「鷹原さーん! 朝ですよー!」
今日も夏海ちゃんに起こされる。これももはや日課になってしまったような。
それにしても、夏海ちゃんも早起きだなぁ。鏡子さんも朝に強いから、岬一族の血筋なんだろうか。
ちなみにその鏡子さんは、今日も朝から寄合でいないらしい。
身支度を済ませて、今日もラジオ体操へ向かう。朝早いから蝉たちも起ききれていない感じで、心なしか蝉時雨も小さ目だった。
神社に到着すると、その境内にはいつものメンバーが揃っていた。
「鷹原さん、何きょろきょろしてるんですか?」
「いや、ウシやネコやカモメはいないのかと思って」
「……さすがに今日はいないみたいですね」
別に会えるのを期待してるわけじゃないけど、いないとなると寂しい。
「あ、おはよー、羽依里ー」
「はぁー……」
「ふぅー……」
藍も蒼も、良一も天善も、揃いも揃ってものすごく憂鬱そうな顔をしている。
「どうしたんだ? なんかあったのか」
「あったんじゃなくて、これからあるんだよ……」
良一はひときわ大きなため息をつく。
「どういうことですか?」
「今日は登校日なんだ」
のみきがやれやれ、と言った感じに他のメンバーを見ている。
「ああ、なるほどね……」
楽しい夏休みの真っ最中に突如としてやってくる登校日。これほど憂鬱なものはない。
島の外からやってきている俺や夏海ちゃんはあまり実感がないけど、良一たちにとっては鳥白島は地元だし、当然登校日がある。
「ラジオ体操が終わったら、すぐに帰って準備しなきゃいけないしね」
「蒼ちゃんは二度寝もできないですし、最悪ですよね」
「まったくよねー」
この島には小学校はあるけど、それより上の学校はない。必然的に良一たちは船に乗って本土の学校に行かねばならない。
「帰りの船の関係で、どんなに早くても戻ってくるのは15時くらいになるからな。半日以上潰れることになる」
「天善は良いじゃない。船の時間まで体育館で卓球してればいいわけだし。普段とやってること変わんないでしょ」
「俺達は港で時間潰すくらいしかできないからなー。下手に動くと金かかるし、万が一船に乗り遅れたら悪夢だぜ」
もし乗り遅れたら、次の船までは数時間待ちか。都会でバス一本乗り遅れるのとはレベルが違うよな。
「よーしお前らー! 今日も来てるなー! ラジオ体操を始めるぞー!」
その時、ラジオ体操大好きさんがやってきて、今日もラジオ体操が始まる。
「第4の体操! 三半規管の鍛錬! ぐるぐるぐる~!」
ラジオ体操大好きさんが頭を振り回す。
「ぐるぐるぐる~!」
俺たちもそれにならって頭を振り回す。
「うぇぇぇ……」
「気持ち悪い……」
登校前の子供たちが続々ダウンしている。
こんなので三半規管が鍛えられるんだろうか。
「き、今日は登校日だから、体操はここまで―!」
ラジオ体操大好きさんも目を回してしまったのか頭を押さえている。
そして登校日もあるということで、いつもより少し早めにラジオ体操が終わる。
「さあ、スタンプを押すぞー」
続いてスタンプを押してもらい、ログボを受け取る。
ちなみに、今日のログボはシイタケだった。しかも乾燥シイタケじゃない、生シイタケのようだ。
「堀田のお爺さんが栽培されたシイタケだそうだ。岡山のシイタケ品評会で金賞を受賞したこともあるらしい。味はお墨付きだぞ」
のみきが説明してくれる。堀田のじーさんといえば、何度か山菜取りでお世話になったことがある人だ。あの人、本当に山が得意だな。
「ふぅー……」
「あー、今日も空が青いわねー」
「……ほらお前達、いつまでも現実逃避するな。早く帰って支度しろ」
のみきに喝を入れられながら神社を後にする仲間達を見送った後、俺達も加藤家へ戻る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「夏海ちゃん、一つお願いががあるんだ」
「なんですか?」
俺は朝ごはんを作るために加藤家の台所に立った夏海ちゃんに進言する。
「今日のシイタケは、バターで焼いてほしいんだ」
「シイタケバターチャーハンが良いんですか?」
「いや、チャーハンじゃなくて。普通にバター焼きにしてほしいんだ」
生のシイタケなんて、そうそう手に入るものじゃない。
それをラジオ体操で配るこの島もこの島だけど。
「じゃあ、またじゃんけんで勝負しましょう。私が勝ったら、シイタケチャーハンです」
「いいよ。準備はいい?」
「いつでもいいですよ」
「それじゃ、恨みっこなし! じゃーんけーん!」
「「ぽん!」」
「……俺の勝ちだね」
今日は俺の勝ち。これでバター焼きが確定した。
「しろはさんのチャーハンに勝つために練習したかったのですが、負けてしまっては仕方ないですね……」
夏海ちゃんは肩を落としながら、冷蔵庫を開けてバターを探す。
「……あれ? 鷹原さん、バターありませんよ?」
「え、そんな馬鹿な」
確かあったはずだけど。
夏海ちゃんに並んで冷蔵庫の中に顔を突っ込む。
「あ、ここにあるじゃない」
見慣れた黄色い箱を見つける。
「良く見てください。それ、マーガリンですよ」
……本当だ。
「シイタケのマーガリン焼きってどうなんだろう?」
「なんか、風味が落ちそうですね」
せっかくの生シイタケ。美味しく食べたいけど……。
「バターありませんねぇ。マーガリンじゃ、美味しくないですよねぇ」
隣ですごい嬉しそうに言ってる。
「うーん。どうしようか……」
さんざん悩んだ結果、シイタケチャーハンにしてもらうことになった。
「美味しいですねぇ」
「そうだね」
シイタケがチャーハンの旨味と油をしっかりと吸って、とっても美味しかった。
食後はいつものように宿題を……と思ったけど、時計が目に留まる。
もう少ししたら、船が出る時間。
登校日で本土に行く皆を見送るってのも、良いかもしれない。
「夏海ちゃん、港に皆を見送りに行かない?」
「良いですね。行きましょう!」
少しでも時間に余裕を持たせるために、バイクで港へ向かった。
港に到着すると、船に乗り込んでいく人々の中に、しろはたちの姿を見つける。
「おーい、しろはー」
「あれ、どうしたの」
しろはが驚いた顔で立ち止まると、一緒に乗り込もうとしていた他の皆も足を止める。
「登校日だって聞いたから、見送りに来た」
皆の制服姿も久しぶりに見る。
「いつも迎えに来てもらってばっかりだからさ。たまには見送りたくて」
「あ、ありがとう」
「さすが彼氏さんは優しいわねー」
「本当ですね」
藍と蒼は元々そっくりだから、同じ制服を着るとますます似てる。
「ところで藍、いつもと髪型変えてるのはわざとか?」
「はい。通学スタイルってやつです」
藍は蒼と同じように髪をトンボ玉付きの紐で結ってる。トンボ玉の位置が反対なの以外は蒼とほとんど同じ。まるで鏡写しだ。
「藍のやつ、学校ではいい子ぶってるからな……いてててっ!」
「天善ちゃん、聞こえてますよ?」
思いっきり足を踏まれてる。痛そうだ。
「それにしても、男の制服は初めて見たな」
「暑っ苦しいったらないぜ」
「そりゃ、普段の良一の格好からしたらな」
「でも、制服姿はかっこいいです」
「お? そっか? ありがとな、夏海ちゃん!」
「良一、勘違いするな。夏海ちゃんは制服『が』かっこいいと言ったんだぞ?」
そう話す天善も制服姿だ。これも違和感しかない。
「天善さんは制服姿でもラケット持ってるんですね」
「ああ、卓球部だからな」
「天善くんは、制服のまま素振りをするから、よく袖やわきが破れるの」
「もっと伸縮性に富んだ制服にして欲しいものだ。おちおち制服で卓球もできない」
「いや、普通は制服で卓球しないから」
『宇都港行き、間もなく出港いたします。お乗りの方はお急ぎください』
和気藹々とおしゃべりをしていると、出港を告げるアナウンス。
「おっと。皆、急げ」
「おう、それじゃあな、羽依里!」
「皆、行ってらっしゃい」
「頑張ってきてくださーい!」
「また後でね!」
「羽依里さん、わたし達が帰ってくるまで、暇しててください」
のみきの声を合図に、皆が次々とタラップを渡っていく。
最後にしろはがタラップを渡りかけて、止まる。
「二人とも、見送りに来てくれてありがとう」
「……これまで何回も見送ってもらったけど、俺が港側に立ってるのは初めてだよな」
「あは、本当だね」
皆はただの登校日で、半日島を離れるだけのはずなのに……妙に感傷深いものがある。
港で別れる時は、いつも長い別れになっていたせいかな。
「……大丈夫だよ。15時の船で戻ってくるから」
顔に出てしまっていたのか、しろはが笑顔で安心させるように言ってくれる。
「ああ、待ってる」
「それじゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
……結局、船が島から離れるまで、ずっと見送っていた。
皆を見送った後、加藤家に戻って今日の分の宿題をやる。
結構長い間集中してやったはずなのに、時計はまだ10時にもなっていなかった。
「……夏海ちゃん、駄菓子屋に行かない?」
「はい! 行きましょう!」
夏海ちゃんと二人で暇を持て余していたので、できるだけゆっくり歩いて駄菓子屋へ向かった。
「……いらっしゃい」
店にはおばーちゃんが一人。
いつものようにかき氷を注文して、いつものお約束をやって、ベンチに座って食べる。
「なんか……いつもみたいに美味しくないね」
「はい……」
でも、いつもほど美味しく感じなかった。
「おばーちゃん、ごちそうさま」
かき氷を食べ終わり、また二人でぶらぶらと当てもなく歩く。
……気がつけば、皆を見送った港に戻ってきていた。
皆が帰ってくるまで、まだまだ時間があるのに。俺ってこんなに寂しがり屋だったっけ。
夏海ちゃんと二人、何をするでもなく日陰に座り、今しがた出港した船をぼーっと眺めていた。
「……あら、パイリ君に夏海ちゃん」
「え?」
声のした方を見ると、いつの間にか静久の姿があった。
「静久さん、いつからそこにいたんですか?」
夏海ちゃんが驚きの声を上げる。
「え? 今の船で来たのよ?」
「そっか。静久は島の人間じゃないから、登校日は関係ないんだったな」
「そう。二人と同じね。それに大学生だし」
しろは達のように島から出る人のことばかり考えていたけど、静久みたいに本土から来る人もいるわけだ。
「でも静久、今日はせっかく島に来ても、紬に会えないな」
「え? 今日は紬の手伝いに来たのよ? ちょっと遅くなっちゃったけど」
「でも紬、今日は登校日じゃ……」
そう言いかけて、紬が皆と一緒の船に乗ってなかったことに気がつく。
「紬、今日は屋台を出すから学校をサボったんですって」
「え、サボりですか?」
「そう、サボりよ。紬、不良なの」
どこまで本気かわからないが、とりあえず紬は島にいるらしい。
「ところで紬、どこにお店出してるのかしら。港だって聞いたんだけど」
その様子だと、静久も詳しい場所は知らないみたいだ。
「うーん……」
俺も思い当たる場所はない。三人で途方に暮れていると……。
「むーぎーぎーぎー……」
潮風に乗って、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あの声、紬さんじゃないですか?」
声のした方に行ってみると、昨日のお好み焼き屋台と同じ場所に、また違った形の屋台が出ていた。
その中で、むぎむぎと唸っている紬がいた。
「おーい、紬―」
「むぎゅ?」
「あ、タカハラさんにシズク! それにナツミさんです!」
ぱっと顔を上げ、こっちに走ってきた。
「学校サボってる人、発見ね」
「むぎゅ! シズク、人聞きが悪いです!」
「それより紬、この屋台はなんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! これはワタアメ屋さんです!」
太陽に負けない笑顔で屋台を指し示す。
「あれ……?」
ワタアメ屋の屋台にしては、何か違和感がある。妙に寂しい。
そうか。よく祭りとかで見るワタアメ屋は、ペケモンやらだんご大家族やらのキャラクターがプリントされた袋にワタアメを詰めて、それを店の周りにぶら下げて広告みたいにして売っているんだ。
この屋台には、そういったものがない。
「実は、朝からここでワタアメを売っていたのですが……まったく売れないのです」
紬はその手に真っ白いワタアメを持っていた。
「この手の店はキャラクターの袋がぶら下がってないと、寂しさが強調されるだけだもんな」
「そですね……」
今の状況だと、ぶっちゃけ営業しているのかも怪しいレベルだ。
「紬、ワタアメを入れる袋のようなものは用意してないのか?」
「ありません!」
胸を張って言い切った。
「袋とか見た目の可愛さより、しっかりと中身で勝負しようと思いまして!」
心構えは立派だが、紬が手に持っているのはどこにでもある普通のワタアメだ。
しかも、午前中の船はさっき静久が乗ってきた便が最後。正直言って商売のタイミングを完全に逃してしまったようだ。
「ごめんね紬。私がもう少し早くこれを持って来ていたら、売り上げも変わっていたかもしれないのに」
そう言って静久がカバンから取り出したのは、箱に入ったカラフルな飴のようなもの。
「なんですかそれ」
「ザラメよ」
「ザラメって、ワタアメの材料だよな? こんなカラフルなのがあるのか」
「はい! 白が普通のワタアメ、ピンクがイチゴ味、黄色がレモン味、緑がメロン味です!」
「まるでかき氷だな……」
「本土で買ってきたんだけど、なかなか見つからなくてね。おかげで朝の船に乗り遅れちゃったのよ」
あー、それであんな中途半端な時間に港にいたのか。
「せっかくだし紬、ひとつ作ってみたらどう?」
「はい! ナツミさん、何味が良いですか?」
「え、えーっと……それじゃ、イチゴで」
「はい! おまかせください!」
商売のタイミングは逃してしまったが、紬のお手並み拝見といこう。
紬は機械を数分温めてから、中央の回転皿にピンク色のザラメをゆっくりと入れる。すると周囲に甘い香りが漂ってくる。
「わあ、イチゴの匂いです!」
「♪~♪~♪~」
次に、わりばしを上下に動かしながら、くるくるとワタアメを作っていく。紬は鼻歌交じり。慣れたもんだ。
「へえ、うまいもんだな」
「しゅぎょーしましたので!」
「紬、ワタアメ作るの上手なのよ」
「はい、完成です!」
紬が作ったのは、ふわふわでまんまるなピンク色のワタアメ。とってもおいしそうだ。
ちょうどザラメ一袋で一人前のワタアメが作れるようになっているみたいだ。
「ナツミさん、どうぞ!」
紬ができたてのワタアメを夏海ちゃんに手渡す。
「あ、お金払いますよ」
「いえ、お代は結構です!」
「え、でも……」
「シズクのザラメを使ったワタアメの、試食ということで!」
「次のお客さんから、お代をいただくことにします!」
「というわけでナツミさん、どうぞ! ぐっといっちゃってください!」
「い、いただきます」
夏海ちゃんは紬に気圧されるようにワタアメを受け取り、ちぎって口に運ぶ。
「あ、美味しいです! 皆さんも食べてみてください!」
「それじゃ、遠慮なく」
俺たちもイチゴ味のワタアメを少しずつ摘ませてもらう。
……おお、まるで練乳イチゴのかき氷を食べているみたいだ。
「……あれ、皆で何やってるの?」
その時、いつものようにスーツケースを引きながら鴎がやってきた。暑いからだろう、今日は白い日傘をさしている。
「あ、カモメさん! 今日はワタアメ屋さんをやっているのです!」
「おお、わたあめ! ひとつくださいなー」
思わぬタイミングで一つ売れた。
「はい、100円です! 何味にしますか?」
「え、わたあめに味とかあるの?」
「はい! 白が普通のワタアメ、ピンクがイチゴ味、黄色がレモン味、緑がメロン味です!」
「じゃあ、メロン味ください!」
「はい! 少々お待ちください!」
紬がぐるぐるーと割り箸を回して、あっという間にワタアメを完成させる。
「はい! どうぞ!」
「ありがとう」
「なぁ鴎、お前メロン好きなのか?」
「え、なんで」
「駄菓子屋でメロンバー食べてたり、かき氷もメロン味食べてたからさ」
「そういえばそうだっけ。特に考えてなかったよ」
鴎はいつものようにスーツケースに座り、にこにこ顔でメロン味のワタアメを食べる。
「おお、本当にメロンだ! おいしーい!」
幸せそうなやつだなぁ。
「そういえば駄菓子屋さん行ったんだけど、おばーちゃんしかいなかったよ」
「ああ、藍と蒼がいないのは登校日だからだ」
「え、この島に登校日なんてあるの?」
「いや、あるだろ登校日くらい」
「ずっと夏休みなんだと思ってた」
「まぁ、他所から来てる俺たちからすれば、そんなイメージがあるけど。ちゃんと登校していったぞ」
「むぎっ」
「皆マジメだねー。私だったらサボっちゃうかも」
「むぎぎっ」
「そうよね。せっかくの夏休みなんだもの。登校日なんてサボりたくもなるわよね」
「むぎぎぎっ」
屋台の中で紬が精神的ダメージを受けている。
「うう、皆がイジメます……」
結局、お昼前まで紬で遊んだり、色々と喋りながら粘ってみたが、お客はほとんど来なかった。
「まぁ、船も来ないんじゃどうしようもないよな」
「紬、今日は残念だったわね」
「また別の機会に頑張ってみます。幸い、ザラメは保存がききますので!」
「そっか。そういう考えもあるね」
「……次はかわいいキャラクターの袋も用意します」
「うん、そっちもあると売り上げアップに貢献すると思うよ」
俺も次の機会にはペケモンの着ぐるみを用意しておこう……昨日しろはが洗濯しちゃったから、今日は着れないし。
その後はお腹も空いたので、昼食をとりに加藤家に戻ることにした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
昼食は大きなお揚げの入った、きつねうどんだった。カップうどんだけど。
「美味しいですねぇ」
「うん」
このしっかりおつゆを吸ったお揚げのジューシーさが堪らない。
昼食を済ませた後は、また暇になってしまう。
でも、皆が戻ってくるまではまだ時間がある。
「やばい、暇だ……」
未だかつて、この島でここまで退屈を感じたことがあっただろうか。
「皆、早く帰ってきてくれ……」
何をしようか悩んだ結果、部屋で荷物整理をすることにした。
「えーっと、これはこっちで……」
あまり着ない服とか本とか、畳の上に広げて整理をする。
「鷹原さん、何してるんですか?」
そこに夏海ちゃんがやってきた。
「一度、荷物の整理をしっかりしておこうと思って」
「大変ですね」
夏海ちゃんが床に散らばっている本を見る。
「なんですかこれ」
「あ」
「『恐怖のインカ文明』、『ライオン島の惨劇』、『優しい料理入門』、『釣りビギナー』、『卓球王国』」
趣味のオカルト本の他に、後半は最近勉強してる料理や釣りの本だ。
「えーっとその、色々と勉強しないといけなくてさ」
「……鷹原さんも大変ですね」
何とも言えない目で見られてしまった。
「あれっ、これって」
夏海ちゃんの視線が、鞄から出しっぱなしになっていたMDの所で止まる。
「MDだよ。この島に来て、全然使ってなかったけど」
島に着くまでの旅路の間、使ったくらいだ。
「使っていないなら、少し借りてもいいですか?」
「え、いいけど」
「ありがとうございます」
なんだろう。音楽に興味あるのかな。
夏海ちゃんがMDを持って去っていったので、俺は荷物整理を再開した。
それも30分程で終わってしまい、きれいになった部屋で横になる。
すると、午前中歩き回っていたせいか、急に眠気が襲ってくる。
お腹も膨れているし、畳の感触は最高だ。眠気に抗えるはずもなく、俺は眠りに落ちてしまう。
「すぅー……。すぅー……」
「……里!」
「おい、いないのか!」
うーん。誰か来たのかな……。
「はーい!」
あ、夏海ちゃんが出てくれたみたいだ。それなら、いいか……。
半分眠った頭で、その会話に耳を傾ける。
「……む。誰だ、お前は」
「まぁいい。羽依里に、この魚を食堂に持って行くように伝えてくれ」
「食堂って、しろはさんの食堂ですか?」
「そうだ。しろはを知っているのか」
「はい」
「お前、名前は?」
「岬 夏海といいます」
「夏海か。わしは鳴瀬小鳩。しろはの祖父だ」
「それじゃ、頼んだぞ」
「あの、こばとおじーさん!」
「おじ……なんだ?」
「しろはさんのおじーさんなら、直接持って行ってあげた方が、しろはさんも喜ぶと思いますよ!」
「む……そういうものか?」
「はい! そういうものです!」
「なら、直接持って行くとしよう」
「……ところでお前、子供のくせにわしが恐くないのか」
「お孫さんに魚を持って来てくれる人が、恐いわけないじゃないですか」
「ふっ……そうか」
……玄関の閉まる音がした。
「あの、鷹原さーん……って、寝てる……」
「もしもーし!」
ゆさゆさと体をゆすられて、完全に目が覚める。
「……あ、ごめん。居眠りしちゃったみたい」
「しろはさんのおじーさんが来てましたよ」
「何の用事だったの?」
「魚を持ってきてくれたんですけど、鷹原さんが寝てるって言ったら、自分で食堂に持って行くって言ってました」
「そっか」
夢半分で二人の会話はよく覚えてないけど、夏海ちゃんはしろはのじーさんが恐くなかったんだろうか。
その後、ようやく皆が帰ってくる時間になったので、夏海ちゃんと一緒に港に皆を迎えに行く。
丁度船が到着した所で、皆が船から降りて来るのが見えた。
「皆、おかえり」
「おう、羽依里……」
「ただいまー……」
……うわ、なんか皆生気を吸われたような顔になってる。
「人混みに酔った……」
「猫かぶるのって、疲れますね」
空門姉妹も揃ってげんなりしている。
「しろはもおかえり」
「ただいま、羽依里」
「しろはは元気だよなー」
「そりゃそうでしょ。帰ったら彼氏が待ってくれてるんだもん」
「よ、よしてくれ」
帰って来るや否や、皆におちょくられる。けど、やっぱりこの空気が心地いい。
「よーし! 俺も元気を出すぞ! 午前中の分も遊ぶんだ! パーーーーージ!」
どうやって脱いだのか、一瞬で上半身裸になる良一。
「……今すぐに服を着ろ。さもないと、午後からは寝て過ごすことになるぞ?」
次の瞬間、のみきがハイドログラディエーター改を構えていた。朝は持っていなかったから、港のどこかに置いていたのだろう。
「待て待て待て!」
急いで制服の上着だけ羽織る。
「良一……いくら浮かれていたとはいえ、のみきの目の前で裸になるとはな。自殺行為だぞ」
そういう天善は船から降りた時から卓球フォームだった。
「船の時間まで体育館で卓球しているからな。学校が終わって、すぐに着替えたんだ」
「天善くん、船が出発するギリギリに駆け込んでくるから」
「直前まで卓球していたいんだ」
さすがは卓球馬鹿だ。
皆が揃ったところで、駄弁りながら歩き、ゆっくりと住宅地へ向かう。
「ところで羽依里と夏海ちゃんは、夜の外出は大丈夫か?」
「鏡子さんから許可が必要だけど、俺も同伴ならたぶん大丈夫だと思う」
「今夜なんだけど、皆で天体観測しない?」
「天体観測……ですか?」
「今日のイベントです」
なるほど。どうやら学校に行っている間、皆で考えてくれてたみたいだ。
「どこでやるんだ?」
「秘密基地だ」
「へぇ、あの辺で星が見えるのか?」
「秘密基地の山って、周りに明かりが全くないから。夜になると星がすごくきれいに見えるのよ」
確かに本土の光が見える浜辺よりは、綺麗に見えそうだ。
「あの、秘密基地ってなんですか?」
そういえば、夏海ちゃんは秘密基地に行ったことがなかったっけ。
「住宅地から南に行った山の中に、良一たちの秘密基地があるんだよ」
「天体望遠鏡もそこに用意してある」
良一が顎に手を当てながら、誇らしげに言う。
「天体望遠鏡……あの秘密基地、そんなものまであるのか」
「天体観測も楽しみですけど、秘密基地も見てみたいです」
「あー、あんまり期待しないほうがいいわよ……?」
「汚いし、教育に良くないかもしれませんね」
秘密基地、という響きに心躍らせている夏海ちゃんとは対照的に、実物を知ってる空門姉妹は不安そうな顔を隠さない。
「安心しろ。これから準備がてら、掃除をさせる」
のみきは満面の笑みで、水鉄砲を良一の背中に突き付けている。
「……な?」
「はい! 行きます! 掃除させてくださーい!」
「それじゃ、集合は夕食後でいいのか」
助けを求めるような良一の視線をあえて流し、話を進める。
「良いんじゃない? どうせしろは食堂でしょ? 迎えに行くわよ」
「悪い、助かるよ」
そこまで話をしたところで、ちょうど加藤家の前に到着した。皆に別れを告げて加藤家に入る。
居間に行くとちょうど鏡子さんが居たので、夜間外出の旨を伝える。
「天体観測に行くの?」
「はい、良一が天体望遠鏡持ってるそうで。山の秘密基地でなんですけど」
「了承(一秒)」
「わ、早い……」
「羽依里君がいるなら大丈夫だろうけど、あまり遅くならないうちに帰ってきてね」
「わかりました」
その後は天体観測の時間を考えて、いつもより少し早い時間に食堂に向かった。
「おーい、しろはー」
「あ、いらっしゃい」
「む、鷹原達も来たのか」
「おじゃましてまーす」
しろは食堂の扉を開けると、珍しく先客がいた。のみきと鴎だ。
結構早めに出たから、まさか先客がいるなんて思わなかった。
「鴎は昨日も会ったけど、のみきとここで会うのは初めてじゃないか?」
「のみきは常連さんだよ。最近は鴎と一緒によく来てるの」
「そうなのか?」
「うん。今は私、のみきさんの所に住んでるから」
「え、それどんな状況?」
前に港で別れたし、てっきり港のホテルに宿泊していると思ってた。
「最初は港のホテルに泊まってたんだけど……ほら、お金かかるし」
そりゃそうだろう。
「もっと安いところないかなーって、役所に相談に行ったら、のみきさんが泊めてくれることになったんだよ」
「そうなんですね」
「ああ。私の住んでいる建物は役所の元社員寮でな。部屋数だけはあるから、鴎にも使ってもらったんだ」
「そういうこと」
そして、昨日のみきだけ居なかったのは役所で寄合があったからだそうだ。さすが少年団団長の美希様はご多忙みたいだな。
「ところで羽依里、今日は珍しくおじーちゃんが直接魚を持ってきてくれたの」
「え、珍しいのか?」
「うん。いつも冷蔵庫に入ってたり、他の人が持って来てくれることが多いんだけど」
「じゃあ、今日の活け造り定食は期待していいのか?」
「うん。期待してくれていいよ。今日はそれにする?」
「ああ、それで頼むよ」
「私も活け造り定食でお願いします!」
「わかった。少し待っててね」
しろはが調理に取り掛かったタイミングで、のみきが小さな声でつぶやく。
「しかし……二人が活け作り定食だと、一人だけハンバーグ定食を食べている私が子供のようだな」
ちなみに、鴎の前には冷やし中華が置かれていた。
「いいじゃないか。しろはのハンバーグ、美味しいだろ」
「ああ、おかーさんの味みたいで、ほっぺが落ちそうだ」
「え?」
「あ、いや……美味しいぞ」
「そういえば羽依里達、この後天体観測に行くんでしょ? のみきさんに聞いたよ」
「ああ、せっかくだし鴎も行くか?」
「うん、行く!」
誘われたのが嬉しいのか、ニコニコ顔で眼前の冷やし中華にとりかかる。
キュウリやハムが乗っていて、涼しげでおいしそうだ。
「はい。お待たせ」
そんな鴎の様子を眺めていると、活け造り定食が完成したらしい。
俺達の前に、ご飯やみそ汁のセットと一緒に見慣れぬ刺身が出てきた。
「なんだこれ?」
「今日はキジハタだよ」
「キジハタ?」
「高級魚なんだよ。味わって食べてね」
「それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
さっそくキジハタの刺身を口に運ぶ。
どんな魚か想像もできないけど、白身魚特有の弾力のある身で、噛めば噛むほど甘味が溢れてくる。これは美味い。
「……ごちそうさま」
「ごちそうさまでした!」
とっても美味しかった。
「こばとおじーさんに、美味しかったって伝えてください!」
「あ、おじーちゃん知ってるんだ。うん。伝えておくね」
「こんばんわー」
夕食を終え、食後のお茶を飲んでいると……空門姉妹が迎えに来てくれた。
「あ、ちょうど食べ終わったみたいね。迎えに来たわよー」
「ポーン!」
店の外にはイナリの姿もあった。俺達も準備を整えて、一緒に食堂を出る。
ちなみに俺たち以外のお客さんもいなかったので、しろは食堂はそのまま閉店になる。自由な店だ。
その後は皆で並んで歩き、山の入り口に到着する。
「夏海ちゃんや鴎は山道に慣れてないだろうから、足元気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
山に入る前に、しっかりと並んで隊列を作ることに。
「先頭はあたしとイナリにお任せよ。イナリなら夜の山にも慣れてるから」
「出ないとは思いますが、野生動物と出会うこともあります。その時はイナリの出番ですね」
「ポン!」
胸を張っているが、このキツネがイノシシやシカと対等に渡り合える力があるとは思えない。
「本当に大丈夫か?」
「しんがりは私が勤めよう。いざとなれば援護射撃する」
のみきがハイドログラディエーター改を構えている。
「私はのみきさんの隣を歩くよ。いざとなったらスーツケースのスーちゃんが皆を守る!」
鴎がスーツケースをぽん、と叩く。
心強いような、気休めのような。いや、万が一の時は俺がスーツケースを振り回せば、武器になるかもしれない。
「それじゃ、出発するわよー」
「待った、良一たちは?」
「良一達は先に秘密基地で待っている。掃除が予想以上に時間がかかってな」
「あー……なるほど」
結局、蒼とイナリを先頭に、俺としろは、夏海ちゃんと藍が続き、最後尾にのみきと鴎という並びで山に入る。
「けっこう暗いな」
「そりゃあね。懐中電灯も持ってるから大丈夫よ」
「……はっ、もしかして羽依里、闇夜に便乗してあたしのお尻とか触ったりするつもりじゃ……!」
「安心してくれ。俺はずっとしろはの手を握ってるから」
「あーそーですかー! 好きなだけ握ってなさいよー!」
「ああ、そうする」
俺はしろはの手を握る。
しろはは一瞬驚いたようだったが、すぐに優しく握り返してくれた。
「夏海ちゃんはわたしとくっつきましょう」
「わぷっ」
そんな俺達の後ろで、夏海ちゃんが藍に捕まっていた。
ちなみに、藍の髪型はいつものストレートに戻っていた。ちょっと残念なような。
山道に入って少し進むと、うっそうと生い茂る木々によって周囲は完全な闇に包まれる。
蒼は用意していたらしい懐中電灯で先の道を照らしながら進んでいく。
虫の声は一層大きくなり、闇の中に無数の生き物の気配を感じる。大勢で分け入ったとはいえ、夜の山はやっぱり不気味だ。
「……」
夏海ちゃんも俺と同じ様な事を感じているのか、藍にしっかり寄り添ってる。
「うう、夜の山ってやっぱり不気味だね」
その更に後ろの方で鴎の声が聞こえる。心なしか、皆より距離がある気がする。
「鴎、そんな大きなスーツケース引っ張って登るの大変だろ。持ってやろうか?」
「え? 大丈夫だよ。ちょっと夜は冷えてるだけ」
冷えてる? なんだろう。スーツケースの滑車の話だろうか。
「皆すまない。少しだけ速度を落としてくれないか」
「わかった」
のみきの言葉をそのまま先頭の蒼に伝え、少し登る速度を緩める。
「ごめんね」
「きつかったら言ってくれ」
「ありがとう」
山道をしばらく進んでいると、木々の間に小さな明かりが見えた。
一瞬、もう秘密基地についたのかと思ったが、何か違う。
「なんだあれ」
木々の間を何か光るものが飛んでる。
「……蝶、か?」
「羽依里、どうしたの」
俺の変化に気づいたしろはが、声をかけてくれる。
「いや、蝶が飛んでてさ」
ひらひらと、光る蝶が飛んでいた。
「え? 何も見えないけど……夏海ちゃん、何か見えた?」
「いえ、そんな光る蝶なんて見てないです」
「そっか……」
俺は蝶が消えていった方に目を凝らす。うっそうとした森が広がるばかりで、何も見えない。
「気のせいだったのかな……」
変な感じだけど、俺以外の誰も見てないし。見間違いだろう。
俺は前方に視線を戻し、歩くことに集中する。
「……もしかして、見えてた?」
「え?」
呟くような声がして顔を上げると、蒼が肩越しに振り返って俺のほうを見ていた。
何か言われたような気がしたけど、よく聞き取れなかった。
「え? 何か言った?」
「……ううん。それより、もう秘密基地に着くわよ」
蒼が懐中電灯の光で指示した先には、小さな資材置き場を改造したような小屋があり、その小さな窓から明かりが漏れていた。
「良一、天善、入るわよー?」
「ポーン!」
先頭の蒼がひと声かけた後、扉を開ける。
「あ、いらっしゃいませー」
むき出しの丸電球の明かりに照らされて、両手にワタアメを持ったネコが立っていた。
「つ、紬、何やってるの……?」
若干引いてる蒼を押しのけて、しろはと一緒に秘密基地の中を覗く。
秘密基地の中には昼間のワタアメ機が持ち込まれていて、大量のワタアメが作られていた。
「せっかくなので、ワタアメパーティーをしてました」
小屋の中は甘い砂糖のにおいが充満している。
「まさか、紬に秘密基地を乗っ取られるとはな……」
「今なら脳みそもワタアメになりそうだぜ……ぐふ」
良一と天善が息も絶え絶えに横たわっている。口の周りがベタベタのテカテカだ。どうやら大量のワタアメを食わされて、あまりの甘さに卒倒してしまったらしい。
「はい。ウェルカムワタアメです!」
あっけにとられている俺達の手に、紬からワタアメが渡される。
「ウェルカムワタアメよー」
ウシの着ぐるみを着た静久もしれっと混ざっていた。
結局その場の雰囲気に流され、休憩がてら皆でワタアメを食べた。
夕飯を食べたばかりだと言うのに、甘いものは入ってしまうから不思議だ。
ちなみに夏海ちゃんは、秘密基地に置かれた卓球台やヨーヨー、ミニ四駆等のなつかしいおもちゃを不思議そうに見ていた。
「ったく、紬たちにしてやられたぜー」
復活した良一によると、掃除をほとんど終えた頃に突如として紬たちがワタアメ機を持って秘密基地に乱入し、あっという間に制圧されてしまったらしい。
まぁ、静久が居た時点で一人は戦力外だろうし、為す術ないよな。
休憩を終え、良一や天善、ウシとネコも加えて天体観測を始める。
秘密基地の前はそれなりのスペースがある上に、秘密基地の明かりを消せば辺りは真っ暗。天体観測をするにはうってつけだ。
「今夜はまた灯台に泊りね」
「はい! シズク、また一緒に寝ましょう!」
紬と静久はどこか嬉しそうに話している。
……しばらくして暗闇に目が慣れると、俺達の頭上には満天の星空が広がっていた。
「わぁ、すごいです!」
「本当だね」
都会ではまずここまでの星空は見れないだろうな。
「あそこに見えるのがデネブです。それにベガと、アルタイルを含めた三つを繋いで、夏の大三角と呼びます」
「教科書で習ったことあるでしょ?」
「はい!」
良一が天体望遠鏡をセッティングしている間、藍と蒼が夏海ちゃんに星座の説明をしてくれている。
「他に、あの赤く輝いて見える星がアンタレスです。あれを中心に構成されているのがさそり座ですね」
「その近くにあるのが、いて座よ。あのひしゃく形の星の並びを、南斗六星って言うの」
「なぁ、あの二人って星座にかなり詳しいんだけど、そういうの好きなのか?」
隣のしろはに聞いてみる。
「ううん。そういうイメージないけど」
もしかしたら、夏海ちゃんに教えるために勉強してくれたのかもしれない。
「夏海ちゃん、あそこに見えるのがこぎつね座です」
「イナリさんですね!」
「ポン?」
「あはは、違いないわね」
「星座に詳しいアオさん、パリングルス座はどこですか?」
「え? えーっと、さすがにその星座はないんじゃ……?」
「むぎゅ……とても残念です……」
紬は心底残念そうに星空を見上げている。
その後は天体望遠鏡の準備が終わり、皆で交代しながら月や土星を見る。
「夏海ちゃん、アルビレオも見てみてください。綺麗ですよ」
「アルビレオ?」
「はくちょう座のくちばしの辺りです。えーっとですね」
藍が天体望遠鏡を操作して位置を合わせてくれる。
「はい。どうぞ」
「わぁ……」
望遠鏡を覗き込んだ夏海ちゃんが歓喜の声を上げる。
「まるでしろはさんと鷹原さんみたいです」
「え、それどういうこと?」
「ほら、しろはさん、見てみてください」
「ど、どれ?」
夏海ちゃんに促されて、しろはが望遠鏡を覗く。
「……っ!?」
すぐに見るのをやめたと思ったら、無言で顔を伏せていた。暗くてわからなかったけど、真っ赤になってた気がする。
「ほら、今度は鷹原さんの番ですよ?」
夏海ちゃんの笑顔が恐いんだけど。
「え、どれ?」
俺も促されて望遠鏡を覗く。
目に飛び込んできた星は、パッと見だと一つの星に見えた。
でもよく見ると二つの星が近くで寄り添っていた。
一つは金色、もう一つは青色に輝いていて、すごくきれいだった。
「ね、お二人にそっくりじゃないですか?」
もの凄い笑顔で言われてしまった。
「か、からかわないで……」
俺としろはの顔は真っ赤になってたと思う。闇夜で本当に良かった。
「それにしても、本当に綺麗な星空です……皆さん、連れてきてくれて、ありがとうございました」
そう言って喜ぶ夏海ちゃんの瞳も、星空に負けないくらいキラキラと輝いていた気がした。
第七話・あとがき
おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
今回は登校日シナリオでした。原作中でも7/31は登校日でしたが、しろはが船に乗らなかったシーンと制服姿が多いというのが文章で書かれていただけでしたので、もっとがっつり書いてやろうと思って書きました。
日常と違うシーンなので、個人的に書いていて楽しかったです。いつか、学校での日常シーンとかも書いてみたいですね。
ワタアメの屋台ももう少し書きたかったのですが、夜に天体観測が控えていることを考えたらすごく長くなりそうだったので……紬ファンの皆さんすみません(汗
天体観測の時、秘密基地はようやく登場したという感じですね。なんだかんだで時間がかかってしまいました。
アルビレオは夏の星座について調べている時に偶然見つけました。それこそ、しろはと羽依里君にピッタリだと思って使わせてもらいました。
そしてちょっとだけストーリー絡めました。もちろん羽依里が見たのは七影蝶です。
■今回の紛れ込ませネタ
・だんご大家族
しれっと紛れ込ませていました。CLANNADより、かの有名なだんご大家族です。
実際にだんご大家族のパッケージに入ったワタアメとかあったら、買ってしまいそうですね。
・了承(一秒)
Kanonより。これまた有名な水瀬秋子さんの決め台詞(?)です。一見無理難題でも『了承』の一言で承諾してくれるのは嬉しいですよね。
・学校サボってる人、発見
わかる人にはわかるkanonのネタです。詳細は伏せさせてください。
以上になります。いくつお気づきになられたでしょうか。感想など頂けましたら、泣いて喜びます。