【TS】異世界 現地主人公モノ   作:まさきたま(サンキューカッス)

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26話

「おい……何だよこれ」

 

 場が凍りつく。

 

 神域に達したかの様な、その繊細で重厚な剣技を持つ少女は。その場の誰もが最強だと疑ってかからなかった将軍メロの、その鼻先に剣を突きつけ見下ろしている。全身を血で濡らし、悪鬼修羅の如く。

 

 その、異常な光景に周囲の兵士は固まって動けない。本来ならばすぐ助けにはいるべきなのだろうが、その結末の衝撃の余り硬直してしまったのだ。

 

 メロ将軍が敗北した。それも、年端のいかぬ少女剣士に。

 

「ふっ、それともやり直しが良いか? 今のは足を滑らしただけだ、本来ならば自分が勝っていた。そう言いたいのであれば、また仕切り直してやっても構わんぞ?」

「……当たり前だ!! これは地面がぬかるんでいただけで、僕の敗北ではない! だと言うのに何故、貴様は勝ち誇った顔をしている!」

「自らの速度を律しきれない時点で、もう結果は見てたからな。今のがお前の全速力なのだろう? ならば何度やっても結果は同じだ」

 

 醜く敗北を認めず騒ぐ、自称最強。彼は再び剣を取り、少女へと斬りかかった。

 

 それも、最初から全力である。

 

「……赤子だな」

「何がだ!!」

「赤子を相手に闘っている気分だ。それも、無駄にデカくて可愛げのない赤子」

 

 だが、やはり彼の剣は少女を捉えることが出来ない。ゆらり、ゆらりと風に舞う葉の如く、少女は斬擊を避けていなす。

 

 そこには、最早余裕すら感じられた。

 

「お前のは剣術じゃないんだよ。ただ、赤子が癇癪混じりに棒切れを振り回してるだけだ」

「バカを言うな、僕は……」

「確かに、速度は凄まじいな。でも、狙いが分かりやすすぎる。これからどこを切るか教えながら闘っているようなもんだ」

「違う、そんな訳がない」

「自慢のスピードが泣いてるぞ。予告した通りに斬り続けたら、そりゃ当たるはずがないだろう」

 

 少女はにこやかに笑い、そしておもむろに剣を宙に突きつける。すると、そこにメロがビタリと停止した。

 

 そしてメロのその首筋には、停止した剣が押し当てられている。

 

「もう見切ったんだよ。いい加減、負けを認めたらどうだ」

「……っ!!」

 

 そう。勝敗は、もう既に決したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 めっちゃめっちゃキツい。それが、正直な俺の感想だった。

 

「そんな……僕の剣は、魔法は、最強で」

「馬鹿言え。少し剣術を修めたものなら、貴様程度楽に倒せる。自惚れもその辺にしておけ」

 

 いいからとっとと心折れてくれよメロ、もうマジ無理だから。

 

 ────体力は、とっくに底をついている。体はミシミシと不快な音を立てているし、剣先はかすかに震えている。今は意地と気力だけで立っているけれど、油断したらバタリと行きそうだ。

 

 あー、俺はアホなのかもしれない。何であんな分かりやすい挑発に乗せられてしまったのか。いつもこれで後悔しているじゃないか。

 

 どうせコイツの腕も大したことないだろう、よくいる自分が強いと勘違いした貴族上がり。そう考えて喧嘩を売ってみれば、馬鹿みたいに強いでやんの。

 

 何だよこの速度。レックスより速いってどういう事だよ。

 

「認めない……、認めない! 僕は負けてなんかいない!!」

「まだやるのか……」

 

 え、まだ来るの? 必死のハッタリで余裕見せてるだけで、もう息をするのもつらいんだが。

 

 でも、コイツ本当に来そうだ。くそ、動け俺の身体。

 

 俺は、いつもと違って馬鹿みたいに重たい細剣を中段に構え、クールに笑みを浮かべた。ほら、俺はこんなに余裕があるぞ。何度やってもお前じゃ勝てないぞ。

 

 さぁ、負けを認めるんだ。負けを認めさせるまで、剣を動かし続けるんだ。そうじゃなきゃ、俺がここまで頑張った意味がない────

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。その喧嘩、こっから先は俺様が預かった」

「な、何だ?」

 

 何とか俺が構えを取った、その直後。聞き覚えのある声のムカつく男が、俺とメロの間に大剣を突き立てて割り込んできた。

 

「俺様はギルド指定冒険者レックス。街中で暴れている奴らが居ると聞いて来てみれば、まさか下手人は身内と国軍とはな」

 

 ああ。何だ、コイツも来やがったのか。助かったような、また借りを作ってしまって悔しいような。

 

「よう、メロ将軍。久しぶり」

「レックス……! 何の真似だ!」

 

 そう。フラフラの俺の前に現れたのは、自信満々の笑顔で笑う「本物の最強」。我らがリーダー、レックスだった。

 

 

「どけ……! お前も忌々しいが、今はそこの生意気なメスガキに用があるんだ! お前の相手をしている時間はない!」

「そういう訳にはいかん。コイツは俺様のパーティメンバーなんで、誰かに迷惑かけたなら俺様が出張らないといけねぇ」

「引っ込んでいろ腰抜け! 僕との勝負を逃げたくせに、今更関わってくるな!」

 

 メロは冷静さを欠いたまま、俺に向けて咆吼している。うひぃ、そろそろ負けを認めてくれよ。もう俺の勝ちでいいじゃん。

 

「いやぁ、まずは謝罪するぜ。俺様の仲間が、お前さんの顔を潰して悪かったな」

「謝って済む話か! そこの女は生き地獄を味わってもらわないと気がすまない!」

「本当だよなぁ。お前さんも帝国軍の泊をつけるため、必死で『最強だ』と吹聴してまわってたのに」

 

 レックスはそう言って快活に笑いながら、おもむろに俺の後頭を掴んだ。

 

「ん? レックス、何だ?」

「俺様な、国王から頼まれてたの。メロと勝負しないでくれって。たかが冒険者が帝国軍最強の男をボコボコにしたら、士気に関わるだろ?」

「あ、そうなんだ」

「だと言うのに……何やってんだこのおバカ!!」

 

 ────そして、そのまま。レックスは、俺の頭を地面に叩きつけたのだった。

 

「あ痛ぁーっ!!?」

「とまぁ、これで手打ちにしてくれや。実は最強じゃないのを、公衆の面前で暴いて申し訳なかったなメロ」

「……馬鹿にしているのかレックス」

「してねえよ、してねえ。本当に悪いと思ってるんだぜ?」

 

 痛い。油断してた、この野郎何するんだ。ぐぬぬ、頭がジンジンする。馬鹿になったらどうしよう。

 

「ウチの剣士が、お前に勝っちまって申し訳ないなぁと」

「……っ!!」

 

 メロの当たらない斬撃より、叩きつけられたレックスの一撃が今日一番痛かった。まーだ頭がクラクラしてやがる。

 

「まだ僕は負けてなんか!」

「周りを見ろよ。誰一人、勝負がついていないなんて思っちゃいない。尻餅をついて、剣を突きつけられ。斬撃の狭間に、首筋に剣を添えられ。実戦であれば、お前は二回も死んだ訳だな」

「偶然だ、まぐれだ!」

「俺様にはそうは見えなかった。負けたんだよ、お前は。何だったら今、ちょっと斬りかかってこいよ。証拠を見せてやるから」

「レックスゥ!!!」

 

 まだ目がチカチカしている俺はレックスに恨みがましい目を向けると。小さく微笑んだ奴は、俺の首筋をヒョイとつまみ上げた。

 

「メイ、パス。早く服を着せてやってくれ、目に毒だ」

「どわぁ!」

 

 そして。なんとレックスは、この俺を囲んでいた兵士たちの外へ放り投げたではないか!!

 

 慌てて受け身を取ると、俺が墜落した先にはメイが頬を引きつらせて立っていた。

 

 投げるなら投げると言えや。いきなり数メートル投げ飛ばすとか、なんて乱暴な男なんだ!

 

「あ、あのお疲れ様ですフラッチェさん。レックス様、呼んできました……」

「む? あのレックス、メイが呼んで来たのか」

「あ、それと私のローブをどうぞ。今フラッチェさん、ほとんど全裸じゃないですか」

「あ、本当だ。でも、私が纏ったらそのローブ血で汚れちゃうぞ? 身体は手で隠すから別に構わん」

「いえ、後で洗うのでお気になさらず……。というか早く隠してください」

 

 戦闘直後だというのに投げ飛ばされてしまった可哀想な俺に、メイちゃんは労わるようにローブを着せてくれた。本当に優しいなぁメイちゃんは。

 

 それに比べてレックスは何だ。いきなり頭を地面に叩きつけやがって。連戦になるが今からぶっ殺してやろうか。

 

「ほうら、どこからでも良いぞ。好きに斬りかかってこい」

「……そこをどけぇ!! レックス!!」

 

 奴に対する恨みに燃え、メロを囲う兵士たちの外からピョンピョン跳ねてレックスの様子を窺うと。

 

「ほい、そこだ」

「ぐああああ!?」

「アイツも言ってたけどな。フェイントも何もなしにまっすぐ斬りかかるってどうなんだお前」

 

 ものの数秒でメロは、レックスに顔を握り締められ持ち上げられていた。レックスのヤツ、もう勝ってやがるし。

 

 俺だって筋力があればアレくらい出来たけどね。うん、前の体ならもっと圧勝だった。女の鍛えてない肉体だから苦戦しただけ。鍛えてた男の体なら、まだ息も上がってないはずだし。

 

 ……くそう。俺があんなに苦戦したのに、レックスの奴は一瞬かよ……。

 

「いくら速くても、それじゃ剣が泣いてる。……これからはお前の力も借りなきゃいけないかもしれないんだ、マジで頼むぜ全く」

「離せ! 冒険者風情がこの僕を!」

「本当、お前は性格がなぁ。才能だけはピカ1なのにもったいねぇ」

 

 そして。レックスはため息をつき、メロを地面へと放り投げた。

 

「今日の1件。フラッチェの分も含めて、責任は全てこの俺様が取る。『鷹の目』レックスは逃げも隠れもしない。文句があるならかかってこい」

「貴様、言ってる意味がわかってるんだろうな!」

「分かってるよ」 

 

 レックスは、ニヤリと笑い。その大剣を背中の鞘に収め、メロに背を向け歩き出した。 

 

「間もなく大きな闘いが始まる。国も、俺様の機嫌を損ねる訳にはいかなくなる。……お前が何をしても無駄さ」

「待て。待て何処へ行く、下等な冒険者! 僕はまだ負けを認めて────」

「いくらやっても認めんだろ、お前……。俺様は近々王都に行く、その時にもっと広くて安全な訓練所で相手してやるよ。こんな街中で俺様が本気出したら、どれだけ被害が出るかわからん」

 

 呆れる様にレックスは周囲を見渡す。

 

 そこにはメロ将軍の使った魔法で損壊した家屋や、地面の大穴、剣圧で割けた看板、散乱した商品等が散らかっていた。

 

 うわ、あれは俺とメロの戦いの余波か? そりゃ申し訳ないことした……。いや俺は避けただけで、全部メロの剣や魔法のせいなんだけど。

 

「……確かに、今日の僕は調子が悪いらしい。後日、日を改めて殺してやる」

「はいはい、なら今日は撤収していいな? ……どけお前ら、俺様達は帰る」

「は、はい!」

 

 ギロリ、とレックスに睨まれた国軍の兵士は、海が割れるかの如く綺麗に別れ包囲を解いた。屈強な国軍と言えど、メロを瞬殺したレックスが怖いらしい。

 

「行くぞ。メイ、フラッチェ、ナタル」

「は、はい!」

「分かったし」

「おう」

 

 その、何とも威圧感に溢れた我らがリーダーの後に続き、俺達はアジトへと帰ったのだった。

 

 ふぃー、正直助かった。ちと悔しいが、今日はレックスに感謝しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このアホ!!」

「痛いっ!?」

 

 ごちん。

 

 アジトに帰りついてまず最初に、レックスから拳骨が飛んできた。結構重いヤツ。

 

「この野郎! 何しやがる!」

「お前、喧嘩を売る相手選べや! 俺様言ったよな、ペニー以外の将軍は二人とも酷いって!!」

「だって……」

「だっても糞もない!! お前が何を煽られたか知らないけど、いつもいつも簡単に挑発に乗るな!」

「……ごめんなさい」

 

 殴られて頭に血が上りかけたが、レックスからの説教は正論だった。そうだよな、いくら自分が煽られたからといって俺は簡単に挑発に乗りすぎだ。いつもいつも、まったく同じ失敗を繰り返している。

 

 結果として、今日はレックスにかなり迷惑をかけた訳だし。……あー、コイツが怒るのは当然か。

 

「待ってレックス。その娘が怒ったのは、自分が煽られたからじゃない。あの将軍……メロは、私の兄貴を侮辱しやがった」

「兄貴? ナタル、どういうことだ。メロはアイツを侮辱しやがったのか?」

 

 シュンとした俺を庇うように、ナタルが口をはさんできた。

 

 自分が煽られたわけじゃない……、という訳じゃないんだナタル。煽られたのは、俺なんです。

 

「メロは何て言った?」

「……『風薙ぎ』は実力の伴わない口だけの負け犬、敗北者だって。それで、フラッチェがブチ切れたの」

 

 あぁ、そんな感じの悪口だった。

 

 今改めて聞くと、そんな大したこと言われてないな。何かアイツの表情とか口調が妙に腹立たしかっただけで。

 

 もっと精進せねば。こんな簡単に挑発に乗っちゃ────

 

 

 

「────メロ、何処に泊まってやがるっけ。斬ってくる」

「うおいっ!!」

 

 

 

 すぅ、とレックスの目から光が消えた。おい、お前も挑発に乗ってるやん。

 

「レ、レックス様落ち着いて!」

「何だよ、それを先に言えよ。殴って悪かったなフラッチェ、お前が正しかった。今から俺様が責任もって首刎ねてくるわ」

「ストップ!! お前が暴走したら止めれる奴がいないから! 今日は私もヘトヘトで相手出来ないから!」

「レックス、ステイ!! 落ち着き、魔王軍とも闘わなアカンのに味方殺してどないする!」

 

 コイツ、俺の話になると熱くなり過ぎだろ。どれだけ俺のこと好きなんだよ。ホモかよ。

 

「落ち着いてくださいレックス様。国軍とコトを構えたらまずいって、よくご存知でしょう?」

「いやでも、それはダメだろ。越えちゃいけないラインだ」

「王都に行った時に再戦の約束したんだろ? それでいいじゃねぇか、今は。お前が本気で暴れたらこの街どうなるよ」

「……ぐ、ぐ、ぐ。ふぅ、落ち着け。そうか、再戦するんだった。その時に八つ裂きにすればいいか」

 

 八つ裂きて。俺はアイツに勝ったし、もう怒っちゃいないから許してあげて。

 

「と言うか、その。フラッチェさん、あんなに強かったんですね……。正直、見くびってました」

 

 慌てたメイちゃんは、話題を変えようとしたのか急に俺を褒め称えてきた。気持ちいからもっと褒めて……、と言いたいのだけれど。

 

 ……正直メロに勝ったところであんまり自慢にはならないんだよなぁ。

 

「あん、私がか? あれはメロが弱すぎただけだよ、私なんぞまだまだだ」

「メロ将軍って本人の言ってたとおり、国軍最強の筈なんですが……」

 

 国軍最強、ねぇ。まぁ、それも間違っちゃいないとは思うけど。総合力はともかくメロの剣術は初心者に毛が生えた程度の残念さだ、あれに勝っても自慢にならん。

 

「1対1の強さと、集団戦の強さは違うんだメイ。タイマンなら私の方が強いが、戦場で『1000の魔族を討伐してこい』と言われたらメロの方が危なげなくこなすだろう。……実は私、集団戦の経験は乏しくてな」

「そんなもんなん?」

「フラッチェの言う通り。アイツの売りは『近接戦が超強くて落とせない超火力砲』なところだからな。雑兵を1000人けしかけてもアイツを倒すことは出来ないが、猛者とタイマン張らせたらあっさり負けるんだよ、メロの奴。本人が増長しきっててその事実に気付いてないけど」

 

 そう。アイツの魔法は、わざと近距離用に威力を抑えているフシがあった。本来は眼前に広がる無数の敵を薙ぎ倒す魔法なのだろう。

 

 目の前いっぱいに広がる敵を相手に戦うなら、近接戦しながら魔法を使えるメロの方が圧倒的に有用だ。雑魚に強い上スピードもあって撤退しやすいから、気軽に前線に出張ってこれる火力砲。それがメロである、考えただけでも面倒くさい。

 

「……でもまぁ。正直、フラッチェよりは格上の相手だと思ってた。よく勝ったな」

「は? お前何言ってんの? 私の方が強いに決まってんだろ」

「見誤ってた、許せ。……でもお前さ、かなり腕上がってない? 初めて俺様と打ち合った時と比べて、動きのキレが全然違うように見えるが」

「そうか?」

 

 ……そう言われてみれば、確かに最近動きやすくなったかもしれない。

 

 鍛え始めて筋肉が付いたのもあるが、徐々にこの身体に慣れてきた感じはある。やっと自分の体の違和感を矯正できたというべきか。

 

「いや、そっか。確かに、腕上がったかもしれん」

「だよな」

 

 それだけじゃない、何より腕が上がった原因は……レックスとの稽古だろう。数年前、レックスと別れてからの俺の修行は『想定上の敵』との打ち合いだけだった。必然的に、自分の想像を超えてくる相手と戦うことができなかった訳で。

 

 それが今じゃ、この国最強の剣士と毎日マンツーマンで打ち合って修行出来る環境だ。そりゃあ、強くもなろう。

 

 ……俺、意地張らずにレックスについて行って毎日稽古してたほうが強くなってたのかなぁ?

 

「ま、何にせよ一件落着や。ウチの居らん間にとんでもないことになっとってんな」

「本当にビックリですよ。ナタルさんが煽られたのに何故かフラッチェさんが挑発に乗っちゃうし」

「……それな」

 

 レックスも、何とか怒りを飲み込めたらしい。あとは後日行われるであろう、メロとの模擬戦でやつをぶっ殺さないことを祈るばかりである。

 

 あー、それにしても今日は疲れた。体の傷はカリンに治してもらったが、疲労だけはどうにもならん。さっさと水浴びをして、今日は早めに寝てしまおうか────

 

 

 

 

 

「というかさ。何でフラッチェが切れたんだ?」

 

 

 

 

 そう考えて立ち上がろうとしたその刹那。レックスが、疑問符を頭に浮かべて俺に問うてきた。

 

「あ、それも気になってたんです。フラッチェさん、関係ないですよね?」

「レックスの親友と、知り合いやったとか?」

 

 ……あ、そこ突っ込まれるのね。やっぱり気になっちゃうかな?

 

 そうか、そりゃあそうだよね。気になるよね、俺のあの激怒ぶりは。赤の他人ですとは言えないわな。

 

「と言うかさ。今日のお前の剣筋見てると、ある男を思い出すんだが。あんな繊細な剣、アイツくらいしか……」

 

 …………。そっか。そうだよな、レックスの知る限り俺くらいだよな。あの馬鹿みたいな速度の剣を受け続けることができるの。

 

「……まさか、まさかとは思うんだがお前……」

 

 レックスの瞳が、俺の心の奥底まで射貫く。その瞳には、はっきりと疑念が渦巻いている。

 

 やべ、バレたかこれ?

 


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