Summer Pockets #2   作:トミー@サマポケ

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第六話 7月30日

 

 

 

「鷹原さーん、起きてくださーい!」

 

 

 今日も夏海ちゃんに起こされて、ラジオ体操へ向かう。

 

 眠たい目をこすり、たどり着いた神社には、いつものメンバーがいた。

 

 

「おはよう、羽依里! なっちゃん!」

 

「鴎さん、おはようございます!」

 

「おう、おはよう。鴎」

 

 ……って、なんで鴎が?

 

「暇だったから」

 

 前言撤回。見慣れない奴もいた。

 

「いいんじゃない? 別に参加は自由だし」

 

「ああ。特に制限はしていない」

 

「だな。人が多い方が賑やかでいいじゃねーか」

 

 島の住人たちは、実に大らかに鴎の参加を了承してくれる。

 

 

 

「お前ら―! 準備はいいかー! いくぞー!」

 

 その時、ラジオ体操大好きさんが登場。今日のラジオ体操が始まる。

 

 

 

「第一の運動! 耳介筋の鍛錬!」

 

「うおおーー……ピクピク、ピク」

 

 なんとなくだけど、俺の耳も動くようになった気がする。

 

 でもこの運動の最大の欠点は、自分の耳が動いているかどうか確認できないことだ。

 

「むむむむむーーーー」

 

「鴎、どれだけ気合い入れても耳は動いてないぞ」

 

「ええー。結構頑張ってるのに―」

 

 

「第二の体操! 横隔膜の振動だ! うるああぁぁーー!」

 

「「うるああぁぁーーー!」」

 

「えっ? う、うけーーーーーーーー!」

 

 見よう見まねで体操をこなしていく鴎。

 

 

 

「よし、今日の体操はここまでー!」

 

「ありがとうございましたー!」

 

 本日のラジオ体操が終了する。結局、今日もラジオは使わなかった。

 

 

「なんか、変に疲れた……」

 

 鴎はげんなりしている。まぁ、気持ちはわからなくもない。

 

「さあ、スタンプを押すぞー」

 

「え、スタンプって何?」

 

「そういえば鴎はスタンプカード持ってないのか」

 

「うん。ないよ」

 

 言われてみれば、のみきも何も渡してなかったような気がする。

 

「ああ……悪いが鴎、スタンプカードは初日にしか渡せない決まりなんだ」

 

「スタンプカードがないと、スタンプはもちろん、ログボももらえないのよ」

 

 あ、そういうシステムなのか。

 

「……ろぐぼ、ってなに?」

 

「参加賞みたいなものですね」

 

「うーん、参加賞欲しかったけど、しょうがないよね」

 

「鴎、気を落とすなよ。来年また参加すればいい」

 

 俺は今日の分のスタンプを押してもらい、ログボをバケツから受け取る。

 

「え、バケツ?」

 

 受け取ったものをよく見てみると、うにだった。

 

 うにらしく、うにうにと動いている。

 

「え、これがログボ?」

 

「そうよ。なかなか生きが良いでしょ」

 

「朝獲れたてだそうです」

 

 あっけらかんと言う空門姉妹。

 

「それこそ前の釣りの時、うには獲っちゃダメって言われたぞ?」

 

「これはきちんと許可をもらったものなので、大丈夫です」

 

 それでも、うにをラジオ体操で配っちゃうんだ……恐るべし、島のラジオ体操。

 

 皆は持って帰ったうにをどうやって食べるかの話で盛り上がっている。

 

 

「そういえば、しろはってラジオ体操に来ないよな?」

 

「なんだ鷹原、お前彼氏なのに知らないのか?」

 

「どういうことだ?」

 

「しろは、朝にすっごく弱いのよ。ああ見えて」

 

「そうだったのか……」

 

 今度、何かのタイミングで起こしに行ってもいいかもしれない。サプライズってやつで。

 

「ちなみに、蒼ちゃんも目覚めは悪いです。そして、ラジオ体操から帰ったら必ず二度寝もします」

 

「ちょっと藍、バラさないでーー!」

 

 うん。今日も鳥白島は平和のようだ。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 そして神社から帰宅。

 

「……それでこのうに、どうしましょう?」

 

「食べたい……けど」

 

「まだ動いてますよ。うにうにって」

 

「そうだね……」

 

 俺達の手の上で、うには元気に動いていた。

 

「中身を取り出したいのですが……」

 

 どうやって出すのか、そもそも家にある道具で取り出せるものなのか、さっぱりわからない。

 

「あら?」

 

 朝から途方に暮れていると、鏡子さんがやってきた。

 

「おいしそうなうにね。食べるの?」

 

「え? ええ。でもその……」

 

「食べるんでしょ?」

 

「は、はい」

 

「貸して」

 

 鏡子さんは俺達の手からうにをひょいっと掴むと、台所へ持って行く。

 

 あっけにとられていると、台所からめきめきと硬い殻を砕く音が聞こえてくる。

 

「ひっ」

 

 夏海ちゃんが思わず両耳を押さえている。

 

「はい。どうぞ」

 

 しばらくすると、俺達の前に綺麗に洗われた新鮮なうにの身が出てきた。オレンジ色に輝いていて、すごく美味しそうだ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「じゃあ、さっそくチャーハンにしますね」

 

「夏海ちゃん、ちょっと待って」

 

「はい?」

 

 さも当然のように持って行こうとした夏海ちゃんにストップをかける。

 

「昨日のちりめんはチャーハンに譲ったんだから、今日のうにはご飯に乗せさせて」

 

「え、そんな約束しましたっけ?」

 

「……いや、してないけど」

 

 そもそも、翌日のログボが何かわからないのだから、約束のしようもない。

 

「だったら、このうにもチャーハンになった方が幸せになれますよ」

 

「いや、幸せとかそういう問題じゃなくて……」

 

 と、昨日と同じように論戦になりかけた所で、時計が目に入る。今日は出店の手伝いがあるし、あまり時間がない。

 

「……そうだ。今日はしろはの出店を手伝わなきゃいけないし、ここは公平な手段で決めようと思う」

 

「公平な手段、ですか?」

 

「じゃんけんだよ」

 

「俺が勝ったら、うには白ごはんと醤油で食べる。夏海ちゃんが勝ったら、うにチャーハンだ」

 

「……いいですよ」

 

「というわけで……一発勝負! 恨みっこなし!」

 

「はい! じゃーんけーん!」

 

「「ぽん!」」

 

 

 

 

「くっ、負けた……」

 

 じゃんけんは夏海ちゃんが勝ち、うには結局うにチャーハンへと姿を変えた。

 

「早く食べて、しろはさんの手伝いに行きましょう!」

 

「そうだね」

 

 うにの中身を取り出してくれた鏡子さんも一緒に食卓を囲む。

 

「うん。美味しいわよ、夏海ちゃん」

 

「ありがとうございます」

 

 うに以外の具材は一切使われていないシンプルなチャーハンなのに、一口食べるとうにの風味が口の中に広がる。最高のチャーハンだった。

 

 

 

 食後は身支度を済ませて、すぐにバイクで港へ向かう。

 

「今日の出店、何を出すんでしょうねぇ」

 

「わからないけど、しろはのことだし、きっとおいしいものだよ」

 

 時間や準備物の打合せはしたけど、具体的に何を作るのかは聞いていなかった。

 

 港に到着すると、昨日まで良一が使っていた屋台の隣にしろはの姿があった。

 

「おはよう、しろは」

 

「しろはさん、おはようございます」

 

「おはよう二人とも。来てくれてありがとう」

 

 しろはは既にエプロン姿。髪は後ろに束ねていて、臨戦態勢といった感じだ。

 

 屋台でひときわ目を引く大きな鉄板にはすでに油が引かれ、良い感じに熱せられている。

 

「はい、夏海ちゃん。これあげる」

 

 そしてもう一枚のエプロンと、三角巾が出てきた。どうやら夏海ちゃん用らしい。

 

「え? ありがとうございます」

 

 夏海ちゃんは慣れた手つきでエプロンと三角巾をつける。

 

「このエプロンの絵はなんですか?」

 

「ひげ猫だよ」

 

「ひげねこ?」

 

 あー、なんか子供のころに見たことあるような。

 

「可愛いですね」

 

「でしょ」

 

「それでね夏海ちゃん。さっそくで悪いんだけど、食材の下ごしらえ手伝ってくれる?」

 

「はい!」

 

「こっちに長芋と豚肉、イカ、アサリ、キャベツがあるんだけど……」

 

 仲良く並んで、山盛りになってる食材の下ごしらえを始める。

 

 材料を聞いただけじゃ、イマイチ何を作るのかもわからない。

 

 とりあえず麺がないので、ホルモンうどんじゃないことは確かだ。

 

「あ、羽依里はこっち。まだ食材や調味料とかたくさんあるから、運んでほしいの」

 

「よし、まかせてくれ」

 

 俺には食材運びの任務が与えられ、近くの倉庫から小麦粉やら卵を運ぶ。

 

 

 それが終わると、俺は手持ち無沙汰になってしまった。

 

 ダメもとで手伝いを申し出てみるが

 

「羽依里には後でやってもらうことがあるから。今は体力温存しておいて」

 

 と、笑顔で断られてしまった。体力温存って、何やらされるんだろう?

 

 邪魔しないように、二人が調理する様子を眺めることにする。

 

「夏海ちゃん、タネできた?」

 

「はい。これでいいですか?」

 

「うん。いい感じ」

 

「他の材料も準備できたし、そろそろ始めよっか」

 

 複数の材料をさっとタネの中に混ぜ込むと、それを鉄板の上に流し入れる。

 

 形を整えつつ、ある程度火が通った所でヘラでひっくり返し、上に鰹節と天かすをふりかけ、マヨネーズとソースを素早くかける。

 

「最後にもう少し焼いて、完成」

 

「……お好み焼きだ」

 

「うん。正確には海鮮お好み焼き」

 

 鉄板の火力のなせる業なのか、予想以上に早く焼きあがった。

 

「食べてみる?」

 

 そう言うと、しろははお好み焼きをヘラで半分に切って紙皿によそい、俺と夏海ちゃんに渡してくれる。

 

「できたら広島風にしたかったんだけど、ものすごく手間がかかるから、今回は関西風なの」

 

「……うん。美味しい」

 

 見た目でもっとがっちりしてるかと思ったけど、生地がやわらかくて食べやすい。長芋のおかげだろうか。

 

「これ、いくらで売るの?」

 

「400円。材料費を考えたら、これくらいが妥当」

 

「良いんじゃないかな」

 

 もう一口食べる。海老やアサリの魚介類が良いアクセントになっていて、飽きない感じだ。

 

「このエビ、美味しいな」

 

「実はそれ、エビじゃないの」

 

「えっ? それじゃあ何?」

 

「秘密」

 

 そう言われると、気になる……。

 

 

 

 その後もこまごまとした準備をしていると、汽笛と共に船が港に近づいてくるのが見えた。

 

「ほら、もうすぐお客さんが来るよ。このタイミングが勝負だから」

 

「え、勝負って」

 

 なんかしろは、商売人の顔になってる。食堂を経営する中で色々と学んでるみたいだ。

 

「いくよ、夏海ちゃん」

 

「はい!」

 

 しろはと夏海ちゃんが見事な連係プレーでお好み焼きを焼き、パックに詰めていく。

 

 その様子に見入ってしまう。

 

「ほら、そろそろ羽依里も準備して」

 

「え? 準備?」

 

「あれだよ」

 

 しろはが指さす先には、ペケモンの着ぐるみがあった。

 

 確か去年のクリスマス会で、子供向けにしろはのじーさんが着たやつじゃなかったっけ。

 

 どうやらそのまま、しろはの家で預かっていたようだ。

 

「え、あれを着るのか?」

 

「うん、客寄せお願い」

 

「この炎天下で? マジ?」

 

「うん。マジ」

 

 仕方ない。他でもないしろはの頼みだ。これも彼氏の務め。

 

 俺はいそいそとペケモンの着ぐるみを着る。予想はしていたが、めちゃくちゃ暑い。

 

 今日もこれからますます暑くなる。気合いで何とかするしかない。

 

「かわいいですねぇ」

 

 かわいいのか? 着てる俺としては、よくわからない。

 

「ところで、このペケモンってなんて鳴くんだ?」

 

「え、知らない」

 

「私もわからないです」

 

「声を出せないと、客寄せにならないぞ」

 

「そ、そうだけど」

 

「適当でいいのかな」

 

 俺は試しに、適当に思いついた言葉を発してみる。

 

「くけーーー! けぇーーー! けっけぇーーー! くぇぇっけぇーーー!」

 

「それやめて。聞いたことないなずなのに、なんだか寒気がする」

 

 しろはは耳を押さえて、ふるふると頭を振っている。

 

「……やっぱり、ペケモンは静かに愛想良くしてるのが一番じゃないですか?」

 

 確かに。可愛らしい着ぐるみから野郎の声が聞こえてきたんじゃ、夢も希望もあったもんじゃない。

 

「なんとかランドにいる人形みたいに振る舞えばいいわけだな。よし」

 

 俺はコミカルに動いてみたり、手を振ったりしてみる。

 

「そうそう、そんな感じ」

 

 でも、これだと客寄せ出来ない。

 

 港から少し離れた出店の横でペケモンが無言で踊っていて、お客が気づくだろうか。

 

「そうだ。代わりに夏海ちゃんに客寄せをお願いできないかな?」

 

「えぇっ!?」

 

「いらっしゃいませー、とか。おいしいですよー。とかでいいから」

 

「えっと、でも」

 

「ほら、もうお客さんが通り始めたよ」

 

 見ると、船はすでに着岸しており、続々と観光客が降り立ち始めていた。

 

「夏海ちゃん頑張って。一回やったら、吹っ切れると思うから」

 

「俺も隣にいるぞ」

 

 ずいっと前に出て、できるだけコミカルな動きを始める。

 

「……ふーー……」

 

 

 

「で、できたての海鮮お好み焼き、いかかがですかーー!」

 

「おいしいですよー!」

 

 一回深呼吸した後、吹っ切れた。

 

「え? なになに?」

 

「屋台があるぞ?」

 

「お好み焼きだって」

 

「どうぞ、見てってくださーい!」

 

 凄い声だ。夏海ちゃん、こんな大きな声出せたのか。

 

 夏海ちゃんの声に誘われてこっちを見れば、そこにはペケモン。

 

「見て、ペケモンがいるよ」

 

 そうなると、子供たちは興味津々で寄って来る。

 

 もちろん一緒に親御さんもついてくるわけで、なんだかんだでお好み焼きが売れていく。

 

 一度食べてもらえば、その味には自信がある。

 

 加えて、周囲にはソースの香りが漂い、食べたい衝動に駆られる。

 

「二人とも可愛いねぇ。姉妹かな?」

 

 二人を目当てにやってくる野郎とか、孫を見るように目を細めて夏海ちゃんを見てくるおじーさんとか、次から次へとお客さんがやってきて、屋台の周りにはあっという間に人だかりができた。

 

「ねぇ、仕事終わった後時間あるかな?」

 

「えっ」

 

 お好み焼きを買った、見るからにチャラい男がしろはに絡んでくる。

 

 って、あの野郎、何しろはを口説こうとしてやがる。俺の彼女だぞ。

 

 愛の力で、どっかのヘタレみたいにしばらく地上の人じゃなくしてやろうか。クマじゃないけど、着ぐるみだし。

 

「ごめんなさい。私彼氏がいるので」

 

 しろはが笑顔で撃退。俺もあと一歩のところで踏みとどまった。

 

 チャラ男もバツが悪そうに去っていった。

 

 その後も怒涛のように人が押し寄せる。焼くのが追いつかなくなり、俺と夏海ちゃんで何とか時間を稼ぐ場面もあったりした。

 

 紆余曲折あったが、結局お好み焼きは昼前には完売してしまった。

 

 

「ふう……」

 

 さっきまでの騒ぎがウソのように静かになった港で、俺は着ぐるみを脱いで休憩していた。

 

「はふ。緊張しました」

 

 隣に座ってる夏海ちゃんは、ちょっと声が枯れてる。相当頑張ったんだろうなぁ。

 

「二人とも、おつかれさま」

 

 しろはが缶ジュースを手渡してくれる。

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

 とりあえず足が早い食材だけクーラーボックスに片付けて、三人並んで缶ジュースを飲む。

 

「はい、これ」

 

 しろはは俺と夏海ちゃんに封筒を渡してくる。

 

「これは?」

 

「手伝ってくれたお礼。少ないけど」

 

 中を見てみると、お札が何枚も入っていた。

 

「え、こんなにもらえませんよ」

 

「手伝ってくれたんだから、当然だよ」

 

「別にお金が欲しくて手伝ったわけじゃないです」

 

「そうだぞ。俺達はしろはを手伝いたかったんだ。これはもらえない」

 

 二人揃って封筒をしろはに返す。

 

「このお金は、食堂の経営資金の足しにしてくれたらいいよ」

 

「じゃあ、そうする……ごめん。変に気を使って」

 

 しろはは申し訳なさそうな顔をしている。なんだかこっちも心苦しくなってしまう。

 

「あれだ、また食堂で美味しいもの食べさせてくれたらいいから」

 

「そうですよ!」

 

「……それなら手伝ってくれたお礼に、今日の夜は二人に特別メニューを用意してあげる」

 

「おお、それは嬉しいな」

 

「楽しみにしてます!」

 

「うん。期待してて」

 

 しろはに笑顔が戻った。やっぱり彼女には笑っていてもらいたい。

 

「なら、最後にもうひと頑張りするか」

 

 後の楽しみが出来た所で、片づけを再開する。

 

 屋台は三人で近くの倉庫へ運び入れる。骨組みだけな上に滑車もついていたので、動かすのは楽だった。

 

「そういえば、この屋台って朝はあの倉庫にしまわれてたんだろ? しろは一人で出したのか?」

 

「朝はおじーちゃんに手伝ってもらった。一人でぐいぐい運んでたよ」

 

 滑車がついているとはいえ、あれを一人でか……相変わらずだな。

 

「この後、羽依里には調理器具と調味料をバイクで食堂の方に運んで欲しいんだけど」

 

「わかった」

 

 指示されたものを段ボールに詰めて、それを荷台に固定する。段ボール二つ分。結構な重さだ。

 

「そうだ、食堂って鍵は?」

 

「かけてないよ。昼間はやってないのを皆知ってるから、誰も来ないし」

 

 そういう問題じゃないと思うけど……さすが田舎。

 

「調理器具は段ボールのまま入口に置いてくれてばいいよ。調味料だけ、カウンター奥の戸棚に入れておいて」

 

「ああ。しろはたちはこの後どうするんだ?」

 

「私と夏海ちゃんはこれを運ぶよ」

 

 しろはの視線の先には、ペケモンの着ぐるみ。

 

「一度家に持って帰って、洗わないと」

 

 元々しろはの家から持ってきたんなら、また家に持って帰ってもらうのがいいかもしれない。

 

「着ぐるみを運び終わったら、夏海ちゃんも帰ってもらうから。羽依里も荷物を置いたら、家に帰っていいよ」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 そのまま二人と別れ、バイクを飛ばして食堂へと向かう。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

「えーっと、大体この辺でいいか」

 

 持ってきた調理器具を適当な場所に置く。続いて調味料の入った段ボールを持って、カウンターの中に入る。

 

 普段はしろはが料理を作ってる所で、女の戦場だからと言って入れてくれない場所だ。

 

 乱雑になってるようで、きちっと整理されている、しろはらしい。

 

「……あれ? 戸棚って、どの戸棚だろう?」

 

 カウンターに入ってみてわかったが、そこら中に戸棚がある。

 

 特にラベルが貼ってるわけでもないので、適当に開けてみるしかない。

 

「うーん、ここは違うな」

 

 どういう時に使うのかわからない大きな皿や鍋、よくわからない道具がしまってあるが、調味料の類は置かれていない。

 

「こっちのほうかな」

 

 上の戸棚を開けると、一枚の写真と紙きれが落ちてきた。

 

「おっと」

 

 慌てて落ちた写真を拾う。

 

「あれ、これって」

 

『神戸にて、エターナルなラブを誓います』

 

 と書かれた、幸せそうな男女の写真だ。

 

 たぶん、しろはの両親の写真だろう。

 

 彼女の両親が亡くなってるのは聞いてる。思い出の写真なんだろうか。

 

 戸棚に写真を戻し、一緒に落ちてきた紙切れを拾う。

 

「なんだこれ」

 

『やーはんレシピ』

 

 やーはんってなんだろう?

 

『胡椒、レタス、山菜、イノキング、川の主、よくわからないマーク……』

 

 見る限り、何かのレシピなんだろうけど……後半がよくわからなかった。子供っぽい字だし、しろはの書いたものでもなさそうだ。

 

 とりあえず写真と同じところにしまう。

 

 その後、また別の戸棚を開けると、ようやく調味料が入っている戸棚を見つけた。

 

「あった。ここだ」

 

 そこに持ってきた調味料を戻して、しろはからの依頼達成だ。

 

 

 

「こんにちわー!」

 

 しまった。鍵を開けっぱなしにしておいたからか、お客が来てしまったみたいだ。

 

「すみません。今は準備中なんです……って、鴎?」

 

「あれ、羽依里? なんでここに?」

 

「ここ、しろはの店なんだ」

 

「うん。何度か来てるから知ってる」

 

「ちょっと頼まれて、色々と整理をしてたんだ」

 

「そうなんだ」

 

「で、お前は何しに来たんだ?」

 

「お店空いてるみたいだったから、お昼ご飯食べさせてもらおうと思って」

 

「あー……」

 

 そりゃそうか。食堂に食事以外の用事で来る奴なんていないよな。

 

 思えば、入口に『準備中』の看板も出してなかった気がする。

 

「悪いけど、昼間はやってないんだ。また夜に来てくれ」

 

「昨日は空いてなかった? 入らなかったけど」

 

「昨日は、その……」

 

 ホルモンうどん試食会だったから。

 

 うう、昨日の辛い記憶がフラッシュバックする。

 

「どしたの羽依里、顔色悪いけど」

 

「だ、大丈夫だ。とりあえず、また夜に来てくれ」

 

「でも、お昼食べないと夜までもたない」

 

 もっともな話だ。

 

「ねぇ羽依里、どこかお昼ご飯食べさせてくれる場所知らない?」

 

「駄菓子屋に行ってみたらどうだ? あそこならもんじゃとかやってるかもしれないぞ」

 

「もんじゃ?」

 

「お好み焼きみたいなもんだよ。駄菓子屋によっては、奥の座敷に鉄板置いてあって、そこで焼いてくれるんだ」

 

「おお、それじゃ行ってみる!」

 

 鴎は去っていった。

 

 ……はて、勢いで言ったが、あの駄菓子屋にそんな設備があったっけ?

 

「まぁいいか。用事も済んだし、戻ろう」

 

 荷物の片付けが終わった俺は、昼食をとりに加藤家に戻ることにした。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 加藤家に戻ると、ちょうど家の前で夏海ちゃんと鉢合わせした。手にはラップのかかった皿を持っている。

 

「夏海ちゃん、それ何?」

 

「お土産にもらいました。しろはさんが余った材料で作ってくれたみたいです」

 

 そういえば、お好み焼きのタネはなくなったけど、具材の魚介類は少し残っていたから、それを調理してくれたのかな。

 

「海鮮野菜炒めらしいです」

 

「美味しそうだね」

 

 さっそく海鮮野菜炒めとご飯で昼食にする。

 

「美味しいですねー」

 

 残り物とは思えない美味しさだ。特にこのエビがプリプリでうまい。

 

「そういえば、このエビの正体って聞いた?」

 

「はい。ザリガニだそうです」

 

 ザリガニ……。

 

「あの、沼とかにいる赤いアレかな」

 

「たぶん、そうじゃないですか? 図鑑でしか見たことないですけど」

 

 泥臭いイメージがあったけど、全然そんなことはない。むしろ美味しいな。

 

 

「ふう。ごちそうさま」

 

 昼食後は、朝にできなかった宿題をした。15時頃にはそれも終わって、暇になる。

 

「夏海ちゃん、駄菓子屋に行かない?」

 

「あ、行きます!」

 

 

 二人で歩いて駄菓子屋に向かう。

 

 駄菓子屋に近づくと、異様な光景が目に飛び込んできた。

 

 

「なんだ? 駄菓子屋に凄い人だかりができてる……」

 

「あ、羽依里」

 

 しろはがいた。

 

「参加しようか悩んでたの」

 

「何に?」

 

「あれ」

 

 

「さあ、スイカバー早食い競争! 参加登録受付中よー!」

 

 

 見ると、蒼がベンチの上に立って、大声で呼びかけていた。

 

「なあ蒼、なにやってんだ?」

 

「あれ見て」

 

「え!?」

 

 蒼が指し示したアイスケースの中には、大量のスイカバーが入っていた。10本や20本じゃない。

 

 スイカバーは本来、一日数本程度しか入荷されないレアな品物のはずだ。入れても売れないし。

 

「えっとね、どうもおばーちゃんが誤発注しちゃったみたいで……スイカバー4本って書くところ、間違って40本って書いちゃったみたい」

 

「40本……」

 

 おばーちゃん、どう書き間違えたらそんな誤発注するの……!

 

「そして運が悪いことに、このタイミングで壊れるアイスクリームストッカー!」

 

「アイスクリームストッカー?」

 

「ほら、あの店先に置いてる『アイスクリーム』って書いてある箱のことよ」

 

「あれ、アイスクリームストッカーっていうのか……」

 

「業者さんが夕方には修理に来てくれるらしいんだけど、さすがに溶けちゃうから」

 

「それで、こんなイベントを企画したのか」

 

「そう! 他のアイスは人気あるから、家の冷凍庫に無理矢理入れたりしたんだけど、スイカバーはあまり人気ないからどうしようか悩んでたの」

 

「に、人気ない……おいしいのに……」

 

 あ、スイカおねーさんが凹んでる。

 

「……決めた。蒼、参加費はいくらなの?」

 

「え? 一人200万円よ」

 

「三人で参加する。はい」

 

 しろはは真剣な目で蒼に600円を渡す。

 

「え、俺達も参加するのか?」

 

「皆で弔ってあげなきゃ。そうだよね?」

 

 異論は許さない、といった表情だ。

 

「鷹原さん、しろはさんが恐いんですけど」

 

 すがるような目で見てくる夏海ちゃん。大丈夫。俺も怖い。

 

 アイス奢ってもらって食べ放題って聞くと魅力的だけど、選択肢はスイカバー一択だ。

 

「そういえば、優勝者に賞品とか出るのか?」

 

「出るわよ。うちの駄菓子屋で使える商品券1000円分」

 

 かなり豪華だった。

 

 しばらくすると、魅力的な優勝賞品もあってか参加人数は10人を超えた。

 

 店にしてみれば、本来捨てるしかないスイカバーをさばけた上、参加者から200円ずつもらったとして2000円以上の収入。賞品は店の商品券とくれば、なかなかにうまいやり方だ。

 

「うぃんうぃん、ってやつだね」

 

 いつの間にか隣に鴎の姿。こいつも参加するのか。

 

 他にも子供たちに交じって、ずいぶん見知った顔がいる気がする。

 

「それじゃ、準備はいい? 制限時間は5分よ!」

 

 皆で1本目のスイカバーを手に持ち、蒼の合図を待つ。

 

「次のが欲しくなったら、蒼ちゃんの所に取りに来てください」

 

「ちなみに、審判は私が勤めます。もし不正したりしたら、もれなくイナリの呪いをかけてあげますので、そのつもりで」

 

「ポン!」

 

 いつの間にか蒼の横に藍とイナリが立っていた。二人は運営係ということで、今回は不参加らしい。

 

 ところでイナリの呪いってなんだろう。すごく気になる。

 

 

 

「それじゃ、行くわよー……よーい、どん!」

 

 

 

 合図を待ってましたとばかりに、皆が一斉にスイカバーにかぶりつく。

 

「この暑い中待ってたしな。一本くらいあっという間だ!」

 

 30秒足らずで1本目を完食した俺は、すかさず蒼の所に2本目を貰いに行く。

 

「ほう」

 

「やるなぁ」

 

 同じタイミングで蒼の元に辿り着いたのは、良一と天善。

 

「お前らも参加してたのか」

 

「当然だ」

 

「優勝で札がもらえるんだぞ。狙わないわけがない!」

 

「貰えるのはあくまで商品券だぞ?」

 

「ふ……鷹原、喋る暇があったら食べた方が良いぞ?」

 

「確かに」

 

 俺は急いで2本目のスイカバーにかぶりつく。

 

 

 その後、俺達3人が3本目に着手した時点で2分が経過。その頃から一部の参加者のペースが落ちてくる。

 

「むぎゅぅぅ……頭がきーんとなります……」

 

「うーん。2本目になると飽きてくるわね。普段食べてないから、行けるかと思ったんだけど」

 

 急いで食べ過ぎてアイスクリーム頭痛に悩まされている紬と、既に味に飽き始めてる静久の姿があった。

 

「うー、メロンバーが食べたい……」

 

「うくく……」

 

 軽く現実逃避してる鴎と、冷たさに必死に耐えているのみきの姿も見える。

 

「……もくもく」

 

 そんな中、しろはは一人黙々とスイカバーを食べている。

 

 さすがスイカバーを持たせたら右に出る者はいないな……。

 

 

 やがて、残り時間が1分を切ってくると手が止まる参加者が多くなる。

 

「うぷ」

 

 俺の腹の中でもスイカバーが暴れている。もう一玉分くらい食べた気分だ。

 

「どうした羽依里、ここまでか?」

 

 まだ余裕のある顔をしているのは良一。いつの間にか上半身裸になっていて、見た目は暑苦しい。

 

「まだだ! 5本目をくれ!」

 

 ちなみに天善は4本目の所で強烈なアイスクリーム頭痛に襲われたらしく、卒倒して未だ復活してこない。

 

 どうやら、優勝の行方は俺と良一で争うことになりそうだ。

 

 もはや口の中の感覚はないが、ラストスパートだ!

 

「うおおおおおっ!」

 

 

 

 

 

「――はい、そこまでー!」

 

 終了の直前、俺はギリギリで5本目を完食した。

 

 良一は5本目を三分の一程残し、膝をついていた。これは俺の勝ちだ……!

 

 

 

 

「それじゃ、集計するから食べ終わった棒を持って来てー」

 

「残ってるのもそのまま持ってきてください。こっそり食べたり捨てたりしたら、どうなるかわかってますよね?」

 

「ポンポン!」

 

 

 

 俺達はスイカバーの棒を提出し、集計が終わるのを待つ。

 

「ちくしょー、もう少しだったのに!」

 

 隣では、良一が悔しそうに地団太を踏んでいた。

 

「ふ。俺の勝ちだな……うぷ」

 

「のみきに撃たれなきゃ、完食できてたんだよ!」

 

 あ、さっき膝をついていたのは、のみきに撃たれたからか。

 

「し、仕方ないだろう。反射的に撃ってしまったんだ。裸になっていた良一が悪い」

 

「まぁ良一、お前は頑張った方だよ」

 

 激戦を戦った好敵手と健闘を讃えあう。

 

「すごいね羽依里、5本も食べたの?」

 

 2本と半分でギブアップした鴎が、俺の食べた数を聞いて驚きの声を上げる。

 

「むぎゅ……わたしは2本が精一杯でした……」

 

「私もよ……」

 

 灯台の仲良しコンビも一緒に轟沈したみたいだ。なかなかこの二人がアイスをたくさん食べるイメージはない。

 

「これがワタアメだったなら……むぎぎぎぎ」

 

 あ、なんかめちゃくちゃ悔しがってる。

 

 

「はい、集まってー。結果を発表するわよー」

 

 やがて集計を終えたらしい蒼がメモ用紙を手に集合を呼びかける。

 

「スイカバー早食い競争、優勝者は――」

 

 

 

「しろはよ!」

 

「……どうも」

 

 しろはが気恥ずかしそうな顔でベンチの上に立つ。

 

「嘘だろ、俺は負けたのか……!?」

 

「記録は6本ね」

 

 ……俺より一本も多い。

 

「……しろはの奴、全然蒼の所に貰いに来てなかった気がするんだけど」

 

「一回だけ来たわよ。その時に5本持って行ったけど」

 

「え、そのやり方ありなのか?」

 

「別に一本ずつしか持って行っちゃいけないなんてルールないけど」

 

 さすがのスイカバー好きもさることながら、見事な作戦勝ちみたいだ。

 

「おめでとう、しろは」

 

「え? うん。ありがとう……」

 

 さすがに食べ物の早食い大会で優勝したというのが気恥ずかしいのか、しろはは1000円分の商品券を貰うと、そそくさと帰っていった。

 

 

 

「俺達も帰ろうか。うぷ」

 

「鷹原さん、大丈夫ですか?」

 

「スイカになりそうだ」

 

「し、しっかりしてください」

 

「ところで夏海ちゃん、何本食べたの?」

 

「3本です。好きなので」

 

 意外と食べていた。

 

 その後帰宅するも、陽が落ちるまで全く動けなかった……。

 

 なんか、昨日も似たような状況になったような。

 

 だいぶ酷使してるけど、大丈夫かな、俺の胃腸……。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 夜になり、俺たちは夕飯を食べにしろは食堂へ向かった。

 

 しろはが料理を作ってくれている間、ちょっと気になったことを聞いてみる。

 

「そういえば、結局ホルモンうどんはこの食堂に新メニューに加わるのか?」

 

「ああ、あれはね……」

 

 背中越しに語るしろはの声のトーンが、明らかに沈んだ。

 

「私なりに頑張ったんだけど、どうやっても秘伝の醤油ダレが再現できなくて……諦めたの」

 

「そ、そうか……残念だったな」

 

「うん……本当に残念」

 

 俺としては、嬉しいような悲しいような。

 

 

「……うん、完成。おまちどうさま」

 

 どうやら料理が完成したらしい。

 

「今日手伝ってくれたお礼だから、しっかり食べてね」

 

 そう言って俺達の前に並べられたのは、チャーハンとミニラーメン。

 

「チャーハンセットだよ」

 

「チャーハンセットなんですか? ラーメンセットじゃなくて?」

 

「あくまで、チャーハンがメインだから」

 

 夏海ちゃんが当然の疑問を投げかけるが、しろはははっきりと言い切る。それだけ自信のある品だからだ。

 

 それにしてもしろはのチャーハン、どれだけ振りだろう。

 

「美味しいんだよ。しろはのチャーハン」

 

 確か、夏海ちゃんはまだしろはのチャーハンを食べたことがなかったはずだ。

 

「しろはさんの料理美味しいですから、もちろん美味しいんでしょうけど……」

 

 夏海ちゃんも加藤家チャーハン担当としての自負があるのか、複雑そうな顔をしている。

 

「ところでしろは、このラーメンは?」

 

「ホルモンおじさんからもらった小麦粉が余ってたから。作ってみたの」

 

 あのホルモンうどん、うどんも手作りだったのか。

 

「スープは魚介ベースの塩スープだよ」

 

 これも自信あり。という顔をしている。確かに魚介の出汁の良い香りがしてる。

 

「それじゃ、いただきます」

 

「いただきます!」

 

「どうぞ、めしあがれ」

 

 

 まずはもちろんチャーハンからいただく。

 

 ……ああ、これだよな。

 

 最近は夏海ちゃんのチャーハンも食べ慣れてきたけど、やっぱりしろはのチャーハンは格別だ。

 

 隣を見ると、夏海ちゃんは目を丸くしていた。

 

「負けました……」

 

 そしてがっくりと肩を落とす。

 

 加藤家チャーハン担当としての自信は打ち砕かれてしまったようだ。心なしか、涙ぐんでいるようにも見える。

 

「なんですかね。なにかこう、美味しいんですよ。うまく表現できないんですけど。絶対隠し味ありますよね?」

 

「ふふ。秘密」

 

 夏海ちゃんがなんとか味の正体を知ろうと必死になっているけど、しろははうまくはぐらかす。

 

 そんな二人のやり取りを眺めながら、俺は更にチャーハンを口に運ぶ。うん。このレタスのシャキシャキ感もたまらない。

 

 続いてラーメンの方も一口……と思ったところで。

 

 

 

「こんばんわー」

 

 スーツケースをがらがら引きながら、鴎がやってきた。

 

「あ、羽依里のうそつき! もんじゃ焼きなんてやってなかったよ!」

 

 鴎は俺の姿を見つけるや否や、噛みつく声で言う。

 

「あ、やっぱりやってなかったか」

 

「やってるって言ったくせにー!」

 

「え、何の話?」

 

「聞いてよ、しろしろー!」

 

 

 

 鴎はしろはに、昼間の食堂での俺とのやり取りや、駄菓子屋での出来事を話して聞かせる。

 

「羽依里から、駄菓子屋でもんじゃやってるって聞いたから、駄菓子屋に行ったの」

 

「もんじゃって、もんじゃ焼き?」

 

「そう! 駄菓子屋についてみたら奥の座敷で物音がしてたから、もうやってるのかなーって思って襖を開けたら」

 

「……いつも店番してる二人が着替えてた」

 

「そ、そうか」

 

「二人とも、おそろいの下着だった」

 

「お、おぉ」

 

「あの二人って顔もそっくりだけど、体つきもね……」

 

「鴎、ストップ。なんの報告会なの」

 

「おっと、失礼」

 

「それで反射的に飛び出しちゃって、結局お昼ご飯は食べられずじまいなんだよ……」

 

 その時、タイミングを合わせたかのように鴎のお腹が鳴った。

 

「かわいそうな鴎、羽依里に騙されて、お昼ご飯食べられなかったんだね」

 

 確かにあいまいな記憶で答えた俺も悪いかもしれないが、騙したとか人聞きの悪い事言わないでほしい。

 

「うん。もうお腹ぺこぺこだよー。開いてて良かったー」

 

 鴎は夏海ちゃんの隣の席に座る。

 

「ところで、なっちゃんたちは何食べてるの?」

 

「チャーハンセットです」

 

「ラーメンセットじゃなくて?」

 

「チャーハンがメインだから、チャーハンセットなんです」

 

 さっきしろはが夏海ちゃんにした説明を、得意げに鴎にしている。

 

 鴎はメニューと俺達の料理を交互に見る。

 

「そんなメニューないけど」

 

「特別メニューなんだ」

 

「しろしろ、私にもそれお願い!」

 

「うーん、でもこのメニューは……」

 

「……しろは、作ってあげてくれ。しろはのチャーハン、鴎にも食べさせてたい」

 

「わかった。羽依里が迷惑をかけたみたいだし、今回は特別だよ?」

 

「わーい!」

 

 ほどなくして、鴎の前にも俺たちと同じチャーハンセットが用意された。

 

「おお、美味しそう! いただきまーす!」

 

「お前、絶対驚くからな」

 

「うん、しろしろ、美味しいよ!」

 

 鴎は満面の笑みでチャーハンを頬張っている。

 

「ここまでおいしいチャーハンって、私初めてかも!」

 

 空腹は最高のなんとやらというのを差し置いても、しろはのチャーハンはレベルが違うはずだ。

 

 ……おっと、俺たちも冷めないうちに食べないと。

 

 久しぶりにしろはのチャーハンを堪能し、俺達は帰宅した。

 

 

 

「むむむ、どうすればあのチャーハンを超えられるんでしょう……むむむ」

 

 帰宅してからも、夏海ちゃんはずっとしろはのチャーハンについて考えていたみたいだった。

 

 

 

 

第六話・完




第六話・あとがき


皆様おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。

今回はしろはの出店を手伝う話と、スイカバー早食い競争と、しろは寄りの話でした。

一応ポケット√の続きというストーリーの流れ上、しろはとは親しい関係にあるはずなんですが、なんだかんだでしろは中心の話が少ないんですよね……何故だろう(おい

今回は昼間の食堂にて、やーはんのレシピとか、しろはの両親の写真とか、なんとなくPocketルートを匂わせるシーンを入れておきました。

そして午後からのスイカバー早食い競争は、秘かにやりたかったネタなので、満足しています。しろはの優勝は既定路線でしょう。


■今回の紛れ込ませネタ

・着ぐるみでチャラ男を地上の人じゃなくしそうになったシーン
CLANNADです。クマの着ぐるみを着た智代がやってました。


以上になります。今回は少なめでした。お気づきになられたでしょうか。感想など頂けましたら、泣いて喜びます。
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