Summer Pockets #2   作:トミー@サマポケ

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第二十話 8月13日(前編)

 

 

 

 

 

「羽依里さーん! 朝ですよー!」

 

 ……朝。

 

 今日も夏海ちゃんの声で目が覚める。

 

「夏海ちゃん、おはよう」

 

「おはようございます」

 

 ふすまを半分だけ開けて、そこから顔を覗かせていた夏海ちゃんに、朝の挨拶をする。

 

「居間で待ってますから、準備しておいてくださいね」

 

「うん」

 

 ぱたん、とふすまが閉じられ、静寂が訪れる。

 

「いつもと変わらない朝を迎えられるって、素晴らしいね」

 

 俺は噛みしめる様にそう口に出してから、手早く布団をたたんで、着替えを済ませる。

 

「……あれ? 羽依里さん?」

 

 なんとなく違和感は感じていたけど、呼び方が変わっていた。

 

 夏海ちゃん、昨日までは俺のこと『鷹原さん』って呼んでいた気がするけど。

 

「うーん?」

 

 毎日顔を合わせてるのに、いつまでも苗字ってのもあれだし。夏海ちゃんとの距離が縮まったと思えば、それでいいか。

 

 俺は特に深く考えることもなく、顔を洗おうと洗面所へ足を運んだ。

 

 

 

 身支度を整えた後、居間で夏海ちゃんと合流して、ラジオ体操へと向かう。

 

「夏海ちゃん、昨日の夜は遅かったんだね」

 

 その道すがら、昨日の話をしてみた。

 

「ごめんなさい。昨日はしろはさんと盛り上がってしまいまして」

 

 チャーハンの極意だっけ。しろはも料理のことになると、あれで結構熱くなるからな。

 

「ううん、いいんだよ。俺は料理でしろはと熱く語るなんてことはできないからね」

 

「あれ、羽依里さんもチャーハン作れるんですよね?」

 

「うん、でも俺は時々教えてもらってるだけだから。直接指導できるレベルにないとも言われたし」

 

「そ、そうなんですね」

 

「だから、しろはと料理トークしてくれる夏海ちゃんには感謝してるよ」

 

「えへへ、私もとても勉強になってますから!」

 

 夏海ちゃんはすごく楽しそうに話してくれていた。

 

 帰宅が遅くなったことを鏡子さんから咎められている様子もなかったし、問題なかったんだろう。

 

「そういえば、紬からもらったぬいぐるみは?」

 

「はい! しっかりとアリクイさんの隣に置いてます!」

 

 アリクイとクマのぬいぐるみ、オルゴール、桜貝の入った小瓶……夏海ちゃんの部屋も、段々とカオスになっていくなぁ。

 

「あ、もしかして、羽依里さんも欲しかったんじゃないですか?」

 

「え、ぬいぐるみ?」

 

「はい!」

 

 悪戯っぽく笑っていた。心なしか、最近本当に距離が縮まってきている気がする。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「おはよう、なっちゃん!」

 

「鴎さん、おはようございます!」

 

「パイリ君、おはよう」

 

 神社に到着すると、いつものメンバーに加えて紬や静久、鴎の姿があった。今日は大集合だった。

 

「タカハラさん、おはようございます!」

 

 そして、紬の髪型がいつもと違っていた。ツインテールじゃない。

 

「おはよう紬。そのリボン、使ってくれたんだね」

 

「はい! シズクと特訓しました!」

 

 まだ慣れていないのか、ちょっと横にずれてる気がしないでもないけど、立派なポニーテールが結われていた。

 

「紬、似合ってるよ」

 

「む、むぎゅ……ありがとうございます」

 

 視線を泳がせながら、耳まで赤くなってしまった。

 

「紬、頑張ったのよ。半分徹夜よ」

 

「はい。もう目もジューケツしちゃってます」

 

 確かに顔や耳だけじゃなく、目まで赤かった。

 

「あれ、そう言えば」

 

 今日の紬は珍しく制服姿だった。見慣れた制服の上に、サマーセーターを着ている。

 

「紬が制服なのは珍しいね」

 

 ちなみに、紬の隣に立つ静久はウシの着ぐるみ姿だったりする。

 

「その、パジャマで来てしまうと、せっかくのリボンが見えませんので……」

 

 ああ、そう言えばそうか。ネコの着ぐるみだと、頭もすっぽり被っちゃうし。

 

 

「おおー、ツムツム髪型変えたんだー。綺麗なリボンだねー」

 

 その時、さっきまで夏海ちゃんと話をしていた鴎がこっちにやってきた。

 

「はい! 昨日、タカハラさんとシズクからいただきました!」

 

「羽依里からもらったんだー。いいなー」

 

 羨ましがる鴎の台詞からは、静久の存在が消されていた。

 

 

「……そういえば羽依里、昨日ジャイフルにいたでしょ?」

 

 その時、蒼がこっそりと耳打ちしてきた。

 

「え、なんで知ってるんだ?」

 

「うちのおかーさんが言ってたのよ。パートのお昼休憩でジャイフルに入ったら、ちょうど羽依里たちの姿が見えたんだって」

 

 そういえば、蒼の母親は本土でパートしてると聞いた記憶がある。

 

 でも、俺は空門姉妹の母親の顔なんて覚えちゃいない。というか、面と向かって話したこともほとんどないはずだけど。

 

 なんで俺の顔は覚えられてるんだろう。

 

「ちょっと待って。これってまた噂が独り歩きする流れじゃ?」

 

「大丈夫ですよ。おかーさんには誰にも言わないよう、きつーく言っておきましたから」

 

 すかさず、反対側の耳に藍が耳打ちしてきた。

 

「二人とも、信じてるからな……」

 

「噂が広がる恐ろしさは身に染みてるから、きっと大丈夫よ。たぶん。恐らく。メイビー」

 

 後半になればなるほど説得力に欠けていたけど、ここは二人を信じるしかなかった。

 

 

「お前ら―! 準備は良いかー? 今日もラジオ体操を始めるぞー!」

 

 そしてラジオ体操大好きさんがやってきて、今日もラジオ体操が始まる。

 

 

「第二の体操! 横隔膜の振動だ! うるああああぁぁぁー!」

 

「うるああああぁぁぁーーーー!」

 

 ラジオ体操大好きさんの指示に合わせ、皆で大きな声を出して横隔膜を動かす。

 

「うけーーーー!」

 

「むぎゅーーー!」

 

「おっぱーーい!」

 

 今日はいろいろな意味でにぎやかだった。

 

「ねえ羽依里、この体操って本当に横隔膜の運動になってるの?」

 

「さあ。ほとんど実感らしい実感はないけど」

 

 

「第四の体操! 三半規管の鍛錬! ぐるぐるぐる~!」

 

 ラジオ体操大好きさんが頭を振り回す。

 

「ぐるぐるぐる~!」

 

 俺たちもそれにならって頭を振り回す。

 

「うう、気持ち悪い……」

 

 俺たちはだいぶ慣れてきたけど、鴎は駄目のようだった。左右にふらふらと揺れている。終わった後は、まさに千鳥足だった。鴎だけど。

 

 

「さあ、今日のスタンプはこっちだぞー」

 

 ラジオ体操終了後、いつものようにスタンプとログボを受け取る。

 

「お、今日はどろり濃厚だぜ」

 

「え、何だって?」

 

 俺の前に並んでいた良一が、ログボを受け取るなり嬉しそうにそう言っていた。

 

「これ、朝食代わりになるんだよなー」

 

 俺と夏海ちゃんは、頭にクエスチョンマークを浮かべながら、ログボを受け取る。

 

「なんだこれ?」

 

 手渡されたのは、パックジュースだった。

 

「どろり濃厚、ピーチ味……?」

 

 ピンク色のパッケージに、でかでかと桃が描かれていた。その見た目もさることながら、その重量に驚く。見た目の割に、ずっしりと重い。

 

「うー、これではチャーハンにできません……せっかくしろはさんに、チャーハンの極意を教わったというのに」

 

 隣では、パックジュースを受け取った夏海ちゃんが頭を抱えながら、ぶつぶつと何か言っていた。あんかけ桃チャーハンとかいう単語が聞こえたような気もするけど、聞かなかったことにしよう。

 

 

「あー、どろり濃厚、ねー……」

 

 空門姉妹が全く同じ動きで、手のひらでパックジュースを弄んでいた。

 

 二人とも、俺たちより先にログボを受け取っていたはずだけど。

 

「蒼も藍も、そのジュース飲まないのか?」

 

 良い感じに冷えているし、他の皆はその場で飲んでいる。

 

「ちょっとウマトラがねー」

 

「トラウマな」

 

「そうそう、トラウマがねー」

 

 なんだろう。腹壊したりしたんだろうか。

 

「駄菓子屋に一度だけ入荷してね。試しに飲んでみたんだけど、その……」

 

「その?」

 

「全然吸えなくて、力任せにパックを握ったら……」

 

「握ったら……?」

 

「見事に吹き出ちゃって、顔から髪からまっピンクで、ベタベタのドロドロに」

 

「うあー、それは確かにトラウマものだな」

 

「でしょ? というわけで紬、あたしのログボあげるわ」

 

「むぎゅ? 良いんですか?」

 

「おっぱいさん、私のログボあげます」

 

「あら、いいの?」

 

 結局、二人は紬と静久にパックジュースをあげていた。

 

 ジュースをもらった二人が適当な場所に座ったのを見て、俺たちもその隣に座らせてもらい、一緒にジュースを飲むことにした。

 

 ストローを刺して、まず一口。

 

「……あれ?」

 

 いくら吸っても口の中に入って来なかった。液体のはずなのに、硬い。

 

「んんんんーー!」

 

 隣の夏海ちゃんが顔を真っ赤にしながら頑張ってるんだけど、全く吸えないみたいだ。

 

「これは普通の肺活量じゃ吸えないからな。パックをつぶしながら押し出すように飲むんだ」

 

 通りかかった良一がそう教えてくれた。けど……。

 

「なんの、元水泳部の肺活量を舐めるなよ」

 

 俺はそう言い放ち、渾身の力を込めてジュースを吸い込む。

 

「お」

 

 すると、パックの中身が口の中に入ってきた。

 

 ……ものすごく、どろっとしていた。

 

 そして濃い。甘い。喉が渇く。

 

 飲んで喉が渇く飲み物ってどうなんだろうか。もはや飲み物の意味を成してない気もする。

 

「美味しいですけど……喉乾きませんか?」

 

 夏海ちゃんは良一に言われたように、パックをつぶしながら少しずつ飲んでいた。

 

 それでも俺と同じ感想のようだった。

 

 

「相変わらずこれは……すごいトレーニングになるな」

 

 パックジュースを飲みながら、息も絶え絶えに天善が歩いてきた。肺活量のトレーニングにでもなるんだろうか。

 

「そういえば天善、バイクの修理代なんだけど」

 

「そんなもの気にするな。ありあわせの部品で何とか修理できそうだしな」

 

 天善と修理代金の話をしようとしたけど、どうやら受け取ってもらえそうになかった。

 

「もう数日すれば修理も終わる。もう少しだけ待っていてくれ」

 

「ああ、ありがとうな」

 

 今度、何かしら現金以外のお礼を考えておこう。

 

 

 

「むぎぎぎぎぎ」

 

 声がした方を見ると、夏海ちゃんの隣で紬と静久がパックジュースと格闘していた。やっぱり二人も、いくら吸ってもジュースが口の中にやってこないらしい。紬のポニーテールもふるふると揺れている。

 

「なあ紬、一回で良いから『がお』って言ってみてくれないか?」

 

「むぎゅ? がお、ですか?」

 

 金髪ポニーテールの紬に、なんでかそんなお願いをしてしまっていた。

 

「ちょっとパイリ君、紬に何を言わせてるの」

 

「ごめん、ちょっと出来心で」

 

 なぜか静久に怒られてしまった。

 

「それより二人とも、わざわざ吸わなくても良一が教えてくれたみたいにパックをつぶしながら飲めば……」

 

「紬、これはクーパー靭帯の特訓になるのよ! 頑張って吸うの!」

 

「はい! 頑張ります! むぎぎぎぎぎぎ」

 

 よくわからないけど、特訓中のようだった。これは俺が口を挟んで良い問題じゃなさそうだ。

 

 その後は黙ってジュースを飲んだ。

 

 ちなみに鴎は、俺たちが苦戦しているのを見て、パックジュースは持って帰って、冷凍庫で凍らせることにしたらしい。

 

 あれを凍らせたら変わったシャーベットのようになるだろう。どういう食感になるのか、ちょっと気になった。

 

 

 

 

 

「羽依里さん、そろそろ帰りませんか?」

 

 ジュースを飲み終わって、横隔膜の疲れの余韻に浸っていると、先にジュースを飲み終わっていた夏海ちゃんから声をかけられた。

 

「そうだね。そろそろ帰ろうか」

 

 飲み干したパックを用意されていたゴミ袋に入れた後、皆にあいさつを済ませて、神社を後にした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「ところで夏海ちゃん、朝ごはんどうしようか?」

 

 加藤家の居間で、俺は夏海ちゃんにそう尋ねていた。

 

「うーん、実は私も悩んでるんです。さっきのジュース、なんだかお腹にずっしり来てまして」

 

「やっぱり? 俺も同じなんだ」

 

 俺も夏海ちゃんと同じ気持ちだった。今は全然お腹が空いていなかった。

 

 どろり濃厚は飲み物とは言い難かったけど、朝ごはん代わりにはなったかもしれない。

 

「この状況だとチャーハンを作っても、美味しく食べられないかもしれませんね」

 

 どうやら、朝ごはんにチャーハン以外の選択肢はないらしい。

 

「鏡子さんもいないみたいだしさ、今日は朝ごはんは抜いて、先に宿題をしない?」

 

「そうですね。先に片づけちゃいましょう!」

 

 そう結論づけて、お互いの部屋に勉強道具を取りに向かった。

 

 

 

 

 その後、ノートと参考書を広げ、夏海ちゃんと向かい合って宿題をした。

 

「羽依里さん、ちょっと質問いいですか?」

 

「え、うん。いいよ」

 

「算数なんですけど……」

 

 ……この呼ばれ方、どうもまだ慣れないな。

 

 

 

 

 その宿題が終わったころ、結局小腹が空いてきた。所詮はジュースだし、消化も早いんだろう。

 

「夏海ちゃん、また変わった出店が出てるかもしれないし、港に行ってみない?」

 

「そうですね、行きましょう!」

 

 夏海ちゃんも同じようにお腹が空いていたみたいで、勉強道具をリュックにしまい込みながら、了承してくれた。

 

 適当に財布をポケットに入れて、二人で港へと向かう。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 港に着くと、昨日とはまた違う店が出ていた。

 

「えーっと、なんだこれ」

 

 近づいてみると、頭上に掲げられた看板には『えびすくい』の文字。

 

「お、いらっしゃい」

 

 昨日と同じおじさんが、同じようにウェットスーツを着て座っていた。おじさんの奥に、黒い板のようなものが見えるけど、あれは何だろう。

 

「あの、えびすくいって、あの海老ですか?」

 

 夏海ちゃんがおずおずと聞いていた。

 

「ああ、魚の群れを網ですくうと、小さな海老が大量に獲れることがあるんだ。漁港に持って行くわけにもいかないし、こうして売っているわけだ」

 

 例によってビニールプールが置かれていて、浅く海水が張ってある。よく見ると、小さな海老がうごめいていた。

 

「で、お二人さん、挑戦するかい? 一回100円だ」

 

 おじさんが意味深な笑顔を向けてきた。昨日のリベンジを期待されているんだろうか。

 

 俺はもう一度ビニールプールを覗き込む。本当に小さな海老だし、昨日のサザエよりは勝算があるかもしれない。

 

「それじゃ、二人分お願します」

 

「まいどあり」

 

 俺が200円を渡すと、2つのポイとお椀が渡された。また何の変哲もない、普通のポイだ。

 

 俺は左手にお椀、右手にポイを持って海老の群れに向かい合う。海老のインパクトこそあるけど、基本は金魚すくいと同じじゃないだろうか。

 

「それじゃ、私から行きます」

 

 最初に夏海ちゃんが挑戦する。ゆっくりとポイを水中に沈め、一匹だけ離れていた海老に狙いを定めて、気づかれないように背後から近づける。

 

「あ」

 

 次の瞬間、身の危険を感じた海老は勢いよく後ろに向かって跳んだ。結局、その勢いで夏海ちゃんのポイは破られてしまった。

 

「あう……難しいですよ」

 

 あの海老、なかなかのテクニシャンだ。

 

「はっはっは。海老は危険を感じたら後ろに逃げるんだ。今のポイの位置だと、どうぞ破ってくださいって言ってるようなもんだぞ」

 

「そうなんですね。海老は後ろに逃げるとか、知りませんでした……」

 

「これも、島の子なら5匹は持って行くぞ」

 

 相変わらず、この島の子供たちはすごすぎる。

 

「よし、夏海ちゃん、仇は取るからね」

 

「はい! 羽依里さん、頑張ってください!」

 

 夏海ちゃんの声援を受けて、今度は俺が挑戦する。

 

「さて、どいつを狙うかな……」

 

 俺は獲物を吟味しながら、ポイを水中へ沈める。

 

 次の瞬間、ポイの周囲を泳いでいた海老たちが一斉に俺のポイの上に乗ってきた。

 

「え、なんで?」

 

 よくわからないけど、俺のポイはあっという間に無数の海老でいっぱいになった。

 

「お? にいちゃん、やるねえ」

 

「おっとっと、ゆっくり、ゆっくり上げないと」

 

 俺はそのまま、できるだけゆっくりとポイを持ち上げる。上に乗った海老たちは特に暴れる事もなく、左手に持ったお椀へとすくわれた。

 

 どういうことだろう。夏海ちゃんの時とはえらい違いだ。

 

 もう一度……とポイを沈めると、また同じように大量の海老が、自ら乗ってくる。

 

 それを慎重にすくって、お椀に入れる。

 

「羽依里さん、すごいです!」

 

 なんだろう。ものすごく簡単だ。どうなってるんだろう。

 

 更に3回目というところで、さすがにポイが破れてしまった。

 

「あちゃー」

 

 それでも、俺のお椀の中には、大量の海老でひしめき合っていた。手に持っているのが怖いくらいだった。

 

「すごいな。にいちゃんの方は、海老の好きな匂いでも出してるんじゃないのか?」

 

 え、それはそれで嫌だ。

 

 というか、ビニールプールに残った海老のほとんどが俺の方に群がってきていた。やっぱり、何か匂いが出てるんだろうか。

 

 お椀の中の海老たちも、なんだか幸せそうな顔をしているようにも見える。こいつら、見ようによっては結構かわいいじゃないか。

 

 ひときわ大きな一匹の海老が目についた。よし、お前の名前はピエールだ。

 

 夏の間だけ、家で飼ってやるのも良いかもしれない。

 

「それじゃ、貸してみな」

 

 おじさんが笑顔で手を出してきたので、反射的に海老の入ったお椀を渡す。

 

「早速調理してやるよ」

 

「え?」

 

 次の瞬間、おじさんはお椀に入った生きたままの海老たちを一掴みしながら後ろを向くと、そのまま黒い板に向かって投げ放つ。

 

「うわああああああ! ピエールーー!」

 

 ジュジューという良い音がして、海老たちが香ばしく焼かれる。

 

「よいしょっと」

 

 一瞬逃げようとした海老たちの上に、容赦なく重い蓋がされた。

 

 もしかしなくても、あの黒い板は熱せられた鉄板だったみたいだ。

 

「あわわわわ」

 

 あまりの光景に、夏海ちゃんも言葉を失っている。

 

「ほいよ。熱いから気をつけな」

 

 やがて海老は良い感じに焼けたようで、軽く塩を振った後、二人分のカップに分けてから手渡された。

 

 

 

「……ピエールエビ、美味しいですね」

 

 夏海ちゃん、オマールエビみたいに言わないで。

 

「これが命を戴くということか……」

 

 俺たちは命を噛みしめながら帰宅した。ピエール、とっても美味しかったよ。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 海老のおかげでお腹も落ち着いたので、加藤家に帰宅した後は、セミの声を遠くに聞きながら、夏海ちゃんと居間で高校野球を見ていた。

 

 なんだろう、これはこれで夏休みって感じだ。

 

「あー、ここで打てれば同点だったのにー」

 

 夏海ちゃんは相変わらず熱中している。やっぱり野球好きなのかな。

 

「ごめんくださーい」

 

 ちょうど攻守交替のタイミングで、玄関から声がした。

 

「あれ、誰だろう?」

 

 二人で玄関に出てみると、のみきがいた。

 

「あれ、のみき?」

 

 もしかして、この間の事故のことで何かしら問題でもあったんだろうか。

 

「ああ、夏海ちゃんも一緒か。ちょうど良かった」

 

 おっかなびっくりしている俺とは裏腹に、のみきは笑顔だった。

 

「え、ちょうど良いって?」

 

「今日の午後から、水鉄砲大会を開催しようと思ってな。参加者を募っていたんだ」

 

「水鉄砲大会?」

 

「今日のイベントだ。二人も参加しないか?」

 

「やってみたいです!」

 

 夏海ちゃんは目を輝かせて、乗り気だった。こうなると俺も断る理由がない。

 

「面白そうだし、参加するよ」

 

「そうか。色々と賞品も出るし、楽しんでくれ」

 

「ところで、場所はどこでやるんだ? 水がある場所っていうと、浜辺か?」

 

「いや、あそこだと隠れる場所がないからな。ため池で開催しようと思う」

 

 確かにため池だと、周辺の草むらとか木陰とか、隠れる場所がいっぱいありそうだった。

 

「どういうルールで遊ぶんだ?」

 

「それぞれ、体に的をつけてもらってな。それを狙って水鉄砲を撃ち合うんだ」

 

 ため池という場所柄、サバゲ―要素も強そうだ。これは燃える。

 

「こちらでも水鉄砲は用意するが、自前で何か道具を用意してもらっても構わない。基本的に相手の的を濡らすことができれば、手で触れても良いルールだ」

 

 なるほど、変わった道具を用意してくる奴もいるかもしれないな。

 

 でも、俺たちは水鉄砲を自作するようなスキルはないし、向こうでのみきが用意してくれたものを借りる他なさそうだ。

 

「詳しいルールはもう一度、向こうで説明する。それより、ため池には濡れても良い格好で来るようにな」

 

「え、どうして?」

 

「水鉄砲で撃ち合うんだぞ? 無傷で優勝する自信でもない限り、最低でも服の下に水着くらいは着ておけ」

 

 確かに、下着まで濡れてしまったら気持ち悪いなんてもんじゃない。

 

「わかった。お昼を食べたら、ため池に行くよ」

 

「ああ、13時には始めるから、それまでに来るようにな」

 

 そこまで話すと、のみきは去っていった。

 

 

 

「水鉄砲大会か……あまり聞いたことないイベントだけど、楽しそうだね」

 

「はい! 楽しみです!」

 

 夏海ちゃんと午後の予定を楽しみにしながら、お昼はカップのたぬきうどんを食べた。

 

 天かすがどっさり入ったうどんで、一見ボリューミーだったけど、所詮は天かす。文字通り狸に化かされたようなうどんだった。さすが狸。陰湿すぎる。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 昼食を済ませた後、俺たちはそれぞれ着替えを済ませて、ため池へと向かった。

 

 俺は上に濡れてもいいような適当なTシャツを着て、下は水着をはいた。動きやすいし、これでいいだろう。

 

 夏海ちゃんはというと、さすがに水着だけだと恥ずかしいのか、鏡子さんの古いTシャツを借りて、その上に着ていた。

 

 だぶっとしているので動きやすそうだけど、なんだろう、妙な色気を感じる。

 

 

「あ、二人も来たのね」

 

「待っていたぞ」

 

 良一、天善、しろは、蒼、藍、紬、静久、のみきに鴎。

 

 ため池のダムの上には、いつものメンバーが集まっていた。

 

「すまない。もう少し準備に時間がかかるから、先に水鉄砲を選んでいてくれ」

 

 のみきはポリタンクに入った水を運んでいた。

 

「あれ、その水は?」

 

「これか? これは水鉄砲の予備の水だ。詳しくはルール説明の時に話すさ」

 

 そう言うのみきは、スクール水着の上にTシャツを着ている。

 

 周囲を見渡してみると、女性陣は皆、水着の上にTシャツを着ていた。考えることは皆同じらしい。

 

 そして、そのTシャツは色こそ違うものの、皆同じデザインだった。

 

「鳥白島Tシャツ……?」

 

 大きな船のようなものが描かれていて、その中央に大きく『鳥白島』と書かれていた。

 

「どうしたの羽依里、じろじろ見て」

 

 俺の視線に気づいたのか、蒼たちと水鉄砲の品定めをしていたしろはが、振り返って声をかけてきた。

 

「いや、そのTシャツが気になってさ」

 

「のみきからもらったの。役所で余ってたから、使ってくれって」

 

 シャツの端っこを摘みながら、しろはがそう言う。

 

 まぁ、女性は服の準備とか大変だろうし、それを考慮してのみきが用意したんだろう。

 

「夏海ちゃんにも用意してあげたかったんだが、その、サイズがなくてな」

 

 今度は何か青い紙の束のようなものを用意しながら、のみきがそう付け加えてきた。

 

「いえ、気にしないでください!」

 

 夏海ちゃんもいつの間にか、紬や鴎と一緒に水鉄砲選びに参加していた。俺も選ばないと。

 

 

 

 

「よし皆、ルール説明をするから、皆集まってくれ」

 

 全員が水鉄砲を選び終わった頃、のみきが集合をかける。

 

 そののみきを中心に、俺たちは円を作って集まる。

 

「今日の水鉄砲大会はバトルロワイヤル方式。つまり、最後まで生き残った一人が優勝だ」

 

「一発でも打たれたら終了なのか?」

 

「いや、判定にはこの紙を使う」

 

 のみきがそう言いながら取り出したのは、先程用意していた青い紙の束だった。

 

「この紙は特別な紙でな。普段は厚紙程度の強度があるんだが、水に濡れるとその部分が赤色に変わり、非常に破けやすくなるんだ」

 

 のみきが足元のポリタンクから少量の水を出して左手を濡らし、右手に持っていた紙に触れる。

 

 すると、その紙は赤色に変色し、すぐに破れてしまった。

 

「皆には、この紙を身体の前と後ろに一枚ずつ張り付けてもらう。その紙が両方破れたら失格だ。すぐさま武装解除して、この場所で大会終了まで待っていてもらう」

 

 この場所というのは、このコンクリートで舗装されたダムのことだろう。ここなら見晴らしは良いし、セーフティーゾーンとして最適かもしれない。

 

「ちなみに、この紙を濡らして破く事ができれば、攻撃手段は水鉄砲でなくてもいい。自信があるのならば、濡らした手で相手に直接触れて紙を濡らしてもらっても構わない」

 

 そう説明しながら、のみきは皆にその紙を配る。

 

 水鉄砲じゃなくても、方法は何でもいいわけだ。まあ、遠距離から攻撃できる水鉄砲が一番安全だろうけど。

 

「後、皆が持っている水鉄砲は種類こそ違うが、公平を期すために中に入る水の量は同じにしてある。予備の水はこのポリタンクに入れて、ここに置いておくから、水切れを起こした場合はここまで戻って補充するように」

 

 のみきは先程手を濡らすのに使ったポリタンクを指差した。

 

「そしてルールとして、水を補充をしている者を見つけても攻撃してはならない。補充し終わった後ならいいがな」

 

 確かに、ここは見晴らしも良いし、水を補給していたら良い的だろう。

 

「そしてもう一つ。所持者が失格となって放置された水鉄砲は、他の者が使っても構わない」

 

「へえ、良いのか」

 

「ああ。水鉄砲自体が不要なら、タンクから水を抜き取るだけでもいいぞ」

 

 なるほど、勝者は敗者の水鉄砲を使うことができるわけだ。これはこれで面白い。 

 

「それと個人戦ではあるが、チームを組んでもらっても構わない。だが、最後に生き残るのは一人だけだ。一人だけだからな」

 

 のみきは笑顔でそう念を押していた。なぜか怖い。

 

「……のみきさんが怖いんだけど」

 

 ライフル型の水鉄砲を手にしている鴎が、俺に耳打ちしてきた。

 

「のみきは水鉄砲のことになると性格変わるからな……」

 

「ところでのみきさん、私ってスーツケースって使っていいの?」

 

「ああ。好きに使ってもらって構わない」

 

「ありがとう。戦術の幅が広がるよー」

 

 盾にしたりでもするんだろうか。でもあのスーツケース持ってたら機動力はめちゃくちゃ下がるだろうし、プラマイゼロだろう。

 

「なあのみき、今日も優勝賞品はあるんだろ?」

 

 その時、良一が一番気になるところをさらっと聞いてくれた。相変わらず頼もしい。

 

「ああ。一応参加賞も用意してあるし、優勝賞品はしろは食堂全面協力による、お食事券500円分だぞ」

 

「お食事券!?」

 

 しろは食堂のメニューはほとんど600円前後で食べられるんだけど、さらに500円引きは嬉しい。

 

 そしてお食事券とか言われると、ものすごく豪華な気がする。

 

「しろは、いいのか?」

 

「うん。普段から皆にはお世話になっているし、たまにはお返ししないと」

 

 さすがしろはだ。その気配りに感動してしまう。

 

「……それに、私が優勝すれば、払わなくて済むし」

 

 ……あれ、今何か本音が聞こえたような。

 

「また副賞として、パイリ君とのデートの権利をつけましょ」

 

「そですね! ナツミさん、今度こそ頑張ってください!」

 

「ふえ!? なんで私なんですか!?」

 

 また何か勝手に言われてる気がするけど、もういいや。気にしないでおこう。

 

 ちなみに、紬はいつものツインテールに戻っていた。さすがに水鉄砲大会に新しいリボンはつけてこないよな。

 

「ルール説明は以上だ。15分後に花火を打ち上げるから、それがゲーム開始の合図だ」

 

 そう言い残し、のみきは森の中へ溶けるように消えていった。

 

 なんだろう。のみきがものすごく本気に見えるんだけど。

 

 

 

「……なぁ羽依里、ちょっといいか」

 

 装備の最終確認をしていると、良一と天善から声をかけられた。

 

 良一は見慣れた、いつもの格好だった。野郎にしてみれば、水に濡れるなんて大した問題じゃないのかもしれない。

 

「天善もその格好でいいのか?」

 

 天善もいつもの、卓球のユニフォーム姿だった。

 

「ああ、これなら濡れても構わないからな」

 

 構わないんだろうか。まぁ、本人が言うんなら良いんだろうけど。

 

「それで二人とも、どうした?」

 

「女連中はチームを組んでいるみたいだし、俺たちも組まないか?」

 

 良一が親指で指し示す先では、鴎や空門姉妹を中心に勧誘が始まっていた。のみきはああ言っていたけど、やっぱりチームを組んだ方がやりやすいよな。

 

 そして皆、思い思いの水鉄砲を持っている。ここから見えるだけでも、静久はバズーカのような巨大な水鉄砲を持っているし、藍はマシンガンタイプ、紬はパリングルス水鉄砲と、十人十色だった。

 

「せっかくだし、男は男同士で組んで戦おうぜ」

 

 そう言う良一は二丁拳銃のように二つの水鉄砲を持っていた。

 

「ああ、目にもの見せてやろう」

 

 天善は自前で用意したんだろうか、ラケット型の水鉄砲だった。どうやって撃つんだろう。

 

 ちなみに俺が選んだのは一般的な両手持ちの、中距離タイプの水鉄砲だ。

 

「よし、やってやろうぜ! いくぞー!」

 

「おーー!」

 

 野郎三人で拳を突き合わせていた時、どこか遠くで花火が炸裂する音がした。こうして水鉄砲大会が始まった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 花火の音がした直後から、ダム周辺には俺たちだけを残し、誰もいなくなっていた。恐らく、左右どちらかの森に入っていったんだろう。

 

 俺は大会会場となっている、ため池周辺を改めて見渡す。

 

 目の前に広がるのは、失格者のセーフティーゾーンを兼ねたダム。障害物らしい障害物もなく、見晴らしが良い。

 

 そんなダムの先端、ため池の近くに水補給用のポリタンクが置いてある。

 

 その先に広がるため池は、ここしばらくまともな雨が降っていないせいか、だいぶ水が減っていた。岸に近い所は特に水が少ない。これならもし、一番背が低い夏海ちゃんが落ちたとしても、水は膝上くらいまでしかなさそうだ。

 

 そして、他の皆が潜んでいるであろう左右の森に視線を送る。ため池をぐるっと囲むように広がる森には、隠れる場所がたくさんありそうだ。恐らくここが主戦場になるだろう。

 

 

「さて羽依里、どう動く?」

 

「そうだな。まずは右側から森に入ろうぜ」

 

「お、確か、蒼たちもそっち側から森に入っていったよな。先制攻撃を仕掛けるのか」

 

 俺の意図を察したのか、良一がほくそ笑む。

 

「まあな」

 

「羽依里も、俺たちのやり方がわかってきたじゃないか」

 

 良一たちのやり方というのはよくわからなかったけど、確かしろはも蒼と一緒だったので、あわよくばしろはと合流したいと気持ちはある。

 

「よし、それならさっそく行こうぜ」

 

 初動を決め、右側の森の入り口に向かって歩き出そうとした俺たちだったが……。

 

 

 

「えい!」

 

「ぐわっ!?」

 

 ……その時、天善の背中に右側の森から攻撃が放たれた。

 

「や、やられた……」

 

 濡れた背中を見ながら、天善は驚愕の表情だ。

 

「くそ、誰だ!?」

 

 良一が片手に一丁ずつ水鉄砲を持ち、攻撃が跳んできた方向を睨みつける。

 

 俺も同じように水鉄砲を構え、森の方を見る。ちらっと森の中に逃げ込む白い姿が見えた。恐らくしろはだろう。

 

「あそこだな! 羽依里、天善! 続け!」

 

 良一もその姿を確認したんだろう。逃げるしろはを追いかけ、俺たちも森へと駆け込む。

 

 

 

「引っかかったわね! うりゃあっ!」

 

「げ、蒼!?」

 

 森に入るや否や、近くの木陰に隠れていたらしい蒼が飛び出してきて、側面から俺たちを急襲してきた。

 

「皆、散れ! 木の陰に隠れるんだ!」

 

 良一の言葉を合図に、俺たちはとっさに蒼と距離を取るように散開し、近くの木の陰に隠れる。

 

「天善、覚悟しなさい!」

 

 蒼はそんな中、先に背中をやられていた天善に狙いを定め、水鉄砲を撃ってきた。

 

 ここから見ると、蒼の装備はハンドガンタイプの水鉄砲で、それを両手に一丁ずつ持っていた。

 

 射程はそこそこだけど、火力がやばい。無数の水流が真っ正面から天善に襲い掛かる。

 

「なんの! このくらい、良いトレーニングだ! うおおおおおっ!」

 

 対する天善は両手にラケットを構え、蒼の攻撃を正面から全て防いでいた。前面の的は、まったく濡れていない。

 

「げ、ちょっとウソでしょ!?」

 

「ふ、イナリの放つピンポン玉に比べれば、まだまだ遅いさ!」

 

 そう言う天善だが、防御に必死で攻撃に転ずる余裕はなさそうだ。状況は拮抗していた。

 

「くそっ、これじゃ手出しできないぜ!」

 

 良一の水鉄砲は蒼と同じタイプなので射程も同じだ。この距離だと天善の援護射撃はできない。

 

 俺の水鉄砲は中距離もいけるけど、この位置からだと天善の背中が邪魔だった。

 

「……悔しいけど、これは無理ね。撤退!」

 

 俺たちが尻込みしていると、真っ向勝負は分が悪いと判断した蒼は、素早い身のこなしで森の中へと逃げていった。

 

「やられっぱなしでいられるかよ! 羽依里! 天善! 追うぞ!」

 

「わかった!」

 

 例によって先陣を切る良一に続いて、俺と天善も森の奥へと逃げる蒼を追う。

 

 

 

 

「……あれ? 蒼のやつ、どこいったんだ?」

 

 ため池に沿うように森の中を進み、だいぶ奥の方まで入ってきたはずだ。木々の間から見えるダムの位置から考えると、ちょうど対岸の少し手前といった感じだ。

 

「完全に見失ったな」

 

「だな。しくじったぜ」

 

 俺は周囲の気配を探る。草木が風にそよぐ音が聞こえるくらいで、静かなものだった。しろはもこっちの方に逃げたはずだけど、姿は見えない。

 

「……なぁ、静かすぎやしないか?」

 

「まさか、蒼たちが何か仕掛けて来るのか?」

 

「わからないけどな。用心するに越したことはない……っ!?」

 

 三人で横一列に並び、そんな話をしていると……俺の背中に硬いものが当たる。ついでに少し上の方に、柔らかいものも当たってる。

 

 ……これは、まさか。

 

「ふっふっふー。まんまと引っかかったわねー」

 

 振り返って肩越しに見ると、笑顔の蒼が俺に水鉄砲を突き付けていた。

 

 えーっと蒼、銃口以外のものも当たってるんだけど。

 

「良一も動かないでね」

 

「天善さんもですよ!」

 

 直後、隣にいた二人の背中にも同じように水鉄砲が突きつけられていた。声から察するに、後ろにいるのはしろはと夏海ちゃんだろう。

 

「三人とも、失格になりたくなかったら、武器を捨ててください」

 

 そして目の前の茂みから藍が現れた。マシンガンタイプの水鉄砲を持っていて、その銃口は天善の的を捕えている。

 

 どうやら、俺たちは一瞬で四人に囲まれてしまったらしい。唐突過ぎて、自分たちの水鉄砲を構える暇もなかった。

 

「返事はどうしました?」

 

 前後から水鉄砲を突き付けられ、降伏を迫られる。この位置関係だと、藍がその引き金を引けば俺たちはたちまちハチの巣だろう。

 

「……くそー、まんまとはめられたぜ」

 

 良一が武器を投げ捨てるのを見て、俺と天善もそれに倣って、武器を捨てる。

 

「まだ動いちゃダメですよ。そのまま両手は頭の上で、ゆっくりとひざまずいてください」

 

 俺たちは藍に言われるがままにするしかない。屈辱だ。

 

「しろはちゃんと夏海ちゃん、今のうちに水鉄砲を回収してください」

 

「うん」

 

「はい! じゃなくて、あいあいさー!」

 

 びしっと敬礼をしていた。夏海ちゃんもノリノリだった。

 

 そうしているうちに、三人分の水鉄砲が回収された。俺たちは丸腰になってしまった。

 

 どうしよう。開始早々、捕虜になってしまった。

 

「さすが藍ね。作戦通り事が運びすぎて、怖いくらいなんだけど」

 

「天善ちゃんたちのことですから、絶対に追いかけて来ると踏んでましたから」

 

「くそ、俺たちをどうするつもりだ!?」

 

 藍に水鉄砲を突き付けられたまま、良一が叫ぶ。

 

「そうですね。三人には囮になってもらいます。この水鉄砲大会、どう考えても一番の強敵はのみきちゃんですので」

 

 確かに一番実力があるのはのみきだろう。今日もしっかりとハイドログラディエーター改を持っていたし。

 

「それにほら、いざとなったら盾にもなりそうだしねー」

 

 蒼、笑顔でそんなこと言わないでくれ。俺が盾になるのは、しろはだけだぞ。

 

「でも隊長、羽依里さんたちを使って、どうやってのみきさんをおびき出すんですか?」

 

「ちゃんと作戦を考えてありますよ。まず、現在の位置関係ですけど……」

 

 やっぱり藍が隊長なのか。なんとなく、ベレー帽とか似合いそうな気もする。

 

「ため池を中央として、ダムの位置を南とすると、私たちが居るのがここ、東の森です」

 

 藍は俺たちの前に立ったまま、木の枝を使って地面に地図を描いて説明を始めていた。

 

 なんだろう。表情には出さないけど、藍も楽しそうだ。

 

 皆が小さい頃の遊びも、こんな風に藍が仕切っていたのかもしれない。

 

「……というわけで、のみきちゃんをはじめ他の皆さんは、この西の森にいる可能性が高いです。ところで羽依里さん、聞いてますか?」

 

「え? うん。聞いてる聞いてる」

 

 一睨みされてしまった。藍隊長恐い。

 

「とりあえず、捕虜の三人を連れてダムへ移動しましょう」

 

「あいあいさー!」

 

「三人とも、両手は頭の上に置いたままだからねー。少しでも降ろしたら撃つわよー」

 

「く、くそー」

 

「せ、せめてラケットは持たせてくれ……」

 

「これは、屈辱だな……」

 

 それぞれ、良一後ろに夏海ちゃん、俺の後ろに蒼、天善の後ろにしろはがついて歩く。

 

 藍は天善の前の的に照準を常に合わせつつ、周囲に気を配っていた。

 

 俺たち、一体どうなってしまうんだろう。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 俺たちは身体の自由を奪われたまま、ダムへと連れてこられた。

 

 そして、西の森の方を向いて一列に並ばされる。

 

「羽依里、なんとかして逃げられないか?」

 

「無理だろ、この状況だぞ」

 

 隣の良一は泣きそうな声を出していた。

 

 ちなみに、藍たち四人は少し離れた場所で水鉄砲を構えている。当然、俺たちの水鉄砲もその足元だ。

 

「鴎たち第三勢力が攻めて来てくれることを願うしかないだろ」

 

 確か、鴎たちは西側の森に入っていったのを見たけど。

 

 今のところ、その可能性はかなり低そうだった。

 

「それではオペレーション・パージを開始しましょう」

 

 藍の一言で、俺はこの後何が起こるのか大体理解した。

 

「現在、のみきちゃんは姿をくらませていますが、天善ちゃんが服を脱げば、のみきちゃんは条件反射的に水鉄砲で撃って来るでしょう。そうすればのみきちゃんの位置がわかります。そこに一斉攻撃を仕掛けます」

 

 藍はのみきが潜んでいるであろう西の森に注意を払っていた。一度尻尾を掴んだら絶対離さないつもりだろう。

 

「というわけで天善ちゃん、脱いでください」

 

「誰が脱ぐかよ! それに俺は良一だ!」

 

「いいから良一ちゃん、脱いでください」

 

「断る! 撃たれるのがわかってて、誰が脱ぐか!」

 

 良一の対応は当然だろう。

 

 それにしても、会話だけ聞いてると、とても怪しげだった。

 

「……仕方ないですね。しろはちゃん、お願いします」

 

「気は進まないけど、わかった」

 

 そう言うと、しろはが大きく息を吸い込む。この流れは。

 

「裸祭り。んんんーーー!」

 

 

「……パーーージ! んん、パーーージ!」

 

 しろはの掛け声に応えるように、良一は上半身裸になってしまった。本当に条件反射になってるんだろうな。

 

 次の瞬間、ものすごい速さで水弾が飛んできた。

 

「ぶわっ!?」

 

 良一が大きく横に吹き飛ばされる。もんどりうって倒れたところへ、すかさず第二次攻撃が飛んできて、前面の的を撃ち抜かれていた。

 

 一発目は反射的に撃ってしまったにしても、二発目で的確に的を射抜く正確な射撃。撃ってきたのは間違いなくのみきだろう。

 

「え、ちょっと」

 

「うそですよね?」

 

 その光景を見ていたしろはたちは目を丸くしていた。俺も自分の目を疑ってしまう。

 

 水弾が飛んできたのは、皆が注視していた西の森じゃなく、ため池を挟んで対岸の、北の森からだった。

 

「まさか、向こう岸から撃ってきたんですか?」

 

 さすがの藍も驚いていた。

 

 そういえばのみき、いつも鉄塔から俺や良一を狙撃してるよな……それに比べれば、対岸からここまでの距離なんて、朝飯前なんじゃないか?

 

「……皆逃げろ! このままこの場所に居たら、良い的だぞ!」

 

 俺は思わず叫んでいた。

 

 それを合図に、その場にいた全員が慌てふためく。同時に、対岸からのみきの追撃が来た。

 

「うおおおおっ!」

 

 現状、一番ため池に近い俺と天善が慌てて横に飛ぶ。

 

 ギリギリの所で水弾に当たらずに済んだが、目標を失った水弾はダムのコンクリートを激しく叩く。

 

「一度、森に逃げ込みましょう!」

 

「しろはに夏海ちゃん! 撤退するわよ!」

 

 俺たちより奥にいた四人は藍の指示の元、一目散に東の森の方へ戻っていく。

 

 俺はというと、たまらず近くにあったポリタンクを背に座り込んでしまった。

 

「ひゃーーー!」

 

「あ、夏海ちゃん!」

 

 しろはの声がした方を見ると、夏海ちゃんが背中の的を撃たれて、地面に倒れていた。のみきの水鉄砲、なんて威力なんだろう。

 

「待ってて、今行くから!」

 

 既に森の入り口にさしかかっていたしろはが救出に向かおうとするけど、のみきの水弾が途切れることなく飛んでくるので、下手に動けずにいた。

 

「夏海ちゃん、うつ伏せのまま、ゆっくりこっちに来て!」

 

「は、はい!」

 

 そんな中、俺は夏海ちゃんに声をかけて、こっち側に誘導する。

 

「しろは! 夏海ちゃんは俺が守るから、しろはは逃げてくれ!」

 

 俺はポリタンクで背中の的を隠しながら、そう声をかける。

 

「わ、わかった。羽依里、夏海ちゃんをお願いね」

 

 しろはが森の中へ消えていったのを確認して、俺は夏海ちゃんの手を取る。

 

「うわっ!?」

 

 それと同時に、俺の背を守っていたポリタンクが、のみきの一撃を受けて横にひっくり返った。だから威力高すぎだろ、ハイドログラディエーター改!

 

 こうなったらイチかバチか逃げるしかない。俺は意を決して立ち上がる。

 

「羽依里、受け取れ!」

 

 その時、良一が俺の水鉄砲を投げ渡してくれた。どうやら、藍たちに置き捨てられた水鉄砲を奪還してくれたらしい。

 

「ほら、天善のだ!」

 

 続いて、良一はラケット型水鉄砲も天善に投げ渡す。

 

「よし、これでなんとかなる!」

 

 水鉄砲を取り返したところで、対岸から更なる攻撃が放たれた。その攻撃に対し、天善がラケットを構える。

 

「これさえあれば、水弾など怖くはない! チョレーーーーイ!」

 

 次の瞬間、天善は高速で迫る水弾を見事に撃ち返していた。

 

「おお、これは凄いトレーニングだ!」

 

 その後も、何発もの水弾を撃ち込まれるが、天善は天善ゾーンを展開しながら、その全てを弾き返していた。天善すごい。

 

「俺が引き付けている間に、森へ向かえ!」

 

「悪い天善、助かるぜ!」

 

「夏海ちゃん、走れる?」

 

「はい!」

 

 武器を取り戻したところで、俺たちの攻撃は対岸まで届かない。ここは逃げるが勝ちだ。

 

 俺たちは全力で走り、辛くも西の森の中へ逃げ込んだのだった。

 

 

 

 

「ぜえ、はあ、なかなかにきついレシーブ練習だったな」

 

 最後に天善が森の中に逃げ込み、ようやく一息つく。気がつけば、のみきの攻撃も止んでいた。

 

 それにしても、開始直後に捕虜になるわ、その後はのみきに一方的に攻撃されるわで、まともに水鉄砲撃ってない気がする。

 

「それで、これからだけど」

 

 四人全員で背中を合わせて、できるだけ広い範囲に気を配りながら会話を続ける。

 

「藍のパージ作戦のおかげで、のみきの居場所はわかったけど、どうする? 勝負しに行くか?」

 

 このままため池に沿って北上すれば、のみきのいる北側の森に行けるだろう。

 

「でも、のみきさんの水鉄砲、ものすごく痛かったですよ」

 

 夏海ちゃんも自然とその輪に加わっていた。

 

「ああ、わかるぜ、夏海ちゃん……」

 

 良一はうんうんと頷いている。あれは撃たれた者にしかわからない痛みだ。

 

「だけど、天善のラケットがあれば、なんとかなりそうだけどなー」

 

「やるなら早い方が良いよな。のみきもいつまでも同じ場所に留まっているとは思えないし」

 

 反対側の東の森には、しろはや藍たちがいるし、うまく事が運べば挟み撃ちにできるかもしれない。

 

「……よし、行こう」

 

 協議の結果、俺たちは目標をのみきの撃破と決め、一路北の森を目指すことにした。

 

 

 

 

 最初は四人並んで移動していたけど、小石や木の根のせいで結構な悪路だ。段々と間延びしてくる。

 

「……あれ? 夏海ちゃん早くない?」

 

 そして、いつの間にか先頭を歩いていたのは、俺でも良一でもなく夏海ちゃんだった。なんだろう。森の中は歩き慣れているのかな。

 

「夏海ちゃん、前に出過ぎだよ?」

 

「あ、ごめんなさい」

 

 夏海ちゃんは軽い身のこなしで戻ってきた。やっぱり慣れてる気がする。

 

「夏海ちゃん、もしかして森とか歩き慣れてる?」

 

「え、えーっと、その」

 

「……二人とも、静かにしろ」

 

 その時、良一に制止されて会話が唐突に終わる。背後を振り返ると、良一は俺から見て左側の草むらに水鉄砲を向けていた。

 

「……誰かいるぞ」

 

 その水鉄砲が向けられた先の草が、風もないのに不自然にカサカサと音を立てている。確実に何かいる。

 

 俺たちは隊形を組み直し、真ん中に俺、右に天善、左に良一が立ち、背後に夏海ちゃんを守るようにする。

 

「夏海ちゃん、後ろに下がっててね」

 

「は、はい!」

 

 夏海ちゃんにそう声をかける一方で、俺と良一は水鉄砲の引き金に手をかけ、いつでも撃てるように準備していた。

 

 

「……ポン!」

 

 ……その直後、茂みをかき分けて出てきたのは、イナリだった。

 

「え、イナリ?」

 

「なんだ、イナリかよ……」

 

 思いっきり警戒していた俺たちは一気に緊張の糸が切れてしまった。

 

「ポンー?」

 

 イナリは、こんなところで何やってるの? みたいな顔をして、首をかしげていた。

 

「お前は野生動物だし、この辺に居ても何の不思議もないもんな」

 

 イナリにしてみれば、俺たちがこんな森の中にいる方が妙かもしれない。

 

「水鉄砲大会の真っ最中なんだ。邪魔してごめんな」

 

 俺がしゃがみ込んで、イナリにそう話しかけていると、再び目の前の茂みが揺れた。

 

「むぎゅ~……イナリさん、本当にこっちなんですか?」

 

 そして、紬が四つん這いになりながら顔を覗かせた。どうやらイナリの後ろをずっとついて来ていたらしい。

 

「へ?」

 

「むぎゅ!?」

 

 俺と紬は目が合った状態で、一瞬固まる。

 

「テ、テキシューです!」

 

 紬はそう叫ぶと同時に、水鉄砲を構えた。ダムでも持っていた、パリングルス製の水鉄砲だ。

 

「げ、これはまずい!」

 

 俺は反射的に後ろに飛びのくけど、木の根に足が引っかかって、思いっきり尻もちをついてしまった。

 

「やばい!」

 

「くそ、紬、来るなら来い! 俺が相手だ!」

 

 その刹那、右側にいた天善が俺の前に飛び出して、ラケットを構える。絶対防御の構えだ。同時に左側の良一も、一歩前に出た。

 

「むぎーーーー!」

 

 直後にパリングルス水鉄砲から強力な水弾が放たれるが、天善はそれを見事に一直線に弾き返す。

 

「むぎゅ!?」

 

 跳ね返された水弾は、そのまま紬の前の的を直撃した。

 

「おお、さすが天善。助かったぞ」

 

 あの防御術がある限り、俺たちの身は安全だろう。

 

「まぁ、加納君、紬に手を出すなんてひどいわ!」

 

 すると、紬の隣の茂みから静久が飛び出してきた。どうやら静久も紬の後ろをずっとついて来ていたらしい。

 

「み、水織先輩!? いえ、これはその」

 

 静久は紬を下がらせて、天善の前に出る。その手には、ものすごく大きな水鉄砲が握られていた。

 

「問答無用よ! おっぱーーい!」

 

 謎の掛け声とともに、静久の水鉄砲から大量の水が噴出される。それこそバズーカみたいだった。

 

「ぐわあああっ!?」

 

「うおおおおっ!?」

 

 その水量はラケットで防げる量ではなく、至近距離でそれを受けた天善は前の的を一撃で濡らされ、失格となってしまった。

 

 同時に良一もその水しぶきに巻き込まれる形となり、全身ずぶ濡れ。背中の的もやられてしまい、失格となる。

 

 二人よりはだいぶ離れた場所にいた俺も、跳ね水で前の的をやられてしまった。ものすごい威力だった。

 

「あわわわわ」

 

 俺たちのかなり後ろにいた夏海ちゃんは、口に手を当てたまま固まっていた。四人の中で無傷なのは、その夏海ちゃんだけだった。

 

 かなり接近していたとはいえ、一撃で二人を葬り去るなんて。おっぱいバズーカ、恐るべし。

 

「くそ、失格か……」

 

「ちくしょー! お食事券、本気で狙ってたんだけどなー!」

 

 脱落が決定した二人はその場に水鉄砲を投げ出し、うなだれながらダムの方に戻っていった。

 

「ところでパイリ君、降伏してもらえるかしら」

 

 一緒に二人を見送った直後、静久が笑顔で水鉄砲を向けてきた。

 

 反射的に水鉄砲を構えるけど……おっぱいバズーカの前には分が悪すぎる。

 

「ナツミさんも、コーフクしてください!」

 

 更に紬も加わって、万事休す。俺は両手をあげて降参の意を示す。

 

 俺のその様子を見て、夏海ちゃんもそれに続く。

 

「降伏するのはいいんだけど、二人に提案があるんだ」

 

「むぎゅ、提案ですか?」

 

 俺は二人に、北の森にのみきを倒しに行く途中だったことを伝える。

 

「そうだったのね。確かに美希ちゃんは強敵だと思うけど……」

 

「シズク、どうしますか?」

 

「……とりあえず、ボスの所に連れて行きましょう」

 

「え、ボスって誰?」

 

「それはついてのお楽しみよ」

 

 笑顔の静久に促され、俺たちは歩き始める。でもこの流れ、また捕虜になるのかな。

 

 まあ失格にならなかっただけ、幸運だと思うしかない。

 

 ちなみに、良一と天善が残していった水鉄砲はその場で回収した。ルール上問題ないし。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

「ようこそ、カモメ団へ!」

 

 静久と紬に案内されて辿り着いた場所には、スーツケースにどっかりと腰を下ろした鴎がいた。

 

「ボスってお前か!」

 

「いやー、皆でチームを組んでたら、いつの間にかそう言うことになっちゃって」

 

 本人は笑っているし、まんざらでもないみたいだ。

 

 スーツケースの傍らにはライフル型の水鉄砲が立てかけてあるし、近距離用の水鉄砲も持っているようだった。かなりの重装備だ。

 

「成果の報告だけど、加納君と三谷君を仕留めたわ」

 

「おおー、二人ともやるね!」

 

「それと、パイリ君と夏海ちゃんを捕まえたわ」

 

「じゃあ、二人を新しい団員として歓迎するよ!」

 

「あれ、俺たちは捕虜じゃないのか?」

 

「え、捕虜って何?」

 

「いや、気にしないでくれ」

 

「羽依里になっちゃん、よろしくね!」

 

 鴎はそう言いながら、笑顔で俺たちの水鉄砲を返してくれた。

 

 こんなところで俺たちに水鉄砲を返して、いきなり攻撃したらどうするつもりだったんだろう。そんなことしないけど。

 

「入団の記念に、チョコレートあげるよ!」

 

 スーツケースからマープルチョコを取り出して、俺たちに渡してくれる。同じチームでも、藍たちのチームとは雰囲気がまるで違うような。

 

「ダンチョー、その代わり、重大な問題が発生してしまいました!」

 

 その時、紬が唐突にそう切り出す。

 

「え、ツムツムどうしたの?」

 

「実はさっきの戦いで、ほとんどの水を撃ち尽くしてしまいました!」

 

「ええー!」

 

 話を聞いていると、元々紬のパリングルス水鉄砲は残量が少なかったみたいだ。静久のバズーカは強力な分、一度発射したらタンクの水を全てを撃ち尽くしてしまうタイプらしい。

 

「……あれ? それじゃさっき降伏を迫られた時って」

 

「ええ、実は水は全く残って無かったの」

 

「そ、そうだったのか……」

 

 てっきり、まだ水が残っていると思って全面降伏してしまった。やられたな。

 

「使う時期を見極めに見極めて、いざという時に使う。それがおっぱいバズーカよ」

 

 すごく誇らしげに言っていた。俺はあえて突っ込まない様にした。

 

「うーん、ダムに行けば水の補給ができるけど、水がない状態で森の中を歩き回るのは危険だよね……」

 

 確かにルール上、水の補給中は攻撃できないけど、ダムに行くまでに誰とも出会わないという保証はない。

 

 鴎はお手製の地図を広げていた。本当に手が込んでるな。

 

「なあ、せっかくだし、俺が水の補給に行ってこようか?」

 

「え、いいの?」

 

「ああ、危険な目に合うのは慣れてるからな」

 

「じゃあ、羽依里が戻ってくるまで、なっちゃんは人質だからね!」

 

「ふえ!?」

 

 鴎はそう言いながら夏海ちゃんを抱きしめていた。全然人質って感じじゃないし、半分冗談だろう。

 

「逃げたりしたら、イナリの刑に処するよ!」

 

「必ず戻ってくるから心配しないでくれ」

 

 ところで、イナリの刑ってなんだろう。すごく気になる。

 

「あ、そういえばさ……紬たちには話してるんだけど、提案したいことがあるんだ」

 

「え、何?」

 

「森の北にのみきがいるんだ。俺が水の補充から戻ったら、皆で倒しに行かないか?」

 

「うーん……確かにのみきさんは強いし、皆で戦えるなら心強いけど……うーん。うーん」

 

 鴎は顎に手を当てて、何やら考えている。

 

「ごめん。少し考えるよ」

 

「わかった。俺が戻ってきたら返事を聞かせてくれ」

 

 俺は鴎にそう告げると、おっぱいバズーカとパリングルス水鉄砲、鴎のライフル型水鉄砲を持って、ダムへと水の補給へ向かった。

 

 ちなみに、俺や良一の水鉄砲はカモメ団のアジトに残してきたので、もし鴎たちが襲われても対抗できるだろう。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 俺はため池が見渡せるダムまで戻ってきた。幸いなことに、道中は誰とも遭遇しなかった。

 

 失格者の集合場所にもなっているんだけど、現時点では良一と天善の二人しかいなかった。

 

 その二人はため池で泳いだり、岸に近い浅瀬でラケットの素振りをしていた。いくら日照り続きで水の量が少なくなっているとはいえ、危なくないのかな。

 

「とりあえず、水を入れるか」

 

 俺はポリタンクのふたを開けて、中の水を水鉄砲へ補充していく。タンクの大きさは皆同じという制約があるからか、バズーカ型の水鉄砲には心許ない量しか水が入らなかった。

 

「ん? なんか変な臭いがするぞ……?」

 

 水を入れていると、妙な臭いが鼻をつく。昔、長いこと変えてなかった金魚鉢の水を替えるときに、良く感じた臭いだ。

 

 ……どうやらこのポリタンクから臭ってくるみたいだ。

 

「なんだこれ」

 

 よく見ると、ポリタンクの水は緑がかっていた。

 

「これってもしかして、ため池の水なんじゃ……?」

 

 大会が始まる前、のみきが手に出していたのは、明らかに真水っぽかったけど。

 

 

「うおおおーーーー!」

 

「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」

 

 

「……なあ、二人とも」

 

 俺は池の中ではしゃいでいる二人に、思わず声をかけた。

 

「このポリタンク、ため池の中に落としたりしたか?」

 

「……さーて、もうひと泳ぎするかなー!」

 

「悪いが、トレーニング中に話しかけないでもらえないか?」

 

 二人はあからさまに俺と話をするのを避けていた。目も合わせようとしないし、これは図星みたいだ。

 

「うう、臭い……」

 

 文句を言ってもしょうがないので、俺はとりあえず全ての水鉄砲を満タンにして、アジトに戻ることにした。

 

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「あ、羽依里さん、おかえりなさい」

 

 水鉄砲を持って帰ってくると、夏海ちゃんは紬と一緒に、イナリと遊んでいた。なんだろう。平和だ。

 

「おかえり、羽依里!」

 

 鴎たちに持って帰った水鉄砲を渡す。これで俺の任務は完了だ。

 

「ところで鴎、のみき討伐の話、考えてくれたか?」

 

「うん、それなんだけどね……」

 

 鴎は少し困ったような顔をしていた。

 

「実は、羽依里がいない間に、ちょっとだけ北の方に偵察に行ってきたんだけど」

 

「え、そうなのか」

 

「うん、なっちゃんやイナリポンと一緒にね」

 

 ……あえて、イナリポンには突っ込まないでおこう。

 

「それでね、そこでソラカドファミリーが怪しい動きをしていたの」

 

「え、ソラカドファミリー?」

 

 間違いなく蒼たちのことだろうけど。なんだろう。ギャングの抗争みたいになってきた。

 

「うん。どこをどう通ったのかわからないけど、私たちよりのみきさんに近い所にいるみたいだよ」

 

 なんにしても、俺たちがここから北上するための最短ルートを通れば、高い確率で藍たちと遭遇することになりそうだ。

 

 一度ダムの方まで戻って、大回りして北を目指すルートもあるけど、道中に藍たちに背後を突かれる危険性もある。

 

「それで、こっちから先に打って出ようって思うんだけど、羽依里やなっちゃんも協力してくれないかな?」

 

 鴎の目は真剣だった。チームリーダーとして、考えに考えて出した結論なんだろう。

 

「ああ、いいよ」

 

「私も構わないです!」

 

 乗りかかった船だし、このチームの雰囲気は好きだった。

 

「うまくソラカドファミリーの皆を説得できれば、協力してのみきさんと戦えるかもしれないけど……」

 

「それなら、俺に良い作戦があるんだけど」

 

「え、そんなのあるの?」

 

「詳しい内容は、向こうに行きながら話すよ。その代わり、一つお願いを聞いて欲しいんだ」

 

「うん。いいけど……お願いってどんなの?」

 

「向こう……ソラカドファミリーにしろはがいるはずなんだ。その、助けてほしくて」

 

「おおー、捕らわれのフィアンセ、救出大作戦ですね!」

 

 いや紬、フィアンセって意味わかってる?

 

「燃える展開だねぇ。なっちゃん」

 

「そ、そうですね」

 

 カモメ団の皆も各々水鉄砲を持ち、やる気満々だ。

 

「それじゃ、カモメ団、しゅっぱーつ!」

 

 鴎の号令の元、俺たちは北に向けて歩き出した。

 

 

 

 

第二十話・完




第二十話・あとがき



おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
今回は文章量が多くなりすぎてしまったので、水鉄砲大会の途中でいったん話を切らせてもらいました。どうも、ラジオ体操でのどろり濃厚ネタや、出店の海老すくいに時間をかけすぎた感もありました。

本日のメインイベントは水鉄砲大会です。
前編で既に男子は羽依里君だけになってしまいましたが、その羽依里君の属するカモメ団は、藍たちにどう立ち向かうのか?
そして、最強の水鉄砲、ハイドログラディエーター改を持つのみきとの勝負の行方は?
後編をお楽しみに。

……と、すみません。昔バトル小説を書いていた関係か、こういうイベントを書くと妙なテンションになってしまうのです。特に、地の文も増えてしまうので……困ったものです(汗



■今回の紛れ込みネタ

・たぶん、おそらく、メイビー
リトバスのはるちんの台詞だったはずです。たぶん。おそらく、メイビー。


・どろり濃厚ピーチ味
AIRより、ヒロインの神尾観鈴の好きな飲み物ですね。

・がお
言わずもがな、AIRの観鈴の口癖です。ポニーテールにした紬が観鈴っぽいので、ずっとやりたかったネタです。


以上になります。いくつお気づきになられたでしょうか。
感想など頂けましたら、泣いて喜びます。
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