甘さは人の為ならず   作:ネコ削ぎ

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それそれ 試合開始

「おもしれぇことになってきたじゃあねえか!!」

 

 IS学園特別授業。

 元代表を特別講師として招いて授業を行うそれは、元とは言えど代表の指導を受けられかつ実力の一端を肌で感じることができる機会となった。

 一般生徒ならば滅多にお目にかかることのない代表の指導も、代表候補生からしてみればそこまで珍しいことではない。

 だからこそ特別授業そのものは大した内容ではなかったのだが、今はその評価を改めてもいいかもしれないとダリルは思った。

 二年生屈指の実力者である彼女からしてみれば所詮は一年生の受ける授業レベルでしかなかったものが、滅多に見られるものではない代表同士の試合へと発展していったのだ。心躍らずして何が代表候補と言えようか。

 特に世界最強の称号を持つ織斑万春の戦闘は、教師と生徒の間柄をしても抑えが効かずに何度も打診していたダリルからしてみれば羨ましいの一言だ。

 今すぐにでも飛び出していって参加したい。

 そう思っているのはダリルに限らず一年生の代表候補たちも同じだった。

 

「国家代表同士の戦い。滅多なものじゃないわね」

 

 楯無が興味津々と声を弾ませる。

 隣に腰掛け不敵な笑みを浮かべているが、彼女はさきほど語彙力の欠ける指導を受け疲れ切っていた。さすがの生徒会長様も感覚勝負の指導に打ち勝つことができなかったようだ。

 

「すごいっスね。どっちが勝ってもおかしくないんじゃないっス」

 

 フォルテが頬杖付いたまま喋る。興味があるのかないのか傍からは分かりづらいが、彼女の恋人であるダリルには興味深く目が離せないことが手に取るように分かる。

 

「片方は世界最強です。公式戦での敗北経験がありませんから他者を圧倒する力を持っていると考えるべきでしょうか」

 

 サラ・ウェルキンが淡々と述べる。最近になってつるむ様になったイギリスの代表候補。彼女もまたダリルたちと同じように万春に戦いを挑むも取り合ってもらえない者で、それが縁で仲良くなった。

 

「しかし多勢に無勢という言葉もあります」

 

 虚は興味よりも心配の色が強い。このメンバーの中で最も万春と付き合いがあるが故の不安だろう。

 これから行わるのは元代表たちによる模擬戦。それも一対一の普通の模擬戦ではない。

 二対三の複数戦。ISでの戦闘が一対一を基本としているために模擬戦と言えどあり得ない戦闘方式にこの試合の行方を掴める者は一人としていない。

 片や世界最強の織斑万春と日本の補欠代表である織斑千冬の織斑姉妹ペア。

 片や世界三位カエデリア・ロイ、四位リスト・バンダンガン、五位レアヴェール・エムロードの多国籍チーム。

 数の上では多国籍チームに軍配が上がるが、実力では世界最強を抱える織斑ペアの方が勝っている。

 後は各チームの連携が勝敗を分ける。

 フィールドで相対する五つの姿を見る。

 カエデリアの提案が形になった試合を万春は難色を示したが、四人の説得を受けて渋々承諾したのはほんの少し前。自分たちではいくら訴えてもかなわなかった試合を、元代表たちは難なく実現させた。

 羨ましい、とダリルは思った。

 ただ、羨ましいという思いは模擬戦がスタートすると共に吹き飛んでいった。

 動き出したのはレアヴェール。試合開始の合図が鳴ると同時に万春へと飛び掛かった。恐れを抱かない突進は彼女と万春の前に割って入ってきた。

 レアヴェールと千冬がぶつかり合い、その間にカエデリアとリストが左右から万春へ攻撃を開始する。

 

「……甘えな」

 

 戦闘を見るダリルがぽつりと呟く。目の前の攻防が代表候補生でしかない自分たちでは演じることのできない次元のものであると気が付いてしまった。

 

 

 

 

 

 モンドグロッソ五位フランスの元代表レアヴェール・エムロード。

 第二回モンドグロッソにてワンオフアビリティを発現させられない国家代表の中で一番の実力者と名高い選手だ。

 マシンガンと細身の剣で踊るように戦う姿は彼女の容姿と相まって非常に美しく魅せられる舞であった。

 対するは補欠代表とどこか煮え切らない立場に甘んじていた織斑千冬。

 姉である万春に国家代表の立場を任せ、万が一に備え続けたまま表舞台から姿を消した幻の代表と呼ばれた彼女は、他国の元国家代表を相手にしても引けを取ることはなかった。

 武器はブレード一本。近接戦闘のみで戦い抜く姿はブリュンヒルデと呼ばれてもおかしくないのだが、生憎なことに彼女は一度として万春に勝つことはできなかった。

 そもそも勝てるわけがない。

 細身の剣が軽やかに舞い迫る中で千冬は笑みを浮かべた。

 千冬と万春とでは持っている力があまりにも違い過ぎる。千冬が人間として最高の力を持っていると仮定したならば、万春は人間を超える人外の近荒を持っていると言える。人間が人間以上の何かに勝つことなど到底できない。

 

「補欠なんて及びじゃないの!! おとなしくそこを退きなさい」

 

 戦績を鑑みればレアヴェールの発言はおかしなことではない。

 見下されていることに感情を荒立てることもなく千冬が細身の剣を弾く。

 

「退かしてみせろ。私を倒せなくば万春に挑むなど到底不可能だぞ」

 

 売り言葉に買い言葉。千冬の挑戦的な言葉にレアヴェールが顔を真っ赤にして吠える。

 

「補欠のくせにして。専用機もなく訓練用の量産機で大きく口を開くんじゃないわよ!!」

「さてな。案外、万春に劣らないかもしれないな。量産機と侮らない方が身のためだぞ」

 

 五位が補欠を侮っているのは態度で知れる。聞けば誰もが察することのできる事実。

 しかし、補欠は万が一の代用であるが万が一であるが故に時機が来ても他国と遜色なく戦える人間でなければならない。

 織斑千冬は確かに万春に何かあった時の代打でしかなかったが実力はそこらの代表を凌駕する。万春がいなければ代表となっていたほどだ。

 セカンドシフトしたISにたかが練習機が牙を向けるのは乗り手の実力性能差をカバーしているからである。つまりは実力はレアヴェールよりも千冬が上だということだ。

 留まることなく繰り返される攻防は少しずつではあるが千冬に傾きつつある。

 

「ん!? んんぅん!! 多少はやるのね。ちょぉっと見くびっていたことは否定できないわね」

 

 ちょっとどころではない焦りの色を顔に滲ませたレアヴェール。余裕のよの字も見当たらない彼女の有様はすぐに余裕を取り戻して胸を張った。

 

「しかしね。あの頃の私とは違うの。今の私はスーパーレアヴェールよ」

「何を言うかと思えば。餓鬼みたいなネーミングだな」

「うっさいわぃ!! 最強の片鱗をこれから見せようって時に茶化さないでよ!!」

「あー、はいはい。分かったから最強の片鱗でも見せてみろ。どうせワンオフアビリティだろ」

「……なぜ分かったのよ!?」

「お前が単純だからだろう」

「人を単細胞みたいに言ってくれちゃってぇね!!」

「そこまで言ってないのだが」

「言った!! 私にはそう言っているように聞こえた!!」

 

 振るわれる細身の剣は感情の爆発にブレブレで簡単に防げた。

 レアヴェールは荒い息をしながらも少しずつ冷静さを取り戻し始める。

 

「良いわ。泣いて許しを請うても無駄。私の最強伝説の糧となるのよ!!」

「言ってて恥ずかしくないのか」

「いちいち言うなぁ!!」

 

 そしてまた冷静さを失いかけた。

 しかし腐っても元代表。

 

「ワンオフアビリティ発動!!」

 

 言葉が大気を震わせる。

 千冬の肌の上を風が滑っていく。

 なるほど。自信に違わないモノが出てくるな。

 強敵を前にして千冬は心の中で笑った。

 やはり、生徒たちではこうも心震わせる展開にはならないな。

 

攻楽闘戦(こうがくとうせん)!!」

 

 千冬は敵を見失った。

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