Summer Pockets #2   作:トミー@サマポケ

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第四十二話 8月26日

 

 

 

「……ほら羽依里、起きて。朝だよ」

 

 ……朝。しろはの声で目が覚める。

 

「ああ、しろは……おはよう」

 

 目を開けると、既にふすまは開け放たれていて、枕元にしろはが座っていた。やむを得ぬ事情があるとは言え、朝から恋人に起こしてもらえるなんて。男として、最高の喜びだった。

 

「……朝からニヤニヤして気持ち悪いんだけど。何考えてるの?」

 

「え? な、何も考えてないよ」

 

 どうやら顔に出てしまったらしい。俺は両頬をパンパンと叩きながら、身体を起こす。

 

「うおっ、いててて……!」

 

 身体を動かした瞬間、鈍い痛みが全身を襲う。これはあれだ、筋肉痛というやつだった。

 

 元運動部ってこともあって、ここまでの筋肉痛なんて長いこと経験して無かったのに。昨日、慣れない作業したせいかな。

 

「どうかしたの?」

 

「いや、なんでもない。大丈夫だよ」

 

 しろはの手前、情けない姿は見せられない。俺は全身の痛みを隠しながら立ち上がり、布団をたたむ。

 

「それより、今日はしろはが起こしてくれたんだ」

 

「うん。夏海ちゃん、まだ寝ちゃってるみたいでね」

 

「え、そうなの?」

 

「今、鏡子さんが起こしてくれてるよ。昨日頑張りすぎて、疲れちゃったのかな」

 

「そうかも。夏海ちゃんも頑張ってたもんな」

 

 昨日は夜も色々あったし。俺に秘密を打ち明けたことで気が楽になって、寝すぎちゃってるのかも。

 

「そういえばしろは、じーさんは?」

 

「漁に出てるよ」

 

「あ、やっぱり今日も?」

 

 俺は綺麗にたたまれた隣の布団を見る。昨日の夜中に起きた時、じーさんは寝ていたし、明け方に寝床を抜け出したんだろうか。

 

「うん。また朝ごはんの頃には戻ってくると思うよ」

 

 自分の家のこととはいえ、昨日は俺以上に動きまくってたと思うんだけど。あの年で本当に元気だよな、しろはのじーさん。

 

「おはようございまふぁ~……」

 

 そんなことを考えていると、部屋の前の廊下を大きなあくびをしながら夏海ちゃんが通り過ぎていった。髪の毛も爆発していて、すごいことになっていた。

 

「……夏海ちゃん、起きたみたいだね」

 

 しろはも口元に手を当てて、必死に笑いをかみ殺していた。

 

「寝坊した時の夏海ちゃん、いつもあんな感じだよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 二人して、夏海ちゃんが歩いていった先の廊下の先を見る。なんとなく、朝から微笑ましい気分になった。

 

「……あ。羽依里もそろそろ準備をしないと。ラジオ体操に遅れるよ?」

 

「え?」

 

 そう言われて、反射的に時計を見る。もう良い時間だった。

 

「わかった。着替えるから、そのまま見ていてくれ」

 

「見ないし!」

 

 至って自然にそう言ってみるけど、しろははさっと立ち上がり、ふすまを勢いよく閉めて部屋を出て行ってしまった。

 

 あそこまで顔を赤くしなくてもいいと思うんだけど。冗談なんだしさ。

 

 その後、手早く身支度を済ませて、三人で神社へと向かった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「皆、おはよう」

 

「おはようございます!」

 

 境内についてみると、いつもの少年団の皆に加えて、静久と紬の姿があった。二人は当然のように、ウシとネコの着ぐるみ姿だった。

 

「紬と静久もおはよう」

 

「おはよう、パイリ君」

 

「タカハラさん、それにシロハさんとナツミさんも、おはようございます!」

 

 ネコの着ぐるみを着た紬が俺たちにあいさつを返してくれる。朝の陽射しに負けないくらい、眩しい笑顔だった。

 

「そういえば、二人は昨日も灯台に泊まったの?」

 

「もちろんよ! 今日も作業を手伝うんだから、いちいち本土に帰ってなんていられないわ!」

 

ウシさんはそう言って、大きな胸をどん、と叩いた。うん、朝から色々な意味で気になるから、やめてほしいんだけど。

 

「おお、鷹原たちも来たか。ちょうどいい。今日の作業について説明をするから、こっちに集まってくれ」

 

 俺たちがやってくるのを待っていたかのように、のみきからそう声がかかった。瞬く間にのみきを中心に輪ができる。

 

「例によって鳴瀬翁には伝えてあるが、今日の片付け作業も9時からだ。皆のおかげで、昨日だけでかなりの量の土砂を除去できたらしい。青年団の皆も驚いていたぞ」

 

 それを聞いて、この場にいた子供たちから歓声が巻き起こる。大人に褒められれば、子供たちも自信がつくよね。

 

「残るは庭の細かい所とか、裏山だな……」

 

 良一が顎に手を当てながら、そう呟いていた。確かに裏山は未だ業者待ちで、手が出せないんだよな。

 

「……って、良一たちは今日も手伝ってくれるのか?」

 

「当然だ。手伝わない理由なんてない」

 

「当たり前よー。あ、今日はあたしたちも朝から参加するから」

 

 最初に良一がそう言い、空門姉妹、天善がそれに続く。皆、疲れた様子も見せずに笑顔だった。俺なんて全身筋肉痛だって言うのに。本当にありがたい話だった。

 

「あれ? そういえばのみき、今日は鴎は来てないんだな?」

 

 皆の顔を見ていると、一人足りないことに気づいた。鴎はラジオ体操に来ないことも多いんだけど、昨日の今日で来ないなんて。

 

「ああ、彼女は野暮用だ」

 

 一緒に住んでるのみきなら、何か知ってると思ったんだけど、ただ笑顔で浮かべるだけだった。野暮用? なんだろう。

 

「お前ら―!今日もラジオ体操を始めるぞー!」

 

 その先の質問をする前に、ラジオ体操大好きさんがやってきた。今日もラジオ体操が始まる。

 

 

 

 

「第二の体操! 横隔膜の振動だ! うるああああぁぁぁー!」

 

「うるああああぁぁぁーーーー!」

 

 今日も今日とて、変わったラジオ体操だった。

 

「もし今度、普通のラジオ体操をやることがあったら、逆に違和感を感じそうだね」

 

「そうですね……すっかり、この島のラジオ体操に馴染んじゃいましたし」

 

「こらそこ! おしゃべりは禁止だ!」

 

「す、すみません」

 

 夏海ちゃんと二人で話をしていると、ラジオ体操大好きさんに怒られてしまった。

 

「次は第三の体操! 一秒間、黙って真剣な目!」

 

「星屑ロンリネンス……」

 

 その後は全力でラジオ体操に取り組んだ。相変わらず、ラジオは使わなかった。

 

 

 

 

「よーし、スタンプはこっちだぞー」

 

 その後、本日分のスタンプとログボを受け取る。

 

 今日のログボは昨日と同じく、スポーツドリンクだった。『レモン果汁入り!』と大きく書かれていたので、若干味が違うのかもしれない。

 

「それじゃーねー」

 

「また後でなー」

 

「ああ、またよろしく頼むよ」

 

 ラジオ体操を終え、帰路に就く蒼や良一たちにそう声をかけた後、俺たちも帰宅することにした。

 

 

 

 

 三人で横並びになって、住宅地を加藤家へ向かって歩く。真ん中に夏海ちゃん、その両サイドに俺としろはが並ぶ形だ。

 

「……それにしても夏海ちゃん、お腹空いたね」

 

「はい。空きました」

 

 ラジオ体操もして、時間的にも良い頃合いだ。おのずとそんな話題になる。

 

「今日の朝ごはん、楽しみだなー」

 

「楽しみですねー」

 

 そして二人で示し合わせたように、期待に満ちた笑顔をしろはに向ける。一方のしろはは、困惑した表情を浮かべていた。

 

「そ、そんな期待されても……私の料理なんて、普通だし」

 

「そんなことないですよ! しろはさんのごはん、まるでおかーさんの料理みたいで、安心するんです!」

 

「そうだぞ。食堂をやってるしろはの料理が、普通なわけがない」

 

 そう言いながら、二人で更なる笑顔を送ってみる。困惑するしろはを見るのは楽しい。

 

「もう……二人とも、褒めても朝ご飯のおかずは増えないんだからね」

 

 しろははそう言って、恥ずかしそうに顔をそむけてしまった。ちょっとやりすぎたかな。

 

 でもこの夏、毎日のようにしろはのごはんを食べてきたけど、これまで料理がハズレだったことはない。本当にお世辞でもなんでもないんだけど。

 

「……あら、鳴瀬さんちのしろはちゃん」

 

 そんな話をしていると、近くを歩いていた女性から声をかけられた。誰だっけ。名前は知らないけど、顔はどこかで見たような気がする。

 

「ちょうどいいところに。うちのニワトリが卵をたくさん産んじゃってね。どう配り歩こうか悩んでいた所なのよ」

 

 言われてみれば、女性は大きな袋を持っている。その中には、真っ白い卵がたくさん入っていた。

 

「良かったら、少し持っていってちょうだいな」

 

 そう言いながら、卵を小さな袋に小分けにして、しろはに手渡してくれた。

 

「わぁ。佐藤さん、ありがとうございます」

 

「いつも鳴瀬さんには魚を分けてもらってるから、そのお礼ね。それじゃ」

 

 俺たちに爽やかに手を振ると、しろはに佐藤さんと呼ばれた女性は、そのまま去っていった。大きな袋にはまだまだ卵が入っているみたいだし、これから配り歩くんだろうか。

 

「……今の人、誰でしたっけ。見覚えはあるんですけど」

 

 その後ろ姿が見えなくなった直後、夏海ちゃんが首をかしげながらそう聞いてきた。

 

「夏海ちゃん、覚えてない? 今の人、昨日婦人会の一員として私の家に来てた人だよ」

 

「あ。あの時、炊き出しをしてくれた人ですか?」

 

「そう。佐藤さんは今、島の婦人会長さんをやってくれてるの」

 

 しろはが夏海ちゃんへ、そう説明をしてくれた。そうだったのか。それなら、見覚えがあるのも納得だった。

 

「佐藤さん、昔は本土の漁協に務めていたんだって。そこで、行き倒れになっていた旅人にボーリング球くらいの大きさのおにぎりを渡して、命を助けたことがあるとかないとか」

 

「え、なにそれ」

 

 俺も思わず会話に入る。若い頃に神戸の老舗洋菓子店で修業したことがある木戸のおばーちゃんといい、この島には印象的な経歴を持つ住民が多い気がする。

 

「おお、しろはちゃんじゃないか」

 

 そんなことを考えていると、今度はおじさんに声をかけられて、キャベツと大根、海苔の佃煮を渡された。昨日に続いて、もらいものだらけだ。

 

 そろそろ、加藤家の冷蔵庫のキャパシティーをオーバーしそうなんだけど、大丈夫かな。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 加藤家に帰宅すると、しろはは野菜や卵の入った袋を持って台所へ行き、さっそく朝ごはんの準備に取り掛かってくれる。

 

 しろはのじーさんも戻ってきていたので、俺と夏海ちゃん、そして鏡子さんを加えた四人で居間に座り、朝食ができるのを待つ。

 

「こばとさん、今日はどんな魚が釣れたんですか?」

 

「今日はタイとアジだな。後、珍しい魚が獲れたから、持って帰ってきた。夕飯を楽しみにしているといい」

 

「はい! 楽しみにしてます!」

 

 相変わらず夏海ちゃんが場を繋いでくれるから頼もしかった。ところで、珍しい魚って何だろう。

 

 

 

 

「はい、おまちどうさま」

 

 しばらくして、しろはが人数分の朝ごはんを運んできてくれた。

 

 今朝の献立は炊きたてのごはんに、キャベツや豆腐、ニンジンが入った具だくさんの味噌汁、海苔の佃煮、そしてメインのおかずは佐藤さんからもらった卵を使った目玉焼きだった。うん、どれも美味しそうだ。

 

「それじゃ、いただきましょうか」

 

「「いただきまーす」」

 

 エプロンを外したしろはが食卓に着いた後、例によって家主の鏡子さんの言葉を待って、食事を始める。

 

 最初に、味噌汁をすする。うん。キャベツの甘味が味噌と出汁の中に溶け込んで、美味しい。

 

 次にごはんを手にして、海苔の佃煮に箸を伸ばす。

 

「……この佃煮、なんか既製品とは違う気がするんだけど」

 

「うん。島で獲れた海苔を使った手作りらしいの。さっき味見したけど、美味しかったよ」

 

「どれどれ」

 

 俺は佃煮をごはんの上に乗せて、一口食べてみる。

 

「おお、うまい」

 

 甘辛く煮た海苔はご飯のお供として最高だ。これだけでいくらでもご飯が進む。

 

「ふふ、しっかり食べて、今日の作業も頑張らないとね」

 

「朝から食いすぎて、腹を壊したりせんようにな」

 

「わ、わかってますって」

 

 そんな俺たちの様子を、大人たちが温かい目で見てくれていた。

 

「ねぇ、おしょうゆ取って、おとーさん」

 

「ああ、いいよ……って、おとーさん!?」

 

「……はっ。すみません。つい」

 

 急におとーさん呼ばわりされて、思わず隣を見る。夏海ちゃんが口元に手を当てて、顔を赤くしていた。べ、別に良いけどさ。

 

「まるで家族で食事をしてるみたいなのでその、口が滑っちゃいました」

 

「でも、おとーさんはないよ……せめて、おにーちゃんとかさ……」

 

 俺は複雑な心境のまま、ごはんをかき込む。

 

 ……でも確かに、こうやって見渡してみると、夏海ちゃんの言う通りだった。

 

 それまでは鏡子さんだけが住んでいた加藤家に、夏の間だけとはいえ俺や夏海ちゃんがやってきて、今は新たにしろはとそのじーさんが加わった共同生活。

 

 本来は他人同士なのに、いつの間にか一つの家族のように馴染んでいる。そんな不思議な感覚がそこにはあった。

 

「やっぱり、目玉焼きにはおしょうゆが一番ですね!」

 

 そんな中、笑顔で目玉焼きにしょうゆをかける夏海ちゃんを見ていたら、ある疑問が浮かんだ。

 

「夏海ちゃんって、関西出身なんだよね? 目玉焼きにはソースじゃないの?」

 

「はい? なんでソースなんです? 普通はおしょうゆですよね?」

 

 夏海ちゃんは同意を求めるように他の皆の顔を見る。

 

 しかし、その場にいる皆は夏海ちゃんの意見に同意することなく、一様に視線を泳がせていた。

 

「えーっと、羽依里は目玉焼きになにかけるの?」

 

 微妙な空気の中、しろはが俺にそう聞いてきた。

 

「えっと、普段ならケチャップかな」

 

 俺は正直にそう答える。島にいる今でこそ、朝はチャーハン派……じゃない、ご飯派になってるけど、本来ならパン派だし。パンに合うという意味でも、目玉焼きにはケチャップが一番だと思っている。

 

「……ケチャップだと? これだから、都会の人間は」

 

「本当。羽依里、それだけはやめた方がいいよ」

 

「羽依里君、ケチャップはほどほどにね」

 

 え、そこ怒られるところなの?

 

 変わってるのは自覚していたけど、まさか三人揃って否定されるとは思わなかった。

 

「じゃあ、しろはは何かけるの?」

 

「私は塩かな。おじーちゃんは素材本来の味が一番って言って何もかけないんだけど、私はそれだと、どうしても味気なくて」

 

 そう言うしろはの手元には、台所から持ってきたらしい、小瓶に入った塩が置かれていた。

 

「じゃあ、鏡子さんは何をかけるんですか?」

 

 炊きたてのごはんの上に半熟の黄身を広げながら、夏海ちゃんがそう質問する。

 

「私はなんでも。その日の気分かな」

 

 鏡子さんがそう言う。この人はかなりの偏食だし、すごいものかけたりするんじゃないだろうか。

 

「あ、ひでんソースの時もあるね」

 

 なんだろう。加藤家秘伝のソースとかあるんだろうか。なんにしても、鏡子さんの作ったものだし、深く言及しないほうが良さそうだ。もし出されたりしたら、断り辛いし。

 

 ……その後は思い思いに食事を楽しみ、食後は昨日と同じように準備をして、全員で鳴瀬家へと向かった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 加藤家に着いてみると、子供たちや青年団、少年団といった島民に混ざって、見慣れない作業服の集団がいた。なんだろう、あの人たち。

 

 のみきなら事情を知ってそうだけど、見たところ、青年団との打ち合わせの真っ最中だ。声をかけるのは憚られる。

 

「あ、羽依里―! しろしろー!」

 

 その時、鴎の声が聞こえた。どこからだろうと思って周囲を見渡してみると、先の集団の中心にその姿を見つけた。隣には、母親の鷺さんの姿も見える。

 

「おかーさん、あの人たちがそうだよ!」

 

 鴎はそう言いながら、鷺さんと一緒に俺たちの方にやってきた。

 

「鴎、変な人たちに囲まれてたけど、なんかあったのか」

 

「変な人たちじゃないよ! おかーさんの会社の人たち! 今日の作業を手伝ってくれることになったの!」

 

「え、会社の人?」

 

「うん! その道のプロフェッショナルだよ!」

 

 鴎の突然の発表に、俺たちが頭の上に疑問符を浮かべていると……隣の鷺さんが一歩前に出る。

 

「皆さん、この場に似つかわしくない格好ですみません」

 

 作業着やTシャツ等、作業向けの格好をしている俺たちに対し、鷺さんは普段着だった。どうも、作業を手伝いに来てくれた感じじゃなさそうだ。

 

「今回、縁あってこちらの裏山に防護柵を設置させてもらうことになりました。作業員の皆さん、こちらが家主の鳴瀬さんと、孫娘のしろはさんです」

 

 鷺さんにそう紹介され、作業服を着た人たちが集まってきた。代表のような人が二人に挨拶をすると、じーさんもしろはも、呆気にとられたような顔で受け答えをしていた。

 

「……あの人たちは普段、島の南側にある会社で土木関係の仕事をしている人たちだそうだ。今回、無償で手伝ってくれることになった」

 

 その時、青年団との話し合いを終えたらしいのみきが俺の隣にやって来て、そう教えてくれた。

 

 そういえば島の南側……七ヶ浜がある辺りは、とある企業の私有地だと、のみきが言っていた気がする。

 

 でも、そんなすごい人たちが、どうして手伝ってくれるんだろう。

 

「……作業員の皆さん、本日はお休みのところ、本当に申し訳ありません。まさか私に相談もなく、娘が直接電話をするなんて思わなくて」

 

「良いってことですよ。社長の娘さんの頼みとあっちゃ、断れないですしね」

 

「そうッスよ。友達の力になりたいって、泣かせる話じゃないッスか」

 

 ……鷺さんと作業員の会話を聞く限り、どうやら鴎が手配してくれたらしい。かなり、強引なやり方だったみたいだけど。

 

「鴎、ありがとうな」

 

 俺は鴎の近くに寄って、そうお礼を言う。

 

「お礼なんていいよ。私がやりたかっただけだし」

 

 そう言って笑うけど、大人に協力してもらうのは簡単じゃなかったはずだ。しろはのために、鴎がそこまでしてくれるなんて。その行動力には本当に驚嘆するばかりだった。

 

「……ところで鴎、鷺さんって社長なの? あの人、童話作家じゃなかったっけ?」

 

「よくわからないけど、本の印税を元手に、色々な所でお仕事してるみたい」

 

 気になっていた疑問を思い切って聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。娘によくわからないと言われている辺り、本当に謎な人だ。以前も、大量のスーツケースを買い取ってくれたりしたし。

 

 でもその人脈のおかげで、いつになるかもわからなかった防護柵がすぐに設置してもらえることになったんだから、本当にありがたい話だった。

 

 

 

 その後、全員に改めて作業員の皆さんが紹介された後、各々の割り振りが決められて、今日の作業が始まった。

 

「よーし、慎重に運べよー! 落として壊したら、お前らの給料から天引くからな!」

 

「勘弁してくださいよ。いくらすると思ってんスか!」

 

 作業が始まると、作業員の皆さんはすぐに小型の機械を鳴瀬家の裏手に運び込んでいた。どうやら、掘削用の機械らしい。

 

 既に下の道に資材を満載したトラックを待機させているらしく、掘削機械の設置が終わり次第、一気に作業を進めるとのことだった。

 

「裏山の方はあの人たちに任せて大丈夫みたいだね。羽依里、私たちは自分の仕事をしよう?」

 

「ああ、そうだな」

 

 しろはからそう声をかけられ、俺は表の庭へと向かう。防護柵の設置状況も気になるけど、まずは自分たちの作業に集中しないと。

 

 

 

 

 俺たちの作業は昨日と同じく、庭に残った土砂の除去だ。今日は朝から空門姉妹や紬、静久も手伝いに来てくれていた。

 

「皆、手伝うよ」

 

「おう。羽依里、筋肉痛になってんじゃねーか?」

 

「だ、大丈夫だ。大したことない」

 

 良一がそう言いながら、俺の肩を軽く叩いてきた。実際はかなり痛いけど、気にしてる場合じゃない。

 

「まったく、先が思いやられますね」

 

「無理はしないようにねー」

 

 やせ我慢しているのがバレバレだったみたいで、藍はジト目で、蒼は笑顔で、それぞれこっちを見ていた。

 

「さあ紬、この動きはかなりクーパー靭帯のトレーニングになるのよ!」

 

「はい! 頑張ります!」

 

 そんな空門姉妹から少し離れたところでは、紬と静久が移植ごてを手にして、砂袋に土砂を詰めていた。

 

 静久は髪をおだんごに纏め、紬はポニーテールにしていた。二人とも髪が長いから、汚さないようにするのが大変そうだ。

 

 ちなみに、今日は昨日のようなローラー作戦ではなく、皆で散開して目についた土砂を砂袋に詰める作業だった。一見綺麗になっている庭も、塀の陰や花壇の隙間、植込みの奥など、よく見ると所々に土砂が残っていた。

 

 その土砂の除去もあらかた終わると、今度は青年団の人が長めのホースを用意してくれ、鳴瀬家の水道を使って壁の汚れを洗い流す。

 

 土砂が残っているときに水を流すと、その土砂が水を吸って重くなるから良くないらしい。

 

「いきますよー。それー!」

 

 意気揚々とホースを手にした紬が、凄く楽しそうに壁に水をかける。

 

 現に楽しいのか、土砂が無くなって手持ち無沙汰になった子供たちも集まってきていた。

 

 壁に跳ね返った水を浴びて、びしょびしょの泥まみれになっていたけど、既に皆散々汚れているし、黙々と作業するより、たまにはこういうのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「皆さーん、お昼ご飯を持ってきましたよー」

 

 もう少しでお昼と言う頃になって、昨日と同じように島の婦人会の皆さんが昼食を持って来てくれた。

 

「皆さん、少し早いですがキリが良いですので、お昼休憩にしましょう!」

 

 その様子を見た青年団の人がそう号令をかけて、いったん休憩時間となる。

 

 皆が続々と給水所や水道へ向かう中、俺は一人、裏山の方へ向かった。

 

 休憩時間であることを伝える意味もあったけど、防護柵がどうなったのか、気になっていたし。

 

「皆さん、お昼休憩らしいですよ。島の婦人会でお昼を用意してますので、良かったらどうぞ」

 

 作業員の皆さんにそう伝えながら、裏山を見渡してみる。

 

「おお、すごいですね」

 

 見ると、山の縁に沿うように鉄製の柵が埋め込まれていた。あれがあるだけで、一気に安心感が増す。

 

「坊主、これくらいで驚かれちゃ困るぜ。今はまだ基礎部分を樹脂で固めてる最中だ。樹脂が固まったら、まだまだ柵を高くするぜ」

 

 現場監督風の男性がタバコを出しながら、こんなの朝飯前だと言わんばかりの表情でそう言っていた。

 

「……いや、職人の技術というものは、すごいものだな」

 

 いつの間にか、俺の隣にのみきが来ていた。確かに、協調性では俺たちも負けないけど、一人一人の技術力が違う。この人たちに任せていれば、本当に大丈夫だろう。

 

 

 

 

 その後、俺は作業員の皆さんと一緒に庭の方へ戻り、昼食をいただくことにした。

 

 今日も昨日と同じように、たくさんのおにぎりが用意されていた。どうやら今回はおにぎりによって具が違うらしい。

 

「おにーさん、まだ食べてないみたいだね」

 

 どのおにぎりにしようか迷っていると、一人の女性から声をかけられた。この人、朝に会った……確か、佐藤さんだっけ。

 

「ええ、どのおにぎりも美味しそうで」

 

「そうだねぇ。なんなら、色々な具が楽しめる、とびきり大きいのがあるけど、それにするかい?」

 

「はい。それじゃ、そのとびきり大きいのを貰えますか」

 

 しっかりと作業した後でお腹が空いていたので、思わずそう注文をする。

 

「はいよ。とびきり大きいのね」

 

 ……次の瞬間、目の前にあるのとは別の箱から、まるでボーリング球のような巨大なおにぎりが出てきた。

 

「大きすぎて、誰も取らなかったんだよ。おにーさん若いし、これくらい食べられるよね?」

 

「は、はい。いただきます」

 

 自分からとびきり大きいのを……と頼んだ手前、今更突き返すわけにもいかなかった。俺はずっしりと重いおにぎりと麦茶を手に、適当な場所で腰を下ろす。

 

「しまった……しろはの言っていた、佐藤さんの話は本当だったのか」

 

 俺は手元のボーリング球……じゃない。おにぎりを見つめながら、大きくため息をついた。

 

「でも、受け取った手前、食べないとな……礼儀だし」

 

 俺は意を決して巨大なおにぎりにかじりつく。

 

「あ、美味しい」

 

 いわゆる爆弾おにぎりと言うやつだった。色々な具材が入っているのか、一口かじるごとに違う味がする。これは飽きなくていいかも。量はものすごいけど。

 

「パイリ君、どうしてそんなおっぱいみたいなおにぎりを食べているの?」

 

「おおー、おっきなおにぎりですね!」

 

 ボーリングおにぎりに悪戦苦闘していると、静久と紬がこっちにやってきた。

 

「いやその、色々あってさ……そういえば二人とも、もうお昼は済ませたの?」

 

「ごめんね。もう済ませちゃったのよ」

 

「はい! コンブの入ったおにぎりをいただきました!」

 

「そっか……」

 

 まだ食べてなかったら、口をつけてない裏の方とか加勢してほしかったんだけど。そういうわけにはいかないみたいだ。

 

「タカハラさん、頑張ってください!」

 

 紬がポニーテールを揺らしながら、そう応援してくれる。

 

「……紬から『がお』って言われたら、頑張れるかも」

 

「むぎゅ?」

 

「パイリ君、現実逃避してないで、頑張って食べないと。もうすぐお昼休憩が終わっちゃうわよ」

 

「わ、わかった。頑張るよ」

 

 その後も二人に応援されながら頑張ったけど、結局半分くらいしか食べられなかった。残りは持って帰って、しろはにアレンジしてもらおう……。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 庭の方があらかた片付いたということで、午後からは皆で家の中に入り、じーさんの部屋の畳と床板をあげて、床下の土砂の除去作業を行った。

 

 古い日本家屋だけあって、大きな石が土台として置かれ、その上に床を支えるように木材が組み合わされていた。

 

「羽依里さーん、大丈夫ですかー?」

 

 夏海ちゃんやしろはが心配そうに見下ろす中、俺やじーさん、良一をはじめとした男性陣が、土台を傷つけないようにしながら慎重に土砂をスコップでかき集めて、砂袋に詰めていく。

 

 いっぱいになった砂袋はそのまま床上に持ち上げて、外へと運び出される。この作業を何度も繰り返した。

 

 流れ込んでいる土砂はそこまで多くないけど、この手の家は床下の通気が大事らしく、念入りに作業が行われた。

 

「根太や根がらみも大丈夫のようだな。これなら、一安心だ」

 

 そんな作業の中で、じーさんがそう言っていた。部位の名前はよくわからなかったけど、安心しているみたいだった。

 

「……よし、もういいだろう」

 

 やがて、しろはのじーさんの一声で、床下の作業が終了する。

 

 道具を片付けて、皆と一緒に外へ出てみると、作業員の皆さんも表に戻って来ていた。

 

 どうやら、防護柵も完成したらしい。せっかくなので、皆で見に行ってみることにした。

 

 

 

 

「おおー、すごいです!」

 

「これは圧巻だな……」

 

 そこにはテレビでよく見るような、立派な防護柵が出来上がっていた。これ、全部手作業でやったのか。あの人たちすごい。さすがプロだった。

 

「……よもや、ここまで立派なものができるとは思わなかった。礼を言う」

 

「皆さん、ありがとうございます」

 

 その時、しろはとじーさんが作業員たちにそうお礼を言って、頭を下げていた。

 

「良いって事よ。俺たちも島の皆には世話になってるんだ。ここらで恩返しの一つでもしておかねぇとな」

 

 現場監督がそう言うと、そうだそうだと他の作業員も続く。

 

「防護柵だけでなく、裏山の土砂の処理もしてくれたんですね。ありがとうございます」

 

 直後、青年団の人がそうお礼を言う。言われてみれば、手付かずだったはずの裏山の土砂がいつの間にかなくなっていて、端の方に大量の砂袋が積まれていた。

 

「あぁ、掘削用の機械を入れる必要があったしな。邪魔な土砂を先にどかしただけだ。ついでだよ、ついで」

 

 そして豪快に笑う。でも、これは絶対についでにできる量じゃない。

 

 作業員の皆は技術だけじゃなく、男気や人情も持ち合わせた、すごい人たちだった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 その後、裏山の安全が確保されたということで、大人たちや関係者だけで一度話し合いを持とうということになり、俺たちはお役御免となった。

 

 その話し合いに参加するとのことで、じーさんやしろは、鏡子さんはは鳴瀬家に残ったため、俺は夏海ちゃんと二人で加藤家に帰宅する。

 

 帰宅してすぐに風呂を沸かして、全身の汚れを落とす。その後はやることもなくなり、暇になってしまった。

 

「……ふう、さっぱりした」

 

 入浴を終えて居間に行ってみると、夏海ちゃんが畳の上に寝っ転がって、特に興味もなさそうにテレビ画面を眺めていた。

 

 俺もその隣に腰を下ろして、テレビを見てみる。

 

 

 

『天王寺先生のー、ガチの園芸!』

 

 テレビでは国営放送がついていて、園芸番組をやっていた。どうも、趣味レベルじゃないらしい。ガチの園芸のようだった。

 

『皆さんこんにちわ。本日の講師は、昨今のガーデニング界に旋風を巻き起こしている、天王寺小鳥先生です!』

 

『どもー』

 

 女性司会者に紹介されて、髪の長い女性が画面に出てきた。花の形をした髪留めをしていて、なんというか、独特の雰囲気を持つ先生だった。

 

『では、今日はアサガオの種を収穫します』

 

 そう言いながら、二人はアサガオの鉢植えの前に移動する。そういえば、もうそんな時期かな。

 

 画面にズームアップされたアサガオは茎を含めた全体が茶色く変色し、カラカラに乾いていた。

 

『こんな感じの色になったら、なるべく早めに収穫した方がいいよ。ほっとくと、種が弾けて飛んでいっちゃうから』

 

『中には熟していない種もありますよね。早く収穫しすぎた場合、どうすればいいですか?』

 

『適当に紙の上に並べて陰干しして、しっかりと乾燥させればいいよ』

 

 先生は話しながらも、慣れた手つきでひょいひょいと種を摘んでいった。

 

『あ、でもアサガオで乾かしていいのは種だけだよ。他の部分を乾かすと、おやばいことになる。詳しくは言わないけどさ』

 

 え、おやばいことって何だろう。そこで話を切られると、逆にすごく気になる。

 

『……うちのダンナも頑張って稼いではいるんだけど、やっぱりヅャスコの謝謝デーはやめられないねー』

 

 その後は、トークが急に俗世な話題になっていった。一方で番組内容は秋に向けてのコスモスの苗植え指南へと変わり、専門的な肥料の名前がズラズラと並べられていた。バーミキュライトってなんだろう。強そうだけど。

 

 

 

「本当にガチの園芸だね……」

 

「はい。なんだか頭痛くなってきました……」

 

 先生は個性的だったけど、内容は本当にガチだった。俺と夏海ちゃんは二人揃って畳に突っ伏して、脱力する。

 

「うーん……」

 

 俺はその体勢のまま首を動かし、壁の時計を見る。時間は15時前といったところだ。まだまだ日は高い。

 

「そうだ夏海ちゃん、今から駄菓子屋に行ってみない?」

 

「え、駄菓子屋ですか?」

 

「うん。かき氷でも食べようよ」

 

「いいですね。行きましょう!」

 

 待ってましたとばかりにぴょんと跳ね起きると、ぱたぱたと玄関の方へと走っていってしまった。

 

「よっぽど暇だったんだろうなぁ……」

 

 俺は苦笑しながらポケットに財布を突っ込むと、夏海ちゃんの後を追った。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 夏海ちゃんと二人、駄菓子屋に向かって歩く。昼下がりを少し過ぎた、暑さの盛りだ。外を歩いている人の姿はまったくない。

 

「……ところで、トキアミなんだけどさ」

 

「はい!? い、いきなりその話題を出さないでください!」

 

 ふと気になることがあって、そう切り出してみる。夏海ちゃんは驚いたらしく、目を白黒させていた。

 

「ごめんごめん、二人っきりだし、良いかと思って」

 

「それはまぁ、いいですけど……」

 

 夏海ちゃんはキョロキョロと周囲を気にしている。誰もいないし、そこまで神経質にならなくても。

 

「それで、トキアミがどうしたんですか?」

 

「少し気になったんだけど、そのトキアミにさ、川とか流れてなかった?」

 

「川ですか? そんなもの見えませんでしたよ。どこまでも花畑が続いてました。変な質問しますね?」

 

「ほら、三途の川があるとしたら、そこかなって思ったんだけど」

 

「……遠くに白い塔みたいなのがあったような気もしますけど、川なんてなかったですよ」

 

「そっか……残念。貴重な体験を聞けるかと思ったんだけど。オカルト好きとして、気になってさ」

 

「むー。羽依里さん、三途の川とか非現実的なこと言うのやめてください」

 

 非現実の塊みたいな子に、そう言われてしまった。

 

「じゃあ、今度は七影蝶についてなんだけど」

 

「今度は何ですか?」

 

 あからさまに不機嫌そうだった。ちょっと最初にふざけすぎたかな。

 

「七影蝶は死者の強い思いの残滓が具現化したものなんだよね。それじゃ、夏海ちゃんの持ってた『思い』って何?」

 

「……え?」

 

 俺からの質問に、夏海ちゃんは呆気にとられたような顔をしていた。今まで考えたことが無かったんだろうか。

 

「急にそう言われても……私、トキアミを通る前のことはあまり覚えては……あ」

 

 夏海ちゃんは口元に手を当てて少し考えて……何かを思い出したみたいにはっとなる。

 

「トキアミに来るきっかけになったあの時……階段から落ちて、意識を失う直前。『一度でいいから、お友達と一緒に、楽しい夏休みを過ごしたかった』って心の底から思ったんですよ」

 

「つまり、それが夏海ちゃんの思いであり、願いなわけなんだね」

 

「はい。しかもそれ、叶っちゃってます。私は今、お友達……と呼んでは失礼かもしれないですけど、島の皆さんと一緒に、すごく楽しい夏休みを過ごさせてもらってます。叶っちゃってますよ……」

 

 夏海ちゃんは自分の発言の意味をかみしめるように、うん、うんと頷いていた。

 

 やっぱり、夏海ちゃんは理由もなく瞳さんに呼ばれたわけじゃないらしい。

 

 鏡子さんの姪ということで、島に縁があるのもそうだけど、今の夏海ちゃんは『楽しい夏休みを過ごしたい』という同じ思いを持った七影蝶の集合体でもあるのかもしれない。

 

「そう、さしずめ夏海ちゃんは……思い出の渡り鳥」

 

「はい? 私がなんですか?」

 

「い、いや、なんでもないよ」

 

 考えに浸っているうちに、変な思考になってしまったみたいだ。

 

 暑さにやられかけているのかもしれないし、駄菓子屋に急ごう。

 

 

 

 

「くーださーいな」

 

「……誰も居ないみたいですね」

 

 駄菓子屋に到着し、店の中に声をかけてみるけど、見事に無人だった。店番の空門姉妹はおろか、おばーちゃんの姿もない。

 

「くーださーいなー!」

 

 もう一度、少し大きめの声で呼びかけてみるけど、やっぱり誰も出てこない。

 

 よく見ると、カウンターのところに小さなザルとメモが置かれていて、メモには『お代はこちらへ』と書かれていた。信じたくないけど、やっぱり無人販売になっているみたいだ。

 

「……いつも思うんですけど、これってすごいシステムですよね」

 

 夏海ちゃんがそのメモを見ながらそう言う。確かに、島ならではだと思うけど。

 

「でも、これじゃかき氷が食べられないね」

 

「そうですよね……」

 

 無人販売だからと言って、勝手にかき氷を作るわけにもいかない。これはどうしたものか。

 

 俺と夏海ちゃんは落胆しながら、店を出る。するとその時、店の脇に置かれたガチャポンが目に留まった。

 

「……そうだ夏海ちゃん、ちょっとこのガチャポンでもやってみない? やってるうちに、おばーちゃんや店番の蒼たちが戻ってくるかもしれないしさ」

 

「あ、やってみたいです!」

 

 何の気なしにそう提案したけど、思いのほか、夏海ちゃんは乗り気だった。

 

「こういうのって普段は学校で禁止されてたので、気になってたんです! どんなものが入ってるんですかね?」

 

 夏海ちゃんは嬉々としてガチャポンの方へ向かっていく。そういえば、最近はガチャポンを禁止にしてる学校があるって聞いたことがある。

 

「えーっと……」

 

 俺もそんな夏海ちゃんの後を追っていき、一緒にガチャポンのラインナップを見てみる。

 

 

『当たりを入れる事だけは忘れなかった……鳥白島セレクション』

 

『夏の今こそ冬を! kanonセレクション』

 

『ガチャ結果を書き換えることができるだろうか……Rewriteガチャ』

 

『爆死必須!? 死んだ世界戦線ガチャ』

 

 

 俺たちの眼前には、四つの筐体が並んでいた。どれも煌びやかな虹色の配色がされていて、ものすごく派手だった。

 

「夏海ちゃん、どれ回してみる?」

 

「そ、そうですね……これだけあると、悩みますね」

 

 夏海ちゃんは百円玉を握りしめて、目移りしているようだった。なんというか、すごく微笑ましい。

 

「……決めました! これにします!」

 

 悩んだ末、夏海ちゃんが選んだのは、死んだ世界戦線ガチャだった。

 

「百円入れて……ガラガラポン、と……」

 

 夏海ちゃんがハンドルを回すと、中から青いカプセルが出てきた。

 

「……ミニチュア版、天使フィギュア。麻婆豆腐つき……なんですかねこれ」

 

 カプセルの中には、小さなソフビ人形が入っていた。よくわからないけど、当たりなんだろうか。

 

「それじゃ、俺はこのガチャポンを回してみよう」

 

 俺が選んだのは、kanonセレクションと書かれた筐体だった。とりあえず百円を入れて、ハンドルを回す。

 

 かこん。という音がして、白いカプセルが出てきた。

 

 カプセルを開けてみると、中には小さなカエルのような形をしたデジタル時計が入っていた。

 

 一緒に入っていた説明書を読んでみると、どうやらこれは音声を録音できるタイプの目覚まし時計らしい。

 

「え、目覚まし時計ですか? そんなに小さいのに、すごいですね」

 

 夏海ちゃんが興味津々で覗き込んできた。色々弄ってみると、背面に音声再生のボタンがあったので、絶縁テープを抜いた後、試しに押してみる。

 

『あさー。あさだよー。朝ごはん食べて、学校行くよー』

 

 次の瞬間、昼下がりの住宅地に、何とも言えない声が響き渡った。

 

「え、何ですか今の」

 

 ……もう一度押してみる。

 

『あさー。あさだよー。朝ごはん食べて、学校行くよー』

 

 音声の内容的には起こそうとしているみたいだけど、聞いてると逆に眠たくなるのはなんでだろう。

 

『あさー。あさだ』

 

 俺は何とも言えない虚無感を感じて、スイッチを切った。よくわからないけど、たぶんハズレっぽかった。

 

「……お? 二人して、何やってんだ?」

 

 その時、背後から声がした。振り返ってみると、良一と天善が立っていた。

 

「あ、良一さんに天善さん、こんにちはです!」

 

「ちーっす」

 

「良一たちも、駄菓子屋に用事なのか?」

 

「ああ、今日も暑いし、かき氷でも食べようと思ってな」

 

「楽しみにしてるとこ悪いけど、今は店に誰もいないぞ」

 

「なに!?」

 

 驚いた良一が店の中に飛び込んでいく。そしてすぐに、肩を落として戻ってきた。

 

「よりによって無人かよ……この炎天下の中歩いてきたってのに、そりゃないぜ……」

 

「私たちもかき氷を食べに来たんですけど、誰もいなくてですね。時間が経てば誰か戻ってくるんじゃないかと思いまして、こうしてガチャポンをしていたんです」

 

 夏海ちゃんが俺に代わって、そう説明をしてくれていた。かき氷難民という点では、俺たちは同類だった。

 

「そういうことか。これも何かの縁だし、俺たちも久しぶりにガチャポンをやってみるか」

 

「え、いいのか?」

 

「おう、どーせ暇になったしな」

 

 良一はそう言うと、ポケットから百円玉を取り出し『鳥白島セレクション』の筐体へと投じる。

 

「いくぜ! ガラガラポン……っと」

 

 かこん、と音がして青色のカプセルが出てきた。

 

 良一がそのカプセルを開けると、中には小さな水鉄砲が入っていた。

 

「ミ、ミニチュア版、ハイドログラディエーター改!?」

 

 一緒に入っていた説明書を読んだ良一が愕然としていた。

 

「うう、トラウマがよみがえってくるぜ……」

 

 自分の身体を抱きながら震えている。今年の夏だけじゃなく、俺が知らない夏にも、あの水鉄砲で酷い目に遭ったんだろうか。

 

「でもほら、このミニグラディエーター改、ちゃんと水も入って撃てるみたいですよ! 凝ってますよね!」

 

 夏海ちゃんがそう取り繕っていたけど、全然フォローになってない気がする。

 

「……なぁ羽依里、お前も何か当てたんだろ? これと交換してくれないか?」

 

「え、俺?」

 

 良一はそう言いながら、涙目で俺にすがりついてきた。

 

「こんなの持ってたら、夢に見そうなんだ。頼む!」

 

「そう言われても、俺の当たりはこの目覚まし時計しかないんだけど」

 

 俺はそう言いながら、ポケットからカエルの目覚まし時計を取り出す。

 

「もう、この際何でもいい! 交換してくれ!」

 

 良一は俺の手から目覚まし時計を奪い取ると、ミニグラディエーター改を押し付けてきた。そこまで毛嫌いしなくても。

 

「うう、れいげんいやちこなれ……!」

 

 良一は電信柱の陰でうずくまって、どこかで聞いたことある呪文を呟きながら震えていた。まぁ、少ししたら元に戻るだろうし、放っておこう。

 

「ところで、天善はどのガチャポンを回すんだ?」

 

「そうだな……俺もこれにしよう」

 

 天善も良一と同じく、鳥白島セレクションを選択したみたいだ。

 

「いくぞ。ガラガラポン!」

 

 そして、元気よくハンドルを回す。

 

 ……どうでもいいけど、なんで皆ガチャポン回すとき『ガラガラポン』って言うんだろう。言わない俺がおかしいのかな。

 

「……む?」

 

 出てきたカプセルの中には、袋に入った粉みたいなものがいくつも入っていた。

 

「これは懐かしいな。シーウッキーだ」

 

「え、シーウッキーだって!?」

 

 久しぶりに聞いた単語に、俺は懐かしさを覚えた。あれって、まだあったんだ。

 

「いやー、懐かしいな」

 

「……あの、シーウッキーってなんですか?」

 

 そんな俺に対して、夏海ちゃんは頭に疑問符を浮かべていた。確かに、今の子はあまり知らないかもしれない。

 

「この粉を水道水に溶かした後、こっちの卵を入れると、小さなエビみないな生物が育つんだよ」

 

「え、これって、生き物なんですか?」

 

 卵の入った袋を日の光に透かすように見ながら、夏海ちゃんが驚きの声を上げていた。俺も小さい頃は、太古の昔から姿形が変わらないという宣伝文句に心躍った記憶がある。

 

「夏海、夏休みの自由研究にどうだ? 今時は逆に、珍しいと思うぞ?」

 

「い、いえ、遠慮しておきます!」

 

 夏海ちゃんが手を振ったその時、手に持っていた天使のフィギュアが地面に落ちて、ころころと天善の足元へ転がっていった。

 

「……なっ!?」

 

 それを見た瞬間、天善が驚愕の表情を見せる。

 

「その人形はまさか、激レアなやつじゃないのか?」

 

「え、これがですか?」

 

 夏海ちゃんは反射的に、拾った天使の人形を見やる。どこにでもありそうな人形なんだけど。

 

「……夏海、それと交換してくれないか」

 

「もしかして、そのシーウッキーとですか? 嫌ですよ!」

 

 手のひらサイズのフィギュアを両手で包み込むようにして守っていた。本気で嫌がっているみたいだ。

 

「頼む。この通りだ!」

 

「ええええ」

 

 天善はその場で土下座を始めた。夏海ちゃんは完全に引いてる。そこまでして、この人形が欲しいのだろうか。

 

「頼む!」

 

「……わ、わかりました! 交換します! 交換しますよ!」

 

 結局、強引に押し切られる形で、天使のフィギュアは天善のものとなってしまった。天善があそこまでするなんて。あの人形に何があるんだろう。

 

 

 

 

「……夏海、無理を言って済まなかったな。ほら良一、帰るぞ」

 

「あ、ああ。悪いが天善、肩を貸してくれ。腰が抜けちまって、自力じゃ歩けそうにない……」

 

 まるで二人三脚のようにしながら良一と天善が去っていった後、俺と夏海ちゃんの手元にはミニハイドロ砲とシーウッキーが残された。

 

「えーと、それで夏海ちゃん、そのシーウッキー、育てるの?」

 

「いや、育てないですから」

 

 明らかに不機嫌になってる。声のトーンも下がってるし、俺の方を睨まないで。

 

「くーださーいなー」

 

 その時、店の方で聞き慣れた声がした。見てみると、いつの間にか鴎とのみきがやって来ていた。

 

「二人とも、今は無人販売みたいだぞ」

 

「え、そうなの?」

 

 二人揃って鴎……いや、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたので、俺は状況を説明する。

 

「なるほどな。おばーちゃんも蒼たちもいないのか」

 

「残念……かき氷、食べたかったんだけど」

 

 どうやら、この二人は役所での話し合いを終えた帰りらしく、打ち上げを兼ねて、かき氷でも食べようという話になっていたらしい。

 

「……ところで、なっちゃんや羽依里が暇つぶしにやってたガチャポンってこれ?」

 

 鴎は興味津々と言った様子で、ガチャポンの筐体を見ている。かき氷の件は、すっぱりと諦めたみたいだ。

 

「はい、それです!」

 

「……よし、私も冒険してみよう。ガラガラポン……っと」

 

 そして次の瞬間、百円玉を取り出してkanonセレクションガチャを回していた。

 

「おお、何が出た」

 

 転がり出てきたカプセルを開けると、中には小さな天使の人形が入っていた。

 

「あ、かわいいですね」

 

 鴎の手のひらのそれを、夏海ちゃんが羨ましそうに見ていた。

 

「このお人形は、三つまで願いを叶えてくれるお人形なんです……だって」

 

 鴎が一緒に入っていた説明書を見ながらそう言っていた。理由はよくわからないけど、女の子はそういうのが好きそうだ。

 

「よし、ここはのみきさんも冒険してみよう!」

 

「なに、私もか?」

 

 続けて、鴎がのみきにもガチャポンを勧めていた。最初は渋っていたけど、鴎の勢いに負けて、死んだ世界戦線ガチャの筐体の前に立つ。

 

「ガラガラポン……と」

 

 おずおずとハンドルを回して、出てきたカプセルを開けると、中から小さな機械が出てきた。俺が当てた目覚まし時計とはまた違う形をしている。

 

「これはなんだ? ボタンがついているぞ?」

 

「押してみよう。ぽちっと」

 

 訝しげに首をかしげるのみきの代わりに、鴎がそのボタンを押す。

 

『実は私、着痩せするタイプなんです!』

 

「……」

 

 ……なんか男の声がした。着痩せするタイプ? なにそれ。

 

『実は私、着痩せするタイプなんです!』

 

 のみきももう一度押してみる。何度聞いても同じ内容だった。

 

「なんだこれは。すごく恥ずかしい気分になるぞ」

 

「SSS、ボイスシリーズその④……らしいですね」

 

 何とも言えない顔をしているのみきに、カプセルに残っていた説明書を見ながら、夏海ちゃんがそう告げていた。その④? あんなのが後3つもあるんだろうか。

 

『実は私、着痩せするタイプなんです!』

 

「うーむ……」

 

 のみきは何とも言えない顔をしている。どう考えても、これはハズレらしい。

 

「そ、そうだ! 羽依里やなっちゃんもガチャポン回したんでしょ? 何が当たったの?」

 

 そんな微妙な空気を感じ取ったのか、鴎がそう話題を振ってきた。

 

「俺たち? これだけど」

 

 元々当てた品は良一や天善と交換してしまったので、俺たちは手元にあったミニハイドロ砲とシーウッキーを見せる。

 

「……なっちゃん、その粉何?」

 

「シーウッキーらしいです。この粉を水道水に入れて、その後こっちの卵を入れると、エビみたいな生き物が育つそうですよ」

 

「おお、なんか面白そう。なっちゃん、私のこの人形と、交換してくれない?」

 

「え。それは構わないですけど……」

 

「やったー! なっちゃん、ありがとう!」

 

 夏海ちゃんが差し出したシーウッキーを、鴎は笑顔で受け取っていた。確かに鴎は人形より、こっちの方が好きかもしれない。

 

「ところで、鷹原のそれは……なんだ?」

 

「ミニチュア版ハイドログラディエイター改らしいぞ。ちゃんと水も入るらしい」

 

「何? ちょっと見せてもらっていいか?」

 

「ああ、いいよ」

 

 俺から受け取ったミニハイドロ砲を、のみきは興味津々と言った様子で見ていた。いろいろ引っ張ったり、覗き込んだりしている。

 

「信じられないな……ハイドログラディエーター改は、言うまでもなく私のオリジナル水鉄砲だ。素材や製作工程は私の頭にしかなく、当然紙の設計図も存在しない。それをどうやってか、この大きさで再現するとは」

 

 のみきが肩を震わせていた。設計図すら存在しないはずのものが、どうしてガチャポンから出てくるんだろう。不思議だった。

 

「鷹原、悪いがこれを譲ってはもらえないだろうか。色々と調べてみたい」

 

「え、いいけど」

 

 俺が持っていても仕方ないし。

 

「そうだ。ただというのも悪いし、私が当てたこの機械と交換ということにしよう」

 

 のみきはそう言って、ミニハイドロ砲の代わりに先の機械を手渡してくれた。

 

 ……正直、いらないんだけど。断れるような状況じゃなかった。

 

 良一の時もそうだったけど、この島ではガチャポンで当てたものは捨てずに交換しないといけない決まりでもあるんだろうか。

 

 

 

 

「羽依里、なっちゃん、それじゃーねー!」

 

「鴎さん、ありがとうございました!」

 

 しばらくして、のみきと鴎は去っていた。

 

「えへへ、良い取引ができて、良かったです!」

 

「そ、そうだね」

 

 なんとも微妙だったシーウッキーから、可愛らしい天使の人形に変わったわけだし。夏海ちゃんはすっかりご機嫌になって、天使の人形を手のひらで弄んでいた。

 

 

「……あ、タカハラさんとナツミさんです!」

 

 そろそろ誰か帰ってこないかなと思っていると、今度は背後から聴き慣れた声がした。

 

 振り返ってみると、紬がツインテールを揺らしながら、ぱたぱたとこっちに駆けてくるところだった。

 

「どもです」

 

「紬さん、どもです!」

 

 二人は同じように右手をあげて挨拶をしていた。さすがズッ友だ。

 

「紬はどこか出かけていたの?」

 

 それにしても、紬が一人で住宅地を歩いているのは珍しいんだけど。

 

「えとですね、シズクを港に送った帰りです!」

 

「ああ、そういうこと」

 

 静久は昨日も灯台に泊まっていたって言ってたし、さすがに今日は早めに帰ったらしい。

 

「それで、お二人は何をしているですか?」

 

「ああ、ガチャポンだよ」

 

「……ガチャポンと言うと、フリョーのするアレですか」

 

 その名前を聞いた紬が数歩後ずさった。

 

 ちょっと待って。確かにガチャポンにはギャンブル要素があるけど、それは言いすぎだと思うんだけど。

 

「紬さん、ガチャポンは確かにちょっとリスキーですけど、こんなかわいい人形も入っているんですよ」

 

 そう言って、手のひらに乗せた天使の人形を見せる。ところで夏海ちゃん、リスキーなんて言葉、どこで覚えたんだろう。

 

「おおー、それは可愛いです!」

 

「せっかくですし、紬さんもやってみませんか?」

 

「むむ……ナツミさんのおススメですし、なけなしの百円を使って、挑戦してみることにします!」

 

 紬はそう意気込み、Rewriteガチャに百円を投じる。

 

「あ」

 

「では、ガラガラポン!」

 

 確か、天使の人形が入っていたのはkanonガチャだったけど……それを伝えるよりも早く、紬はハンドルを回していた。

 

「……むぎゅ?」

 

 排出された緑色のカプセルから出てきたのは、俺が持っているのとそっくりな機械。どう見ても、人形じゃない。

 

「ボタンがあるので、押してみます」

 

 紬は恐る恐る、その機械についたボタンを押す。

 

『セェイシュンッテェェーッッ! ナンヤァァアァァー!』

 

「むぎゅ!?」

 

「ひえっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 突然、かなり大きな音量で男の声が流れた。

 

『セェイシュンッテェェーッッ! ナンヤァァアァァー!』

 

 紬がもう一度ボタンを押す。同じ声が流れた。考えたくないけど、これもハズレみたいだ。

 

「むぎぎぎぎぎ」

 

『セェイシュ、セェイシュ、セェイシュンッテェェーッッ! ナンヤァァアァァー!』

 

 悔しさがこみ上げてきたんだろうか。紬はボタンを連射する。

 

 そしてその後、がっくりと肩を落とす。紬にしてみれば、なけなしの百円を使った結果がこれだし。見るに堪えない。

 

「つ、紬さん、この人形、あげます! 交換しましょう!」

 

 夏海ちゃんも同じ心境だったんだろう。持っていた天使の人形を紬に押し付け、代わりに紬の当てた品を受け取っていた。

 

「え、いいんですか?」

 

「はい! その、大切にしてあげてください!」

 

「ナツミさん、ありがとうございます! この人形はツキミヤさんと命名して、大事にします!」

 

 その直後、紬は夏海ちゃんからもらった天使の人形を胸に抱くようにしながら、灯台へと帰っていった。

 

「……紬さんが喜んでくれて、良かったです」

 

「そうだね。夏海ちゃん、良いことをしたね」

 

「えへへ……羽依里さんのだって、きっと良一さんやのみきさんのお役に立ってますよ」

 

 お互いにそんな話をして現実逃避するけど、手元を見れば謎の声を発する機械が残されていた。

 

『実は私、着痩せするタイプなんです!』

 

『セェイシュンッテェェーッッ! ナンヤァァアァァー!』

 

『実は私、着痩せするタイプなんです!』

 

『セェイシュンッテェェーッッ! ナンヤァァアァァー!』

 

 俺たちは謎の虚無感に襲われ、駄菓子屋の前で、意味もなくボタンを押しまくっていた。爆死した後って、こんな心境なんだろうか。よくわからないけど、勉強になった気がした。

 

『セェイシュンッテェェーッッ! 着痩せするタイプなんです!』

 

「……おや、ずいぶんと賑やかいねぇ」

 

 ふたつの音声が混ざって聞こえだした頃、店の中からおばーちゃんが出てきた。

 

「あれ? おばーちゃん、いたんですか?」

 

 俺たちはボタンを押すのをやめて、おばーちゃんにそう話しかける。

 

「ああ、奥の倉庫を整理していたからね」

 

「店番の蒼たちもいないし、メモは置かれてるし、てっきり無人なんだと思ってましたよ」

 

「蒼ちゃんたちは、家の片づけをしてるねぇ」

 

「え。鳴瀬家の片づけは、今日の所はお役御免になったはずですけど」

 

「違うよ。自分たちの家だよ」

 

「え、自分たちの?」

 

 おばーちゃんの言葉は予想外すぎて、まさに寝耳に水だった。

 

「そう。この前の台風で、家の倉庫が壊れたとか言っていたねぇ」

 

 そういえば昨日、空門姉妹は鳴瀬家に来るのが遅かった気がする。何か用事でもあるんだろうと思ってはいたけど、まさかそんな事情があったなんて。

 

「あの、羽依里さん」

 

 その時、夏海ちゃんが訴えるような目で俺を見てきた。

 

「わかってる。手伝いに行こうか」

 

「はい!」

 

 状況を知った俺たちは居ても立ってもいられず、空門家に向かうことにした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「あれ、羽依里に夏海ちゃん?」

 

 空門家の玄関前でインターホンを押そうかどうか悩んでいると、庭にいた蒼から声をかけられた。

 

 見ると蒼は大きな段ボールを抱えながら立っていて、その足元にはイナリの姿も見える。

 

「駄菓子屋のおばーちゃんから話を聞いて来たんだけど、空門の家も台風の被害に遭ったんだって?」

 

「えー、あー。そ、そうなのよねー」

 

 蒼はバツが悪そうにそう話す。もしかして、あまり知られたくなかったんだろうか。

 

「大したことないんだけど、倉庫の屋根に穴が空いちゃって」

 

「え、穴?」

 

「そう。小さな穴なんだけど、そこから雨水が入っちゃってね。藍と片づけがてら、中の荷物がどんな感じかチェックしてたのよ」

 

「藍と二人だけでやってたのか? 言ってくれたら手伝うのに」

 

「いいのよ。しろはの家のほうが大変なんだから」

 

 そう言って笑う。もし俺たちに気づかれなかったら、本当に二人だけでやってしまうつもりだったんだろうか。

 

「それはそうだけど、せっかくだから頼ってくれよ。水臭いぞ」

 

「そうですよ!」

 

 俺と夏海ちゃん、揃って笑顔を向ける。二人は鳴瀬家の片付けを手伝ってくれたし、今度は俺たちが力になる番だ。

 

「ありがとね。それじゃ、お言葉に甘えて、手伝ってもらおうかしら」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「倉庫はこっちよ。ついてきて」

 

「ポンポン!」

 

 俺たちは蒼とイナリに先導されて、家の裏手へと回る。そこには小さなプレハブの倉庫があった。かなりの年代物のようで、本来白いであろう壁は所々苔むして、緑色になっていた。

 

「あれ、お二人も来てくれたんですか」

 

 そこには三つ編み姿の藍がいた。髪が汚れるからだろうか。それにしても珍しいな。

 

「駄菓子屋のおばーちゃんから話を聞いたらしくてね。手伝いに来てくれたらしいのよ」

 

「そうなんですね。おかーさんはパートで忙しいですし、おとーさんは帰国する目途も立たないみたいなので、正直、助かります」

 

「え、二人の父親って、どこか外国に行ってるのか?」

 

「えーっと、今はどこって言ってたっけ。コーヒーの国なんだけど」

 

「今はコロンビアにいるはずですよ」

 

 コロンビアってどこだっけ。昆虫学者だけあって、世界を股にかけてるみたいだ。

 

「それで、俺たちは何を手伝えばいいんだ?」

 

「そうですね。まずは倉庫の荷物を全部表に出しますから、それを手伝ってください」

 

「え、全部!?」

 

「そうです。穴が開いたのは倉庫の一番奥の天井なので、まずは荷物を全部出さないといけません」

 

 そうなのか。よりにもよって、一番奥だなんて。

 

「台風の時ってことは、やっぱり風で何か飛んできたのか?」

 

「たぶん、近所の田中さんちの屋根瓦が飛んできたんだと思うんだけどねー。うちの倉庫も古いし」

 

「そうですね。屋根瓦が飛んでこなくても、そのうち勝手に穴が開いたんじゃないですか?」

 

「そうよねー」

 

 二人は同じ顔をして笑っていた。都会とかで同様の被害が出ると、やれ弁償だ保証だとかでご近所トラブルになるって聞くけど。この島はそんな話とは無縁のようだった。

 

「それでですね。荷物を全部運び出した後、羽依里さんに雨漏りの応急処置をお願いしたいんですけど」

 

「……え、俺?」

 

「当然でしょう。まさか、女の子にさせるつもりじゃないですよね?」

 

「そ、そんなまさか」

 

 藍が腰に手を当てながら睨んできた。ものすごく怖い。

 

「どのみち、あたしたちじゃ背が届かないし。脚立はあるから。お願いねー?」

 

 それこそ倉庫にしまわれていたらしい脚立を指差しながら、蒼が笑顔で言う。

 

「お、おお。それくらい、朝飯前だよ」

 

 この期に及んで、やったことないなんて言えない状況になってしまった。まぁ、なんとかなるだろう。

 

 

 

 

「それじゃ、始めましょう。羽依里さん、表に出した荷物はこのブルーシートの上に運んでください。私たちが中身をチェックしますので」

 

「ポンポン!」

 

 ここだよ! と言わんばかりに、イナリがビニールシートの周りで飛び跳ねていた。

 

 さっきから倉庫の近くにブルーシートが敷かれているのが気になっていたけど、そういう目的だったのか。

 

「わかった。それじゃ、片っ端から運び出すよ」

 

「よろしくお願いします。夏海ちゃんは私たちと一緒に、荷物整理をしましょう」

 

「はい!」

 

 三人が和気あいあいとビニールシートの方へ向かう中、俺は一人、倉庫へと足を踏み入れる。

 

 倉庫自身は広くないんだけど、中には大小さまざまな段ボール箱が隙間なく詰め込まれていた。

 

「……うわ、結構な量だな」

 

「うちのおとーさん、それこそ加藤のおばーちゃん並みに蒐集癖があるしね」

 

「全く、片付けるほうの身になって欲しいですよ」

 

 誰に言うでもなくそう口にすると、二人が反応してくれた。

 

 今回ばかりは、藍の意見に同意だった。けど、文句を言っても荷物は勝手には動いてくれないし。ここは無心でやるしかなさそうだ。

 

 

「よっこいせ!」

 

 まずは目の前にある段ボール箱を抱え上げて、ブルシートの上へと運ぶ。

 

「……これさ、ガチャガチャと音がするんだけど」

 

「食器みたいですね。古くて割れてるものも多いみたいですし、捨てましょうか」

 

 藍が段ボールの中身を確認して、そのまま隅の方に持って行く。どうやら、処分するやつはあっちに運ぶみたいだ。

 

「よいしょ! この箱、やけに重いな。何が入ってるんだ?」

 

「なんですかね? すごくいい匂いがしますけど」

 

 先程と似た重さの段ボール箱をビニールシートの上に置く。すぐに夏海ちゃんが寄ってきて、何か匂いを嗅ぐようにしていた。俺には何も匂わないけど。

 

「どれどれ……あ、これは調香瓶よ」

 

 蒼が箱を開けて、そう言う。調香瓶? 聴き慣れない単語だった。

 

「蒼さん、これって何に使うんですか?」

 

「香水とか作って、中に入れてたみたいね。おとーさん、蝶の集まりやすい香りの研究とかしてたから」

 

 蒼が段ボール箱の中から、一つの小瓶をつまみ出す。中は空っぽだった。

 

「長いこと使ってないみたいだけど、匂いが残ってるのかしら。夏海ちゃん、鼻が利くわねー」

 

 そう言いながら、がちゃがちゃと音を立てて中身を確認する。どうやら、これは取っておくみたいだ。

 

 俺はその様子を見ながら倉庫に戻って、また別の段ボール箱を持って来る。

 

「この箱、大きさのわりに重たいぞ?」

 

「あ、子供のころ読んでた本ねー。なつかしーわね」

 

 中にはたくさんの本が入っていた。いくつか表紙が見えたけど、中にひげ猫団の冒険が混ざっているのが見えた。やっぱり皆忘れてるだけで、読んでるんだな。

 

 鴎に教えてやったら喜びそうだなと思いながら、再び倉庫へ向かう。

 

「よいしょ……あれ?」

 

 目の前に大きな段ボール箱があったので、気合いを入れて持ってみたけど……すごく軽かった。

 

「なぁ、この箱は大きさのわりに、すごく軽いんだけど」

 

「昔、あたしたちが使ってたぬいぐるみみたい。よく取ってあったわねー」

 

 姉妹が揃って段ボールを覗き込む。中には小さなウサギのぬいぐるみとか、人形が入っていた。それも全部二つずつ。やっぱり双子だし、同じものを買い与えていたんだろうか。

 

「わぁ。懐かしいですね。小さい頃、これでよく蒼ちゃんと遊びましたね」

 

 なんだろう。藍がこれまで見たことないくらい笑顔になっていた。藍もあんな顔するんだ。

 

「人形はいいけど、こっちのぬいぐるみはボロボロねー」

 

「そ、そうですね。どうします? 紬ちゃんにでもあげちゃいますか?」

 

 なんだろう。藍はそう言うけど、表情は曇ってる気がする。

 

 確かに紬や静久なら、このぬいぐるみも見事に再生させるんだろうけど……藍は内心、まだ取っておきたいんじゃないだろうか。

 

「二人の思い出なんだし、まだ取っておいてもいいんじゃないか?」

 

 だから、俺はそう提案しておいた。

 

「まぁ、それもそうよねー。もう少し、置いとこうかしら」

 

「そうしましょう。羽依里さんとしろはちゃんの間に子供が生まれたら、お祝いにこのぬいぐるみを修繕して差し上げるのもいいですね」

 

「ぶっ!?」

 

 せっかく助け舟を出してやったっていうのに、恩を仇で返された。くそ、藍の方が上手だ。

 

 俺は気を取り直して、また倉庫の中へと戻る。

 

「うわ、こっちの段ボール箱も妙に重たいな」

 

 ゆっくりとブルーシートの上に置く。なんだろう。食器とかとは違う重さだけど。

 

「これはビデオテープですね」

 

「え、ビデオ?」

 

「そう。おとーさんが撮りためた、あたしたちの成長記録みたいねー」

 

 蒼が持つビデオテープのラベルには『藍と蒼・七五三詣り』と書かれていた。

 

「たぶん、本当に生まれた時から、小学校低学年くらいまでの記録じゃないですかね」

 

 藍がガチャガチャとビデオテープをかき分ける。見慣れたサイズの他に、見たことない大きさのテープもあった。見当たらないけど、どこかに専用の再生機があるんだろうか。

 

「おとーさん、昆虫学者って言ったでしょ? その関係で、昔から撮影機材は高価なの持ってたのよね」

 

「なるほど、そういうことなのか」

 

 俺が興味深そうに見ていたのに気づいたんだろうか。蒼がそう説明をしてくれていた。

 

「……蒼ちゃん、この辺りどうしますか。こっそり捨てちゃいます?」

 

 藍がビデオテープを持ち、微妙な顔をしていた。そのビデオのラベルには『藍と蒼・小学二年生 運動会』と書かれていた。

 

「この頃の体操服ってブルマだったので、恥ずかしいんですよ……」

 

 そして、なんか小さな声で言っていた。うん、聞かなかったことにしよう。

 

「あたしも正直恥ずかしいんだけど、捨てたりしたらおとーさんが本気で落ち込んじゃうだろうしねー。取っておいてあげましょ」

 

 蒼は苦笑いを浮かべながらも、そう決断していた。父親思いの良い娘だった。

 

 

 

 

 そんなこんなで、ようやく倉庫の荷物を全部表に出し終わった。

 

 表に並ぶ段ボールを眺めながら、俺は一息つく。同時進行で整理をしていたおかげで、中身のチェックが終わっていない段ボール箱はひとつかふたつといったところだった。

 

「あのー、蒼さん、この服って……」

 

 その時、衣類の入った段ボール箱を整理していた夏海ちゃんが、なんとも微妙な顔をしていた。

 

「え、なにそれ」

 

 続けて夏海ちゃんが両手に持って広げたのは、どう見てもメイド服だった。

 

「ああ。それは一昨年の文化祭で島カフェをしてですね。その時に蒼ちゃんが使ったものです。当日、蒼ちゃんはレジ係で……」

 

 そのメイド服を見て、藍が嬉しそうに語りだした。え、文化祭? 島カフェ?

 

「ちょっと藍! 思い出話はいいから! それは捨てて! お願い!」

 

「……蒼ちゃんがそう言うなら、仕方がありませんね。可愛かったですのに」

 

 藍は名残惜しそうに、そのメイド服を燃えるゴミの袋に入れていた。

 

「ほら、あらかた荷物は出し終えたし、天井を見てみましょ!」

 

 もうちょっと文化祭の話を聞いてみたかったけど、それを言い出す前に蒼から倉庫の中に引っ張り込まれてしまった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 俺は修理の道具と脚立を持って、蒼と一緒に倉庫の天井を注意深く眺める。

 

「ほら、あそこよ」

 

「あー、確かに穴が開いてるな」

 

 蒼が指差す場所を見てみると、確かに天井小さな穴が開いていた。倉庫の中は基本薄暗いんだけど、そこだけ僅かに陽の光が差し込んでいたので、穴が開いてるのはすぐにわかった。

 

「羽依里、ちょっと見てもらえる?」

 

「わかった。よっこらせっと」

 

 俺は蒼と一緒に脚立を立てて、それに登って天井付近を見てみる。

 

「どうー?」

 

 よく見てみると、薄めの鉄板が上からの力に負けたように変形し、その中央に小さな亀裂が生じていた。

 

「見事に穴が開いてるな。ここから雨水が漏ったんだな」

 

 でも、これくらいの小さな穴なら、うまい感じに金づちで均して、防水テープ貼ったらいけるんじゃないだろうか。

 

「蒼、防水テープってある?」

 

 俺は脚立の上から見下ろしながら蒼に問う。

 

「えーっと……これ?」

 

 蒼は道具箱の中から一巻きになったテープを取り出して、見せてくれる。

 

「それそれ。後、金づちを貸してくれ。鉄板を均してみるから」

 

「うん。お願いね」

 

「さんきゅ」

 

 下を覗き込むようにして、蒼から金づちを受け取った直後……俺はあることに気づいた。

 

「……あれ? どうかしたの?」

 

「いや、なんでもないよ。脚立が倒れないよう、支えててくれな」

 

 ……これは、下は見ないようにしよう。なんで蒼のやつ、作業するっていうのに胸元の広い服着てるんだろう。

 

 その後は作業に集中する。一度裂けてしまっているせいか鉄板自体は柔らかく、金づちで叩いているうちにそれなりに平らになった。

 

 それだけで、穴の方もほとんどわからなくなった。最後に穴があった場所に防水テープを貼って、応急処置を終わらせる。

 

「ふう、こんなもんかな」

 

「きれーになったじゃない。さすが男の子ねー」

 

「でもこれ、本当に応急処置だからさ。今度、屋根の上から修理した方がいいかも」

 

「わかってるわよ。ありがとねー」

 

 ニコニコ顔の蒼と一緒に表に出る。なんにせよ、これで一安心だ。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「蒼さん蒼さん、これってなんですか?」

 

 表に出ると、待ってましたといわんばかりに、夏海ちゃんが蒼に話しかけてきた。藍とイナリの姿がないんだけど、どこ行ったんだろう。

 

 その手には、見慣れないものが握られている。

 

「ああ、それは吊り灯篭ね。山の祭事で使うのよ。『七暁』て言うの。きれいでしょー」

 

「え、山の祭事って何?」

 

 気になったので、俺もその会話に入ってみる。

 

「この間、お祭りあったでしょ? あれが海の祭事。あたしたち空門の家がやってるのが、山の祭事ね」

 

「へぇ、山の祭事もあるのか。見てみたいな」

 

「残念だけど、今年はもう終わっちゃったの。この灯篭持って山を練り歩くだけだし、つまらないわよー?」

 

「そうか……蒼の巫女服姿、見てみたかったんだけど」

 

「へ? あたし、巫女服着るなんて言ったっけ?」

 

「……え?」

 

 一瞬、巫女服姿の蒼が浮かんだんだけど。言われてみれば、そんな格好をした蒼を見たことはない。想像にしては鮮明過ぎるし、たぶん、これも鏡子さんの言う『消えた世界の記憶』なのかな。

 

「ま、まぁ、また来年を楽しみにしておくよ」

 

 なんとかそう取り繕う。その間も、夏海ちゃんはじっと灯篭を見つめていた。

 

「でもこれ、本当に綺麗ですね」

 

「そう? あたしにしてみれば、ただの古ぼけた灯篭って感じなんだけど」

 

「綺麗ですよ。なんだか吸い込まれそうな気が……します……」

 

 ……あれ? 灯篭を見つめる夏海ちゃんの瞳の色が変わってるような。見慣れた青色から、揺らめくようにして、七色に。目の錯覚かな。

 

「……夏海ちゃん?」

 

 変に思って声をかけたその時、夏海ちゃんがゆっくりと背中から倒れていく。

 

「え、とっとと!」

 

 一番近くにいた蒼が、慌ててその身体を支えるけど、夏海ちゃんは本当に脱力しちゃってるみたいで、蒼の力だけじゃ支えきれない。俺は慌てて駆け寄って、二人を一緒に支える。

 

「ちょっと夏海ちゃん、しっかりして! どうしたの!?」

 

 その身体をゆっくりと横たえながら声をかけてみるけど、反応がない。

 

「……え。この七影蝶、どこから来たの?」

 

 その時、蒼が夏海ちゃんのすぐ近くに落ちていた灯篭を見ながら、そう呟いていた。確か、蒼は七影蝶が見えるんだっけ。

 

 夏海ちゃんに声をかけ続けながら、俺も視界の端にその灯篭を捉える。

 

「……!?」

 

 その灯篭には、無数の七影蝶が集まっていた。昼間だからわかりにくいけど、かなりの数だ。

 

「……待って。祭りは終わってるし、迷い橘だって。今年はもう、この灯篭で七影蝶を集めることはできないはずなのに」

 

 蒼が何か言ってるけど、俺の耳には入らなかった。

 

「……え、どうしたんですか!?」

 

「ポンポン!」

 

 その時、家の方から人数分の麦茶を運んできていた藍が、俺たちの状況に気づいて、慌てて走ってきた。その足元にはイナリも一緒だった。

 

「一旦家の中に運びましょう。二人とも、手伝ってください!」

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 突然倒れてしまった夏海ちゃんを、三人で空門家のリビングへと運び入れる。

 

「ねぇ藍、夏海ちゃん、大丈夫かしら。もしかして日射病? 無理させ過ぎたかしら?」

 

「蒼ちゃん、落ち着いて。まずはエアコンのスイッチを入れてください。それから氷枕を用意してください」

 

「う、うん!」

 

 夏海ちゃんをリビングのソファに寝かせた後、藍がそう指示を出す。蒼はそれに従って、冷房のスイッチを押した後、氷枕を用意するため、リビングを出て行った。

 

「でも、蒼ちゃんの言う通り、暑さにやられたのかもしれません。私は診療所の先生に電話をしてきますので、羽依里さんはこのまま、夏海ちゃんのそばにいてあげてください」

 

「わかった」

 

 そう言うと、藍もリビングを出ていった。一人残された俺は、ソファ横の椅子に座って、夏海ちゃんの様子を見てみる。

 

 暑さにやられたにしては、特段顔色に変化はないし、そこまで汗をかいてるって感じでもない。

 

 試しに夏海ちゃんの額に手を当ててみるけど、熱がある感じでもないし。一体どうしたんだろう。

 

「……あれ、羽依里さん……?」

 

 その時、夏海ちゃんがうっすらと目を開ける。良かった。気がついたみたいだ。

 

「……夏海ちゃん、大丈夫?」

 

「はい……えっとその、ごめんなさい。私、気を失っちゃってたみたいで」

 

 まだ少し、目が泳いでる気がする。状況を把握できていないんだろうか。

 

「ここは空門家のリビングだよ。倉庫の前で突然倒れたから、蒼たちと三人でここまで運んできたんだ」

 

「そ、そうだったんですね。ありがとうございます」

 

「それにしても、いったいどうしたの? 見た感じ、日射病とかじゃないみたいだけど」

 

「たぶん、あの灯篭のせいです」

 

「え、灯篭?」

 

 夏海ちゃんはリビングのドアの方を気にしながら、静かに頷く。

 

「……あの灯篭、触っちゃいけないものだったみたいです。あれを持ってしばらくしたら、意識が遠くなっちゃいましたし」

 

「……そういえば蒼が、あの灯篭で七影蝶を集める……みたいなこと言ってたっけ」

 

「はい。たぶん、私の中の七影蝶があの灯篭に引き寄せられて、パニックになっちゃったんじゃないですかね」

 

「その結果、気を失っちゃったと」

 

「……うかつでした。もう山の祭事の時期は過ぎてるので、平気だと思ったんですけど」

 

 あの灯篭も、空門の家に代々伝わってるものみたいだし、何か特別な力があるんだろうか。

 

 普段なら信じないけど、昨日の蔵での出来事を思い返すと、何が起こっても不思議じゃない気がした。

 

「きっと私の中にも、神域を通って空の上のトキアミに還りたい七影蝶がいたんでしょうね」

 

 そう言って力なく笑う。トキアミ……空へと続く門がある場所が、空門家の神域だなんて。家名って奥深いものだよな。

 

「……あ、夏海ちゃん、気がついたの!?」

 

 その時、空門姉妹の二人が揃ってリビングに戻ってきた。

 

「もう、いきなり目の前で倒れられて、本当に心配したんだから!」

 

 蒼がすぐさま駆け寄って、夏海ちゃんを抱きしめていた。

 

「す、すみません。ちょっと、めまいがしてしまいまして。お二人とも、ご心配をおかけしました」

 

「全くですよ。もう少ししたら診療所の先生が来てくれるので、一度診てもらってください。それまで、この氷枕を頭の下に敷いて、安静にしていてください。良いですね?」

 

「はい……」

 

 藍が有無を言わさずそう言っていた。冷静を装っているけど、藍もすごく心配してくれていたみたいだった。

 

 

 

 

 その後すぐ、診療所の先生が来てくれた。

 

 診察の間、俺は別室で待っていたけど、結果は特に異常はなく、軽い熱中症だろうということだった。

 

「あの、私もう大丈夫ですから」

 

「駄目ですよ。もう少し休んでいてください」

 

「そうよー。こんな時くらいクーラーの効いた部屋にいても、バチは当たらないわよ」

 

 先生が帰った後、すぐに起き上がろうとする夏海ちゃんを空門姉妹がベッドに寝かしつけていた。

 

「なんというか、微笑ましい光景だな……」

 

 窓の向こうに見えるそんな光景を尻目に、俺は庭に放置されてしまっていた荷物を倉庫へと片付ける。

 

 全ての作業が終了し、俺たちが空門の家を出発した時、太陽は山の向こうに沈んでしまっていた。これは、急いで帰らないと。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「おかえり。少しはリフレッシュできた?」

 

 できるだけ急いで帰宅すると、玄関前で鏡子さんが待っていた。心配をかけてしまったようで、俺たちは揃って頭を下げる。

 

「……はい。遅くなってすみません」

 

「……いいよ。空門さんの家で手伝いをしてたって聞いたし、今回はお咎めなしにしてあげる」

 

「ありがとうございます」

 

 鏡子さんはそう言って許してくれた。どう伝わったのか知らないけど、既に鏡子さんの耳には入っていたみたいだ。

 

「おかえり。二人とも、早く手を洗ってきてね。すぐに晩ごはんの用意をするから」

 

 居間に行くと、鏡子さんから一通り説明がされているのか、しろはやじーさんも怒っている様子はなかった。

 

 そんな二人にも頭を下げてから、洗面所で手を洗い、食卓につく。

 

 

 

 

「はい。おまちどうさま」

 

 しばらくして、色とりどりの料理が俺たちの前に並べられた。

 

 ごはんに吸い物、おからの和え物や、おひたしに加えて、メインの大皿には魚のから揚げが盛られていた。

 

「しろは、この魚は?」

 

 魚なのはわかるんだけど、見たことない形をしていた。

 

「これはフグのから揚げだよ」

 

「え、フグ!?」

 

 から揚げを二度見する。フグって言うと、高級食材のアレだろうか。

 

「でも、フグって毒があるので、調理するのに免許がいるんじゃありませんでしたっけ?」

 

 俺が思っていた疑問を、夏海ちゃんが先に口にしてくれていた。確か、特別な免許がいるはずだけど。

 

「これはサバフグと言ってな。毒のないやつだ」

 

「え、そうなんですか?」

 

 夏海ちゃんが驚嘆の声を上げていた。俺も、フグに毒のない種類がいるなんて初耳だった。

 

「そう。これなら免許もいらないから、私でも料理できるの。本格的なフグに比べたら、味は劣るらしいんだけどね」

 

 しろはがそう言いながら食卓につく。今朝、じーさんが言っていた変わった魚って言うのは、このサバフグのことだったのか。

 

「今日はごちそうだね。それじゃ、いただきましょうか」

 

 家主の鏡子さんがそう言い、皆で挨拶をしてから夕飯が始まった。

 

 

「どれどれ……」

 

 俺はさっそくフグのから揚げに箸を伸ばし、少しポン酢をつけて食べてみる。

 

「美味しい……」

 

 それ以外の言葉が出てこなかった。いい感じに下味がついていて、身がプリプリで、本当に美味しかった。

 

「……ふむ。やはり、まだまだ旬はこれからだな」

 

 一方のじーさんは首をかしげながらそう言っていた。漁師さんだし、普段から食べ慣れているんだろうか。

 

 俺はそんなことを考えながら、吸い物をすする。

 

「……もしかしてしろは、この吸い物も?」

 

「そう。から揚げにできないくらい小さいフグの骨を使って、出汁を取ったの。美味しいでしょ?」

 

「うん。これは美味しいね」

 

 何とも言えない良い香りが鼻に抜ける。から揚げに吸い物と、まさかのフグ三昧を堪能した。

 

 

 

 

 夕飯を済ませた後、じーさんはさっさと俺の部屋の方に行ってしまった。きっと、もう寝るんだろう。

 

「羽依里君たち、先にお風呂入っちゃって。私は後で良いから」

 

 夏海ちゃんと一緒に食器を片付けていると、鏡子さんからそう声をかけられた。

 

「そうだね。夏海ちゃん、先に入っちゃってよ」

 

 やっぱり、こういう時は女の子が先だろうし。

 

「え、しろはさんの家から帰った時に一度入ってますし、今日はもう良いですよ。お湯も勿体無いですし」

 

「夏海ちゃん、女の子なんだから、お湯が勿体無いとか言っちゃ駄目だよ」

 

 かちゃかちゃと心地いい音を立てながら食器を洗っていたしろはが、振り向きながらそう言う。

 

「え、でも……」

 

「なんなら、しろはちゃんと二人で一緒に入ったらどう? それなら、使うお湯の量も減ると思うし」

 

 それでも尚、渋っていた夏海ちゃんに対して、鏡子さんがそう続ける。

 

「鏡子さんがそう言うなら、私は一緒に入ってもいいよ? 片付けが終わってからになるけど」

 

「うーん……わかりました。それじゃあしろはさん、よろしくお願いします」

 

 しばらくして、二人は揃ってお風呂に行ってしまった。俺は居間に腰を下ろして、ぼんやりとテレビを見ていた。

 

「そういえば羽依里君、明日の予定なんだけどね」

 

 鏡子さんがそう言いながら、俺の向かいに座ってきた。たぶん、鳴瀬家の片付けについてだろう。昼間、大人たちで話し合いが持たれたはずだし。

 

「鳴瀬さんの家ね、明日から室内の掃除に取りかかるらしいの」

 

 予想通りだった。庭も裏山もだいぶ片付いたし、防護柵のおかげで安全も確保されたということで、次は室内に着手するらしい。

 

「これまでは大勢の人に手伝ってもらえたけど、家の中となると話は別でね。個人的な品もあるし、明日からは夏海ちゃんと羽依里君だけで手伝ってあげて欲しいの。二人なら、鳴瀬さんも許可してくれたし」

 

 建物内で被害に遭ったのは、じーさんの私室のはずだ。そこを片付けるということは、鳴瀬家のプライベートな部分に踏み入れるということ。その許可をくれたということは、多少なりともじーさんに信用されてると考えていいんだろうか。

 

「わかりました。夏海ちゃんにも伝えておきます」

 

「うんうん。よろしくね」

 

 鏡子さんは笑顔で頷いてくれた。その直後、俺は少し思うことがあって、テレビを消して鏡子さんに向き直る。

 

「あの、鏡子さん……少しいいですか?」

 

「……うん。どうしたの?」

 

 俺の態度から、何かを感じ取ってくれたらしい。鏡子さんも真剣な表情になって、俺の方を見る。

 

 それを確認して、俺は空門家で夏海ちゃんが倒れた話をした。

 

「……そう、そんなことがあったの」

 

 俺の話を最後まで聞いた鏡子さんは、何かを考え込んでいた。

 

「……やっぱり、無理してるのかもね」

 

「え、無理って言うのは?」

 

「えっと……あの手紙では、傍人……つまりは夏海ちゃんだけど、島に存在できるのは迷い橘が散るまでだって書いてあったよね?」

 

「ええ。つまりは夏の間ですよね」

 

「……それなんだけどね。ちょっと違うの」

 

「違うって何がです?」

 

「その、迷い橘が散る時期っていうのは、トキアミヘの道が閉じる時期と重なるらしくて」

 

 鏡子さんが言葉を探すようにしながら、ゆっくりとそう説明してくれる。彼女自身も、上手く理解できていないんだろう。

 

「その年によって多少ズレることもあるみたいだけど……大抵、海の祭事が行われる頃には閉じてしまうみたい。今年なら、21日だね」

 

「ちょっと待ってください。21日って、もう過ぎちゃってるじゃないですか」

 

「そうなんだよ。迷い橘が散ると『トキアミ』へと通じる門も閉じてしまうから、夏海ちゃんは還れなくなる。手紙の一文は、そういう意味だったんだよ」

 

 確か昼間、蒼がもう迷い橘は散ってしまってると言っていた。つまり、トキアミヘの門は既に閉じているということだろう。

 

「じゃあ夏海ちゃんは、本当なら21日にいなくなるはずだったんですか?」

 

「そう。本来ならね。でも、あの子は還らなかった。私も前日に確認はしたんだけど、やり遂げたいことがあるって言ってね」

 

「やり遂げたいこと?」

 

「うん。夏海ちゃん、練習頑張ってたもんね」

 

「……そうか。野球だ」

 

 記憶を思い起こしてみる。確か、夏海ちゃんが還るはずだった日の翌日、リトルバスターズとの試合が控えていた。

 

 あの時、夏海ちゃんは試合のある日を知ったうえで、自ら望んでピッチャーになっていた。もしかしたら、あの時から既に還らないと決めていたのかもしれない。

 

「やっぱり夏海ちゃん、夏の思い出を選んだんだね」

 

 鏡子さんは何かを悟ったような表情をしていた。

 

「……でも、トキアミに還れない夏海ちゃんは、この後どうなるんです!?」

 

「私にもわからないの。どうなるのかは、手紙にも書いてないし。ごめんね」

 

「あ……いえ、俺の方こそ、すみません」

 

 つい、強い口調になってしまった。この人を責めるのはお門違いだ。

 

「いいんだよ。それより羽依里君、夏海ちゃんが選んだこの島の夏休み、最後まで一緒に楽しんであげてね」

 

「もちろんですよ」

 

 その後はお互いに口をつぐむ。これ以上は話せることはない感じで、沈黙が訪れる。

 

 

「お風呂、ごちそうさまでしたー」

 

 その時、お風呂からあがったらしい夏海ちゃんが、タオルで髪を拭きながら居間にやってきた。

 

「も、もう出たんだね。じゃあ次、俺が入ろうかな」

 

 完全に虚を突かれて、少し動揺してしまった。俺はそれを隠そうと立ち上がり、足早に居間から出ていこうとする。

 

「あのー、羽依里さん、まだしろはさん入ってますよ?」

 

「……おっと」

 

 俺は足を踏み出した格好のまま、固まる。

 

「いいんじゃない? 羽依里君も一緒に入ったら?」

 

「入りませんから!」

 

 まったく、鏡子さんも何言ってるの。今日はお酒は飲んでないはずなのに。

 

 ……もしかして、俺と同じように動揺したのかな。

 

 その後、しろはが風呂から出たのをしっかりと確認して、俺も風呂場へと向かった。

 

 

 

 

「ふう……」

 

 身体を洗った後、湯船につかりながら浴室の天井を見つめる。

 

 おのずと、これから先のことを考えてしまう。

 

 夏海ちゃんは自分のことを、七影蝶の集合体だって言っていた。

 

 その七影蝶の還る場所であるトキアミ。

 

 還る場所をなくした夏海ちゃんは、これからどうなるんだろうか。

 

 なんとなく、まだあるんだろうと思っていた時間が、実はほとんど残されていないんじゃないかという、漠然とした不安が襲ってくる。

 

「……まだ残っていると思っていた砂時計の砂は、とうに空っぽになってしまっていたのかも」

 

「……え、砂時計?」

 

「へっ?」

 

 思わず声のした方を見ると、曇りガラスの向こうに、しろはの姿が見えた。

 

「あれ、しろは? どうしたんだ?」

 

「私が使ったのでバスタオルが最後だったから、新しいのを持ってきたんだけど……浴室から物音一つしないし、大丈夫かなって思って」

 

「ごめんごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」

 

「もう……お風呂で考え事なんてしてたら、湯あたりするよ?」

 

「わかってる。もう少ししたら出るよ」

 

「……心配事があったら、相談してね」

 

「ああ、ありがとう」

 

 うん。と小さく声が聞こえて、向こうの気配が消えた。

 

「……よし」

 

 しっかりしろ。俺が気落ちしてどうするんだ。ここはあれこれ考えず、鏡子さんに頼まれた通り、夏海ちゃんとの夏休みを楽しめばいいんだ。

 

 さすがに風呂場で自分の名前を叫ぶわけにもいかないので、俺は両頬を強く叩いて気合いを入れて、頭の中の不安心を追い払った。

 

 

 

 

第四十二話・完




第四十二話・あとがき


おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
今回は大きなイベントといえば、ガチャポンくらいですかね。他には鳴瀬家の片付けに、空門家の倉庫整理等を行いました。

元々鏡子さんが暮らす加藤家に、羽依里君、夏海ちゃん、しろはとそのおじーさんを加えた、不思議な家族の日常と捉えてもらえたら嬉しいです。

そして、ガチャポンはここぞとばかりにネタを詰め込んでみました。その後の倉庫整理は空門姉妹の幼少期と、空門父の娘たちへの溺愛っぷりを感じてもらえると嬉しいですw


■今回の紛れ込みネタ
・佐藤さん
名前はオリジナルですが、AIRの冒頭で行き倒れになった往人さんに、とびきり大きいおにぎりを渡していたあの人をイメージしました。昼食時に羽依里君にも同じものを渡していますw
ゲームのみの登場なので、お気づきになった人は少ないのではないでしょうか。アニメでは唯一観鈴マップにのみ、大きなおにぎりを持った往人さんが描かれていましたね。

・ひでんソース
複数回目の登場になりますが、シャーロットのひでんソースです。この手のものはネタが使いやすくて助かりますねw
それにしても、あのひでんソースを目玉焼きにかけたら、ものすごく甘くなってしまいそうですよね。

・天王寺先生のガチの園芸!
内容からご察しいただけたと思いますが、Rewriteの小鳥さんを講師にしたガーデニング講座です。
天王寺先生と苗字が変わっているので、瑚太郎君と結婚していることは明白ですね。

・駄菓子屋のガチャポンのラインナップ
すみません。ここぞとばかりに遊んでしまいました。

天使フィギュア……ABより、天使のミニフィギュアです。夏海ちゃんが引いた大当たりですが、天善に取られてしまいました。

カエルの形をした時計……kanonより、お馴染みの目覚まし時計です。聞いてると逆に眠くなります。

小さな天使の人形……kanonより、あゆの宝物のレプリカです。あくまでレプリカなので、奇跡は起こせませんのであしからず。

のみきの当てたボイス入り玩具……ABより、とある着やせする筋肉さんのボイス入りの玩具です。正直、ハズレです。

紬の当てたボイス入り玩具……Rewriteより、某アウトローさんの魂の叫びが入った玩具です。残念ながら、ハズレ扱いです。


以上になります。いくつお気づきになられたでしょうか。
今回も、最後まで読んでいただいてありがとうございました!
感想など頂けましたら、泣いて喜びます。

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