Summer Pockets #2   作:トミー@サマポケ

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第三十話 8月19日(後編)

 

 

 駄菓子屋から加藤家へと帰宅すると、急に疲れが足に来た。

 

 なんだろう、移動はバイクだったはずなのに。港での四天王スクワットが効いてるんだろうか。

 

「羽依里さん、お昼はどのカップうどんにしますか?」

 

 居間であぐらをかいて、適当に足の筋肉を揉んでいると、夏海ちゃんが台所から色々な種類のカップうどんが入った袋を持ってきた。変わらず元気だね。

 

「じゃあ、今日はこれにしようかな」

 

 なんとなくスタミナをつけたくて、今日はとろろうどんをチョイスした。どうやったらカップでとろろうどんができるのかわからないけど。最近のフリーズドライ技術ってすごい。

 

「夏海ちゃん、灯篭作りは13時からだから、お昼ご飯食べたら出発しよう」

 

「わかりました!」

 

 ちなみに、とろろうどんは一つしかなかったので、夏海ちゃんはキムチうどん(甘辛)を食べていた。お互いにスタミナをつけて、午後からも頑張らないとね。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 昼食後、俺たちは灯篭作りのため、小学校へ向かっていた。

 

「そういえば、どんなお祭りなんですか?」

 

「え?」

 

 その道すがら、夏海ちゃんからそんな質問をされた。

 

「この島のお祭りですよ。羽依里さん、去年も見たんですよね?」

 

「いや、俺は去年は蔵の虫になっていたから」

 

「はい? なんの虫ですか?」

 

「去年の夏休みは、ずっと蔵の整理をしていたんだ」

 

「じゃあ、お祭り見てないんですか?」

 

「うん」

 

「えー、もったいないですよ。せっかくのお祭りなのに」

 

「じゃあ、今年は皆で見ようかな」

 

「はい! そうしましょう!」

 

 明後日なら、まだリトルバスターズの皆も居るだろうし、賑やかになりそうだ。

 

 

 

 

 そんな話をしていると、小学校に到着した。

 

「ついた。ここだよ」

 

「え、ここなんですか?」

 

 目の前には小学校の正門が広がっている。普段は柵が閉まってるけど、今日は灯篭作りがあるからか、門は開け放たれていた。

 

「ここ……ですか……」

 

「うん。敷地を抜けた先のプールサイドで……って、夏海ちゃん?」

 

 急に夏海ちゃんの元気がなくなった気がした。思わず顔を見ると、表情が明らかに曇っている。

 

「……あ」

 

 しまった。夏海ちゃんは学校にトラウマがあったんだ。

 

 最近は小学校の前を通るくらいじゃなんともないみたいだけど、中に入るとなると話は別だと思う。なんで気が付かなかったんだろう。

 

 俺もかつて、水に入るのすら駄目だった時期がある。夏海ちゃんの気持ちは痛いほどわかるはずなのに。

 

「夏海ちゃんごめん。気がつかなかったよ」

 

「い、いえ。羽依里さんは悪くないです……」

 

 そう言いながらも夏海ちゃんはすごい汗をかいてる。心なしか、体が震えてる気もするし。

 

 これは、灯篭作りは諦めて帰った方が良いかもしれない。そう思った時……。

 

「やっほー、なっちゃん!」

 

「夏海ちゃんも灯篭作りに来たのねー?」

 

 声がして振り返ると、そこには鴎と蒼、そして紬としろはがいた。この四人も、灯篭作りに来たんだろうか。

 

「あのさ、夏海ちゃんなんだけど……」

 

 確か、夏海ちゃんのトラウマについては島の皆に伝えてなかったはずだ。この期に及んで、なんて説明しよう。

 

「夏海ちゃん、大丈夫だよ」

 

 俺が言いよどんでいると、しろはたちは四人でそっと夏海ちゃんを囲む。

 

「夏海ちゃん。灯篭作り、やりたいよね?」

 

 そして、しろはが夏海ちゃんの正面にしゃがみ込んで、ゆっくりと優しく問いかける。

 

「や、やりたい、です……」

 

 夏海ちゃんは、泳がせていた視線を前に戻し、しっかりとしろはを見ていた。

 

「うん。それじゃ、行こう」

 

 その返事を聞いて、しろはは夏海ちゃんの手を取る。

 

「決まりねー」

 

「なっちゃん。大丈夫だよー」

 

「ナツミさん、わたしたちがついてます!」

 

 そのまま夏海ちゃんを守るようにしながら、一緒に学校の敷地の中へ入っていった。

 

「ほら、羽依里も行くよ」

 

 呆気にとられていると、しろはからそう呼ばれた。俺も慌てて後を追う。

 

 

 

 

 ゆっくりと学校の敷地内を通って、プールサイドへ到着した。

 

 そこでは既に沢山の子供たちが集まっていて、学校の先生と思われる人がお祭りの謂れや、灯篭の作り方を説明していた。

 

「に、賑やかですね」

 

 皆の協力のおかげか、プールサイドに着いた頃には、夏海ちゃんもだいぶ落ち着いていた。

 

 俺たちは子供たちの邪魔にならないように、一番後ろに並んで座った。子供の授業参観にやってきた親が見る景色って、こんな感じなんだろうか。

 

「はい、それではさっそく灯篭を作ってみましょう!」

 

 説明が終わると、先生から材料の木材や和紙、接着用のノリが配られて、皆で灯篭を作り始めた。

 

「よーし、やるぞー!」

 

「オレが一番だー!」

 

 島の子供たちは毎年のことで慣れているのか、競争するように組み立てていく。とても上手だった。

 

 鴎やしろはもサクサクと組み立てている。鴎はもともと手先が器用だし、しろはも昔から作っているのか、慣れている様子だった。

 

 

 

「むぎぎぎぎ、思ったより難しいです」

 

「あ、ここはこうなんじゃないですか?」

 

 一方、紬と夏海ちゃんは初めてながらも、協力しながら灯篭を組み立てていた。少しずつだけど、確実に完成に近づいている気がする。

 

 

 

「あ、あれ? この骨組み、短いんじゃない?」

 

「蒼、それは下じゃなくて、右の骨組みになるんじゃないか?」

 

「……あ、ホントだ」

 

 そして思っていた通り、蒼が四苦八苦しているようだった。

 

「お前、子供の時から参加してたんじゃないのか?」

 

「う、うるさいわね。昔はなんだかんだで藍に手伝ってもらってて……って、そう言う羽依里はどーなのよ?」

 

「見ての通り、もう完成したぞ。余裕だ」

 

 ……ちょっと傾いてる気がするけど。

 

「羽依里の灯篭、このまま海に浮かべたら一番に沈むと思うよ?」

 

「うぐっ」

 

 隣のしろはからツッコまれた。だって、思ったより難しかったんだもん。

 

「羽依里、相変わらず下手だね」

 

「そうかな。初めてにしては良くできた方だと思うんだけど」

 

「もうちょっとしっかり組まないと。一度分解するよ?」

 

「お、おう……」

 

 しろはが慣れた手つきで灯篭を分解していく。俺はその様子を、ただただ眺めていた。

 

「あ。そうだ……しろは」

 

 その時しろはの耳元で、夏海ちゃんのトラウマについて、こっそりと打ち明けた。

 

 途中まで話を聞いたしろはは、静かに微笑みながら、口元に指を立てた。

 

「……知ってるよ」

 

「え、知ってるの?」

 

「うん。夏海ちゃんの友達は、羽依里だけじゃないんだよ」

 

「あ……」

 

 なるほど。俺が鴎や紬たちと外出している間にも、夏海ちゃんは島の皆と過ごしていたわけだし。その時に、トラウマについても皆に話したんだろう。

 

「えっと……しろは、ありがとうな」

 

「気にしなくていいよ。私たちも夏海ちゃんが好きだからね」

 

 しろははそう言って微笑んでくれる。すごく安心できる笑顔だった。

 

「それじゃ、灯篭もちゃちゃっと作っちゃうね」

 

「うん。よろしく頼むよ」

 

 周囲を見てみると、ほとんどの皆が灯篭を完成させていた。ここは、しろはに任せよう。

 

 手持ち無沙汰になってしまった俺は、何の気なしに金網フェンスの向こうのグラウンドに目をやる。

 

「……あれ?」

 

 

 

「よーし、バッティングと守備練習スタートだ!」

 

 そこでは恭介の指示のもと、リトルバスターズのメンバーが野球の練習をしていた。

 

「いくぞっ……しねっ!」

 

「ふんっ!」

 

 鈴が投げた剛速球を、真人が容易く打ち返していた。というか、めちゃくちゃ飛ばしてるんだけど。やっぱりあの筋肉、伊達じゃないらしい。

 

「ジャーンプ!」

 

 その後、理樹が打ったボールは内野の守備をやっていた葉留佳が大ジャンプをしてキャッチしていた。すごい運動能力なんだけど。

 

 あんな人たちと勝負するのか……正直、勝てるんだろうか。

 

「……はい。完成したよ」

 

「え、もう!?」

 

 俺が野球の練習を見ている間に、しろはは灯篭を完成させてしまった。本当にあっという間だった。

 

「それでは皆さん、組み立てが終わったら後ろに集めますよ! お祭りの当日まで、しっかりとノリを乾かしましょうー!」

 

 先生からそう指示されて灯篭を一ヶ所に集めた後、その場はお開きとなった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 灯篭作りが終わった後、俺たちはそのままグラウンドに出る。

 

 練習を始める前に、道具の確認をする。先にリトルバスターズの皆が使ったはずだけど、綺麗に整理整頓されていた。

 

 グラウンドもちゃんとトンボがけされていたし、もしかしてこれ、草取りまでしてくれてるのかな。抜かりがなかった。

 

 やがて約束した時間になると、良一や天善をはじめとした、勧誘したメンバー全員がやってきてくれた。

 

 

「よし、それじゃ集まってくれ」

 

 各自で道具を手にした後、俺を中心にして輪になってもらう。

 

 ちなみに、練習場所のグラウンドは小学校の敷地内だけど、島の皆が揃っていることもあってか、夏海ちゃんの様子はいつもと変わらなかった。

 

「そういえば、練習を始める前に、皆に聞いておきたいことがあるんだ」

 

「え、どうしたの?」

 

「この中で、野球経験がある人っている?」

 

 ……ダメもとで聞いてみるけど、誰も手を挙げない。

 

「ルールを知っている程度だな。俺は卓球部だからな」

 

 うん。悪いけど天善には最初から期待していない。

 

「野球なー。遊びでやったことはあるけど、バッターと内野しかやったことないぜ。なにせ同級生が少ないからなー」

 

 ローカルルールで、外野まで飛んだらホームランになる感じだったんだろうか。

 

 でも、良一の言うことはもっともだった。島だと子供も少ないし、野球をやる人数をそろえるだけで大変だろう。まして、ちゃんとした試合なんて、もっての他だ。

 

「私や蒼ちゃんも、きちんと野球をやったことはないです。時々、男の子たちに混ざって一緒に遊んでいたぐらいですね」

 

「そうねー。藍とか、その辺の男の子より足速かったもんねー」

 

 俺は皆が子供の頃を知らないけれど、藍なら『遅いですよ、良一ちゃん』とか言いながら、先の塁を走っていた良一を蹴り倒して、追い抜いて行きそうだと思った。

 

「……なあ羽依里、まさかとは思うが、変な想像してるんじゃないよな?」

 

「し、してない。してないぞ」

 

 良一が哀愁に満ちた目で俺を見ていた。こいつ、読心術でも使えるのか?

 

「そう言う鷹原は野球をやったことあるのか?」

 

「いや、ないけど」

 

 のみきに聞かれたので、正直にそう答えておいた。俺は子供の時から、ずっと水泳一筋だったし。

 

「うーん。やっぱりいないよな……」

 

 俺が諦めかけた、その時。

 

 おずおずと、小さな手が上がった。

 

「あれ、夏海ちゃん?」

 

「あの、私、野球してました」

 

「え、してたの?」

 

「はい。リトルリーグで、その、春までやってました」

 

「そうだったんだ」

 

 知らなかった。高校野球が好きだったり、運動神経が良いとは思っていたけど。思わぬところに経験者がいた。

 

「ところで、ポジションは?」

 

「ピッチャーです」

 

「おお、ピッチャー」

 

 他のポジションと違って、一朝一夕でやれるようになるポジションじゃない。これは大きいかも。

 

「でもなっちゃん、あんな人達を相手に投げられる?」

 

「あ、あう……」

 

 鴎の問いかけに対し、言葉を詰まらせる。きっと真人とか謙吾をイメージしたに違いない。

 

「が、頑張ってみます。ちょっとブランクありますけど」

 

 夏海ちゃんはグローブとボールを手に、気合いを入れていた。持ち方も様になっているし、経験者というのは本当だろう。

 

「それじゃあ皆、まずはキャッチボールから始めよう!」

 

 その後は、適当に二人組を作ってもらい、練習を始めることにした。

 

 

 

 

「うーん」

 

 集まったのが11人ということもあって、ちょうど溢れた俺は皆が練習する様子を眺めていた。

 

 経験者という夏海ちゃんは元より、良一や天善にのみき、空門姉妹はキャッチボールをそつなくこなしていた。そして予想外に、静久が上手い。

 

 問題はそれ以外の3人だった。

 

 

「えい!」

 

「いてっ!?」

 

「あ、良一、ごめん……」

 

 しろはの投げたボールは、相方ののみき……ではなく、その隣にいた良一の頭を直撃していた。

 

「むむむむむ」

 

 しろはは悔しそうな顔をしながら、戻ってきたボールをじっと見つめている。しろは、悪いのはボールじゃないと思う。

 

 

「とりゃーーー!」

 

 鴎は元気は良いのだけど、ボールが明後日の方向に飛んでいってしまっていた。なんというか、力みすぎだった。

 

「鴎さん、もっと力を抜いて投げればいいんです! こんな感じです!」

 

 夏海ちゃんが必死にレクチャーしていたけど、なかなかボールの軌道が定まらない。鴎、味方に揺れる魔球投げてどうするんだ。

 

 

「むぎぃぃーーー!」

 

 その隣では、紬が静久とキャッチボールをしていた。

 

 紬も力任せに投げている感じで、大暴投だった。あれを続けていると、肩を傷めないか心配になる。

 

「紬、こうよ。クーパー靭帯を軽くゆする程度で良いの」

 

 そんな紬には、静久が優しくおっぱいで教えていた。伝わるかはわからないけど。

 

 

「……うん。次はバッティング練習をしよう」

 

 ピッチングの問題はいったん棚上げにして、次に皆のバッティングセンスを見てみることにした。

 

 夏海ちゃんに緩めのボールを投げてもらいながら、皆で代わる代わる打席に立ってもらう。

 

 ちなみに、誰もやる人がいないということで、キャッチャーは俺がやることになった。

 

 

 

「うーん……」

 

 結論から言うと、ここも良一や天善やのみき、空門姉妹は文句なしで上手かった。全く、島育ちの身体能力の高さには驚かされる。

 

 ……俺? 俺はまぁ、普通だと思う。一応、運動部だったし。

 

 

 

「うりゃーーー! てりゃーーー!」

 

 それにしても、鴎が予想以上にバッティングが上手で驚いた。やってことないって言ってたけど、天性のものがあるんだろうか。飛ばしまくっていた。

 

 でも、バッティングフォームもタイミングの取り方も独特だった。カモメ打法とでも名付けようか。

 

 そして、このバッティング練習も、しろはと紬は苦手みたいだった。

 

 

 

「むっぎゅっぎゅ……全然当たりません……」

 

 紬は目をつぶってバットを振っていた。振った勢いで身体がくるくると回転してしまっているし、あれでは当たらないと思う。

 

「紬、しっかり目を開けて、おっぱいを意識して腕を振るのよ! おっぱい打法よ!」

 

 男の俺にはよくわからないから、紬の指導は静久に任せよう。静久はバッティングもコンスタントにこなしているし、きっとなんとかなると思う。

 

 

 そして、しろははバッティングも苦手みたいだった。

 

「むむむむむむむ」

 

 だからしろは、悪いのはバットじゃないと思う。

 

 なんて言うんだろう。バッティングフォームの基本ができてない。

 

「えっとしろは、腕の振り方が変なんじゃないか?」

 

 豪快に空振ったしろはを見ていられず、キャッチャーマスクを外して声をかける。

 

「え、どうやるの?」

 

「えっと、腕の位置はこんな感じで……」

 

「ちょ、ちょっと、羽依里」

 

「あ、ごめん……」

 

 思わず、しろはを背後から抱きしめるような形になっていた。

 

「おいお前たち、どさくさに紛れて何をやっているんだ?」

 

 その様子に気づいたのか、のみきが鬼の形相でハイドログラディエーター改を構えていた。

 

「いや、これは不可抗力で」

 

「そ、そう。そうなの。フカコーリョクで」

 

 俺としろはは揃って両手をあげて、身の潔白を証明する。

 

「お二人とも、マジメに練習しないとダメですよ!」

 

「そうだよ! 練習しないと、レギュラーになれないよ!」

 

 紬と鴎にも怒られてしまった。うう、わざとじゃないのに。

 

 

 

 ……それにしてもどうしよう。ボールの投げ方に関しては、ある程度夏海ちゃんから教えてもらえそうだけど、打ち方に関しては専門外だろうし。

 

 ここはいっそ、恭介に相談した方がいいだろうか。今日明日中にはポジションも決めなくちゃいけないし。これは予想以上に大変かも……。

 

 

 

「あ、こんなところで野球の練習やってますよ。秋生さんっ」

 

 そんなことを考えていると、グラウンドの隅の方から声が聞こえた。

 

「小学生……じゃねぇな。なんで高校生くらいの連中が野球やってんだ? 甲子園ももう終わったってのによ」

 

「ここ、小学校だよな」

 

「はい、朋也くん。どう見ても小学校です」

 

 声のする方を見てみると、数人の男女が俺たちの様子を見ていた。おそらく旅行者だろう。

 

 別に野球の練習なんて珍しくもないだろうに……なんて思っていると、その中の一人に見覚えがあった。

 

「あれ? あんたはもしかして、金魚すくいのオッサン!?」

 

「そう言うお前は、あの時のヘナチン小僧!?」

 

 あの茶髪にサングラス。間違いなく、先日港で金魚すくいの出店をしていたオッサンだった。

 

 

 

 

「悪い皆、ちょっと集まってくれ!」

 

 俺たちは一旦練習を取りやめて、その人たちの周りに集まる。

 

 なりゆきで、俺が最初に自己紹介をして、他の皆がそれに続いてくれる。

 

「俺様は古河秋生だ。よろしくな」

 

 俺たちに続いて、オッサンも自己紹介をしてくれた。

 

 それによると、このオッサン……古河秋生さんは、家族旅行がてら、この島にパンを売りに来ているらしい。

 

「今回は金魚じゃなくて、パンなんだな」

 

「そうだ。俺様は元々パン屋なんだよ。この前の金魚すくい屋は、旅行の下見を兼ねた仮の姿ってわけだ」

 

 下見は良いけど、こんなヤンキーみたいな人が営むパン屋。あまり近寄りたくないんだけど。

 

「じゃあ今度は、俺様の連れを紹介する番だな」

 

 オッサンの隣には、二人の女性と一人の男性、それと小さな女の子がいた。

 

「紹介するぜ。こっちがマイワイフの早苗、こっちがマイドーターの渚だ」

 

 秋生さんの隣にいるのが、奥さんの早苗さん。そして、その隣が娘の渚さんらしい。二人とも、すごい美人だった。

 

「古河早苗です。皆さん、よろしくお願いしますねっ」

 

「岡崎渚です。よろしくお願いしますっ」

 

「で、こっちがマイドーターオブドーターの汐だ。汐、あいさつしな」

 

「こんにちわ」

 

 えっと、マイドーターオブ……娘の娘って事は、孫になるのか。

 

「え、孫!?」

 

 思わず、声が出てしまっていた。うそだろ。めちゃくちゃ若々しいのに、おじーさんなのか。このオッサン。

 

「羽依里……いや、ヘナチン小僧。何か文句でもあるのか?」

 

「いや、文句なんてないけど」

 

 一度名前を呼びかけて、言い直された。なんか傷つく。

 

「ほら小僧。テメェも挨拶しろよ」

 

 その次に、オッサンが青い髪の青年に話を振る。どうも、タイミングを逃したみたいだった。

 

「……岡崎朋也だ。よろしく頼む」

 

 改めて顔を見てみると、すごいイケメンだった。どこかオッサンと雰囲気が似てるような気がしないでもないけど。

 

 苗字が同じだし、どうやら朋也さんと渚さんが夫婦で、汐ちゃんがその娘さんらしい。

 

「でもお義父さん、せめて渚と汐の紹介は俺にさせてくださいよ」

 

「悪いな、息子よ」

 

「うわあーーーー!」

 

「うおおおおーーー!」

 

 なんだろう。よくわからないけど、急に男性二人が地面を転がって、悶え苦しみだした。

 

「いつものことですから、気にしないでくださいねっ」

 

「うん。いつものこと」

 

 呆気に取られる俺たちを尻目に、早苗さんと汐ちゃんがそう言って笑っていた。

 

「お父さんと朋也くんがお見苦しい姿をお見せしてしまって、すみませんっ」

 

 一方で、渚さんはペコペコと頭を下げていた。なんだろうこの状況。

 

 

 

 

「で、てめぇらはなんで野球やってんだ?」

 

 その後、オッサンはタバコに火をつけながら、何事もなかったかのように話を進める。

 

「えっと、実は……」

 

 俺はこれも何かの縁かと思い、リトルバスターズと野球をやることになった経緯を説明した。

 

「……なるほどな。それにしても、試合が出来る状況じゃねぇ気もするんだが」

 

 俺たちの練習風景を見ていたんだろうか。何かを思い出すように、オッサンはそう言っていた。

 

「それはその、今日チームを結成したばかりだからさ」

 

 俺は正直に答えていた。だって、本当のことだし。

 

「それで、三日後には試合すんのか? さすがに厳しいだろ?」

 

「そ、それは……」

 

 俺たちは揃って黙り込んでしまう。

 

 確かに人数だけは揃ったけど、所詮は素人の集まりだし。

 

「……秋生さん、ここで会ったのも何かの縁ですよ。教えてあげてはどうですかっ?」

 

「そうです。お父さん、ここは腕の見せ所ですっ」

 

 早苗さんと渚さんが、オッサンにそう提案していた。

 

「え、どういうことですか?」

 

「秋生さんはこう見えて、近所の子供たちに野球を教えているんです。きっと皆さんの力になってくれますよっ」

 

 ……つまり、この人は少年野球の指導経験があるのか? 正直、信じられない。

 

「……確かに、俺様は野球の指導経験がある。だが、いくら早苗や渚の頼みでも、タダというわけにはいかねぇな」

 

「え。もしかして、お金を取るの?」

 

「当然だ。俺様の指導料は安くはねぇぞ。そうだな。試合までの数日間の指導でも、軽く見積もって……」

 

 その時、渚さんが汐ちゃんをオッサンの目の前に抱き上げる。

 

「ほら、しおちゃんも一緒にお願いしましょうっ」

 

「あっきー、おねがい」

 

「……軽く見積もって10万円と言いたいところだが、今回は特別サービスだ。タダで教えてやる」

 

 汐ちゃんに頼まれた瞬間、見事な変わりようだった。

 

「孫に頼まれると、嫌と言えねぇ。おじいちゃんの性だよな」

 

「そ、そういう人ばっかりじゃないと思うけど」

 

 ニコニコ顔になってるオッサンに対し、しろはがそう返していた。しろはも孫だし、何か実体験があるのだろうか。

 

「でもオッサン、本当にいいのか?」

 

 年上なのは分かったんだけど、なぜかオッサンに対して敬語を使う気になれなかった。何というか、あの人の雰囲気がそうさせるんだろうか。心は少年、みたいな。

 

「一度言ったことを変えるつもりはねぇよ。俺様が手取り足取り教えてやる。泥船に乗ったつもりでいな」

 

 ちょっと待って。泥船だと、すぐに沈んでしまいそうなんだけど。

 

「ただし練習の間、俺様のことは監督か、秋生様と呼べっ!」

 

「よろしく、監督」

 

「秋生監督、よろしくお願いします!」

 

「カントクさん、よろしくお願いします!」

 

「監督さん、よろしくねー」

 

 ……秋生様とは、誰も呼ばなかった。

 

 でも、思わぬところで指導者を見つけることができた。これは本当に助かった。

 

 

 

 

 そしてオッサンの指導のもと、改めて練習が始まった。

 

「よし、テメェら、まずは千本ノックから行くぞ!」

 

 俺たちは適当にポジションについて、オッサンのノックを受ける。

 

「オラオラ、しっかり取れよーー!」

 

 でも、せめて100本くらいにしておいてもらいたい。真面目に千本もやってたら、日が暮れてしまう。

 

 

「お、卓球野郎はなかなか良い反射神経してるじゃねぇか!」

 

「当然だ。トレーニングの成果だ!」

 

「後は、もうちょっと集中力が続きゃいいんだがな!」

 

「な、しまったっ……」

 

 言った直後、天善はボールをトンネルしていた。確かに、天善は集中力が足りないような気がする。

 

 

「そっちの双子は、なかなか筋が良いな!」

 

「当然です。これくらいなら朝飯前ですよ」

 

「もうすぐ夕飯だけどな!」

 

「う、うるさいですね。言葉のあやですから!」

 

 空門姉妹は安定した動きでオッサンの打球を捕球していた。あのノックについていくなんて、さすが島育ちは違うな……。

 

 でも、二人揃ってスカートなのはやめてほしい。どうしてもその、危ないし。

 

「羽依里さん。ご期待に沿えず残念ですが、私も蒼ちゃんも、下はスパッツはいてますから」

 

 藍は勝ち誇った顔をしていた。べ、別に何も期待してないし。

 

 

「……なぁお前、足でも悪いのか?」

 

「えっ?」

 

 何度目かの打球が鴎の所に飛んでいったとき、オッサンがそう問う。

 

「えっとそのー、実は足をくじいちゃって」

 

「……そうか。まぁ無理はすんなよ」

 

「はい!」

 

 なんだろう。心なしか、オッサンの口調が優しくなった気がする。もしかして、何か気がついたんだろうか。

 

「……カモメ嬢の次はつむぎゅだ! 行くぞ!」

 

 内野にいた紬に向け、ボテボテのゴロが転がっていった。

 

「むぎゅ!?」

 

 紬はへっぴり腰だった。結果うまく捕球できず、グローブに当たってボールの方向が変わる。

 

「むぎゅぎゅぎゅ……」

 

 そのままボールを見失ったらしく、ツインテールをデンデン太鼓みたいに振りながらボールを探していた。

 

「つむぎゅはしっかりボールを見ろ! あと、怖がるんじゃねぇ! ボールは友達だ!」

 

 なんか競技が違う気もするけど、紬に対してはかなり優しくノックをしていた。普段は小学生に教えてるって言っていたし、初心者への指導方法も心得ているみたいだ。

 

 言葉は乱暴だけど、その指導は全てが的を得ていた。なんだかんだで、この人は教えるのが上手い。

 

 

 

 

「よし、次はバッティングフォームを見てやるぜ!」

 

 ノックの後はオッサンがピッチャーを務め、俺たちは順番にバッターボックスに立つ。打席に立つ人以外は適当に守備位置について、守備練習も兼ねる。

 

 ちなみに、キャッチャー役に抜擢されたのは、やはり俺だった。

 

「時速160キロのストレートを受けてみろぉぉぉーーー!」

 

 次の瞬間、目にも止まらぬ剛速球が俺のミットに納まる。

 

「そんなボール、打てるかよ!?」

 

 良一の言うとおりだ。ボールを受けた俺の手も痺れるくらいの衝撃だ。

 

「次は、落差1メートルのフォークを受けてみろぉぉーーー!」

 

 続くボールは途中で思いっきり軌道が変わった。

 

「ちょっとーーー! 打てるわけないでしょーーー!?」

 

 蒼の言うとおりだ。ボールを受けた俺も、ほとんど地面にボールを押さえつけるようにして捕球していた。

 

 というかオッサン、プロに行け。

 

 

「ん……お前、金属バットきついんじゃね?」

 

「えっ?」

 

 オッサンがそう声をかけたのは、蒼の次にバッターボックスに立った夏海ちゃんだった。

 

「はい……実は、金属バットは使ったことが無くて」

 

 確かに、なんとか金属バットを持っている感じだ。明らかに安定していない。

 

「お前、小学生だろ。それならカーボンバットが使えるな。明日までに調達してきてやるよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「オッサン、夏海ちゃんはリトルリーグで、ピッチャーの経験があるんだ」

 

 その様子を見て、俺はオッサンにそう伝える。

 

「そうか。なら、今日のところはピッチャーに集中しろ。ほら、交代だ」

 

 そこでオッサンは夏海ちゃんにボールとグローブを投げて渡す。

 

「わかりました!」

 

 そしてオッサンに代わって、夏海ちゃんがマウンドに立つ。

 

「まずはバッターを立たせずに、ヘナチン小僧に向けて何球か投げてみな。持ち球があるんなら、それを織り交ぜて構わねぇ」

 

「はい! それじゃあ羽依里さん、行きますよ!」

 

 その後、夏海ちゃんからの投球を受ける。変にブレるボールとかあったので、何度か取り損ねてしまった。

 

 ちなみに、オッサンは少し離れたところから、夏海ちゃんの投球を見ていた。

 

 「……なるほどな。持ち球はストレートと、フォークと、ナックルか」

 

「そ、そうです!」

 

 オッサンは即座に夏海ちゃんの球種を言い当てていた。やっぱりこの人、凄い人なんじゃないだろうか。

 

「だが、まだ球筋が定まってねぇな……よし夏海、今日はそのまま投げ続けて、肩を作りな」

 

「はい!」

 

「ヘナチン小僧も、しっかり捕球練習をしておけよ」

 

 オッサンはそう言うと、のみきをバッターボックスに立たせる。

 

「……えい!」

 

 夏海ちゃんが投げたボールを、のみきが打つ。ボールは内野を転がり、三塁を守っていた蒼が捕球する。

 

「お、のみき。お前は小学生の割にボールをミートするのが上手いじゃねぇか」

 

「えっへん。動体視力には自信がある……って、私は小学生じゃないぞ!?」

 

 のみきは小学生と間違えられていた。確かに身長は夏海ちゃんとさほど変わらないし、仕方ないのかもしれない。

 

 

 次にバッターボックスに立ったのは静久だった。

 

「あー、あんたはその、胸にサラシでも巻いたらいいんじゃねぇか?」

 

 オッサンは何とも言いにくそうだった。確かに静久、あの胸だと、すごく打ちにくそうなんだけど。

 

「た、確かにすごいな……」

 

「……朋也くん、どこを見てるんですか?」

 

「……渚、お前のその顔、ものすごく怖いからやめてくれ」

 

 汐ちゃんを膝の上に乗せた渚さんに、朋也さんが睨まれていた。いやまあ、健全な男子なら一度は見入っちゃうよな。うん。

 

 

 静久に続いて打席に立ったのは、紬だったけど……。

 

「むぎぎーー!」

 

「だから、つむぎゅはもっとしっかりボールを見ろ! 足を踏ん張れ!」

 

 オッサンの指導力をもってしても、紬のバッティングフォームの改善はなかなか難しそうだった。

 

「やっぱり、紬はおっぱい打法を極めるしかなさそうね……紬、灯台にいる間は特訓するわよ!」

 

「わ、わかりました!」

 

「……よくわからねぇが、二人に任せる」

 

 オッサンも悩んでいる様子だった。こうなったら、彼女たちの友情に賭けるしかない。

 

 

「とりゃーーー! てりゃーーー!」

 

 その次に打席に立ったのは、鴎だった。

 

 出鱈目にバットを振り回しながらも、ヒットを量産する。

 

「うーむ。鴎はあえてフォームはいじらねぇほうが良さそうだな。そのままカモメ打法で行きな」

 

「はい! コーチ!」

 

 オッサンも太鼓判を押してくれたし、打撃に関しては鴎は大丈夫そうだった。人間、何か一つは取り柄があるみたいだ。

 

 残るは、しろはだけど……。

 

 

「あー、もうちょっと腕を振ったらいいんじゃねーか?」

 

「え、こう、かな?」

 

「いや、重心がブレてやがる。バット構えたら重心は真ん中だ。で、撃つ時は右足に体重を乗せんだよ」

 

 オッサンがバットを持って、丁寧にしろはにバッティングフォームの手本を見せてくれる。

 

「よし夏海、直球投げてみな」

 

「はい! しろはさん、行きますよ!」

 

 夏海ちゃんにボールを投げてもらって、それをしろはが狙う。

 

「えい!」

 

 ……空振りだった。

 

「……それにしてもしろは、変わった動きでタイミングを取るんだな」

 

「え、そうかな?」

 

 俺は捕球した直後、しろはにそう声をかける。

 

 本当に変わった動きだ。小刻みにバットを動かしている。あの動き、どこかで見たことあるような。

 

「よし、もう一球!」

 

「はい! しろはさん、行きますよ!」

 

「う、うん」

 

 夏海ちゃんが直球を投げる。しろはがそれに合わせてバットを振る。

 

 ……掠った。

 

「あ、惜しいです!」

 

 夏海ちゃんの言うように、段々とタイミングがあってきたような気がする。

 

「しかし、変わったタイミングの取り方をしやがるな……」

 

 オッサンも気になったようで、顎に手を当てながら、何やら考えている。

 

 その時、俺は一足先に理解した。

 

「……そうか。チャーハンだ」

 

「あ? チャーハンがどうした?」

 

「しろはがタイミングを取るときの手の動き、チャーハンを作るときの動きと同じなんだ」

 

「本当ですね。まるで、チャーハン打法です!」

 

 夏海ちゃんもマウンドの方から大きな声でそう言っていた。良いな。チャーハン打法。

 

「まぁ、タイミングの取り方は人それぞれで決まりはねぇから、好きにしてもらっていいけどよ。チャーハンねぇ……?」

 

 オッサンは首をかしげながら頭をかいていた。そんな中、しろはは何かを掴んだのか、その後もずっとチャーハン打法を練習していた。

 

 

 

 

「よし、集合!」

 

 一時間ほど練習した後、オッサンの号令でグラウンドの一角に集まる。

 

 結局、今日はひたすらに基本練習だけに終始し、ポジションについては一切話さなかった。

 

「なあオッサン、今日はポジションは決めないのか?」

 

「大体目星がついてるポジションもあるけどな。詳細は明日だ」

 

 良一の疑問に対し、オッサンはそう返していた。

 

 今日の流れから見ると、夏海ちゃんのピッチャーと俺のキャッチャーは決まりっぽいけど。

 

「それで、練習を頑張ったお前らに、早苗から差し入れがあるそうだ。心して受け取れよ」

 

「え、差し入れ?」

 

「皆さん、お疲れさまでしたっ」

 

 その時、オッサンの後ろから『古河パン』と書かれた箱を持った早苗さんが出てきた。

 

「どうぞ、召し上がってくださいっ」

 

 そして箱の中からパンを取り出して、俺たちに配ってくれる。

 

「え、もらっちゃっていいの?」

 

「はいっ」

 

 手渡されたパンを眺めながら、鴎が言う。

 

「今日の出店の売れ残りだ。気にせずもらってくれ」

 

 オッサンはタバコに火をつけながら、ため息交じりに呟いていた。売れ残ったということは、その分赤字ということだろうし。

 

「ありがとう! いっぱい運動したから、お腹空いてたの!」

 

「それじゃ、遠慮なくいただきます」

 

 全員にパンが行き渡った後、俺たちは一斉にパンにかぶりつく。

 

「……??」

 

 一口かじってみると、なんか中が硬かった。俺だけじゃないらしく、あちこちでばりぼりと音がする。

 

「……せんべい?」

 

 かじって出来たパンの断面をよく見てみると、そこからは普通のせんべいが顔を覗かせていた。

 

「おせんべいパンですよっ。見事な和洋折衷ですよねっ」

 

 確かに和洋折衷だけど、このパン、色々とやばい。パンとせんべいのダブルパンチで、口の中の水分をがっつり持っていかれる。

 

「美味しいですよねっ?」

 

 早苗さんは笑顔で聞いてくる。

 

「わ、悪いけど、これは水分泥棒、だと思う……むごっほ」

 

 喋ろうとすると、むせそうになる。これはお年寄りや小さな子供には危険な食べ物だ。

 

「わ、わたしのパンは、わたしのパンは……」

 

「あ、やべ」

 

 ……あれ? どうしたんだろう。俺の感想を聞いた早苗さんはその瞳に涙をためて、ふるふると震えている。

 

「水分泥棒だったんですねぇぇーーー!」

 

 次の瞬間、早苗さんは泣きながら脱兎のごとく走り去ってしまった。

 

「くそっ、俺は大好きだーーー!」

 

 その様子を見たオッサンは、箱に残っていたせんべいパンをひっつかむと、口に放り込みながら早苗さんを追いかけていった……。

 

「……なに、あれ」

 

 蒼が小さな声でそう言う。それが限界なくらい、俺たちはあっけに取られて固まっていた。

 

 

 

 

「ぜぇはぁ……お前ら、今日の練習はここまでだ」

 

 それから数分後、恥ずかしそうにうつむいた早苗さんを連れて、オッサンが帰ってきた。

 

 結局、今日はこのまま解散となってしまった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「ふう……」

 

 加藤家に帰宅した時には、なかなかの疲労感だった。この感じ、久しぶりかもしれない。

 

「よいしょ……っと」

 

 その時、夏海ちゃんは抱えていた袋を玄関先に置く。袋の中からは、グローブやボールが顔を覗かせていた。

 

「あれ。夏海ちゃん、その野球道具どうしたの?」

 

 もしかして、小学校からずっとあれを持って帰ってきてたんだろうか。気がつかなかった。

 

「はい! のみきさんに許可をもらって、借りてきました!」

 

「ああ、あそこの道具、借りれるんだ」

 

「しろはさんや紬さんも、バットを借りて帰ってましたよ。自宅や灯台で練習するそうです」

 

「それじゃ、夏海ちゃんも練習用に借りたの?」

 

「はい。朝練しようかと思いまして」

 

 朝練。久しぶりに聞いた言葉だった。

 

「それでですね……羽依里さん、良かったら付き合ってもらえませんか?」

 

「え、朝練に?」

 

「はい!」

 

 夏海ちゃんは笑顔だった。なんというか、やる気に満ち溢れている。

 

「いいよ。俺もキャッチャーの練習しておかないといけないしね」

 

「ありがとうございます! それじゃ私、洗濯物取り込んできますね!」

 

 夏海ちゃんは嬉しそうにお礼を言って、そのまま庭に出て行ってしまった。

 

 それにしても、道具も全部用意してからお願いするなんて、ずるいと思う。きっと、しろはか藍の入れ知恵なのかな。

 

「……あ、羽依里君。帰ってたんだね」

 

 そんなことを考えていると、夏海ちゃんと入れ違いになるように、鏡子さんが居間の方からやってきた。

 

「野球の練習、頑張ってるみたいだね」

 

「はい。まだ始めたばっかりですけど」

 

 俺たちが練習してるのを見たんだろうか。あれだけ騒がしくやってるし、見られていてもなんの不思議もないけど。

 

「それで、夏海ちゃんはどうだった?」

 

「夏海ちゃんですか? ピッチャーやるって、意気込んでいますよ」

 

 俺は夏海ちゃんが置いていった野球道具を鏡子さんに見せながら、そう告げる。

 

「うんうん。その様子だと、無事小学校の中にも入れたみたいだね」

 

 鏡子さんは笑顔だった。

 

 そういえば今朝、小学校での灯篭作りを夏海ちゃんに勧めたのは、他ならぬ鏡子さんだった気がする。

 

「鏡子さん、もしかしてわざと夏海ちゃんを小学校に行かせたんですか?」

 

「うん。トラウマを克服してほしくてね。少し不安はあったんだけど、話を聞いてると結果オーライみたいだったし、良かったんじゃない?」

 

「まぁ……それはそうですけど」

 

「しろはちゃんや、島の皆に感謝だね」

 

「そうですね」

 

 ……あれ? 鏡子さん、しろはたちが夏海ちゃんの手助けをしてくれたこと、なんで知ってるんだろう。

 

「しろはちゃんと言えば、冷凍庫にスイカバーが入ってたんだけど、あれってしろはちゃんの忘れ物?」

 

「あ。そういえば、ログボでもらったのを冷凍庫に入れっぱなしでしたね」

 

「せっかくだし、今日食堂に行くときに持って行ってあげたら?」

 

「はい、そうします」

 

 一瞬、違和感を感じたけど……鏡子さんと話しているうちに、その違和感もどこかに行ってしまった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 というわけで、夕食時。冷凍庫から取り出したスイカバーをビニール袋に入れて、しろは食堂へと向かった。

 

「しろはー」

 

「しろはさん、こんばんわです!」

 

 食堂に扉を開けると、その脇に金属バットが置かれていた。食堂には似つかわしくないけど、しろはが練習用に持ち帰ったやつだろう。

 

「あ。二人とも、いらっしゃい」

 

「鷹原さん、こんばんわなのです!」

 

「やはー、なっちゃん、羽依里くん」

 

 声がした方を見ると、カウンター席にクドと葉留佳が座っていた。二人は振り返って、俺たちの方に手を振ってくれる。

 

「二人とも、こんばんわ」

 

「こんばんわです!」

 

 夏海ちゃんと一緒に挨拶を返して、俺たちもカウンター席へ向かう。

 

「葉留佳さん、隣いいですか?」

 

 夏海ちゃんはカウンターに近寄って、葉留佳の左の席に座ろうとする。

 

「あ、なっちゃん、私の左側には座らないほうがいいよ?」

 

「え? ご迷惑でしたか?」

 

「違う違う。ほら、私って左利きだから。隣でご飯食べてると、肘が当たっちゃうんだよね」

 

 そういうことか。確かに、右利きの夏海ちゃんが隣に座るとぶつかっちゃうかも。

 

「夏海さん、こちらにどうぞなのですー」

 

 その様子を見たクドが、隣の席を促してくれたので、俺と夏海ちゃんはそちら側に座らせてもらう。

 

「そうだしろは、これ」

 

 そのタイミングで、俺はスイカバーの入った袋をしろはに手渡す。

 

「えっと、これ何?」

 

「スイカバー。この間言っていた、ログボのやつだよ」

 

「あ。わざわざ持ってきてくれたんだ。ありがとう」

 

 しろはは笑顔でそれを受け取って、奥の冷凍庫へしまいに行った。

 

「しろはさんはスイカバーが好きなんですか?」

 

 クドがその様子を見ながら、俺に聞いてきた。

 

「しろはにとって、スイカバーは心の癒しなんだ」

 

「わふ? 小毬さんのお菓子みたいなものでしょーか」

 

「うん。きっとそんな感じ。食べると幸せな気分になるんだって」

 

「そうですかー」

 

「……クドはスイカバー好き?」

 

 しろはが戻ってきて、今度はクドに質問していた。

 

「夏の風物詩なので、時々は食べますが……その、とりたてては」

 

 クドは少し申し訳なさそうにそう言う。

 

「葉留佳は?」

 

「私はメロンバーの方が好きかなー」

 

「そう……」

 

 しろはも新しいスイカバー仲間の獲得とはならなかったみたいだ。好みは人それぞれだし、しょうがないとは思うけど。

 

「あの、お二人は何を食べてるんですか?」

 

 しろはからおしぼりを受け取りながら、夏海ちゃんがクドたちのお膳を覗き込んでいた。普段、この食堂では見かけないメニューだったし、俺も気になっていた。

 

「はい、焼肉定食ですよー」

 

 あれ? この店にそんなメニューあったっけ?

 

「あ、しばらくは一日一品だけの提供になるの」

 

 困惑している俺たちを見て、しろはがそう教えてくれた。

 

 言われてみれば、いつも置いてあるメニュー表が無くなっていて、その代わりに壁に大きく『本日焼肉定食のみ』と書かれた紙が貼ってあった。

 

「……さすがに、時間が無くて」

 

 いつもは15時くらいから食堂の準備をするしろはも、今日は午後から灯篭作りや野球の練習に忙しかったはずだし。

 

「いや、店を開けてくれただけでもありがたいよ。じゃあ、俺と夏海ちゃんも焼肉定食をもらおうかな」

 

「うん。すぐに用意できるから、待っててね」

 

 そう言って、しろはが調理に取り掛かる。すぐに肉を焼く、いい匂いが漂ってきた。

 

「ところで、葉留佳さんたちは野球の練習したんですか?」

 

 セルフで用意した水を飲みながら、夏海ちゃんがクドと葉留佳に話しかけていた。

 

「まぁ、それなりかなー。ほら、私たちって日頃から鍛えてるし」

 

 確かに真人や謙吾は飛ばしまくってたけど、葉留佳は守備の時以外、大した活躍はしていなかった気もする。打席でも思いっきりセンターをバックさせておきながら、ショートゴロだった気がするし。

 

「野球の練習もいいけど、せっかく島に来てるんだし、色々楽しまないとねっ」

 

 味噌汁を飲みながら、葉留佳は楽しそうに話していた。俺としても、島を楽しんでくれるに越したことはないけど。

 

「でも葉留佳さん、宿題もやらないとダメですよー?」

 

「んー? ミニ子、そんなこと言ってるのはこの口かー? この口なのかー?」

 

「わ、わふふふふふ……」

 

 葉留佳は空いていた右手でクドの頬をわざとらしくつねっていた。すごく柔らかそうなほっぺだった。

 

「ふたりとも、ごはんは静かに食べないと。お行儀悪いよ」

 

「そうだぞクド公ー、お行儀悪いぞー」

 

「な、なんで私が怒られるんでしょーかー」

 

 しろはに注意されていたけど、葉留佳はそのままクドに責任転嫁していた。

 

「ところでしろはちゃん、サラダのミニトマト、残していい?」

 

「駄目。きちんと食べないと。礼儀だし」

 

「えー、許しておかーさーん!」

 

 うん。本当に朝から晩まで騒がしい子だ。

 

 

 

 

「それじゃーねー。ごちそうさまー」

 

「しろはさん、ごちそうさまでしたー」

 

 そろそろ俺たちの料理がが完成しようかという頃、食事を終えたクドたちが帰っていった。

 

「リトルバスターズの皆は、ちゃんと時間をずらして来てくれてるんだな」

 

「うん。あの二人の前には、小毬と来ヶ谷さんが来てたよ」

 

「そうなんだ」

 

「うん。あのふたり、あれで結構仲良いみたいだし」

 

 まぁ、ゆいちゃん、コマリマックスと呼び合う仲みたいだし、仲は良いんだろう。

 

「はい、焼肉定食、おまちどうさま」

 

 俺たちの前に、ごはんとみそ汁、それにサラダと冷奴が並べられた。続いて出てきたメインの皿には、焼肉がこれでもかと盛られ、存在感を放っていた。

 

 焼肉には豚肉だけじゃなく、ニンジンやキャベツといった野菜も添えられていて、栄養バランスも良さそうな一皿だった。

 

「おお、おいしそう」

 

 焼肉にかけられたタレの香りも、ものすごく食欲をそそる。そしてこのタレもどうやら手作りらしい。

 

「この緑色の野菜は何ですか?」

 

「ニンニクの芽だよ。スタミナもつくし、シャキシャキして美味しいよ」

 

「すごいな。そんなものまで入ってるのか」

 

「うん。島でニンニクを作ってる人がいてね。おすそ分けしてもらったの」

 

 すごいなこの島、なんでも自給自足できるんじゃないだろうか。 

 

「ほら二人とも、冷めないうちにめしあがれ」

 

「それじゃ、いただくよ」

 

「はい! いただきます!」

 

 しろはに促されて、夏海ちゃんと一緒に手を合わせてから、焼肉定食に箸を伸ばす。昨日はなんだかんだで食べられなかったし、2日ぶりのしろはのご飯だった。

 

 

「うっす」

 

「こ、こんばんわ」

 

 食事を始めたその時、恭介と鈴がやってきた。

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

「なんだ、今日は焼肉定食だけなのか。親子丼Bとやらが気になっていたんだが」

 

 恭介は店に入るとすぐに、例の張り紙に気がついたみたいだ。

 

「ごめんなさい。今日は、そういうことになります」

 

 恭介が年上だからだろうか。しろはが緊張して敬語になっている。

 

「じゃあそれでいい。二つ頼めるか?」

 

「わかりました。しばらくお待ちください」

 

 恭介からの注文を受けて、しろはがそそくさと厨房の奥へ入っていった。

 

「……それにしても、なんできょーすけとご飯食べに行かにゃならんのだ」

 

「だから、小毬と行けと言ったんだ」

 

「きょ、今日はこまりちゃんは、くるがやと一緒に行くって言ってた」

 

「そんなの気にせずついていけよ。親友なんだろ」

 

 二人は立ったまま、そんな話をしていた。確か、小毬さんたちは俺たちの前に来てたんだっけ。

 

「あの、恭介おにーさん、こちらにどうぞ!」

 

 そんな立ちっぱなしの二人に気を使ったのか、夏海ちゃんが食事の手を止めて、隣の席を恭介に勧める。

 

「ああ、悪いな」

 

「いや、きょーすけはこっちだ」

 

 夏海ちゃんの横に座ろうとした恭介だったけど、鈴に制されて、もう一つ離れた席へと移動させられていた。

 

「あれ? どうしたんですか?」

 

「きょーすけは(21)だからな。なつみが危ない」

 

「な、なんですかそれ」

 

 夏海ちゃんが不思議そうな顔をしていた。

 

「なんでもないさ。気にしないでくれ」

 

 俺もすごく気になる。なんだろう。(21)って。

 

「それより聞いたぞ。夏海がピッチャーをやるんだってな」

 

「え?」

 

 席に着くなり、恭介がそう切り出していた。

 

「ちなみに、我がリトルバスターズのピッチャーは鈴だ。ライバルだな」

 

「あ、はい。えっと、よろしくお願いします……?」

 

 夏海ちゃんは混乱しているみたいだった。今日の練習の様子からして、夏海ちゃんがピッチャーをやるのは確実だろうけど、まだ決定事項じゃない。

 

「恭介、確かに夏海ちゃんは投球練習はしていたけど、まだ本決まりじゃないんだ」

 

「あれ、そうなの」

 

「はい。私もまだ監督から正式な指名を受けたわけじゃないので」

 

 正直言うと、夏海ちゃんだけじゃなく、全員のポジションがまだ決まっていない。恭介は一体どこからその噂を聞きつけてきたんだろう。

 

「しまった。そうとは知らず、こっちの情報を流しちまった」

 

「あほだな」

 

 まぁ、プールサイドからリトルバスターズの練習風景を見た時も鈴が投げていたし、おおよそ見当はついていたけど。

 

「そうだ恭介、明日の練習時間についてなんだけど」

 

「ああ、俺たちはいつでもいいぞ。むしろ、無くてもいい」

 

「え、練習しなくていいんですか?」

 

「わざと練習をさせないのは、アウェイの洗礼というやつだろう。そっちの方が燃えるからな」

 

「ええー……」

 

「いや、そんな卑怯なことしないけどさ」

 

 練習させなかったらさせなかったで、さっきの調子だと葉留佳とかは喜んで海に行きそうだけど。

 

「気を悪くしないでくれよ。冗談だ」

 

「ああ、わかってる」

 

「そうだな……なら、リトルバスターズは明日の午前中に練習させてもらっていいか?」

 

「わかった。じゃあ、俺たちは13時から使わせてもらうよ」

 

 しろはの食堂の準備もあるし、明日は早めに練習を始めることにしよう。

 

「……あ」

 

 その時、俺はあることに気づき、思わず声が出る。

 

「羽依里さん、どうかしたんですか?」

 

「夏海ちゃん、どうやってあのオッサン……監督に練習時間伝えよう? 明日の予定何も決めないまま、別れちゃったし」

 

「……あぁっ!?」

 

 夏海ちゃんは思わず立ち上がっていた。確かに、俺たちはあのオッサンがどこに泊まっているのかも知らない。

 

「どうしましょう……?」

 

「うーん……」

 

 古河秋生という名前は分かってるし、いざとなればのみきに頼んで、明日の午前中に鉄塔から練習時間を放送してもらうのも手かもしれない。

 

「……なあ羽依里、そのオッサンってのは、妙なサングラスをした、茶髪の人か?」

 

「え?」

 

「そうです! その人です!」

 

 思わぬ恭介からの言葉に、夏海ちゃんが身を乗り出して返事をしていた。

 

「その人なら、俺たちと同じホテルに泊まっているぞ。夏海がピッチャーをやるという話も、その人たちが廊下で話してるのが聞こえたんだ」

 

「あ、そうなんですね」

 

「ああ。その慌てようから察するに、何か事情があるのか?」

 

「えっと、実は……」

 

 そこまで事情を知っているのならと、俺は恭介に、オッサンから野球の指導をしてもらっていることを伝える。

 

「……なるほどな。そういうことなら、夜のうちに伝えといてやるよ。伝えるのは練習時間だけで良いのか?」

 

「ああ。時間だけでいいよ。ありがとう」

 

「気にしないでくれ」

 

「羽依里、時々抜けてることがあるよね……はい。焼肉定食、おまちどうさま」

 

 その時、しろはが恭介たちの分の食事を提供してくれた。

 

 話はそこで一旦打ち切りとなり、その後は四人で食事を楽しむことにした。

 

 

 

 

「……うん。昼間の定食屋よりおいしい」

 

 鈴はごはんに乗せた焼肉を食べながら、ご満悦だった。

 

「そうそう。女の子には、おまけでカップゼリーをつけてるんだよ」

 

 そう言って、しろはが鈴と夏海ちゃんにカップゼリーを渡す。言われてみれば、クドや葉留佳にもついていた気がする。

 

 確かに、今日のメニューは少し油っこいし、ニンニクは使われてるし、女の子はやっぱりにおいとか色々気になるんだろう。

 

 油っこさはともかく、カップゼリーでニンニクのにおいがどうにかできるなんて話は聞いたことないけど。

 

「しかし、焼肉定食一つとってもこれだけ美味いんなら、昼間もやればいいんじゃないか?」

 

 鈴と同じように、焼肉をご飯の上に乗っけて食べていた恭介がそう言う。

 

「元々、少ないお客さんの取り合いになっちゃうから、うちは夜だけなのです」

 

「なるほどな。島で生計を立てるのも、大変というわけだ」

 

「うん。そうなのです」

 

 なんか、しろはの敬語が色々とおかしいような気がするけど。焼肉定食美味しいし、まぁいいか。

 

 

 

 

「それじゃしろは、ごちそうさま」

 

「しろはさん、ごちそうさまでした!」

 

「恭介たちも、ゆっくりしていってくれな」

 

「ああ、サンキューな」

 

「練習時間の件、オッサンによろしく伝えておいてくれ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 俺たちは恭介たちより一足早く食事を終えると、それぞれ挨拶をして、食堂を後にした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 加藤家に帰宅して入浴を済ませると、すぐに睡魔が襲ってくる。

 

 夏海ちゃんもテレビを見ながら船を漕いでいるし、野球の練習で疲れたのかもしれない。

 

「夏海ちゃん、少し早いけど、今日はもう休んだほうがいいと思うよ?」

 

「は、はい。そうしまふ……」

 

 必死にあくびをかみ殺しながら立ち上がる。妙にふらふらしてるし、大丈夫だろうか。

 

「大丈夫? ちゃんと部屋までいける?」

 

「だいじょーぶです……おやすみなさい……」

 

 とてとてと自室へ向かっていった夏海ちゃんを見送った後、俺も部屋で休むことにした。

 

「今日はなんだかんだで、疲れたな……」

 

 今思い返せば、慣れない野球の練習を炎天下でやったんだし。疲れないはずがない。

 

 部屋の網戸の向こうから聞こえてくる虫の声に耳を傾けていると、俺はすぐに眠りに落ちていった。

 

 

 

第三十話・完




第三十話・あとがき
おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。

今回は原作にもあった灯篭作りと、野球の練習がメインでした。
灯篭作りは、普段は触れない夏海ちゃんのトラウマをメインに、羽依里君の視点ではどうしても書けない、夏海ちゃんと島の皆の絆が垣間見れるシーンになっていたら幸いです。

次に野球の練習。サマポケの皆って、とりたてて運動ができるイメージがないので(卓球くらい?)、結構苦労しました。おっぱい打法にカモメ打法、チャーハン打法と、個性的なバッティングスタイルでなんとかしてくれると期待したいところです。
また、夏海ちゃんがピッチャーをやるのは、苦肉の策です。本編でも言っていましたが、一朝一夕でできるようになるポジションでもないので……。

そして監督役として、満を持してCLANNADのオッサンに再登場してもらいました。
キャンプから戻った日に出ていた金魚すくい屋は、実はフラグだったわけです。クロスオーバーするのはリトバスだけと言った覚えはありませんので(何

オッサンだけでなく、早苗さんや渚、朋也君に、もちろん汐ちゃんも、しばらく島に滞在する予定です。リトバス勢ほどではありませんが、サマポケメンバーと交流する予定ですので、こちらも原作ファンの皆さま、楽しみにされてください。

最後に、葉留佳の食堂での話(左に座ると肘がぶつかるというやつです)は、実体験が元になっています。左利きの友人と食事に行って、いつもの調子で並んで座ると、よくぶつかっちゃってたんですよね。

今回も、最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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