家に帰る。
IS学園勤務となって以来、家に帰る回数は減少傾向にあることはIS学園の勤務体制がそうさせているからであって、決して私が家に帰ることを拒否しているからじゃない。
家に帰ることは決して嫌いじゃない。やっぱり慣れ親しんだ家が一番心が安らぐ場所なんだ。嫌いになれるはずがない。
千冬も千冬で帰路につくと表情が段々と柔らかくなっていく。学園内では教師の威厳を保たなければならないようであまり気を抜いた顔は見せてくれない。
しかし、ブラコンな千冬は家にいるであろう一夏に会えることに期待を膨らませているのか気を抜き過ぎて見ていられない顔に変貌しつつある。コイツを慕っている生徒が見たらショックで倒れんじゃないかってくらいに原型のない顔だ。ドイツにいたボーデヴィッヒが見たら、私の知っている教官じゃないとか言って絶望しそうだ。
私は特になんともない。千冬と違ってそこまでブラコンじゃないから。
このブラコンは自分の目が黒い内は彼女だって作らせんと意気込むほどに末期。挙句に私を倒せるほどの女じゃなきゃ安心できないとか言う始末。誰なら一夏と付き合えるんだろうか。
「夕食はなんだろうか。アイツの作る飯は美味いからな」
千冬の言う通り。一夏は私と千冬が早くから働いていたこともあって家事を一手に引き受けっ料理の腕前はそこらの主婦にも負けないレベルに到達している。本来ならば遊び盛りの年齢だっていうのに、私はお菓子しか作れないし千冬に至ってはレンジで調理するインスタント食品しか作れない駄目なものだから一夏が台所を占拠するのは自然の摂理とも言える。
張り切って作るとか言ってたけど。
「それは楽しみだ。暫く仕事が捗る」
足取りも軽く遂には変えるべき家へとたどり着く。
千冬に急かされて中に入れば、奥の方からどたどたと慌ただしい足音が近づいてくる。
「お帰り、万春姉に千冬姉!!」
出迎えてくれるのは最近逞しく成長をし始めた一夏。コイツも大概シスコンなので手に負えない。
「帰ったぞ」
ただいま。
千冬はさっきよりキリっとした表情を見せる。一夏の前だとカッコいい姉でいようとするので素直に接することがし辛くなっている。それなのにブラコン。自ら作り上げた姉像が邪魔をしているのは皮肉と言わざるを得ない。
私からしてみれば一夏は可愛い弟だけど、ブラコンほどの情愛まではない。そこまで偏っているつもりはないのだ。多少甘めなのは確かだけど。
「ちょうど夕飯も出来上がったんだ。手を洗ってきてくれよ」
言われるがままに手を洗ってリビングに向かえば、テーブルにはところせましと料理が乗っかっていた。バリエーション豊かな料理は全部一夏の手作り。多少は手を抜いて総菜を買ってきてもいいのに。
一夏なりの労いだろう。
そう思いつつも早速食事開始。
まず気になったピザに手を出してみる。
「初めて作ったんだけどどうかな」
感想を聞きたくてそわそわしている一夏。
はっきり言ってピザは美味い、そりゃあ本格的な店のピザに比べると劣るが、家庭で作るピザであれば十分すぎる。
問題は家庭で作るピザなはずなのに竈できちっと焼いて作ったことだろうか。
家にピザ用の竈があるって普通に考えればあり得ない話なんだけど、ウチのブラコンが本気を出せば普通なんてぶっ飛ばして用意できてしまうのだ。
一夏も一夏でピザを焼いてみたいなんて口を滑らせなきゃ千冬が動き出すことはなかったんだけど、耳に入ってしまった以上は仕方がなく千冬が給料を惜しげもなく投資して竈を作り上げたのだ。
素人なはずの一夏もどうやってか竈を駆使してピザを焼いてしまうし。
一夏の将来は料理関係の職にほぼ決まりな気がする。
「美味いな。腕を上げたじゃないか」
千冬がクールな感想。自分の調理スキルの限界を悟った女のセリフとは思えない。
腕を上げたという感想には賛成だけど。
やっぱり料理人が将来のビジョンかな。
高校受験を控えているはずなのにピザ作っているんだから。
中学三年生として進路を考えなきゃいけない中で、一夏は中学卒業と同時に働こうとしていたみたいだけど、さすがにそれは千冬が阻止してくれた。せめて高校は出ろと。
一夏としては少しでも私たちの負担を減らしたいと思っての決断だったけど、別に一夏のことを負担と思ったことはないし稼ぎだって悪くないので進学資金はいくらでも出せる。
一夏は千冬に逆らってまで就職を求めたんだけど、最終的には説得(物理)を受けて進学することに決めてくれた。
せっかくチャンスがあるんだから進学するべきだと思う。機会を得られない人もいるのだから、目の前のチャンスを十分に活用してほしいのが姉心だ。
だから高校三年生になって就職と意気込むだろうから、今度は私が大学進学の道を照らしてあげることになるだろう。
もちろんその時も最終的には
それはまた先の話として今は目の前の問題に答えを出すことにしよう。
美味しいよ。
料理を作った側が答えを求めていることを知っているのだから。