ワンオフアビリティ。
セカンドシフトしたISが発現する特殊能力。現代技術ではあり得ない超常現象を引き起こすこともあるISにおいての奥の手だ。
それを三人の元国家代表たちが惜しげもなく振るう。
攻楽闘戦。
レアヴェールのIS性能を劇的に向上させる単純な強化型のワンオフ。何倍にも引き上げられたISは常人には捉えることのできない速度で接敵し、瞬く間に装甲を切り裂いていく。追いつくことなどできずに無力化されていく敵は埋められない性能差に絶望し敗北の堕ちていく。
レアヴェールは格上を前にして自らのワンオフを使用し、そして圧倒的性能差を見せつけて倒した。いくら織斑千冬が相手であろうとも負けることなどないのだ。
しかし目の前の織斑万春という名の要塞を前には圧倒的性能差で挑んだところで決定打を与えられないでいた。
瞬時に背後を取っても相手の反応も早く防がれ反撃を食らってしまう。勝っているはずなのに勝てない。性能は天と地ほどの差があるはずなのにだ。
「私が最強なんだって言うのに!!」
それも攻撃を加えているのは何も彼女一人ではない。
弧陣弾骸再番。
一度放たれた弾丸に再び推進力を与えて攻撃するリストのワンオフ。弾丸の射程距離を伸ばし、軌道を変え、そして地面に打ち捨てられた弾丸を再利用できる。
リストの放った弾丸は相手の意表を突くかのように四方八方から襲い掛かる。軌道を変え側面から背後から頭上から足元から、とにかくあちこちから殺到する弾丸の嵐も要塞のガードを吹き飛ばすことができない。
レアヴェールの攻撃に合わせて防げないタイミングで銃撃しても結果は変わらず。
「モンスター。何が何でもハントしてやるよー」
ならばと振るわれるのは巨大な刃。
巨刃ノ刃。
振るった武器を巨大化させるカエデリアのワンオフ。振るわれたその時だけ武器を巨大化させる予想外の一撃は巨大化に相応しい攻撃力を以て敵を撃墜することができる。そもそもカエデリアの攻撃力自体が代表の中で飛びぬけている中で、それをワンオフでさらに強化しているのだから防げる奴など万の中から探したところで見つけ出すことはできない。
ただし万が一という言葉を体現するかのように要塞は質量の化け物を受け止める。押しつぶすこともかなわずに受け止められた一撃は、目の前の存在が人間の範囲から逸脱してしまっていることを嫌が応にも知らしめる。
「織斑万春のうすのろ野郎!! どうせなら私の実力を輝かせながら負けて見せろ!!」
レアヴェールの機動力も、リストの奇襲も、カエデリアの攻撃力も、三人合わさったところで万春の防御を揺るがすことはできない。
試合を見守る虚は尊敬する万春の実力に喉が渇いていくのを感じていた。
モンドグロッソを二度も代表として出場している万春が強いことを頭では分かっていたが、実感したのは目の前の暴力の嵐にも揺るがない姿を見てだった。
織斑千冬を砂糖で煮込んだ甘くホッとする雰囲気も、耳に心地よく入り込んでくる音量不足の声も今見えるソコにはない。
感情の一片も張り付いていない無表情の顔に心の内を悟らせることのない不変の瞳。面で全てを覆い隠しているのか、それとも顔を取り換えたのかと錯覚してしまうほどの別人の顔がある。
人間らしさの欠片もない。
あの猛攻を前にしても焦りの一つ見せないのだから、同じ人間と判断することを躊躇ってしまう。いっそ人間を模っただけの化け物と言われた方がしっくりくる。
ああ、駄目です。そんなことを思ってしまうなんて。
頭を振って恩知らずな考えを吹き飛ばす。お世話になっている人になんてことを考えてしまったのだろうか。
あの人は人間だ。それは間違いない。だって作ってくれるお菓子は心が温かくなる優しいものなのだから。
いまだ嵐の中で体勢を崩さずにいる万春が遂に明確な攻撃を開始する。
背後を取って細身の剣で突きを繰り出すレアヴェールの腕を掴んで引き寄せ、リストの操る弾丸の前に差し出してヒューマンシールドとして活用し、カエデリアの振るう斧に向かって投げ飛ばしてたちまち戦闘不能に追いやってしまった。
「やるぅ!!」
リストが満面の笑みを浮かべて銃口を向ける。両手に構えた銃から撃ち出される弾丸は当然ながら鉄壁の防御に阻まれ届かず。
万春はお返しとばかりに肩のシールドからアサルトライフルとサブマシンガンを取り出して攻撃をする。
マシンガンが牽制しアサルトライフルで確実にダメージを与えていく。万春と違い盾で防ぐということをしないリストは回避に徹するが、未来が見えるのか回避先を読み取った射撃を前にしてリストは被弾していく。
「構え!!」
カエデリアが斧で接近戦を仕掛けるが、瞬時にショットガンに切り替えた万春に近づけずそのままリスト共々ハチの巣にされた。
実際に見てみると呆気ない戦いだった。
少なくとも虚にはそう思えた。
白熱した試合運びではなかった。どこか物足りなかったとも言える。
なるほど。確かに盛り上がりにかける塩試合だ。
前半防ぐだけ防いで後半でさっさと片づける。手に汗握る試合とは程遠い。
「でも万春先生が勝っただけよしとしましょうか」
それでも虚はちょっとだけ誇らしく思った。