【TS】異世界 現地主人公モノ   作:まさきたま(サンキューカッス)

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61話

 ────どうして見捨ててくれなかったの?

 

 

 幼き少女は、変わり果てた家族の残骸を前に、呪詛を絞り出した。

 

 自らの兄は、父は、母は、濁った酢の様な黄色い侵出液を撒き散らしながら、黒焦げになって死んでいた。

 

「馬鹿じゃないの。ボクを見捨てれば、みんな助かったじゃないか」

「そんな事を言うんじゃない!!」

 

 呆然と、白濁した眼球で幼女を睨む死体に話しかける。それぞれが皆、苦悶の表情で幼女に向かい手を伸ばして死んでいた。

 

「君のご家族は勇敢だった。君を見捨てず、燃え盛る炎に怯えず家に飛び込んで。木材に挟まれて動けなかった君を助けて見せた!」

「その直後に家が崩れ落ちたのは、不幸としか言いようがない」

「……馬鹿ばっか」

「いくらご家族を失って悲しいからって、そんな勇敢な彼らを悪く言うんじゃありません」

「……いや、ただの馬鹿でしょ」

 

 幼女は、その死体に語りかける。

 

 火事場に取り残された末の娘を助ける為に危険を冒し、結果としてその娘以外全員が死亡するという悲惨な結末を迎えたその一家の死体全員に。

 

「……どうして、見捨ててくれなかったのさ」

 

 この日、幼女は。

 

 見捨てられた方が幸せである事もある、と知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミーノは天涯孤独だった。

 

 5歳になる頃に家族を失い、頼る人も無く一人で生き抜く羽目になった。

 

 そんな彼女が生き延びることができたのは、ただの幸運に他ならない。たまたま彼女に魔術の才能があり、それに目をつけた人の良い教会の神父が、懇切丁寧に彼女に回復魔術を伝授した。

 

「君は、この教会に住むといい」

 

 彼は、ミーノに教会を手伝って貰おうと考えていた。回復魔術の使い手は多いに越したことはない。

 

 人格者だったその神父は、一生懸命にその幼女を世話していた。ミーノも、その神父を慕って真面目に修行を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数年の月日が経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「3日前から突然に、こんな……。お願い、どうか我が子を助けて!」

「……スミマセン。今のボクの治癒魔術では、この子は治療出来ません」

「そんな! 何とか、何とかならんのですか!」

 

 ミーノは、回復魔術を完璧にマスターした。神父と同等の力量に成長したミーノは、一人の立派な回復術士として活動を開始していた。

 

「治癒魔術は万能ではないので。この子は持って数日です、覚悟を決めておいてください。それと、今後はその子の血液に触れてはいけません。血液を介して、この疫病は感染するでしょう」

「あ、あああっ……。トーマス、トーマス……」

 

 だが、回復魔術は万能ではない。

 

 実はこの魔法、とても簡素な技術なのだ。それは本人の治癒能力を高める事しか出来ない、使い勝手の悪い魔術。

 

 この魔術は、外傷に強い。腹が割けても、くっ付けることは容易い。

 

 だが、疾病には弱い。原因となる感染巣や腫瘍等を特定して、治療を行わないと助けられない。

 

 軽い感染であればがむしゃらに治癒能力を高めてごり押しする事も可能だが、重いケースでは「治癒能力を高めたせいで身体が疲弊して更に感染が広がる」事もある。

 

 そんな場合は、病気と薬の知識が無ければ助からない。神父は回復魔術に秀でてはいたが、医学の知識は持ち合わせていなかった。彼の弟子であるミーノも、それは同様だった。

 

 ただ流行状況と感染までの経緯から、この病は血液感染を起こしているのだろうと想像は付いた。つまりミーノに出来ることは、「血には触れない様に」と親に注意する事だけだった。

 

「では、ボクはもうこれで。お力になれず申し訳ない」

「……うう」

 

 救えない命もある。それは、神父から常日頃聞かされていたことだ。

 

 子を掴み泣き叫ぶ親に静かに心を痛めながら、ミーノはその小屋を後にした。

 

 

 

 

「ちょっと良いかい、ミーノさん」

 

 

 

 教会への帰り道。

 

 少し落ち込みながら歩くミーノの肩を掴み、引き留める男がいた。

 

 それは、ミーノも良く見知ったこの集落の村長だった。

 

「村長さん。ボクに何か?」

「最近出没している野良魔族のねぐらを特定しましてね、近々に野良魔族狩りを予定していて」

「野良魔族?」

「半年前より、隣の集落の裏山に住み着いた奴が居てね。そいつが時々、子供を拐って食っとるみたいなんですわ。その魔族との決戦の際には負傷者が沢山出ること請け負い」

 

 彼がいうには、隣町からの要請でこの村も参戦する事になったらしい。隣の集落が壊滅すれば、次はこの村の番なのだ。妥当な判断といえよう。

 

「ミーノさん。アンタも、隣町に足を運んでくれやせんか」

 

 つまり、怪我の治療のために遠征してくれと言う話らしい。

 

「ははあ、成る程。良いですよ」

「ありがとう。戦後に、治癒魔法をかけていただければ大助かりだ。もちろん、お礼は出すよ」

「どうも」

 

 彼女としても異論はない。神父の教えの通りに、助けられる命であれば全力で助けるのみである。

 

「……あ」

 

 ────だが、ふと。

 

 その時彼女は、妙案を思い付いた。

 

「あ、そーだ。上手くいけばボク、一人でその魔族を殺せるかも」

「本当ですか!?」

「上手くいけば、ですけどね」

 

 思い付いてしまった。聡い彼女は、魔族との決戦で死傷者を出さずとも楽に魔族を殺せてしまう方法を。

 

「なら是非やってみてくれ。成功すれば、多額の報酬は出そう」

「オッケー。任せてくれるかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ミーノは。

 

 

 疾病に犯され余命幾ばくもない、重病の子供を魔族に食べさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トーマスを、返せ!!」

 

 重病の子の親は、激怒してミーノに詰め寄った。

 

 子供を探して隣町まで訪れたその両親が見たのは、息も絶え絶えの愛しい我が子が獣型の魔族により、四肢をもがれ苦痛に咽び泣きながら食される姿だった。

 

「何を言ってるの? あの子はもう、助からない命なんだよ?」

 

 激情のままにミーノに詰め寄って、両親は罵声の限りを尽くした。

 

 だが、ミーノは不思議そうな顔を浮かべるだけだ。

 

「あの子の病気は、魔族にも感染するから。あの子を魔族に食わせれば、一切の被害がなく魔族を駆除できる」

「ふざけるな!! あの子が何をした! 何で、あの子が苦しまないといけなかった!?」

「いや、だから。あの魔族と正面からやり合ったら死傷者もでるだろ? これが一番────」

 

 理解出来ない。

 

 それは双方が双方に感じてる、心の底からの本音だった。

 

 ミーノは、何故一番被害の少ない方法を選択して怒られているのか理解出来ず。

 

 両親は、何故彼女がこんな残酷な手段を取ったのか理解出来ない。

 

「出ていけ」

 

 そして、どちらが多数派なのか。

 

 ミーノと、その両親の感性の。どちらが、普通の価値観なのか。

 

「ミーノ、お前がそんな奴だと思わなかった」

「何で!? 何で分からないの、貴方達みたいな戦闘経験のない農民が徒党を組んで戦っても、魔族に勝てる訳ないでしょ。あの大きさなら少なくとも10人単位で死傷者が────」

 

 彼女は、迫害された。

 

 村の民から、人の心を持たない悪魔と呼ばれ忌み嫌われた。

 

「二度とこの村に顔を出すな」

「殺されないだけ、ありがたいと思え」

 

 当たり前だ。人間とは、感情の生き物である。

 

 数の上の損得より、目の前の悲劇に憤る。ミーノが魔族を病殺するという策を用いなければ、凄まじい被害が出たことに気が付かない。

 

「お前なんか、拾って育てるんじゃなかった」

 

 それは、ミーノが父と崇めて慕っていた神父の言葉だった。

 

 敬愛していた神父からも絶縁され、ミーノは村を追われる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、村を追われたミーノは。

 

 疫病の蔓延を防ぐため一人で森に潜り、その魔族の死体を浄化して立ち去った。

 

 例え自分を迫害した人間であろうと、無駄に人が死ぬ事を彼女は許容できなかったから。

 

 ミーノは手段を選ばないだけで、人を一人でも多く助けたいという優しさを持っている。

 

 その根底には、自分を救うために犠牲となった彼女の家族への、贖罪の意味があったのかもしれない。

 

「また、一人になっちゃった」

 

 第2の親と、心から慕っていた神父からの侮蔑。それは、ミーノの心を深く傷つけた。

 

「……ボクが、おかしいのかなぁ」

 

 聡い彼女は、気付いていた。自分の価値観は、恐らく他人とずれているのだと。

 

「ボクは、人でなしなのかなぁ」

 

 一人でも多くの人に生きていてほしかった。

 

 少しでも、犠牲となる人を減らしたかった。

 

 ミーノの願いは、そんなに悪い事なのだろうか。一人トボトボと歩きながら、彼女は目に涙を浮かべどこを目指すでもなく歩き続けた。

 

「……ボクなんか、死んだ方が良いのかな」

 

 そして、ミーノは何かを諦めた。

 

 自分の異常性を理解し、生きる活路を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、しかし。

 

「あん? それ、お前は何にも悪くないだろ」

 

 絶望の果てに死に場所を探していた彼女は、とある少年と出会った。

 

「子供を食わすような作戦を使われたくないなら、強くあるべきだった。村の誰かに魔族に圧勝できる実力があるなら、お前もそんな事をせずにすんだだろうに」

 

 1人で道なき道をいくミーノが、山賊に見つかり囲まれたその時。その少年は颯爽と現れ、ミーノを辱しめようとした山賊どもを皆殺しにして高笑いしながらそう言った。

 

「それで、お前みたいな美人が一人で護衛もなく歩いてんのね。胸糞悪い、お前はむしろ村を守った側じゃないか」

「あ、その」

「よし気に入った、お前は僕が貰う。1人じゃ生きていくのが難しかろう、今日から僕についてこい」

 

 青天の霹靂。自暴自棄となり死を求めていた彼女は、いきなりその少年の所有物となった。

 

 その少年は、たった1本の剣で山賊からミーノを救い、たった一言でミーノを絶望から救った。

 

「覚えておけミーノ。僕はこの国の大将軍になる男だ」

 

 彼は、傲慢な笑みを浮かべてミーノに手を差し伸べる。

 

「その僕が保証してやる。ミーノ、お前は────」

 

 

 

 

 ────間違ってなんか、いない。

 

 

 

 

 なんて自分勝手な言葉だろう。

 

 なんて、責任のない言葉だろう。

 

「……う、あ」

 

 そしてその言葉は、どれだけミーノを救っただろうか。

 

「おい。何でいきなり泣き出して……」

「うああああん……」

 

 こうして、ミーノはメロと名乗る少年の仲間となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミーノは、その少年と共に旅をすることにした。

 

 身寄りなんてない。ひ弱な回復術師が一人で旅をすることなんて出来ない。

 

 彼女は少年を信じて、行動を共にした。

 

「何だと!? お前、僕を馬鹿にするのか!? よし、殺してやる」

「ちょ、ちょっと待った! メロ、君はなんでそう喧嘩っぱやいかなぁ」

 

 だが。その少年は控えめにいって、ロクデナシだった。

 

 気にいらないことがあればすぐ喧嘩するし、思い通りに事が進まなければ癇癪を起こす。

 

 そのくせ、戦闘能力は馬鹿みたいに高くて手に追えない。行く先々で問題をおこし続け、警戒対象として国軍に睨まれていた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。彼の埋め合わせはボクが何とか……」

 

 そんな彼が逮捕されずに住んでいたのは、ミーノが後処理を徹底したらだ。被害者を宥め、国軍を抱き込み、少年が不利にならないように立ち回り続けた。

 

「メロが酒場で暴れてるぞ!!」

「またぁぁ!!?」

 

 ついていく人間を間違えた。ミーノはこっそり、後悔した。

 

 だが、彼に恩があるのは事実。危ないところを救われて、生きる希望も持たせてくれた。

 

 義理堅い所のあったミーノは、傍若無人な少年を影から支え続けた。

 

「え、戦争が始まる?」

 

 そんなある日。ミーノは、転機を手にいれる。

 

 なんと隣国が国境を越え、侵攻してたという。それは、まさにこれ以上ない好機と言えた。

 

 彼は平時においては治安を乱すだけのロクデナシだが、戦争という局面において英雄足り得る男だ。

 

「よし。国軍に仕官するよメロ」

「あん? 国軍の連中が、僕に助けてくださいと頭を下げるのが筋だろう。どうか大将軍となって、国を守ってくださいと」

「それじゃ、被害が増える。君の様な猛者が最初から戦ってくれた方が、全体として犠牲者が少ない」

「……うーん」

「頼むよ、メロ。ボクは、一人でも被害を減らしたいんだ」

 

 得意の口車に乗せて少年を動かし、ミーノ達二人は国軍へと仕官した。

 

 口ではああ言ってはいたが、元々大将軍になるつもりだった少年的に、それは望むところだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は、国軍の中でみるみると頭角を現した。

 

 戦闘能力が高く、殲滅力に長けた猛将メロ。

 

 俯瞰的思考に長け、敵の戦略を読む知将ミーノ。

 

 この二人の組み合わせは実に凶悪と言えた。ミーノに手綱を握られ続ける限り、メロは稀代の猛将と言えた。彼らの屠った敵の数は数えきれない。

 

 開戦当初は隣国に押され気味だったペディア国軍も、この二人の加入で戦線を持ち直していた。

 

「冒険者も雇うよ、傭兵として」

「あんないつ裏切るか分からない連中を信じるのですか?」

「裏切れない所に配置するだけさ、多額の報酬で釣ってね。それに辺境に……まだ子供だって言うのに馬鹿強い冒険者がいるらしい」

 

 中でもミーノは、いち早く指揮官として抜擢され軍の中央の地位についた。

 

 当時大将軍だったエロ爺ローレルが、若くて有能な美人を放っておかず強引に召し上げたのだ。いや、彼が女好きでなくとも観察眼に長けたローレルならいずれミーノを見出しただろう。

 

 結果として異例の早さで、彼女は軍の中核へと入り込んだ。ローレルは彼女に様々な権限を与え、そして働かせた。

 

「義勇兵の方達も、そこに合流して貰う。あの連中、士気だけは高いし」

「分かりました」

「……あの二人(ペニーとエマ)にも働いてもらわないと」

 

 気づけば、ミーノはローレルに次ぐ立場の参謀と扱われる様になった。いや、ローレルがそう画策した。

 

 ローレルは老いている。だが、なかなか後継者が見つからない。

 

 そんな折に彗星のごとく現れた知将ミーノは、彼にとってどれほど喜ばしかっただろう。美人で可愛く有能な彼女に、後を任せ引退したかったのだ。

 

「ミーノ、今後きっとお前を冷徹という者もいるだろう」

「もう、言われ慣れてますよ」

「覚えておけ。それが、正解だ」

 

 ローレルは、ミーノを可愛がった。ミーノもまた、ローレルを一目置いていた。エロ爺であることを差し置いても、異様な観察力を持つ彼はミーノにとって数少ない「尊敬できる存在」と言えた。

 

「政治とは、軍略とは、残酷なものだ。自分の敵を屠る手段が、悪辣でなくてどうするというんだ」

「……ですが、ボクはいつも忌み嫌われて」

「民に目線を合わせるな。お前の視点は、もっと高くなくてはならない」

 

 そのローレルは、ミーノにこう諭した。

 

「民を守りたいなら、民から忌み嫌われるような手段を使ってでも守って見せろ」

「……」

「それが、彼らの為だ。自分が嫌われないことが大切か、民を守ることが大切か。お前はどちらを選ぶ?」

 

 ……その言葉は。ミーノが、常日頃から心の奥底で叫んでいた言葉だった。

 

 ボクは守りたかっただけなのに。ボクは、一人でも被害を少なくしたかっただけなのに。

 

 その為に、少数の犠牲を強いるのはそれほどまでの悪行なのか、と。

 

「間違って、無いんだ」

「あん?」

「ボクは、間違ってなかったんだ」

 

 彼女は、涙をこぼす。否定され、忌み嫌われ、常に自己を肯定できなかったミーノ。そんな彼女が、初めて必要とされたのである。

 

 こうしてミーノは迷いを断ち切り、ローレルの引退後に参謀筆頭として国軍大将に任じられることとなった。

 

 同時期に、義勇軍の総大将だった『ペニー』と戦争において多大な貢献をした『メロ』も大将軍に任命され。この新たな3人の英雄が『三大将軍』と呼称され、ペディアという国の看板となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦争は10年の計、内政は100年の計」

 

 ミーノは、内政を徹底的に重視した。

 

 前回の隣国侵攻戦の勝利により、しばらくは戦争が起こる事はない。今のうちに国力に差をつけ、『喧嘩を売ってはいけない』と思わせるような国にならねばならない。

 

「商業発展、治安改善、食料備蓄に生産力増加」

 

 彼女に、政治の知識はなかった。ローレルの知恵を借りながら、必死に政務をこなしていった。

 

 そして元々地頭の良かった彼女は、ものの数年で政治のノウハウを習得してしまい。

 

「ミーノさん、ここはどうすれば」

「指示書出してるでしょ! それ読んで、全部書いてるから!」

「実は、私は文字が読めなくて……」

「なんでそんな奴が文官をやってるんだい!!」

「父が文官でして……」

 

 この国の運営が、いかに頼りない人間により執り行われていたかを知った。

 

「小娘、何で今までとやり方を変えたんだ! 金を使うたびにいちいち記帳などしていては仕事が終わらんわ!」

「今までのやり方だと、横領し放題でしょうが! 現に、明らかに収支が有ってないし!!」

「なんだと!? 俺が横領しているとでも言うのか!!」

「してないと思われると思ってんの!?」

 

 文官が、色々とひどすぎる。

 

 頭の回る人間は、汚職や横領に手を染めていて。頭の悪い人間は、何もせずにのほほんと過ごしていた。

 

 僅かに存在する、使命感を持った真面目な人間数名により既のところで政治が賄われている状態だった。

 

 ローレルは、本職は武官である。文官の知識を持ってはいたが、文官に対する政治的影響力はなかった。

 

 だからこそ、ローレルもこの酷すぎる政務事情を放置していたのだが。

 

「この惨状を投げっぱなしは酷いよローレルさん……」

 

 ミーノは、持ち前の責任感を発揮して嫌々に改革を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

 ロクに寝る暇もない、仕事漬けの日々。

 

「寝てた、かな?」

 

 メロと話す時間など無く、ただひたすらに激流のような日々を過ごしていた彼女は。ある日、大量の資料を散乱して部屋で気を失っていたことに気が付いた。

 

「寝落ちしちゃった……やば、急いで取り戻さないと」

 

 いつ気を失ったのかはわからぬが、膨大な仕事をこれ以上ため込むのはまずい。ミーノは慌てて、床から跳ね起きて。

 

 

 

「……血?」

 

 

 

 自らのローブが、血で染まっていたことに気が付いた。

 

 

「血の病、だ……」

 

 ミーノは即座に自分の身体を調べた。

 

 その結果、彼女は自身が病魔に侵されていることを知った。

 

「ぐ、身体が重い。そうだ、医者か、王立図書館……」

 

 今までは医学の知識を得る手段がなかったミーノだが、今の彼女の立場は大将軍である。

 

 王宮の医者も居るし、王の保有する図書館ならば古今東西の知識が手に入る。

 

「もう、ついてないな。早く治さないと……」

 

 こうしてミーノに、新たに『自分を治す』という仕事が追加された。

 

 

 

 

 そして、ミーノは。

 

「これは、駄目ですな」

 

 自らの病の、その凶悪さを知った。

 

「血が作られなくなっている。……少しずつ、少しずつあなたの身体は弱っていく」

「……」

 

 それは、不治の病とされている『白き血の病』と、呼ばれる病気だった。

 

 

 

 

 

 

「嘘だろう」

 

 ミーノは図書館にこもった。

 

 そして、古今東西のあらゆる医学書をあさった。

 

「ボクが早死にしたら、ボクの為に命を張ってくれた家族がみんなバカになるじゃないか」

 

 死にたくない、と言うより死んではいけない。

 

 だが、王立図書館にある資料の全てが『不治の病』として記述しており、この病気にかかって生存した者は今まで一人も居ない様だった。

 

「……」

 

 それでも、ミーノは諦めず。現在のペディアの技術では助からないなら、他国や遠い集落にまで知識を求めるようになった。

 

 だが、彼女の求める情報は何一つとして届けられなかった。ペディアの王都が、ここら周辺では最も栄えている都である。そこに存在しない技術など、周辺に有る訳がない。

 

「だよね、ウチが一番技術的には進んでるよね。ロストテクノロジー……、失われた治療法、その辺に的を絞ろうか」

 

 次に、ミーノは半ば諦めつつも『太古に失われた医療技術』にまで捜索の手を伸ばし。

 

 冒険者に遺跡の探索を依頼したりして─────

 

 

 

 

 

 

 

「……魔王軍?」

 

 

 

 

 

 

 かつてない強敵が、目前に迫っていることを知った。

 

「ミーノ様、どういうことですか。あれだけ血眼になって調査をしていたのに」

「それどころじゃなくなっちゃったからね」

 

 冒険者レックスから報告された、魔王軍の存在。

 

 予期していなかった、未知なる敵。遠い魔族領から、魔王軍がわざわざこのペディアを伺っているとはにわかに信じがたかった。

 

「……でも、レックス君がそんな嘘つくとは思えないし。調査をエマちゃんに任せて、再軍備を整えないと」

 

 だが、それが事実だとすれば。

 

 魔王軍が、この王都を狙っているのだとすれば。

 

「……ふふふ」

「何がおかしいんですか、ミーノ様」

「いやね。ありがとう……て気持ちかな」

 

 ミーノは、静かに目を閉じて。

 

「ボクが生きているうちに、攻めてきてくれてありがとう」

 

 己が人生の、最期の仕事が何かを悟った。

 

 

 

 

 

 末の妹ミーノを救って、死んでいった両親兄妹。

 

 彼らは、決して馬鹿なことをしたわけじゃない。

 

 彼らは、一国を救った「ミーノを助ける」ために犠牲となったのだ。

 

 それは、十分に価値のある死に方じゃないか。

 

 

 

「どんな手を使ってでも、魔王軍を撃退するよ」

 

 最初のウチは、再軍備に難航した。

 

 ペディアの王自身、魔王軍の存在を信じておらず家臣の前で「そんなはずが無かろうわっはっは」と笑い飛ばす始末。王はミーノに対して「心配し過ぎは良くないぞ」と諭して、宴の準備を命じた。

 

 それを聞いた他の臣下も、ミーノには協力的でなかった。王が笑って否定したのだ、ミーノに協力したら王の不興を買う可能性があるのである。

 

「……本当に、あの王は」

 

 ミーノは早々に王の協力を諦め、城下町を侵略する計画を立てた。

 

 襲撃が有れば、目が覚める。軍費も不足している。この犠牲は、十分に価値のある犠牲だとミーノは判断した。

 

「ミーノ様。本当に城下町を襲ってよろしいので?」

「時機を逸したら目も当てられないからね。悠長に貴族一人ひとり脅して協力させている時間はないよ」

「ですが、せっかく今まで」

「城下町は、また建て直せばいい。君たちは、今までボクがしてきたことを覚えているだろう? その通り、やり直してくれ」

 

 内政を重視し、今まで必死に発展させてきた街を壊してでも。今は、より多くの民を守るために非情にならざるを得ない時なのだ。

 

「あの蝙蝠と交渉し、襲撃を延期させる策はどうでしょう」

「……ダメだよ。間違いなく断られるし、仮に成功したとしても下策だ」

「何故?」

「決戦の時、ボクが死んでるかもしれないからね」

 

 そして、もう一つの理由。それは、ミーノ自身が死期が近いことを察していたからだ。

 

「自惚れじゃないけど。きっと、ボクが居ない時に魔王軍と決戦したら……結構な被害が出ると思うよ」

「……」

「殺しより、略奪を優先。城下町を襲撃するよ」

 

 自分が生きているうちに。

 

 ペディア国最高の軍師が、指揮を取れる間に。魔王軍と決着を、付けてしまいたかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦はつつがなく進んだ。

 

 城下町を襲撃し、国は決戦ムードになった。

 

 人族最強の男「レックス」の協力を取り付け、魔王軍の幹部『蝙蝠』に協力する振りをして情報を抜き続けた。

 

 そんな、折に。

 

 

「え。これ、ボクに……?」

「城下町の生き残りから、匿名でプレゼントだとさ」

「ほ、本当に? ふああ……」

 

 

 探し求めていた、ロストテクノロジー。

 

 一度だけ、死んだ人間を生き返らせるという奇跡のアイテム。

 

 『リリィの花飾り』が、何の前触れもなくミーノに届けられたのである。

 

 

 ─────本物である。文献を読んで『リリィの花飾り』を熟知していたミーノは、そのアイテムが模造品の類ではないことを即座に見抜いた。

 

 そのリリィの花飾りの術式から、その奇跡のアイテムの原理が分かるかもしれない。もしかしたら、死なずに済むかもしれない。

 

 ミーノにとっては、これ以上ない最高の贈り物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 の、だが。

 

「だよね。知ってた」

 

 その、花飾りを解析したミーノの口から零れたのは。

 

「中級回復魔法を術式固定しただけ、かぁ。今の技術だと、もっといいものが作れるかな」

 

 奇跡のアイテムの正体が、ただのガラクタだった落胆の声だった。

 

「……」

 

 何を勘違いしているんだ。お前の様な悪人が助かるとでも思ったのか。

 

 罪のない城下町の人間を殺しまくって。自分ひとり、のうのうと生き延びるつもりだったのか。

 

「……たはは。手酷い天罰もあったもんだ」

 

 死を覚悟していたはずの彼女も、再びその場で泣き崩れた。

 

 覚悟を決めた後に希望を見せ、結果ぬか喜び。これほど今の彼女につらい天罰も無いだろう。

 

「……」

 

 当たり前だ。この花の持ち主の兄が、死ぬ原因となった襲撃はミーノの指示である。

 

 感謝の贈り物が、意図せぬ復讐となった。それだけの話だ。

 

「切り替えないとね。さて、明日は出陣だ」

 

 彼女は静かに吐血と涙を拭い。少しでも敵の戦力を減らすべく、大事な魔王との初戦(・・)の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初戦は人の勝利に終わった。

 

 だが、その戦争の結末は彼女の思い描いたものとは大きく食い違っていた。

 

 負けるはずないと思っていた化け物レックスが、殺されかけてしまい。他の大将軍と同格程度の実力であると評価していたフラッチェが、その認識を覆す大活躍をしてなんとか勝利をもぎ取った。

 

「……やっぱ、ローレル爺みたいな戦力分析眼はボクには無いなぁ」

 

 ミーノは、魔王軍の認識を改めた。レックスという鬼札を切っても、負ける可能性は十分にあると。

 

 ならば、最初から多少の犠牲は覚悟の上で、身体能力の高い魔族と真面目に戦闘をしない策に切り替えねばならない。

 

「いよいよ、あの大掛かりな仕掛けを使う機会が来そうだ。まさか魔族も、この王都への陸路である平野ごと沈下させるとは思わないだろうね」

「戦闘中にやってしまえば、我が国にもそれなりの犠牲が出るかと」

「良いの良いの。最前線は冒険者に任せて、軍の主力は後方待機させててね。これで一気に敵の継戦能力をそぎ落とすよ」

「御意」

 

 王都は、古来より断崖絶壁に守られた土地である。南は既に険しい崖となっており、北の平野も沈下させて崖としてしまえば商業や流通にも支障が出る。

 

 ミーノとしてもあまり気が進まない手段だったが、四の五のを言ってられない。

 

「タイミングを見計らうんだよ。一番敵の被害が大きそうなタイミングで、かつ自軍の被害が出過ぎない間にね」

 

 そしてこの、ペディアにとって最終手段として取っておいていたこの秘策は。

 

 この話し合いの数日後、頭パッパラパーの妹の超魔術により日の目を見ないまま再び封印されることとなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────そこに立つ文官は、血も涙もない正真正銘の悪魔や!!」

 

 あ、しまった。

 

 それが、カリンに糾弾された直後のミーノの心境だった。

 

「ウチは教会で調べさせていただきました。あの日の死体の記録を、弔われた哀れな被害者の詳細を」

 

 どうせ死にゆく身なのだ。自身の潔白工作など後回しでいい、それより先にやるべき仕事が膨大にある。

 

 そう判断したツケだろうか。ミーノは戦争中にわざわざ自分を糾弾する人間などいないと、高をくくってしまっていた。

 

 いや、高をくくらざるを得なかった。何せ彼女はここ数日の体調が悪く、仕事の能率が低下しており。優先度の低い仕事は、投げ出さざるを得なかった。

 

「まず、カリンさんは大前提を間違えています。そこを指摘すれば、きっと彼女の顔面は蒼白となるでしょう─────」

 

 あの短気で単純なレックスとその仲間の事だ。この事実が知れれば、きっと国を離れてしまう。

 

 今のギリギリの戦力で、レックスとフラッチェの2人を失うわけにはいかない。

 

 ミーノは、用意していた『レックスの仲間の衣服』を見せびらかせた。今後は、脅しにより二人を操る方向に切り替えた。

 

 その結果、ミーノは仲良くなりかけていた一人の少女剣士と絶縁する事になったのだが。

 

 

 

 ……ちなみにナタルの誘拐は、非常に簡単だった。パンをあげるから、屋敷の掃除は我々がやっておくから。そう言って国軍の紋章を見せると、彼女はあっさり信じてついて来た。

 

 王都に軟禁されている今も、ナタルは誘拐されたことに気付いていないらしい。将来が心配である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定だが。襲撃の話を聞いたペニーは、失踪してしまった。

 

 これが非常に痛い。ペニーには、後々にやって貰いたいことがあるのだ。

 

 今の王が死んだ後、彼の子が後を継いでもかまわないのだが。ミーノは、出来れば求心力と影響力の大きいペニーに王を継がせたかった。

 

 ペニーさえ王になれば、エマは国のために全力を出す。将来的に、ミーノの死後はエマの力が国の維持に必須となるのだ。エマには一人の将軍の利益だけを考えるのではなく、国全体の事を考えてもらいたかった。

 

 それに、ペニーは上に立つものとしての器は悪くない。民からの人気も高い。何より、彼は超人的に勘が良い。

 

 地味ながら、ペニーの失踪は国家的損失と言えた。

 

 

「……クーデター?」

「はい。ペニー将軍はこそこそと、反乱を画策しているようで」

「ぷ。あっはっは、そりゃいいや」

 

 だからだろう。ミーノはペニーが失踪した真の目的を聞いた直後、ペニーの捜査を打ち切ってしまった。

 

「エマちゃんはまだまだ未熟だからね。裏でさりげなく、二人のクーデターを支援してあげて」

「……よろしいので?」

「良いよ。ボクも知り合いの貴族に、向こうに付くように圧力をかけておくから」

 

 おそらく、彼らの決起は戦争直後。そのタイミングで蜂起して自分を討ち取ってくれれば、ミーノは面倒な戦後処理をエマに丸投げして死に行ける。

 

 ラッキー、とミーノはほくそえんだ。

 

「現政府から支援される反政府組織、なんて笑えませんね」

「君も、しっかり『家族を人質に取られてミーノに従ってました』って言って新政府に協力してあげてね。間違っても国を捨てないでくれよ」

「ミーノ様がそうおっしゃられるのなら」

 

 こうしてミーノは、後顧の憂いが無くなった。

 

 これできっと、自分の死後もこの国は大丈夫。幼き天才(エマ)が、いつか自分を超える軍師となってくれる。

 

 なら、後に残された彼女の仕事は。まだ幼く未熟なエマに代わり、目の前の脅威(まぞく)を取り除くのみである。

 

 

 

 

 後、ついでに有終の美も飾るとしよう。

 

 命を投げ売って、国を守ったとなればミーノの悪評も取り除かれる。それは、彼女を守って死んだ家族への供養にもなる。

 

 それが、彼女なりの覚悟。ミーノという短い生涯を駆け抜けるように生きた女の、終劇(クライマックス)

 

 

 

 

 

「……」

 

 ミーノの目前に、開かれた掌が近付いてくる。

 

 それは、憤怒した魔王の怒りの握撃。

 

「……」

 

 死ぬ。いよいよこれから、ミーノは死ぬ。

 

 それは、覚悟を決めていた彼女にとっても。少しばかりに、後悔する瞬間だった。

 

「……はぁ」

 

 白き血の病。

 

 死は避けられない。

 

 もう自分の命はもう長くない。

 

 だがその死にゆく命を惜しまず、有効利用する。それは、ミーノが常日頃からやってきたことである。

 

 だけど。そうだとして、後悔しないかと言えば話は別だ。

 

 

「……最期くらい、言ってやっても良かったかな」

 

 

 

 

 

 ……一人の男の顔が、ミーノの脳裏に浮かぶ。

 

 それは、お世辞にも良い男とは言えない。出来の悪い弟分のような、身勝手で性格の悪い駄目男。

 

「……いや、そんな事言ったって無駄にアイツに重荷を背負わせるだけか」

 

 何もかも諦めたミーノを、救った男。

 

 生まれて初めて、彼女を全肯定した馬鹿。

 

 人を人と思わぬぶしつけな、言いたいことだけを言う糞野郎。

 

 

 ────そして、幼きミーノにとっての初恋の人。

 

「ほんと、どうしようもない男だったね君は」

 

 ああ、なんて恥ずかしい。

 

 彼女が今まで、身を粉にして国を守ってきた理由。

 

 民に忌み嫌われてなお、最も民のためになる手段を選択し続けてきた女のその心の奥底にあったモノは。

 

 

「でも。ボクを真っ正面から認めてくれて、正しいと受け入れてくれて。少しでもそんな彼の役に立ちたくて」

 

 ミーノを突き動かしていたのは大層な志でも、壊れた妄執でも、強すぎる覚悟でもない。

 

「そんな君が好きだったよ、メロ」

 

 彼に良いところを見てもらいたい。彼が正しいと言ってくれた行動を貫いていたい。

 

 それはつまり。彼女を突き動かしていた、その心の最も奥底にあったモノは。

 

 ────絶望を救ってくれた人への、仄かな恋心である。

 

 

 

 

 

 

 

 豪、と空気がねじ切れる音がする。

 

 

 

 

 

 

 そして死は、迫り来る。

 

 それはきっと、正しい結末。

 

 ミーノがミーノとして、(メロ)に肯定された彼女(ミーノ)として、その正義を全うする。

 

「……」

 

 さようなら。これが、彼女の選択だ。

 

 思いを心に秘め。彼の重荷とならないように。

 

 彼女はひっそりと。誰にも看取られず、魔族に惨殺される結末を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迎える、筈だった。

 

 

 

 

 全てが全て思い通りにはいかない。大事な命令であろうと無視をする、どうしようもない男だっているのだ。

 

 

 絶対に城壁を離れるな。何があっても、ミーノから指示がない限り勝手な行動を取るな。

 

 そう、きつくきつく命じられていた男は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風切り音は、ミーノを拐って空を飛ぶ。

 

 ミーノを握り潰そうとした魔王の、その掌が空振る。

 

「……は?」

 

 まさに、予想外。ミーノと魔王達しかいないはずのこの空間に、いきなり誰かが乱入してミーノを抱き去ったのである。

 

「……はぁぁ!!?」

 

 ミーノは、その誰かを見上げ。何もかもが頭から吹き飛び、すっとんきょうな悲鳴をあげることしか出来なかった。

 

 当たり前だ。なぜ、お前がここにいる。

 

 絶対に持ち場を離れるなと厳命した筈の、その男が────

 

 

 

 

 

 

「む。なんだ、まだ誰か人族が居たのか」

「ふむ、誰ですかね? どうやら、ミーノ嬢の目論見では無さそうですが」

 

 高速で乱入してきたその男に、魔王達は不思議そうな声をあげ。ミーノは、目を白黒開き口をパクパクさせている。

 

 そんな周囲を見て彼は不機嫌そうに、怒鳴り返した。

 

「この僕を知らないだと!? お前ら、戦争を舐めているのか? 敵で最も恐ろしいのは誰かくらい、調べてから戦いを挑むんだな」

「……ほう? でかい口を叩くな、人族。お前は何者だ?」

「あー、仕方ない。特別に教えてやろう、耳をかっぽじってよく聞けよ」

 

 その男は。

 

 ミーノを抱き上げたまま、不敵な笑みを浮かべるその男の名は。

 

 

「白光のメロ。────国軍最強だ」

 

 

 この国の三大将軍の一角、メロその人であった。


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