こんな作品ばかりしかありませんが、今年もよろしくお願いいたします。
「ほう。そろって休みの日か」
勤務表を眺めている千冬。昼休みも残り少ない時間となる中でよほど暇なのか私のところまでやってきたかと思えば、休みの日に何しているか聞いてきた。
休みの日にすることはスイーツ巡りかお菓子作りの二択。千冬だって知っていることなのに聞いてくるのは、話のきっかけに過ぎないのかもしれない。
「久しぶりに二人揃って家に帰るのも悪くないだろう」
ブラコンな千冬は一夏が喜ぶ姿でも想像したのかわずかに口元が緩んでいる。緩みまくってデレデレしすぎないところは千冬の公私をしっかり分ける真面目さか、見られることを恥ずかしがってかは判断つかない。
家に帰る。たまにある休みは家に帰っているけれど、千冬が言うように仕事するようになってから千冬と二人して帰路につくことはなかった。単純に二人の休みのタイミングが合わないだけなんだけど、職場内でひっそりと蔓延している織斑姉妹不仲説。
実際にはそこまで不仲ではない。私としては千冬は妹だし私と違ってちゃんとした人間なのだから愛すべき存在だ。あまり甘いものが好きではないから私の作ったお菓子をあまり食べてくれないのが残念だけど。
千冬が私をどう思っているかは分からない。嫌われてはいないと思うが、千冬はストレートに愛情を表現してこないからどれくらい好かれているのかは分からない。職場でも最低限の会話しかしてないし。
「どうする? 何か用事があるのなら無理強いはしないが」
いいんじゃない。悪いことじゃないと思うから。
「相変わらず声が小さいぞ」
今更だよ。
「確かにな。一夏には前もって連絡しておく」
よろしくね。
久しぶりに姉妹での当てのない会話。お互いに世事に疎いことがあり会話の広がりは悪いけど、とくに成果を求めた会話じゃないので会話の間の沈黙は気まずくならない。
それよりも周りが私たちを見てひそひそと会話していることが気になる。きっと不仲なのに、とか思っているんじゃないだろうか。別に仲良くてもいいじゃない。
「そういえば、明日は特別授業が行われるのは聞いているか」
特別授業。聞いたことない。
「整備科には関係のない授業だから話が回ってきていないのかもしれないな。なんでも優秀な元国家代表選手を招いて一日だけコーチをしてもらうらしい」
元国家代表選手にコーチ。大丈夫なの。一流選手が必ずしも優れたコーチとは限らないのにさ。
「その通りだ。だから今回の特別授業は実験みたいなものだ。目的は閉鎖的になりやすい学園生徒の意識向上。上手くいけば定期的に行うという話だ」
呼んだ代表の指導力がからっきしだったら意識向上はできないかもしれないよ。
「確かにな。だから実験なんだろう。問題は誰が来るかだ」
明らか呼ばない方がいい人たちもいるからね。
「ああ。アイツら呼んだら終わるな。さすがに学園長も馬鹿ではないだろうから、アイツらを招くような愚は侵さないだろう。とすると誰が来るか」
私、あまり他国の代表は知らない。そこまで仲良くしなかったから。
「私もだ。そもそも代表じゃなかったしな」
ごめんね。私がいなきゃ代表だったさ。
「知っているよ。万春がいるから私は代表になれなかった」
嫉妬の感情のない冗談めかした言い方。千冬は私が何ゆえにISなど纏っていたのか知っているし、同時に私という存在の異常さを知っている。
千冬は人間として高いスペックを持つのなら、私は人外的なスペックを持っている。人間と人外では比べようもないのだから私が人間如きに負けることが断じてあっちゃならない。国家の威信を背負った代表が相手でも変わらない。
「だが……私が代表になれなかったとしても自慢の姉が代表だったんだ。それで十分さ」
言ったが最後、千冬はそそくさと割り当てられたデスクへと逃げていった。気のせいでなければ耳が赤くなっている。千冬渾身の愛情表現と見たり。
思いもよらぬ言葉に私も嬉しくなって千冬好みの甘さ控えめのお菓子を作ってあげようと思った。私好みではないけどたまには誰かの好みに合わせるのもいいかもしれない。
放課後。
普段であれば整備科の中でも非常に熱心な生徒たちの整備を眺めるところなんだけど、今日においては学園長に呼び出しを食らってしまった。別に悪いことをした記憶がないので不当な呼び出しと抗議してもいい。
学園長室はさすが組織の長が常駐している場所だけあって豪華絢爛至れり尽くせりだが、所詮は別次元の世界でしかないので私に関係のある装飾じゃない。
今の私にとっては呼び出させれる理由がなんなのか一点に尽きる。だって放課後を邪魔されると虚たちの整備が見れないんだ。
用件次第ではお菓子作りにも支障が出るので手短にお願いします。
「入室と同時に言うことではないと思うのですが……まぁ良いでしょう。一応誤解なきように言っておきますけど、別に悪いことをしたので呼び出したとかじゃないですよ」
それは良かったです。だとすると何の用件で呼ばれたのでしょうか。
「聞いているかは分かりませんが、明日特別授業を行おうと思っていまして、その為に元国家代表の方々をお招きしているのですが」
学園長の轡木さんが柔和な笑顔を浮かべている。
「是非とも貴女にもその特別授業の講師の一人として参加していただきたいのです」
お断りします。
はっきりと断る。こういうのは曖昧な態度だと流されて結局やらされる目に合うことが分かり切っているのだ。ノーと言える日本人になるべきだ。
「困りましたね。私としてはいい案だと思ったんですけど」
何をどうひっくり返していい案とするのか。整備科教師として充実した日々を送っているのに一日と言えど別枠に講師として働けとは。
「前々から生徒たちの中だけでなく教師の中でさえ貴女を過小評価する者がいます。ブリュンヒルデの実力に疑惑ありと。私としては貴女の実力を見せその評価を正当なものに変えるべきだと思っているのですよ」
いえいえ。その程度の評価捨て置けばいいんじゃないでしょうか。私は気にしませんし。
「貴女を招き入れた手前私が気にするのです。それに貴女は二度も国家代表として世界の舞台に立った。それは実力者でなければ不可能なのですよ。それを選手を育てるべき教師が正しくものを見れないとは情けない話ですよ」
轡木さんはやれやれと首を振ってため息をつく。彼からしてみれば教師陣の態度が気に入らないらしい。しかし教師と言ってもそれぞれの考えがあるし、エリート校であるIS学園の教師ともなれば自分こそがと相手を見下してしまう部分もあると思う。それが愉快か不愉快かは置いて。
「どうでしょうか。せっかくなんですからやってみませんか」
え、やりたくないです。
「やりなさいよ。そして私がこんどこそ敗北の味を教えてあげるわ。地べたに這い蹲って涙で濡らしてあげるんだから」
そしてなぜか来客用の質の良さそうなソファーで寛いでいるレアヴェール・エムロードからの援護攻撃。なぜいるのか分からない。そしてなぜ勝てると思い込んでいるのか分からない。
レアヴェール、まだ日本にいたの。
「そんなわけないでしょ。あの後フランスに戻ったに決まっているわよ。私だってセカンドシフトしたISの報告があったの。今回は学園側から一日講師をやってみないかと打診が来たの。なんでも織斑さんがIS学園で働いているじゃない。それはもうリベンジマッチの時機到来と二つ返事で了承したわ。そんなわけで一日講師の件を引き受けなさい。それが嫌なら私の帰国の為のチケット代と今日までのホテル宿泊料金を払うのよ」
うぐぅ。それは嫌だ。
「えぇ……一応お給料の方は配慮しているんですけどね。そんなに払うの嫌なんですか」
だってレアヴェール金銭感覚おかしそうだもの。絶対にバカ高い金払わなきゃいけないに決まっている。
「失礼ね。おかしくないわ。そうね、全部でコレくらいかしら」
紙に書いた料金は一般庶民が払うには手が震えるほどの額だった。横から覗き込んだ轡木さんでさえ言葉を失って紙に書かれた数字と、コレくらいはした金よと言いたげなレアヴェールを交互に見る始末。
「な、なによ!? 別に大した額じゃないでしょ!!」
私も轡木さんも目を逸らすことしかできなかった。