甘さは人の為ならず   作:ネコ削ぎ

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 仕事が忙しいのと精神的にくることがある中で他の作品そっちのけで新作投稿です。もう一つの作品共々続けていけるか分かりませんが、よろしくお願いします。
 アリーシャのキャラが全く分からないのでほぼオリジナルです。


だから洋酒入りのお菓子は作らない

 世界は広い。それはもう広い。ランチマット程度じゃ足りないし、絨毯でさえ面積不足なのだから人の手に余る代物だ。

 そんな世界には何十億もの人間が暮らしている。そのうち土地が埋まりに埋まって宇宙開発が発展しそうなほどに増えていく人口。まったく歯止めがきかない様を見れば、もしかしたら戦争が人口バランスを取っていたのではと思ってしまう。

 勘違いされたくないけど、戦争肯定派の人間ではない。ただ一つの考えを述べたにすぎない。

 戦争と言えば、私たち現代人にしてみれば社会生活そのものが戦争みたいなものだ。

 学校でも就活でも会社でもプライベートでも誰かよりも高く豊かにと争っている姿は戦いと呼ばずになんと呼ぶ。それが世界中で行われていれば戦争だ。

 戦いなんて多大な労力だ。腹が減っては戦はできないとか言われるほどにエネルギー消費が激しい。

 戦うことが愛ならばいいんだけど、基本その愛って自己愛だから始末に負えない。他者への偽りのない愛なら戦いも許せそうだけどさ。

 戦いと言えば、誰しも苦手なことがあると思うのだけれども、やりたくもない様な苦手なことをやらなければならないときに戦いと表現することがある。私にとっては戦いなのよ、とか。

 戦わずに生きることができればステキだが、世の中上手く回っているみたいで、良いことも悪いことも等しくやってくる。

 たとえば、両親がいないのに弟を養っていかなきゃならないとか。

 たとえば、親の庇護にいてもいい年齢なのに甘えられない状況とか。

 たとえば、双子の妹がとんでもなく孤高で孤高でブラコンでめんどくさくなったりとか。

 たとえば、妹の友人がとんでもなく自分勝手な天才であれこれ巻き込んできたりとか。

 たとえば、弟がとんでもなく察しが悪くて、いつか無自覚ハーレム作りそうなシスコンだったりとか。

 たとえば、友人の妹がほぼツンしかないツンデレで難攻不落の鉄の城染みた弟に恋してしまったりとか。

 たとえば、弟を養っていくはずが家事がまったくできず、逆に弟に養われている錯覚に囚われてしまったりとか。

 たとえば、友人の行動に巻き込まれたことで生活が成り立つ様になり、感謝すべきか悩んだりしてしまったりとか。

 たとえば、気がついたら妹差し置いて世界最強なんて女捨てた評価を喰らってしまったりとか。

 そう。世界最強だ。女子が求める肩書きじゃない。

 しかし、現実は残酷だし小説より奇妙だ。

 生活を潤すためだけに頑張っていたら国際大会で優勝して一躍有名になっちゃったのだから人生摩訶不思議。

 周囲は憧れやら対抗心を燃やしてくるけど他に関心向けるところあるだろ。暇なのかね。

 こっちは二回目の世界大会に参加しなきゃいけなくなったんだけど、最近目覚めたお菓子作りが忙しいのでそれどころじゃない。もっと味よく、もっとレパートリーを増やしていきたいのだ。

 前回作ったクッキーは中々の出来だったし、千冬も一夏も美味い美味いと喜んでくれたので、私としては更なる高みへ目指したい。

 ISとか世界大会も大事なんだろうけど、腕が鈍らない様にするので手一杯だ。そんなドンパチ大好きじゃないし。

 だけどさ、周りは戦っている私しか知らないからお菓子作りが趣味ですと言っても信じてくれない。

 それどころか、戦いこそが至上、家事なんか一切出来ない戦闘マシン扱い。それも面と向かって言われた。泣くぞコノヤロー。

 まぁ……家事が出来ないのは本当だけど。お菓子作りに目覚めてなければ正しく戦闘マシンだったり。案外正しい評価じゃないか。

 ちょっと悲しくなったけど、クッキーが美味しいので許す。美味しいから大丈夫だ。美味しいは正義なのだ。

 

「ちょっと他人の控え室に来てまで菓子を食べるのはどうなのサ」

 

 甘くて美味しいものを食べるのに場所なんて選ぶ必要なし。フィールドを選んでちゃいつまでたっても食べれないじゃないか。

 

「それもこれから決勝戦なんダ。よくも緊張一つ引っ付いてない顔で菓子を食べれるのサ」

 

 アリーシャ・ジョセスターフ。決勝戦が近くてピリピリしているのは分かるけど。そこまで攻撃的になる必要ないと思う。きっと甘味が不足しているから余裕なく見えるのだろう。

 手作りクッキー。けっこうな自信作なので感想聞かせてもらえると嬉しかったり。

 

「声が小さいヨ。まったく世界最強の称号を持つ者とは思えないサ」

 

 声が小さいのと世界最強は関係ないと思うのだけど。それよりも甘いのどうぞ。

 

「試合前に敵から物を受け取ると思うかネ。戦う前から試合が始まっているのだから、そのクッキーに何か仕掛けられていても不思議じゃなイ」

 

 その何か仕掛けられてそうなクッキーを食べる私はなんだろうね。

 

「……まぁ、これからこれから私が倒す世界最強が卑怯な手を使わなきゃ勝てないなんてことはないさネ。一つもらおうカ」

 

 はいどうぞ。美味しいよ。

 

「ちょっと甘すぎる気がするがネ。悪くはないと思うヨ」

 

 うん。感想ありがとう。勧めておいてなんだけど、手が止まらなくなってるよ。

 

「いっぱい作る方が悪イ」

 

 理不尽だ。作り過ぎたのは自覚しているけど、それにしても一つ味わっては次のをひょいっと口の中に入れて、なくなればまたひょいっと。作り手としては嬉しくて仕方がない。もう決勝戦負けても悔いなし。

 多く作ったクッキーが見る見るなくなっていき、アリーシャが一つ一つをよりじっくりと味わう。また作ってこようかな。

 決勝までそう時間もなくなってきた頃に控え室の扉が勢いよく開く。ノック一つなく開けられるものだから私たちはびっくりして残り少ないクッキーを床にぶちまけてしまった。

 

「ああー!?」

 

 嘘でしょ。せっかく作ってきたのに。

 

「うくくぅ……なんの用だイ。他人様の控え室に断りなく入ってきて」

 

 アリーシャが不機嫌そうな顔で立ち上がるが、突然入ってきた日本政府の人間と見知らぬ外国人に押しのけられてしまって文句を言いきることもできずに黙ってしまった。

 日本政府の人間は焦った顔をしている。青い顔だ。何かあったみたいだ。

 

「織斑さん。おちついてきいてください」

 

 聞かされたのは弟の一夏が何者かに誘拐されてしまったというもの。会場で一人になったところを狙われたらしい。居場所の特定は現在行っているそうで、見知らぬ外国人はIS世界大会の会場があるドイツの軍人だった。

 あれ、なんで攫われちゃってんの。千冬は何をやっていたのかな。私が一夏を見ているから、姉さんは試合に集中してくれ、とか言ってなかったっけ。テロだろうが一夏に手を出す奴はぶっ殺すとか強気な発言してなかったっけ。

 

「というわけですが織斑さん。こちらは我々に任せてください。なんとしてでも弟さんを救出します。このまま決勝戦を」

 

 日本政府の人間が何か言っているけど。私にとっては大会捨ててでも解決しなければならない事案だ。決勝戦なんてできるわけない。

 決勝はでない。棄権するので伝えておいてください。

 

「な、なにを言ってるんですか」

 

 焦られても、一般的な感覚を持ってたら分かるでしょ。なに、私が戦闘最優先のバーサーカーかなにかと勘違いしている奴でしょうかね。

 

「なら私も棄権しようかネ。ブリュンヒルデのいない大会で優勝してなにが楽しいやラ。聞いてしまったよしみダ。私も手伝うさネ」

 

 控え室を出ようとしたらアリーシャがついてきた。なんかやる気に満ち溢れている。

 そのまま残っていれば優勝だよ。

 

「そんな優勝に意味はないサ。ま、クッキーをもらったんダ。そのお礼ということデ」

 

 この事案とクッキーじゃ割に合わない気が。

 

「それを判断するのは私だヨ。ついてきているのはつり合いが取れているからサ」

 

 うん。じゃあそういうことにしておく。

 

「パパっと片付けるサ。ストレス発散も兼ねてネ」

 

 誘拐犯たちには悪いけど。五体満足では帰せないところまで事態が進んだようだ。アリーシャやる気だし、私もクッキーを台無しにされた腹いせも乗っけているから覚悟しろ。

 あとついでにヘマした千冬には延長ありの説教をしなくちゃいけなくなったな。

 誘拐犯たちはボコボコ。アリーシャと私とで突撃してその場にいる全員を叩きのめして一夏は無事に救出。トラウマものの体験だったんだけど、一夏はずっと眠らされていたので、眠っている間に何もかも終わって気づいたらドイツの病院で目を覚ましたという状況。攫われたことだけ覚えているらしいが一瞬の出来事なので問題なかった。

 私としては弟を守ると豪語しておきながら、会場で試合開始までの間に黒ビールなんてものに手を出して前後不覚に陥って役に立たなかった素敵な妹のほうが問題だった。しばらく酒類は禁止にするとして、さて何時間説教すれば反省してくれるかな。

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