IS学園初の試み。
元国家代表を一日だけ講師として招いて行われる特別授業。今日はまさしくその日なのだ。
特別授業は午後時間全てを使って行われるのだが、肝心の講師役の元国家代表たちが果たして使い物になるかどうか。
とりあえず朝一の段階で判明している講師は千冬とレアヴェールそして私。
断り切れなかった。断りたかったんだけど法外なキャンセル料を請求されるとなると断るに断れなかった。轡木さんも払いたくないのか私に何度も講師役を引き受けるよう要請してきたこともあって、泣く泣く引き受けるしかなかった。
特別授業の講師として何をするべきか。千冬も私もまったく分からないままに今日を迎えてしまったけど、なんでも上層部側も手探りみたいでカリキュラムはまさかの講師陣に丸投げ。午前中に講師たちで話し合って決めてくれだと。突貫作業にもほどがある。
会議室で待機。千冬がお茶を用意し私がお菓子を作ってきてレアヴェールがそれらを堪能する。
「それで何をすべきかが問題だな」
千冬が腕を組んでため息を吐く。
午前も10時を回り未だに残りの元国家代表たちがやってこないので何をするのか授業内容を決めることもできない。教師として授業の中身を決める難しさを知っている私たちは少しずつ焦り始めている。唯一焦っていないのは教師ではないレアヴェール。
「私たちが何をしたところでみんなには勉強になるでしょ。何もききききき、気にしなくていいのではなくて」
実はもっとも焦っていたレアヴェール。気のせいじゃなければお茶を飲もうとしているけど手が震えている。
こっちが冷静になる。
「……真面目に考えるべきだぞ。まだ残りのメンバーが来ていないとは言えど、ある程度の形は作っておく必要がある」
同感。遅れる人は遅れるから悪い。こっちの指針に従ってもらうしかないよ。
「私が織斑姉妹をコテンパンに叩きのめす流れでいくわ」
「夢ほざいてないで真面目に考えろ」
現実を見ようか。
「戦績を覚えてないのか。五位だろ」
この前の新型機の模擬戦で手も足もでなかったっけ。
「それも聞けばセカンドシフトしておいて負けたのだろ。とても実力があるとは言い難いな」
「貴女たち。残虐なコンビネーションで私を傷つけて楽しい!?」
全然楽しくない。
「傷つけておいてソレ!?」
「五月蠅いぞ。エムロード」
「この姉にしてこの妹ありね!!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ立てるレアヴェールの頬を伝う涙は見なかったことにしておく。
仕方がないのでお菓子でも与えれば涙を流しながらも美味しいと呟きながら食べてくれるから、お菓子を作った身としては嬉しい限りである。
意気消沈して黙り込んだレアヴェールは放っておき特別授業の内容を考える。
単純に各講師が生徒たちの動きをあれこれレクチャーするのが無難か。だけど、それでは特別授業とは言い難いし、午後いっぱい時間を使えるにしても不足している。何せ今回の特別授業に参加するのは一年生全員と二年三年の希望者。まず一年生全員の時点で厳しい。実技指導を行うアリーナは十分にあるが、講師陣が生徒たちをきちんと捌き切れるか。普段の授業みたいに一つ二つの課題をやってもらうだけにしても人数が多すぎる。
二年生三年生がどれくらい参加するのかはこっちに情報が回ってきていないので全く判断できないせいで、より一層やるべき内容が決められない。
せめて現在絶賛遅刻中の残りの元国家代表たちが指導者として実績と経験を持つ人間であることを求めるが、レアヴェールに講師として声がかかっている時点で嫌な予感しかしない。そもそも遅刻を決めている時点で嫌な確信しかしない。
困ってしまって千冬に視線を向けるが目を逸らされてしまった。コイツ……同じこと思ってやがる。
精神的ダメージで沈黙するレアヴェールを無視して二人でなんとか授業の組み立てを行い続ける。嫌な予感しかしない為、とにかく負担を少なくかつ特別の名を利用して世間一般的な授業方式の放棄を目指す。
暫く、傷を癒やしたレアヴェールの自分こそが最強発言をBGⅯにして作業を行っていれば、ようやく会議室の扉を叩く者が現れた。
時刻は既にお昼前。数分もせずにお昼休みに入り、そこから一時間もすれば楽しい特別授業の始めりである。
実は私も千冬もいい案が浮かばずに時間だけを消費していただけでほぼ何もしていない。なぜなら頭の中にあるのは不安と絶望寸前の諦観だからだ。
そして今この時において会議室の扉が開かれる時がきた。ノックから一瞬の間を置いて開かれた扉だが、こちらの返事も待たずに開かれる扉を見るにノックの意味はあったのだろうかと疑問を抱かざるを得ない。
目に映る全てのモノがスローモーションに見える。まるで扉の向こうにいるであろう人物を見たくないと言わんばかりに。実際に見たくないのだけど。見なけりゃ予想は予想のままで終わってくれるのだから見たいと思うはずがない。
でも、どんなにスローモーションになっても時間が止まっているわけじゃないので、ゆっくりと確実に扉が開かれていく。ダッシュで扉を封印したいけど、ほぼほぼ確定した絶望に身体が言うことを聞いてくれないし、頼みの千冬は胸の前で腕を組み、絶対に見るまいと力強く瞼を閉じて絶対防御の構えに入っている。またの名を現実逃避。鋭い攻撃を売りにしていた現役時代からは想像できない戦法を取っている。
本当に諦めよう。
気持ちを定めて相対すればスローモーションが解除され扉が滑らかに開かれる。
「あ、貴女たちは!!」
作ってきたお菓子を食べ終え、物足りなさに市販のお菓子を食べていたレアヴェールが勢いよく立ち上がる。ビスケット咥えたままなので締まらないけどレアヴェールらしいと言えばらしい。
「ハロハロハロ―。ワタシが来ましたよー。アンダスタンドしたか君たちはー」
「五月蠅い。黙れ。静かにしろ
入ってきたのは二人。それも私たちが危惧していた二人が来てしまった。もう狙ってんじゃないかってくらいにクリーンヒット。学園長の悪意を感じてしまう。
遅刻したことを認識していないのか我が物顔で椅子に座る元アメリカ代表のリスト・バンダンガン。モンドグロッソ四位を記録している凄腕だ。
「国家代表が采配振るう特別レッスン。きっとレジェンド的に語り継がれることだぜー」
大口開けて笑う姿は裏表がなく素直にそのまま生きている。着飾ることをしない為に人を選ぶところがあるけど悪い人ではない。問題は面接に手作り菓子を持って行った私以上に常識が欠落しているところがあるところだ。
「ねえねえレジェンドになれる気持ちを聞かせてリッスン。マハルにチフユに……誰だっけー」
「レアヴェール・エムロード!! 私は最強なの。伝説になれる人なの。貴女みたいな銃しか能のない単細胞でも覚えられるほどの偉大な人間なのよ!」
そして無邪気なんだけど容赦なく人を撃つ。言葉の弾丸が相手の四肢を抉って悶えさせる天才でもある。リストと接するなら弾丸を通さない高性能な防弾チョッキを身に着けるがよし。貫通はしないから。衝撃は吸収しきれないけど貫通はしないから。
レアヴェールがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てて抗議するのだが、リストはそれよりもテーブルのお菓子に意識が奪われていた。
「五月蠅い。黙れ。静かにしていろ」
そしてもう一人。レアヴェールの頭を掴んでテーブルに押し付けて黙らせた元カナダ国家代表のカエデリア・ロイ。モンドグロッソ三位の実力者。見上げないといけないほどの身長の持ち主で、私とか千冬が横に並ぶと親子みたいな身長差になる。最近育ちざかりで背とシスコン具合ばかりが大きくなっている一夏よりも身長が高い。たしか190センチだったか。とにかく目を引く大きさだ。何を食べればここまで大きくなるのか。
リストの隣に座ると幾分かは縮むんだけど、そもそも大きいのでやっぱり目立つ。
「いつからお前が最強になった。伝説など夢のまた夢だ。せめてその大口に実力がついてきてから喋れ」
「うむむぅ。デカいからいい気になるんじゃないわよ!! 私もそれくらいの身長があればねじ伏せてやるのに」
「ない物強請りなどみっともない」
「だってないんだもの。強請りたくもなるわ」
「二人とも……いいや、レアヴェールのみ落ち着け」
「なんで私だけなのよ。どぉー見たってこの山女の方を落ち着けるべきじゃない。私のは正当な抗議よ」
「ないな。正当性は」
「トゥルーなんてないのー」
「何度も言わせるか。五月蠅い。黙れ」
場を乱しすぎだよ。
「私を乱す貴女たちの言うことか!!」
どうでもよくないけど特別授業の準備時間なくなっている。もうお昼だ。ご飯の時間だ。
腹が減っては戦はできぬ。食事は一日の活力になるのだから三食きっちり食べないと体がもたないし不健康まっしぐら。
それにお腹空いている時に考え込んでもいいアイデアなんて浮かばない。空腹に思考の一部を取られてしまっている状況では効率は落ちる一方だ。
せめて甘くて美味しいものでもあればいいんだけど、私の持ってきたお菓子は全部レアヴェールのお腹の中に納まっちゃったし、テーブルの上にある市販のお菓子は塩味が効いているものばかりで私が求めている甘味タイプじゃない。
「あれ? アリーシャ・ジョセスターフは? このメンバーを考えるにいてもよさそうじゃない?」
確かに。この場にいるのは疑問を口にした五位のレアヴェールに、四位のリスト、三位のカエデリア、そんでもって棄権はしたけど一位の私。同じく決勝戦を棄権した同率一位のアリーシャも呼ばれてもいいはず。
もしかして依頼するの忘れてたのかな。それとも講師料金払えないとか。
「アイツなら今は京都だ」
何故に京都。まず日本にいたんだ。
「なんでも京都の隅々まで観光中だから行きたくないとか言ったらしい」
「フリーダム。アリーシャはウインドのようにフリーダムなのー」
……さすが元国家代表だ。強い。
オリキャラの説明(雑)
リスト・バンダンガン
アメリカの元国家代表でモンドグロッソ四位。銃激戦を得意とする。銃の腕前は相当なもので精密射撃を得意とするが、本人の思考回路そのものはだいたいとかアバウトでそんな感じで。相手を言葉の弾丸で無意識に傷つける無邪気な人でもある。
専用機はスターエンブレム。二丁拳銃がメインの射撃型。
カエデリア・ロイ
カナダの元国家代表でモンドグロッソ三位。長身に合わせた巨大な斧を使った接近戦を得意とする。190センチの長身で辛辣な言葉を使う。戦闘では熱くなるタイプでテンションが上昇したまま帰ってこなくなる。好きな言葉は捲土重来。
専用機はバトルアックス。名前の通り斧で戦う。