昼食を済ませた後、全員でプールに行くことになった。
俺たちは男女に分かれて、備え付けられた更衣室で着替えを済ませる。
「ところで良一、お前は午後からサンバのダンスリーダーをやるんじゃなかったのか?」
「なにも午後一番ってわけじゃない。皆とプールを楽しむ時間くらいあるぜ」
そうなんだ。あれだけ楽しんでいたし、午後からもすぐに飛び出していくものかと思っていたけど。
「……それより、お前らも気になるんじゃないのか?」
「え、何が?」
「女子の水着だよ。島に住んでいても、水着姿を見る機会は少ないしな」
「今更だな。水着なら、以前皆でビーチバレーした時にも見たじゃないか」
「目の保養になるって話だよ。羽依里もしろはの水着、楽しみじゃないのか?」
「そ、そこはノーコメントで」
「わかってるわかってる。みなまで言うな。シティーボーイ!」
笑顔でそう言いながら、バシバシと俺の肩を叩いてくる。すでに水着に着替え終わった後だし、かなり痛いんだけど。
それにしても、サンバのテンションをそのまま引きずっているんだろうか。良一がいつも以上に饒舌だ。
「ところで天善、自然とラケットを持ってるけど、今から向かう先は卓球場じゃなくてプールだぞ?」
「ああ、わかっているさ」
そう言いながら、颯爽とプールサイドの方へ向かっていった。絶対わかってないと思う。
ビーチ卓球とか言う競技があったかな……とか考えながら、俺と良一もその天善に続いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あ、来たわねー」
「どうして男の子の方が女の子より着替えるのが遅いんですか」
「ごめん。その、色々と話しててさ」
三人でプールサイドにやってくると、女性陣はすでに集まっていて、蒼と藍が一番に声をかけてきた。
この姉妹は以前、島の海水浴で着ていた水着と同じパレオを着ている。髪型は揃って三つ編みだ。
「まったくもう、先に行っちゃうところだったですよ!」
腰に手を当ててそう言う夏海ちゃんは、蝶のアクセントのついた水着だった。
島で海水浴をした時には気に留めてなかったけど、あの蝶もちゃんと意味があったのかもしれない。
「ふふ、夏海ちゃんの水着、可愛いわよね」
その時、静久が俺の隣にやってきて、笑顔でそう言う。全く持ってその通りなんだけど、あまり近づかないでほしい。その、静久の水着姿は迫力がありすぎて、目のやり場に困るし。
「……タカハラさんからヨコシマなオーラを感じます」
そう言いながら俺の方を睨む紬も、珍しく三つ編みだった。
「今日は紬も三つ編みなんだね」
「そです! シズクにしてもらいました!」
「ええ。紬は髪が長いし、こうやってまとめておいた方がプールの時は楽なのよ」
「ああ、なるほど」
言われてみれば、先の空門姉妹も、向こうにいるしろはや鴎も、髪が長い子は皆揃って三つ編みだった。あの髪型の方が都合が良いんだろう。
「それにしても……」
夏海ちゃんにしろは、そして紬と、ワンピースタイプの水着が多い中で、静久や鴎、のみきはビキニタイプの水着だった。
特に、のみきはストライプ模様のビキニ姿だった。着やせするタイプなのか、普段は目立たない胸が妙に強調されている気がするし。
「その……鷹原、そんな目で見られると、すごく恥ずかしいんだが」
「え? わ、悪い」
無意識に見つめてしまっていたらしい。だって、ビーチバレーの時は水着を着てなかったし、目新しかったんだもの。
「……羽依里、視線がえっちだよ」
しろはにまで、ジト目でそう言われてしまった。心なしか、不機嫌そうだ。これはもしかして、嫉妬というやつなんだろうか。
「悪かった。じゃあ、しろはだけ見つめてる」
「そ、それはそれで恥ずかしいし!」
だからそう切り替えしておいた。しろはは顔の前で手を振りながら、途端に真っ赤になった。
「……はいはい、夫婦喧嘩は良いですから、どこに行くか決めましょう」
しろはをいじって遊んでいると、藍がため息交じりにそう言って、案内板の方へ向けて歩き出した。それについて歩くと、やけに周囲からの視線を感じた。特に男連中から。
普段はあまり気にしてないけど、やっぱり皆きれいだし。注目を集めているみたいだ。
「へー、プールにもいろいろあるのねー」
「あっちに見えるのがウォータースライダーみたいですね」
空門姉妹を中心に、皆でプールサイドに設置された看板を見ながら行く先を相談する。
目の前に見える流れるプールの他に、奥の方に遊泳用のプールや子供用プールもあるらしい。ウォータースライダーも気になるけど、午後からは帰りのバスの心配もしなきゃいけないし、できるだけ団体行動しないと。
話し合いの結果、最初は皆で流れるプールに行ってみることにした。
「おお、すごい迫力だね……」
いざ、流れるプールに到着してみると、それなりに流れがあって、まるで大きな川のようだった。ブラジルだけに、アマゾン川をイメージしてるのかな。
そこまで沢山というわけじゃないけど、ちらほらと泳いでいる人もいる。
「うーむ、意外と流れが急だな……」
プールの縁に立っていた良一が顎に手を当てながら、そんなことを言っていた。
「流れが急って、鳥白島の海に比べたら全然大したことないだろ?」
「……前も言ったが、俺はバタフライしかできない」
そういえば、そんなこと言ってたっけ。確かにバタフライは少しでも波があると疲れるだけだし、流れるプールには向かないかもしれない。
「良一ちゃん、ぶつくさ言っていないで、お先にどうぞ」
「どわあっ!?」
プールに入るのを渋っていた良一の背中を、藍が文字通り押していた。良一は叫び声を残して、プールに落ちていった。うん。良い子の皆は、後ろから急に押したりしたら駄目だからね。
「おおー、ミタニさん、早いですね!」
「私たちも続きましょう!」
笑顔でやってきた紬と夏海ちゃんは、大きな浮き輪を持っていた。
「ふたりとも、それどうしたの?」
「はい、向こうで貸してくれました!」
夏海ちゃんが指差す先に、浮き輪の無料レンタルがあった。レンタル水着の文字も見えるし、最悪水着を持ってなくてもプールには入れるみたいだ。
「それでは紬さん、行きましょう!」
「もちろんです! カッパのカワナガレですよ!」
微妙に使い方の違うことわざを口にしながら、二人が浮き輪に乗って、流れに身を任せていった。川下りってほどじゃないけど、あれはあれで楽しそうだ。
「それじゃ、私たちも入りましょう」
「プールなのに流れてるって、変な感じだね」
そんな二人に続いて、女性陣も次々と流れるプールへと入っていった。
皆楽しそうだし、俺も入ろうかな。
「……うおおおおお! こいつは、すごいトレーニングになるぞ!」
軽く身体に水をかけて慣らしていると、大きな声がした。見てみると、天善が隣にある別のプールに入っていた。
どうやらそのプールも流れるプールみたいだけど、皆が入っているプールとは比べ物にならないくらい流れが速い。まさに激流だった。
「うおおおおお!」
天善はその流れに逆らって泳いでいた。確かに流れと逆に泳げばそれだけ負荷がかかって、トレーニングにはなるかもしれないけど。
あのプール、身長制限に加えて、ライフジャケットの着用推奨との注意書きもあるし。天善、大丈夫なんだろうか。
「た、鷹原も一緒にどうだ!? 元水泳部だろう!?」
「い、いや。せっかくだけど遠慮しておくよ……」
正直、俺はあそこまで頑張れる気がしないし。皆と一緒に普通の流れるプールで泳ごう。
俺は頑張る天善に静かにサムズアップをして、軽い準備運動の後、プールに飛び込んだ。
「お、おおお!?」
飛び込んですぐに、かなり強い水の流れを感じた。仕組みはよくわからないけど、この流れに身を任せながら泳ぐと、すごく速く泳げているような気になってくる。
「おおー、これは楽しいです!」
そのままずんずんと進んでいくと、紬と夏海ちゃんが乗った浮き輪に追いついた。
「二人とも、お先に!」
俺はそんな二人を颯爽と追い抜いていく。
「さすが羽依里さん、すごく速いですね!」
「元水泳部は伊達じゃないからね! それじゃ!」
一度水面に顔を出してから振り返り、二人に手を振った後、再び泳ぎ始める。
……ほどなくして、見慣れた水着姿が見えてきた。
「よう、しろは」
「え、もう追いついてきたの?」
俺の姿を見つけて、しろはが驚きの表情を見せていた。それにしても、しろはが泳ぐところとか初めて見た気がする。
「しろはって泳げたんだな」
「当たり前だよ。前に、羽依里に教えてもらったし」
「……あれ? そうだっけ」
当然のようにそう言われたけど、俺にはそんな記憶はない。なんかの拍子に、アドバイスしたかな。
「でも羽依里、なんだか生き生きしてるね。水を得た魚みたい」
「よくわからないけど、たまには思いっきり泳ぎたくてさ」
「良いんじゃないかな。それにしても、水に入るのも躊躇ってた羽依里から、そんな言葉が聞けるなんてね」
……確かに。去年の俺からしたら、想像もできない状況だった。
でも、それはきっと全部、しろはたちのおかげだと思う。
「そ、それじゃ、俺はもう少し泳いでみるから」
「うん。他のお客さんにぶつからないように気をつけてね」
「わかってる」
そんなことを考えていたら急に小恥ずかしくなって、俺は再び水をかく。
しばらく無心で泳いで、ちょうど全長300メートルのプールを一周したところで、休憩を兼ねてプールサイドに上がる。
「くそー、洗濯機で洗われた気分だぜ」
俺が上がると、ほぼ同時に良一もプールから上がってきた。妙に疲れた顔をしているし、変な体勢でプールに落とされたせいで、あまり楽しめなかったらしい。
「いやー、皆楽しそうだねー」
そんな俺たちを、プールサイドに備え付けられたベンチに座った鴎が笑顔で見ていた。
「あれ? 鴎、お前は泳がないのか?」
「少し入ってみたけど、やっぱり流れが速くて。冷やし過ぎても悪いし」
「あ、そういうことか」
俺の視線はおのずと鴎の白い足に向かう。確か、鴎の病気はあまり体を冷やしちゃダメなんだっけ。
「できることなら、浮かべたスーツケースに乗って思いっきり激流下りを楽しみたいところなんだけど」
本人は病気のことなど気にする様子もなく、あっけらかんとそう続ける。さすがにスーツケースは更衣室に置いてきたみたいだ。
「それにしても羽依里、泳ぐのすごく速いんだね。まさに水を得た魚って感じ」
「それ、同じ言葉をしろはに言われたんだけど」
「おお、私としろしろは以心伝心だね!」
なんかちょっと意味が違う気がするけど……嬉しそうにしてるし、いいか。
「あ、こんなところにいた」
その時、噂をすればなんとやら……じゃないけど、先にプールから上がっていたらしいしろはがこっちにやってきた。
「……おっと。お邪魔虫は退散するね」
「鴎ちゃん、退散しなくてもいいですよ。ちょうど今から、皆でウォータースライダーに行こうと話していたところですし」
変に空気を読んだ鴎が立ち上がったタイミングで、他の皆も合流してきた。どうやら、他の皆も一足早くプールから上がっていたらしい。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」
その集団の中には、別のプールで激流に逆らって泳いでいた天善の姿もあった。
「ほら天善ちゃん、こんなところで体力を使い果たしてどうするんですか。段々人も増えてきましたし、次に行きますよ」
天善は肩で息をしていたけど、藍に無理矢理連行されていた。なんとなくわかってはいたけど、島のヒエラルキーが垣間見えるようだった。
でも藍の言う通り、段々と人も増えてきて、流れるプールはまるで芋の子を洗うような状況になってきた。一番暑い時間帯ってのもあるんだろうけど、まだまだ増えそうだし、そろそろ移動することにしよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ウォータースライダーに辿り着いてみると、その入り口には長蛇の列ができていた。
俺たちも並んで様子を見ていると、どうやら二人同時に滑れる大型のウォータースライダーらしく、行列は割とスムーズに進んでいった。
「あれ? 鴎?」
「羽依里?」
いよいよ俺たちの番が近づいてきた頃、隣を見ると鴎がいた。おかしいな。さっきまでしろはが隣にいたはずなんだけど。進んでいくうちに、列がずれちゃったのかな。
「それでは次の方、どうぞー」
そうこうしているうちに、俺たちの順番が回ってきてしまった。どうしよう。
「……よし、これも何かの縁だし、ここは勇気を出して一緒に滑ろう!」
そう言う鴎から、がっしりと腕を掴まれた。たぶんだけど、俺が躊躇しているのを見て、怖がってると思ったんだろうか。パイレーツマシンの前例もあるし。
「いや、俺は別にウォータースライダーは……」
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
理由を説明するよりも早く、鴎は俺の腕を握ったまま、滑り口に身を投じる。
「ちょっと鴎、せめて手を放……うわぁあああーーー!」
「おおおーーーー! これ楽しいーーー!」
俺はそのまま、鴎の体重に引っ張られるようにしてウォータースライダーへ身を投じる羽目になった。もみくちゃになりながら猛スピードで滑り降りて、下のプールへと落下する。
「げほごほ、思いっきり水飲んだ……」
「どう? 二人一緒なら、怖くなかったでしょ?」
「え? まぁ……そうだな。スリル満点だったけど」
「なら良かったよー」
文句の一つでも行ってやろうかと思ったけど、鴎の笑顔を見ていたらそれも野暮な気がしてきた。まぁ、楽しかったのは楽しかったし。
「……ふたりとも、どいてくれー!」
「「え!?」」
その時、上から声がして、俺と鴎はウォータースライダーを振り返る。すると目の前に、良一と天善の姿が迫っていた。
「ひえーーー!」
「どわあぁ!?」
鴎は間一髪避けたみたいだけど、スライダーに背中を向けていた俺は反応が遅れて、避けきれなかった。思いっきり良一から背中を蹴られてしまった。
「いててて」
「おう、悪い悪い」
そう言う割には悪びれる様子もなく、良一は頭をかきながら笑っていた。
「良一たちも滑ってきたのか」
「ああ。すぐに他の皆も滑ってくるぞ」
「なに!?」
俺は再びウォータースライダーの方を見てみる。
「えっ、なんでまだ下にいるの?」
「お前たち、どいてくれ!」
……直後、しろはとのみきが滑ってきた。
「ちょっ、さすがに滑らせるペースが早すぎ……ぶわっ!?」
良一は必死に逃げようとしたけど間に合わず、先に滑り降りてきたのみきに思いっきり体当たりを食らわされていた。
俺も急いでこの場を離れようと思ったけど、今から背中を向けて逃げても良一の二の舞になりかねない。かくなる上は。
「よし。来い、しろは!」
「え? えええ!?」
俺は敢えて逃げずに、滑り落ちてきたしろはをうまく抱き留めた。ナイスキャッチだ。
「も、もう。いつまでも下に居たら危ないよ」
俺に身体を預けたまま、しろはは顔を赤くしていた。なんか色々と柔らかいし、これは彼氏の特権だと思う。
「……まったく、こんな所まで来てラブラブカップルっぷりをアピールしないでください」
「ほらほらどきなさいよー!」
そうこうしているうちに、今度は空門姉妹が滑ってきた。
さすがにこれ以上ぶつけられたくもないので、俺たちは急いでウォータースライダーから離れた。
と言うか、上にいる係員さんも出口に人がいないのをきちんと確認してから次の人を滑らせてほしい。たくさん人が並んでいるし、それも難しいのかもしれないけど。
「ひゃあああーーー!?」
……ちなみに蒼は着水した時、勢い余って水着のブラがずれてしまったらしい。すぐさましろはが視界を隠してくれたので、俺には何も見えなかったけど。ここは喜ぶべきだったんだろうか。
「さあ紬、覚悟を決めていくわよ!」
「はい! イチレンタクショーです!」
空門姉妹に続いて、静久と紬が滑り降りてきた。しっかりと手を繋いでいたらしく、同時に着水して大きな水しぶきが上がる。
「それにしても、これはなかなかに爽快だな」
「そうだね。こればっかりは島にないしね」
俺が率直な感想を口にすると、しろはがウォータースライダーを見上げながら、そう返してくれた。
「でもさ、皆で学校のプールにウォータースライダー作ったことあったよな」
「え? あったかな?」
「あれ? なかったけ」
自然にそう口にしたけど、しろはは知らないという顔をした。確かに、島の皆と一緒に夏を過ごすのは今年が初めてのはずだ。
「……テレビか何かのを見て、勘違いしたのかも」
これもまた、鏡子さんの言っていた『消えた世界』とやらの記憶なんだろう。
俺はそう考えるようにして、しろはと並んでウォータースライダーを見上げる。
……でもその記憶の中には、島の皆とは別にもう一人小さな女の子がいたような。おぼろげにそんな感じがするだけで、具体的なことは何も思い出せないけど。
「おかーさーん! 滑るよー!」
その時、上から夏海ちゃんの声がした。
「最後になってしまいましたし、皆さん、ちゃんと見ててくださいね!」
ちょうど人が途切れたんだろうか、夏海ちゃんが一人でウォータースライダーの上に立っていた。
「うん、ちゃんと見てるよ」
「うひゃーーー!」
その直後、夏海ちゃんが勢いをつけて、滑り口に身を投じる。しばらくすると、歓声とともにプールへと滑り降りてきた。
「えへへ、気持ちいいですねー」
浮いてきた夏海ちゃんは満面の笑みを浮かべたまま、しろはの方へと寄っていく。
「あの、しろはさん、私ともう一度ウォータースライダーを滑ってもらえませんか?」
「え、私と?」
「はい! 良い感じに人も減ってきましたし、そこまで並ばなくても滑れると思うんです。お願いします!」
「そ、それは別に構わないけど……」
「ありがとうございます! それじゃ、さっそくお願いします!」
頷いたしろはは、そのまま引っ張られるようにウォータースライダーへと向かっていった。あの感じを見てると、まるで親子みたいだな。
夏海ちゃんはその後、紬や鴎とも一緒にウォータースライダーを満喫していた。俺は近くに置かれたベンチに座って、その様子を眺めていた。
『レジャープールをお楽しみの皆様へ、お知らせいたします』
満足したらしい夏海ちゃんを加えて、皆でプールサイドで休んでいると、突然放送が流れた。
『14時より、ウォーターバトルトーナメントを開催いたします。参加を希望される方は、受付までお越しください』
「何かイベントがあるんですかね?」
放送を聞いた夏海ちゃんは興味津々と言った様子だった。もしかして、チケットにも書かれていたウォーターバトルってこれのことかな。
「夏海ちゃん、気になる?」
「はい。少し気になります」
「それじゃ、説明だけでも聞きに行ってみようか」
「はい!」
「……お二人とも、ちょっと待ってください。何やら楽しそうな匂いがしますね」
「抜け駆けは許さないわよー」
俺と夏海ちゃんが立ち上がると同時、そう言って空門姉妹も立ち上がった。
「私たちも少し気になるわね。紬、行ってみない?」
「はい! 気になります!」
結局静久と紬も加わり、その場の全員で説明を聞きに行くことになった。
プールエリアの端の方に、それらしい受付があったので、そこにいた係員さんに話を聞いてみる。
「それでは、ご説明させていただきます。このウォーターバトルトーナメントは男性1名、女性4名の、計5人一組で戦うトーナメント形式の水鉄砲大会になります。この水鉄砲を使って相手チームを妨害しながら、お互いに相手のチームフラッグを取り合うのが目的となります」
そう話す係員さんの前には二種類の水鉄砲が置かれていた。一つはよく見る奴だけど、もう片方はやけにゴツい形をしている。
「水鉄砲による被弾回数の制限はないので、いかに相手を妨害しつつ、自分たちは素早く相手チームの陣地に攻め込み、フラッグを奪えるかが重要になります」
「あのー、参加費用とかは?」
「ゲームへの参加費は無料で、優勝、および準優勝のチームには賞品が贈られます」
鴎の問いに笑顔で返した係員さんが示す先には、この宇都山ハイランドのグッズに加えて、ひときわ立派な額縁の入ったポスターが置かれていた。赤い髪の女性のポスターだけど、どこかで見たような。
「あ、あのポスターは……!」
その時、夏海ちゃんがそう声をあげていた。よくわからないけど、参加費無料の割には景品が豪華な気がする。
「現在、7チームの参加が決まっています。残り1チーム参加可能ですが、いかがされますか?」
係員さんにそう言われて、俺たちは思い悩む。まだ時間には余裕があるし、島で水鉄砲大会をやったこともあるから、それなりに自信はあるけど……。
「あの……私、できたら皆さんと参加したいです」
その時、夏海ちゃんがおずおずと言った様子でそう告げる。
「いいわよー。せっかくのイベントだしね」
「そう言うと思ってましたよ」
「うん、面白そう!」
夏海ちゃんの発言を待っていたように、皆が笑顔で了解してくれる。
「それじゃ、エントリーします」
俺もそんな皆の様子を見てから、係員さんにそう伝える。
「ありがとうございます。それでは、より具体的な説明に移らせていただきますね」
係員さんはそう言うと、一枚の紙を手渡してくれ、ホワイトボードを引っ張り出してきた。
「各チームには、このハンドガン型の水鉄砲が4丁、ライフル型の水鉄砲が1丁、それぞれ貸し出されます」
そう言って、さっき見せてくれたのと同じ水鉄砲を取り出す。ゴツいと思っていたこれは、ライフル型らしい。いかにも威力がありそうな水鉄砲だ。
「この水鉄砲に加えて、1試合につき5個、水風船をお渡しします。これも好きに相手の妨害に使っていただいて構いません」
係員さんは手のひらサイズの水風船を見せてくれた。球数制限があるし、イメージは手榴弾みたいな感じなんだろう。
「それら以外での妨害行為は禁止となっています。公平を期すため、ゴーグルの着用も禁止ですので、ご注意ください」
確かに、ゴーグルとか持ってない人とかもいるだろうし。島でやった水鉄砲大会と違って被弾制限がないのなら、相手の動きを止めるには必然的に顔を狙うしかない。理にかなった判断だった。
「次に、試合会場の説明ですが」
続いて示されたホワイトボードには簡単な図が描いてあって、長方形のフィールドの上と下に旗のマークが描かれていた。
「各チームフラッグの位置はお互いの陣地の一番奥で固定になります。また、試合開始時のメンバー配置は自由ですが、初期配置は自分たちの陣地内に限られます。なお、ライフル型の水鉄砲を持った選手はスナイパー役となり、自陣から出ることができないルールなので、お気をつけください」
なるほど。持ってる水鉄砲の威力が高い分、スナイパーは移動可能な範囲が限られるってことか。試合会場には遮蔽物もなさそうだし、選手の初期位置も重要そうだ。
「そして勝ち進んだ場合、試合ごとにメンバー交代が可能です。ただし、1チームに男性は1名のみというルールを忘れないでくださいね」
「わかりました」
「それでは、こちらの用紙に代表者のお名前をお願いします」
係員さんからの説明は以上だった。俺は促されるがまま、紙に必要事項を書き込む。大体のルールは把握できたし、武器となる水鉄砲を受け取った後は、参加メンバーを決めることにした。
「まずは夏海ちゃんは参加確定でいいよね」
「はい! 望むところです!」
握りこぶしを作って気合を入れる夏海ちゃんを中心に、全員で輪になってあれやこれやと話し合う。
「次に、チームに1人は入れないといけない男性枠なんだけど……あれ?」
その点について良一や天善と話し合おうと思い、その姿を探すけど……どこにもいなかった。あれ? ウォータースライダーの時にはいたはずなのに。
「天善ちゃんは『卓球が俺を呼んでいる!』とか叫んでゲームセンターの方に向かっていきましたよ」
「え、そうなの」
そんな俺の様子を見て、藍が思い出したようにそう言ってきた。
「せっかく水織さんと二人でウォータースライダーを滑れるように取り計らってあげたんですが、逃げ出してしまいまして。意気地なしですよね」
いや藍、天善にいきなりそれは無理だと思う。思わず卓球に逃げてしまった天善の気持ちも分かる。
「良一はそろそろサンバの時間だって言って、プールから上がっていったわよー。あっちはあっちで大事みたいだしねー」
そういえば、良一もそんな用事もあるって言ってたっけ。プールに夢中になっていて、すっかり忘れていた。
でもそうなると、ここにいる男は俺だけだし、必然的に参加することになりそうだ。
「じゃあ、男性枠は俺で確定だよな……残るは3人か」
ある意味、ここまでは予定調和だ。試合ごとにメンバーを交代しても良いとは言われているけど、次の試合に進めなければ元も子もないし。
「後、この大きな水鉄砲を扱える人が欲しいですよね」
夏海ちゃんがスナイパー用の水鉄砲を持ち上げながらそう言う。本当に大きくて、夏海ちゃんだと持つのも大変そうだ。
「そうだね……」
俺は残ったメンバーの顔を見る。この中で水鉄砲の扱いに慣れている人物と言えば……。
「……やっぱり、うちのチームのスナイパーはのみきしかいないな」
「なに、私か!?」
のみきは驚いていたけど、適任だと思う。鉄塔から良一を狙う姿は、まさにスナイパーのそれだし。
「いいんじゃないかな。のみきが適任だと思うよ」
「そ、そうか……? しろはがそう言うのなら、やってみてもいいが……」
のみきはそう言いながら、スナイパー用の水鉄砲を夏海ちゃんから受け取る。やっぱり、ものすごく様になっていた。
これで夏海ちゃんと俺、そしてのみきの参加が決まった。
「それで、残り2人なんだけど……」
「羽依里、私やりたい!」
そこで手を挙げたのは鴎だった。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……鴎、大丈夫なのか?」
「メンバー交代OKなんだよね? それなら一試合は大丈夫! 冷やし過ぎなきゃ平気だし!」
「……わかった。よろしくな、鴎」
「ありがとう! 羽依里イズいいやつ!」
こういうゲームは大好きだろうし、本人がやりたいって言うんなら、断る義理もないと思う。
「あとね、しろしろも参加!」
「え、私も!?」
その次に、鴎から唐突に名前を出されたしろはが目を丸くしていた。
「しろしろ、お願い! 一試合だけでいいから!」
「しろはさん、お願いします!」
手を合わせて頼み込む鴎に、これは好機とばかりに夏海ちゃんも便乗していた。
「な、夏海ちゃんまで……や、やってもいいけど、あまり期待はしないでね」
しろははそう言いながら、水鉄砲を手にする。なんだか押し切る形になっちゃったけど、これで試合のメンバーが固まった。
「しろしろ、ありがとう!」
「しろはさん、ありがとうございます!」
「さあ、喜んでばかりもいられないぞ。まずは、作戦を考えなきゃ」
それからウォーターバトルトーナメントが始まるまでの短い時間で、俺たちは様々な作戦を練ったのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『さあ、夏も残すところわずかとなった! だが、宇都山ハイランドの夏はまだまだ終わらない! 今日もレッツ! ウォーターバトル!』
やがて14時になると、サングラスをかけた司会者の男性がマイクを片手にノリノリで口上を述べ始める。ギャラリーも続々と集まってきたし、なんだか盛り上がってきた。
『それでは、さっそく一回戦を始めるぜ! バトルスタート!』
先のホワイトボードに書かれていた通り、広いプールを二つに区切って、二試合同時に試合が始まった。
最初は俺たちとは山が違うチーム同士の試合らしく、思わぬ時間が出来てしまった。俺は水鉄砲の水をチェックしたりしながら、周囲の状況を見てみる。
この試合会場、元は小さい子向けの浅いプールみたいだ。すごく広いけど、水量の調節がされていて、俺のすねの半分くらいまでしか水がない。でも、現在行われている試合を見た限り、微妙な水の抵抗があるみたいで、なかなかに素早くは動けないみたいだ。
そして予想通り、お互いに相手の妨害に水鉄砲で顔を狙っていた。やっぱり、あれが一番効率的だもんな。
また、水風船とスナイパーの役割がかなり重要らしい。特にスナイパーの持つ大型の水鉄砲は、女の子が受けると立っていられない程の威力があるみたいだ。
「のみき、その水鉄砲、なかなかの威力みたいだけど」
「ハイドログラディエーター改に比べれば半分ほどの出力だ。その割に重くて取り回しが難しい。素材以前に、内部構造から見直した方が良さそうだ」
のみきがスナイパー用の水鉄砲を試し撃ちしながら、そんなことを言っていた。試合前だと言うのに、既にスナイパーの顔だ。
「それより鷹原、作戦の最終確認をしたいんだが」
「え? ああ、わかった。皆、ちょっと集まってくれ」
のみきに促されて、俺たちは最後の作戦会議を始めた。トーナメント表を見た限り、三回勝てれば優勝だ。のみきを中心にして、皆で頑張ろう。
『それでは一回戦第三試合! 鳥白島少年団の皆! いざ、プールの中へ!』
反対の山の試合が終わった後、司会の男性にそう呼ばれながら、俺たちはプールへと足を踏み入れる。
俺たちの初期位置としては、一番に守るべきチームフラッグの前に最も攻撃力のあるのみきが陣取り、スナイパー用の水鉄砲を構える。鴎がその左側で補佐につき、俺と夏海ちゃん、そしてしろはは最前線に横並びになり、攻撃を担当する。
『対するは星ノ海学園生徒会! どんな勝負になるか見ものだぁーーー!』
そう呼ばれた相手チームの陣形は、俺たちから見て左側に金髪の少女と黒髪の少女、更に青髪で眼鏡をかけた青年の三人が固まるように立ち、それぞれが水鉄砲を構えていた。
そしてフラッグの前には銀髪の少女が仁王立ちし、そこを挟んだ右端にライフル型の水鉄砲を持った女の子がいた。あの子がスナイパーなのかな。見た感じ、夏海ちゃんと同じくらいの年に見えるんだけど。
「……羽依里、相手はどう攻めてくるのかな」
「あの配置だし、たぶん左側から切り崩してくるスタイルだと思う」
「こっちはどう攻めるんですか?」
「右側は手薄になると思うけど、スナイパーがいるし……作戦通りでいいと思うよ。中央突破しよう」
「わかりました!」
「しろはは試合が始まったら、すぐに俺の背後に隠れて、のみきの射撃ルートを確保してあげてね」
「うん」
『……それでは、バトルスタート!』
俺たちがそう作戦を確認したタイミングで、声高らかに試合開始が宣言され、会場が一気に盛り上がる。
「先手必勝でござるー!」
先の打ち合わせ通り、しろはが俺の背後に入ったと同時に……相手のスナイパーがライフルを構え、俺たちの方を狙い撃ってきた。
「うわっと!」
「ひえっ!?」
幸い精度が低くて命中はしなかったけど、俺と夏海ちゃんの間の水面が一直線に切り裂かれていた。あまりの威力に、思わず足を止めてしまう。
「す、すごい威力ですね」
夏海ちゃんと同感だ。あれだけ離れてるのに。
「……相手の足が止まったっす! 黒羽さんたち、突撃!」
その遠距離射撃を皮切りに、相手チームが動き出した。予想通り、左側から攻めてくるらしく、銀髪の少女の指示を受けて、金髪の少女や青髪の青年が動き出す。
「鷹原の読み通りだな……いくぞ!」
その動きを見て、のみきも水鉄砲を薙ぎ払うようにして放つ。それによって、左側から進撃してくる三人をまとめて足止めする。
「あの距離から撃ってくるんすか!?」
相手スナイパーより、明らかに標的までの距離がある中を正確に撃ち抜いた。さすがのみきだ。
「うー、これじゃ進めませんよ!」
「予想以上に強烈ですね……ゆさりんを守る盾になりたいところですが、眼鏡も吹き飛ばされてしまいましたし、これは動くに動けません」
どうやら、男性枠の彼がその逞しい筋肉を盾にしてのみきの攻撃に耐えているみたいだけど、残る二人はその青年の背後に隠れるのが精いっぱいで、動けそうにない。
「よし、今のうちに、俺たちも進むぞ!」
「はい!」
のみきが相手攻撃陣を抑えてくれている間に、俺たち三人も中央突破を仕掛ける。
「……こうなれば、私が相手の注意をひきつけます。お二人はその間に一気に攻め上がってください!」
「ちょっと! それは奥の手だったはずっすけど!?」
「今がその時です。行きますよ!」
そんな俺たちの動きを見てか、青年が何やら行動を起こすみたいだ。俺たちはその様子を気にしつつも、ゆっくりと前進する。
「くれぐれも相手に当てないように気を付けてくださいよ! 反則になるっすから!」
「わかっています! ゆさりん、いのーーーち!」
……次の瞬間、青年が猛スピードで俺たちの陣地へ突っ込んできた。
「へ!?」
青年は一直線に俺たちの陣地を切り裂き、猛スピードのままプールサイドに設置された柵に頭から突っ込んでいった。いや、なにあれ。予想外すぎるんだけど。
「え、えええ!? ちょっとあれなに!?」
柵に突っ込んで、力なくぶら下がる青年を鴎が驚愕の表情で見つめていた。俺たちも思わず振り返って柵の方に釘付けになってたし、無理もない。
「というかあの人、大丈夫なのかな。完全に気絶しちゃってるみたいだけど」
「……心配無用です。あの人はああ見えて頑丈っすから」
「え?」
そう声がして正面に向き直ると、さっきまでフラッグの近くにいたはずの銀髪の少女が目の前にいた。
「てりゃあ!」
「ぶわっ!?」
……次の瞬間、顔面に水風船をぶつけられた。思いっきり虚を突かれ、俺は背中から倒れる。
「ちょ、ちょっと羽依里!」
「お、重いですよー!」
そして立ち位置の関係で、すぐ後ろにいたしろはと夏海ちゃんも一緒に巻き込んでしまった。
「ふっふっふ。三人くっついてるのが仇になったっすね。例え何人が相手でも、ZHIENDのサイン入りポスターは渡さないっすよ!」
そう言いながら、少女は少しだけ後退して間合いを取る。その手には水鉄砲と水風船がしっかりと握られていた。
「結果的にこっちは一人少なくなっちゃいましたけど、私が三人引き付けている分、人数的にはイーブンっす!」
少女は勝ち誇った顔をしていた。俺たちは急いで起き上がりながら、周囲の状況を確認する。
「こ、こっち来るなー!」
同時に、鴎の悲痛な声が聞こえた。自分たちの陣地の方を振り返ってみると、先程まで青年の背後に隠れていた少女二人が二手に分かれ、既に俺たちの陣地深くへと侵入していた。
「くっ……やはり、市販品は重すぎて、小回りが利かないな……これはまずいぞ……」
のみきも必死に迎撃していたけど、ああやって二手に分かれられたら、さすがに対処しきれないみたいだ。
「ひーん。来るなー! うりゃうりゃー!」
そんなのみきの隣に立って、鴎も水鉄砲で応戦してくれているけど、被弾制限がない分、じわりじわりと攻め込まれている。このままだと、俺たちのフラッグが取られるのは時間の問題だ。
……こうなったら何が何でも、相手より先にフラッグを取るしかない。
そんな考えに至り、改めて目の前の少女に向き直って水鉄砲を構えた、その時。
「援護射撃でござるー!」
「いててててて!」
相手スナイパーからの強烈な水弾が右方向から飛来して、俺の脇腹を直撃した。思わず、うずくまってしまうくらい痛い。
「もう一発受けるでござるー!」
ところで、ござるってなんだろう……いててて!
俺の動きを止めるためなのか、絶え間なく撃ってくる。これは動けない。どうしよう。
「……羽依里さん、そのまましゃがんでいてください!」
その時、頭上から夏海ちゃんの声がして、同時に背中を踏む感覚があった。
「えーい!」
「んぎゃ!?」
次の瞬間、俺の背中を踏み台に跳躍したらしい夏海ちゃんが投げた水風船が銀髪少女の顔を捉える。
落下時の力も計算に入れた、強力な一撃だった。その直撃をくらった少女はそのまま仰向けに倒れる。
「今ですしろはさん! 相手のフラッグを狙ってください!」
「う、うん!」
夏海ちゃんにそう言われて、しろはが倒れた少女の脇を抜ける。
「い、行かせないのですー!」
その状況を見て、スナイパーが慌ててしろはに照準を合わせる。俺も素早く起き上がり、しろはとスナイパーの間に立ちふさがって盾になる。
「……えい!」
『試合終了ーーー! このバトル、鳥白島少年団の勝利だーーー!』
結局、そのまましろはが相手のフラッグを奪い取って勝負あり。その数秒後に俺たちのフラッグも相手に取られてしまったけど、僅かな差で俺たちの勝利となった。
「な、なんとか、勝てたな……」
「う、うん……」
「大して動いてないのに、へとへとだよ……」
試合が終わってプールサイドに戻るとすぐに、俺たちはその場に座り込んでしまった。特に、しろはと鴎の疲労度が高そうだ。
このゲーム、試合時間は5分もかからないんだけど、多少なりとも足元に水があるせいか、足の疲労感が半端ない。これなら試合ごとにメンバー交代できるっていうルールも納得かも。
「皆、お疲れさまー」
「白熱した戦いでしたね」
空門姉妹がそう言いながら、俺たちの労をねぎらってくれた。
「差し入れに、スポーツドリンクを買ってきたわ」
「はい! どうぞ!」
笑顔の静久と紬から、冷えたスポーツドリンクを受け取る。喉を鳴らしながらそれを流し込むと、全身に水分が染みわたっていく感じがした。
「……おかげで元気が出ました! これで次の試合も頑張れます!」
そう言って夏海ちゃんが握りこぶしを作りながら立ち上がる。彼女はまだまだいけそうな感じだ。
「そうだ。次の試合なんだけど、鴎としろはの代わりに、紬と静久が出てみない?」
「むぎゅ? わたしたちですか?」
「そう。夏海ちゃんはまだまだ元気そうだし、男性枠の俺やスナイパー役ののみきは固定せざるを得ないけど、鴎やしろはとは交代してあげて欲しいんだ。駄目かな」
「……わかりました! それでは、ナツミさんと一緒に頑張ります!」
そう言って、紬はがっしと夏海ちゃんと握手を交わす。
「ふふ、紬もやる気になっているし、そういう事なら私も頑張らせてもらうわね」
「ズクズク、よろしくね!」
静久も笑顔で了承してくれ、鴎から水鉄砲を受け取っていた。フレッシュな二人を加えたし、次の試合も頑張ろう。
『それでは準決勝! 鳥白島少年団と、チームSSSの戦いだ! 決勝戦への切符を掴むのはどっちだぁーーー!?』
それから数分後。司会の男性の口上が響く中、俺たちは再びプールへと足を踏み入れる。
初戦を踏まえて、今回はより攻撃的に行くことにした。このゲーム、一度守りに入ってしまうと圧倒的に不利だってことが分かったし。
そんなわけで、今回はのみきを比較的相手陣地に近い中央に配置し、中央突破を図る俺や夏海ちゃんを援護してもらえるようにした。
新たに参加した静久と紬は、ペアで右サイドからの攻撃してもらうことにした。二人に一発ずつ水風船も持たせてあるし、頑張ってほしい。
対する相手チームはというと、白いベレー帽をかぶったリーダー格の少女が陣地中央に陣取り、その右斜め後ろにピンク髪の少女と銀髪の少女が並ぶ。
彼女たちは位置的に、紬たちとぶつかりそうだ。
そして、そんな二人からベレー帽の少女を挟んで反対側の位置に、黒髪の女性とスナイパーらしい少年の姿があった。相手チームは唯一の男性枠をスナイパーに使うみたいだ。なんとなく、勿体無いような気がしないでもないけど。
「大山ァ! 男の代表として出てやがるんだから、少しは役に立てよ! 最悪戦えなくなっても、ゆりっぺの盾くらいにはなりやがれ!」
「スナイパーなんだから、そう簡単に動けないんだし……無茶言わないでよ……」
観客の中からの声に、怯えるようにしてそう言っていた。会話を聞く感じ、知り合いっぽいけど。
『それでは、準決勝第一試合! バトルスタート!』
やがて高らかに試合開始が宣言され、準決勝が始まった。
「それじゃ行くわよ!オペレーション・スプラッシュ!」
試合開始と同時に、相手チームのリーダーがそう号令を出す。同時にスナイパーを除く三人が一斉に動き始めた。
「静久に紬、右側の二人をお願いできるか?」
「任せて! 紬は私の後ろに隠れていてね!」
「はい!」
「そろそろ射程圏内ですよ! 会長、撃て撃て―!」
ピンクと銀色の髪をした二人の少女は、射程圏内に入るとすぐに一斉射撃を開始した。
「甘いわ! おっぱいバリアーよ!」
しかし、静久がそう言って胸を張ると、なぜか相手の攻撃が全てその胸に集まっていく。
「こ、これは一体……?」
「うう、何故かあのおっぱいオバケみたいなサイズの胸から目が離せない……! 攻撃がそっちに行ってしまう……!」
相手二人はそんなことを言っていた。確かにあの子たちの胸のサイズはお世辞にも大きいとは言えないけど……って、何を考えてるんだ俺。
「今は試合に集中しろ、鷹原羽依里!」
ぱんっと両頬を叩いて気合いを入れてから、正面に向き直る。今のうちに進まないと。
「……あさはかなり」
「え?」
……気がつくと、さっきまで遠くにいたはずの黒髪の女性が真横にいた。いつの間に移動してきたんだろう。
「ぶわっ!?」
「わぷっ!?」
そして、すれ違いざまに水風船をぶつけられた。不意を突かれた俺たちがその場に座り込んだ隙に、女性は俺たちを追い抜いていった。
「しまった!」
俺は慌てて起き上がるけど、その女性は予想以上の速度で移動していく。まるで水に浮いているみたいだ。
……いや、実際に浮いてる!?
「あれって、水蜘蛛の術ってやつですかね。初めて見ました」
少し遅れて起き上がった夏海ちゃんが驚いた表情でそう言っていた。確かに、女性は足に何か丸いものをつけて、水に浮かびながら滑るように移動している。
「えええ、あんなやり方ってOKなの?」
「別に、ゴーグル以外は装備の制限とか聞いてないし。相手の妨害に使わなければ、椎名さんの忍術もセーフでしょ?」
思わず口にした俺の問いに、相手のリーダーが自信満々にそう答えてくれた。ところで、忍術って何。
「……悪いが、そう易々とフラッグを取らせはしないぞ!」
黒髪の女性は俺と夏海ちゃんを抜き去り、高速でフラッグへ向かっていたけど……そこに最後の砦であるのみきが立ちふさがり、強烈な水弾を食らわせる。
「……くっ」
のみきの水弾を受けた女性はいとも簡単にバランスを崩し、転倒してしまった。どうやら水蜘蛛を足に固定している分、動きも制限されるらしい。その後もやっと起き上がっては、のみぎに転ばされるという状況が繰り返されていたし、あそこはのみきに任せておけば良さそうだ。
「さすがのみきさんですね!」
後ろの方の状況を見ながら、夏海ちゃんが俺の隣に並んでくる。
一瞬ヒヤッとしたけど、どうやら大丈夫そうだ。大分前進できたし、後は眼前のベレー帽をかぶった少女を抜けば、フラッグは目の前だ。
「羽依里さん、数で勝ってますし、このまま一気に攻め……わぎゃ!?」
次の瞬間、夏海ちゃんの姿が消えた。
「……あれ?」
どうやらスナイパーに撃ち抜かれたらしく、後方に吹き飛ばされていた。
「夏海ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です!」
夏海ちゃんは頭を振りながら素早く起き上がる。完全に相手スナイパーの存在を忘れていた。だって、全然存在感が無いんだもの。
「夏海ちゃん、俺の背後に隠れて!」
「はい!」
夏海ちゃんが俺の背中に滑り込んだ直後、すぐ近くを水弾が通り過ぎていった。
「これは、どうしようかな……」
俺は夏海ちゃんを背中に庇った状態で、一度周囲の状況を確認してみる。
静久と紬は向こうで二人の少女と交戦していて、じわじわと前進してはいるものの、高望みはできない。のみきは例の忍術少女を足止めし続けているし、自陣からは出られないから攻撃に転ずる余裕はなさそうだ。そして俺と夏海ちゃんも相手スナイパーに狙われていて動けない。膠着状態というやつだった。
「……よし、この手で行こう」
考えてみても、今この状況で動けるのは、相手リーダーと夏海ちゃんくらいだった。
「……夏海ちゃん、これ」
俺は手に持っていた水風船を、こっそりと夏海ちゃんに渡す。
「……わかりました。やってみます」
どうやら俺の意図が伝わったらしく、夏海ちゃんは両手に水風船を持って、タイミングを計る。
これで夏海ちゃんが持つ水風船は二発。これでなんとか突破口を開いて欲しい。
「……えい!」
一瞬の間を置いて、俺の背後から投げ放たれた水風船が一直線に相手リーダーへと向かう。これであの少女も何かしら行動を起こすはずだ。
「ふっふっふ。甘いわよ!」
……しかし、夏海ちゃんの投げた水風船は相手に命中する前に破裂してしまった。
「え?」
一瞬驚いたけど、どうやら相手のスナイパーの仕業らしい。野球経験がある夏海ちゃんが投げた水風船を空中で打ち抜くなんて、すごい腕だった。
「……だから言ったでしょ。オペレーション・スプラッシュ(水しぶき作戦)よ!」
「わぷ!?」
「ぐわっ!?」
次の瞬間、リーダーの少女が動き出した。俺と夏海ちゃんの顔面に水風船をお見舞いした後、怯んだ俺たちの横を軽やかに抜けていく。
「くそ、やられた!」
滴り落ちる水をぬぐって振り返るけど、時すでに遅し。リーダーの少女はそのまま一直線に俺たちのフラッグへと向かっていく。
「くっ、二人目だと!?」
相手リーダーの進軍に気づいたのみきが応戦してくれるけど、黒髪の女性と合わせて二人同時に相手にするのは分が悪そうで、じわじわとフラッグとの距離を詰められていく。
こうなると俺たちも急いで攻めなきゃいけないのに、相手のスナイパーのせいで動けない。作戦失敗してしまった夏海ちゃんも意気消沈しているし、どうすればいいんだろう。
「……必殺! おっぱいボムよ!」
「ぎゃあああっ!」
「……やられたわ」
その時、静久たちに持たせていた二発の水風船が炸裂した。
「……紬、今よ!」
「はい! チョトツモーシンです!」
静久の攻撃によって二人が怯んでいる隙に、紬がその間を抜けて飛び出してきた。
「うわぁ、まずい!」
紬がフラッグに近づいているのを見て、スナイパー役の少年が急いで紬に照準を合わせる。紬、危ない!
「……紬さんに手出しはさせません!」
それを見た瞬間、夏海ちゃんの瞳に闘志が宿った。
そして手元に残っていた最後の水風船を握りしめ、投球モーションに入る。
「えーーーい!」
「うひゃあっ!?」
即座に投げ放たれた一球は、先程とは比べ物にならない速度でスナイパーの顔面を直撃した。さすが、鳥白島チャーハンズのエースピッチャーだ。
その結果、紬を狙ったスナイパーの攻撃は大きく外れた。
「むぎーーーー!」
その間に、紬が猛然とダッシュして相手のフラッグを奪取。初戦に続いてギリギリだったけど、俺たちの勝利だった。
『試合終了ーーー! このバトル、鳥白島少年団の勝利だーーー!』
「大山センパイ、小学生の子にやられてどうするんですか!」
「うう、面目ない……」
「椎名さんも自信満々で出撃して、あの体たらくですよ!」
「無念なり……」
「ユイ、喧嘩ごしに言わないの」
「だって、優勝したらあのZHIENDのサインがもらえたんですよ! 悔しいに決まってるじゃないですかー!」
そんな相手チームのやりとりを聞いていると、しろはがやってきた。
「……手に汗握る勝負だったね。皆、決勝進出おめでとう」
「ありがとうございます! シズクとナツミさんのおかげです!」
「ふふ、皆で力を合わせての勝利ね」
「はい! 私たちのチームワークはさいきょーです!」
「ムテキでーす!」
紬と夏海ちゃんが笑顔でハイタッチをかわしていた。そんな微笑ましい光景を見ていると、鴎や空門姉妹もこっちにやってきた。
「なっちゃんも、ナイスピッチング!」
「ありがとうございます!」
「のみきもお疲れさまー」
「ああ、スナイパーは体力的に楽かと思いきや、なかなか息つく暇もないな。予想以上に大変だぞ」
「じゃあ、のみきも一本いっとく?」
そう言って蒼が栄養ドリンクを差し出していた。のみきはお礼を言いながらそれを受け取り、ごくごくと飲んでいた。
「水織さんも、ナイスおっぱいでした」
「ありがとう。最高の褒め言葉ね」
蒼に続いて、藍が初参加の静久をねぎらっていた。距離が離れていたから良く見えなかったけど、おっぱいバリアとかすごかったみたいだし。
「それにしても、なかなかにクーパー靭帯が疲れちゃったわね」
「なら次の決勝戦、紬や静久の代わりに二人が出てみないか?」
静久のあの身体を張った戦い方では連戦は厳しいだろうと思い、俺は空門姉妹にそう声をかけてみた。
「へっ? あたしと藍が?」
「そう。せっかくだし、二人にも参加して欲しいんだけど」
「えーっと……どうしようかしら。藍は?」
一瞬悩んだような顔をして、蒼はすぐに姉の顔を見る。
「私は蒼ちゃんが参加するなら一緒に参加しますよ」
「そうねー。それじゃ、やれるだけやってみようかしら」
「蒼、頼りにしてるよ。それで、藍も良いのか?」
「もちろんです。藍に二言はありませんよ」
「ありがとう二人とも。それじゃ、決勝戦の作戦だけど……」
決勝戦のメンバーも決まったところで、俺たちは残された時間を使って最後の作戦会議を行ったのだった。
第四十五話・あとがき
おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
今回は宇都山ハイランド中編でした。頑張って一気に終わらせたかったのですが、ちょっと長くなりすぎてしまいまして。ここで一区切りとさせていただきました。
内容的には前回のアトラクション三昧から一転、プールとウォーターバトルトーナメントがメインとなりました。
そんな初戦の対戦相手はCharlotteチームでした。この辺り、プチコラボというか、思いっきり遊んでいます。元ネタを知っている皆さんに、クスリとしていただければ幸いです。
具体的なメンバーは友利、高城(男性枠)、柚咲、歩未、弓の5名でした。
最後の弓って誰?って思うかもしれませんが、白柳さんです。原作の冒頭と中盤?に出てきたあの学園のマドンナです。皆さん、覚えてます?(名前忘れてたヒト)
実はCharlotteは地味に男キャラが多く、チームに女性4人を採用するのが予想外にきつくてですね……苦肉の策です。
また、さすがにZHIENDのサインが景品となれば、友利も本気で勝ちに来てましたね。高城が身体を張らなければ、勝負はわからなかったかもしれません。
そして準決勝の相手は死んだ世界戦線。
メンバーはゆり、かなで、ユイ、椎名、大山(男性枠)でした。
このチームは、ゆりを中心としたチームでした。オペレーション・スプラッシュ!
ちなみに、大勢の男性キャラがいる中で何故大山を採用したかというと、個人的に狙撃手のイメージが強いからです。
できたらTKや松下五段も出してあげたかったんですけど、男性は1人というルールを自分で決めちゃったのが仇になりましたね。
さて、次回でようやく遊園地編も終わります。今回も、最後まで読んでいただいてありがとうございました!感想など頂けましたら、泣いて喜びます。