけてしまったお菓子の分です」

 

 ごもっともだ。返す言葉もない。

 

 結局、夏海ちゃんとの輪投げ勝負は0-3の完敗だった。

 

 

「あの、鷹原さん。良かったら私のキャラメルあげましょうか?」

 

「あはは、ありがとう夏海ちゃん」

 

 打ちひしがれていた俺を見て、夏海ちゃんがキャラメルをくれた。こういう時って、他人の優しさが身に染みるよね。

 

 

「……そういえば、今日の夜に皆で花火大会をやるんですが、お二人も来ませんか?」

 

 イナリにバイト代の油揚げをあげながら、藍が俺達の方に言う。

 

「え? 花火大会ですか?」

 

「はい。今日のイベントです」

 

「ぜひ参加したいです!」

 

 花火という言葉を聞いて、夏海ちゃんの目が輝いていた。花火、好きなんだろうか。

 

「そういえば、今年はまだ花火をやってなかったな」

 

「花火の後もお楽しみがあると言ってましたし」

 

「え、何?」

 

「なんでもないです。それより花火は各自、自前で用意してくださいね」

 

「皆で持ち寄るんだな。わかった」

 

「駄菓子屋に色々な種類が売ってますので、お買い求めください」

 

「はい!」

 

 ちゃっかり店の宣伝していた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 港で藍とイナリと別れ、加藤家に帰宅する。時計を見ると、ちょうどお昼時だった。

 

 ちょうど鏡子さんが居たので、夜の花火大会についてお伺いを立てる。

 

「皆で行くなら大丈夫だね。あまり遅くならないうちに帰ってきてね」

 

「わかりました」

 

 快くOKしてもらえた。

 

「そうだ。その代わりと言ったらなんだけど……」

 

 交換条件として、鏡子さんから台所や洗面所といった水回りや、玄関と庭先の掃除をお願いされた。

 

 元々俺達が受けていた家事ばかりだし、昼食を済ませたら手分けしてやってしまおう。

 

「というわけで夏海ちゃん、家事が終わってから花火買いに行こうか」

 

「はい!」

 

 楽しみなのか、うきうきとした足取りで台所へ向かう。

 

「鷹原さん、今日はどのカップうどんにするんですか?」

 

「今日はわかめうどんにしようと思う」

 

 わかめは食物繊維にミネラルも豊富。最高の食材だ。乾燥してるけど。

 

「わかめうどんでしたら、良い物がありますよ」

 

 そう言って夏海ちゃんが戸棚を漁る。俺はその間にカップうどんのふたを開け、ポットのお湯を確認しておく。

 

「あ、ありました!」

 

 しばらくすると、夏海ちゃんが戸棚から袋を取り出した。

 

「夏海ちゃん、それ何?」

 

「味噌汁に入れる乾燥わかめです! これを入れたら、ボリューム増しますよ!」

 

「確かにボリュームは増すね。お願いするよ」

 

「はい!」

 

 ザラザラと俺のカップうどんに乾燥わかめを足してくれる。まぁ同じわかめだし、味が変わることもないだろう。

 

 そしてお湯を入れて、3分待つ。

 

「うわっ!?」

 

 3分後、蓋を取ってみると真っ黒だった。わかめがもの凄く増えている。

 

 そして、わかめの下の麺はまだ硬かった。そしてスープがもの凄く少ない。どうやらわかめの方に先に水分を取られてしまったみたいだ。

 

「……お湯、足しますか?」

 

 その光景を見て、夏海ちゃんがポットのお湯を出してくれる。

 

「お湯を足してもスープが薄くなっちゃうだけだね」

 

「わ、私が乾燥わかめを足しちゃったせいですね……どうぞ、私のを食べてください!」

 

 すごく申し訳なさそうに、自分の分のわかめうどんを差し出してくる。

 

「いや……乾燥わかめの追加を頼んだのは俺だし、気にしないでいいよ。何とか食べるから」

 

 笑顔で差し出されたカップうどんを押し返し、自分の真っ黒いうどんに取り掛かる。

 

 わかめは磯の香りがして美味しかったけど、麺の方はコシがありすぎだった。

 

 

 食後は頼まれていた家事を終わらせてしまう。

 

 俺が洗面所やお風呂、シンク台を掃除し、夏海ちゃんが玄関から庭先の掃除をした。

 

 それも14時くらいには終わり、その後は花火を買いに駄菓子屋へ向かった。

 

 

 

 

「くーださーいなー」

 

「……あれ?」

 

 しかし、いざ駄菓子屋についてみると誰もいない。

 

「くーださーいなー!」

 

もう一度、少し大きな声を出してみる。

 

「はーい! ちょっと待ってて―!」

 

 ……奥の座敷から蒼の声がした。

 

「なんだ蒼、いるんじゃないか」

 

 俺達は奥の座敷へ向かい、ふすまを開けた。

 

 

 

「……へっ?」

 

 ……そこには下着姿の蒼が居た。

 

「……」

 

「……」

 

 俺たちは三人、無言で見つめあう。

 

 ちりちりーん。と風鈴の音が聞こえた。

 

 

「……うわあああああっ!」

 

 そして、俺は叫んでいた。

 

「だからなんであんたが叫ぶのよ! 早く閉めなさいよ! 夏海ちゃんも見てるし!」

 

「ご、ごめん!」

 

 俺は急いで夏海ちゃんの目を隠す。

 

「なんでそっちを隠すのよ!?」

 

「きょ、教育に良くないと思って!」

 

「教育とかいいから、さっさと出てけーーー!」

 

 

 

 

「いてて……ひどい目にあった」

 

 去り際にテレビのリモコンを投げつけられ、思いっきりこぶができてしまった。

 

「ひどい目にあったのは、蒼さんの方だと思いますけど」

 

「ああいう時、とっさに動けないんだ」

 

「それはわかりますけど……」

 

 蒼が出て来るまで、二人でベンチに座って例のボトルシップを眺めていた。

 

「……おまたせ」

 

 蒼がむすっとした顔で出てきた。客商売として、その表情はどうなんだろう。

 

「で、何? かき氷?」

 

「今夜、花火するって聞いてさ」

 

「ああ、今日のイベントね。藍から聞いてるわよ」

 

「こっちも自前でいくつか持って行こうかと思って」

 

「花火ね。こっちよ」

 

 蒼についていくと、店の奥に花火コーナーがあった。

 

 都会の店みたいに小綺麗にしてなく、ごちゃごちゃっと寄せ集めたような感じがまたいい。

 

 まるで宝探しでもするみたいに、夏海ちゃんと二人でその中を漁る。

 

「これなんですか?」

 

「ネズミ花火だよ。最近見ないよね」

 

「ネズミ花火?」

 

「こう、ネズミみたいにチョロチョロ動き回る花火なんだ」

 

 俺は数本の指で円を描き、その様子を再現する。

 

「面白そうですね」

 

 夏海ちゃんは早速ネズミ花火を手に取った。

 

 

 その後も目を輝かせながら、花火コーナーを漁る。

 

「この束はなんですか?」

 

「線香花火だね」

 

「これ、どっちに火をつけるんです?」

 

 ……あれ、どっちだっけ?

 

「蒼、これってどっちだっけ?」

 

「つけてみてのお楽しみよ」

 

 ……きっと蒼もとっさには解らなかったんだろう。

 

 

「この丸いのはなんですか?」

 

「……こっちがかんしゃく玉。こっちがけむり玉」

 

「あれ、しろは?」

 

 蒼とは別の声が聞こえたと思ったら、背後にしろはが居た。

 

「しろは、どうしてここに?」

 

「スイカバーを買いに来たら、二人の声が聞こえたから」

 

 なるほど。確かにスイカバーを持っている。

 

「夜の花火を選んでるの?」

 

「はい!」

 

「しろはも来るのか?」

 

「うん。皆でやった方が楽しいし」

 

「そうだ、しろはのおすすめの花火とかないのか?」

 

「私のおすすめは、これとこれ」

 

 しろはが選んだのは、見慣れた打ち上げ花火と、円柱形の黒い物体。

 

「この変な形のも、花火なんですか?」

 

「ヘビ花火だな。後片付けが大変なんだぞ」

 

 というかしろは、こんなマニアックな花火が好きなのか?

 

「にょろにょろしてて、見てると落ち着く」

 

「そ、そうなんですねー」

 

 少し引いてる。それでもちゃんとヘビ花火を買おうとしている辺り、夏海ちゃんはえらい。

 

「こっちのは打ち上げ花火ですか?」

 

「落下傘だな。打ち上げた後にパラシュートが落ちてくるやつ」

 

「そんなのあるんですか?」

 

「最近見ないかもね」

 

「落下傘がゴミになるとか、火がついて危ないとか、色々言われてるみたいだからな」

 

「最近は噴水みたいな花火ばっかりだもんねー。見た目は派手だけど、すぐ終わっちゃうし」

 

 蒼がしろはからスイカバーの代金を受け取りながら、そう話す。

 

「あの、これも花火なんですよね?」

 

「あ、それは金魚花火だねー」

 

「鴎さん?」

 

「やっほー、なっちゃん」

 

 いつの間にか、しろはの代わりに鴎が背後にいた。

 

「キンギョ?」

 

「水の上を走る花火だよー」

 

「浜辺でやるんだし、買って行ってもいいんじゃない?」

 

「はい! そうします!」

 

 物珍しさもあってか、両手いっぱいに花火を抱える夏海ちゃん。

 

「あれ、なっちゃんも花火の調達?」

 

「はい!」

 

「鴎もそうなのか?」

 

「それもあるけど……例のアレが入荷したって聞いて」

 

「例のアレ?」

 

 鴎は俺の言葉を無視して蒼の方へ行き、耳打ちをする。

 

「……三角形の秘密、ありますか?」

 

「入荷してるわよー。昨日のボトルシップのお礼もあるから、好きなだけ持って行って」

 

「わーい!」

 

 鴎は駄菓子屋の奥で、どっかで見たことある三角形のお菓子をいくつもスーツケースの中にしまっていた。

 

「皆が続々と花火の調達に来てるけど、良一たちは来たのか?」

 

 俺はそんな鴎の様子を眺めながら、蒼に聞いてみる。

 

「良一と天善は午前中に来たわよー。ロケット花火やけむり玉をダースで買っていったけど」

 

「え、あれ危ないのに」

 

 しろはがスイカバーを食べながら、心配そうな顔をする。

 

「海に向かって撃つんなら問題ないんじゃない? もし危ない事しそうなら、のみきが止めるでしょ」

 

「そうだろうけど……」

 

「あおちゃん、私にも花火見せて―」

 

「いいわよー」

 

「あ、できればダースで欲しいんだけど……」

 

「鴎もなの? 奥にあるから、好きなだけ見ていいわよー」

 

「はーい」

 

 鴎は駄菓子屋の奥へ消えていく。

 

「そうだ羽依里。今日は食堂、早くに開けておくから」

 

 しろははベンチに座りながら、店の中の俺たちに伝えてくれた。

 

「じゃあ、少し早めに見て行かせてもらうよ」

 

「うん」

 

「あおちゃん、ひとまずこれだけお願い」

 

 どすっ、という音がした方を見ると、ものすごい量の花火を持った鴎が会計をしていた。

 

「それだけの花火、どうするんだ?」

 

「教えてあげないよ! じゃん!」

 

 いらっ。

 

「いらっとしないでよ。今日の夜まで秘密」

 

 よくわからないけど、夜まで楽しみにしておくことにした。

 

「……蒼さん、私もお会計良いですか?」

 

「いいわよー。たくさん買ったわねー」

 

 蒼が夏海ちゃんから花火を受け取って、金額の計算をする。

 

「全部で1200円ねー」

 

 ……仕方ないとはいえ、結構な金額になってしまった。

 

「えーっと」

 

 夏海ちゃんが財布の中身と相談している。

 

「俺も出すよ。一緒に楽しむんだし」

 

 俺も半分は出そうと、財布を取り出す。

 

「あ、これ使っていいよ」

 

 それを遮るように、しろはが一枚の紙を取り出す。

 

 それは先日のスイカバー早食い競争で獲得した、この駄菓子屋の1000円商品券だった。

 

「え、悪いですよ」

 

「これ使うと、おつり貰えないらしいの。よく見ると使用期限もあるし、使いどころに困ってたの」

 

 駄菓子屋で一度に千円以上の買い物って厳しいよな。その上使用期限有りって。

 

「私、駄菓子屋じゃスイカバーくらいしか買わないから」

 

 誰が作ったのかわからないけど、たばかられたな。

 

「だから夏海ちゃん、使っていいよ。私も花火、一緒に楽しむんだし」

 

「それじゃあ……使わせてもらいます。しろはさん、ありがとうございます」

 

「うん」

 

 花火を買い込んだ俺達は、一度加藤家に戻り、頃合いを見てしろは食堂へと向かった。

 

 

 

 

「しろはー」

 

「あ、いらっしゃい」

 

「なんだ、鷹原たちも来たのか」

 

 食堂に入ると、カウンターにのみきが座っていた。

 

「よう、のみき」

 

「のみきさん、こんばんわです!」

 

 俺達二人もその隣に座る。

 

「のみき、何を食べてるんだ?」

 

 人の食事を見るのは良くないけど、隣の席だからどうしても目に入る。定食みたいだけど、メインの皿には見慣れない天ぷらが乗っている。

 

「日替わりの山菜定食だそうだ。先日はハンバーグ定食で子供っぽい所を見せてしまったからな。少し背伸びをしてみた」

 

 気にしてたんだな……。

 

「美味しいのか?」

 

「正直なところ、少し苦い」

 

「だから、苦いよって言ったのに……無理しちゃダメだよ?」

 

 しろははあきれ顔で、ケチャップとマヨネーズをのみきの前に置いた。濃い調味料で味を誤魔化して食べる作戦らしい。

 

「羽依里たちは何食べる?」

 

「それじゃ、今日は親子丼(B)にしようかな」

 

「コロッケ定食ください!」

 

「うん。少し待っててね」

 

 しろはが調理に取り掛かる。

 

 待つ間、隣ののみきと話をする。

 

「なぁ、この店の日替わりは変わったメニューが多くないか?」

 

「そうか? 私が頼む時は普通だが」

 

「この間は日替わりで、あんぱん定食が出たぞ」

 

「そ、それは食べあわせ的にどうなんだ……?」

 

「それなりに食べられたけど……しろはのじーさんが寄合でもらって帰ったらしい」

 

「ああ……孫娘にあげると言って、寄合で余ったあんぱんを大量に持って帰っていたな。そういえば」

 

 あ、のみきはいつも寄合に出ているらしいから、その現場も見ていたのか。

 

「しろはのじーさん、最近はしろはのために、そこまでするのか……?」

 

「寄合でも、鳴瀬爺はだいぶ丸くなったと言われている。孫娘もそうだが、その彼氏の影響もあるんだろうと噂だ」

 

「え、俺?」

 

「ああ。男同士にしかわからないものなんだろうが、張り合いがあると言っていたしな。鷹原も胸を張っていいと思うぞ」

 

 

「……二人で何の話をしてるの?」

 

「いや、こっちの話だ。ところで、のみきも今日の花火大会は来るんだろ?」

 

「私も行くぞ。鴎も楽しみにしているしな」

 

「そういえば、鴎は一緒に食べに来なかったのか?」

 

「色々と花火大会の準備をしていたな。食事は三角形の秘密で済ませるそうだ」

 

 それって栄養的にどうなんだろうか。本人が良いならいいけど。

 

「はい、親子丼(B)とコロッケ定食おまたせ」

 

 その時、海鮮親子丼とコロッケ定食が俺達も前に置かれた。

 

「美味しそうですねぇ」

 

「うん」

 

 俺も念願の海鮮親子丼だ。どんぶりに盛られたサケといくらの上に、海苔や葱といった薬味が乗ってる。美味しそうだ。

 

「それじゃ、いただきまーす」

 

 二人揃って食事を始めた。

 

 海鮮親子丼はワサビ醤油に生姜の隠し味が効いて、体を冷やし過ぎないよう工夫されていた。味もあっさりしていて、食べやすかった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 日が暮れた頃、自前の花火を持って浜辺に到着する。

 

 そこには良一に天善、藍と蒼、紬と静久、しろはとのみき、鴎と、いつものメンバーが集まっていた。

 

「遅いぞ二人とも」

 

「もう始めちゃうわよー?」

 

「お二人とも、持ってきた花火はここに置いてください」

 

 藍に案内された場所に行くと、皆が持ってきたらしい花火が一か所に集められていた。どうやら、持ち寄った花火を一旦ここに集め、自由に持って行くスタイルらしい。

 

 というわけで、俺も持っていた花火をここに置く。

 

「ナツミさん、シズクが花火セットを買ってきてくれたので、一緒にやりましょう!」

 

「はい!」

 

 浜辺に着くが早いか、夏海ちゃんが紬に引っ張っていかれた。本当に仲が良いな。

 

「鷹原も来たか」

 

 一人になったところで、のみきが声をかけてくれた。

 

「あちこちに火のついたローソクを用意してあるが、一応マッチも用意してる。必要だったら言ってくれ」

 

「いざという時の水はあるのか?」

 

「ローソクと同じ場所に、水の入ったバケツを用意している。もしそれで消せない程の火が起きても安心しろ。私が消す」

 

 のみきはハイドログラディエーター改を構えている。頼もしい限りだ。

 

「皆、終わった花火は必ずバケツに入れて最後に持って帰るように。最低限のマナーだぞ」

 

 のみきの指示が飛び、あちこちから返事が返ってくる。

 

 真っ暗な浜辺のあちこちにローソクの小さな火が灯り、なかなかに幻想的な光景だった。

 

 俺も適当にブラブラしながら、皆の花火に混ざることにする。

 

 

「おーい、紬―、静久ー」

 

「あら、パイリ君」

 

 紬達は夏海ちゃんと一緒に、ススキ花火やスパーク花火を楽しんでいた。よく店で売ってるセット花火の一部らしい。一つの袋に色々な種類の花火が入ったアレだ。

 

 そこまで派手さもないけど、手持ち花火の定番と言った感じで、大勢で楽しむにはちょうど良い。

 

「タカハラさんも一緒にやりましょう!」

 

 俺も紬からススキ花火を貰って、夏海ちゃんの花火から火を分けてもらう。

 

「綺麗ですねぇ」

 

 途中で色が変化するタイプみたいで、なかなかに綺麗だった。

 

「ロケット花火! いっくぜー!」

 

 続いてスパーク花火をやっていると、向こうの波打ち際の方で良一の声が聞こえた。

 

「二人とも! やるなら海に向かってやりなさいよー!」

 

「わかってるよー!」

 

 始めは言われた通り海に向かって発射していたけど、気になって見続けていたら、良一が天善を狙って発射していた。

 

 危ないことをしてるなと思ったけど、よく見ると天善はそれをラケットを使ってうまく打ち返していた。高速で迫るロケット花火を撃ち返す光景は、なかなかにかっこいい。きっと凄いトレーニングになるんだろう。

 

「夏海ちゃん、ネズミ花火やるよ」

 

「はい! 見たいです!」

 

 ススキ花火が終わった頃を見計らって、しろはがネズミ花火に火をつける。地面に置かれたネズミ花火はものすごい速さで地面を走り回る。

 

「わっ、わっ、わっ!?」

 

「むぎゅぎゅぎゅぎゅ!?」

 

 二人が必死に踏まない様に飛び跳ねてる。微笑ましい。

 

「よし、次はしろはおススメのヘビ花火をみせてやろう」

 

 ネズミ花火が大人しくなった頃、今度は俺がヘビ花火に火をつける。

 

「見たいです!」

 

 そう言った夏海ちゃんだったけど、少し離れて見ている。

 

「夏海ちゃん、もっと近くに寄っても大丈夫だよ」

 

「え、いいんですか?」

 

 さっきのネズミ花火のせいもあるのか、警戒していたようだった。

 

「そんな派手に爆発するものでもないし」

 

 火をつけると、にょろにょろと黒い物体が溢れてきた。

 

「な、なんですかこれ」

 

「ヘビっぽいでしょ」

 

「確かにそうですけど、ちょっと不気味ですね」

 

「ぶ、不気味……見ていると落ち着くのに」

 

 おすすめの花火を不気味と言われて、しろはが凹んでいた。

 

 そういえば天善たちはどうしてるんだろうと、浜辺の方を見ると……今度はかんしゃく玉やけむり玉を投げ合っていた。

 

 例によって爆発したら危ないと思っていたけど、ギリギリのタイミングで天善がラケットで海の方に打ち出していた。きっとあれも良いトレーニングになるんだろう。

 

 

「なっちゃん、ちょいちょい」

 

 鴎は手招きをして、夏海ちゃんを波打ち際に呼び寄せる。

 

「鴎さん、なんですか?」

 

「ほら、金魚花火!」

 

 そして持っていたマッチで金魚花火に火をつけると、そのまま海へ投げ放つ。

 

 一瞬の間の後、金魚花火は煙をあげながら、波打ち際を結構な速度で進んでいく。

 

「おおー、本当に金魚みたいに泳いでます!」

 

 ……そして、爆発した。

 

「さ、最後は爆発しちゃうんですね」

 

 どうも爆発するタイプの花火だったみたいだ。夏海ちゃんが驚いている。

 

「金魚の一生は儚いもんねぇ」

 

 鴎はしみじみと言っているけど、金魚って結構図太く生きるんじゃなかったっけ。

 

 

「うおおおーー!」

 

 叫び声がしたので、反射的に声のした方を見ると……天善の頭が燃えていた。どうやら、けむり玉とロケット花火を同時に使ってトレーニングをしていたようで、煙のせいでロケット花火を避けきれなかったみたいだ。

 

 天善は直後に海に飛び込み、事なきを得ていた。

 

 

「落下傘、行きますよ」

 

 そんな状況には見向きもせず、藍が落下傘花火に点火する。

 

 大きな炸裂音の後、上空から小さな落下傘がフワフワと降ってくる。

 

「あの落下傘をゲットできた人は、羽依里とデートだよ!」

 

 ちょっと鴎、勝手な事言わないでほしい。

 

 しかし、落下傘は海風に流され、波打ち際で天善の介抱をしていた良一の頭の上にピンポイントで落ちた。

 

「なんだこれ?」

 

「おお。まさか羽依里とのデートは三谷君で決まり!?」

 

 いやいやいや、決まらないから!

 

「ひゃっほー!」

 

 お前もなんで喜ぶ!?

 

「鴎、さっきの話は取り消してくれ!」

 

「か、鴎に二言はない!」

 

「それ使いどころ違うから!」

 

 結局、なんだかんだといちゃもんをつけて、良一とのデートはなしにしてもらった。

 

 いくらなんでも、野郎とのデートは嫌だ。危ない危ない。

 

 その後、最後の締めにと皆で線香花火をやっていると、鴎がスーツケースを持って立ち上がる。

 

「それじゃあ、最後にフィナーレといこう!」

 

 鴎がスーツケースを開くと、中から無数の導火線で繋がれた大掛かりな仕掛け花火が出てきた。

 

「え、なにそれ?」

 

 鴎はそのスーツケースを引っ張って、海の方を向ける。

 

「すぐ終わっちゃうと思うけど、すごい派手だから。皆しっかり見てね!」

 

 皆がなんだなんだと集まってくる。

 

「まさか、スーツケースから花火を撃つのか?さすがに危ないんじゃ」

 

「大丈夫だよ。耐熱仕様にしてあるし、いざとなったら、のみきさんにスーツケースごと海に吹き飛ばしてもらうから!」

 

 のみきの腕ならできるだろうけど、そこまでしてやるべきなのか。

 

「なあ鴎、どんな花火なんだ!?」

 

「駄菓子屋さんで買ったロケット花火30ダース分、トンボ花火20ダース分、合計600発を連結したの。名付けて、愛と勇気の600連発!」

 

 花火の改造は本当に危ないのでやめましょう!

 

「それでは、点火!」

 

 鴎が始点の導火線に火をつけて、こっちに急いで戻ってきた。

 

 導火線に導かれ、端から順に着火していく。やがて次から次へと海に向けてロケット花火とトンボ花火が入り乱れるように撃ち出されていく。

 

 なんだこれ。鴎の奴、夕飯もまともに食べずにこれ作ってたのか? 

 

 物凄い音と光。まるで迫撃砲みたいだ。

 

「海の方を見てください! ものすごく綺麗ですよ!」

 

 海にもウミホタルが集まっているんだろうか。ロケット花火が着水した所から、小さな光の粒が波紋状に広がって、とても綺麗だった。

 

 

 

「……すごい迫力だったな」

 

 思わず見入ってしまった。

 

「すごかったわねぇ」

 

「まだ耳がきーん、ってしてます」

 

「いやー、頑張って作った甲斐があったってものだよ」

 

 鴎のスーツケースは所々黒くなってるが、こすれば大丈夫なんだそうだ。さすが耐熱使用のスーツケースだ。

 

「楽しかったです」

 

 夏海ちゃんの言葉で、皆も笑顔になっていた。

 

 時間はまだ20時半と少し早いけど、そろそろお開きにするのもいいかもしれない。

 

「皆、今日はありがとう。それじゃ、そろそろ……」

 

「羽依里、ちょっと待て」

 

 帰ろうか、と言いかけた俺を良一が制止する。

 

「え、どうしたんだ?」

 

 

「……第一回! 肝試しでホラー! 納ー涼ー大会ー!」

 

 良一が高らかに次のイベントの開催を宣言していた。

 

「って、肝試し?」

 

「ああ。肝試しだ」

 

 発案者らしい良一は得意げだ。

 

 そういえば、花火大会の後もお楽しみがあるとか、藍が言ってたような気がする。

 

 この肝試しがそうなのか……。

 

 正直、この手のイベントはあまり得意じゃないんだけど。

 

 

「えっと、どういうルールでやるんですか?」

 

 夏海ちゃんも乗り気みたいだし、これは無下に断れそうもない。

 

「くじ引きでペアを決めて、ここから神社まで二人で歩くんだ」

 

 神社か……夜の神社とか、絶対不気味だよな。

 

「賽銭箱の前にお札が置いてるから、それを持って帰ってくる。簡単だろ?」

 

「なあ良一、ペアを作るのはいいけど、ここに居るのは11人だぞ? 1人余るんじゃないか?」

 

「進行役として、私が残ろう」

 

 そう言ったのはのみき。昨日のビーチバレー大会でも審判役を買って出てくれたのに。良いのだろうか。

 

「私はその、この手のものが苦手なんだ。取り乱して醜態を晒したくない」

 

 少し恥ずかしそうに言う。取り乱すのみきも見てみたいと思ったのは、俺だけじゃないはずだ。

 

「……こほん。ともかく、まずはくじ引きだ。最初にしろはと鷹原に引いてもらう」

 

「え、俺達?」

 

「私、別に最後の方でも……」

 

「いや、ここは先に引いてくれ」

 

「うん……」

 

 半ば強引に俺としろはが最初のくじを引く。二人そろって『5』の番号が書いてあった。

 

 その後も皆がくじを引いていき、ペアを組んでいく。結果、俺としろは、良一と藍、天善と静久、紬と蒼、鴎と夏海ちゃんのペアが組まれた。

 

「よし、それじゃあ番号順に出発していくぞ。前のペアが出発してから5分後に、次のペアが出発するんだ」

 

 参加者に組み込まれた良一に代わって、のみきが進行役となる。

 

「なぁ、これって実は全部同じ番号が書いてあって、俺としろはが組むのは仕組まれてた……とかじゃないよな?」

 

 他の皆が、引いたくじの番号を全然見せてくれないのがすごく気になる。

 

「そんなことはないぞ。偶然だろ」

 

「そ、そんなことないわよ」

 

「そうそう! そんなことないよ!」

 

 皆、本当に嘘が下手な……。

 

 夏海ちゃんも鴎に耳打ちされて以後は黙っちゃったし。これ絶対仕組まれてるよな。

 

「それより、今回も優勝賞品が出るぞ。最新式中華鍋だ」

 

「最新式……なんでそんなものがあるんだ?」

 

「少し前に役所でもらった品なんだが、この島の住人はほとんどが自前の中華鍋を持っているからな。宝の持ち腐れなんだ」

 

 やっぱここの島民の中華鍋への情熱はおかしい。

 

「……羽依里、頑張ろう」

 

 しろはが急にやる気になった。

 

「実は、そろそろ食堂の中華鍋が怪しいから」

 

「怪しい?」

 

「おとーさんの時代から使ってるから、そろそろ穴が開きそう」

 

「マジなのか」

 

「うん、マジ。だから、なんとしても欲しい」

 

「わかった。頑張ろう」

 

 

「それじゃ最初のペア、出発してくれ」

 

 のみきの指示を受け、最初に良一と藍が出発する。

 

「ほら、天善ちゃん行きますよ」

 

「いてっ! 脇腹引っ張らないで!」

 

「蒼ちゃんとが良かった……蒼ちゃんとなら、きっと可愛い悲鳴が聴けたはずなのに……ブツブツ」

 

 なにやらブツブツ言いながら、闇夜に消えていった。

 

 ちゃんと帰ってくるか心配だ。

 

 

「よし。次は天善と水織先輩のペアだな」

 

 それから5分後、今度は天善と静久が出発する。

 

「よろしくね。加納君」

 

「は、はい! お任せください! どんな魑魅魍魎が出ようとも、水織先輩には指一本触れさせません!」

 

 天善はラケットを構えて戦闘モードだ。花火大会の時に海に飛び込んだせいで全身ずぶ濡れだし、こっちも無事帰ってくるか心配だ。

 

 

「よし、次は紬と蒼のペアの番だ」

 

 天善たちが出発して5分後、今度は紬と蒼が出発する。

 

「むぎゅぎゅぎゅぎゅ~……」

 

「ほら紬、行くわよー」

 

「むぎゅ! むぎぎぎぎぃ~~!」

 

 恐怖心からか、紬は『むぎゅ』しか言えなくなっていた。

 

「ちょっと、抱きつかないでよ……せめて手を握るくらいに……」

 

 むぎむぎ言いながら、二人も暗闇に消えていった。

 

 紬とか、夜の灯台で慣れてるだろうに……神社とかになると、話が別なんだろうか。

 

 

 

 更に5分後、夏海ちゃんと鴎のペアが出発して、残るは俺たちだけになった。

 

 結構距離があるからか、20分以上経っても、まだ誰も帰ってこない。

 

「最後は鷹原としろはのペアだな」

 

「……それじゃ行ってくる」

 

「ああ。頑張れよ」

 

 なぜか笑顔ののみきに送り出された。

 

 ……出発してから気付いた。本当に肝試しをするんなら、前のペアが戻ってきてから次のペアが出発する方が恐さも倍増するはずだ。

 

 スタートとゴールが同じなんだから、戻る途中のペアと鉢合わせでもしたら、せっかくの雰囲気も台無しだろうに。

 

「これは、絶対何かある」

 

「うん。私もそう思う」

 

 先に出発した皆が手を組んで、俺としろはと怖がらせようとしてくるのは明白だった。

 

 俺達は自然に手を繋いでいた。

 

 

 浜辺から左手に灯台を見ながら、田舎道に差し掛かる。左右を森と草むらに囲まれた一本道。仕掛けて来るならここだろう。

 

 

「んん、パーーージ! んん、パーーーージ!」

 

「出たーーーーー!」

 

 右の草むらから、妙なボディペイントを施した謎の怪人がぁーーー!

 

「アオチャーーーーン!」

 

「うわーーーー!」

 

 左の森から、赤いマントを羽織った髪の長い女が―――!

 

 俺は恐ろしさのあまり、その場にしゃがみ込んでしまう。

 

「羽依里、しっかりして。良一と藍だよ」

 

「へっ?」

 

 しろはに言われて顔を上げるが、そこには誰の姿もない。

 

「だ、誰もいないじゃないか……」

 

「凄い速さで森の中に走って行っちゃった」

 

 俺はしろはと腕を組む。俺から組みにいった。

 

「……そういうのって普通、女の子からするんじゃないの?」

 

「こ、腰が抜けた」

 

「え、今ので?」

 

「……ああいうのに慣れてないんだ」

 

「シティーボーイさん、しっかりして」

 

 しろはと腕を組みながら一本道を進んでいくと、大きな木が見えてきた。

 

「うわーーー! 木で首をつってる人がーーー!」

 

「……よく見て。人形だよ」

 

「な、なんだ……驚かせやが」

 

「うけーーーーーー!」

 

「きゃああああーーーーっ!」

 

 安心させといて、木の上からミイラ女が降ってきたー!

 

「ミイラでっせー! 怖いでっせー!」

 

 なんだか柔らかいけど怖い―――!

 

「助けて―!」

 

「羽依里、しっかり……鴎だよ?」

 

「へっ?」

 

 しろはに言われて我に返る。また誰の姿もなかった。

 

「凄い速さで森の中に入っちゃった」

 

「うう……なんでこんな目に……」

 

 

 なんとか一本道を抜けて、住宅地に到着した。ここなら皆も何も仕掛けてこないだろう。

 

「チョレーーーーイ!」

 

 うわーーー! 電柱の陰から巨大なモンスターがーーー!

 

「良く見て。ペケモンだよ」

 

 良く見たらペケモンの着ぐるみに大量の洗濯バサミがつけられていた。色々な意味で怖い。

 

「シャアーーーーッ!」

 

 ……謎のペケモンは足早に逃げ去っていった。

 

「さっきの声、きっと天善君だよ」

 

「心臓がめちゃくちゃ高鳴ってる」

 

「深呼吸して、深呼吸」

 

 

 必死に住宅地を歩いていると、駄菓子屋の前を通りかかった。

 

「う、うらめしやーーー!」

 

 うわーーー! 駄菓子屋の中から着物を着た女がーーー!

 

「出たーーー! 妖怪ピンク!」

 

「誰が妖怪ピンクよ! 雪女よ! この!」

 

「つ、つめたーーーい! 助けてーーーー!」

 

「蒼がかき氷をぶつけただけだよ……ほら、このハンカチで拭いて」

 

「あ、ありがとう……」

 

 俺はしろはのハンカチを頭に被って、少しでも視界に妙なものが入らないようにしながら進む。

 

「……羽依里も妖怪みたいだよ?」

 

「し、しろはは平気なのか?」

 

「家が山の方だし。色々と慣れてるから」

 

「そういえばそうだよな……」

 

 同じ島に住んでいるとはいえ、俺の住んでいるのは住宅地だし。なんだかんだで夜になっても街灯があるし。

 

「ん……?」

 

 ふと、電柱の近くに置かれた真新しいポリバケツが目に留まる。こんなのあったけ?

 

 そして、なんかガタガタと動いて……蓋がゆっくりと開く。

 

「おっぱいがひとーつ、おっぱいがふたーつ……ああ、足りないわー……」

 

 うわーーー! これはあの有名な皿屋敷のお静さん!? まさか現代はポリバケツから出て来るなんてーーー!

 

「ちょ、ちょっと羽依里!?」

 

 俺は思わず駆けだして、神社の入り口までたどり着いた。

 

 そこまで距離はなかったからか、すぐにしろはも追いついてきた。

 

「羽依里、大丈夫……?」

 

「だめかもしれない」

 

「しっかりして。後はお札を持って帰ればいいんだから」

 

「そ、そうだな。よし」

 

 覚悟を決めて神社の境内に足を踏み入れる。今のところ誰の気配もない。

 

 向かい合ってる狛犬の間を抜けて、賽銭箱に近づ……。

 

「えーい!」

 

 うわーーー! 狛犬の口から謎のガスがーーー!

 

「ぷしーーーって来た! ぷしーーーって!」

 

「夏海ちゃんと紬が狛犬の陰に隠れてただけだよ。炭酸ガスのスプレーみたい」

 

「そ、そうなんだ……びっくりした……」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 予想以上に俺がビビっていたのを見て、夏海ちゃんと紬が申し訳なさそうに出てきた。

 

「……今のガスは、私もちょっと驚いたけど」

 

 しろはが何か言っていたけど、今の俺の耳には届かない。俺はやっとの思いで、賽銭箱の前に置かれたお札を発見する。

 

「あった。後はこのお札を持って帰れば……」

 

 その時、がしゃーーーんと物凄い音を立てて、上から鈴が降ってきた。

 

「はう……」

 

 完全に気を抜いていた俺は、その場で気絶してしまったのだった……。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「……はっ」

 

「あ、起きたみたいねー」

 

 目が覚めると、俺は皆に囲まれていた。

 

「しろはを驚かして、吊り橋効果でいいムードにするはずだったんだけど。羽依里の方が恐がっちゃうなんてね……」

 

「まさか、最後には気絶してしまうとは思いませんでした。彼氏としてどうなんですか?」

 

 藍と蒼は呆れ顔だ。

 

「うん。私もショック受けてる……」

 

 ちなみに俺が気絶する原因となった鈴は、いつの間にか元の場所に取り付けられていた。

 

「鷹原さん、オカルト物は得意なんじゃなかったんですか?」

 

 夏海ちゃんも戸惑い顔だ。

 

「得意なんだけど……知識がある分、余計に想像力が働いちゃって」

 

 のみきが懐中電灯を持っていたので、今はそれなりに明るい。その明かりの下で見ると、皆の姿も滑稽なものだった。

 

「良一のボディペイントもすごいな。人体模型か」

 

 良一の右半身には内臓や筋肉のイラストが描いてあった。暗がりで見るとこれは怖い。

 

「藍に描いてもらったんだ。リアルだろ」

 

「ああ、マジでビビった」

 

「羽依里さん、私の格好は何かわかりましたか?」

 

「藍は、もしかして赤マント?」

 

「そうです」

 

 赤マントってのは、赤が好きとか青が好きとか白が好きとか聞いてくる怪人だ。

 

 藍が着てると、魔女のコスプレにしか見えないけど。

 

「ちなみに、私はもちろん蒼が好きです」

 

「俺もしろが好きだぞ」

 

「お熱いわねー。さっきまで気絶してたのに」

 

「う、うるさいぞ、妖怪ピンクめ」

 

「だーかーらー、雪女だって言ってるでしょ!」

 

「夏だけど」

 

「う、うるさいわね。めちゃくちゃ怖がってたくせに」

 

「ところで、あの雪……じゃない、氷はどうやって用意したんだ?」

 

「駄菓子屋のおばーちゃんに頼んで、かき氷器を借りたの」

 

 そこまでやるとか、気合い入れすぎだろ……。

 

「それにその衣装、よく用意できたな」

 

「家で山の祭事に使ってる衣装なのよ。ちょっと借りてきちゃった」

 

 良く見たら着物じゃない。なんて言うんだろうか、巫女服に近いような。

 

「蒼の家は、特別な、お役目があるからな……」

 

「天善は汗だくだな」

 

 もはや海水なのか汗なのか、見分けがつかない。

 

「水織先輩に頼まれたとはいえ、あの着ぐるみを着て、全力疾走したからな……」

 

 やっぱりあのペケモンの中身は天善だったのか。

 

「今日の午前中に私とツムツム、ズクズクの三人で着ぐるみに洗濯ばさみをつけまくったしね!」

 

「はい! 頑張りました!」

 

 俺の知らないところで、皆動いてくれていたらしい。

 

「準備するのは楽しかったですけど、神社で待っている間は怖かったです」

 

 そういうのは紬。

 

 夜の神社だもんな……蒼と出発する時の紬の恐がり様は、演技じゃなかったわけだ。

 

 一緒に出発したはずの蒼が駄菓子屋でスタンバイしたんなら、そこから紬は一人で神社まで行かなければならなかったはずだし、夏海ちゃんと合流するまでの間は一人。それは怖い。

 

「ナツミさん、来るのが遅かったですし。凄く怖かったです」

 

「ご、ごめんなさい。ちょっとお花を摘みに行っていて……」

 

 そ、それなら仕方ないよね。

 

「ねえねえ羽依里。ところで私の衣装はどうだった?」

 

「鴎のミイラもマジで怖かったぞ。上から降ってくるとは思わなかったし」

 

「木登りは得意だからね!」

 

「ところで鴎、その包帯の下って……」

 

「え、もちろん下着だけど」

 

「あ、だからか」

 

 今思い返してみると、木から落ちてきたときにその、ものすごく柔らかくて……む……ごっほ。

 

「むごっほ?」

 

「なんでもない。魔よけの呪文だ」

 

「ところでパイリ君、私のお静さんには何も言ってくれないのかしら」

 

「あーうん。今冷静になって考えると、おっぱいが足りなくても別に怖くもなんともないような」

 

「本気で言ってるのパイリ君!? おっぱいが足りなかったら、怖いに決まってるじゃない!」

 

「そうです! 怖いんですよ!」

 

 静久だけじゃなく、紬からも怒られてしまった。何か逆鱗に触れたんだろうか。

 

「あれ?」

 

 見ると、紬と夏海ちゃんはスプレー缶の他に、何やら袋を持っていた。

 

「紬、それなに?」

 

「実は、アオさんの提案でトイレのむぎゅ子さんになる予定だったのですが、あいにく肝試しのコースにトイレが無かったので、諦めたんです」

 

 トイレのむぎゅ子さん……あれだろうか。夜な夜なトイレから『むぎぎぎぎぎー』と声がするんだろうか。それはそれで怖いかも。

 

 大方、あの袋にはその為の衣装が入っているんだろうな。

 

「私は鴎さんから猫娘になれと言われて、これを渡されたんですけど、どうしても勇気が出なくて」

 

 夏海ちゃんが持っていたのはネコミミのカチューシャだった。鴎のやつ、何用意してるんだ。

 

「なっちゃんの猫娘と、ツムツムのむぎゅ子さん、見たかったなー」

 

 鴎は心底残念そうだった。

 

「次やる時は、のみきもオバケ役で参加したらどうだ?」

 

「なに、私もか?」

 

「ピャンシーとか似合うんじゃない?」

 

「そ、それは喜んでいいものか……」

 

 

 その後もしばらくワイワイと話をしていた。

 

 脅かし役をやってくれた皆も満足そうだし、そろそろ本当にお開きの時間だろう。

 

「そういえば、このお札は誰に渡せばいいんだ? のみきか?」

 

「うん? なんだ?」

 

「いや、だからこのお札なんだけど」

 

「……お札など用意していないぞ」

 

 のみきの表情が強張っている。

 

「え? 浜辺では持って帰って来いって言ってたじゃないか」

 

「あれは二人を神社に向かわせるための口実だ。実際には置いていない。散々怖がらせて、最後はここでネタばらししようと思っていたからな」

 

「……ちょっとパイリ君。それ見せて」

 

 静久があまりにも真面目な顔でこっちを見てきたので、たまらずお札を渡す。

 

「誰かがここで供養してもらおうと、置いて行ったんじゃないかしら」

 

「……水織先輩、ちょっと見せてください」

 

「ええ」

 

 お札が静久から藍に渡される。藍はそのお札をじっと見る。

 

「……蒼ちゃん、このお札、どう思いますか?」

 

「……嫌な力を感じるんだけど。これ、燃やした方が良いと思う」

 

 ごめん蒼、真顔で言われたら笑えない。

 

「……えっと、これも冗談なんだろ? 俺を怖がらせようとして……さ」

 

「「……」」

 

 ……皆、そこで黙らないで。本当に怖くなるから。

 

 その時、神社の木々がザワザワと風で揺れた。急に背筋が寒くなった。

 

「か、帰りましょう!」

 

「そ、そうだな、もう夜も遅いし!」

 

「シズク! 一緒に灯台に泊まってください!」

 

「も、もちろんよ!」

 

「れ、れいげんいやちこなれ! れいげんいやちこなれ!」

 

「皆、暗いから足元に気を付けるんだぞ!」

 

「蒼ちゃん、家に清めの塩がありましたっけ」

 

「あるわよ! しっかりすり込まないと!」

 

「皆、帰るよ!」

 

「ダッシュ!」

 

「サー!」

 

 皆急に怖くなって、そのまま足早に帰宅した。

 

 ちなみにお札はのみきが持って帰り、しかるべき場所でお祓いをした後、焼いてもらったそうだ。

 

 

 

 

 

第十一話・完






第十一話・あとがき

おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。

今回は輪投げの屋台、花火選びからの花火大会。そして肝試しでした。
花火は子供の頃、友達と駄菓子屋で買った花火を持ち寄って好き勝手に遊んでいたころを思い出しながら書きました。小さなどぶ川を挟んでロケット花火を撃ちあったり、隠れてけむり玉を改造したりと、今思えば危険極まりなかったですね。

ロケット花火やセット花火、落下傘はリアルで良くやってました。ドラゴンとかの噴水式の花火は出始めの時期で、近所の駄菓子屋には売って無かった記憶があります。それこそ蒼に言わせたように、値段の割にすぐ終わるイメージが強かったです。

実はヘビ花火やネズミ花火、金魚花火はリアルで見たことはありません。ネットで調べました。金魚花火はいくら検索しても某有名歌手の歌しか出てこなくて困りましたw
と、すっかり花火談議になってしまいましたが、私も小説を書きながら昔の懐かしい記憶が蘇ってきました。この辺りはさすがサマポケですよね。どこかに忘れていた眩しい思い出ってやつです。

ちなみに肝試しですが、今回は鳥白島での肝試しをイメージして書きました。島の仲間が、しろはと羽依里を本気で脅かしたらこんな感じだろうなぁ。とイメージして書きました。ラストのお札ネタはリトバスでも同じネタが使われています。パク……いえ、リスペクトです。

私のお気に入りは蒼の妖怪ピン……雪女です。良一の人体模型も見てみたいような気もします。そして、トイレのむぎゅ子さんもやってみたかったですが、それをやると羽依里が女子トイレに入ることになるのでやめましたw

■今回の紛れ込みネタ

・パリングルス(濃厚ピーチ味)
 AIRより、観鈴が大好きな某ジュースです。ついにパリングルスになってしまった?

・打ち上げ花火、愛と勇気の600連発
 これもAIRネタです。かのりんこと霧島佳乃が家の庭で花火をやった時、一晩で消費したそうです。往人いわく、世間体があるので自粛してくれと言っていました。

・第一回肝試しでホラー納涼大会
 リトバスで行われた肝試し大会の下りそのままです。ラストがお札なのも同じですw

以上になります。いくつお気づきになられたでしょうか。
感想など頂けましたら、泣いて喜びます。
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