「鷹原さーん! 朝ですよー!」
今日も夏海ちゃんの元気な声で目が覚める。
「おはよう、夏海ちゃん」
「おはようございます」
布団をたたみながら時計を見ると、かなり早い時間だった。
「あれ、いつもより早くない?」
「今日からラジオ体操があるらしいので」
「一緒に行ってきたらどう? って、鏡子さんに勧められました」
夏休みを楽しむには、まずはラジオ体操……ってことかな。鏡子さんなりに気を使ってくれたのかもしれない。
「なんでも、皆さんも参加するらしいですよ」
「皆さん?」
「蒼さんとか、天善さんとか」
「そうなの?」
ラジオ体操って、小学生くらいまでの子が参加するイメージがあるんだけど。この島のはちょっと違うんだろうか。
「……そうだ。ラジオ体操に皆が来るならさ、その時に話してみない?」
「え?」
「ほら、夏休みの過ごし方。楽しく過ごせるように、皆にも協力してもらおうって話」
「あー、はい……」
「そんなに身構えなくて大丈夫だよ。夏休みを楽しみたいって伝えるだけだし、皆協力してくれるよ」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「それじゃ、ラジオ体操に行こうか」
「はい!」
夏海ちゃんはすでに準備万端、といった感じで俺を待っている。
「あー、夏海ちゃん。言いにくいんだけど……」
「はい?」
「着替えるから、廊下の方で待ってて欲しいんだけど……」
「あ。ご、ごめんなさい!」
ぱたぱたと廊下の向こうまで走っていく。
俺は手早く身支度を済ませた後、夏海ちゃんと一緒に家を出る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ラジオ体操、行ったことないんです」
「そうなんだ? それじゃ、楽しみだね」
夏海ちゃん曰く、ラジオ体操は神社で行われるらしい。朝の清々しい空気を味わいながら、二人で歩く。
「ラジオ体操の後に食べる朝ごはんは格別だよ」
「はい。楽しみですね!」
そんな話をしながら、神社の境内に到着する。夏海ちゃんからの事前情報通り、島の子供たちに混ざって知った顔がいっぱいいた。
「うん? 鷹原たちも来たのか」
「あ、羽依里、夏海ちゃん。おはよー」
「おはようございます」
「ちーっす」
「おう」
のみき、蒼、藍、良一、天善。朝の神社とか普段来ない場所だけど、見知った仲間がいる。子供の頃のラジオ体操ってこんな空気だった気がして、なんだか懐かしい気がした。
「そうだ、ラジオ体操が終わった後、皆に話があるんだ」
「話?」
「良いじゃね? どうせ暇だしな」
「そうだな」
「うむ。後々の楽しみにしておこう。ほら、二人分のスタンプカードだ」
のみきからスタンプカードを受け取る。
「懐かしいな。スタンプカード」
「なんですか、これ」
「ラジオ体操に参加すると、毎日一つずつスタンプが押してもらえるのよ」
「スタンプがたまると、良い事があるんです」
夏海ちゃんの隣にやってきた蒼と藍が説明をしてくれる。
「良い事?」
「それは秘密です」
「さらに、スタンプとは別に島の特産品が参加賞としてもらえるんだ」
その二人の説明を、天善と良一が引き継いでくれる。
「鳥白島では、この景品のことをログインボーナスと呼んでいる」
「ろ、ろぐいん、ぼーなす?」
「通称ログボだ」
良一が意味もなく略してくる。
初めて聞く単語だが、そういうものなんだろう。
「あ、そろそろラジオ体操大好きさんが来るわよ」
「え。誰?」
「ラジオ体操を指導してくれる人です」
「子供の頃のラジオ体操って、上級生とかが勝手に仕切ってた記憶があるんだけど」
「この島のラジオ体操は変わってるから」
「へ?」
しばらくして、ラジオ体操大好きさんがやってきた。
「おまえらー! 準備はいいか―! いくぞー!」
なんというか、独特のオーラをまとった人だ。
その人の号令に合わせて、ラジオ体操が開始される。
「第一の体操! 耳介筋の鍛錬!」
「ジカイキン?」
「鷹原さん、ジカイキンってどこでしょう?」
「わからない」
「ピクピク。ピクピク」
「うわ、皆耳が動いてる」
「なあ蒼、どうやって耳動かすんだ」
「話しかけないで。今集中してるんだから」
「は、はい」
というか、俺の知ってるラジオ体操じゃない……。
その後も初めて聞く運動が続き、なんとか見よう見まねでついていく。
「なんだろう。普段動かさない筋肉を動かしてるせいか、めちゃくちゃ疲れる……」
「ぴくぴく……むむむ、ぴくぴく……」
夏海ちゃんは最後まで耳を動かそうと躍起になっていた。
「さあ、スタンプを押すぞー」
ラジオ体操終了後、スタンプとログインボーナスをもらう。
今日のログインボーナスは鳴瀬さんちの鶏の生みたて卵らしい。
「そういえば、しろはの家には立派な鶏小屋があったな」
その後、ラジオ体操大好きさんやほかの子供たちが帰ったタイミングを見計らって、俺は話を切り出す。
「実は、話っていうのは夏海ちゃんのことなんだけど……」
「夏休みの過ごし方?」
「ふむ。これまたざっくりとしているな」
「そんな難しく考えないで、夏休みを楽しめるイベントをいっぱい考えてあげたいんだ」
「うーん。よくわかんないけど、なんかイベントがあればいいわけよね」
蒼は顎に手を当てて考えてくれている。
「せっかくなら、毎日イベントを考えてやろう」
「あ、それいいわね」
「あの、いくらなんでもそこまでは……」
「夏海ちゃん、俺たち島民を舐めないほうがいいぜ」
「え?」
「そうですよ。わたし達もイベントには飢えています」
「もちろん、夏海ちゃんにも楽しんで欲しいけど、あたし達も楽しみたいのよ」
「暇だからな」
「ふむ。毎日イベントを考えるとなると、私達だけでは力不足だな」
「島内放送で呼びかけて、イベントを募集してやろう」
「えええっ!?」
「あたしも紬やしろはにも伝えておくわ。駄菓子屋にそのうち来るだろうし」
「後は、そうですね……」
「……よし。手始めに皆で釣りに行かないか」
わいわいと話が盛り上がる中、良一が一声上げる。
「釣り?」
「磯釣りだ」
「午前中はちょっと用事があるから、昼からになるけどな」
「午前中は出店だっけ?」
「ああ。朝のうちに釣り道具やエサは用意するから、手ぶらで来てくれて良いぜ」
「良一、釣りの場所は?」
「しろはの釣り場でいいだろ。あそこが一番広いし、色々釣れるからな」
「わかった」
「皆さん、ありがとうございます」
「気にすんな。さっき蒼が言ったように、俺達も楽しみたいんだ」
「それじゃ、またお昼からねー!」
「は、はい! よろしくお願いします!」
なんとか話もまとまって解散となる。
皆と別れて、神社からの帰り道。
「ね、皆協力してくれたでしょ?」
「本当ですね。驚いてます」
「皆がああ言ってくれたからには、本当に毎日イベントがあるかもしれないよ」
「はい。すごくドキドキしています。こんな気持ち、初めてです」
「うん。夏休みに入ってすぐって、そんな気持ちになるよ」
小学校の頃、一学期の終業式の日とかそんな感じだった記憶がある。
「そういえば、夏海ちゃんは釣りはやったことある?」
「いえ、ありません」
「俺もそこまで得意じゃないけど……きっと皆が教えてくれるよ」
「はい!」
その後も色々話をしながら、加藤家に戻ってくる。相変わらず鏡子さんの姿はない。
「それじゃ、さっそく朝ごはん作りますね」
夏海ちゃんはそういうと、手を出してくる。
「え、何?」
「ログボの卵ください。チャーハンに使いますので」
「ちょっと夏海ちゃん、生みたて卵をチャーハンに使うなんて、さすがにもったいないよ」
「え。どういうことですか?」
「こういう新鮮な卵は、卵かけごはんにして素材の味をそのまま味わうのが一番だと思うんだ」
「……鷹原さんの言い分もわかりますが」
「やっぱりこの卵は、チャーハンに使ってこそ至高だと思うんです。これなら黄金の卵チャーハンが作れそうな気がするんです!」
あれ? 夏海ちゃんもチャーハンのことになると引かない。
でも、俺としてもここで卵かけごはんを諦めるわけにはいかない。
「いやいや、卵かけごはんってのは日本が世界に誇るファーストフードで、都会だと専門店があるくらいなんだよ。専用の卵はもとより、専用のしょうゆまで売られてるくらいなんだ。卵は加熱すると熱に弱いタンパク質やビタミンBが減少しちゃうけど、生食なら栄養素はそのまま。しかも油を使わないから目覚めたばっかりの朝の胃には優しいんだ」
「そもそも、卵かけごはんというものは……」
俺はその後も数分間にわたって熱弁をふるう。
「はぁ……わかりましたよ。卵かけごはんが食べたいんですね」
ついに根負けした夏海ちゃんは、ため息交じりに台所へ向かう。
その後、白いご飯とみそ汁を持って戻ってきた。
「はい。どうぞ」
続いて持ってきたのは、しょうゆと小さい器。
この器、何に使うんだろう。付け合わせに焼き海苔でも持ってきてくれるんだろうか。
俺はさっそく卵を炊きたてご飯に割り入れ、醤油を軽くたらす。
「あれっ、器、使わないんですか?」
「え?」
見ると、夏海ちゃんは卵を器に割り入れてから溶き、しょうゆを混ぜ込んでからご飯にかけていた。
「え、混ぜてからかけるの?」
「混ぜないと、味にムラが出ません?」
「この味にムラがある感じが良いんだよ」
「そんなもんですかねぇ」
そんなこんなで、卵かけごはんを堪能した。
食後は宿題。昨日と同じように向かい合わせになって、小一時間ほど頑張った。
宿題を終えると、お昼まで時間ができてしまう。
「そういえば、良一が港に出店出すって言ってたよね」
ぼんやりと眺めていたテレビのローカル情報番組に飽きてきた頃、出店の話を思い出した。
「お昼まで時間あるし、行ってみない?」
「はい。行ってみたいです」
「それじゃ、行こう」
時間をつぶすため、歩いて港へと向かう。
道中、小学校の前を通りかかったけど、夏海ちゃんは昨日のように取り乱すことはなかった。
昨日とは少し状況が違うし、皆のおかげで好転してるのかもしれない。
しばらくして港に到着する。
『宇都港行き、間もなく出港します』
ちょうど船が出港するところで、アナウンスが流れていた。
「あら大変。急がないと」
すると目の前を女性が一人、スーツケースを引いて走っていった。
でもスーツケースが大きいせいか、このままだと間に合いそうにない。
「夏海ちゃん、ちょっと船に待ってもらって!」
「はい! すみませーん! 待ってくださーい!」
夏海ちゃんに係員の所に行ってもらって船を止めてもらい、俺は女性の方に近づいてスーツケースを押すのを手伝う。
「大丈夫ですか? 手伝いますよ」
「すみません。ありがとうございます」
女性のスーツケースを押す時、貼ってある色々なシールが自然と目に留まる。そのうちのひとつに『S.K』と文字が書かれていた。イニシャルかな。
「ご兄妹ですか? おかげで助かりました」
なんとか連絡船に間に合った女性は、俺たちに何度もお礼を言ってから、船に乗り込んでいった。
はて、あの黒髪にあの雰囲気。どこかの誰かに似ているような。
船が出港するのを見送った後、出店を探し始める。
少し離れた所にその店はあった。周囲に何もないので、離れていても目立つ。祭りとかでよく見る出店の形だが、いつもなら商品名が書いてある部分には何も書かれていない。
「よう」
「羽依里、夏海ちゃん、ちっす」
店の中を見ると良一が上半身裸で何か作っていた。
「良一、何作ってるんだ?」
「海鮮やきそばだ」
鉄板の上ではエビ、イカ、タコ、アサリ……様々な具材が中華麺と一緒に炒められ、そこにソースが絡められている。
「美味そうだな」
「うまいぞ。獲れたての食材を使ってるからな」
ソースの焼ける香りが周辺に漂い、食欲をそそられる。朝は卵かけごはんとみそ汁だけだったし、宿題をして糖分も消費している。そろそろ小腹が空いた。
「いくらだ?」
「ひとつ300円だ」
むう。一つ300円はちょっと高い。
そして、一人前を食べたら間違いなく昼飯が入らない。
「夏海ちゃん、二人で半分こしない?」
「良いですよ」
「それじゃ良一、海鮮やきそばひとつくれ。あと割り箸二膳と、とりわけ用の紙皿もな」
「あいよ。まいどありー」
300円を渡し、品物と割り箸、紙皿を受け取る。
「そこのテーブル、使っていいぜ」
屋台の横には、申し訳程度に日よけのついたテーブルセットが置かれていた。そこに二人で腰かけて食べることにする。
半分ずつに取り分けて、紙皿の方を俺がもらう。
「それじゃ、食べようか」
「はい、いただきます」
早速口に運ぶ。
「おお、うまい」
磯の香りが素晴らしい。それに負けないソースの濃さも絶妙で……
……ジャリ。
アサリの砂だろうか。何か口に当たった。
「なあ良一、このアサリって砂抜きしたか?」
「……30分くらいやったが、足りなかったかもしれないな」
しろは曰く、貝の砂抜きは最低一時間くらいやった方が良いはずだ。
……ジャリ。
「あぅ……」
夏海ちゃんも砂に当たったみたいだ。
念のため、二人してアサリは避けて食べることにした。
「ごちそうさまでした」
「アサリ以外はうまかったぞ」
「おう、次からはしっかり砂抜きしとくからな」
清々しい笑顔で言われた。次とかあるのかなと思いながら、適当に返事をしておいた。
その後は少し港を散策し、頃合いを見て一度加藤家に戻る。先日買いだめしておいたカップうどんの中から適当な種類をチョイスし、きちんと昼食をとる。
それから少し食休みをした後、バイクで島を南下。しろはの釣り場に向かう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
釣り場に到着すると、そこにはラジオ体操に来ていた5人に加え、しろは、鴎、紬、静久の四人の姿もあった。
蒼達がしろは達にも知らせてくれたんだろうか。まさか、これだけの人数が集まってくれるなんて。
そして良一が用意してくれたんだろう。全員分の釣り竿があった。
「よくこれだけの数の釣り竿が用意できたな」
「親父の使い古した品が多いけどな。手入れだけはしっかりやってるからな」
「釣りエサもあるよ」
しろはが持っていたのは小さなタッパー。それがいっぱいある。
試しに一つ、ふたを開けると……その中には無数のうごめく虫。
「うあー」
「ひっ」
「きもい!」
中身がよく見えずに覗き込み……一斉に声を上げたのは、俺と夏海ちゃんと鴎。
「何だ羽依里、お前しろはといつも釣りしてるくせに、虫も触れないのか?」
「そ、そうだよ。悪いか」
実は俺は釣り専門で、エサをつけたり釣れた魚を外すのはほとんどしろはにやってもらっていた。
いわゆる共同作業ってやつだ。うん。
「やれやれ、先が思いやられるぞ」
全員に釣り竿とエサが配られた後、思い思いの場所に散らばって釣りを始めた。
俺は夏海ちゃんと一緒に適当な場所で釣りを始めたんだけど……。
「えーいっ!」
あー……逃げられた。
「夏海ちゃん、しっかり浮きが沈んだタイミングで上げなきゃ」
「ううー……エサだけ取られちゃいました」
夏海ちゃんは一瞬、エサの入ったタッパーを見て……すぐに視線を逸らす。
「ごめんなさい鷹原さん、付けてもらえますか?」
心なしか涙目になってる。
「……うん。いいよ」
正直、俺もうまくできる自信ないけど。夏海ちゃんの前でかっこ悪いところは見せられない。
「うわぁぁ」
ぐねぐね動く虫に悪戦苦闘しながら、なんとか針につける。
「こんなもんかな」
「……そんなつけ方じゃ、海に投げたと同時に外れちゃうよ」
そんな俺達を見かねてか、しろはが助けに来てくれた。
「貸してみて」
しろはが慣れた手つきでエサをつけてくれ、三人並んで釣りを始める。
「……ヒット!」
仕掛けを入れて一分としないうちに、しろはの竿に当たりが来て、大きめのアジが釣れた。さすがだ。
……一方で俺と夏海ちゃんは、まったく当たりが来ない。
「おかしいな……いつもなら、なんだかんだで釣れるんだけど」
「あれじゃないですか。港で海鮮やきそばなんて食べたから、魚介類に警戒されてるんじゃないですか? こいつらに近づいたら食われるぞって」
「逆にイカやエビの魚介のにおいが染みついて、仲間だと思って魚が寄ってきそうな気もするけど」
……その後、もう少し粘ってみても全く当たりが来る気配なし。
「夏海ちゃん、ちょっと場所変えてみよう?」
「はい」
「しろは、ちょっと場所変えてくるよ」
「ちゃんと夏海ちゃんに教えてあげてね?」
「わかってる」
しろはに一声かけた後、俺と夏海ちゃんは釣り場を変えてみることにした。皆の様子も気になるし。
防波堤の先にある、古びた建物まで行ってみた。少し沖のほうに突き出ているので、潮の流れが早そうな場所だ。そこでは良一とのみき、鴎が並んで釣りをしていた。
「よう。良一はどんな感じだ?」
建物にもたれかかって竿を垂らしていた良一に声をかける。さすがというか、大きめのアジを何匹も釣っている。
「おお、やるな」
「まだまだ、本命は釣れちゃいない」
「何を狙ってるんだ?」
「鯛だ」
「え、この辺りって鯛が釣れるんですか?」
「潮の流れに乗って、時々な。瀬戸内の海で鍛え上げられたヤツだから、そう簡単には釣れないけどな」
未だに当たりの一つもない俺達には無謀すぎる相手だ。
「鴎さんは釣れてます?」
スーツケースに座って釣りをしていた鴎に、夏海ちゃんが声をかける。
「むー、これ見てよ。なっちゃん」
鴎は複雑そうな顔で、近くにあるバケツを指さす。
「わ……」
その中には見慣れた魚の姿はなく、謎の生き物が数匹。
「ナマコにウミウシ……これはヒトデか?」
「そう。こんな変なのしか釣れないの」
これはこれで、ある意味才能かもしれない。
「……のみき、調子はどうだ」
鴎のバケツは見なかったことにして、のみきの様子を見る。
「まずまずだな」
のみきのクーラーボックスには何匹かの魚が入っている。
「おお、さすがのみきだな」
「えっへん」
「そうだ。のみきさんも背中の水鉄砲であれすれば、もっと獲れるんじゃない?」
鴎がいたずらっぽい表情で話しかけてきた。
「あれとは?」
「水をびゅーーっ! ばしーっとやって、エサをとる生き物いるよね」
「……すまない。よくわからないんだが」
「鴎、それってテッポウウオのことか?」
「そうそれ!」
「なるほど、水鉄砲で海面を攻撃して魚を気絶させて捕まえるんですね!」
「気絶させるのはいいが、どうやって捕まえるんだ?」
そこはアミを……と言おうとしたが、近くにそんなものはない。
「そうだ。鴎なんだから、お前が直接海に飛び込んで獲ってくれば良いんじゃないか?」
「うけーーーーって?」
「そう。うけーーーって」
「……やってみよっか?」
「え?」
そういうが早いか、鴎は着ていたケープを俺に投げてよこす。
「いくよー」
「ちょ、ちょっと待った!」
「おわっ」
……思わず抱き留めてしまった。
「えっと……さすがに冗談……なんだけど」
「あ、悪い……」
どうしてだろう。鴎なら本当に飛び込みかねないと思ってしまった。
……海に落ちた記憶なんてないのにな。
「……はっ」
直後、背後から強烈な殺気を感じて振り返る。
「……お前達、子供の前で何をやっているんだ?」
のみきさんの手には、広域掃射モードに設定されたハイドログラディエーター改。
「夏海ちゃんバリア!」
俺はとっさに夏海ちゃんの陰に入る。
「くっ、卑怯な」
「今だ、ダッシュ!」
のみきが一瞬躊躇した隙に、俺は夏海ちゃんと鴎の三人でその場から離脱する。
「ひーん、なんだか私まで悪者になった気分だよー!」
俺たちは浜辺近くまで戻って、息を整える。そこでは紬と静久、天善の三人が釣り糸を垂れていた。
「むーぎーぎー」
見ると、紬が妙な声を出しながら水面とにらめっこしていた。
「やっほー」
「あ、タカハラさんとカモメさん、それにナツミさんです!」
「ツムツム、なにそれ?」
鴎は紬の少し後ろでスーツケースに座りながら、紬の横に積まれた大量のガラクタを不思議そうに見ている。
片方だけの長靴に、穴の空いたやかん。どうみてもガラクタだ。
「紬がどれだけ頑張っても、生き物は全然釣れないのよね」
「むぎゅ~……」
うなだれる紬の隣で静久が苦笑していた。確かにこの惨状を見たら、笑うしかない。
「……マッスル、エクササイザー?」
そんな中、鴎がガラクタの中から何かを発見する。
手書きのラベルが貼られたペットボトルだ。なんだろう。中身はほとんどないみたいだけど、下手に触らないほうが良さそうだ。
「ところで、ナツミさんは釣れてますか?」
「え? えーっと、その……実は全然釣れなくて、釣り場を変えてきたんです」
「エサもうまくつけれないですし」
「なら、わたしが教えます! 一緒に釣りましょう!」
「え」
ちらり。と積まれたガラクタに目をやる。
「大丈夫です! わたしが教えるので、頑張りましょう!」
紬は夏海ちゃんの腕をしっかり掴んで離さない。純粋に一緒に釣りを楽しみたいんだろう。
「よ、よろしくお願いします……」
夏海ちゃんが折れた。
「それでは、さっそくエサ付けの特訓です! いきますよ!」
「は、はい! ひえぇ……」
そして、二人はうごめく虫を針につける特訓を始める。
「夏海ちゃん、頑張って……!」
夏海ちゃんを紬に任せて、俺は隣の静久と天善に話しかける。
ちなみに、俺の左側で夏海ちゃんと紬が釣り、右側で天善と静久が釣っている。鴎はそんな俺達の後ろでスーツケースに座って休憩している。
「ところで静久、なんで水着なんだ?」
「これなら、万が一濡れても着替えなくていいでしょう?」
確かに、ここら辺は場所によって波が高くなる場所がなくもないけど……。
「……あら、また取られちゃったわ」
そのタイミングで、静久が仕掛けを上げる。見事にエサだけ取られていた。
「水織先輩! 新しいエサをお付けします!」
ずっと静かだった天善が突如として動き、常人離れした動きで静久の針にエサをつける。
「はっ! できました! 水織先輩!」
「ありがとう、加納君」
「でも今の私は学校も卒業してるし、もう先輩じゃないわ。水織さんでも、静久でも、好きに呼んでくれて構わないのよ?」
「いえっ! 滅相もありません!」
「ねぇ羽依里、天善君こんなキャラだっけ?」
今のやり取りを見ていた鴎が困惑している。
「静久の前だとああなってしまうんだ。いわゆる憧れの人だからな」
「ふーん」
「だからほら、静久に良いとこ見せようと頑張ってる」
「ちょれぇぇぇぇい!」
天善は自分の浮きが沈んだ瞬間を見計らって、ものすごい力で竿を引き上げる。
「……くそ、糸が切れた」
勢いが強すぎて糸が切れてしまう。しかし、天善は目にも留まらぬ速さで仕掛けを直していく。
「おお、お見事」
「ちょれぇぇぇぇい!」
そして、すぐさま仕掛けを海に投じる。
あ、思いっきり水面に竿先を叩きつけちゃってる。
「くそ、竿の先が折れた……」
古い竿に無理させるから……。
「なんの! これでどうだ!」
しかし、すぐにそれも修理する。
「すっごい」
その手の動きに鴎は目を丸くしている。
「修理する技術は認めるけど、天善はもっと道具を大事にした方がいいと思う」
卓球のラケットよろしく、振り回すんだもんなぁ。
「あ、紬さん、引いてますよ!」
「むぎゅーーー!」
その時、夏海ちゃんが声をあげ、同時に紬の気合の入った声が響く。次の瞬間、俺の目の前を真っ黒い物体が横切った。
「ぶわあぁっ!?」
……その真っ黒い物体が天善の顔面を直撃する。
「だ、大丈夫ですか、カノーさん!」
良く見るとワカメだった。そして当たり所が悪かったのだろう、天善はそのまま気絶してしまった。
……まあ、静かになったし良いか。
その後、俺も気を取り直して釣り糸を垂らしてみるが、全く当たりはない。
「全然ダメだな……」
背中越しで鴎と雑談していると、再び紬と夏海ちゃんの声。
「わ。紬さん、また何か釣れましたよ!?」
「むぎぎぎぎーーーー!」
俺の目の前を、今度はサッカーボール大の半透明の物体が通り過ぎていった。
「きゃあっ!」
「シ、シズク! 大丈夫ですか!?」
「ええ、平気よ……」
見ると、静久の足元には彼女の胸のそれと同じくらいの大きさの……クラゲ。
「なんていうだっけこれ。エチゼンクラゲだっけ」
この化け物クラゲのボディプレスを容易く弾き返すなんて、さすが静久のクーパー靭帯だ。
とりあえず微妙に動いて気持ち悪いので、足で蹴って海にお帰り頂いた。
「紬さん! またまた引いてますよ!」
「むぎーーーーーーっ!」
三度目の叫び声。
すると、今度は巨大な宝箱が俺の目の前に降ってきた。
「な、なんだこれ。宝箱?」
「紬、すごいもの釣っちゃったのね」
「おお! お宝だよ、羽依里!」
さっきまでスーツケースに座っていた鴎を含め、気絶してる天善以外の全員が興味津々に寄ってくる。
「羽依里、開けて開けて」
「え、俺? なんで」
「男の子だから!」
「えぇぇ」
正直、俺だって怖い。妙な罠とか仕掛けてあったらどうしてくれるんだ。
「ほらほら早く」
やめて。そんなキラキラした瞳で見つめないで。
「……ええい、ままよ!」
その純粋な視線に耐えきれず、勢いに任せて宝箱を開ける。
ずるり、と赤黒い物体が出てきた。
「ひいい」
俺を含めた全員がその場から後ずさる。
……って、タコか。
どうやらこいつがタコつぼ代わりにしていたみたいだ。よく見たら横に穴が開いている。
他にも、ウニやらアワビやらが入っていた。
「こいつら、よくタコに食われず共存していたもんだな」
ある意味宝箱だった。
とりあえず、出てきたお宝は天善のクーラーボックスに入れてフタをしておいた。
その後、もう少し紬さんと頑張ってみます。という夏海ちゃんと、空になった宝箱で遊んでる鴎、気絶した天善を介抱している静久をその場に残し、俺だけもう少し歩いてみることにした。
岩場の方に行くと、空門姉妹が釣りをしていた。
「おーい、ふたりとも……」
「うああーーーーーーーーーー!」
話しかけようとしたら、蒼の絶叫が聞こえてきた。
「いくら釣り糸垂らしても、エサすらとられないってどういうこと――――!?」
「これって、魚に見向きもされてないってことよねーーーー!?」
「蒼ちゃん落ち着いてください。可愛い顔が台無しですよ」
「なんだ。蒼は釣りは苦手なのか?」
近寄ってみると、二人の間にはひとつバケツが置かれている。中には貝や蟹が入っていた。
「これ、そこの岩場で取ってきたのか?」
「失礼ね。釣ったのよ。藍が」
「え、この立派な貝も?」
「そうですよ」
蟹はわからないでもないけど、どうやったらあのエサで貝が釣れるんだろう?
偶然針が引っかかったのかな。
「藍の性格と同じように、変わったものばっかり釣れてるのな」
「は?」
「羽依里さん、今聞き捨てならない言葉が聞こえたんですが」
「気のせいだ」
「わたし達の成果を笑う前に、羽依里さんの成果を見せてください」
「よせ、やめろ」
とっさに背中にバケツを隠すが、双子らしい見事な連係プレーでひったくられる。何気に運動神経良いからな。この姉妹。
「あれ、空っぽじゃない」
「き、今日は潮が悪いんだ」
「それ、しろはが釣れない時の言い訳と同じよ?」
「うぐぅ……返す言葉もない」
「はぁ……それじゃ、そろそろ引き上げようかしら。あたしも今日は駄目っぽいし」
「え、もうやめるのか?」
まだ日は高い。釣れないのなら俺みたいに場所を変えてみたらいいのに。
……場所変えても俺みたいに何も釣れない可能性もあるけど。
「だってそろそろやめないと、食べる時間なくなっちゃうでしょ?」
「え、食べる?」
蒼達によると、少し早めに切り上げて釣った魚をみんなで食べるそうだ。
もう少ししたら浜辺で調理をはじめるとのことなので、空門姉妹と別れて夏海ちゃんたちがいる浜辺へと戻る。
夏海ちゃんたちの所に戻ると、鴎達は場所を変えたのか紬と夏海ちゃんの二人だけだった。
「夏海ちゃん、どう?」
「むぎゅ?」
……ずっと紬と一緒にいたせいか、口癖がうつってる。
でも、自分でエサつけれるようになってた。凄い進歩だ。
……ってあれ? 俺負けてる?
「鷹原さん見てください! ついさっき、こんなの釣れました!」
「おお、初ゲットだね。どれ?」
「これです!」
夏海ちゃんが両手いっぱいに抱えてきたのは、洗面器ほどの大きさの岩……いや、手足がある。頭もある。
ウミガメだった。
「どうしましょう?」
「うん。逃がしてあげようか」
かなり重たそうだけど、よく夏海ちゃんたちだけで釣り上げたなぁ。
「……亀?」
そのタイミングでしろはがやってきた。
「……食べるの?」
「いやいや、逃がしてあげようよ」
「ウミガメのスープ、おいしいけど」
会話の内容を理解しているのかいないのか、ウミガメは手足をバタバタさせて抵抗している。
可哀想なので、逃がしてあげた。
「いつか恩返しにやってきて、竜宮城に連れて行ってくれるかもしれませんね」
夏海ちゃんはああ言ってるけど、どっちかっていうと俺たちは亀をいじめていた側に入るんじゃないだろうか。
「ところで夏海ちゃん、他にはどれくらい釣れた?」
「あ、えーっと、その……」
「……なるほど。二時間釣って、ウミガメさんだけ」
「しかも、指導役の羽依里は夏海ちゃんを放って、蒼達の所に行っていたと」
「羽依里に夏海ちゃんの指導を任せてたのがいけなかった」
……その後、俺はしろはに怒られていた。
大きい石も目立つ砂の上に正座だ。長ズボン穿いてるとは言え、痛い。
でも、しろはがご立腹なのももっともだ。
「夏海ちゃん、皆が戻ってくるまで、私と最後にもうひと頑張りしよう?」
「はい!」
しろはは夏海ちゃんに笑顔を向けて、海の方へ向かう。
「……羽依里は料理の準備しておいて」
「わかりました」
俺の後ろにはいくつもの調理器具やガスコンロ、簡易テーブル、紙の食器、調味料等が置いてあった。
二人が釣りを始める中、俺は黙々とセッティングを始める。
「タカハラさん、手伝います!」
途中から紬が手伝ってくれたので、すごく助かった。涙が出そうだった。
準備が終わる頃になると、あちこちに散っていた皆も浜辺に戻ってきた。
「良一、鯛は釣れたのか?」
「いーや、ダメだ」
手にしているクーラーボックスにはたくさんの魚が入っているが、鯛の姿はないみたいだ。
「それより天善! なんでお前の竿はそんなにボロボロなんだよ!」
「すまん。何度も直したんだが」
「そういう問題じゃねーよ! 何度も壊すほど乱暴に扱うな!」
「でもでも、天善君すごかったんだよー」
興奮気味に話すのは鴎。
「私、海が縦に割れるところなんて初めて見た」
待て、俺が蒼達と話してる間に何やってたんだ。
その時、夏海ちゃんの声が聞こえた。
「ひ、ヒットです!」
最後の最後で夏海ちゃんに当たりが来たみたいだ。
「やったね、夏海ちゃん!」
「す、すごく力が強いです!」
しろはの明るい声も聞こえてきたが、どうも一筋縄ではいかない感じだ。
「……羽依里、夏海ちゃん手伝ってあげて!」
「わかった!」
しろはの指示を受け、俺は急いで夏海ちゃんの釣り竿を支える。
「お、重い!?」
なんだこれ。今まで感じたことのない引きなんだけど。
「おい、こいつはもしかしてあれじゃないか?」
良一が興奮気味に俺達の方に寄ってくる。
「あれって?」
「鯛だよ」
「そんな、まさか」
でも、この力強さは以前釣ったアジとかの比じゃない。
「一度糸を全部出せ。疲れさせるんだ」
「魚が疲れて力を抜いたタイミングに合わせて、少しずつ引くんだ。焦ったり、力任せにやっちゃだめだぞ」
「はい!」
良一が後ろから的確にアドバイスをしてくれる。
「まだ魚影は見えないか。目視できればハイドログラディエーター改で打ちぬいて気絶させてやるんだが」
「気絶させたら、私がすかさず飛び込んで捕まえる!」
二人ともやめて。今度は本当にやりそうだから。
「ナツミさん、特訓の成果を見せる時です! 頑張ってください!」
「ほら、今引いて! あ、やっぱり引いちゃダメ!」
蒼、どっちだよ。つか、指揮系統は一つにまとめてくれ……!
こんな感じに皆に見守られながら、かなり長い時間獲物と格闘し、そして……
「えーーーい!」
二人で力を合わせ、渾身の力で釣り上げたのは。
「マジかよ。真鯛だ」
お祝いの席とかで見慣れた紅い魚体。それが太陽の光に照らされてキラキラと輝いていた。
その美しさに、二人して見惚れていた。
「なっちゃん、すごい!」
「ああ、良一でもこのサイズはあまり釣ったことないだろう」
「えっと、皆さんのおかげです」
皆が口々に褒めてくれる。夏海ちゃんも照れてしまって、鯛に負けないくらい顔が真っ赤だ。
……ってあれ? 俺の頑張りってなかったことになってる?
……まあいいけど。
「それじゃ、さっそく食べる?」
「え?」
夏海ちゃんと一緒に後ろを振り返ると、既にガスコンロには火が灯され、準備万端になっていた。
「ほらお前達、調理の前に手を洗え」
のみきがハイドログラディエーター改を皆に向けている。良一が反射的に両手を挙げ、降参の意を示す。
「安心しろ。低出力威嚇モードだ」
直後、シャワーのような柔らかい水が発射される。それぞれ手を差し出して、手洗い完了。
「これで準備完了だ」
そして全員で調理に取り掛かる。
こうなると俺はできることがほとんどないので、皆の様子を見学することに。
「真鯛はお刺身と塩焼き、半分ずつにするね」
「あ、手伝わせてください」
しろはが真鯛を両手に抱えてまな板のほうに持って行くと、夏海ちゃんがそれに追従して一緒に調理を始める。
「鴎、アジの下ごしらえお願いできる?」
「任せといて―」
しろはからの指示で、鴎もまな板の前に立つ。
「鴎、お前料理できるのか?」
「失礼な。こう見えて自信あるのだぞ」
「鴎だから、てっきり魚は丸のみかと思ってた」
「それ以上、そのネタ引っ張るつもりなら、夜道に背後からスーツケースのスーちゃんががぶりといくよ?」
想像してみたら怖かったので、それ以上言わないことにした。
鴎の他にも、静久と紬もアジの下ごしらえに参加している。あの二人が料理できるのも意外だ。
その間、良一と天善は釣り道具の片づけをしていた。俺も手伝おうかとも思ったが、道具の扱いに慣れてない俺が行ったところで足手まといになるだけだろう。
「ふむ。こんなものか」
そして、例の宝箱から出てきたタコはしっかり塩もみされた後、ゆで上げられていた。
ちなみに、鍋を担当していたのはのみきだった。
「恥ずかしながら、私は皆ほど料理が得意じゃないからな」
「そのタコ、どうするんだ?」
「刺身にするらしい。蒼、頼んだぞ」
「まかせて。しろはー、柳刃包丁貸してくれる?」
「うん。持って行っていいよ」
「ありがと」
蒼は慣れた手つきでタコを切っていく。
「うまいもんだな」
「まだまだ藍には負けるけどね……見直した?」
「見直した」
「ふふん。魚釣りの汚名挽回よ」
「それ、汚名返上な」
「こ、細かい事はいいのよ!」
それこそ、蒼の名誉のためにこれ以上突っ込まないほうが良さそうだ。
そして蒼の横では、藍が雪平鍋を火にかけている。
「藍はなに作ってるんだ?」
「自分で釣った貝でお吸い物を作ってるんです」
どうやら最後の仕上げの段階のようだ。醤油で味を調えた後、お玉で小皿にすくって味を確かめている。
「羽依里さんも味見してみますか?」
「じゃあ一口」
「はい。どうぞ」
藍から吸い物を小皿に足してもらい、一口飲んでみる。
「おお、美味しい」
「それはよかったです」
……って、今の状況はもしかして。
「? どうかしましたか?」
思わず口元に手をやった俺を、藍が不思議そうに見ている。
「天善ちゃんじゃないので、ちゃんと砂抜きはしてますよ」
……良一の失敗談をどこかで聞いたんだろうか。
本人が気づいてないようなので、変に意識しないことにしよう。
「羽依里さん、そろそろ皆の分のお皿を並べてください」
「ああ、了解」
簡易テーブルに紙皿を並べ、刺身用のしょうゆや割り箸を用意する。
それからしばらくすると、テーブルには豪華な料理が並んだ。
「おお……すごいな」
アジの刺身、アジフライ、アジの塩焼き、貝の吸い物にタコの刺身。一部偏ってる感はあるが、そうそうたるラインナップだ。
ちなみに鴎が釣った海の軟体生物たちは、この場での調理が大変ということで海にリリースされた。
また、タコと一緒に宝箱に入ってたウニやアワビは漁協組合の取り決めで漁期以外は獲っちゃダメらしく、海に帰された。
「はい、お待たせ」
そして夏海ちゃんの釣った真鯛の刺身と塩焼きが最後に登場する。
「一番にどうぞ、夏海ちゃん」
「良いんですか?」
「あなたが釣ったものだし。しっかり食べてあげることが礼儀」
俺の手伝いは完全になかったことにされていた。
「それじゃあ、いただきます」
夏海ちゃんは真鯛の塩焼きに箸を伸ばす。
「……すごくおいしいです」
すごくいい笑顔だ。俺も頑張ったかいがある。
「それじゃ、皆もいただきましょう」
それからは各々食事を楽しんだ。
紬はタコと格闘していたし、良一はどこか悔しそうに真鯛の刺身を食べていた。
天善と静久は吸い物に舌鼓を打っていたし、鴎はアワビが食べたかったとぶつぶつ言っていた。
やがて日が暮れ始めたところで、食事会もお開きになる。
「……本当に俺たちだけ先に帰っていいのか?」
バイクで来てるので、俺と夏海ちゃんだけ先に帰らせてもらうことに。
「片付けも終わったし、私たちはゆっくり歩いて帰るから」
「今日はお店休むけど、もうおなかいっぱいだよね?」
「あはは……はい。お腹いっぱいです」
さすがに俺も腹いっぱいだ。夕飯は入りそうにない。
夏海ちゃんが釣った鯛の塩焼きの一部はアルミホイルに包んでもらって、鏡子さんへのお土産にさせてもらった。
「……皆、ありがとうな」
「今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」
「これくらいでお礼言ってちゃ、夏休みが終わるまでもたないわよ?」
「そうですよ夏海ちゃん、夏休みはまだまだこれからです」
「なっちゃん、次は負けないからね!」
「ナツミさん、また一緒にやりましょう!」
「今度は俺も鯛を釣ってやるぜ!」
俺たちは皆に見送られながら、良い疲労感に包まれたまま、帰路についた。
第四話・あとがき
皆様おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
第四話からラジオ体操が始まり、ログインボーナスも始まりました。
今回は生みたて卵。卵かけご飯にしていました。TKGです。ちなみに私は卵はそのまま乗っけて、直接醤油をかける派です。
それにしても、良一の海鮮焼きそばも美味しそうですよね。でも、アサリはしっかり砂抜きしてほしいものです。かくいう私も貝汁とか食べると、十中八九砂に当たります。何故だーーー!
……話を戻しまして、午後からはしろはの釣り場を舞台に魚釣りでした。
この場面は、実際に聖地巡礼で訪れた場所を必死に思い出しながら書いていました。
聖地を訪れていると、かなりリアリティが出せることを思い知りました。なので、小説を書く人はぜひ聖地巡礼してください! 聖地巡礼は良いぞ!
……取り乱しました。失礼しました。
そして釣れる魚は原作準拠か、瀬戸内で釣れる魚にしました。
こういう賑やかな話は書いていて楽しいのですが、収拾がつかなくならないように整理するのが大変です。すっごく楽しいんですけどね!
■今回の紛れ込みネタ
・マッスルエクササイザー
リトバスネタです。真人が作ったドリンクです。
・うぐぅ
kanonの有名なたい焼き娘、あゆの口癖です。うぐぅ。それにしても、最近は二次元でもボクっ子は絶滅危惧種なんでしょうか。
以上になります。いくつお気づきになられたでしょうか。
感想など頂けましたら、泣いて喜びます。