【TS】異世界 現地主人公モノ   作:まさきたま(サンキューカッス)

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25話

 なんだこの女。

 

 それが、メロ将軍の率直な感想だった。

 

「言うに事欠いて、敗北者だ!? 上等だ、野郎ぶっ殺してやる!!」

 

 むきー、という擬音が聞こえてきそうなほど激高している女剣士。生意気そうな女冒険者を煽っていたのに、釣れたのは良くわからない女剣士である。彼が困惑するのも無理はないだろう。

 

「……」

「……」

 

 呆れているのは、メロだけではない。その場で必死に暴言に耐えていた二人も、何故フラッチェが激怒して乱入したのかと混乱しきっている。

 

 お前は関係ないだろう、と。

 

「何が最強だ、自惚れやがって! オラ剣を抜け、私が叩き切ってやる!!」

「あー、別にお前を煽りたかったわけじゃないんだが。ふむ……」

 

 メロは呆れつつも、改めてその女剣士を見る。

 

 顔立ちは端整だ。激情に顔を歪めてはいるが、その眼差しはまっすぐで透明。話すだけで生真面目さが窺える語気。

 

 ありていに言えば、その乱入者は汚したくなるタイプの女剣士だった。

 

「……良いな! よし。僕とやりたいなら、お前から剣を抜け。そうなればお前は立派な暴徒だからな、僕が直々に鎮圧してやろう」

「上等じゃねぇか!」

「待って!! フラッチェさん、お願いですので落ち着いてください!! この人はいつものノリで喧嘩売っちゃダメな人です!!」

 

 咄嗟にメイが割って入るが、フラッチェに聞く耳はなさそうだ。頭に血が上りきっている、とはまさにこのことだろう。

 

「止めるなメイちゃん!! この男にだけは、思い知らせてやらないと気が済まない!!」

「将軍です!! この人、将軍なんです!! レックス様でも庇いきれませんって!」

「知ったことか! この勘違いしたアホに剣というものを分からせてやるんだ!!」

「どうした? 剣を抜かないのか? やはり腰抜けだな」

「むきー!!」

 

 メロの最後の挑発で、フラッチェはとうとう理性を失ってしまう。泣きそうな声で宥めるメイを振り切って、怒りのままに女剣士は剣を抜き放ってしまった。

 

 この瞬間、フラッチェの命運も決した。国の最高権力者に、正面切って敵対し剣を抜いたのだ。こうなれば誰であろうと、庇うことはできない。

 

「あ、あ、あ……フラッチェさんのバカー!」

「ほうら抜いたぞ、掛かってこい! 今すぐその首を飛ばしてやる!」

「あ……あっはっはっはっは!! 本当に抜いたぞ、コイツ。そうらお前ら囲め!!」

 

 その愚かな女剣士を見て、メロ将軍は機嫌が一気によくなった。

 

 犯罪者には何をしても、基本的にお咎めは無い。娼婦と違いどんなに過激な行為を要求しても、後々に問題にならないのだ。 

 

 しかも、料金は無料。タダで好き放題できる生真面目そうな女が、降ってわいてきたのだ。それは機嫌もよくなろう。

 

「なんだ? 部下に囲わせるのか? お前の方こそ、自分では戦えない腰抜けじゃないか!」

「お前が逃げないようにしただけさ。そんなにお望みなら、1対1で戦ってやってもいいぞ。お前ら、勝負に手を出すなよ。この女が逃げ出した時だけ捕まえろ」

「了解です」

 

 ニヤニヤと笑いながら、メロも腰元の剣に手をかける。

 

「よかったな女剣士。お前は幸運にも、本物の最強と剣を交えることができるんだ。その代償は、ちょっと高くつくけどね」

「最強だ? お前ごときが? 笑わせるな!」

 

 そして。二人の剣士が向かい合って、真っすぐに正面に対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あわわわ、ど、どうしましょう。レックス様に連絡しないと……」

「私はまだ土地勘が怪しいし。アジトまでひとっ走りお願いしたい、私がここに待機するし」

「そ、そうでしょうね。分かりました、でもナタルさんも絶対に挑発に乗っちゃダメですからね」

「私はあんなにアホじゃないし」

 

 その二人の剣士を囲む兵士の外周。

 

 黒魔導士は顔を青くしながら、頼れるリーダーレックスに助けを求めるべく走り出すのだした。何やら黙りこんでいるメイドを、その場に残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、問題だ女剣士。僕は剣士だろうか? 魔導士だろうか?」

 

 メロ将軍は機嫌よさげに、構えもとらぬままフラッチェに話しかけた。

 

「その手に握った得物は飾りとでも言いたいのか? お前は剣士だろう」

「半分正解。さ、好きに打ちこんできていいよ。初撃は譲ってあげる」

「ほう、ありがたいねぇ。……舐めるなぁ!!」

 

 その余裕ぶった将軍の挑発に乗り、フラッチェはまっすぐにメロに斬りかかった。それはお手本のように真っすぐな、正統な剣の一撃だ。

 

「……綺麗な剣だねぇ」

「死ねぇ!!」

 

 だが、本来フラッチェは自分から仕掛ける剣士ではない。いくら剣筋が美しかろうと、非力な女性の斬擊など脅威ではない。普段ならこんな事は絶対にしないのだが、挑発されて頭が煮だっているのだろう、馬鹿正直に女剣士は正面から突っ込んでいってしまった。

 

 金属音が鳴り響き、メロとフラッチェは正面から鍔迫り合いとなる。

 

「……冥界の炎、さまよえる魂魄、荒ぶる砂塵────」

「────詠唱っ!?」

 

 だが、メロからの反撃は剣によるものではなかった。

 

 鍔迫り合いを続けるメロの背後に、悠々と魔力を迸らせて大きな炎の塊が形成されていく。

 

「爆ぜろ鎮炎歌(レクイエム)!!」

 

 まずい、そう判断したフラッチェは即座に大きく飛び退いた。その直後、メロの眼前に大きな爆炎が燃え広がる。もしも飛びのくのが遅ければ、今の攻撃で気を失っていただろう。

 

「おお! 凄いね、よくかわした」

「……お前! 魔導士か!」

「半分正解。言っただろう? 僕は剣士でも正解だと」

 

 カチャリ、と。メロは再び剣を地面と水平に構える。その口元を、静かに動かしながら。

 

「剣を振れど、最強。魔法を唱えれど、最強。それが僕、白光のメロだ」

「魔法剣士────」

「まぁ、剣だけで相手してやってもいいんだけど。今日は機嫌がいいからサービスだ」

 

 そのメロの言葉が言い終わらぬうちに、彼の頭上に大きな白炎が浮かび上がる。その炎は、ゆっくりとフラッチェに向かって進みだした。

 

「全力で相手をしてあげよう。最強を見せてやると、そういう約束だからね」

「面倒な!」

 

 その炎の魔法から身をかわし、跳躍した刹那。正面に現れたメロに斬りつけられ、フラッチェは再び吹き飛ばされた。

 

 魔導師が自ら剣を纏い、詠唱の時間を稼ぐ。それは理論上、この世で最も強い戦法。

 

 白光のメロは、決して自惚れただけの男ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────最強。メロは、その言葉は自分の為だけに存在する言葉だと信じて疑わない。

 

 彼は才能の塊だった。剣を振ったら、軍のどんな精鋭であろうと敵わない。魔力は底無しで、どんな呪文も使いこなせる。そして剣で戦闘しながら魔法も同時に使えるほどの器用さも有った。

 

 全てにおいて、最高水準。何もかもが出来て、何もかもがその頂点。それが、メロの自負である。

 

 剣の腕だってそうだ。彼はレックスの様に、生涯の全てを剣にかけてきた訳ではない。

 

 魔法を習う片手間、適当に素振りをしながら独自の剣術を組み上げていった。魔法を使う事を前提とした、魔法の隙を埋める神速の剣術。それだけで、彼は軍のあらゆる剣士を打倒して見せた。

 

 その剣速は、レックスの比ではない。いや、この世界のどんな人間であろうと、彼の剣についていける者は居ない。

 

 彼は、間違いなく最速の剣士だ。自らの魔法により、常人には真似できないほどの速度へ強化されているから。

 

「初擊を外したのが痛かったねぇ! あれが君の、最後の勝機だったのに!」

 

 並の剣速では、反撃が間に合わない。いや、反撃どころか次の防御すら難しい。尋常ではない反応速度で彼の剣を受け止めたとしても、その剣の衝撃が身体から抜ける頃には次の斬擊が迫ってきているのだ。

 

 レックスの様に、彼の斬擊に威力は必要ない。彼は、魔法と言う超火力をも持っているのだ。だから彼は、速さを求めた。

 

「鎮炎歌っ!!」

「……っ!」

 

 魔法による不意打ちも忘れない。広範囲を凪ぎ払うその魔法をかわせば、その瞬間に隙が出来る。

 

「さて。これは受けられるかな?」

 

 爆風と衝撃をモロに受けた女剣士がフラつく。だがフラッチェはかろうじて爆炎を避ける事が出来ており、その身に火傷はない。

 

 その一瞬の隙を狙って、メロは正面から彼女に斬り込んだ。

 

「……ふーん、これも避けるか」

 

 その一撃は、空振りに終わる。

 

 真っ直ぐな瞳の女剣士の頬を、メロの黒剣が薄皮一枚舐めるように通過して。正中を軸に身体を半回転させ、間一髪フラッチェはその剣を回避していた。

 

「……ぜぇ、……ぜぇ」

「息が上がってきてるよ、大丈夫? もう降参しとく?」 

 

 だが、決して彼女は無傷ではない。小さな刀傷が身体の至るところに出来ているし、体力も限界なのか足取りも覚束ない。

 

「舐めるな。もうお前の剣なんぞ見切ってるんだよ、これから逆襲して私の勝ちだ!」

「へぇ、そりゃ凄い」

 

 これだけの実力差を見せてなお、女剣士は覇気を失っていなかった。汗だくの身体とは裏腹に、目は爛々と闘志に燃えている。

 

 これは、壊しがいがある女だ。メロは益々、上機嫌となった。

 

「そんじゃ、頑張ってねー」

「っ!!」

 

 メロは、再びその剣士にと斬りかかった。今度はもう少し、速度を上げて。そのまま皮を剥ぐように、少女の服を切り刻むべく。

 

 この女剣士はどこまでの速度に反応出来るのか。メロは玩具の耐久性を調べるかの様な感覚で、フラッチェへと肉迫する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの娘、すげぇ……」

 

 その尋常ではない剣術の極致を見て、メロに追従していた兵士は感嘆した。

 

 反応できていること事態があり得ない、神速のメロの剣。それを年端もいかぬ少女が受け続けているばかりか、未だに致命の一撃が当たっていない。

 

 明らかに、冒険者のレベルを超えている。軍に所属したら今すぐにでも将軍に推挙されてもおかしくない、それは剣と言う道の頂点だと感じた。

 

 

 だからこそ、兵士は残念でならない。

 

 

 剣の極致だけでは、あの傍若無人たるメロを打倒することは出来ない。剣を極め、魔法を極め、それでやっとメロと対等なのだ。

 

 才能の化け物、生まれもっての勝者、帝国最強の男。そんなメロが相手でさえ無ければ、きっとこの少女が勝利を収めていただろう。

 

 勿体ない事この上ない、これ程の才気溢れる少女が将軍の性奴隷に堕ちるとは。何だったら一命を賭して、この少女を助けて貰えるよう嘆願しても良いかもしれない。

 

 メロの様に欲望に溺れず、まともな感性を維持している兵士は心底残念そうに女剣士を見つめていた。自分や家族の生活と、その少女の将来性を天秤にかけながら。

 

 

 

 ────将軍の剣速が、また上がる。やがて少女の薄皮が捲れ、たらりと皮膚に血が流れる。

 

 

 

 

 だが、致命の一撃は入らない。少女は上がったメロの速度に必死で食らいついている。

 

 全身切り傷まみれ、血をタラタラ撒き散らし、少女はたった一人で怪物と相対していた。

 

 負けるな。その兵士は、心の奥底で少女を応援する。自分達の長が狂っている事は承知の上、この男が居ないと帝国が立ち行かないから付き従っているだけ。

 

 目の前の健気な少女を凌辱したい、なんてふざけた欲望なんぞ持てない。なんとか助けてやりたい、と言うのが心情だ。

 

 だが、現実は非情である。またメロの速度が上がり、少女の腕に深い切り傷が走った。

 

 今までで一番深い傷跡だ。回復魔法を使っても、少し痕が残ってしまうかもしれない。それはつまり、少女の受けも限界に達しているという証拠。

 

 女剣士はきっと、次のメロの速度にはついてこれない。

 

「どうしたよ。そろそろ流石に限界か?」

 

 そんな少女を嘲る声が、残像すら残らぬ速度で駆け続けるメロから発される。

 

 前方から振り下ろされた剣を受け流し、振り向いて背後から来る横薙ぎの一撃を避け、横っ飛びしながら真っ直ぐ突かれた刺擊を剣の背に斬擊を滑らせた。

 

 少女はメロの暴風の様な連擊を、奇跡のような受け筋で耐えている。見るものを魅了するかの様な、美しい受け筋。

 

「じゃ、そろそろ終わりにしよう」

 

 その芸術の様な剣技を壊してしまいたい。メロは遊ぶのを止め、とうとう本気の速度で少女を切り刻むことにした────

 

 

 

 

 

 

 ────斬。

 

 まだ、少女の体幹は切られない。代わりに少女の服が刻まれ、その体躯が露となった。

 

 

 ────斬。

 

 少女の髪が、僅かに舞う。まるで嵐に舞う木の葉の如く、少女はメロの斬擊に蹂躙され揺れ動く。

 

 

 ────斬。

 

 本気のメロの速度は、目で追うことすら難しい。周囲の兵士の目に映るのは結果のみ。それは少しずつ切り刻まれていく、少女の体躯だけだ。

 

 

 ────斬。

 

 メロ将軍も意地が悪い。まだ、少女をいたぶり足りないらしい。これだけの濃い斬擊の中だというのに、未だに少女は決定打を貰えず苛められ続けている。

 

 

 ────斬。

 

 だが少女剣士の動きに見とれ、注意深く注意深く見守り続けていた兵士は気付いた。外野からは目で追うことすら出来ないメロの攻撃を、少女だけはきっちりと追い続けている。

 

 

────斬。

 

 メロは決して彼女をいたぶっているのではない。ただ、未だに当てることが出来ないのだ。少女を圧倒する凄まじい速度で動きながら、冗談みたいにゆらゆら揺れるその少女を捉えることが出来ない。

 

 体表を切りつける、それがメロに出来る限界。その体幹のど真ん中を切りつけても、何故か綺麗に受け流されて避けられる。

 

 人を切っている感触ではない。人と戦っている手応えではない。メロは女剣士と戦っているのに、相手がそこにいると確信出来ない。

 

 そう、まるでそれは()()()()()()()()()()()────

 

 

 

 

 

 

 

「……うあっ!?」

 

 いくら速度を上げても少女を捉えられぬ事実に、焦ったのだろう。

 

 メロは、少し無理をした。いつも鍛練している速度を超え、更に速度を上げてしまおうとした。

 

 動きが速くなれば速くなるほど、メロの負担も増えるのだ。バランスの維持や方向の切り替え、肉体強化魔法の制御に斬擊の組み合わせ、それらを思考する時間がドンドン減ってくる。

 

 その結果。少し無理をしたメロは、飛び込みの後の着地の際にバランスを崩し。どさ、と思わず尻餅をついてしまった。

 

「……」

 

 メロの顔が、羞恥と憤怒で染まる。最強を自負する自分が、情けなく尻餅をつかされてしまったのだ。自分より年下の少女剣士を仕留めるために。

 

 誰のせいで恥を掻いた? 誰が原因で自分は地べたに座り込んでいる? それは、目の前の小柄で空気みたいな剣の女────

 

 

 

「なあ」

 

 メロの顔から余裕が消えて。自らのミスでついてしまった尻餅を、女のせいだと激昂し。今度こそ地獄を見せてやる、手足を切り落として達磨にしてやる、そう固く決意し頭を上げて────

 

「いつになったら、最強とやらを見せてくれるんだ?」

 

 メロは自らのその鼻先に、安いボロボロの小さな剣が突き付けられているのに気が付いた。

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