甘さは人の為ならず   作:ネコ削ぎ

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三人寄らばなんとやら

 更識楯無はよほどの自信家なのかそれとも暇なのか。

 試合を申し込まれたあの日からというもの、放課後の度に楯無が勝負を仕掛けてくる。その執念を他のことに使うべきだと教師としてアドバイスしてみたくなる。

 試合なんてお菓子作りの時間に変換した方がいいに決まっている。甘くて美味しいお菓子を作って食べて幸せになれればベスト。この前の休みには一夏にお菓子を作ってあげたけど、あの子はいつも満面の笑みでお菓子を食べてくれるから作ったかいがある。

 IS学園なんて荒っぽいところだけど進んで荒っぽくする必要はない。その荒っぽさが社会生活のどこで役に立つかも分からないじゃない。

 ため息をつくと幸せが逃げていくのなら、幸せ詰め込んだお菓子でも食べればいい。

 今日も今日とて放課後の整備室で勉強熱心な生徒たちに指導を行ってみれば、彼女たちは真剣な表情で手を動かしていく。

 放課後はISを借りて訓練する生徒たちがいるので整備する必要がでてくる。整備科の生徒たちは使用されたISに群がって整備の技を覚えていってくれるので、私としてはちょっと胸を張れる指導力の高さだと思いたくなる。

 整備が終わればご褒美タイムだ。昨日の内に作っておいた新作のお菓子が待っている。本見て作っただけなんだけど、生徒たちの口に入ることを想像して少しでも美味しくなれと念じながら作ったから違いが出ているはずだ。

 

「うーん。やっぱりいつ見ても虚ちゃんは器用にこなすわね」

 

 訓練が終わってやることのない楯無は整備の様子を見ている。

 見ているとは言うけど彼女はロシアの代表候補生として専用機を渡されているので、目の前で生徒たちにちょこまか弄られているのは訓練機のラファール・リヴァイヴだったりする。さすがに国の技術が敷き詰められた専用機は未熟な生徒には任せられない。そういうのはロシアから出向している機付長の役目だ。

 専用機を貸与された楯無は確かな実力者なようで、先日生徒会長を務めていた三年生を打ち負かして一年生ながら生徒会長に就任した。

 IS学園の生徒会長は実力主義で学園でもっとも強い生徒に与えられる役職だ。ただし、強いは変動することが往々にしてあるために、三年生が入ったばかりの一年生に負けることもある。

 楯無が生徒会長に就任したところでひと悶着あったが、彼女にはカリスマが備わっていて騒動は瞬く間に鎮火して今や立派な生徒会長様だ。

 多少、お遊びが過ぎるところもあるけど、IS学園というエリート校の息苦しさに喘ぐ生徒たちのガス抜きになるから教師たちも黙認している節はある。

 私も黙認派。こっちに害がなければ問題はない。

 ただ、いちいちISバトルを申し込んでくるのはやめてほしい。鬱陶しいことこの上ないから。

 そんでもって楯無と同様にちょっかいをかけてくる生徒がいる。

 名はダリル、性はケイシーという豪の者よ。

 簡単に言うとダリル・ケイシーだ。

 虚と同じく二年生でアメリカの代表候補生を務める実力者。この前楯無に打ち負かされたけど、そこで腐ることなく訓練に明け暮れている立派な生徒だ。

 立派過ぎて私に勝負挑んでくるのは問題だけど。何がどうして私と戦いたいと思うのは理解に苦しむ。高々世界大会で優勝しただけの身分でしかないのに。それも勝って当たり前の戦いに当たり前のように勝っただけ。

 なんら誇るところもない勝利の上での世界最強に意味なんてないんだけど、周りはそう見てくれないらしい。千冬にも言ったけど呆れられるだけだったし。

 

「よう先生。早速だけどバトろうぜ」

 

 ダリルが背後からのしかかってくる。全然重くない。重くないんだけど、彼女の恋人であるフォルテ・サファイアからの圧は重い。

 お断り。邪魔だから退いて。

 

「えー!? 連日連夜頼み込んでるのによぉ。いい加減応じるのが礼儀じゃねえのか」

「そうですよ。私たちの想いに応えるのも先生としての務めじゃないかしら」

「そうっス。そんでもってダリル先輩は先生から離れるっス」

 

 そんな務めないよ。さらに言えば整備科の人間だから戦いはちょっとね。

 

「そもそもブリュンヒルデが整備科の教師ってのがおかしいだろ。どんな人選だよ」

「そうね。経歴を考えるに普通ならISの戦闘技術を教えるのが適当だと思うのだけど」

「うーん。こっちの方がお給料良かったりするっスかね」

「もしくはこっちの方が仕事が楽なんじゃね。面倒なのは勘弁だしな」

「それはないと思うわよ。どっちにも授業中に事故が起こり得るもの。責任を考えればどっちもどっちよ」

「分かった。分かったっスよ」

「おぉ!? マジかフォルテ」

「フォルテちゃん。もしかして正解だったりして」

「織斑先生と比べられるのが嫌からっスよ」

 

 うん。全然違う。

 単純に教師やるには声量が足りなさすぎるだけ。声張り上げるなんて無理。喉が裂けちゃう。

 

「なるほど。戦いを拒否するのも同じ理由かしら」

「ははん。織斑先生の方が強かったとか言われたら立つ瀬ねえもんな」

「ふっふっふぅ。ウチの推論が冴えるっス。ピッタリ言い当てて見せたっスよ」

 

 言いたい方だ。多分に私を戦いに引っ張り込もうと挑発しているところがあるけど、その程度で感情荒立てることはない。だてに世間から塩試合、エンターテイメント性が足りない、凄いけどすごく見えない試合と言われてきたわけじゃあない。あっちの方が傷つく。

 はいはい。そういうことでいいから静かにね。とくに更識、布仏が可哀そう子を見る目をしているから気を付けるように。

 

「え!? なんでそんな目をしているの。というかさっきからこっち見てるし。手元見なさい。ちゃんと手元見て作業して!!」

「はぁ。今日も駄目かよ。いつかゼッテー試合してもらうぜ先生」

「ウチはどうでもいいっス。そんなことよりも万春先生のお菓子が食べたいっスね」

 

 はいはい。お菓子はみんなの作業が終わってからね。

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