【TS】異世界 現地主人公モノ   作:まさきたま(サンキューカッス)

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49話

 剣聖は見た。

 

 いつもの如く素振りを始めた少女剣士の、普段とは明確に違うゆるりとした太刀筋を。

 

「……」

 

 それは、決して速いと言える動きではない。必要最低限の距離を、少し鍛えた程度の少女が出せる速度でスイスイと斬撃を繰り出している。

 

 ─────否。少女のそれは斬撃と言える程の動きではない。それはまるで楽団の団長が、指揮棒を片手に振るう動きと酷似していた。

 

「……」

 

 無心に、少女剣士は小剣を振るう。左右上下に揺らめきながら、舞を踊るがごとく軽やかに。

 

「……マジか、アイツ」

 

 端から見れば、それはとても剣術と呼べる動きではなかった。以前は基本に忠実で正統派そのものと言った動きのフラッチェだったが、今の彼女は型など無視した変幻自在の剣捌きを見せている。

 

 剣聖は、そのフラッチェの動きの先に、

 

『あああああっ!!』

 

 五体満足であろう自分が、本気で大剣を何度も何度も振りぬいて。それでなお一度も彼女を捕らえられない自分自身の幻影を想起した。

 

 そう。少女剣士は、仮定上で『五体満足で本気の』自分を相手に圧倒していた。

 

「……師匠追い抜いてんじゃねーか」

 

 剣聖は、焦る。何が起きたのかは知らないが、彼女は先の戦いで自分の殻を破り大きく成長したらしい。それこそ、自分(けんせい)に迫る勢いで。

 

「アイツ、俺様が本調子になったら絶対に勝負挑んでくるよなぁ。……糞ったれ」

 

 レックスは、負けず嫌いである。幼少時より、風薙ぎ相手に黒星がついた日には悔しくて一睡も出来なかったくらいには負けず嫌いである。

 

 ────(レックス)が強く在りたいと思う理由。それは、案外子供染みたモノなのかもしれない。

 

 彼は少しでも自分の勘を取り戻すべく、素振りに専念した。剣聖は、最強でありたいのだ。

 

 親友の為にも、少年との約束の為にも。そして、気になっている女に良いところを見せる為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「叙勲?」

「そーだよ。礼服用意するから、採寸させてくれるかなフラッチェさん?」

 

 翌日早朝。

 

 俺はミーノから朝一番に呼び出されていた。俺を心配してカリンもついてきてくれたが、どうやら謀略や調略の類ではないらしかった。

 

「……戦争中やのに、叙勲式て。パレードとかすんの?」

「まさか。そんなの、時間とお金の無駄じゃないか。王の御前でサクっとやるだけだから、1時間もかからないよ」

「あ、結構あっさりしてるのね」

「今は、ね。フラッチェさんは、戦争終わったらレックス君並に祭り上げるから覚悟しといて」

「お、おお?」

 

 え、俺もレックスみたいな有名人になるの? 嬉しいような、こそばゆいような。……身の丈に合ってない名声ってどうなんだろう。

 

「叙勲拒否って出来へんの?」

「させると思う? 法律書を確認してもいいけど、王主催の式への出席は義務扱いだから。拒否は犯罪だよ」

「うーわ」

 

 あ、拒否権とかないのね。俺なんかがレックスと並べられるのは、なんか恥ずかしくて辞退も考えたんだけど。

 

「2日後、正午から。君の宿泊している宿に使いを出すよ、だから明後日は遠出しないで」

「分かった」

 

 ミーノに有無を言わせず言い切られ、俺は頷いてしまった。カリンも、仕方ないかと諦めた表情で俺を見ている。

 

「おめでとうフラッチェさん」

 

 英雄だとか、勘弁してくれよ……。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、そうなるだろうな。……他に汚い事言ってなかったかミーノの奴」

「いや、ほぼ事務連絡って感じやったわ」

 

 ミーノからの呼び出しが済むと、俺は真っ直ぐレックスの居る訓練所へと向かった。これでやっと、俺も剣を振れる。

 

 レックスはといえば、新たに生えた腕の違和感が残っているらしく、朝一番から訓練所に籠りっきりだったらしい。

 

 昨日の段階で、大分戻ってたと思うけどなぁ。剣聖的には、まだまだ不十分だそうだ。

 

「これ以上負けるわけにはいかん」

 

 とは、レックスの弁。

 

 そんな心配せんでも、油断しなけりゃお前に勝てる奴なんかいないから。俺の偽物も圧倒してただろうに。

 

 と言うか、サイコロの時もそうだけどレックスの失策って大体ウッカリだよな。レックスは、アホを治すことが先決だと思う。

 

「叙勲、ね。どんな感じなんだ、その式は」

「俺様の時は、戦場のど真ん中で急遽こしらえた勲章を王様から付けてもらっただけだったな。戦争に勝ってからの凱旋パレードは知らん、ちょっと事情があって俺様はその後王都を旅立ったから」

「……そっか」

 

 こいつ、そういや戦争終わった直後にミーノと決別して国軍を去ったんだっけ。そりゃ、知らんわな。

 

「フラッチェ、くれぐれも無礼なことをしたらあかんで。基本的にずっと顔伏せて黙っとき」

「ああ、それでいいと思う。何か王様に問いかけられたら、敬語で短く返答することな。多分褒美が欲しいかとか聞かれるけど、辞退しとけ」

「貴族的な礼儀は、フラッチェさんには求められない筈なのでそんなに緊張する必要はないですよ。冒険者さんがちょっと無礼を働いたくらいじゃ、打ち首にはなりませんから」

「……つまり裏を返せば、大変な無礼を働けば打ち首になるのな」 

 

 つまり俺は、この国の王様に正面から話しかけられる訳か。……どんな奴なんだろう。

 

 何が無礼に当たるとか知らんぞ俺。

 

「ま、そうなったら俺様も助けに入るさ。安心しろ、今の国軍の戦力でフラッチェを処刑する余裕なんてない。少なくともミーノは絶対助け舟を出してくると思う。あまり気負うな」

「あの女が、利用価値のある剣士を殺すわけないしなぁ」

 

 うう、面倒くさいなぁ。

 

 俺ってば、そういう堅苦しい場は苦手なんだ。蕁麻疹が出そうになる。

 

「よし、じゃあそろそろ私も剣を振るか。レックス、一手どうだ?」

「あー……。すまん、もうちょっと素振りさせてくれ。違和感なくなったらすぐ相手するから」

「そっか」

 

 むぅ。レックスは相手してくれないのか、薄情な奴だ。新しい戦い方で実際どれくらいレックス相手に時間を稼げるか知りたいのに。

 

「じゃ、ウチは調べ物の続きして来るわ」

「あ、まだ調べてくれてんだな。ミーノの動き」

「まーなぁ。……でも期待せんといて。絶対裏が有るとおもっとったのに、ハズレ臭いのよ」

 

 修道女は、頬に手を当てて肩を落とす。そういや、カリンは教会のツテをたどってミーノの情報を集めてくれてるんだっけ。

 

 下手な調べ方したら、逆に罠に嵌められそう。あの将軍、会って話した感じだと謀略戦メチャ強そうだぞ。

 

「いや、城下町襲撃の日な? 警備の担当部隊がミーノの指揮下だったって情報が有って。正直魔族と繋がってたんちゃうかと疑ってたんや」

「ミーノが? 何でまた」

 

 ミーノと魔族が繋がってる? アイツ、魔族に一切容赦してなかったけど。そんな事が有り得るのか?

 

「だって夜中に襲撃が有って、情報がウチらに届いたのは明け方やで。幾らなんでも遅すぎやわ……、貴族や国民に危機感持たせるため城下町に魔族を手引きしたんかと疑っとってんけど」

「……城下町ってさ、ミーノが手塩にかけて発展させたんじゃなかったっけか」

「そやねんなぁ。調べたらそれホンマやったわ。滅茶苦茶丁寧に商人の指導しとった。法整備整えて税金軽くするように掛け合ったりして、ありゃ商人に感謝されるわ。それで、魔族手引きした様子も兵士がサボってた様子も無し」

「……ハズレですね」

「おかしいなぁ、ウチ悪い奴の考え読むのは自信あってんけどなぁ」

「ま、しゃーねーよ。きっと他にとんでもない悪企みをしてるに違いない、ソレを見破ってくれカリン」

「はいな」

 

 まぁ、違うだろう。アイツ、さりげに物凄く国民を大事にしてるもんなぁ。魔族の手引きとか絶対にしないだろ、むしろ魔族側に人間の手引きをさせてると思う。

 

 国益に命懸けてるもんなミーノ。

 

「それじゃ、私もここで剣を振っておく。メイはどうするんだ?」

「姉さんのお見舞いに。と言っても、もう殆ど元気ですけどね」

「首飛ばされて元気なのがおかしいよな。もうすぐ戦線帰出来るんだろ?」

 

 こうしてカリンは教会に、メイはクラリスの邸宅に。

 

 そして俺はレックスが相手してくれないので、今日もペニー将軍旗下の兵士やら仮想のレックスやらを相手に寂しく鍛錬をするのだった。

 

 欲求不満だわぁ、レックス早く俺にも構ってくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────夜。

 

 

「やぁ。訓練帰りかな?」

「……ミーノ将軍」

 

 無心に剣を振り続けるレックスに帰る気配が無いので、俺は一足先に訓練所を後にした。前、徹夜で剣を振ってたら怒られたからな。俺は学習する生き物なのだ。

 

 その帰り道で、いつかの様にバッタリと。四角い文官の帽子をかぶった大将軍が、両手に書類を抱えて歩いていた。

 

「式典用の礼服は、明日には仕立てあがると思う。時間が有れば、試着しに来て欲しい」

「分かった。相変わらず忙しそうだなミーノは」

「……色々あったからねぇ、今回。クラリスの負傷が一番の誤算だよ、砦を守る将がいないから結局あの爺にパンツあげる羽目になっちゃったし」

「……パンツ?」

「あ、気にしないでこっちの話」

 

 何やらミーノは妙なことを呟いている。パンツって何だ。

 

「……あ、リリィの花飾り付けてんだな」

「前、殺されかけたからね。自分の城ですら暗殺に怯えないといけないなんて……はぁ」

「そういや、そうだったな」

「その時にフラッチェさんに助けられたのがボク達の出会いだっけ。改めてあの時はありがとね、何か必要なものが有ったら言ってくれ。力になれる範囲なら助けになるから」

「いや、結構だ。大したことはしていないからな」

「ふふ。あの時と答えは変わらず、か」

 

 ふぅ、ミーノは一息ついて。夜空を見上げながら、静かに話を続けた。

 

「また今回も、フラッチェさんに助けられた訳だけど。君がいたから、負け戦にならずに済んだ」

「……それも、逃げ惑って時間稼いでいただけだからな。自慢にはならんさ」

「いや、君は凄いことを成し遂げたんだ。素直に誇りなよ。……でもうん、ごめんね。今回のフラッチェさんの功績は、利用させて貰うから」

「利用?」

「兵士たちには戦う『士気』が必要になる。フラッチェさんの活躍を大々的に表彰すると、『俺も活躍すればフラッチェの様に名を上げられる』と兵士のモチベーションも上がるのさ」

「……つまり、プロパガンダ?」

「そ、貴女はお祭りのお神輿。助けてもらっておいて利用する事になる、それは謝るよ。でも、これが一番国益だから」

「お前らしい」

 

 ああ、コイツは分かりやすいな。ある意味、ペディアという国の権化と言えなくもない。

 

 コイツにとって、国の利益が一番大事なんだ。何もかも打ち捨てて、国益だけを追い求めて。それが最早、人格の一部になっているのだろう。

 

「それじゃ、覚悟していてね」

「ああ」

 

 そういうと、ミーノは忙しそうに立ち去った。きっと、今から部屋に戻ってあの量の書類を仕上げるのだろう。

 

 ─────あの女、たった一人で何人の命を抱えているんだろうか。いつか、潰れはしないだろうか。

 

 いや、それは俺の心配するところじゃない。俺の役目は、プロパガンダなのだから。ミーノの言うとおりに祭り上げられてやるのが、アイツにとって一番助けになるのだろう。

 

 さぁ、もう寝よう。俺は、明日も剣を振らないといけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────あ、フラッチェ。おったおった」

 

 それは、幽鬼の様な声。

 

 すわ妖怪変化か、と周囲を見渡すと見覚えのある修道女が闇に紛れて俺を見ていた。びっくりした。

 

「ど、どうした、カリン」

「ちょっとお願いがあって探しとってん。凄く、すごく大事なお願い。聞いてんか」

 

 それはミーノと別れ、宿の帰ろうと城門を探しさ迷い歩いている最中。暗い廊下の曲がり角で、俺は鬼気迫る雰囲気を纏ったカリンに話しかけられた。

 

 どうやら彼女は、俺を探していたらしい。

 

「……」

 

 ただ気になるのは、カリンの様子がおかしい事だ。目の焦点は微妙に合っていないし、表情ものっぺりとしている。

 

 今までずっと教会で情報収集していた彼女は、濁った眼のまま言葉を続けた。

 

「え、あ、ああ。分かった、どうしたんだ?」

「それやねんけど─────」

 

 あきらかに、今のカリンが正気に見えない。だが、その口調や姿形は間違いなく彼女だ。

 

 俺達の頼れる仲間で、家事担当兼回復役で、頭も回る修道女のカリン。

 

「────今回のフラッチェの戦果の『褒美』。ウチに、譲ってくれへんか?」

 

 そのカリンの『お願い』を聞いた俺は、思わず目を見開いてカリンを見返す。

 

「それは、どう言う……」

「なぁ、頼むわ」

 

 そして。俺は彼女が欲しがった『褒美』の内容を聞き絶句した。

 

 やめておけと説得してみたが、カリンはガンとして退く様子を見せない。

 

「じゃ、頼んだで」

「あ、ああ」

 

 俺は彼女が要求した『褒美』をねだる事に恐々としつつも、有無を言わさぬカリンの形相に圧倒されとうとう断ることが出来ず押し切られてしまった。

 

 ────明日、どうなるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新たなる英雄。若き剣の鬼才、『神剣』のフラッチェよ。汝は我が民の為に剣を振るい、我が土地の為に血を流し、我が国の為に敵を破った。それはすなわち、我が恩人に他ならない」

「は、はいっ! 光栄であります」

「硬くならずとも良い。汝の忠誠と恩義に報い、一振りの剣を用意した。今後より一層、剣の道に励むと良い」

「は、はい」

 

 叙勲式、当日。俺は、漆黒のドレスのような衣装を身に纏い。カチカチになりながら、国王の前で膝をついて震えていた。

 

 何せ、

 

「……」

 

 その様子を、数百人は居ようかという兵士に見つめられての叙勲だったからだ。人数多すぎるわ、緊張するに決まっているだろこんなの。

 

「そして剣聖レックスよ。そなたのパーティにまた助けられることとなった、改めて礼を言うぞ」

「……勿体ない言葉です」

「大将軍の席は何時でも用意している。気が変わったのであれば、いつでも申し出るがよい」

「光栄の至り」

「うむ。……此度の功績は実に素晴らしい、何か求める褒美が有れば申してみよ」

 

  来た。褒美の話だ。

 

 これは通例であれば叙勲者は辞退するモノらしい。だけど、カリンによると過去に何度か「簡単な願い」を王様に申し出た者もいたらしい。

 

「─────では、恐れながら。少しだけ、時間をいただきたく存じます」

「……っ!?」

 

 俺は目を伏せたまま、王に向かって『時間』を要求した。王は意外そうに目を細め、周囲にピリリと緊張が走る。

 

 遠目にはミーノの慌てた顔が伺え、隣にいるレックスの息を呑む音が聞こえる。カリンから話を聞いてなかったのか、レックスの奴。

 

 全く、カリンは無茶を言う。あいつの事だから何か考えが有るのだろうが、何で俺がこんな緊張する役回りをしなけりゃいけないのか。

 

『明後日の叙勲式。何でも良いから、ウチに発言権を与えて欲しい。そっからはウチが何とかする』

 

 この大人数の中、自分に喋らせろと来ましたよ。よくそんな度胸あるな。

 

 本当に何考えているんだ?

 

「……ふむ。何か申したいことが有るのだな?」

「はい。私たちの仲間である、カリンから奏上したい話がありまする」

「うむ、その程度であればよかろう。話を聞こう」

 

 緊張でゲロを吐きそうだったが、俺は何とかして言葉を絞り出し。その俺の『願い』を、国王は笑いながら二つ返事で了承してくれた。

 

 ほ、良かった。これで俺の仕事は終了だ。

 

 衆目の注視が、カリンへと集まる。王が、兵が、参列した将軍たちが聖女を見る。

 

「─────恐れながら。ウチはマクロ教の修道女カリンと申します。この場をお借りして、一人の罪人を告発したく時間を頂きました」

 

 カリンは目を伏せたまま。静かに、言葉を紡ぎ始めた。

 

「罪人とな?」

「ええ。その者は、暴威を以て城下町に住む民を脅かし、その財を奪い、私腹を肥やした大罪人」

「……その者の名は」

「ミーノ」

 

 その告発を皮切りに。カリンは顔を上げて、しっかとミーノを睨みつけた。

 

「……へ? ボク?」

「王よ、ウチは独自に調べさせていただきました。10日前、忌まわしい魔族が城下町を襲撃した事件。あの事件の際の国軍の反応の鈍さに疑問を持って、調査したのです」

「続けよ」

「鈍い筈です。何せ、その場に魔族などいなかったのですから。……城下町を襲撃したのは人間です」

 

 ─────カリンは、何を言い出してるんだ?

 

「どういう事だ、修道女カリン」

「魔族に扮した人間が、城下町を襲撃し滅ぼしたのです。そして奪った財産資材を、彼女は私腹に蓄えた」 

「ちょ、何? 何か勘違いしてないカリンさん!?」

「タイミングが完璧すぎるでしょう。魔王軍が砦を奇襲する前、警告するかのように城下町を荒らしに来る可能性がどれほどありますか?」

「……ふむ。して、その下手人がミーノである証拠は」

「彼女にしか出来ないんですよ。商人の店を城側から襲撃しやすいように配置するなんて。その日に限って全ての物見が、敵の襲撃を察知できないなんて。その出陣費用を、何の苦も無く捻出できるなんて!」

 

 ミーノが、ミーノ軍が、城下町の襲撃犯? 

 

 そんな馬鹿な。彼女がそんな事をするわけがない。だって、ミーノは凄く苦労して城下町を築き上げたんだぞ。

 

 何より、人の命を大切にするミーノがそんな意味不明な─────

 

「誤解です!! 国王、ボクに申し開きの機会を! この大人数の面前で、こんな謂れのない中傷を聞き流すわけにはいきません!!」

「証拠なら揃えとるわ阿呆!! 何の証拠もなしに、こんな大舞台で啖呵切れるか!」

「む、む。……ミーノ、弁明を許す。私としても、そのような事実は受け入れがたい」

 

 ミーノは即座に立ち上がり、カリンを睨みつける。一方でカリンも、目を据わらせたまま引く様子がない。

 

 待って。俺、こんな大事の引き金を引かされたの? 

 

 

 

「─────そこの修道女カリンは、勘違いしているか、はたまたボクを故意に貶めている!」

「─────そこに立つ文官は、血も涙もない正真正銘の悪魔や!!」

 

 二人は、互いに一歩も引かず。目から火花を散らして、見つめ合っていた。


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