Summer Pockets #2   作:トミー@サマポケ

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第二話 7月26日

 

 

 ……朝。

 

 蝉の鳴き声と、窓から差し込む日差しで目が覚める。

 

「おはようございます」

 

「おはよう。羽依里君」

 

 居間に行くと、ちょうど鏡子さんが出かけようとしているところだった。

 

「あれ。出かけるんですか?」

 

「うん。お昼過ぎには帰れると思うんだけど。パン買ってあるから、朝食はそれ食べちゃって」

 

「わかりました」

 

「そうそう。ガレージに置いてあるバイク、好きに使っていいからね」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあね」

 

 ……行ってしまった。本当に忙しい人だ。

 

 俺は居間に座って、用意してもらったパンを食べる。コッペパンに卵サラダを挟んだ総菜パンだった。港のほうに店があったから、そこで買ってきてくれたんだろう。

 

 テレビをつけると天気予報をやってた。今日も快晴のようだ。

 

 ……やがて朝食を終えて、暇になる。

 

 バイクの使用許可も出たし、今日は少し遠出をしてみよう。もしかしたら、昨日会えてない人に会えるかもしれない。

 

 ガレージからバイクを引っ張り出す。ぶっちゃけカブだ。

 

「よう相棒。またよろしく頼むぞ」

 

 ぽん。とバイクのボディを軽く叩き、またがる。

 

 相変わらずセルスターター駄目っぽいが、キックスイッチでエンジンをかける。調子は良いようだ。

 

「よし、出発!」

 

 エンジン音を響かせながら、バイクで田舎道を走り、港へ出る。

 

「おお、快適快適」

 

 朝から日差しは強いが、バイクで走ると風があって幾分涼しい。

 

 港で掃除をしていたおばさんと軽くあいさつをして、一路灯台を目指す。

 

「相変わらず、徒歩で来れる場所じゃないよな」

 

 海沿いの道を行って、ほどなくして灯台に辿り着く。するとさっそく二人の女の子の姿が見えた。

 

 

「おーい。紬―、静久ー」

 

「むぎゅ! タカハラさんです!」

 

 ツインテールを揺らしながら、最初に金髪の少女がこっちに走ってきた。

 

「紬、久しぶりだな」

 

「はい、おひさしぶりです!」

 

 この子は紬・ヴェンダース。今は使われていないこの灯台で、親友の静久とよく遊んでいる。

 

 二人との出会いは今年の春。たまには釣り場を変えようと、しろはと灯台に行ったところで二人に声をかけられたのだ。

 

「紬は今日も灯台にいるんだな」

 

「はい。今日もいます!」

 

 遠い外国の出身という事以外、住んでる所もわからない不思議ガールだ。この灯台に住んでるとかいう噂まである。

 

 そして、灯台の中に大量のぬいぐるみをコレクションしてるとか、大量のパリングルスの空き容器をストックしてるとかの噂もある。

 

 まぁ、あくまで噂だろうけど。

 

 

「あら、パイリ君」

 

「静久、久しぶり」

 

 紬に少し遅れて静久がやってきた。俺より年上で、その……何とも言えない包容力がある人だ……胸もだけど。

 

 ちなみに静久は島の人間ではなく、普段は本土の大学に通っている。

 

「ようやく大学も夏休みか?」

 

「ええ、ようやくね。そろそろパイリ君がやってくる時期じゃないかと思ってたのよ」

 

「昨日から来てるんだ。八月末まで滞在する予定だよ」

 

「じゃあ、タカハラさんも夏休みですね!」

 

「ああ、そうなるな」

 

「……実は、そんなパイリ君に紬からプレゼントがあるのよ」

 

「え。プレゼント?」

 

「はい!」

 

「たくさんある中から選りすぐったのよね、紬」

 

「そですね。一杯悩みました」

 

 なんだろう。ちょっと期待してしまう。

 

「では、どうぞ!」

 

 笑顔の紬から渡されたのは、一本の缶コーヒー。

 

「これは?」

 

「再会のお祝いです!」

 

「たくさんある中から、この銘柄を選りすぐりました!」

 

 缶には『ブラック黒田のブラックコーヒー』の文字と、白地に真っ黒いカラスのイラストが描かれていた。

 

「再会のお祝いが、缶コーヒー一本……」

 

 まるでどこかで聞いたような話だ。

 

「むぎゅ……足りないのでしたら、まだ十本くらい残ってます」

 

「いや、一本で十分嬉しいよ」

 

 俺から見えないような位置に段ボール箱が見えた。あの箱の変形具合、どう見ても漂着物だ。

 

 一応賞味期限を確認してみるが、大丈夫っぽい。

 

「それじゃ、いただきます」

 

 恐る恐る口をつける。生ぬるいうえに恐ろしく苦いが、飲めない事はない。

 

「そういえば、二人はここで何をしていたんだ?」

 

「シズクと一緒に体操をしてました!タカハラさんも一緒にやりましょう!」

 

「え? 何の体操?」

 

「おっぱい体操です!」

 

「あー、それは俺は無理だな」

 

「……センニューカンに捕らわれてはいけません!」

 

 いや……やったら色々な物を失いそうな気がする。

 

「さあ、パイリ君もやりましょう」

 

「やりましょう!」

 

 まずい。二人が迫ってくる。

 

 笑顔だけど、手の動きが怪しい。ぶっちゃけ怖い。

 

「お、俺! まだ行くところがあるから! 缶コーヒー、ごちそうさま!」

 

 

 半分以上残ってた缶コーヒーを一気に飲み干すと、空っぽになった缶をズボンのポケットに無理やりねじ込む。

 

 そのままバイクにまたがり、キックスイッチを蹴ってエンジンを起動。

 

 逃げる様に灯台を後にした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「ふう、危ないところだった」

 

 あの場を離れるため、とっさにああ言ったけど、当然この後行く場所なんてない。

 

 港まで戻った後、一度しろは食堂を覗いてみたけど人影はなし。まだ昼前だし、早すぎるんだろうな。

 

 2日続けて午前中から駄菓子屋に行くのもどうかと思いつつ、バイクを走らせていると……バイクのエンジン音が急に頼りなくなる。

 

「おい、どうした相棒」

 

 ……やがて完全に止まってしまった。

 

「しまった。ガソリン切れだ」

 

 よく見たらガソリンの残量を示すメーターがゼロになっていた。久々に動かしたから、燃料メーターまで見てなかったな。

 

 仕方ないので、そのまま押していくことにした。住宅地まで行けば、スタンドがあったはずだし。

 

 

「が、頑張れ俺。頑張れ」

 

 蝉の大声援と強烈な日差しの中、ただの荷物になってしまったバイクを必死に押す。

 

 目の前には緩やかながら、長い坂。

 

「俺は登り始める。長い坂道を……」

 

 ……って、何を言ってるんだろう。暑さにやられてるんだろうか。

 

 それからかなりの時間をかけて、やっとの思いでスタンドに到着し、燃料を補給。

 

 一方で、缶コーヒーしか燃料を補給していない俺はへろへろだ。

 

「つ、疲れた……」

 

 復活したバイクを走らせ、昼頃にようやく加藤家に帰ってくる。さすがに腹が減った。

 

「な、何か食べよう……」

 

 冷蔵庫の中を探すが、ほとんど空っぽに近い。水屋の中を探して、ようやくカップうどんを見つけた。栄養価は心許ないが、この際しょうがない。

 

 お湯を入れて三分でできる、人類の英知が生み出した確信的な食べ物だ。

 

「う、うまい!」

 

 きっちり三分待ってからいただく。味もそれなりだが、空腹は最高のスパイス。おつゆまで飲み干す。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 満腹になると、とたんに眠気が襲ってくる。

 

「食欲の次は睡眠欲……これも人間の三大欲求の一つだ……抗えるはずもない……ぐぅ」

 

 俺は睡魔に身を任せ、眠りに落ちる……。

 

 

 

 

 

 

……どれくらい眠っていただろうか。

 

 

 

 

 

「……みませーん!」

 

 

「…………ん?」

 

 

「あのー、すみませーん!」

 

 

 玄関から誰かが呼ぶ声で目が覚める。

 

 

 

「こんにちわー!」

 

「……しまった。眠ってた!」

 

「はーい!」

 

 跳び起きて、急いで身だしなみを整えてから玄関へ向かう。すると玄関先に見たことのない女の子が立っていた。

 

「ここ、加藤さんのお宅ですよね?」

 

「はい。そうですけど」

 

「初めまして。岬 夏海です。親戚の」

 

「あー、今日来るっていう……」

 

 すっかり忘れていた。鏡子さんと同じ苗字だし、この子がそうなのか。

 

 それにしても……なんだろう。初対面なのに、どこかで会ったことあるような。

 

 ……ああ、鏡子さんに雰囲気が似てるんだ。さすが親戚というか。

 

 茶色くてショートボブの髪型。黒い蝶のアクセントがついたヘアピンをつけている。

 

 そして大きなリュックサックを背負っている。

 

「あの、あんまりじろじろ見ないでください」

 

「ご、ごめん」

 

「えっと、鏡子さん、出かけちゃってるみたいなんだ」

 

「そうですか」

 

「上がってていいよ」

 

「それじゃ、お邪魔します」

 

 居間に上がってもらい、適当な場所に荷物を置いてもらう。とりあえず麦茶を出して、対面に座る。

 

「えーっと、俺は鷹原羽依里。鏡子さんの甥……ってことになるのかな」

 

「鷹原さんですね。よろしくお願いします」

 

「……」

 

「……」

 

 夏海ちゃんは出された麦茶に手をつけず、正座して、両手は膝の上。背筋もびしっと伸びていて、顔は俺の方をじっと見たまま。

 

 すごく緊張してるのが手に取るようにわかる。

 

「……」

 

「……」

 

 そりゃそうだろう。親戚の女の人がいるはずの家に行ってみたら、若い男の人が一人いるんだもんな。緊張するなって方が無理かもしれない。

 

「えーっと、夏海、ちゃん?」

 

「はい」

 

「……麦茶、飲んでいいからね」

 

「はい」

 

「……」

 

「……」

 

「えーと、夏海ちゃんって、何年生?」

 

「6年です」

 

「へぇ、そうなんだ……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 全然会話が続かない……。

 

 

 正直、気まずい……。

 

 

 その後も沈黙の時間が続き、耐えきれなくなった頃……。

 

「ただいまー」

 

 鏡子さんが戻ってきたらしい。助かった。

 

「夏海ちゃん、来てる?」

 

「……お邪魔してます」

 

「ごめんね。港に迎えに行ったんだけど、入れ違いになっちゃったみたいで」

 

「いえ。夏休みの間、お世話になります」

 

「その様子だと、もう羽依里君とは自己紹介済ませたみたいね」

 

「はい」

 

「それじゃ、お部屋に案内するわね」

 

「はい」

 

 夏海ちゃんが荷物を持って鏡子さんについて行ったので、ようやく解放された気分になる。

 

「って、俺が緊張してどうするんだ……」

 

 いくら男子校で女子と話す機会が少ないからって、初対面の女の子相手に、あそこまで緊張するなんて。

 

 島の皆と初対面の時は大丈夫だったんだけどな……。

 

 夏海ちゃんは部屋に荷物を置いた後も、鏡子さん家の中を案内されてるみたいで、家のあちこちから話し声が聞こえていた。

 

 俺はというと、ついて歩くわけにもいかず、居間から動けずにいた。

 

 

 

 ……数分後、鏡子さんに家の中の案内してもらった夏海ちゃんが居間に戻ってきた。

 

「夏海ちゃん、自分の家だと思ってくつろいでいいからね」

 

「鏡子さん、ありがとうございます」

 

「羽依里君、夏休みの間一緒に暮らすんだから、夏海ちゃんと仲良くね?」

 

「ええ。わかってます」

 

「それじゃ、私はもう少し用事があるから」

 

 え、鏡子さん行っちゃうの。

 

「……仲良くね?」

 

「は、はい……」

 

 俺の心中を察したのか、鏡子さんは意味深な笑顔を俺に向けた後、どこかへ出かけていった。

 

 そして、また二人で居間に残される。

 

「……」

 

「……」

 

「……て、テレビでもつけようか」

 

 沈黙に耐えれず、俺はテレビをつけてみる。

 

 

 テレビでは、子犬がボールと戯れる様子が映っていた。

 

「おお、激プリチーだね」

 

「そうですね」

 

 少しして、今度はニワトリがボールの上に乗ってきた。

 

「おお、激スリリングだね」

 

「そうですね」

 

 今度は猿が近づいてきた。

 

「激モンキーだね」

 

「そうですね」

 

 ……面白かったが、会話は相変わらず続かなかった。

 

 やがて政治家の討論番組が始まったので、テレビを消す。

 

 テレビを見ていた間も、夏海ちゃんの表情にはほとんど変化がない。まだ緊張してるんだろう。

 

 

「……」

 

「……」

 

再び訪れた沈黙の時。

 

 

……駄目だ。限界だ!

 

 

 

「……夏海ちゃん、かき氷食べたくない?」

 

「か、かき氷ですか?」

 

「近くにかき氷を売ってるお店があるんだけど」

 

「は、はぁ……」

 

「行こう!」

 

 半ば強引に誘って、駄菓子屋へ向かう。こうなったら、皆の力を借りるしかない。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「お?」

 

 駄菓子屋に着くと、昨日と同じように良一がベンチに座ってラムネを飲んでいた。

 

「なんだ、その子?」

 

「まさか……隠し子か?」

 

「違う。親戚の子だ」

 

 俺は夏海ちゃんに良一を紹介する。

 

「こいつは三谷良一。時々上半身裸になるが、そういう生き物だと思ってくれ」

 

「ええー……」

 

 あ、じりじり後退してる。ぶっちゃけ怖がってる。

 

「羽依里、もう少しマシな紹介してくれ……めちゃくちゃ引いてるじゃないか」

 

「だって、間違ってないだろ?」

 

「そうだけどよー」

 

「ほら、夏海ちゃんも自己紹介して。大丈夫。取って食われたりしないから」

 

「……岬 夏海です。三谷さん、よろしくお願いします」

 

「おう、よろしくな、夏海ちゃん!」

 

 そういえば良一、対応が自然だとは思ってたけど、確か妹がいるとか言ってたっけ。

 

 

「こんにちは。羽依里さん」

 

「あれ、見かけない子ねー?」

 

 その時、ちょうど店の中から藍と蒼が出てきたので、二人にも夏海ちゃんのことを紹介しておく。

 

「ああ、鏡子さんの親戚の子ね。今日来るって話は聞いてるわよ」

 

 なんで聞いてるんだ? 島の情報網恐るべし。

 

「わたしは空門藍。こっちが妹の蒼ちゃんです」

 

 そう言いながら藍は蒼の両肩を掴んで、ぐいっと真横に引っ張ってくる。

 

「あ、同じ顔」

 

「あたしと藍は双子なの。よろしくね。夏海ちゃん」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

「ちなみに、蒼は蒼穹の蒼よ」

 

 おいおい、いくらなんでも小学生にその字はわからないだろ……。

 

「はい。蒼さん」

 

 え、わかるの? 俺、天善に教えてもらわなかったら分からなかったんだけど。

 

「そうだ蒼、夏海ちゃんにかき氷頼めるか?」

 

「いいわよ。何味?」

 

「え? えーっと」

 

「あ、そっか。イチゴ、メロン、レモン、ブルーハワイ。どれにする?」

 

「えっと、それじゃレモンで」

 

「どれも同じ味だけどね」

 

「そ、そーなんですか?」

 

「なんか……久しぶりね。その反応」

 

 お約束のネタがスルーされることが多い昨今、夏海ちゃんの新鮮な反応に、蒼はどこか嬉しそうだ。

 

「そうそう。練乳かける?」

 

「え? レモンに?」

 

「なぁ、レモンに練乳ってありなのか?」

 

「レモン牛乳ってのがあるくらいだし、ありなんじゃない?」

 

「えっと……それじゃあ、お願いします」

 

 夏海ちゃん、冒険した。

 

「110万円よ」

 

「え」

 

「あ、俺が出すよ」

 

 ポケットから200円を渡す。

 

「はい。おつり90万円。ところで、羽依里は食べないの?」

 

「あ、俺はいいよ」

 

 慌てて出てきたから、ポケットに200円しか入って無かったとは言えない……。

 

「じゃあ、少し待っててね」

 

 しゃこしゃこと氷が削られる音が響く。そんな中、夏海ちゃんは棚に並んだ駄菓子を物珍しそうに見て回ってる。

 

「あの、この木の枝はなんですか?」

 

「ニッキの木です。食べられますよ」

 

「食べられるんだ……この紙も?」

 

「はい。ガムみたいに噛むお菓子です」

 

「この割り箸の先についてるのはなんですか?」

 

「水あめですね。その割り箸でよく練ってから食べるんです」

 

「へぇー……」

 

 藍が隣に立って相手をしてくれている。見たことない駄菓子を前に、夏海ちゃんの目がキラキラしている。

 

 二人とも子供相手には慣れてるだろうし、女の子同士の方が話しやすい部分もあるんだろう。正直助かった。

 

「はい。氷レモン、おまたせー」

 

「ありがとうございま……え?」

 

 蒼からレモン練乳を受け取って、その量に目を丸くしている。

 

「これで百円……?」

 

「あれ、少なかった?」

 

「いえ、逆です」

 

「なら良かった。溶けないうちに食べちゃって」

 

「はい。いただきます」

 

 かき氷をこぼさないようにゆっくりとベンチに戻ってくる。

 

 俺の隣に座って、太陽の光を受けてキラキラと輝くかき氷をスプーンストローですくって口に運ぶ。

 

「おいしいです!」

 

「氷が違うからな」

 

「そうなんですか?」

 

「良一、嘘言わないで。ただの水道水よ」

 

「でも、おいしいです」

 

 おお、初めて笑った気がする。

 

 その後もかき氷を食べながら、蒼や藍と色々な話をしていた。

 

 

 

「くーださーいなー」

 

 しばらくすると、がらがらとスーツケースを引きながら鴎が現れる。

 

「いらっしゃーい」

 

「かき氷ください」

 

「いいわよ。何味?」

 

「イチゴとメロン半分ずつで。あと練乳もお願いします」

 

「通な食べ方するわね。120万円よ」

 

「はい」

 

 笑顔で120円を渡している。さっきの夏海ちゃんと反応が違うせいか、蒼の表情が若干暗い。

 

「あと、ここに鳥白島まんじゅうって売ってます?」

 

「あるわよ」

 

「あるのか。ここ駄菓子屋だろ?」

 

「クッキーや最中もあるわよ」

 

「もはや和菓子屋だな……」

 

「それじゃ、鳥白島まんじゅうと最中、ひとつずつください」

 

「全部で900円よ」

 

「お土産買うってことは、もう帰るのか?」

 

「帰らないよ? 名物があるって聞いたから、食べてみたくなっただけ」

 

 そういう考えもあるのか……。

 

「なあ羽依里、あの美少女は誰だ?」

 

 良一がほとんど密着するくらいの距離まで近づいて耳打ちしてくる。暑苦しいからやめてほしい。

 

「鴎のことか?」

 

「知ってるのかよ! しかもファーストネーム!?」」

 

「昨日知り合ったんだ。島に観光に来てるみたいだぞ」

 

「天善ちゃん、スーツケースの女の子にベンチ譲ってあげて」

 

「だから良一だって言ってるだろ!」

 

 だが涙目で立ち上がる良一。主従関係ははっきりしているらしい。

 

「いいよいいよ。スーツケースに座ってるから」

 

「そういう時便利だな。そのスーツケース」

 

「でしょ。羨ましい?」

 

「いや、全然」

 

「……あれ?」

 

 スーツケースに腰掛けてかき氷を待っていた鴎が、俺の隣でかき氷を食べている夏海ちゃんに気づく。

 

「誰その子」

 

「うん? ああ、この子は……」

 

「……まさか、羽依里の隠し子!?」

 

「良一と同じことを言うなっ! 親戚の子だっ!」

 

 そのまま成り行きで、鴎に夏海ちゃんの紹介をする。

 

「私も昨日この島に来たの。同じ旅人だねえ。なっちゃん」

 

「な、なっちゃん……?」

 

「ありゃ、なつなつが良い?」

 

「なっちゃんでいいです……」

 

「私、久島鴎。よろしくね」

 

「よろしくお願いします。鴎さん」

 

「はい、かき氷おまたせー」

 

「わーい」

 

 イチゴの赤とメロンの緑。見た目はすごく鮮やか。まるでスイカのようだ。

 

 ……そのかき氷が溶けた時の事は想像したくないけど。

 

「二種類の味が楽しめるなんて、お得だよね」

 

「あー、味は同じだけどね」

 

「蒼さん、さっきも言ってましたけど、それって本当なんですか?」

 

 夏海ちゃんが当然の疑問を投げかける。俺だって半信半疑だ。

 

「本当よ。味は同じで、色と香料で違いを出してるだけ」

 

 夏海ちゃんは何とも言えない表情で自分の氷レモンと鴎の二色かき氷を見ている。

 

「なっちゃん、私の食べてみる?」

 

「え? 良いんですか?」

 

「うん、どうぞ」

 

「じゃあ、一口……」

 

 まず氷イチゴの部分、続けて氷メロンの部分を食べる。次に自分の氷レモンを食べる。

 

「むーー?」

 

 香料でごまかされてるせいか、首をかしげている。

 

「確かめたかったら、鼻摘んで食べてみるとか?」

 

「さ、さすがにそこまではしないです……」

 

 結局、その後も騒がしく皆でおしゃべりしていた。夏海ちゃんの緊張もだいぶほぐれたみたいだし、皆には本当に感謝だ。

 

 

 

 ……やがて夕暮れになり、俺達二人は見送られながら帰路につくことに。

 

「楽しかったです」

 

 屈託のない笑顔で笑ってくれる。

 

 初めて会った時は大人びて見えたけど、今だと年相応というか、逆に幼く見えるな。

 

「鷹原さん、知り合い多いんですね」

 

「うん。この島の人とはほとんど知り合いじゃないかな」

 

「すごいですね」

 

 俺にも話しかけてくれるようになったし、一歩前進だろうか。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 その後は一度家に帰って鏡子さんの許可をもらい、しろは食堂に出発する。

 

 急に俺達が仲良くなってたのを見て、鏡子さんも驚いていたみたいだけど。

 

 何か納得したような表情をした後、俺達を笑顔で送り出してくれた。

 

 

 

 

「着いた。この店だよ」

 

「え、ここですか?」

 

 表の看板を見た夏海ちゃんは、何とも言えない顔をする。

 

「しろは食堂……」

 

 インパクトのある墨文字だし、傍から見ると強面のおやじが経営する居酒屋か何かに見えるかもしれない。

 

「中は普通の食堂だから。安心していいよ」

 

「そうなんですか?」

 

「俺の彼女がやってるお店だからさ」

 

「え。鷹原さん彼女いるんですか?」

 

「い、いるし」

 

 何故か声が裏返ってしまった。

 

「と、とりあえず中に入ろう」

 

 ……急に気恥ずかしくなってしまった。それを誤魔化そうと、足早に店に入る。

 

 

 

「あ、いらっしゃい」

 

 カウンターの向こうで振り返ったしろはだが、すぐに客が一人多いことに気づく。

 

「あれ、その子は?」

 

「鏡子さんとこの親戚の子。今日から夏休みの間、一緒に暮らすことになったんだ」

 

「初めまして。岬 夏海です」

 

「はじめまして。鳴瀬しろはです」

 

 カウンター越しに、ペコペコとお辞儀を繰り返す二人。

 

 セルフサービスのお冷を用意しながら、その様子を眺める。

 

 なんとも微笑ましい光景だ。

 

 お辞儀の後、じーっとしろはの顔を見る夏海ちゃん。

 

「な、なに……?」

 

「……しろはさんが、鷹原さんの彼女さんですか?」

 

「うん、そう」

 

 笑顔で即答。めっちゃ嬉しい。

 

「……って、親戚の子に何話してるの?」

 

 その後、思いっきり睨まれた。

 

「いや、成り行きでさ……」

 

「……別に良いけど。本当のことだし」

 

 顔真っ赤になってますよ、しろはさん。

 

「……」

 

 いや、これって俺の顔も赤くなってるパターンだよな。

 

「と、とりあえず晩ごはんにしよう!」

 

 微妙な空気を打ち消して、俺と夏海ちゃんはメニュー表に目をやる。

 

「えーと……」

 

 夏海ちゃんはウエストポーチの中身を見ながら、なんだか迷っている。

 

「あ、食費は俺が出すから、好きな物注文していいよ」

 

「え? 悪いですよ」

 

「大丈夫。こう見えてバイトしてるから」

 

「じゃあ……コロッケ定食でお願いします」

 

「俺はかつ丼かな」

 

「わかった。少し待ってて」

 

 しろはが調理に取り掛かる。

 

 

 

 

 ……それから15分程で料理が出てきた。

 

 夏海ちゃんの前にはご飯、味噌汁、漬物、きゅうりの酢の物、メインのコロッケ。そして付け合わせに大量の千切りキャベツ。

 

 俺の前にはメインのかつ丼の他に漬物と味噌汁が並び、栄養面を考えてか野菜サラダもついていた。

 

「あとこれ、おまけ」

 

 更にアジの南蛮漬けが登場。

 

「これって昨日の?」

 

「うん。アジだけ少し残っちゃったから。南蛮漬けにしたの。おいしいよ」

 

「こうやってテーブルに並べられると、凄い量だな……」

 

「作りすぎちゃったかな……二人とも、大丈夫?」

 

「……たぶん食えるとは思うけど」

 

「が、頑張ります」

 

「うん。二人とも食べ盛りなんだから、これくらい食べないと。それじゃ、冷めないうちにめしあがれ」

 

「いただきまーす」

 

 さっそく揚げたてコロッケにかぶりついた夏海ちゃん。

 

「あつっ……」

 

 やっぱり熱かったみたいで、慌てて水を飲んでる。

 

「でも、おいしいです」

 

 コロッケからはサクサクといい音がしている。

 

「クラッカーを細かく砕いて、衣に混ぜてるの。サクサクでしょ」

 

「はい!」

 

「俺のカツもそうなのか?」

 

「ごめん、そっちは普通のパン粉だけ」

 

「そ、そうか……でもおいしいよ」

 

 スタンダードなかつ丼だけど、卵と出汁がしっかりとトンカツに絡んでうまい。刻まれたタマネギも甘くて良いアクセントになっている。

 

 続いてアジの南蛮漬けに手を伸ばす。 衣はサクッと香ばしく、アジの身はしっとり。 漬け込まれているので骨までまるごと食べられるし、野菜も良いアクセントになってる。

 

「サラダのドレッシングも自家製だよ」

 

 シソを使った和風ドレッシングっぽい。優しい味だ。

 

 

 

 

「ふう、ごちそうさま」

 

 ゆっくりと時間をかけて、昨日に引き続き手料理を堪能した。

 

「おいしかったです。しろはさん!」

 

 夏海ちゃんも満足してくれたようだ。

 

「お粗末さまでした」

 

 なんだかんだで食べられてしまうものだ。もちろん、美味しかったのもあるけど。

 

「羽依里、明日はどうするの?」

 

「明日? 特に予定ないけど」

 

「それなら、夏海ちゃんに島の案内をしてあげたら?」

 

「それもいいかも。夏海ちゃん、どうかな?」

 

「見て回りたいです。気になるところ、ありますし」

 

「気になるところ?」

 

「灯台とか」

 

 あー、あの灯台はは遠くからでも目立つし、気になるだろうなぁ。

 

「そうだ。しろはも一緒に来ないか?」

 

「ごめん。私は明日用事があって……」

 

「いや、用事があるならしょうがないよ」

 

「それじゃ夏海ちゃん、明日は島を案内するよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

明日を楽しみにしながら、俺達は食堂を後にした。

 

 

ちなみに加藤家に帰宅すると、鏡子さんがちょうど一人で夕飯のカップうどんを食べているところだった。

 

その様子を見た夏海ちゃんは、何かものすごいショックを受けたような顔をしていた……。

 

 

 

第二話・完

 

 




第二話・あとがき

皆様おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。

第二話の序盤は前回再会できていなかった紬や静久といったメンバーと再会しました。

午後からはオリキャラの夏海ちゃんを登場させてもらいました。ポジション的にはやっぱりうみちゃん……?な感じです。

台詞を書いていても、どうしてもうみちゃんボイスで脳内再生されてしまいます。

後半は夏海ちゃんと島の仲間達との交流を書きました。夏海ちゃんが第二の羽依里君のような立場で島の皆と交流していく感じは、書いていて楽しかったです。


■今回の紛れ込みネタ

激スリリング~
AIRより。観鈴と往人さんが一緒にテレビを見ているシーンです。確か原作のみでアニメにはなかったシーンなので、分からない人も多かったのではないでしょうか。
夏海ちゃんが全部同じセリフで返してる辺り、余程緊張していたんでしょう。

再会のお祝いが缶コーヒー一本~
kanonより。物語冒頭に名雪が祐一との再会を祝って缶コーヒーを渡してました。

ブラック黒田の缶コーヒー
ブラック黒田とアンラッキー凶平。わかる人はわかるAIRのネタです。AIR編でそらの名前を決める時、晴子さんが出した案の一つです。

「俺は登り始める。長い坂道を……」
ネタと言えるか微妙な所ですが、CLANNADですね。

以上になります。いくつお気づきになられたでしょうか。

感想など頂けましたら、泣いて喜びます。
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