Summer Pockets #2   作:トミー@サマポケ

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第三話 7月27日

 

 

「鷹原さーん!」

 

「そろそろ起きてくださーい!」

 

「もう八時ですよー!」

 

 

 

夏海ちゃんの元気いっぱいの声に起こされる。

 

そういえば、朝に誰かに起こされるとか、久しぶりだ。

 

「夏海ちゃん、おはよう……」

 

 目を開けると、目の前にピンク色のフリルがついたエプロンを着た夏海ちゃんが立っていた。

 

「えっと、そのエプロンは……?」

 

「さあ? 台所にあったので、鏡子さんのじゃないですか?」

 

 鏡子さんはそんなフリフリエプロンは着ないと思う。

 

 それ以前に、料理しているところをほとんど見たことがない。

 

「そんなことより、ごはんが冷めてしまいますから、早く起きてください」

 

 顔を洗って居間に行くと、チャーハンが用意してあった。

 

「え? チャーハン?」

 

 思わず二度見してしまった。

 

「えーと、夏海ちゃんが作ったの?」

 

「はい。頑張りました」

 

 味噌汁の隣に置いてあるのは、間違いなくチャーハンだった。

 

「朝からチャーハン……?」

 

「あ、もしかしてチャーハン嫌いでした?」

 

「いやいや、そんなことはないよ」

 

 チャーハン嫌いって人も、そうそういないと思う。

 

「でしたら、食べましょう」

 

 エプロンを外した夏海ちゃんも向かいに座り、二人揃って朝ごはんにする。

 

「それじゃ、いただきます」

 

「いただきまーす」

 

 スプーンですくって口に運ぶ。

 

「おお、美味しい」

 

 全体に良く味が染みていて、ご飯もパラパラ。具材の炒め具合も絶妙だ。

 

「よかったです。たくさん食べてくださいね」

 

「うん」

 

「そういえば、鏡子さんは?」

 

「今日も朝から寄り合いだそうで。少し前に出ていかれました」

 

「忙しい人だからなぁ……」

 

「ですねぇ」

 

 そんな会話をしながら、朝からチャーハンという少し変わった朝食を堪能した。

 

 

 食後、夏海ちゃんが洗い物を終えて居間に戻ってくる。

 

「鷹原さん。一つ相談があるんですが」

 

「え、どうしたの?」

 

「この家で生活するにあたって、家事の分担をしたいと思うんです」

 

「昨日、鏡子さんに家の中を案内してもらった時に、洗面所やお風呂を見せてもらったんですが」

 

「洗濯物は溜まってましたし、お風呂もその……」

 

「あー……言いたいことはわかるよ。細かく見てたんだね」

 

「そして、昨日の鏡子さんの夕食……!」

 

 そういえば昨日の夜、鏡子さんが一人でカップうどんを食べていたのを見た夏海ちゃんは、何かを決意していたみたいだった。

 

「私達はもしかして、鏡子さんに大変な苦労をかけてしまっているのでは……!」

 

 確かに自分たちが外食してきて、帰宅したら家主さんがカップうどん食べてたらショックだよなぁ。

 

「違うよ。あの人はものすごい偏食でさ。それに、加藤の家の血筋として、致命的に料理が下手なんだ」

 

「それじゃあ、鏡子さんはご飯どうしてるんですか?」

 

 俺は無言で台所の隅に積まれた大量のカップうどんの容器を指し示す。

 

「……マジですか?」

 

「マジマジ」

 

「三食全部?」

 

「たぶん」

 

「まさか、鷹原さんもですか?」

 

「いや、俺はしろはにチャーハン習ったから」

 

「じゃあ、料理できるんですね?」

 

「チャーハンだけね」

 

「ええー……極端ですね」

 

「まぁ、わけありでね」

 

「それに、俺は夜には食堂に行ってるから」

 

「あ、しろはさん食堂ですね」

 

「うん」

 

「鏡子さんは食堂、行かないんですか?」

 

「うーん。しろはから鏡子さんが来たって話は聞いたことないなぁ」

 

「偏食、ですかぁ……」

 

 夏海ちゃんが何とも言えない表情を見せている。

 

「それでも、家事を分担しようってのはいいことだと思うよ」

 

「で、ですよね。ですよね」

 

 とりあえず鏡子さんの件は棚上げにして、家事分担の話を進めることにする。

 

「ひとまず私たちの食事ですが、朝ごはんは私が作ります」

 

「今朝も作ってくれたよね」

 

 チャーハンだったけど。

 

「こう見えて得意なんですよ」

 

「じゃあ、お願いするね」

 

「はい!」

 

「夜はしろは食堂でいいとして、問題はお昼だね」

 

「鷹原さん、作ってくれますか?」

 

「さっきも言ったけど、俺が作れるのはチャーハンだけだからね」

 

「今日だと、二食続けてチャーハンになってしまいますね」

 

 それは、正直きついなんてもんじゃないと思う。

 

「そうだ。確か港の方にスーパーがあったはずだよ」

 

「え、そんな大きなお店があるんですか?」

 

「うん。お昼はそこのお惣菜で工面するってのはどうかな」

 

「栄養の偏りは否めませんが、背に腹は代えられませんね」

 

 なんとか食事の件はまとまった。続いて他の家事に取り掛かる。

 

 食事の他に思い浮かぶ家事と言えば、風呂掃除、トイレ掃除、ゴミ出し、買い出し等々。

 

 厳粛なる協議と公正なる抽選の結果、洗濯も夏海ちゃんが引き受けてくれ、俺の仕事は掃除とゴミ出し、そして買い出しに決まった。

 

「掃除やゴミ出しなんて、料理に比べたら楽なもんだよ」

 

「水回りの掃除って大変なんですよ。ごきごき出てきますし」

 

「ごき……?」

 

 ……聞かなかったことにしよう。どうか、遭遇しませんように。

 

 

 家事分担を決めた後は、宿題することに。

 

 俺自身としてはあまりやる気はなかったけど、夏海ちゃんが参考書やノート広げて頑張ってるのに俺がやらないわけにもいかず、向かい合って勉強した。

 

 その宿題も一時間ほどで終わる。

 

 

 

「それじゃ夏海ちゃん、宿題も終わったし、そろそろ島を案内するよ」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「でも、歩いて回るにしてはこの島、結構広いですよね?」

 

「大丈夫、バイクがあるから。後ろに乗ったらいいよ」

 

「え、二人乗りですか」

 

「ヘルメットあるし、島だから大丈夫だよ」

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 ガレージからバイクを引っ張り出した後、後ろの荷台に夏海ちゃんを乗せて出発する。

 

 夏海ちゃんは昨日、灯台が気になってるって言ってたけど、まずは近場の神社から案内することにした。

 

 石段の下にバイクを止め、境内まで歩く。

 

「すごい眺めですねー」

 

「島でも高い場所にあるからね」

 

 一番上まで来ると、住宅地から海まで一望できる。

 

「ここは海神を祭ってる神社でね。年に一回のお祭りでは、ここから神輿が出ていくんだ」

 

「今年もあるんですか?」

 

「もちろんあるはずだけど……いつだったかな」

 

 

「……今年は8月21日だな」

 

 すぐ後ろから声がしたので振り返ると……そこに天善が立っていた。

 

「む……鷹原、見慣れない子を連れているな」

 

「ああ、親戚の子なんだ。昨日から島に来てるんだよ」

 

 その場の流れで、天善に夏海ちゃんを紹介する。

 

「岬 夏海です。よろしくお願いします。加納さん」

 

「俺のことは天善でいい。よろしくな」

 

「はい。天善さん」

 

「フ……」

 

 あ。なんか嬉しそうだ。

 

「ところで天善、お前はこんなところで何をやってるんだ?」

 

「ああ、日課の参拝をしていたところだ」

 

「ここって、なにかご利益があるんですか?」

 

「海運祈願とかじゃなかったかな?」

 

「ここの神社は、連日通うと必殺技を授けてくれるらしくてな」

 

 え、そんなのだっけ?

 

「あのー、必殺技ってパンチ拳とか、オーロラの剣とかですか?」

 

 どうしよう、夏海ちゃんの言ってることの意味が解らない。

 

「残念だが、俺が欲しているのは卓球の必殺技だ」

 

 そして、天善の言っていることの意味も解らない。

 

「……実は、夏海ちゃんに島を案内している途中なんだ」

 

 だから、足早に退却させてもらうことにした。

 

「そうか。俺はもう少しここで粘ってみるとしよう」

 

「それじゃあな」

 

「ああ」

 

 

 

 

 夏海ちゃんを連れて石段の下まで降りてきたところで、神社から

 

 『ちょれええええええええい!』

 

 と、謎の声が聞こえてきたが、ここは何も聞かなかったことにしよう。

 

 

 

 

 再びバイクにまたがり、一本道を抜けて港まで出る。連絡船乗り場周辺を案内した後、昼ごはんを買うためにスーパーを探す。

 

「あれ? この辺りにあったはずなんだけど……」

 

「あ、もしかしてあれじゃないですか?」

 

 結構大きめの店があった。しかし、シャッターが下りている。

 

「閉まってる?」

 

「……なんか、張り紙が貼ってますよ?」

 

「なになに……」

 

 

『当店は五月末をもって閉店します。短い間でしたが、ご愛顧ありがとうございました。スーパー徳田』

 

 

「潰れちゃったみたいですね」

 

「……お昼ごはん、どうしましょう?」

 

「確か、港には小さい商店もあったはずだよ」

 

 記憶の糸を辿って、港周辺を散策し、ようやく見つけた商店で食料品を買い込む。結局インスタント食品しか手に入らなかった。

 

 それをバイクの座席にある収納スペースにしまい、そのまま灯台へ向かう。港を抜けてしまえば、あとは灯台まで海沿いの道が続く。

 

 道幅も広いので、それなりに飛ばす。潮風がいい感じで身体に当たって、涼しい。

 

 横目に見える海面も太陽の光を受けて、キラキラと輝いている。

 

 そんな景色を楽しんでいると、灯台に到着した。適当なところにバイクを止めて、二人で灯台に近づいていく。

 

「色がついてない灯台なんて、珍しいですね」

 

 言われてみればそうかも知れない。たいてい赤とか白とか色がついてるイメージがあるけど。

 

「随分昔に作られたらしいから、そのせいかもね。今は使われてないらしいし」

 

「そうなんですね。でも近くで見ると、すごく大きいです」

 

「あら、ありがとう」

 

「え?」

 

 いつの間にか夏海ちゃんの背後に静久が回り込んでいた。灯台の影にいたらしい。

 

「でも、あなたのも将来有望よ?」

 

「は、はい?」

 

 静久は夏海ちゃんの両肩に手を置き、意味深に頷いている。

 

「あー、静久。大きいっていうのは灯台のことで……」

 

「パイリ君は黙っていて」

 

「はい……」

 

 怒られた。乙女の会話に口を挟むなということだろうか。

 

 俺が意味も解らずうなだれていると……。

 

「あ、タカハラさんです!」

 

 どこからか紬の声が聞こえた。

 

「紬?」

 

 声はするものの、姿が見えない。

 

「こっちですよー」

 

「こっち? どっち?」

 

「上ですよー」

 

「上?」

 

 見上げると、紬が灯台の柵にもたれかかり、こっちを見下ろしながら笑顔で手を振っていた。

 

「うおっと」

 

 俺は慌てて視線を下げる。

 

 ちょうど太陽の位置で逆光になってくれていて助かった。危うく見えてしまうところだった。

 

「な、何をしてるんだー?」

 

 俺はなるべく上を見ないように紬に話しかける。

 

「風を感じていまーす」

 

 風を受けてツインテールがふわふわ。ついでにスカートもふわふわ。危ない危ない。

 

「つ、紬ー。降りて来いよー」

 

「むぎゅ?」

 

 本人、まったくわかってないみたいだし。

 

「えーと、紹介したい子がいるから、降りて来いよー」

 

「……? はーい」

 

 なんだか腑に落ちない感じだったが、灯台から降りてきてくれた。

 

 紬と静久の二人が揃ったところで、夏海ちゃんを紹介しておく。

 

「夏海ちゃんね。私は水織静久。おっぱいさんでいいわ」

 

「はい。よろしくお願いします。静久さん」

 

 華麗に流した。年齢不相応なスルースキルだ。

 

「わたしは紬・ヴェンダースです。紬と呼んでください」

 

「よろしくお願いします。紬さん」

 

「夏海ちゃんは昨日島に来たばっかりでさ。今日は島を案内してるんだ」

 

「そなんですね」

 

「外から来てる私が言うのもなんだけど、良い島よ。ここは」

 

「はい、素敵な所ですね」

 

「……ところで、ナツミさん!」

 

「はい?」

 

 ずいっと夏海ちゃんに近づく紬。

 

「自己紹介も済みましたし、さっそくお友達になりましょう!」

 

「えっ、お友達?」

 

「はい! いけませんか?」

 

「いえ、いけまくないです!」

 

 なんか、紬の勢いに圧されて夏海ちゃんがしどろもどろになってる。

 

「では、さっそくズッ友に認定します!」

 

「ず、ズッ友……?」

 

「ふふ。紬の友達なら、私も友達ね」

 

「では、ズッ友のナツミさんにプレゼントがあります!」

 

 紬は素早く灯台の中に入ると、大きなぬいぐるみを二つ持って戻ってきた。

 

「アリクイさんのぬいぐるみと、ナマケモノさんのぬいぐるみ、お好きな方を差し上げます!」

 

「え、ええー……」

 

 大きい。1メートル近くあるじゃないだろうか。そしてどっちも可愛いとは言えない。どっちかっていうとキモい。これも流れ着いた品だろうか。

 

「え、えーっと……じゃあ、こっちで」

 

 夏海ちゃんは悩んだ結果、アイクイのぬいぐるみを選んだ。

 

「サユリさんをよろしくお願いします」

 

 アリクイの名前だろうか。

 

「流れ着いたばかりの頃は、それはそれは哀れな姿でした。ゆであがったゾウのようにデロンデロンで……」

 

 やめて、想像したくない。

 

「そんなアリクイさんも、シズクが直してくれました。今ならどこにオヨメに出しても、恥ずかしくありません!」

 

 色々語弊がある言い方だけど、ここはあえて何も言わないほうが良さそうだ。

 

 バイクの収納スペースにはすでに食料品が詰まっているので、もらったぬいぐるみはまるでリュックのように背中に背負う羽目になった。

 

 その後、四人でしばらく話をしていたが、まだ夏海ちゃんを案内している途中であることを伝え、灯台を出発することに。

 

「それじゃあ、俺たちは行くよ」

 

「はい、また一緒に遊びましょう!」

 

「パイリ君、夏海ちゃん、またね」

 

「はい! またです!」

 

 二人に見送られながら、再びバイクを走らせる。

 

 

「夏海ちゃん、そのぬいぐるみ臭ったりしない?」

 

「大丈夫ですよ。ふかふかです」

 

「……ちょっと暑いですけど」

 

「走ってれば風があるし、帰るまで少し我慢してね」

 

「はい!」

 

 灯台の方……島の東側は大方見て回ったので、いったん昼食を食べに加藤家へと向かう。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 その途中、小学校の前を通りかかる。

 

「ここって……」

 

「あ、行く時に紹介し忘れてたね、小学校だよ。今は夏休み中だけど」

 

 バイクを止めて簡単な説明する。

 

「小さいけどプールもあるんだよ。でも島の子はほとんど海に行っちゃうみたいで、ここはすごく寂れちゃってるんだ」

 

「……」

 

「祭りが近くなると、ここで祭りに使う灯篭を作ったり……って、夏海ちゃん?」

 

「……」

 

 どうしたんだろう。どこか遠くを見てるような。心ここにあらずって感じだ。

 

「……大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です……」

 

 声が震えてる。それに凄い汗だ。

 

 ぬいぐるみ背負ってるし、もしかして日射病だろうか。

 

「大丈夫、大丈夫ですからっ」

 

「でも」

 

「い、一回帰りましょう! お腹空きましたし!」

 

「う、うん……」

 

 夏海ちゃんに気圧されるように、再びバイクを走らせる。

 

 道中、後ろの夏海ちゃんの様子がずっと気になってたけど……加藤家に着く頃には、すっかり良くなったみたいだ。

 

 ……どうしたんだろう。暑い中、連れまわしすぎちゃったかな。

 

 

 

 

 帰宅後、港の商店で買ってきたカップうどんで昼食をとる。

 

 念のため、昼食後に夏海ちゃんに体調の確認をしたけど、午後からも案内よろしくお願いしますと笑顔で言われた。

 

 ちなみに、アリクイのぬいぐるみは夏海ちゃんの部屋に鎮座することになった。

 

 そして午後からはもしものことを考えて、加藤家の周りを徒歩でゆっくり見て回ることにした。

 

 住宅地、役所、漁港、診療所等一通り見て回って、最後に休息を兼ねて駄菓子屋に立ち寄った。

 

 

 

「羽依里、夏海ちゃん、いらっしゃーい」

 

 さっそく店先の掃除をしていた蒼に声をかけられた。

 

「蒼、かき氷もらえるか?」

 

「いいわよ。何味?」

 

「俺はブルーハワイ。夏海ちゃんはどうする?」

 

「今日は氷イチゴください」

 

「わかったわ。適当に座って待っててねー」

 

 蒼は俺から200円を受け取ると、すぐに店の奥へと入っていく。

 

 ベンチのほうを見ると、藍としろはが座っていて、その向かいにスーツケースに座った鴎がいた。

 

「夏海ちゃん、座っていいよ」

 

 ベンチには後一人分のスペースしか無かったので、夏海ちゃんに座るように促す。

 

「ちょっと待ってください。しろはちゃんの隣は羽依里さんが良いと思います。恋人同士ですし」

 

「あ、そうですねー」

 

 悪戯っぽく笑う藍と夏海ちゃん。俺は言われるがまま、しろはの隣に座らされてしまった。

 

「ほうほう、二人がそんな関係だったなんて」

 

 そういえば、鴎は俺としろはの関係を知らなかった気がする。

 

「それなら、なっちゃん。隣カモン」

 

 てしてし、とスーツケースを叩く。

 

 結局、夏海ちゃんは鴎の隣でかき氷を待つことになった。

 

「しろはと鴎はスイカバー食べてるのか?」

 

「ううん。スイカバーは貴重だからしろしろに譲ったの。私のはメロンバー」

 

 なるほど、言われてみれば鴎のはメロンバーだった。

 

 というか、しろしろか……。変わった呼び方だな。

 

 

「羽依里、夏海ちゃんをちゃんと案内してあげた?」

 

「ああ、めぼしいところはそれなりに回ったつもりだよ」

 

「……ため池は?」

 

「あ。行ってない」

 

「あそこ、大きなザリガニが釣れる穴場なのに……」

 

「えー、そこ重要なのか?」

 

「重要だし。ゆくゆくは羽依里と夏海ちゃんにザリガニの調達を頼もうかと……」

 

「あ、特製チャーハンの材料だったな」

 

「そう。あそこのは活きが良いから」

 

 

 ちなみに、当事者の一人に数えられている夏海ちゃんはというと、ベンチの下で涼んでいたイナリに興味津々といった様子。

 

「えーと」

 

 イナリに声をかけようとして、夏海ちゃんが固まった。なんと表現していいのか悩んでる感じだ。

 

「この子はイナリです。こう見えてキツネです」

 

 そこに藍が助け舟を出す。

 

「キツネ……」

 

「ほらイナリ、あいさつしてください」

 

「ポン!」

 

「キツネ……?」

 

 二度見したり、イナリの前足を握ったりしてる。

 

「……よろしく、イナリさん」

 

「ポン!」

 

 色々考えるのをやめたみたいだ。

 

「……ごちそうさま」

 

 そのタイミングで、しろはがスイカバーを食べ終わる。

 

 そして、すぐに立ち上がる。

 

「……ごめん、もう食堂に戻らないと」

 

「え、行っちゃうのか?」

 

「うわ、心底悲しそうな顔してますね」

 

「……ごめん。本当に少し休憩に寄っただけだから」

 

「もしかしてしろはちゃん、今日一日羽依里さんと一緒にいた夏海ちゃんに嫉妬してるんじゃないですか」

 

「そ、そんなんじゃないし!」

 

「ふふ、冗談です」

 

「帰る。それじゃ」

 

 しろはは、どこかばつが悪そうに去っていった。

 

 

 

「はい、かき氷お待たせー」

 

 少しの間を置いて、両手にかき氷を持った蒼が店の奥から戻ってきた。

 

「……ってしろは、もう帰っちゃったの?」

 

「ああ……食堂が忙しいんだってさ……」

 

「うわ、心底悲しそうな顔してるわー」

 

 さすが双子、見事にシンクロした台詞をありがとう。

 

「くそ、こうなったらブルーハワイやけ食いだ」

 

 蒼からかき氷を受け取り、一気に食べ始める。

 

「羽依里さん、一気に食べたら頭痛くなりますよ」

 

「ぐああ」

 

 食べ始めてすぐに後悔したが、既に後の祭り。藍に呆れ顔されてしまう。

 

 

「ねぇねぇ、しろしろの食堂って、港にあるおっきな看板の?」

 

「え? ああ、そこだよ」

 

 メロンバーを食べ終えたらしい鴎が話題を振ってくる。

 

「なんか食堂、忙しいみたいだよ。お昼に行ったら閉まってた」

 

「あの食堂は元々夜だけなんだよ」

 

「あ、そうなんだ。物音はしてたみたいだったけど……」

 

 そこまで話したところで、鉄塔から大きな音が鳴り響く。

 

 

『島内放送、島内放送』

 

『一昨日から島に滞在している鷹原羽依里君、同じく久島鴎さん、昨日から島に滞在している岬夏海さん。役所にお越しください』

 

 

 

「……あの声はのみきだな」

 

「え、誰ですか?」

 

「ハイドログラディエイター改だ」

 

「はいどろ……?」

 

 夏海ちゃんが首をかしげている。

 

「名指しされた……これは、はずい」

 

 一方の鴎はスーツケースから立ち上がり、顔を赤らめている。

 

 確かに校内放送に似た恥ずかしさがあり、何回やられても慣れない。

 

「しかし、のみきは俺たちを呼び出して何の用だ?」

 

「あー、たぶん三人の歓迎会じゃない?」

 

 ちょうど切れたらしいかき氷シロップを交換しながら、蒼が説明してくれる。

 

「え、俺達の?」

 

「まぁ、行けば分かりますよ」

 

「そうだな。役所はここから近いし、行こうか夏海ちゃん」

 

「はい!」

 

「あ、待って羽依里」

 

 出発しようとしたところで、鴎に呼び止められる。

 

「どうしたんだ?」

 

「私、役所がどこか知らない」

 

「あー、そう言われればそうか」

 

「というわけで、案内して」

 

 鴎は再びスーツケースに腰を下ろす。

 

「え、押していけと?」

 

「近いんでしょ?」

 

「確かに近いけど……」

 

「あ、なっちゃんも乗る? 羽依里が押してくれるよ?」

 

「えーと」

 

「乗っちゃいなよー、ゆー」

 

 あああ、極悪カモメ団の団長が夏海ちゃんを悪の道へと引きずり込もうとしている……!

 

「ほい。どうぞどうぞ」

 

 スーツケースの少し端に寄り、鴎は夏海ちゃんが乗れるスペースを確保する。

 

「かき氷も移動しながら食べればいいし」

 

 夏海ちゃんは少し悩んだ後、俺の顔を見る。

 

「……乗ってもいいよ。一人も二人も変わらないから」

 

 結局、苦笑いしながらそれを了承する。ガラガラと二人が乗ったスーツケースを押しながら、俺は役所を目指したのだった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 

「よし。到着」

 

「ありがとう、羽依里」

 

「ぐらぐら揺れて、なんだか楽しかったです」

 

「でしょう。バランスをとって乗ってるのも大変なんだよー」

 

 役所に到着すると、そこにはちんまい少女がいた。背中に大きな水鉄砲を背負っている。のみきだ。

 

「三人とも、突然呼び出してしまってすまないな」

 

「……まさか、スーツケースに乗って現れるとは思わなかったが」

 

「そこは、気にしないでくれるとありがたい」

 

「初めまして。はいどろさん」

 

「はいどろ……?」

 

 夏海ちゃんが率先してあいさつするが、のみきは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている。

 

「まぁいい。私は野村美希。この島の少年団の執行部を取り仕切っている」

 

 そこは場慣れしているのみき。すぐに挨拶を返し、お互いに自己紹介を終える。

 

「ところで、執行部ってなに?」

 

「まぁ、島の風紀委員みたいなものだ」

 

「フーキーン?」

 

 鴎、イントネーションが微妙に違う。

 

「まぁ、悪いことしたら背中の水鉄砲でハチの巣にされるぞ、ってことだな」

 

「ええー……」

 

「鷹原、誤解を招くようなことを言うな。怖がってるじゃないか」

 

「それよりのみき、俺たちはどうして呼び出されたんだ?」

 

「ああ……今日の午後六時から、食堂で三人の歓迎会を行おうと思ってな」

 

「あのー私達、昨日一昨日来たばっかりなんだけど」

 

「うむ。この島に長く滞在する旅行客は『渡りの人』と言われていてな。歓待するのが習わしなんだ」

 

「つまり、黙って歓迎されろってことだな」

 

「そういうことだ」

 

「というわけで、午後六時になったら島の食堂に来てくれ」

 

「食堂の場所は鷹原がわかるだろう。二人を案内してやってくれ」

 

「わかった」

 

「よろしくたのむぞ」

 

 そこまで伝えると、のみきは役所の中に消えていった。

 

 のみきと別れた後、腕時計を見る。

 

 なんとも中途半端な時間だったので、その後は鴎も加藤家に来てもらい、一緒に時間を潰すことになったのだが……。

 

 

 

「羽依里! 羽依里! アリクイがいる!」

 

 鴎は夏海ちゃんの部屋にあったアリクイのぬいぐるみに興味津々の様子で、時間ギリギリまで夏海ちゃんの部屋に入り浸っていた。

 

 

「おーい、二人ともそろそろ……うお!?」

 

 時間が迫ってきたので部屋に呼びに行くと、ちょうどスーツケースとアリクイによるシュールな人形劇が展開されているところだった。あれは下手すると夢に見るかもしれない。記憶から抹消しておかないと。

 

 そして午後六時ちょうど。しろは食堂へとやってくる。

 

 すでに店に明かりはついていたので、三人一緒に店に入ると……。

 

 

 

 

「「ようこそ、鳥白島へー!」」

 

 

 

 

 四方からクラッカーの音が鳴り、紙吹雪がシャワーのように降り注ぐ。俺達三人は呆気にとられる。

 

 その後我に返って、ぐるりと店内を見渡す。俺と夏海ちゃんと鴎の他、カウンターの向こうにしろは、それぞれの席に蒼、藍、のみき、天善に良一。それに紬の姿まである。全員見知った顔だ。

 

 

「それではこれより、鷹原羽依里君、久島鴎さん、岬夏海さんの歓迎会を始める」

 

「話に聞いたところ、ほとんど顔見知りのようだが、一応自己紹介をしてもらいたい」

 

「どうも、鷹原羽依里です」

 

「あ、鷹原はいい。すでに有名人だ」

 

「だよな。言ってみただけだ」

 

「久島鴎です。よろしくお願いします」

 

「久島さんは毎年この時期だけ島に滞在している。皆、よろしく頼む」

 

「岬夏海です。よろしくおねがいします」

 

「夏海ちゃんは鏡子さんの親戚になるそうだ。この夏の間、加藤家に滞在することになってる。困ったことがあったら何でも言ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺たちが自己紹介をしている間、ジュースの入ったコップが配られていた。

 

「それでは、三人の来島を祝して」

 

 

 

「「かんぱーい!」」

 

 

 

 自己紹介が終了し、乾杯の音頭がとられる。その後は言い方は古いが、どんちゃん騒ぎが始まった。

 

 

「タカハラさーん」

 

「おお、紬も来てくれたんだな」

 

「はい! わたしも島の一員ですので!」

 

「ナツミさんの歓迎会となれば、来ないわけにはいきません!」

 

「ツムツム、なっちゃんのこと知ってるの?」

 

「はい。ズッ友です!」

 

「すでに親友!?」

 

「親友と言えば紬、静久は来てないんだな」

 

「わたしに全て任せると言って、帰ってしまいました。島の人間じゃないからと。ものすごく残念そうでしたけど」

 

「ありゃ、ズクズク来てないんだ」

 

「水織先輩も、今更そんなこと気にしなくてもいいのにね」

 

「……水織先輩いないんだってよ。残念だったな、天善」

 

 良一が良一を慰めるように、肩に手を置く。

 

「べ、別に残念だなどと思っていない!」

 

 いや、思いっきり顔に出てるだろ。

 

「あのー、ところで天善さんは、なんでずっとラケット持ってるんですか?」

 

「……よくぞ聞いてくれた」

 

 夏海ちゃんの質問に、天善が気を取り直したように立ち上がった。

 

「それは、卓球部だからだ!」

 

「へ、へぇー」

 

 びしっ、とサーブを打つポーズをとる。夏海ちゃんが引いた。

 

「ちょっと天善、夏海ちゃんが怖がってるじゃない!」

 

「ナツミちゃん、こっちでわたし達とお話ししましょう!」

 

「あわわわーー……」

 

 夏海ちゃんが紬たちに引っ張っていかれた。

 

 

 

「女連中、普段駄菓子屋であれだけ喋ってて、何喋るんだ?」

 

 俺の横にいた良一はひょい、と唐揚げを口に放り込む。

 

「さあな」

 

 しおらしく座りなおした天善は、おとなしくフライドポテトを食べ始める。

 

「きっと乙女チックな会話じゃないか」

 

 どんな会話か想像できないあたり、俺達には関係のない話題になりそうだ。

 

「よっと」

 

 唐揚げに続いて、焼き鳥の盛り合わせの中からつくねをつまむ良一。

 

「こっちはこっちで男らしく、焼き鳥の話でもするか?」

 

「するするー」

 

「鴎、お前はこっち側で良いのか?」

 

「え。鶏皮とか美味しいよね?」

 

「いや、うまいけどさ」

 

「しろしろ! 焼き鳥の盛り合わせ、もうひとつ追加!」

 

 ダメだ。なんかテンションがおかしくなってる。

 

 こういう場になると、キャラが変わるタイプなのかもしれない。

 

 そんな時、俺はふとした疑問を天善たちにぶつけてみる。

 

「そういえば、港にスーパーあったよな?」

 

「スーパー徳田のことか? 春先までは営業していたみたいだが、経営不振で潰れてしまったな」

 

「この島じゃ、大体駄菓子屋か港に行けば事足りるからな」

 

 確かにその通りかもしれない。

 

「蒼、サラダおまちどうさま。鴎は、焼き鳥の盛り合わせ、もう少し待ってて」

 

 その時、しろはが料理を運んできてくれた。

 

 その様子を見て、俺はカウンターの方へ向かう。

 

 

 

「あ、羽依里」

 

 焼き鳥を焼いているんだろうか。しろはが手元から目を離すことなく、俺に話しかけてくる。

 

「料理が足りなかったら言って。作るから」

 

 俺たちが店に入った時から、結構な量の料理がテーブルには並んでいた。

 

 つまり、しろはは今日一日をかけて、この料理やら会場の準備をしてくれていたのか。

 

「ありがとな、しろは」

 

「えっ。べ、別に羽依里のためだけじゃないし」

 

「夏海ちゃんや、鴎のためでもあるし」

 

「でも、俺も楽しんでるから」

 

「そ、そう……なら、いいけど」

 

 やっぱり小恥ずかしくなってしまい、途中で話題を変える。

 

「い、いつもとメニューも違うな」

 

「あ、うん。居酒屋仕様。お酒は出ないけど」

 

 それにしても、すぐにでも居酒屋が開けそうなレパートリーだ。

 

 その後は調理をするしろはとしばらく話をしていた。

 

 歓迎会も終盤になると、しろはもオーダーストップということで、皆の輪に加わった。

 

 そんな楽しい時間はあっという間で、すぐにお開きの時間になる。

 

 俺はともかく、鴎や夏海ちゃんは島の皆と出会って数日とは思えない打ち解けようだった。

 

 歓迎会は大成功だったと思う。

 

 解散の号令がかけられた後、女連中が片づけを始めたので手伝おうとしたら、主賓なんだから手伝わなくていいと言われて、俺と夏海ちゃん、鴎の三人は揃って店から追い出されてしまった。

 

 

 

「むう、せめて片づけくらい手伝いたかったんだけど」

 

「皆が良いって言ってくれてるんだから、ここはお言葉に甘えておこう」

 

「そうですね」

 

 気がつけば日は完全に沈み、空には満天の星空が広がっていた。

 

「そういえば、鴎は家近いのか? なんなら送ってくぞ」

 

「ありがとう。すぐ近くだから、大丈夫だよ」

 

 またね、と言葉を残し、鴎はスーツケースを引きながら去っていった。

 

「それじゃ、俺たちも帰ろうか」

 

「はい」

 

 そして加藤家までの道のりを、夏海ちゃんと二人で喋りながら帰ることに。

 

「あの料理、全部しろはさんが作ったんですよね?」

 

「そうだよ」

 

「昨日のコロッケもおいしかったですし、しろはさん料理上手ですねぇ」

 

 彼女のことを褒められて頬が緩みっぱなしになってるのが自分でもわかる。これは気をつけないと。

 

「見て夏海ちゃん、星がすごいよ」

 

「本当ですね!」

 

 俺の住んでる場所もそこまで都会とは言えないけど、ここまでの星空なんてまず見えない。

 

 星を眺め、虫の音を聞きながら歩く。

 

 ふと気がつくと、昼間通った小学校の近くを通りかかる。

 

「……」

 

「夏海ちゃん?」

 

 昼間のうろたえ方も気にはなってたけど、やっぱり様子がおかしい。

 

 星を見るのもやめ、うつむいている。

 

「夏海ちゃん……大丈夫?」

 

「え、えっと……」

 

 目の端で学校を見ている。やっぱり学校が原因なんだろうか。

 

「……学校で何かあったとか?」

 

「あ……その……えっと」

 

 図星みたいだ。でも、言い淀んでいる。

 

 ……だから、先に話すことにした。

 

 

「……俺も一年前、学校で失敗してね」

 

「逃げてきたんだ。この島に」

 

「え? 鷹原さんが?」

 

「うん」

 

「その時は島の誰とも関わらずに、黙々と蔵整理だけしていたっけかな」

 

「うそですよ。だって、昨日も今日も、あれだけ皆さんと仲良くしてたじゃないですか」

 

「今はね……その後、色々あったし」

 

「信じられないです」

 

「……島の皆と仲良くなれたから、今の俺がいると思うんだ」

 

「ごめんね、突然こんな話して」

 

「い、いえ」

 

 

「あ……あのっ、鷹原さん」

 

 

 少し考えるようにして、夏海ちゃんが顔を上げる。

 

 

 

「……私も逃げてきたんです。この島に」

 

「え?」

 

「……私、いじめられてました。学校で」

 

「島にいる間は、忘れられてるって思ったんですけど」

 

「学校見たら、思い出しちゃったみたいで……」

 

 いわゆるフラッシュバックってやつなのかな。

 

 真夏だというのに、夏海ちゃんは自分の身体を両手で庇い、震えている。

 

「それで、ですね……鷹原さん。変なお願いしていいですか」

 

「うん」

 

「……夏休みの過ごし方、教えてくれませんか」

 

「え?」

 

「その……私の夏休みは、学校から逃げるためのものだったので」

 

「夏休みの過ごし方、わからないんです」

 

「友達もいませんでしたし」

 

 ……今の話、出会ったばっかりの俺に打ち明けるなんて、相当に勇気が必要だったはずだ。

 

「夏休みの少し前、鏡子さんから手紙をもらったんです」

 

 夏海ちゃんはウエストポーチから封筒を取り出して、中から数枚の写真を見せてくれる。

 

「一緒に送られてきた写真に、凄く楽しそうな皆さんが写っていて」

 

 ほのかな星明りに照らされた写真の中には、島の風景写真と一緒に、俺たちの写真があった。

 

「これは……」

 

 これは今年の春。お花見の時の写真だ。俺としろはを中心に、皆が映ってる。とびきりの笑顔で。

 

「混ざりたいな……って、思ったんです。この写真見て」

 

 

 友達がいないなら、夏休みも一人。

 

 そんな夏休みがずっと続いていたのなら。

 

 そんな時に、この写真が送られて来たとしたら。

 

 ……飛び出してきてしまうかもしれない。

 

 いや、その事情を知っていたからこそ、鏡子さんはこの夏、夏海ちゃんをこの島に招待したのかもしれない。

 

 

「……じゃあ、教えようか?」

 

「え?」

 

「夏休みの過ごし方」

 

 自分でも自然にそんな言葉が出ていた。

 

 辛い思いを抱えて島にやってきた一人の少女が、一年前の俺と重なったのかもしれない。

 

 なかなか難しい問題だとは思う。

 

 でもせめて島にいる間は、心から楽しめる夏休みを。最高の思い出を作ってもらいたい。

 

 そう。いじめのことなんか、忘れるくらいに。

 

 

「……明日、皆にも話してみよう?」

 

「え?」

 

「大丈夫。皆協力してくれるよ」

 

「……ごめんなさい。変なお願いして」

 

「全然変じゃないよ」

 

「この島に来たからには、絶対に忘れられない思い出を作ってもらわないとね」

 

「それに、友達ならもういるよ」

 

「え?」

 

「今日、灯台で。紬や静久と友達になったよね」

 

「あ……」

 

「ズッ友なんだよね?」

 

「そう、です……」

 

「もちろん、俺やしろは、この島で出会った皆も、もう友達のつもりだから」

 

「……ありがとう、ございます」

 

 ……この島に来て、一番の笑顔が咲いたかもしれない。

 

「……もう、大丈夫そうだね」

 

「はい」

 

「……それじゃ、帰ろうか。鏡子さんが心配するよ」

 

「そうですね。あの人、またカップうどん食べてますよ」

 

「そうだね」

 

 俺たちは並んで歩き始める。その足取りはさっきより軽く、力強いものになっていた。

 

 

第三話・完

 

 




第三話・あとがき



皆様おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。

第三話の序盤はうみちゃんとの生活を繰り返すような夏海ちゃんとのやりとりが満載でした。

チャーハン作ったり、家事の分担をする辺りはほとんど同じと言ってもいいかもです。めちゃくちゃ書きやす……いえ、楽しかったです。

その後の島案内は、現在の島の状況説明も兼ねてやりました。Pocketでは、島にスーパーがあるという表記がされていましたが、この小説では色々と都合が悪いので潰させてもらいました。

そして歓迎会を書いてて思ったのが、本編ではこの歓迎会もそこまで触れられてなかったなぁと。平将門と六波羅探題に尺のほとんどを取られてた気もします。

ラストの方で夏海ちゃんの告白も済みましたし、次回からは楽しい夏休みが本格始動です。お待たせしました。


■今回の紛れ込みネタ

・パンチ拳とか、オーロラの剣
Rewriteのヒロインや主人公の必殺技ですね。パンチ拳はHP回復しますけど。

・アリクイさんのぬいぐるみ
kanonで佐祐理さんが舞に贈ろうとしていたぬいぐるみです。

・ナマケモノさんのぬいぐるみ
AIRで往人さんの新しい商売道具として晴子さんが一万円で買ってきたらしいぬいぐるみです。

・フーキーン
Rewriteより、静流の台詞。私はフーキーンだ!

以上になります。いくつお気づきになられたでしょうか。

感想など頂けましたら、泣いて喜びます。
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